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【2次】漫画SS総合スレへようこそpart45【創作】

1 :作者の都合により名無しです:2006/12/12(火) 03:06:32 ID:NsYC9TkI0
元ネタはバキ・男塾・JOJOなどの熱い漢系漫画から
ドラえもんやドラゴンボールなど国民的有名漫画まで
「なんでもあり」です。

元々は「バキ死刑囚編」ネタから始まったこのスレですが、
現在は漫画ネタ全般を扱うSS総合スレになっています。
色々なキャラクターの新しい話を、みんなで創り上げていきませんか?

◇◇◇新しいネタ・SS職人は随時募集中!!◇◇◇

SS職人さんは常時、大歓迎です。
普段想像しているものを、思う存分表現してください。

過去スレはまとめサイト、現在の連載作品は>>2以降テンプレで。

前スレ  
 http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1162629937/
まとめサイト
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/index.htm


2 :作者の都合により名無しです:2006/12/12(火) 03:07:16 ID:NsYC9TkI0
ほぼ連載開始順 ( )内は作者名 リンク先は第一話がほとんど

オムニバスSSの広場 (バレ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-short/bare/16.htm
AnotherAttraction BC (NB氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/aabc/1-1.htm
上・ドラえもん のび太の超機神大戦 下・ネオ・ヴェネツィアの日々(サマサ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/tyo-kisin/00/01.htm
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-short/samasa/05.htm
聖少女風流記 (ハイデッカ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/seisyoujyo/01.htm
上・やさぐれ獅子 下・強さがものをいう世界 (サナダムシ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/yasagure/1/01.htm
 http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1162629937/115-119
上・鬼と人とのワルツ 下・よつばと虎眼流 (名無しさん)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-short/waltz/01.htm
 http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1162629937/240-250
Der Freischuts〜狩人達の宴〜 (ハシ氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-short/hasi/03-01.htm
シルバーソウルって英訳するとちょっと格好いい (一真氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/silver/01.htm


3 :作者の都合により名無しです:2006/12/12(火) 03:07:46 ID:NsYC9TkI0
戦闘神話 (銀杏丸氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/sento/1/01.htm
バーディと導きの神 (17〜氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/birdy/01.htm
フルメタル・ウルフズ! (名無し氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/fullmetal/01.htm
永遠の扉 (スターダスト氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/eien/001/1.htm
WHEN THE MAN COMES AROUND (さい氏)
 http://ss-master.hp.infoseek.co.jp/kakorogu/43.htm (の218-225から)
『絶対、大丈夫』  (白書氏)
 http://ss-master.hp.infoseek.co.jp/kakorogu/43.htm (の418-424から)
虹のかなた (ミドリさん)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/niji/01.htm
18禁スーパーロボット大戦H −ポケットの中の戦争− (名無し氏)
 http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1162629937/182-185
オーガの鳴く頃に (しぇき氏)
 http://ss-master.sakura.ne.jp/baki/ss-long/nakukoro/01.htm


4 :1:2006/12/12(火) 03:09:42 ID:NsYC9TkI0
こんな感じでよかったですかね?

5 :作者の都合により名無しです:2006/12/12(火) 07:44:11 ID:jHeI0fsq0
1さんお疲れさまです。
結構、スレ立て厳しくなってますからねえ。

6 :作者の都合により名無しです:2006/12/12(火) 12:47:46 ID:SvuuPvmG0
1氏お疲れです。
またいっぱい来るといいな

7 :作者の都合により名無しです:2006/12/12(火) 13:19:46 ID:/Nxwa85G0
    ∧_∧     / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   (; ´Д`)  <   www
   _, i -イ、    |
 (⌒`    ⌒ヽ   \________________  
  ヽ  ~~⌒γ⌒)  
   ヽー―'^ー-' 
    〉    |
   /     |
  {      }
  |      |
  {  ,イ ノ


8 :ドラえもん のび太の超機神大戦:2006/12/12(火) 18:21:18 ID:hD/cG7ll0
第九十五話「ラグナロク・後編」

「親友テレカ・・・これはドラえもんズと連絡を取り合う道具であり、そして友情をエネルギーに変えることができる道具
なんだよ」
ドラえもんがそう切り出した。
「今まで出会ってきたぼくらの仲間たち・・・彼らに親友テレカを通じて呼びかけて、友情の力を分けてもらうんだ」
「友情の力を分けてもらうって・・・どうやって?」
「簡単だよ。祈ってもらえばいい・・・ぼくたちのために、心から祈ってくれるなら・・・それが力になる。それを集めれば、
グランゾン・Fを倒すことができるかもしれない!少なくとも・・・もうそれしか可能性はないよ」
「・・・だけど、集めるって言ったって、そんな時間は!?」
うっ、とドラえもんが言葉に詰まる。だがその時だった。
「時間は・・・おれたちが稼げばいいだろ!」
ジャイアンの声だった。
「そうだな・・・グランゾン・Fも相当消耗している。捨て身でいけば、その、友情の力とかいうのを集めるくらいの間は、
奴を足止めできるかもしれん」
「しれん、じゃないですよ、ムウさん。絶対に足止めするんです!」
キラが強く言い放つ。
「ああ。足止めくらいしなければ、俺たちの存在意義が疑われてしまうじゃないか!」
「グゥレイトォ!いっちょやるしかないでしょ!」
「僕らだって、折角ここまで付き合ってきたんですからね」
「ふん・・・何なら、そのまま倒してやるさ!」
アスランが、ディアッカが、ニコルが、イザークが、決意を顕わにする。
「ここまで来て、怖気づくくらいなら―――」
<最初っから、こんなことに首突っ込んでねえよな、稟!>
「・・・頑張る!」
「おれも、ほんとは怖いけど・・・でも、逃げたりしないぞ!」
「そうだよ!みんな、もう一頑張りしよう!」
稟が、マサキが、プリムラが、フー子が、亜沙が、まっすぐに前を見つめた。

9 :ドラえもん のび太の超機神大戦:2006/12/12(火) 18:21:49 ID:hD/cG7ll0
「あーあ、熱血してるねえ、みんな。ま、俺様も奴にやられた借りがあるからよ・・・ちょっと本気出すとするか!」
USDマンがポキポキと指を鳴らした。
「ぼくたちも行くぞ、アヌビス!」
<―――承知!>
ペコに対し短く、しかし確かに応えるアヌビス。
―――仲間たちの声に、のび太も決意を固めた。
「・・・やろう、ドラえもん!」
「そうだね・・・みんな!辛いだろうけど、頼む!」
「「「「「「おう!」」」」」」
異口同音に発された、短くも力強い言葉。それと共に、皆がグランゾン・Fに向けて最後の特攻に打って出た!
「―――親友テレカ!みんなに・・・ぼくたちの友達に、ぼくたちの声を伝えてくれ!」
そしてドラえもんが、親友テレカを掲げた―――!

10 :ドラえもん のび太の超機神大戦:2006/12/12(火) 18:22:20 ID:hD/cG7ll0
「うおりゃあああああーーーーっ!」
ジャイアンが怒鳴り声を上げながら、必死にグランゾン・Fにしがみ付く。
「ちいっ・・・抵抗しても無駄だと、まだ分かりませんか!」
あっさりと振りほどかれるが、それでもなお死に物狂いでドムトルーパーの腕を振り回し、顔面に一撃を加えた。
僅かによろけたところを、残る二機のドムトルーパーが追い討ちをかける。
「・・・あなたが、アザミを死なせた・・・!あそこまでする必要があったの!?」
攻撃しながらも、しずかが言い募る。
「フッ・・・非道と罵るなら勝手になさい!私にはどうでもいいことですから―――ね!」
グランゾン・Fの掌が光り、ジャイアンとしずかの機体が吹き飛ばされる。
「このおっ!ジャイアンはどうでもいいけど、しずかちゃんに何するんだ!」
スネ夫が激昂し、ビームライフルを乱射した。
「ふん―――これまで何もロクにできなかったあなたまで、そこまで躍起になりますか!」
「そうだよ!ぼくなんて、いてもいなくても、同じようなもんだったけど―――それでもここにいるんだ!きっちり
最後まで、戦ってやる!」
「愚かな・・・!」
グランゾン・Fの剣が閃く。スネ夫のドムトルーパーは両腕を落とされ、ついに沈黙する。
「シュウ=シラカワ!」
「あなたは―――あまりにもやりすぎた!」
ムウが操るGフリーダムとキラが駆るSフリーダムが、高速で宇宙を駆け抜けてグランゾン・Fに迫る。
「フリーダム・・・自由!本当に素晴らしい名前ですね。そんな機体を潰さねばならないのは残念ですがね・・・」
その剛腕を振り上げ、二機を打ち砕かんとしたその時、割って入った者たちがいた。
ディアッカとニコル、そしてイザークの機体だ。それはGフリーダムとSフリーダムを庇い、砕かれたボディの破片を
撒き散らす。
「ぐっ・・・!」
「くそっ・・・今のでもうこっちはロクに動けなくなっちまった!」
「もう盾になってやることもできん・・・後はお前らに任せた!」
彼らの叫びを受け、キラが激昂する。
「みんな・・・!くそおっ!よくも!」
Sフリーダムの全武装を解き放つ。ムウもそれに続き、Gフリーダムの砲門を展開する。

11 :ドラえもん のび太の超機神大戦:2006/12/12(火) 18:22:51 ID:hD/cG7ll0
そして、迸る光の螺旋。それは漆黒を照らし、グランゾン・Fを襲う。
「ワンパターンな攻撃ばかり・・・折角の機体が泣いていますよ!」
前方にバリアを展開し、それを全て防ぐ。そして二機のフリーダムを迎撃しようとした時、ボディのど真ん中をぶち抜く
ような一撃が襲った。
「うおおおおお!こうなったら体当たりしかないじゃないか!」
全ての武装が壊れ、両腕と両足を?がれた∞ジャスティスに残された最後のエネルギーで、アスランは捨て身の特攻
に出た。何の策も工夫もない、ただの体当たり―――だがそれが逆にシュウの意表を突いた。
完全に戦力外と看做していた、大破した∞ジャスティスからの攻撃など考えてもいなかったのだ。
「こんな自殺のような攻撃・・・あなたはまさか、本物のバカだと言うのですか!?」
まともに受けたグランゾン・Fが吹っ飛び、態勢を整えた瞬間に片腕が斬り飛ばされた。そこにいたのは―――
<シュウ!今こそ決着を付けてやるぜ!>
サイバスター―――幾度となくシュウの前に現れた、忌まわしくも縁深き機神。
「マサキ・・・あなたのしつこさには本当に頭が下がりますよ。私には勝てないと、かつて私に殺された時に学ばなかった
のですか?」
<確かにあの時は負けた―――だけど、今は違う!今の俺には―――>
「―――仲間がいるからな!」
<あ、稟!人のセリフ取ってんじゃねえ!>
「―――ならば!仲間ごと消えなさい!」
腕を再生し、ワームスマッシャーを零距離から放つ。避けようもない攻撃に、サイバスターもまた動きを止めた。
「―――らああああああっっ!!」
休む間もなく襲ってくる新手。それはロボットではなく、生身の人間。少なくとも、見た目は。
だがその本質は紛れもなく怪物―――USDマン。
彼はグランゾン・Fの脚部を引っ掴み、ジャイアントスウィングの要領でブンブンと回し、投げ飛ばす。吹っ飛んでいく
グランゾン・Fに追いつき、今度は蹴り飛ばす。
「ちいっ・・・!」
そして、そこに待ち受けていたのは金色の犬神―――アヌビス。大きな腕を振りかぶり、そして、振り下ろした。
単純にして、威力抜群の一撃だった。そしてそのまま殴り続ける。
「あなたを倒せるまで―――殴るのをやめないっ!」

12 :ドラえもん のび太の超機神大戦:2006/12/12(火) 18:23:25 ID:hD/cG7ll0
何故だ―――シュウは心底疑問に思った。
もう勝利の可能性など零に等しいというのに―――何故ここまでできるのか?
ふと、ダイザンダーだけが攻撃に参加していないのに気付いた。何故?何か、策が?この状況を打破する、何かが?
―――ある、と思った方がいい!
「―――<ビッグバン・ウェーブ>!」
猛攻から逃れ、エネルギーを集中させ、一気に爆発させる。グランゾン・Fに群がっていた全てを衝撃波で弾き飛ばし、
そしてダイザンダーに向けて宇宙を駆ける!
「何をしているのか知りませんが―――終わりです!」
完全に無防備なダイザンダーに向け、グランワームソードを振り下ろした。
「ああっ・・・!」
「ダメ、か・・・!」
誰もがそう思い、真っ二つに斬り伏せられるダイザンダーの無残な姿を想像した―――しかし、そうはならなかった。
「うあっ・・・!?」
突然、グランゾン・Fが大きく後退した。まるで、何者かに押し戻されたかのように。
「みんな、ありがとう・・・なんとか間に合ったよ」
そして、誰もがそれを見た。果たして夢か幻か―――
彼らは確かに、そこにいた。
ドラえもんとよく似た六人がいた。可愛いリボンを付けた、よく助けにきてくれるドラえもんの妹がいた。
とても神様の王とは思えない、とても魔王とは思えない、親馬鹿で愉快な二人がいた。
穏やかな顔をした首長竜がいた。ピンク色のふわふわした動物を連れた少年がいた。犬の王国の住人たちがいた。
海底世界の勇敢な少年がいた。魔法が存在する世界で生きる少女がいた。小人の星の小さな大統領がいた。
竜に似た頭を持つ勇敢な騎士とその妹がいた。天竺を目指し旅をする二人がいた。たくましい原始人の少年がいた。
白きペガサスがいた。雄々しきグリフォンがいた。勇敢な龍がいた。
動物たちの星の住人がいた。黄金の城にすむ伝説の船乗りがいた。かつて存在した雲の王国の少女がいた。
小人の少年も、絶滅動物の生き残りも、立派に成長した木の子供もいた。
ブリキのホテルの少年とその友達がいた。創られた世界の人々がいた。銀河の超特急で出会った彼らがいた。
種蒔く者より祝福を受けた星のぬいぐるみがいた。大海を往く海賊たちがいた。宇宙を旅する少年騎士がいた。
のび太によく似た太陽の王がいた。鳥たちの世界の鳥人たちがいた。機械の少年と人間の王女がいた。
風の村の少年がいた。犬と猫の国で出会ったみんながいた。
今まで出会った、その全てがいた。
そして―――今ののび太たちは知らない、これから出会うべき、まだ見ぬ誰かがたくさんいた。

13 :ドラえもん のび太の超機神大戦:2006/12/12(火) 18:39:07 ID:A9nhaKc70
のび太の声は、確かに届いていた。彼らの元に。彼女の元に。皆の元に。
そして皆、祈った。果てしなき世界で戦う友のため、祈った。
数々の冒険の中で紡がれた、かけがえのない絆。
そしてこれから紡がれるはずの、未来の絆。
時空を、次元を、全てを越えて―――それは、力となった。
その全てを受けて、ダイザンダーが眩く輝く。機械の瞳に確かな意志を漲らせ、ファイティング・ポーズを取った。
「来い―――シュウ!今のダイザンダーは・・・無敵だ!」
「―――戯言をぉぉぉっ!」
シュウが叫び、再び剣を振り下ろす―――だが、ダイザンダーの動きはそれを遥かに凌駕していた。
あっさりと回避し、光を纏う拳で殴りつける!
「があぁっ!?」
「まだまだ!」
さらに殴り、蹴り、そしてデモンベインでぶった斬る!
圧倒的なパワー、スピード―――今のダイザンダーは、全てにおいてグランゾン・Fを超えている。
例えグランゾン・Fが万全の状態だったとしても、決して遅れは取らなかっただろう。
「ぐっ・・・確かに、強い・・・ですが・・・」
シュウは凄まじい攻撃に晒されながらも、口元を歪めた。その瞬間―――ダイザンダーの拳が音を立てて砕けた。
「えっ・・・?」
「ククク・・・性能だけが上がったところで、機体の材質まで変わりはしません。パワーアップしすぎたせいで、もはや
ダイザンダーのボディではその力に耐えられないのです。さて、ダイザンダーが自壊するまでに、私を倒せますかね?」
「―――だったら・・・!」
のび太は叫び、そしてデモンベインを掲げる。
「だったら・・・一発で再生もできないくらいに消し飛ばすだけだ!」
デモンベインが―――魔を断つ剣が、姿を変えた。
白銀に光り輝く大剣から、白銀に光り輝く拳銃へと。
それは持ち主であるのび太にとって、最も理想とする形。
集いし仲間たちのエネルギー全てをぶつけるのに、最も適した姿。
「デモンベイン―――<神銃形態>!」
それはまさしく―――魔を討つ神銃!

14 :ドラえもん のび太の超機神大戦:2006/12/12(火) 18:39:41 ID:A9nhaKc70
「やっぱりぼくが一応主役なんだし、それなら最後の最後は剣よりも・・・銃で決めないとね!」
砕けた拳でなお強く握り締めた神銃―――その銃口が狙う先は、最後にして最強の敵―――グランゾン・F!
「みんなから貰った力を・・・食らえ、シュウ!」
そして、放たれる一撃―――
眩いばかりの光の洪水が全てを包んだ。世界を爆散させんほどの圧倒的な力。だがそれは、不思議なくらいに穏やかな
光だった。
何故ならそれは、祈りから生まれた光。友を想う心から生まれた光。それは光の極限に位置する。
―――闇を打ち倒す光だ。
綺麗だ、と、シュウですらそう思った。このままこの優しき光に包まれ、消え去るのもいい―――
「―――否!」
シュウは己の中に僅かによぎった感情を否定する。
「ならば、その光すら飲み込む闇を見せましょう―――」
グランゾン・Fが残る全てのエネルギーを両手に集約させる。そして両手を前に突き出す態勢で、一気に解放した。
「―――<真・縮退砲>!」
黒きエネルギーが解き放たれた。先程の光の洪水とは、完全なる対極。
全てを喰らう闇。絶対なる負の領域から産み出される闇。それは闇の極限に位置する。
―――光を喰らい尽くす闇だ。
極限の光と闇がぶつかり合う。極限の光と闇が交差する。僅かに勝っていたのは―――極限の闇。
黒が、白を、全てを、侵食する。
「くそぉっ・・・!」
まだ、まだ、足りない。あれほどのエネルギーを込めてなお―――なお、届かない。最後の最後で―――
と、背中を押されるような感覚があった。まるで、誰かが支えてくれているような―――
「・・・ああ・・・」
背後を確認した瞬間、全てを理解した。これまで共に戦ってきた仲間たち。彼らがみな・・・ダイザンダーの背中を
支えていた。誰もがみな傷ついて。誰もがみなボロボロで。誰もがみな、泣きそうに痛いのに。
―――それでも、支えてくれているんだ。

15 :ドラえもん のび太の超機神大戦:2006/12/12(火) 18:40:12 ID:A9nhaKc70
ドラえもんが掲げたままの親友テレカが、更に強く輝く。今、この背を押してくれる仲間たちの友情の力をも集め、
一つにしている。
それは極限の光の中に溶け合い、更なる力になった。
そして極限の闇は極限の光の前に、ただ消え去るだけ―――
「・・・・・・」
シュウはその光景を前に、ついに知った。
自分が、敗れることを。
最後に目に焼き付けた。すぐにでも己を包み、消し去るであろう、至高の光を。
それは、その光は、デウス・エクス・マキナ―――神が定めた御都合主義すら打ち破る、繋がる力。
光の中に、グランゾン・Fは飲み込まれていく―――!
「み・・・見事・・・です。このグランゾン・Fすらも倒すとは・・・」
もはや破滅を待つばかりのシュウが途切れ途切れに語りかけてくる。
「私ももはや悔いはありません・・・戦えるだけ戦いました・・・全てのものは、いずれ滅ぶ・・・今度は私の番だった・・・
それだけの・・・ことです・・・」
そして、最後の言葉。
「これで、私も・・・解き放たれる・・・全ての鎖から・・・本当の、完全なる、自由、を・・・」
その瞬間、グランゾン・Fが激しく火花を散らす。目を灼くような光が全てを包み―――世界が、爆砕した。
闇から生まれしものは、跡に何も残すことなく闇に還るのみ。
シュウ=シラカワは―――虚空の彼方へと消えていった。
<シュウ・・・>
マサキが、腹の底から搾り出すような声で呻く。
<バカな・・・奴だったぜ・・・くそっ!>
それは、なんのための言葉だったのか。どこまでも憎んでいたはずの彼を、マサキは心の底から哀れに思った。
―――だが、それも詮無きこと。戦いは、今・・・幕を閉じた。

16 :ドラえもん のび太の超機神大戦:2006/12/12(火) 18:40:44 ID:A9nhaKc70
―――そして、しばしの間、誰もが呆けたように宇宙を漂っていた。
まるで、当てもなく彷徨う流星のように。
「・・・終わったね。ドラえもん、リルル」
「そうだね・・・まだまだ問題は残ってるけど、ひとまず、ゆっくりしとこうよ」
「そうね・・・それくらいしても、いいわよね」
三人とも、疲れきった声だった。無理もない。限界まで精神を張り詰めていたのだ。他のみんなもきっと同じだろう。
「・・・ダイザンダー」
のび太がそっと、共に戦ってきた相方に語りかけた。
その姿はボロボロだ。鋼鉄の逞しいボディには傷を負っていない部分などない。拳は先ほど、完全に砕けた。
よくぞこんなになるまで、着いてきてくれたものだ。
「・・・文句が言えるなら、言いたかったよね。ごめんね、ダイザンダー」
その時だ。ダイザンダーが勝手に動き出した。内部の人工知能が反応しているのだ。砕けた拳を動かし、そして―――
ぐっと、親指を立てた。
ポカンとするのび太に、リルルは笑いかけた。
「ふふ・・・ジュドは、怒ってなんかないわよ」
「じゃあ・・・なんて?」
リルルもまた、親指を立てて、答えた。
「<お前はよくやったんだから、そんな顔するな>―――ですって」

―――そして、ここから先は、物語にとって蛇足の部分―――

17 :サマサ ◆2NA38J2XJM :2006/12/12(火) 18:41:18 ID:A9nhaKc70
投下完了。前回は前スレ287から。そして>>1さん、乙です。
ついに戦闘パートは全て終結。あとはエンディングまで4〜5話かな?100話で最終話ならきりがいいんですが・・・
向こうのスレでは書きましたが、次回作もドラえもんです。超機神の続編、というわけではありません。
ドラえもん的日本昔話・・・かな?
とあるスーファミのゲーム(で、日本昔話ならば思い当たる方もいるかも)と、他色々とのクロスです。
オリキャラもちょっと出ます。
ここまで書いたら、もう後戻りはできない・・・書くしかありません。どうかお楽しみに。

前スレ294 ロボット大戦さん、スパロボ好きとして楽しみにしています。
        ヤザンの玉コリコリは見れるのでしょうか?(楽しみなのそこかよ)

前スレ297 てゆうか、イデオンですw詳しくは第三次スパロボαをやれ、としか・・・

前スレ307 こんな演出でした。

前スレ309 本当に感慨深い・・・これほど長い話になるとは思いませんでした。

>>ふら〜りさん
インフレさせすぎて訳分からなくなりましたwまあ、それもご愛嬌と・・・

前スレ312 お褒めの言葉、ありがとうございます

前スレ340
始めまして。グロキシニアとアザミの名前の由来にちゃんと気付いてくれて、感動・・・
フー子と風助・・・やべえ!確かに口調被ってる!聖句については・・・作者がそこまで気付いてなかっただけだったり!(爆)
六十三話。その通り。分かる人だけ分かればニヤニヤしてくださいってかんじのネタです。
デモンベイン=アートレータ・アエテルヌム。まんまではないけど、>>12の下りはそれを意識しました。
御伽噺は・・・いや、それはないです(笑)

18 :作者の都合により名無しです:2006/12/12(火) 21:42:19 ID:SvuuPvmG0
永きに渡る戦いも終止符か・・・
サマサさん、本当にお疲れ様。
前作からずっと楽しませていただきました。
あと数話のエンディングまで、しみじみと待ってます。

あと、新作を楽しみにしてます!

19 :作者の都合により名無しです:2006/12/13(水) 07:55:57 ID:6PCpsH760
のび太はやっぱり主役なんだな。
ラストバトルはただのインフレバトルではなく、ちょっと切ない感じがステキでした。
もう数回、がんばってください。

20 :作者の都合により名無しです:2006/12/13(水) 09:24:43 ID:kXkREGHn0
友情テレカでみんなが現れた所でうるっときた。やべ。

21 :作者の都合により名無しです:2006/12/13(水) 16:42:27 ID:CF6Akm5v0
>>ジェシー・キリー
( - 人 - )ナム〜
安らかに眠ってくれ...

22 :作者の都合により名無しです:2006/12/13(水) 22:04:47 ID:wwgvOAl20
サマサさんが新作長編を書いてくれるという事で
来年もバキスレは安泰みたいで安心した

心配なのは、バレさんだな…

23 :前スレ340:2006/12/13(水) 22:14:15 ID:/+U1IRxs0
>サマサさん
決着お疲れ様です。

>エピローグ
解放されたシュウが、大導師よろしく星の海を漂っていそうなヤカン(w

>「・・・あなたはまさか、本物のバカだと言うのですか!?」
まぁ……ねぇ?…………(微妙に視線を逸らしながら)

ちなみに脳内BGMは、
>>8-11:「RISE ON GREEN WINGS」(フルver)or「血闘のアンビバレンス」

>>12-15:「破神昇華――乾かず飢えず無に還れ」
     or「神の摂理に挑む者達――真を断つ剣は未だ折れず」

(>>14-15:「斬魔大聖――汝魔を断つ剣となれ」or「HOLY WORLD」)

>>16:「神様にも消せない」or「勝利の凱歌を高らかに」

でした。

#ついでに。バカ王子のBGMは当然、「天才と何とかは紙一重というかむしろ完全に向こう岸」(w

他に、WA2のラストバトル曲だったり。
『大神』の「ありがとう」→「太陽は昇る」コンボだったり。

24 :前スレ340:2006/12/13(水) 22:23:11 ID:/+U1IRxs0
#感想続き

>御伽噺は・・・いや、それはないです(笑)
それは残念です。
では、喩え話を(爆)

>新作
『桃■郎伝説』クロスでしょうか?
楽しみにしております。

それはさておき。

二行で分かる「超機神大戦」ラストバトル。

のび太「神銃弾をくらえ〜」
シュウ「うおっ、まぶしっ」

…………orz

25 :強さがものをいう世界:2006/12/14(木) 17:08:30 ID:JYvZgMND0
 教室に小さな湖ができた。あえて名づけるならば“剛田湖”などが適当だろうか。
 体液を主成分として形成された、半径二メートルほどの湖。中心部では号泣し尽くした
ジャイアンが抜け殻のようになって佇んでいる。脱水症状を起こし乾ききった手足はぴく
りともしない。
 さて、始終を目撃していたドラえもん。ついに最後まで状況について行けなかった彼だ
が、今となっては唯一の生き証人だ。
「の、のび太君が……勝っちゃった」
 大金星を挙げた友は、まだ立ち尽くしている。駆けつけて祝福してやらねば。
「やったじゃないか! あのジャイアンを君がやっつけたんだよ!」
 ところが、なぜか返事が来ない。
「あれ……どうしたの?」
 揺さぶっても反応はない。
 生気を宿さぬ両目──のび太は立ったまま気を失っていた。 
「のび太君っ!」
 気を動転させるドラえもん。治療のためにポケットを探るが、あわてているためか、ろ
くな道具が出てこない。
「どっ、どうしよう、早くしないと!」
「落ちつくんだ、ドラえもん君」
「あっ! 君は……」
 声をかけてきたのは出木杉であった。全身の骨を折られた重傷にもかかわらず、みごと
に両足だけで立っている。
「眼球運動から判断するに、野比君は気絶しているだけさ。怪我もないようだし、心配い
らないよ」
「よかった……」
 ひとまずドラえもんは胸をなで下ろす。
「でも、君こそ大丈夫なの?」
「どうにかね。折られたらまずい箇所はかわしていたから、歩行に関しては問題ないよ」
「す、すごい……さすがだなぁ」
 まさしく天才。たとえ敗れても、魅せるところは魅せる。
 だが続いて、出木杉は予想だにしないことを口走る。
「つまり……君と野比君を葬って、ナンバーワンになるくらいの力は残してあるという
ことさ」

26 :強さがものをいう世界:2006/12/14(木) 17:09:26 ID:JYvZgMND0
 彼はのび太の勝利を知っていた。
 再燃する野望。理不尽な腕力によって一度は消し飛ばされた炎が、出木杉の中に復活し
てしまった。
「さ、さっきは助けてくれたのに……どういうことさ!」
「状況が変われば、対応も変わるさ。さっきまでの君たちは不幸にも戦場に迷い込んでし
まった罪なき一般人──でも、今はちがう。剛田君を倒してしまった以上、君らはもうぼ
くらと同じ土俵に立ったということになる」
 骨折などまるで感じさせない足取りで、ドラえもんとのび太に近づく出木杉。対するド
ラえもんも覚悟を決め、ポケットからショックガンを抜く。
「くっ……来るなら来い! のび太君はこんなになるまで戦ったんだ、ぼくだって……!」
 すると、出木杉はいきなり足を止めた。
「──なんてね。冗談だよ、冗談」
「えっ!?」
「ごめんごめん。ちょっとからかってみたかったんだ」
 先ほどまでの殺気が嘘のように、温和な面立ちになる出木杉。大きく息を吐き、またし
ても安堵するドラえもん。
「君も人が悪いなあ。てっきり本気で向かってくるのかと……」
「ハハハ、ぼくだって分別はわきまえているよ。でも、長居はしない方がいい」
「うん。ありがとう、出木杉君」
 ドラえもんは気絶したのび太を抱えると、どこでもドアで自宅に帰っていった。
 さて、ひとり残された出木杉だったが──。廊下がにわかに騒がしくなる。
「おいおい、ジャイアンと出木杉が弱ってるってよ!」
「うちのクラスがトップに立つチャンスだな……出撃ィッ!」
「二人まとめて討ち取ってくれるわッ! 天下は我がクラスが頂くッ!」
 のび太の教室を取り囲む大軍勢。二大巨頭の敗北を知った他のクラスの面々だ。
「野比君……ありがとう。嫉妬さえ感じてしまうよ。これまでぼくたちは、カルシウムと
タンパク質でしか強さを考えられなかった。でも君が示してくれた心の強さから学んで、
ぼくらはもっともっと強くなれるだろう。もっともっと戦いは激しくなるだろう」
 押し寄せる大軍に呼応するように、一敗地にまみれたファイターたちがよみがえる。
 続々と起き上がるクラスメイト。屋上から舞い戻る骨川スネ夫、のび太によって守られ
た源静香、初めての敗北を克服せんとする剛田武。
 ──戦いは、終わらない。

27 :強さがものをいう世界:2006/12/14(木) 17:10:33 ID:JYvZgMND0
 のび太を部屋に連れ帰ったドラえもんは、大急ぎで彼をお医者さんカバンで治療する。
 幸い脳に異常はなく、カバンから出された未来の湿布を頭に貼るだけでのび太は元気一
杯で目を覚ました。
「……あっ、ドラえもん!」
「もう大丈夫だよ、のび太君。家に戻ってきたから」
「ありがとう……。でも、ぼくはどうなったんだっけ……?」
「え?」
「ジャイアンに向かって飛び出したところまでは覚えてるんだけど……よく助かったなぁ。
ドラえもんが助けてくれたの?」
 なんと、のび太は自らが生んだ劇的な決着をすっかり忘れていた。元々夢遊病に近い状
態だったのかもしれない。
 ドラえもんの中に二択が出現する。話すべきか、否か。
 結論はまもなく出た。
「いや、ぼくはなんにもしてないよ。ジャイアンは、君を倒して満足したのか教室を出て
行っちゃったんだ」
「なあんだ、ぼくがムチャクチャ強くなっててやっつけたんじゃないのか」
「あるわけないでしょ、そんな夢みたいな話」
「だね、アハハハ」
 なにも知らず無邪気に笑うのび太に、心の中であやまるドラえもん。
 真実を打ち明けなかった理由はふたつ。ひとつは、話しても結局はのび太を調子に乗らせ
るだけだと判断したためだ。ヒーローに祭り上げるよりも、もしもボックスを軽はずみに使
うとどれだけ危険であるかを教訓とした方が今後のためになる。友人であり教育係でもある
彼ならではの決断であった。
 そして、もうひとつは──。

「お待たせしました。メンテナンスが終了した道具をお届けに参りました」
 石ころ帽子に透明マントという念の入れようで、どうにか夜まで生き延びたのび太たち。
 タイムワープで未来へと戻る業者を見送ると、さっそくドラえもんはタイムふろしきでも
しもボックスを修理した。
「じゃあ、のび太君」
 ドラえもんに促され、のび太は約一日ぶりに受話器を手に取った。
「なにもかも元に戻して!」

28 :強さがものをいう世界:2006/12/14(木) 17:12:34 ID:JYvZgMND0
 ドラえもんの手で、四次元ポケットに吸い込まれるもしもボックス。
 一方のび太はまだ不安が消えていない様子だ。
「これで……元通りになったんだよね?」
「うん。なにもかも戻ったはずだよ」
 とはいっても、なかなか実感はわいてこない。実はタイムふろしきでも直らなかったの
ではないか、とマイナス思考ばかりが浮かび上がる。
 すると、タイミングよく一階から呼びかける声があった。
「のびちゃん、ドラちゃん。ご飯よ〜!」
 ドキッとするのび太。
 昨夜の食卓が嫌でも頭に上ってくる。もしまた、テーブルに注射器や生肉が並んでいた
ら、ボディビルダーのような両親が居座っていたら、どうしよう。
 だが、心配は無用であった。
 おそるおそる入った台所には、およそ筋肉とは無縁ないつもの父と母が座っていた。夕
飯も、どれもこれも普通のメニューばかり。
 感動のあまり、とめどなく涙があふれてくる。
「ママが細いっ! パパも細いっ!!」
 いきなり泣きながら意味不明な叫びを上げる息子に、すっかり困惑する二人。
「あらやだ、なにいってるのよ」
 密かに実行していたダイエットの成果が出たのかしら、と内心でガッツポーズする玉子。
「の、のび太、いったいどうしたんだ」
 なにがなにやらチンプンカンプンなのび助。
 奇行は止まらない。今度は笑いながら、
「軽いっ! 軽いよっ!」
 と、のび太は椅子を天井高くまで持ち上げてみせた。
 この後、ありふれたご飯やおかずを実に美味そうに平らげたことはいうまでもない。
 そんなのび太を、ドラえもんは半ば呆れながら見つめていた。
 だが、世界が元通りになってしまった今、彼だけは知っている。本人ですら知らない野
比のび太の最強を知っている。親友のホットな秘密を独り占め。わざわざ二十世紀まで来
ているのだ、これぐらいのことをしてもバチは当たるまい。
 これが、もうひとつの理由である。

                                   お わ り

29 :サナダムシ ◆fnWJXN8RxU :2006/12/14(木) 17:14:53 ID:JYvZgMND0
前スレ>>422の続き。
終わるにはいい日だ。
ということで『強さがものをいう世界』これにて終了です。
原作の「お金のいらない世界」や「かがみのない世界」のような、
ちょっとしたもしもボックス物語を意識していたのですが、少々長引きました。

改変ネタまみれでしたが、好評で嬉しい限りです。
もっと純粋にドラ+バキにしとけばよかったかなという反省もあります。
とはいえ、ジャイアンの四連戦は今までで一番くらいに楽しく書けました。

最後になりますが、新スレ立てお疲れ様です。
投下させて頂き本当にありがとうございました。

>>425
ナチュラル消力状態だったかもしれません。

>>426
マンネリになるかもしれませんが、またチャレンジしてみたいです。

30 :作者の都合により名無しです:2006/12/14(木) 21:59:51 ID:oh8ENm710
おわっちゃったかー
でも、いい意味に手軽に楽しめました
サナダさんの短編はすっと読めるけど
必ず一工夫してあるので好きです。

31 :作者の都合により名無しです:2006/12/15(金) 08:04:29 ID:D3rAAylK0
サナダムシさん、完結お疲れ様です!
最後ののび太のパワーアップがちょっと不自然だったけどw
原作の名シーン準拠ということでw
短編だったけど中身は濃かったなあ。

32 :作者の都合により名無しです:2006/12/15(金) 22:09:35 ID:1FzsN1jm0
サナダムシさん完結おめ。
また完投記録が伸びたな。偉大だ。

33 :ふら〜り:2006/12/15(金) 22:23:40 ID:udr/qhaU0
>>1さん
おつ華麗さまですっ。45か……だんだん50が見えてきましたねぇ。30や40の時にも
同じような気分でしたが、50はやはり一味違う。50%といえば半分。100の半分。
などと100を思い描いてしまう今日この頃。今スレも華やか賑やかにいきたいですね。

>>サマサさん
前回の感想で「これ以上壮大な映像は想像できない」って言ったばかりなのに……宇宙・
次元・時間、全てを越えての揃い踏み。神ならぬ者たちが結集して神を越えた感じです。
本作が映画やテレビだったら、観てる子たちも参加してますね。親友テレカで繋がる友情。

>>サナダムシさん
あっちの世界の今後も気になるなぁ……ジャイアンがカッコ良く成長していきそう。出来杉
も渋くキメてくれたし、血生臭くも漢らしい世界でした。ドラの「秘密の理由」、何かブラック
な捻りがあるのかと思いきや予想外。濃い戦いに爽やかな後味添えて、楽しかったです!


34 :戦闘神話・幕間〜師と仇と〜:2006/12/15(金) 22:46:50 ID:ZkKTIRTS0

その日を、その時を、その人を、瞬は決して忘れはしないだろう。
瞬は、拳を固める事にすら嫌悪を示した時期がある。
兄という巨大な傘の下にいた頃は、それでよかった、
だが、彼は怠惰な気性ではなかった。
彼にとって、兄は英雄だったのだから。
人は、英雄を求める。
だが、人は英雄になりたいと研鑽を積み上げたとしても、挫折し、涙し、諦観してしまう。
それでも生きていけるからこそ、人間という生き物は強いのだが。
挫折を乗り越え、涙を呑んで、諦観を踏み越える事のできる者も稀に存在する。
それが、明日の勇者となるもの達だ。
瞬は、その明日の勇者の一人だったのである。

城戸家に引き取られ、虐待じみたトレーニングに嗚咽をかみ殺した日々を重ね、
ある時彼らは一つの事実を知らされる。
自分たちは城戸光政の娯楽のための生贄なのだ、と。
自分たちは、聖闘士という、
その存在すら疑われるようなものになる為に全国の児童養護施設から引き取られたのだと言う。
瞬は、心底呆れ、驚いた。
だが、憎むことはしなかった。

35 :戦闘神話・幕間〜師と仇と〜:2006/12/15(金) 22:51:35 ID:ZkKTIRTS0

その瞬が、憎悪に身を焦がした相手が只一人だけ存在する。
先代の魚座・ピスケスの聖闘士アフロディーテその人である。
故に、最大必殺技をもって葬った、否、殺したのだ。
師・ケフェウスのダイダロスに認められ、聖闘士となった時には、
瞬は、既に小宇宙の究極・セブンセンシズに指をかけており、白銀聖衣を粉砕してのけた。
そして、数々の戦いを経て完全にセブンセンシズを眠りから覚ました上での戦闘だ。
例え相手が天下無双の黄金聖闘士であろうとも、彼に殺せぬ道理はない。
その領域に至ってしまった以上、戦いにはならない。ただの殺戮だ。
聖闘士史上類をみない天才の繚乱時代であるサガの乱期において、
彼の実兄・フェニックス一輝同様、 超常の領域の天才である瞬にとって、
拳を固めるという事は、恐怖以外の何物でもなかった。
殺してしまう、命を奪ってしまう、壊してしまう。
常にその恐怖が彼にまとわり付いていた。
だが、しかし、大恩ある師匠の仇ともあれば話は別だ。
瞬自身、わずか十七年の生涯の中で後にも先にも、
あそこまで憎悪に、殺意に、赫怒に身を委ねたことはない。

「先ずは君からだ。
 フッ…死ぬ順番が変わっただけの事」

瞬の目の前に立つ茨の男。
麗人といわれても、すんなりと信じてしまいそうな出で立ちの彼は、
その秀麗な顔立ちに反してこの黄金十二宮最後の守護者なのだ。
同時に、瞬の、ジュネの大恩ある師・ケフェウスのダイダロスを殺した仇敵でもある。

36 :戦闘神話・幕間〜師と仇と〜:2006/12/15(金) 22:56:36 ID:ZkKTIRTS0

「アフロディーテ、貴方に一つだけ尋ねたい事があります」

何かな、と返す彼の言葉を待って、瞬は尋ねた。

「貴方は、教皇が偽者だと知っていて、従っているのですか?」

沈黙は無かった。

「当然だ。
 他の者は知らないが私とデスマスク、
 そしてシュラは教皇の業を知った上で従っている」

やや芝居がかって、質問はそれだけか、ととじたアフロディーテの明朗とした答えは、
瞬の怒りの呼び水となった。
瞬間、大気は嚇怒に震えた。
瞬の右拳から攻撃を司るスクエア・チェーンが雷を模して襲い掛かる。
が、アフロディーテはかわしもしない。
否、彼が左手にそっと摘ん黒薔薇によって受け止められ、
同時に銀河の鎖は両方とも星屑のように砕け散った。
物質の最小構成単位、原子を破壊する事は聖闘士の戦闘の基本だ。
だが、それが黄金の小宇宙によって成されるのであれば、破壊の奇跡を呼ぶ。
瞬の強靭な意志の込められたネビュラ・チェーンはしかし、
黄金の甲冑魚の顎によって食いちぎられたのだ。

「君、もしや私をこの程度で倒せるとでも思っていたのか?
 だとしたら思い上がりも甚だしい」

瞬のみぞおちに突き刺さる茨の魔人の膝蹴り。
その衝撃が瞬の聖衣を粉砕し、臓器を思うまま引っ掻き回した後、
ようやく彼の声が瞬の耳に届いた。

37 :作者の都合により名無しです:2006/12/15(金) 22:57:01 ID:1FzsN1jm0
お、銀杏丸さんきた!
夜勤から帰ってきたら楽しく読むわ
頑張ってくれ

38 :戦闘神話・幕間〜師と仇と〜:2006/12/15(金) 23:02:09 ID:ZkKTIRTS0

「この不沈の十二宮を此処まで上ってきたのだから、
 喩え青銅のヒヨッコであったとしても」

血反吐を撒き散らし、双魚宮の石柱を数本纏めて砕きながら地面と並行に飛ぶ瞬だったが、
茨の魔人はまさしく一瞬で間をつめる。
彼の光速の貫手突きが冗談のように瞬の聖衣の胸部装甲を打ち抜き、
肋骨を三本まとめて粉砕し、胸に穴をあける。
底意地の悪い事に、直ぐには死なないように加減した上でだ。
だが、それでも手を引く際に肋骨を三本ほど抉り取るという極悪さをもっていた。

「力はある、と思っていたのだがな」

撃墜。
そう呼んでしかるべき衝撃で地面に叩きつけられた瞬は、刹那の間意識を手放した。
だが魔人の攻撃に間断はなく、瞬の頭に踵落としが決まる。
双魚宮の磨きぬかれた大理石のタイルが放射状にひび割れ、
瞬の聖衣のヘッドパーツもまた、粉と散った。
つい数十時間前、ムウによって修復された聖衣が、まるで役に立っていない。
小宇宙の差は、そこまで大きいのだ。

「ケフェウスのダイダロスは、これで死んだが。
 君はどうだ?」

みしり、と瞬の頭蓋骨が軋んだ。

「ああ、安心したまえ。頭を踏み砕いて殺してなどいないよ。
 白銀聖闘士にその人有りと言われたケフェウスのダイダロスを、
そのように殺しては些か勿体無い。
 英傑には英傑の死に様というのが必要だろう」


39 :戦闘神話・幕間〜師と仇と〜:2006/12/15(金) 23:10:09 ID:ZkKTIRTS0

瞬の髪の毛を左手で掴むと、魔人はそのまま彼を吊り上げる。

「くびり殺してやったのだ」

髪の毛を離すと同時に、彼は右手で瞬の細い首を締め上げる。

「かつて英雄ヘラクレスは、ポセイドンの子アンタイオスを大地から引き離してくびり殺したのだ。
 英雄の殺した化け物になぞらえた死に様、実に相応しかろう」

つつつぅっと、瞬の額が朱に染まる。
頭皮か、額の何処かを切ったのだろう、だがそれは同時に、瞬自身が恐れる魔を呼び起こしていた。
嚇怒、憎悪、敵意、殺意、あらゆる負の感情が込められた瞳が、
亜麻色の髪の中からアフロディーテを貫いていた。
澱のように積み重なった悪意の群れは、只一つの色に成り果てる。
泥のような、黒。

「僕は…」

血で咽(むせ)て、ややくぐもった瞬の声、しかし、諦観はない。
敵愾心を剥き出しにした、獣の如き顔の瞬。

「僕は…ッ!」

毒蛇が得物を捕らえるが如き動作で、瞬の手はアフロディーテの右手を掴んでいた。
みしりと軋んだのは、瞬の頸(くび)ではなく、アフロディーテの、ピスケスの聖衣だった。
だがそれでも、茨の魔人は怯まない。


40 :戦闘神話・幕間〜師と仇と〜:2006/12/15(金) 23:16:25 ID:ZkKTIRTS0

「私の聖衣を軋ませるか」

黄金聖闘士随一の剛力を誇るアルデバランといえども、黄金聖衣を粉砕する事はできない。
単純な腕力では、黄金聖衣は壊れない。
神の領域まで高めた小宇宙でなくば、この奇跡の聖衣は傷つく事すらないのだ。

「君はどうやら、爪を隠していたようだな。
 舐められたものだ、このピスケスのアフロディーテも」

そこで初めて、アフロディーテは相貌に憤怒を滲ませた。
誇り高き黄金十二人最後の一人、ピスケスのアフロディーテの誇りを、瞬は踏みにじったのだ。
本気を出したまえ、そう言って瞬の体は放りだされた。
同時に、逆袈裟に切り裂かれる。
先ほど瞬のネビュラ・チェーンを打ち砕いたものと同じ、漆黒の薔薇ピラニアン・ローズだ。
粉砕されたとはいえ聖衣を装着した聖闘士、
それを薔薇で切り裂いた彼は、やはり魔人なのだ。

「僕は、人を傷つけたくない…」

自分の血で咽ながら、それでも瞬は立ち上がる。
黒い感情を押さえ込みながら、それでも瞬は立ち向かう。

「優しい事だな。
 だが、その優しさだけでは人を救えない。
 地獄への道は、善意で舗装されているそうだが、
 おそらくは君のような優しい善人が精魂込めて舗装しているのだろうな」

小宇宙が、広がる。
黄金の小宇宙に呼応するかのように、瞬の小宇宙が大きくなる。

41 :戦闘神話・幕間〜師と仇と〜:2006/12/15(金) 23:19:51 ID:ZkKTIRTS0

「アフロディーテ、貴方が、もし一かけらでも省みる意思があるなら、
 僕は貴方を殺さない」

その言葉で、今度こそアフロディーテは吼えた。

「言うか小僧!
 私は己の意志で殺し、己の意思で奪い、己の意思で守ってきたのだ!
 今ここで、私が省みてしまったのなら、私が懺悔してしまったのなら、
 私が踏みにじってきた者たちはどうなる?
 私が守ってきた者たちはどうなる!
 それこそ全くなんの意味もなくなってしまうではないか!
 だから私は省みない。この生涯が終るまではな!
 外道も貫けば世の華だ!
 さぁアンドロメダ、おしゃべりは終わりだ。」

アフロディーテは構えた。
彼の右手の中には魔法のように純白の薔薇が現れていた。
すると、対応するかのように瞬もまた構えた。

「この白薔薇は、放たれたが最後、必ず君の心臓を穿つ。
 逃れられる術はないぞ?
 さぁ、これでも君は問答を続ける気かな」

ふらり、と幽鬼のように瞬は、アフロディーテに向かって掌を突き出す。

「…、僕は初めて拳を握る」

瞬は全身の力を込めて、軋ませながら拳を握り締めた。
そして、大気は瞬に掌握された。

42 :戦闘神話・幕間〜師と仇と〜:2006/12/15(金) 23:28:25 ID:ZkKTIRTS0

「…ッ!
 アンドロメダ!何をした?!」

驚愕。
アフロディーテは、縫いとめられたかのように動けなくなっていた。
大気を支配する瞬の最大必殺技の前段階だ。
瞬の巨大な小宇宙によって大気を、空気を制御下に布き、敵の五体を完膚なきまでに封じる技である。
無論、この技をかけなくとも最大必殺技を放つことは出来る。
だが、あえて瞬は猶予を与えたのだ。

「ネビュラ・ストリーム…。
 無理に動こうとすれば、五体はばらばらに引きちぎれます。
 お願いです、アフロディーテ。ここで懺悔してください。
 己の行いを省みてさえくれれば、僕は貴方を殺さない。」

憎悪を押し殺し、降伏を勧告する瞬。
それは己との戦いだったのだろう。
そんな瞬を、アフロディーテは一笑に付した。

「馬鹿め。
 そんな事では更に被害が増すだけだ!
 非情になれ、アンドロメダ!殺す覚悟を決めろ、殺される覚悟を決めろ!
 今ここで私を殺さなければペガサスは死に、さらに死人が増えるだけだぞ!」

それにな、と一言。

「この程度で私を完全に封じることはできない
 馬鹿は死なねば治らないというだろう?」


43 :戦闘神話・幕間〜師と仇と〜:2006/12/15(金) 23:34:15 ID:ZkKTIRTS0

体中を軋ませながら、アフロディーテは再び白薔薇を構えた。
その姿に、懺悔も自責もなく、只ひたすらに己の道を貫き通す傲然とした意思があった。
それは不思議な美しさをもって瞬の胸を打った。

「アンドロメダ。所詮この世は力が全てだ。
 力無き正義は無力…。勝てば官軍…。
 アテナに、城戸沙織に本当に力があったのなら、
 十三年前に己の身を守ったアイオロスを、殺させるような真似はしなかっただろうよ!
 私はそんな小娘の為に負けてやるつもりは無い!」

正義のために散ったアイオロスを、アテナを侮辱するかのような言葉に、瞬は嚇怒した。
故に瞬は、アフロディーテが胸中でほくそ笑んだことを知らない。
己を貫いているが故に、己を否定できなくなった哀れな男の唯一の望みを、瞬は知らない。
正義に敗れる悪である為、敢えて瞬を挑発したアフロディーテの哀しさを知らない。

「この分からず屋!
 もうどうなっても知らないぞ!」

もはや決した、瞬はそう断じて小宇宙を爆裂させるべく最後の挙動へと移る。
もうこうなれば、瞬ですら止める術はない。

「この世に生れ落ちて二十と二年。そこまで立てば十二分に頑固者になるさ!
 さらばだアンドロメダ!」

44 :作者の都合により名無しです:2006/12/15(金) 23:37:42 ID:WYdL4t1K0


45 :戦闘神話・幕間〜師と仇と〜:2006/12/15(金) 23:49:50 ID:ZkKTIRTS0
ヘルメスは、風の神であると同時に英雄の魂の運び手でもある。
彼によって導かれた魂は、冥府の主の元へと集う。
今、茨の魔人の魂はヘルメスへと委ねられた。
ぎしり、と軋んだのは一体なんだったのだろうか。
瞬の理性か、
冥府の主の歓喜か、
アフロディーテの良心か、
アドニスの慟哭か、
黄金の聖衣たちか、
薔薇の群れか、
大気か、
双魚宮か、
それとも不沈不落を謳った黄金十二宮か、
同士討ちを悲しんだアテナの心か、
だが、それを知る術は彼らにはない。

「ネビュラッ!ストォオオオオムッ!」

黄金の薔薇は、妖しくおぞましく美しく咲いて。

「ブラッディイイイイィ・ロォオオオオオォォオォォォズッ!」

気高く、散る。
銀河の気流は嵐となり、嵐は茨を舞い散らす。
風に舞う一片の花弁の如く、アフロディーテは宙に舞い、固い大理石の床に叩きつけられた。
その一撃は、金色の聖衣を浸透し、確実に人を殺害せしめる究極の一打。
最も心優しい聖闘士が得た、モイライ(運命を司る三人の老婆神)の皮肉ともいうべき究極の拳撃。
銀河の嵐は、たとえ聖闘士の究極たる黄金聖闘士の命といえども、容易に刈り取る。

46 :戦闘神話・幕間〜師と仇と〜:2006/12/15(金) 23:54:29 ID:ZkKTIRTS0

ここに不沈を謳った黄金十二宮は陥落したのだ。
そして、瞬もまた心の臓腑に赤い薔薇を咲かせていた。

幸いにして、一命を取りとめ、瞬はこうして今生きている。
アフロディーテはあれほどまでに憎んだ相手だが、
不思議といまはそういった感情が枯渇していた。
敵として合い争い、干戈を交えた相手であっても、
瞬は相手の良心の疼きを感じ取ってしまう。
あの時の事を思い返せば思い返すほど、アフロディーテという人間が良く分からなくなる。
こちらを挑発するかのような言葉、
戦闘を望む類の人間ならばそれで得心がいったろうが、彼はそういった人間ではなく、
むしろ典雅優美な面持ちを崩さなかった人間だったらしい。
アドニスの話を聞いても、あの時の彼とは繋がらないのだ。
そして、同時に瞬とジュネの大恩ある師・ダイダロスを討った仇でもあるのだから、
ますます分からなくなる。


47 :戦闘神話・幕間〜師と仇と〜:2006/12/15(金) 23:58:34 ID:ZkKTIRTS0
瞬がほんの少しばかり力を入れれば、人は容易く壊れる。
だからこそ壊してしまいたくはなかった。
人は、美しい。
人は、醜い。
人は、素晴らしい。
人は、おぞましい。
だからこそ人なのだ。
愛し、憎み、慈しみ、争い、笑い、涙し、生まれ、老いて朽ち果てる。
瞬きのような生涯を、彼は壊してしまいたくはなかった。
瞬に兄が、ジュネが、弟子たちが、兄弟たちが居るように、どんな悪党にも想う人は居るのだと信じていたから。
思えば、アフロディーテにもそういった相手がいたのだ。今は自分の弟子となったあの少年が。
だからこそ、瞬は憎しみに駆られる事を殊更忌避して生きてきた。
どんなに理不尽な扱いを受けても、どんなに殴られても、どんなに疎まれても。


48 :戦闘神話・幕間〜師と仇と〜:2006/12/15(金) 23:59:58 ID:ZkKTIRTS0

それ故、今となっては、あの冥府の主に対しても、ある種の憐みに似た感情を持っている。
彼の思考を知ることができたのは、今もって尚、瞬を複雑な感情に陥れる。
余りにも深い悲しみが、冥府の主の心を支配していた。
愛おしいと、思ったのだ、冥府の主は。
慈しみ、愛で、穏やかな微笑みを浮かべる彼女の姿を、彼は求めていた。
天主のように権勢に任せて抱ける地位にはなく、海皇のように情熱に身を任せて抱ける事も出来ず、
懊悩を重ねた彼は、愛した女の娘をさらい妻に据えた。だが、彼女を愛する事は出来無かった。
娘を通じて、その母を見ていたのだ。
なんと愚かでなんと哀しい男だったのだろう、冥府の主は。
例えその愛した女から憎まれ疎まれようとも、彼はたしかに愛していたのだ。
そして、彼女が暴龍神との戦いで死んでしまった事が、彼を狂わせた。
愛した女が消えた地上を、消してしまいたかったのだ、彼は。
神々でさえも、モイライの糸車からは逃げられないのだ。
何時しか自分にもモイライの糸車の音が聞こえるのだろう。
だが、甘んじて受けてやるつもりは無かった、死にも神にも屈しなかった兄や兄弟たちのように、抗ってみせよう。
それが冥府の主に対して己が出来る唯一の餞(はなむけ)だと信じているから。

あともう少しで戦友のまつドイツへと瞬たちの乗った飛行機は到着する。
新たな戦の予感に、瞬は、すこし、高揚していた。

49 :銀杏丸 ◆7zRTncc3r6 :2006/12/16(土) 00:03:35 ID:ZkKTIRTS0
いつも利用してる満喫が鯖不良、運悪く人大杉、
泣きっ面に蜂、弱り目に祟り目な銀杏丸です

今回のお話は黄金時代の際、書かなかったエピソードで、第二回と第三回の幕間なんですが
第三回が今年中に投稿できる自信がないので前倒しさせていただきました
ごめんなさい
原作だと瞬殺されちゃったり、アニメだと完璧にオカマだったりするアフロディーテですが
不肖銀杏丸のSSでは優遇傾向にあります、聖衣かっこいいので
黄金時代第三回とあわせて読んで頂くと、僕が如何に彼を優遇してるかわかるかと思います
威厳たっぷりで鬼強いアフロディーテ、見てみたかったんですよ…

>>312さん
エドは次回こそ登場しますので…
バキスレで人気の錬金の戦士と接触予定です
しかし、昔の彼女って実にかわいらしいですねぇ

>>スターダストさん
ポントスやネレイデス、オケアヌスといった海神の皇なので、そりゃもう無茶苦茶やります
ほんともう、自分が好きな悪役のエッセンスを全部つめこんで煮詰めたのが戦闘神話の海皇なので
この銀杏丸の全知全能をこめて!と思ってます

>>ふら〜りさん
>SPW財団みたいなこともできたはず
まさしく今作ではそれをやりたく思ってます。
ぶっちゃけ、あの規模の組織があったらかなり面白いことができるだろうと考えております

今度こそエドの活躍にご期待ください
銀杏丸でした。

50 :作者の都合により名無しです:2006/12/16(土) 09:03:01 ID:/O0BFnLC0
銀杏丸氏力作乙!
幕間劇ながらも軽いものにならず、濃い文体だな。
アフロは俺も好きなので全然Okだと思う。

しかし氏はたまにしか来ない分、来ると長いなw

51 :作者の都合により名無しです:2006/12/16(土) 22:23:15 ID:uokudg1k0
銀杏丸氏乙。
やっぱり銀杏丸氏はこの文体の方がいいな。
黄金時代の作風が好きだったから。

52 :作者の都合により名無しです:2006/12/16(土) 22:35:23 ID:uokudg1k0
第三回 SS大賞のお知らせ

年末恒例の大賞がやってまいりました
今年はいささか準備不足で投票数が心配ですが
奮って投票をしてください。

以下の語ろうぜスレで、「IDがわかるように」投票してください。
(つまり、メール欄にsageとか記入せずにレスして下さい)

投票先スレ(漫画サロン板 SSスレを語ろう パート23)
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1152282950/l50


投票用シート

・大賞(1作):
・新人(1作):

・ストーリー(1作):
・ギャグ(1作):
・バトル(1作):
・名シーン(1場面):
・中短編(1作):

・最優秀キャラクター賞(1人):
・優秀男キャラ(3人以下):
・優秀女キャラ(3人以下):


17日 日曜日の午前0時から(つまり今から約1時間30分後から)
同日の23時59分までが投票タイムです。
突然で申し訳ありませんが、奮ってご参加を!

53 :永遠の扉:2006/12/16(土) 23:43:46 ID:etnX4uh10
第008話 「総ての序章 その2」

1905年10月14日 ポーツマス条約批准

終戦、である。
日露戦争によってともかくも勝者となりえた日本は長年頭を悩ませつづけてきたロシアの脅
威からひとまず開放されたといっていい。
その頃、爆爵は錬金術に熱中している。
例の蔵に終日閉じこもり、家中のたれとも口をきかぬ日もしばしばである。

──狂ったのではないか

使用人たちは陰でささやきあい、親族の中ですらそう信じる者がいた。
そうであろう。
何の前ぶれもなく隠居を発表し、半ば押しやるような形で事業のことごとくを息子へ譲渡した
かと思えば、あとは蔵の中へ地虫のように閉じこもっている。

──いや、そうではない

と爆爵の異変を擁護する者もいた。
かれらの弁によればこの異変こそ、まだ正気が残っている証拠だという。
なぜならば隠居の決断こそやや唐突ではあるが、息子への事業譲渡やそのほかの財産分
与のあざやかさは西洋貿易で巨万の富を築いた往年の手腕そのままであり、死後相続をめ
ぐって起こるであろう不毛な争いをみごとに防いでいる。

「豊臣秀吉をみろ。生前あれだけの権勢を誇っていたかれでも、死後の血族の処遇について
は病床で家康に「たのむ」といったぐらいだ。その家康に大阪城で淀君や秀頼を討たれた事
をかんがえれば、いま蔵に閉じこもっているあの方ははるかに理というものをわきまえている」


54 :永遠の扉:2006/12/16(土) 23:44:20 ID:etnX4uh10
もっとも爆爵にしてみれば、そういう人間的なしがらみなどはどうでもいい。
人間だった頃こそ日露戦争において日本が勝利する事を懇願していたし(別にこれは爆爵
に愛国心があった訳ではなく、帝政などという一人の人物の権勢にただ民衆が惑うほかない
「劣」の機構を持つロシアに目ざましい発展を遂げる近代日本が負けるのが気に入らなかった
だけである。もっとも、坂の上にかがやく一朶(いちだ)の白い雲のみをみつめて坂をのぼる
といった向上心をもつこの時代の日本の楽天家たち自体はきらいではなく、そうでない者が
繰り広げた太平洋戦争においては日本などほろべと思っていた)、そのほかの細々とした
「しがらみ」について手立てを講じていたが、ヴィクターと出逢って以来、興味がもてなくなっ
ている。
ゆえにかれは胸中密かに決めた。
(10年だ)
死ぬまでの期間が、である。
もっとも、1世紀後の爆爵が銀成学園において一大会戦を勃発させるのを考えればこの寿
命のそろばん勘定はややおかしい。
(おかしくもないさ)
爆爵はそろばんの珠をぴんと弾いた。錬金術でこみいった計算をする時の道具である。
実はこの頃すでにかれはホムンクルスになっている。
ヴィクターから製法を伝授されるやいなや実験もそこそこに人間を捨て、あとは自らの築き
あげた物をいかに自然現象的に消滅させるか熟慮している。
その中でもっとも難しい物を挙げるとすれば、「蝶野爆爵」という存在そのものであるだろう。
事業や財産ならば隠居という形にまぎれて始末できるが、「蝶野爆爵」という存在はそうも
いかない。下手に消し去ればそれこそ戦士の嗅覚の的である。
ちなみに実はこの頃、爆爵の髭や髪は真っ白になっているが、老化によるものではない。

──武装錬金発動の後遺症だろう。

ヴィクターの弁によればそういう事もあるらしい。
武装錬金は闘争本能を具現化する事でさまざまな武器を形成する。
いわば精神の流出作業なのだ。

──血を傷口から吹き出す、といってもいい。


55 :永遠の扉:2006/12/16(土) 23:45:44 ID:etnX4uh10
ヴィクターは妙なたとえを持ちだしたが、なるほど、確かに似ている。
精神などという神秘的なものの実体については本題でないゆえにこの稿でははぶくが、とも
かく生命活動の支えという点では似ている。
精神を血に見立てれば武装錬金は確かに「血を傷口から吹き出す」作業でもあるだろう。
量があまりに多ければ虚をきたして昏倒し、昏倒せぬよう戦士は訓練をつんで血の流出制
御の術をえる。
しかし爆爵は納得と同時に首をひねった。ヴィクターのたとえは的を射すぎている。
ひょっとしたらヴィクターは実際に、「血を傷口から吹き出す」怪物と出会った事があるのかも
知れない。むろん、そういう経歴については爆爵は聞かないし、ヴィクターも語らない。
なお、錬金術における精神は、肉体や霊魂(または魂)とならんで人間を構成する要素であ
り、それらを均一に高めていく事こそが本来の目的である。
(……だが)
と爆爵の脳裏にふとした疑問が浮かんだ。
精神は前述の通り、武装錬金によって高められている。
肉体はどうか。こちらはホムンクルスにより高められている。が。
(霊魂だけがない)
奇妙な話でもある。
純粋に自らの霊的完成を求めるにしろ、欲望のまま黄金変性や不老不死を求めるにしろ
錬金術師にとって賢者の石の精製はさけられない部分である。
そのためには精神・肉体・霊魂を均等に高めていかねばならないというのに、霊魂だけは
核鉄やホムンクルスに該当する産物がない。
(あるいはそれがあれば賢者の石の精製も可能……?)
ヴィクターを救い、なおかつかれが二度と人間如きに負けないようにするには、既存の物を
はるかに超えた産物が必要であるだろう。
爆爵は幸い、不老不死である。
それを以て悠久のときを研究にあて、遥かな力を創り出し「優」たるヴィクターに捧ぐ。
『蝶野』の本懐ではないか。
特有の二元論を満たしながらも自らの高みを目指す、惑いなき芯の通った生き方なのである。
それはともかくとして、爆爵の髪や髭が白くなったのは、例のアリスインワンダーランドの発
動により大量出血をきたした彼の精神の証であるだろう。
ヴィクターを連れかえってすぐおこったこの変調に爆爵は閉口した。

56 :永遠の扉:2006/12/16(土) 23:46:20 ID:etnX4uh10
山中でヴィクターを襲撃した者は総て殺している──実は1名だけ生存しており、爆爵の死
後のL・X・Eに重大な影響を及ぼすとは神ならざるかれには知るよしもない──から、すぐ
ここに来る事はないだろうが、その仲間が銀成市に焦点をしぼって調査する場合を考える
と爆爵の不自然な変調は非情にまずい。
戦士の知るところとなれば蔓からイモをたぐるようにヴィクターの存在を嗅ぎつけられる。
つまり爆爵がヴィクターの守護体制を敷くにあたってまず要したのは、黒髪を保つ白髪染め
なのである。
後のL・X・Eの規模から考えればやや馬鹿げているが、創立時の組織などはえてしてそういう
ものなのだろう。
「すまないヴィクター。キミに少しつまらない事を聞くよ」
と爆爵は真剣ながらにどこか処女のような恐れおおさでヴィクターに聞いてみた。
「錬金術で白髪を染める物質を作る方法があれば教えてほしい」
我ながらくだらぬ質問をした、と爆爵はやきもきしたが、しかし周囲の人間に白髪染めの調達
を依頼すれば、不自然に思われるだろう。よって術は自己調達しかない。
なお、このときのヴィクターは上半身のみで巨大なフラスコの中をたゆたっている。
例の再殺部隊の男に切断された下半身はいっこうに平癒の気配を見せず、爆爵は苦肉の
策ながらホムンクルス胎児の培養液を用いている。ゆくゆくはこれをヴィクター専用の修復
フラスコへと改造するつもりではあるが、しかし実現までどれだけかかるか。
例の霊魂のコトも含め、想像もつかぬ課題である。
爆爵の問いにヴィクターはやや面食らったが、しばらくすると答えた。

「ある」

概要を説明していくうちにかれはつい微笑をうかべてしまった。
無理もないだろう。自分の年齢の倍はある男が真剣な羞恥で「白髪染めを錬金術で作れな
いか」と聞いているのだ。
戦団から受けた執拗な追撃や娘(ヴィクトリア)への仕打ちで人間というものに心を鎖しかけ
ていた分、目の前の男性へ限りない親しさと敬愛をおぼえてしまい、それが微笑という形で
出てしまった。
微笑するとこの赤銅色の大男がやけに幼くみえ、「こういう顔もするのか」と爆爵はときめく
思いをした。
余談がすぎた。

57 :永遠の扉:2006/12/16(土) 23:47:20 ID:etnX4uh10
要するにそういう滑稽なやり取りでできあがった白髪染めの塗り方すらまだおぼつかない頃
なのである。
恐らく、戦士(ヴィクターからその単語を聞いて爆爵は使っている)らの熱はまだ冷めやらず
銀成市周辺をうろうろしているだろう。
よって爆爵は迂闊な行動をとりたくない。
実のところヴィクターともども今すぐ山野にかき消えて、人間のしがらみのない場所で友を復
活させる研究だけに没頭したいところだが、突如行方不明になれば周囲が騒ぎ立て、いずれ
戦士の耳に入ってしまう。
だから10年、である。
この間に後の活動拠点を秘密裏に作りつつ、自らの手足となるホムンクルスを静かにかき
集め、表立っては「蝶野爆爵」として衰弱の様相をまわりに見せつつ──…

1915年 9月28日 蝶野爆爵 逝去

くしくもこの日、新撰組三番隊組長・斉藤一が胃潰瘍により死去している。
かれの享年は72というから、爆爵より7つ年上という勘定になる。
ただし爆爵は55歳の段階でホムンクルスとなり、白髪白髭を除けばいっさいの老化を催して
いないから肉体年齢としてはこの後ずっと55歳である。

棺に入っているのは人型ホムンクルスの製法を応用して作ったクローンであり、その周りで
むせぶ連中はやや滑稽でもある。
もっともかれらが豪儀にも著名な寺を貸し切って葬儀を行ったおかげで、蝶野邸の蔵からヴ
ィクターを新たな拠点へうつすのはひどくたやすかった。
出立に際して爆爵はふと手を止めた。
錬金術の研究日誌。
それは13歳の少年だった頃からずっと欠かさずつけてきた。
ヴィクターと出逢う前も。そして出逢ってからのこの10年も。
足掛け半世紀にも渡る研究日誌だ。
爆爵としてはかなりの思い入れがあるが、それを持っていくかどうか。
(どうせここまで上手くやったんだ。多少の気まぐれもいいだろう。後続へのヒントとして残して
おいてやる)
爆爵はヴィクターにも見せたことのない笑みを浮かべた。

58 :永遠の扉:2006/12/16(土) 23:49:38 ID:cYM2lLPx0
蝶野の気質ならばあるいはこの錬金術の一部にしかすぎない日誌から、爆爵と同じ高みに
のぼってくるだろう。
「優」の血が代々薄まっていくという信奉の持ち主の爆爵としては、破格の期待といっていい。
この辺り、普通の人間としての感覚がまだ残っていたらしい。
(もし完成する事があるのなら)
いかなる者だろう。未知の蝶をさがすようなほのかな期待を持ちつつ、爆爵は蝶野邸を去った。

2002年。
爆爵の玄孫が病魔に喘ぎながらその蔵を訪れるが、それはまた別の話……

秘密裏に調達した別荘の地下で、ヴィクターはくすりと笑った。
「爆爵、白髪はもう染めないのか?」
「もう必要ないからね」
それに──と爆爵は蝶を模した見事な髭をなでながら思った。
(こういう佇まいの方が、キミを守るのに相応しい。そしてこの場所にも)
真っ白な髪の毛を揺らしながら、爆爵は薄暗い地下を眺めた。
(どれほど過ごす事になるかは分からない。だが必ず──…)
この瞬間から爆爵はDr.バタフライと名乗ることを決意した。

視点は変わる。

永い閉塞の象徴。遠きより魔を招聘せんとす黒の光景。

「それ」は例え何年かかろうとも忘れ去る事あい叶わず、幾度となく幾度なく光を遮るだろう。
望んでも開かず、血の滴る拳を叩きつけてもビクともせず、悲憤に涙する他ない。

この物語はいずれ、「それ」に縛られ続けてきた2人の男の戦いへ収束する。
1人は早坂秋水。
もう1人は──…

……まだ幼かった頃の早坂姉弟の話へ軸を移す。

59 :スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2006/12/16(土) 23:50:24 ID:cYM2lLPx0
いやはや、司馬遼太郎の文体を意識してみたものの、模写にまでは至らず。
むずかしいですなこういうの。余談だが〜だけだったらばS簡単なのですが。
今回は坂の上の雲ネタから始まり、錬金術うんぬんやら今後の伏線やらをからめつつ、2巻
P37のパピの台詞や3巻P21のバタフライの台詞との整合性もとってみました。
いや〜。本当はヴィクターと出逢った直後にホム化して偽装死するとか思ってたのですが、
爆爵が錬金術を始めたのを13歳に設定して、55歳当時で表向きに死なすと差し引き42年
で「半世紀に渡る研究資料」を遺せないというのに気付いておおわらわ。で、10年追加。
坂の上の〜は坂の上の雲ハードカバー版1巻のあとがきから。文庫だと8巻にあります。
このあとがき、すごく好きなんです。

さいさん
>Will Meet Again
もちろん子供達〜の段階で「もしや」と思ってましたよ! うーむ。それにしても一般人には普通
の対応ができる所がカッコ良くもあり恐ろしくもあり。にしても>>397後半は平野節のリズムが
流れてますね。なんというか低音で合唱したら恐ろしく映えそう。普通にしててもやはり神父w          

すみません。総角は同じ回で分身ネタ晴らししたかったのですが他の描写でついつい分か
れてしまい…… ブレミュは描くのが楽しくて楽しくてw 早く彼らを本格的に戦わせたいです。
そしてヴィクトリアの心理描写は何かと暗くなるかも? 前回1レス目は「こういう反応かな?」と。
オリキャラについてはもうすぐちょっとした物をば。不慣れゆえ二転三転してますが……
ただ、言葉ありきという点は同じで「おお!」と。ですよね。声とか言葉は大事ですよね。
死の河は、30体分身の激戦+シルスキ+ジェノサ+BOGの男爵様なら何とかッ! (無理かも。危ないかも)

>前スレ401さん
変わった感じのトライアングル、これも今後の軸の一つなのですがキャラが多くなってくるに
つれて描ききれるのかという不安も多少…… 困ったコトに嫌いな錬金キャラがいない……
い、癒し系!? 確かに江原さんの「ブラァボー!」はそんな成分ありますが……え、ええ!?

60 :スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2006/12/16(土) 23:51:28 ID:cYM2lLPx0
>前スレ402さん
天然は両刃ですからねw 自分はもうどっぷり浸かっているのでへっちゃらですが、確かに
人によっては抵抗あるのかも。女性受けは千歳や千里、小札といった人の方が良いのかも。
今回は司馬遼太郎もどき、次回は錬金ファンおなじみの欝話と今イチ定まってませんがよければお付き合いを。

>前スレ403さん
これだけ書いてるのに感覚的にはFF7のコルネオの館にもついてなさげで末恐ろしい限りです。
今年中にブレミュとの決着つけようとか思ってたのに…… もうちょっとしたら原作よろしく武
装錬金の勝負をバシバシやりますよ! こうご期待!

>前スレ404さん
自分もです。はぐはぐ食べて汗を流して、トンカツをぶち込んで何杯も何杯もお代わりしたい……

ふら〜りさん
感覚でつかんでながらその正体が分からないという、鈍いんだか鋭いんだか分からない所が
小札っぽいかなぁという結論ですが、気に入って頂けたようで光栄です。で、あと2つほど総角の
良さげな描写もあるのでいずれ。スカートはやっぱ強引にめくるのは良くないですよね。同意を得ないと。

61 :作者の都合により名無しです:2006/12/16(土) 23:58:35 ID:uokudg1k0
スターダストさんは本当に何でも知っているなあ。
尊敬する。小札かわいいw

62 :スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2006/12/17(日) 00:10:49 ID:h6FrE9gm0
忘れてたorz すみません銀杏丸さん

>戦闘神話・幕間〜師と仇と〜
優遇したい気持ちはよく分かりますw 好きなキャラの活躍ってもっと
見たい物ですよね。「美」という点で再構築されたアフロディーテが格好よいです。
>外道も貫けば世の華だ
ですね。確固たる原則を持つ人は好きです。そういう点では海皇も。
エドは彼女にどういう印象を抱くのでしょうか。軍に一人雰囲気の似た人がいましたが……

>>61さん
ありがとうございます。あぁ、でも日露戦争当時はもっと調べた方が良かったかも。
しかし錬金術はこのSSを描くにあたりけっこう調べてます。一応原作からして錬金術モノなので。
それにしても小札は、自分で描いてても可愛いとか思ってしまいます。親バカですねこりゃ。

63 :作者の都合により名無しです:2006/12/17(日) 00:25:53 ID:H2UbcQR+0
お疲れ様ですスターダストさん。
多分、作者の和月先生すら考えてないようなバッグボーンを考えておられますねw
歴史の流れに沿って、趣味に走りまくっているのが好感持てますw

64 :作者の都合により名無しです:2006/12/17(日) 03:48:49 ID:+5uXCeQr0
>銀杏丸さん
幕間劇といえども、本編以上に気合を入れて書いているのがわかる。
アフロディテがお気に入りなんだろうな。確かに「濃い」キャラだけどw
(個人的にはミスティの方が変態度は上で好きなんだけどw)

>スターダストさん
手抜き、本当にしないですねスターダストさんは。よく調べててそれを
作品へ反映させてる。爆爵やビクターの因果の歴史がよくわかります。
まっぴーや小札はのほほんとしてるけどw

65 :作者の都合により名無しです:2006/12/17(日) 12:56:18 ID:0lppoI0q0
スターダスト氏乙。
爆爵の孤独というか孤高、信念というか執念・狂気が染み出してきますな
斉藤って新撰組幹部の中で永倉と並んで長生きしたのは知ってたけど
胃潰瘍で死んだのは知らなかった。
こういう豆知識みたいなのを盛り込んでくれるのはうれしい。

次回は早坂姉弟の話か。
原作の監禁話以外にも、スターダストさんがまた創作してくれるのかな?

66 :永遠の扉:2006/12/17(日) 22:37:37 ID:ldDkAyF80
彼らの世界は、彼らと、その母・早坂真由美の3人が総てだった。
「早坂家」は3人と1DKのアパートが総てだった。
父親は──…
いない。
知らない。
分からない。

当時の遊びで秋水が一番よく覚えているのは、ケッコン式ごっこ。

──健やかなる時も 病める時も
──喜びの時も 悲しみの時も
──富める時も 貧しき時も
──これを愛し これを敬い
──これを慰め これを助け

──死が二人を別つまで

──共に生きることを誓いますか?

これに溌剌と答える桜花の横で秋水が恥ずかしげに答え、2人を満面の笑みの真由美が
両脇に抱きかかえるのが慣習だった。

「外は危ないから、出ちゃダメよ?」

秋水たちはいいつけを守り、終日ずっと、ずーっと家の中で暮らしながら、健やかに育っていた。
秋水は後に述懐する。

──誓いの言葉の意味なんてよく分からなかった。
──ただ姉さんと母さんが楽しそうだったから俺も楽しかった。
──”死”とか”生きる”とか本当によくわからなかった。
──だからその朝、母さんに何が起きたのか、俺は何も分からなかった。


67 :永遠の扉:2006/12/17(日) 22:39:08 ID:ldDkAyF80
そう。
彼は何も分からなかった。

桜花と秋水が3歳を少し過ぎた、梅雨のある日。
彼らの世界に決定的な異変が起こった。
朝起きると、いつも出勤するはずの早坂真由美が布団の中から動かない。
前々からその兆候はあった。
朝早くに出勤して夜遅くに帰宅し、秋水たちの成長と反比例して細くなっていた早坂真由美。
彼女は時折、眠くて体が動かない」とこぼしていた。
幼い秋水たちがそれを額面どおりの意味でしか理解できないのは当然だろう。
母をただのお寝坊さんとしか思わず、目覚めるのを待ち続けた。
目覚めるのを、待ち続けた。
雨音を聞きながら。
どこからか入ってきた2匹のハエの羽音を聞きながら。
どれ位経っただろう。
桜花が空腹を訴え出した。だが秋水にそれを満たす術はない。
仕方なく、彼らはケッコン式ごっこで時間を潰そうとした。
ハエが1匹、早坂真由美の顔の周りを飛び回り、やがて着地した。
彼女はあんぐりと口を開けたまま天井へ虚ろな視線を投げている。
瞳は、汚水のように光をなくしている。
見るべきものが見ればいかなる状態か分かるだろう。
ハエがもう1匹、止まった。更にもう1匹。もう1匹……
一体その部屋のどこからハエたちは入ってきたのだろう。
絶望的なまでに密閉されていたというのに、ハエたちはどこから入ってきたのだろう。
置かれた状況を把握した後、秋水は生死の境をさまよいながらかすかに思った。

羽音は止まない。
雨の滴る艶やかな音をかき消して、秋水たちの周りを飛び続ける。
その中で目覚めぬ母の肌がみるみると血色を失っていく。
色だけではない。
形も、使い古されて湯にふやけた石鹸のようにだらしなく歪んでとろけていく。
黒い粒が部屋の中に充満し、耳障りな羽音が幾重にも鳴り響き始めた頃。

68 :永遠の扉:2006/12/17(日) 22:40:10 ID:ldDkAyF80
ついに早坂真由美は完全に張力を失い、崩れた。髪の束が抜け落ち、枕元にたまった。
異変。秋水は咄嗟に桜花の手を取ると、ハエの群れをつっきり家から出ようと試みた。
「それ」が阻んでいるとも知らず。

「外は危ないから、出ちゃダメよ?」

扉。
「それ」は十数本の鎖と十数個の錠前でがんじ絡めにされていた。開かない。
「それ」を秋水たちは必死に叩いて、助けを求めた。
「それ」の向こうの住民たちに声は届いたが、彼らは耳を貸さない。助けない。

彼らはせせこましい経験則から知っている。
子供を泣き叫ばす親の劣悪なる正体を。
おおよそ社会責務を負うには不適合でありながら、一時の快楽を餓鬼のように求め、その挙
句に、無目的に、子を作る連中は。
いたずらに分不相応なる面目に拘泥し、ひとたびそれが潰されれば滑稽な、しかしそれだけ
に手に負えない屈折した怒りで生活を破壊しに掛かってくる。
そういうリスクをおってまで、子供を助ける理由が何処にある?
日々の生活に追われる者などに道徳はないのだ。
ただその生活を保つ事だけが目的となり、きらびやかな活躍など望むべくもない。

カップラーメン。
菓子パン。
缶詰。
スナック菓子。
惣菜。
缶ジュース。
ペットボトル入りの水。
みかん。
生の大根。
生のにんじん。
生のじゃがいも。

69 :永遠の扉:2006/12/17(日) 22:41:11 ID:ldDkAyF80
以上は桜花と秋水が命をつなぐために飲食していたモノである。
警察がようやく扉をこじ開ける頃には、彼らは衰弱しきっており、1ヶ月の入院を余儀なくされた。

ここで断っておきたい。
けして警察は桜花と秋水を助けるために現われたのではないという事を。
未成年者略取。
警察が早坂家に急行した理由であり、早坂真由美の罪状でもある。
彼女は、まだ乳児だった浮気相手の子供をさらい、自分の子として育てていた。
それが桜花と秋水。
彼らがなりゆき上助けられた後、マスコミのインタビューを受けたアパートの住民はこう答えた。

「いつも静かだったんで、子供がいるとは露とも」

実母は、秋水たちを激しく拒んだ。

「あんな女が三年も育てた子なんて もう私の子供じゃないわよ!!」
「よさないか 子供の前だぞ!」
「なによ 元はと言えばあなたのくだらない浮気が原因じゃない!」
「その話はもう済んだだろうが!」

まだ衰弱癒えぬ彼らの前で怒鳴り散らす「新しいお母さん」を見て。
まだ衰弱癒えぬ彼らを顧みようともしない「男の人」を見て。
助けに答えてくれなかったアパートの住民たちのコトを思い出して。

桜花と秋水は、世界に自分たちの居場所がないのを知った。
深い失意と不信に涙を浮かべる桜花の手を取り、秋水は病院からそっと抜け出した。
満月の下で、行くあてさえ分からず街を歩いた。
彼らの過ごした家(うち)は既になく、外は恐怖のみで助力は願えない。
夜の公園で落ちていたビニールシートを分け合うように羽織りつつ、秋水は桜花に聞いた。

「どこへいこうか?」
「どこでもいいよ。でも」

70 :永遠の扉:2006/12/17(日) 22:42:23 ID:ldDkAyF80

桜花は顔一面に熱をひりつかせ、生命の逼迫を告げる激しい吐息を辛うじて声にした。

「秋クンはいっしょにいてね」

極度の栄養失調は、幼い女児から最低限の抵抗力すら奪っていた。

「姉さん?」

冷えた夜気を浴びただけで高熱を発するほどに。

早坂真由美が「手本」を見せて、かつての飢餓状態で幾度となく覚えた死別の予感。
再来する激しい動揺の中で秋水は手近なガラス片を手にし、たまたま通りかかった1人の老
人を脅した。
果たしてその行為が運命に対し、幸か不幸、いずれの効能で作用したのかは今となっては
分からない。
見事な白スーツをまとい、奇抜な蝶々型のヒゲを蓄えたその彼こそ、かつての蝶野爆爵……
Dr.バタフライだったのだ。
「おかねと! たべものと! おくすりを出せ!!」
「これはこれは。随分と可愛い強盗だね」
おどけた声とともに秋水の背後へ手が伸び、3歳の小さな体をあっけなく持ち上げた。
もがく秋水。
三日月のイラストに目鼻と口と燕尾服の長身を引っ付けたようないでたちの中年男性にそう
される秋水は、奇妙な小動物のようで傍目から見れば滑稽でもある。
桜花の危機に何もできない自身の無力さに息を荒げる秋水。
彼を見たバタフライは薄暗い笑みを浮かべた。
「いい瞳(め)だ。程良く濁り始めている」
彼が見たのは、ドブ川が腐ったような、マグマとヘドロをごっちゃ煮にしたような負の感情。
「ほうら言った通りだろ。月夜の散歩は必ずいいコトがあるんだ」
ムーンフェイス。本名をルナール=ニコラエフというロシア人の台詞にバタフライは頷いた。
「ついて来い小僧。どうせその姿(ナリ)では行くあてもないのだろう」
「いやだ! 姉さんと一緒じゃなきゃ、どこへだって行くもんか!!」

71 :永遠の扉:2006/12/17(日) 22:43:31 ID:EOIVZF630
「構わんよ。なら一緒に連れて来い」
タフライは事もなげに告げると、こう釘を刺した。

「ただしその姉にその瞳(め)が出来なくば、生き延びるのは難しいぞ」

桜花と秋水が、L・X・E(超常選民同盟)と呼ばれるホムンクルスの共同体に所属し、銀成学
園の生徒を食料にしようと画策したのは、その月夜がきっかけだった。

そして秋水は修復フラスコの中で眠るヴィクターを幾度となく見る。
心を鎖していたせいで、何ら関心を払わなかったかれの存在。だが。

その認識はのちに覆り、かれの娘のために秋水は奔走する事となる。
いずれ見(まみ)えるもう1人の男も1世紀前にそうしていたとは知るよしもなく。

回り続ける。
轍で結ばれし輪は断たるる事なく、永劫に。

72 :スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2006/12/17(日) 22:44:30 ID:EOIVZF630
名文、というのをあげるとしたら坂の上の雲のタイトルの由来ですね。
あれだけは何度読んでもじんわりきます。
次は翔ぶが如くを読みたいけれど、なぜかゼロの使い魔を読んでる自分。
けっこう作りこまれている構成はハルヒより好きかも。

さて、原作最大の問題回。
本当は木曜日(アニメでの放映直後)に投下したかったのですが、火曜日同様アク禁に巻き
込まれ今日に伸びた次第。
迂闊にいじると大変なので原作そのままですが、アパートの住民だけは勝手にバックボーン
を作ってます。しかしどうして自分はこういう黒い話を描くときにテンションがあがるのか……

ちょっと寄り道状態ですが、一応後々にはつながる構成です。特に「霊魂」とか。

>銀杏丸さん(補足)
日露戦争についての爆爵の感想ですが、彼の「優を好み劣を嫌う」性格と自分の坂の上の雲
への思い入れをブレンドした結果、ああなりました。あの時代は日本の「青春期」だと思ってます。
「青春」が好きな自分としては、どうも爆爵の思考からでも貶せないようですね。

>>63さん
確かにここまで偏ったのは考えてないかも。しかしそう油断していると/z(小説版第2弾)です
ごいのが炸裂しそうで恐いですw あ、「『蝶野』の本懐ではないか」は燃えよ剣下巻の「大暗
転」で土方が沖田に語る所を意識してます。これも趣味の一つです。ハイ。

>>64さん
いえいえ。日露戦争のあたりはほとんど坂の上の雲経由の知識で……
日露戦争中・後の日本を書いた本さえあればもうちょっと描き込めたので、そこが残念です。
あの時代の「一朶の白い雲のみ見つめる楽天家たち」は大好きです。

>>65さん
爆爵の性格には司馬作品の主人公特有の「一種きちがいじみた部分を持ちつつも、どこか
で尊敬できて学べる萌えキャラ」オーラがあると思ってますので、感じて頂ければ僥倖です。
斉藤一の死因は恥ずかしながらwikiより。赤間倭子女史の小説も読んでみたのですが、どうもしっくりこず……

73 :作者の都合により名無しです:2006/12/17(日) 22:47:40 ID:LEfW3Aoo0
スターダストさんが好調でうれしい。
このあたり、漫画でも黒かったけど文章にするとまた切ないなあ。
欲を言えば原作にスターダストさんの+αをして欲しかったけど、
ここは触っちゃいけない部分かもしれませんね。


全然興味ないかもしれないけど、SS大賞で大賞に入れました!

74 :作者の都合により名無しです:2006/12/17(日) 23:47:11 ID:4ijcX2xt0
スターダスト氏乙です。
いつもの描写方法と少し趣を変えて、淡々とした感じで
早坂姉弟の絶望を書ききってますな。

75 :作者の都合により名無しです:2006/12/18(月) 01:45:51 ID:0DwQTSjg0
なるほど。アニメとリンクさせてるんですか。
錬金のアニメは今のジャンプアニメの中で一番出来がいいですな。
深夜にしておくのは惜しい。
でも深夜だから少しだけ、まひろが色っぽいですがw

76 :ドラえもん のび太と真夜中のバンパイア:2006/12/18(月) 14:26:15 ID:lmdIB2dT0
「この間パパの友達からもらったチケットであのケダムサーカスを見に行ったんだけど
本当にすごかったよ、ピエロ・ボルネーゼ。100人以上に分身してさ。
あれは正に世界レベールだよ。ほら、これがその時の写真さ」
いつもの空き地の土管の上に座り興奮気味に自慢話をするスネ夫は写真を取り出した
そして土管の下でスネ夫の話を聞いていたドラえもん、のび太、ジャイアン、しずかの4人は差し出された写真を見る
確かにその写真には大勢の観客の中心で135体の同じ顔のピエロが玉乗りをしながらお辞儀をする姿があった。
それを見て
「道具なしでこんなことができるなんて・・・。」
「もう人間のできる業じゃないね・・・。」
とドラえもんとのび太
「すごいわ〜・・・私もこんな大勢の前ででバイオリンのコンサートしてみたいわ・・・・。」
「俺もだぜ、しずかちゃん!!」
今の話題とは的外れでそれでいて実現されたら死人が出そうな事を平然と言ってのけるジャイアンとしずか
「もぉ、そんな事は今は関係ないだろ!それでどう?次の公演のチケットがあるんだけど行きたい?」
「「「「行きた〜い!!」」」」
声を揃える一同
「けどのび太は駄目!!ついでにドラえもんも!!」
「「ええ〜?」」
いつものノリではあるが不満の声を上げるのび太、そして予想外のことに驚くドラえもん
「ちょと、のび太君はわかるけど何で僕も駄目なのさ?」
「ドラえもん・・・。君時々素でひどい事言うよね・・・。」
ドラえもんの言葉に落ち込み気味の、のび太
「だってチケットは三枚しかないからね、のび太は確実としてドラえもんには常日頃から散々と痛い目にあってるからね。お返しだい!!」
「そんな勝手すぎる!!大体のび太君をいじめるから悪いんだろう!!いくらのび太君が
愚図で頭悪くてノロマでアホで間抜けで馬鹿で金に汚くて泣き虫でドジでトンマでエッチで丸眼鏡で足短いからっていじめ過ぎだよ!!」
その時ドラえもんのシッポが引っ張られる音ともにドラえもんの機能は停止した。

77 :ドラえもん のび太と真夜中のバンパイア:2006/12/18(月) 14:30:47 ID:lmdIB2dT0
ドラえもんの尻尾を引っ張った事により電源が切れたのだ。
そしてそれをしたのは紛れもないのび太だった。
のび太は顔を真っ赤にして額に青筋を立て全員を見ると
「なんだいなんだい!!みんなして僕を馬鹿にしてスネ夫の言うケダムだか毛むくじゃらか知らないけど僕は絶対それよりすごいサーカスを見てやるもんね」
その言葉に笑いを隠しきれないジャイアンとスネ夫
「「面白い、じゃあ見せてもらおうかドラえもんの力なしで」」
ジャイアンとスネ夫が息ぴったりに同時に言う。それは確実にのび太を馬鹿にした態度だ。
「もぉ・・・やめなさいよ」
影の薄いしずかが制止に入るが今の、のび太に効かない
「ああいいとも、そっちこそ後でほえづらかくなよ!!」
そう言うと電源が切れてただの鉄の塊と化したドラえもんを放置したままのび太は立ち去っていった。

----------数時間後
時刻はすっかり夜、人通りの寂しい小道の電柱についた電灯を頼りにのび太は
つい啖呵を切ってしまったものの135体・・・下手すればさらに多くに分身できるピエロを中心に
個人のレベルが世界レベールの水準を持つ脅威のサーカス団
未来の世界のサーカスなら勝てるかもしれないがドラえもんの力を借りないのを明言してしまった今その手段は使えない。
などと考えていると

ドン

のび太は誰かにぶつかってそのまま倒れてしまった

78 :ドラえもん のび太と真夜中のバンパイア:2006/12/18(月) 14:32:13 ID:lmdIB2dT0
「眼鏡・・・・眼鏡・・・」
と倒れた拍子に落とした眼鏡を落としてしまい地面を叩いたりして眼鏡を探していると
「ぶつかってすまなかった・・・立てるかね?」
という声と共に差し出された眼鏡をのび太は受けとって掛けて見ると目の前の人物を見て絶句していた
背が高い男の人だったが一番驚いたのは目玉のある筈の所は黒い穴がぽっかり空いてるだけだった
それを見て小さく悲鳴を上げたがすぐに見間違いで目玉だということに気づく
そののび太の行動に男は「どうかしたかね?」と尋ねられ
「あ・・そのなんでもありません・・・・。」とまるで先生に怒られるような心境でのび太は答えた。
「ふむそうか・・・。しかしこんな時間に外に出歩くとはなかなか勇気のある少年だな」
「え?」
そこで初めてのび太は今が夜遅くだということに気が付いた
「いけな〜い、早く帰らないとママに怒られる、それじゃあ!!」
と足踏みしながら男から立ち去ろうとするのだ男に呼び止められた
「待ちたまえ」
「なんですか?僕は急いで帰らないといけないんですけど・・・。」
「ぶつかったお詫びといっては何だがね、私が経営しているショーのチケットを貰ってはくれぬかね?」
そう言うと男はチラシ付きのシルク・ド・フリークと書かれたチケットを数枚取り出した。
「いいんですか?」
「ああ、いいとも。友達もいっしょにどうぞ」
そう言ってニッコリと笑う男・・・だがのび太の目には唯怖いとしか思えなかったがショーのチケットをくれたのだ、
悪い人ではないのだろう、そう思って
「わぁ・・・ありがとうございます」
そうお礼を言いながらチケットを受け取るとのび太は急いで家路へと向かっていった
そしてそれを見送った男は
「あれが野比のび太・・・なるほど、面白そうな子だ・・・。」
そう言うと薄ら笑いを浮かべて去っていった
その数十分後のび太は
「のびちゃん!!いつまで遊んでるの!!今日はご飯抜きです!!」
鬼神と化したママにこってり絞られていた。
そして「ドラえもーん!!!」と今だ空き地に放置されているドラえもんに救いを求めたのであった・・・・。

79 :店長 ◆RPURSySmH2 :2006/12/18(月) 14:37:35 ID:lmdIB2dT0
身の程知らずがまたやってきました
そんで持ってなんか始めちゃいました。
まだ野比のび太も完成させてないのに何を書いてるんでしょうか私は・・・。OTL
元ネタはダレン・シャンとドラえもん。
自分はダレン・シャンは小説を参考にしてるので漫画と少し矛盾するかもしれません
ストーリ的には小説のバンパイア・クリスマスから数年後もしダレンとのび太が会っていたらと言う感じです。
まぁ色々と突っ込み所や文章力の無さから読みづらい所やお目汚しは多々ありますがよろしくお願いします

80 :作者の都合により名無しです:2006/12/19(火) 03:16:57 ID:4VDg+2Ac0
80

81 :作者の都合により名無しです:2006/12/19(火) 08:08:35 ID:ibf+m6R00
店長さん乙です!

ダレン・シャンというのは知りませんが、ドラえもん物は大好きなので期待してます。
新連載ですよね?まだ続いてくれるんですよね。楽しみに待ってますよ。

82 :作者の都合により名無しです:2006/12/19(火) 15:59:20 ID:euyWLJY40
第三回SS大賞の結果

・大賞:殺人黙示録カマイタチ(かまいたち氏)
(カマイタチ9票、永遠の扉3票、聖少女風流記2票、超機神大戦1票)
・新人賞:WHEN THE MAN COMES AROUND (さい氏)
(WHEN〜11票、17氏のバーディと導きの神2票、該当なし2票)
・ストーリー賞:聖少女風流記 (ハイデッカ氏)
(聖少女7票、永遠の扉3票、カマイタチ3票、超機神1票、金田一1票)
・ギャグ賞:該当作なし
(該当なし8票、シルバーソウル5票、月の勇者1票、超機神1票)
・バトル賞: 超機神大戦(サマサ氏)
(超機神11票、ブラックキャット2票、やさぐれ獅子2票)
・名シーン賞:超機神対戦(サマサ氏) 最終決戦での全員集合
・中短編賞:強さがものをいう世界 (サナダムシ氏)
(強さが〜13票、サナダムシ氏の短編すべて1票、該当なし1票)

・最優秀キャラクター賞:ジャンヌダルク(聖少女風流記)
(ジャンヌ9票、アスラン(超機神)2票、夕凪(カマイタチ)2票、
 まひろ(永遠の扉)1票、加藤(やさぐれ獅子)1票、千歳(永遠の扉)1票)
・優秀男キャラ:アスラン(超機神)9票 慶次(聖少女)8票 加藤(やさぐれ獅子)8票
・優秀女キャラ:まひろ(永遠の扉)9票 井上(やさぐれ獅子)7票 
          夕凪理沙(カマイタチ)3票  静香(強さが〜)3票

83 :作者の都合により名無しです:2006/12/19(火) 17:23:15 ID:L2UsqJZr0
>店長氏
いや、結構うまいと思いますよ
一部の方を除いて、大抵は書きながら上手くなっていくものだと思います
応援してるのでがんばってください!

84 :作者の都合により名無しです:2006/12/19(火) 20:51:42 ID:8xoi9rmf0
店長氏、ドラえもんの長編はクオリティを要求されるぞ〜w
でも頑張れ。ダレン・シャンってどんな漫画(小説)?

85 :作者の都合により名無しです:2006/12/19(火) 20:55:12 ID:7WeOeKau0
代わりに説明しよう。
とある蜘蛛大好きの少年がある日ヴァンパイアに誘われてサーカスを観に行き、いろいろあって自分もヴァンパイアになってしまうというお話
現在サンデーで漫画版も連載中だそうで。

86 :作者の都合により名無しです:2006/12/19(火) 21:06:31 ID:8xoi9rmf0
サンキュー!

87 :ふら〜り:2006/12/19(火) 21:40:32 ID:Occy0Fe60
>>銀杏丸さん(そういやG財団にもいましたなぁ。アニメ限定ですが科学戦闘隊が)
そうそう。あの期に及んでも仇敵に情けをかけてしまうのが瞬。考えてみれば双魚宮戦
までは、ず〜っと手加減・逆刃刀状態で戦ってたんですよね彼は。本作では原作キャラ
たちが軒並み年長者として威厳を見せてますが、瞬の甘さ・優しさは変わってない?

>>スターダストさん
まだ原作もアニメも未見なので、スターダストさんや他の職人さんの描写から、私の中で
各キャラがデザインされ動いてます。なので今後、例えばまひろと会話する秋水を見る目
が少し変わりそう……彼女が挑む彼の心、これほどまで強固な土台に固められていたとは。

>>店長さん
出会いのシチュ、何となく喪黒福造を彷彿としてしまいました。それはそうと、のっけから
ドラの力を借りない宣言してしまって、そうでなくても本作のドラは性格が黒そうで、しかも
>>85さんによると相手はヴァンパイア? かなり先行き不安なのび太、どうなりますやら。 


88 :ドラえもん のび太と真夜中のバンパイア:2006/12/20(水) 01:33:31 ID:2hdQOIuX0
「「「「シルク・ド・フリーク?」」」」
空き地に集められたドラえもん、ジャイアン、スネ夫、しずか、は声を揃えて不思議そうな声を出しながらのび太を見つめていた
「ああ、そうさ、これが昨日言ったケダムサーカスより凄いショーさ!!」
自信満々に言い放つのび太だが
「嘘くせぇ・・・・。」
これが四人の正直な反応だった
「だいたいそんなサーカス聞いた事も無い!そんなのがあのケダムサーカスより上だとは思えないね」
とスネ夫、
「そうだ!!だいたいそんな凄いサーカスならチケット代だって馬鹿にならない筈なのに貧乏なのび太が買えるわけがねぇ」
とジャイアン
二人とも意見とはしては正論だ、元々口先が旨いとは言えないのび太は押されていくが
「とにかく見ないと分からないじゃないか!!凄くなかったら手の平からパンを食べてやる!!」
どこのホムンクルスだと言いたくなるような発言をするのび太に
「おもしろい、みてやりましょ。」「どうせ無駄だろうけどな。」
と馬鹿にしながら空き地を去っていくジャイアンとスネ夫の背中に
「今日の夜10時に空き地に集合だぞ!!逃げるなよ〜!!」
自信と余裕、それに少しの不安が混じった顔で二人を見送ったのび太だった

89 :ドラえもん のび太と真夜中のバンパイア:2006/12/20(水) 01:36:05 ID:2hdQOIuX0
「けどあんな約束しても大丈夫なのかい?パンを手の平で食べるなんて、本当に君の発想は奇想天外というべきか、単純に馬鹿というべきか・・・・。」
とドラえもん、昨日空き地に放置せいか少々不機嫌な様子だ。
「そうよのび太さん、武装錬金の人型ホムンクルスが人間を食べるのとはわけが違うのよ」
しずかは今まで影が薄かったのを払拭しようとネタ的な事を言いつつのび太の事を心配しているようだった。
「大丈夫だよ!!」
「ほんとに?」
「たぶん・・・・。」
ドラえもんの問いに段々と自信をなくすのび太だったがそこであることに気が付いた
「しずかちゃん、その顔の傷どうしたの?」
「え?」
いきなり話を振られて驚きながらもしずかが顔を触ると確かに引っかいたような小さなひっかき傷が左頬に三つほど出来ていた
「なにかしら・・・。きっと寝ているときに自分でひっかいたんだと思うんだけど・・・・。」
「な〜んだ、しずかちゃんも意外とドジなんだな〜、」
そう言いながら笑うのび太
「もうのび太さんたらっ!!」
笑われたことに少々不満の声を出すが勿論本気ではない、これも彼らの日常なのだ。
「兎に角、僕の勘だけど今回は大丈夫な予感がするんだ!!」
と、いつに無く自信満々なのび太に二人は半信半疑ではあるがのび太を信じてみよう。そう思ったのだった。


90 :ドラえもん のび太と真夜中のバンパイア:2006/12/20(水) 01:38:49 ID:2hdQOIuX0
場所は変わって夕方ののび太達が通う学校の近くの裏山の少し開けた場所に
のび太が腕でパンを食べるかの命運を決めるシルク・ド・フリークのトレーラーやらテントやらが並べられていた
その中でも一際目立つ銀色の細長いトレーラーの中で二人の男が喋っていた
「ハイバーバニアス!!なぜ日本に来たのかいい加減目的を教えてもらえないのか?」
一人目はオレンジの髪に頬に傷のある男だった。
「ラーテン・・・私達旅芸人はどんな所にでも行って商売するのが仕事だ・・・ちがうかね?」
ハイバーニアスと呼ばれた男は身長が高く目玉がいように黒い・・・・そうのび太にチケットを渡した男だ
「我が輩が聞きたい事はそんな事じゃないことぐらい知っているだろう、これにミスター・タイニーが関っている!!
つまりこの日本に来たのは仕事以外にも何か理由があるのだろう?しかも我が輩やダレンにも関係があることだ!!」
「ラーテン、君はそんな声を荒げるような人物ではないだろう?」
ラーテンと呼ばれた男は興奮気味に話していたがどうやら落ち着きを取り戻したらしい。
「すまない、ハイバーニアス、その態度の時には必ず何かあった時だけだったな・・・・。」
「ラーテン・・・。此方こそすまない。だが真実はもう少しで明かそう、そのときには私は君に頼み事をしなければならない・・・。」
「ふん・・・。友の頼みは断れぬわ・・・。」
こうして日は沈んでいく・・・・。
そして数時間後廃墟の中でショーは開催されるのだ。

91 :店長 ◆RPURSySmH2 :2006/12/20(水) 01:40:20 ID:2hdQOIuX0
調子に乗って第2話的な感じでできましたが前回より短かったですかね?
とりあえずラーテンとハイバーニアスに違和感あってしかたありませんOTL
さてダレン・シャン主人公のはずのダレンは今だ登場しませんがいつ登場になるんですかね・・・・。
自分にもよく分かりませんがもう少ししたら登場する予定です。
ついでに気分が乗ってたら違う作品のキャラも出すかもしれません
後ドラえもんの声優の水田わさびさん、武装錬金のエンゼル御前の声をやっているのを知ったときに
水田わさびさんのドラえもんも悪くないなと思ったのは私以外にもいると信じたいです

92 :店長 ◆RPURSySmH2 :2006/12/20(水) 01:42:35 ID:2hdQOIuX0
>>81
一応新連載風味です。
ダレン・シャンは興味がある時にでも見てください

>>83
ありがとうございます。
お世辞だとしても嬉しいです。
日々精進できるようがんばります

>>84
すごく・・・重いです・・・。(プレッシャーが)
でもがんばります

>>85
説明ありがとうございました

>>ふら〜りさん
喪黒福造?
言われてみれば確かに似たような感じが・・・。
特に意識した感じではなかったんですがね・・・。
とりあえずSSのドラえもんの最初は黒い気がするので
まぁ・・・ドラえもんならではの無茶なノリで何とか突破できそうな気はします

93 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2006/12/20(水) 02:04:15 ID:keG/Vo+x0
火渡は口にくわえていた煙草の残骸をプッと床に吐き捨てた。
そしてギラつく眼でサムナーを睨みつける。まるで彼自身の能力を象徴するかのような、
怒りに燃える眼で。
「何だ? その眼は……。貴様、どうやら“上官不敬罪”で銃殺刑に処されたいようだな」
サムナーはゆっくりと立ち上がった。心持ち腕を浮かせ前傾姿勢になっている。
彼の周囲でモーター音に似た音や、ブンッと風を切る音が響いている。
その音の正体は何一つ見えないが、何らかの攻撃態勢に入っているのは確かだ。
それに呼応するかのように火渡もまた立ち上がる。
「ならテメエは“俺様不敬罪”で火あぶりの刑だな」
火渡の周囲の温度が一気に上昇していく。既に肩の付近からは炎が闘気の如く立ち昇っていた。
「あちち! あ、熱いよ火渡君!」
彼の隣に座る千歳はまともに炎に晒され、その身を炙られた。半ベソで悲鳴を上げるのも当然だ。
「いい加減にしねえか!」
千歳の泣き顔を眼にしたウィンストンが、初めて怒鳴り声を上げた。
「火渡! その闘志は北アイルランドに行くまで取っておけ。お前もだ、マシュー!
さっさと『インヴィジブルサン』を仕舞え」
立ち上がったままの二人の戦士は目線だけを彼らの長に向ける。
顔は笑っているが不思議な事に袖口や襟元、それに口の端から細い煙が洩れ出ている。
その光景を眼にした全員のうち、サムナーだけが僅かに眼の色を変えた。
「喧嘩がしてえんなら任務が完了してから好きなだけやれや。ま、そん時は俺も交ざるけどよ……」
ウィンストンは笑い顔のまま、冗談めかしてサムナーと火渡に告げる。
「フン……」
「チッ……」
両者は不承不承、席に着いた。

「続きだ、マシュー」
「……わかりました。」
ウィンストンに促され、サムナーは苦い顔をしながらブリーフケースの中を探る。
「テロリスト共の他にもう一つ教えておくべき情報がある。――コレだ」
テーブルの上にバサリとA4サイズのファイルを置いた。ファイルには“Special secret(特秘)”
と押印されている。

94 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2006/12/20(水) 02:04:45 ID:keG/Vo+x0
「今回の件にはこのヨーロッパに存在するある組織も絡んでいる……。カトリック、法皇庁(ヴァチカン)だ」
「!?」
防人達、三人の脳裏に坂口照星が出発前に言い渡した言葉が鮮やかに蘇る。

『カトリックには、それも法皇庁(ヴァチカン)には充分に注意しなさい』

坂口戦士長の危惧していた事が現実のものとなっている。
あの時、戦士長は何と言っていたか。
ヴァチカン……。抗争……。実戦部隊……。衰退……。
防人と千歳はゴクリと喉を鳴らし、サムナーの語る内容に聞き入ろうとする。
火渡だけは顔色も変えず、鋭い眼つきでサムナーを睨んでいたが。
「そして実際に動いているのは……ヴァチカン特務局第13課“イスカリオテ”」
「イスカリオテ……?」
聞き慣れないようで、どこかで聞いた事のあるその固有名詞を、防人はオウム返しに呟く。
「そうだ。カトリックの絶滅機関、ヴァチカンの非公式特務実行部隊だ……」
サムナーはファイルを開き、それに眼を落としながら、やや声のトーンを下げつつ語りだした。
「ヴァチカンの持つ唯一にして最強の戦力。『イスカリオテ(ユダ)』の名を持つ存在しないはずの第13課。
悪魔退治(エクソシズム)、異教弾圧、異端殲滅のプロフェッショナル達。
我々、欧州方面各支部……いや、“錬金戦団”の仇敵だ」
“仇敵”という言葉に防人は反応する。
「坂口戦士長に聞きました。長年の間、戦団と抗争を続けている、と……」
「フン、どうやら少しは聞きかじっているらしいな。まあ、その通りだ」
私が話している最中は口を挟むな。我慢のならん連中め。
話の腰を折られそうになったせいか、サムナーは嫌味混じりの言葉を防人に返す。
「そして、これは私の調査でわかった事だが……」
サムナーはジュリアンを睨む。その眼は饒舌に物語っていた。
“無能な貴様ではわからなかった事だ。自分の仕事ぶりを恥じろ”と。
ジュリアンはその視線に耐え切れず、下を向いてしまう。
「今回の件に派遣された兵力は、たった一人だ」

95 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2006/12/20(水) 02:05:23 ID:keG/Vo+x0
「なんだよ、そりゃあ。戦団を舐めてんのか?」
怒りと可笑しさが半々に入り混じり、火渡は思わず声を上げる。
サムナーは額に手を当て、顔を伏せてしまった。
何故、このクソガキ共は、黙って、人の話を、聞いていられないんだ。
サムナーは顔を上げると、始めは搾り出すように、やがて堰を切ったように怒鳴り声を上げた。
「……少しは黙っていられんのか? いきがるしか能の無い若造がッ!」
火渡も顔を斜に構え、巻き舌で怒鳴り返す。
「ああ? やんのか、コラァ!」

その時、「ドン!」という凄まじい音がサムナーや火渡らの耳を劈いた。
彼らが音のした方へ眼を遣ると、ウィンストンが拳をテーブルに叩きつけていた。
オーク材で出来た頑丈なテーブルの脚がギシリと悲鳴を上げる。
ウィンストンの表情は怒りとも驚きとも悲しみとも付かない表情に歪められていた。
眉間に皺を寄せ、口を硬く真一文字に結び、テーブルの上にある自身の拳をきつく睨んでいる。
「……」
室内にいる全員が言葉を失う中、ウィンストンはかすれ気味の声でサムナーに尋ねた。
「マシュー……。その“たった一人”ってなァ、まさかアイツか……?」
「はい……。派遣兵力は唯一人、“聖堂騎士(パラディン)”アレクサンド・アンデルセン神父です」
ウィンストンはフゥー、と大きく溜息を吐くと、防人・千歳・火渡らの顔をチラリと覗き、
また眼を伏せた。
「“あの”アンデルセン神父と戦り合うのだけは避けてェ……。何とかならねえか、マシュー」
「鋭意、努力はしてみますが……。何ともお優しい事ですな」
サムナーはウィンストンの発言の意図に気づくと、慇懃無礼に上官である彼を皮肉った。
防人の脳中は疑問に溢れていた。
この能天気かつ豪放磊落で、しかも欧州では(おそらくは)最強の戦士という座に着く大戦士長を、
こんな表情に変えてしまう“アンデルセン神父”とは何者かと。
「サ、サムナー戦士長……。そのアンデルセン神父という人物は一体……?」
自分達が口を開くだけで激怒する、この気難し屋の戦士長に向かって、防人は慎重に疑問を投げ掛けた。

96 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2006/12/20(水) 02:06:03 ID:keG/Vo+x0
サムナーは特に機嫌を損ねることもなく、説明を再開し始めた。
「アレクサンド・アンデルセン神父。
“聖堂騎士”アンデルセン、“殺し屋”アンデルセン、“銃剣(バヨネット)”アンデルセン、
“首斬判事”アンデルセン、“天使の塵(エンジェルダスト)”アンデルセン。
出身・人種・年齢、すべてが不明。わかっているのはこの数々のアダ名の他一つだけ、
奴が化物専門の戦闘屋であるという事だけだ。奴は第13課の誇る、対“化物”の切り札だ」
「対、化物……?」
「吸血鬼(ヴァンパイア)、人狼(ウェアウルフ)、人造人間(フランケンシュタイン)、下位魔族(デーモン)、悪霊(ゴースト)、喰屍鬼(グール)……。
いわゆる“アンチ・キリスト”の化物共の事だ。その中にはホムンクルスも含まれている」
防人ら三人はポカンと口を開けている。
「きゅ、吸血鬼って……」
にわかには信じがたい話だ。まるでホラー映画やおとぎ話に出てくるような化物の名がスラスラと
サムナーの口から語られる。
だが、防人はあえて半信半疑の言葉は口にしなかった。またサムナーの機嫌を損ねて
ややこしい事になっても困る。
だから火渡、頼むから黙っていてくれ。
第一、ホムンクルスや自分達錬金の戦士の存在だって、一般人から見れば充分オカルトだ。
サムナーの説明は続く。
「奴が狩り獲った化物は数知れん。それに、化物だけではない。カトリックが異教・異端と判断した者もだ。
イスラム教徒、ヴァチカンを脅かすテロリスト、新興宗教団体、悪魔崇拝者、それに……錬金術師」
「錬金術師……? まさか……」
嫌な予感がする。それはありうべからざる事だ。そんな筈が無い。
「そのまさかだ。過去、数名の錬金の戦士達がこの“神父”に殺されている」
「そんな……! 核鉄を持たない普通の人間が、錬金の戦士を!?」
現代科学を遥かに凌ぐ超常の兵器を持つ戦士が、ただの人間に? ただの神父に?
防人はまるで今まで自分が生きてきた世界が崩壊するかのようなショックを受けた。
控えめに見ても致命的に大きなヒビくらいは充分に入ったショックだ。
「奴の戦闘能力は人間どころか化物すらも凌駕している。化物を超えた化物といったところか……。
それに――」
サムナーは急に口元に手を当て、言葉を濁してしまった。

97 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2006/12/20(水) 02:10:29 ID:keG/Vo+x0
防人らが訝しげな眼を向ける。ウィンストンも。
「いや、なんでもない……。奴と対峙した者は必ず殺されている。それだけに詳細な資料も
作成する事が出来んのだ」
「ヘッ、面白え! ならこの俺がそのクソ神父をブチ殺してやるぜ! 俺の五千百度の炎に
焼き尽くせねえものは無えんだ。殺られた錬金の戦士達の仇は俺が取る……!」
ウズウズと身体を震わせていた火渡が堪えきれずに猛る思いを吐き出す。
やはりこの男に“強敵”という言葉を聞かせても、それは戦いへの燃料以外にはなりえないのだろう。
しかし、息巻く火渡を嘲笑うかのようにサムナーは呟く。室内にいる全員の耳に飛び込む程の音量で。
「若さ故の勇敢さを褒むべきか、無知故の愚かさを嘆くべきか……」
「んだとォ!?」
またもや立ち上がりかける火渡の肩を、防人が掴み必死に制止する。
おかげで間に挟まれた千歳は「ひええ」と前のめりになってしまう。まったく涙が乾く暇も無い。
「いい加減にしろ、火渡! 俺達はチームだ。確かにお前の力が凄い事は認める。
けど、俺達全員が足並みを揃えずチームがバラバラなってしまったら、勝てるものも勝てなくなるんだぞ!
俺はもう、“あの時”みたいな失敗は繰り返したくない……」
火渡の心に“あの時”の光景がフラッシュバックのように浮かんでは消える。
土砂に埋もれた小学校。千歳の涙。瓦礫をかきわける防人。そして、雨に吼える自分。
「クソッ……」
火渡は憮然として座り込んだ。
サムナーはニヤニヤと笑っている。彼にとっては防人らの心情など“夜中の三時のクソ”と
いったところなのだろう。
「ほう、日本の錬金の戦士にもまともなのがいるじゃないか。だが、防人君――」
「俺の名はキャプテン・ブラボーです。資料にもそう書いてあった筈ですが」
毅然と言い放つ防人に、サムナーは軽い苛立ちを覚える。
一体にこの男は自分の話を邪魔される事が何よりも嫌いなのだ。
「そんなものはどっちでもいい! ――いいか、君は二つ程間違っている。
一つは、君は『俺達はチームだ』と言ったが、私をそこから外してもらおうか。
本来、この任務は私一人のものだったのだ。君達は私の命令通りに動いていればそれでいい。
それともう一つは、君達がどんなチームワークを発揮しようが『勝てないものは勝てない』。
“あの時”がどの時かは知らんが、失敗とやらを繰り返すのが関の山だ」

98 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2006/12/20(水) 02:12:46 ID:keG/Vo+x0
自分達の心の傷を土足で踏み躙る発言に、防人でさえも抑えの利かない怒りが込み上げてきた。
火渡は既に炎で髪が逆立ち、犬歯を見せながらギリギリと歯軋りしている。
千歳すらも下唇を噛み、涙を滂沱してサムナーを睨んでいる。
防人は砕けんばかりに強く奥歯を噛み締め、何とか意味を成す言葉を発した。
「それは、どういう意味、ですか……」
サムナーはソファにもたれ掛かり、優雅に脚を組んで答えた。
「小汚い島国からノコノコやって来た御上りさんご一行にあの神父が倒せるようなら、
欧州方面各支部の誰かがとっくの昔に倒しているという事だ。
アンデルセン神父はこの私が殺す……! わかったか、ジャップ!」
「この……!」
火渡は勢いよく立ち上がり、サムナーに飛び掛かろうとした。
千歳は止めようとしない。ウィンストンも動かない。
が、防人は素早く立ち上がり、腕を伸ばして火渡を制した。
腕の中で暴れる火渡を、防人は渾身の力を込めて押し止める。
何故、止めたのか自分でもわからない。出来る事なら自分も一緒に飛び掛かりたいくらいだ。
しかし、ふと頭の片隅に、瓦礫の下から救い出したあの少女の顔が思い浮かんだのだ。
ただ、それだけだった。それだけが自分を止め、火渡を止めさせた。
大戦士長執務室は粘度の高い液体で満たされたかのように、重苦しい雰囲気に包まれていた。



――北アイルランド アーマー州 アイルランド共和国との国境付近

北アイルランドとアイルランド共和国を繋ぐさほど大きくもない道路の脇に、一人の神父が立っていた。
南の方角を見つめながら、薄笑いを浮かべている。
おそらく彼の眼には遥か遠くに望む英国が映っているのだろう。
やがて、立ち尽くす神父の懐で携帯電話が単調な呼び出し音を鳴らし始めた。

99 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2006/12/20(水) 02:13:52 ID:keG/Vo+x0
「私だ」
『アンデルセン神父、第2課“ヨハネ”機関員及び第13課“イスカリオテ”武装神父隊の
配置が完了しました。これで国境を通過するすべての道路は我々の監視下です』
「ご苦労。渡しておいた写真のエージェントが現れたら追跡を開始し、すぐに私に知らせろ」
『了解』
「それと……そのエージェントには錬金の戦士が同行している。いや、錬金の戦士にエージェントが
同行していると言うべきか……。ともかく奴らを発見しても絶対に手を出すな。
私が到着するまでは追跡・監視に止めておけ」
『了解』
「奴らを殺すのはこの私だ。奴らを殺せるのはこの私だけだ……」
『は、はい……』

通話の終わった携帯電話を懐に仕舞うと、“神父”アレクサンド・アンデルセンは
その厚く大きな掌で顔を覆った。
指の間からは至上の喜びに細められた眼が覗く。
もうすぐなのだろう。もうすぐだ。あと少しだ。ああ、だが……

“我慢が出来ない”

「さァ……。早く、早く来るんだ、錬金戦団。早く、今すぐに。貴様ら異端者に背信者共々、
我が神罰の味をとくと噛み締めさせてやる。ククククク……」





お久し振りです。いろいろありまして間が空いてしまいました。
今回も錬金サイドは会議でした。会議、嫌い。
次回、北アイルランドへ出撃の巻。
やっと、やっと神父に“あのセリフ”を言わせる瞬間が近づいてきた……。

100 :さい ◆Tt.7EwEi.. :2006/12/20(水) 02:15:06 ID:keG/Vo+x0
前スレ401さん
やはり狂った事をツラッと普通に言ってこその神父ですな。
番外編は私も味を占めちゃったんで色々書いて見たいとは思います。

前スレ402さん
>幕間劇の何気ない偶然が後に・・
ものすごい後になると思います。七年後とか。

前スレ403さん
いやいや私の短編は“短いだけ”ですんで。
この神父はどこまで普通にしていいのか悩みました。

ふら〜りさん
原作では戦ってばかり、狂ってばかりの神父なので勝手に日常の姿を想像して、こんな感じに
仕上げちゃいました。そして外伝は後付けしてナンボというマジテキトーな私w

ハシさん
神父ファンのハシさんに喜んで頂けて光栄の極みです!
今後も神父をカッコ良く書けるよう努力しますね。
あと私の方も眼鏡っ子リップヴァーンの活躍を楽しみにしてますよ。
やはりHELLSINGキャラが出演する作品は読んでて嬉し楽しい!

>スターダストさん
どうもお世話になっておりますw
アクセス規制、嫌ですよね。私も巻き込まれてたとこです。
>永遠の扉
来ましたね、ある種スターダストさんの真骨頂とも言える爆爵篇。
司馬遼太郎ライクな文体で語られる爆爵の過去ですが、本当によく出来てますよ。
彼の思考や志をここまで精密に描き切ると同時に、キチンと史実の日本が背景にある辺りは
真似出来ませんわ。少なくとも私は無理ですw

101 :作者の都合により名無しです:2006/12/20(水) 07:57:25 ID:etjb4ew10
さいさんお疲れ様です!(新人賞おめ)
アンデルセン神父の恐れられっぷりが最高だ
こんなの敵に回したらやってられませんね。味方でもいやだけど。
火渡と神父との化学反応が今から楽しみ。

102 :作者の都合により名無しです:2006/12/20(水) 13:43:15 ID:520R2UOz0
>店長氏
サーカスというとからくりの真夜中のサーカスを思い出す
まだ序盤だけど、いよいよ何かが動き出そうとしているね
今回は短かったけど、次回は物語の本当のスタートになりそうだ

>さい氏
やはりアンデルセンは名高いのか。悪名だと思うけど・・
キレキャラが全員見事にキレてますね。一番キレるのは神父だろうけどw
あと、新人賞おめでとう。日曜は仕事の都合で投票できなかったけど
やはり俺もあなたに投票してたと思う。

103 :作者の都合により名無しです:2006/12/20(水) 14:22:52 ID:97Wot44k0
遂に日本の文化遺産を破壊し始めた韓国人
日本人の尊厳を傷つける行為は決して許されない
マスゴミはスルーする可能性があるのでしっかり目に焼き付けて置くように

【社会】 「神社を潰す」 宮司を強迫し、神社乗っ取り。韓国人3人が新役員になり鳥居も撤去→神社本庁が刑事告発…京都★13
http://news19.2ch.net/test/read.cgi/newsplus/1166587409/

104 :作者の都合により名無しです:2006/12/20(水) 18:13:32 ID:42h9Rqnn0
店長さんも結構うまいね
日常から、異世界への少しずつの移行が上手くいきそうだ。

さいさんはもうすっかりバキスレの大黒柱の一人ですな
ちょっとイッテるキャラの活用がうまい。
さすがご自分のサイトで鍛えているだけありますな

105 :作者の都合により名無しです:2006/12/21(木) 08:14:43 ID:2KdQmQdj0
年末だから少しペースが落ちてるか。
バレさんがマジで心配。お元気ならいいが

106 :作者の都合により名無しです:2006/12/21(木) 12:11:02 ID:58JSiaVR0
店長さん最初うみにんさんかと思った

107 :作者の都合により名無しです:2006/12/21(木) 15:36:12 ID:eL8e21pJ0
うみにんさんのサイトは酷い事になってるな・・
VSさんのもだが。

さいさんのサイトは、違う意味でひどいわw
いや面白いけど、手コキだのなんだのw

108 :作者の都合により名無しです:2006/12/21(木) 22:28:53 ID:T37CtbVx0
バレさんは本当にご病気とかじゃないだろうか
黙って長期更新停止するような方ではないし
海外出張中とかならいいんだが、心配。

109 :ふら〜り:2006/12/21(木) 23:04:47 ID:2R8xgfIo0
>>さいさん
いい具合にアヤしさが漂ってきました。今はまだ、誰が敵で誰が味方かすらもはっきり
しないので先を予想するのも楽しみ。のび太は意図的に狙われたみたいだけどそれは
なぜか。そもそも狙われたのか見込まれたのか、そういや友達もとか言ってたし。さて?

>>店長さん
あ〜あ〜。相手が「あの」神父だってのに、仲間割れしてる場合じゃないでしょがと。強い
敵組織の幹部たちの内紛のおかげで、ヒーローが辛うじて勝つのもパターンで……って、
また神父に主人公属性がっ。ゴルゴ風に名前が轟いてる彼、ほんと本作のメインですね。

110 :作者の都合により名無しです:2006/12/21(木) 23:16:12 ID:XS9WA9UN0
逆ー逆ー

111 :ふら〜り:2006/12/22(金) 06:24:40 ID:E2IReWex0
>>110
ぅわ確かに! 失礼しました店長さん&さいさんっっっっ!
あと、ご指摘ありがとうございました>>110さん。何やってんだ私……

112 :作者の都合により名無しです:2006/12/22(金) 08:14:10 ID:IQnuSrLQ0
感想職人らしくないミスですなw
2週間前の神ラッシュが嘘のようだ
年末だから仕方ないか

サナダムシさん、また新作書いてくれないかな

113 :ドラえもん のび太と真夜中のバンパイア:2006/12/23(土) 06:24:17 ID:ZKjbDPd60
近所で『お化け屋敷』または『吸血鬼の館』更には一部の少年の間で『雷帝、神成さんゾンビバージョンが百体が竹刀振り回して襲ってくる館』
などと色々な根も葉もない馬鹿らしい異名で恐れられている町外れの潰れて今は廃墟と化した劇場
立地条件が悪く人の往来が少なく更に縁起の悪いところだったらしくすぐ潰れた場所であった
それがシルク・ド・フリークの今回のショーの舞台だ。

ここで話は離れるが実はシルク・ド・フリークは違法の団体である。
のび太達一行は普通のサーカス団と勘違いしているが実際は『フリークショー』なのだ。
『昔、欲張りな詐欺師が異形の人達・・つまり見た目が普通と違い手が三本あったり鼻が二つあったり、背が物凄く高かったり低かったり
そういう人達を詐欺師は見世物にして、フリークと呼び見た目以外は人と変わらないものを客を呼んで見物料を取り
笑いの種にして変人呼ばわりして獣のように扱いただ同然で働かせて殴りつけボロボロの吹くばかり着せて風呂にも入れない。
フリークショーは残酷でぞっとする見世物でまともなサーカスのフリをする悪者だらけの汚いところである。』
                               ダレン・シャン、奇怪なサーカス ドノバン先生談(一部編集アリ)
フリークショーに関する一般人の認識はこんな感じであろうか。
しかしシルク・ド・フリークが上記の様な集団なのかはこれから呼んでいけばわかるだろう。
という訳で話は逸れたが元に戻します


114 :ドラえもん のび太と真夜中のバンパイア:2006/12/23(土) 06:26:43 ID:ZKjbDPd60
開演は夜の11時から、のび太達が空き地に集合して映画館の廃墟に到着したのはその十分程前だ
「作者め・・・。いきなり手抜きしてやがる・・・。小説の文章をほとんどそのまま書き写しやがった・・・。」
「まぁ仕方ないね・・・。作者馬鹿だもん・・・。」
と本当に呆れていたドラえもんとのび太にスネ夫が話しかけた。
「のび太・・・。こんな所に本当にショーなんてやっているのか・・・?」
「なんだ、なさけねぇなスネ夫は、こんなのが怖いのかよ。」
色々と恐れられている所だ。内心は不安がありながらも外見は見せず不安そうなスネ夫に渇を入れるジャイアン
「う・・・うん、チラシにもそう書いてあるし・・・。」
不安そうにチラシを見るのび太
その時救世主が現れた。
「やぁ、来てくれたようだね・・・。」
背の高く赤いシルクハットを頭にかぶり手袋をしている目玉が常人より黒い男、そう、のび太にチケットを渡した張本人が現れた。
「あ、はい!!友達も連れてきました。」
男はのび太達の顔をジロジロと見ると
「私はミスター・トール。シルク・ド・フリークのオーナーだ」
ミスター・トールの自己紹介に自分達も自己紹介をしようとする一同の声をミスター・トールは遮った
「ふむ・・・実は子供はお断りなのだが君達は勇気がありそうだ。よし、許可しよう」
その後もミスター・トールと名乗る男は物事を強引に進めていた。
のび太達に話す機会など与えない
「ではチケットを拝見」
「あの〜・・・。」
「早くしないとショーが始まる。それとも見なくていいのかね?」
そう言いながら手を伸ばすので仕方なくドラえもん達一行はチケットを渡すと
五枚同時に口の中に放り込み粉々に噛み千切ってゴクリと飲み込んでしまった。


115 :ドラえもん のび太と真夜中のバンパイア:2006/12/23(土) 06:27:27 ID:ZKjbDPd60
それを見て唖然としているドラえもん達にミスター・トールは
「もうそろそろショーの時間だ。早く行った方がいい・・・。後、中は満員だから静かにしたまえ・・・。」
そう言うと映画館の廃墟の中へ消えていった。
「少し変だけど・・・・怖そうな人だったわ・・・。」
「とりあえず中へ入ろう!!」
躊躇気味のしずかを元気付けるような形でのび太は真っ先に映画館の廃墟の中に入った。
「のび太君成長したね〜・・・。このこの!!」
ニヤニヤしながらのび太の隣を歩くドラえもん。
そしてそれに続くように残りの三人も中に入るのだった。
廃墟の中は薄暗くて座席には人が座っていて満席状態だった。
勿論子供などのび太達しかいないので気づいた観客達は少々珍しい目で見ていた
そしてそんな視線を気にする事無く
「わぁ〜・・・。」
「人が沢山いるわね〜・・・。」
と驚く五人だったが「静かにしたほうがいい」と言うミスター・トールの言葉を思い出すとそのまま奇跡的に空いていた前の方の席に座った。
その並び順は右からドラえもん、のび太、しずか、ジャイアン、スネ夫といった感じである。
そして電気系統をいじったのだろうか、本来は廃墟で電気など付くはずも無いの舞台の上を照らした。
そこに居たのは人間と狼を組み合わせたような、簡単に言えば狼人間だった。
興奮した狼人間は暴れ襲われるんじゃないかと思った観客は悲鳴を観客達は上げるがそれは心配なかった
なぜなら檻の中に入っていたからだ。そして檻の中の狼男が暴れまくり落ち着いた頃にミスター・トールが現れた。
「日本のみなさん初めまして。」
低くしわがれた声なのにきちんと聞き取れる

116 :ドラえもん のび太と真夜中のバンパイア:2006/12/23(土) 06:28:05 ID:ZKjbDPd60
「世界一珍しい人間の巣窟、シルク・ドフリークへようこそ。わたくしどもは、歴史あるサーカスです。
かれこれ五百年巡業し、異常の人々を代々お見せしてまいりました。
顔ぶれはめまぐるしく変わりますがサーカスの目的は一度として変わりません。
そう、みなさんを驚かせ、怖がらせることなのです!身の毛もよだつ奇怪なものばかり、
たっぷりお見せいたしましょう。世界広しと言えどここでしか見られないものばかりです。」
ここでミスター・トールは釘をさした
「気の弱いお客様は、どうか今すぐお引取り願います。皆さんの中にはきっと、おふざけだろうと高をくくっていらした方が多いでしょう
フリークといっても仮面をかぶった人間か害の無い変人の類だろうと。」
ここでミスター・トールは強調させるように音量を上げた
「いいですか。それはちがいます!!今晩お見せするフリークはすべて正真正銘の本物です。
全員この世に二人と居ないフリークばかり。人畜無害なフリークなど一人も居ないのです。」
そう言えばお辞儀をしてショーは開演となった。
ドラえもん一行は混乱していた
「どういうことだ、のび太?これはサーカスじゃなかったのかよ!!」
怒り気味で話すジャイアンを
「まぁまぁとりあえず見てみようよ」
とドラえもんはなだめていた。
そしてショーでは檻の中に入れられた狼人間、ミスター・トールの紹介ではウルフンマンというらしい。
それは檻の中で暴れて興奮していたがミスター・トールがなにか動作をするとウルフマンは急に大人しくなった。
ミスタートールの話だと催眠を掛けた状態らしく今から檻から出して客の目の前を歩かせると言う、
度胸のある人はあくまでやさしくなら触ってもいいがしかし大きな音を出せば催眠は溶けて
暴れだすそうなので絶対に喋るな。そう釘を打つとミスター・トールは檻からウルフマンを放し、
舞台の脇から現れた青いローブに身を包んだ小柄でのび太達と身長は変わらないが筋肉隆々な助手達がウルフマンをつれて通路を歩いていった
そして何事も無く事は進んでいたその時だった。

117 :ドラえもん のび太と真夜中のバンパイア:2006/12/23(土) 06:29:08 ID:ZKjbDPd60
バーン!!

何か分からないが大きな音がした。
そして催眠が溶けたのか暴れだし大音量で叫ぶウルフマン、
それを見て混乱し悲鳴を上げる観客に興奮したのか青いローブの助手達の抑えを振り切りドラえもん達一向に襲い掛かったのだ。
もちろん逃げるドラえもん達、しかし、しずかは逃げ遅れウルフマンが襲おうとしたその時
しずかを守ろうと震えながら両手を広げウルフマンの眼前に立つのび太
その目はいつものノロマな駄目人間で無く本当に強い意志を宿し確かな覚悟があった。
その眼差しにウルフマンが一瞬怯んだ、その瞬間爆音と共にウルフマンは吹き飛ばされ壁に激突し意識を失った。
のび太としずかが後ろを向くとそこにはまだ白煙上がる空気砲を腕につけたドラえもんだった。
それを見た観客達は一時混乱していたが、それは歓声に変わっていく。
「よくやった!!」「すごい!!」「かっこいい!!」
そんな声が聞こえる中ドラえもん達は腰が抜けてヘロヘロなのび太に近寄った。
「のび太君だいじょうぶかい?」
「なんとか・・・・。」
苦笑しながら言うのび太を見て安心する一同
その時拍手の音が聞こえ一同の視線はそこに集まった。
「お見事、お見事。まさかウルフマンの眼前に立つどころか撃退するとは・・・いやはや大した方達でだな。」
そう言いながら手を叩くミスター・トールに少々怒りが芽生える一同だったが文句を言う前に
ミスター・トールの大音量の声に阻まれたのだ。
「皆さん!!これでこのショーがいかに危険かお分かりいただけでしょう!!繰り返しますがこのショーは危険なのです。
約束を守れず命を捨てたくない者は立ち去ってください!!」
その迫力に歓声に包まれた映画館の廃墟は静寂に包まれた。

118 :ドラえもん のび太と真夜中のバンパイア:2006/12/23(土) 07:25:23 ID:wY3Xq0hx0
「ふむ・・・結構。では次の演目へと移りましょう。皆様お楽しみください」
反応に満足そうにそう言いながらお辞儀するとのび太達の方を向いて
「迷惑掛けてすまなかった・・・。あとでお詫びの品を渡そう。」
それだけ言えばいつの間にか舞台の上に上がっていた。
その後はなんとも不思議で楽しいショーだった。
鋏でも切れない不思議なひげを自由に伸ばせる不思議な美女、トラスカ
胃が二つあるといい見てるだけでも吐き気がするような量の食べ物の山を五分足らずで完食してしまう世界一の太っちょラムス・ツーべリーズ
両手だけで百メートル八秒で走り終えるハンス・ハンズ
電動ノコギリでさえ壊せない歯を持つ女ガーサ・ティース
足だろうが指だろうがどこを切っても再生するコーマック・リムズ
とここまで順調に進んでいたとき舞台の上にまたミスター・トールが現れたのだ。
そして彼の説明によれば次の演目はかなりユニークだが危険なものらしく許可するまで静かにとの事だ
ウルフマンのことを教訓にしているので観客は全員黙っている。
現れたのオレンジ色の髪をした男だった。
彼は「ラーテン・クレスプリー」と名乗り
そしてその助手だろう海賊の姿をした少年が籠の中に入った蜘蛛を持ってきた
名前はマダム・オクタと言うらしい。
この蜘蛛は山羊をも一撃で仕留めるという猛毒を持っており今から笛(縦笛だったがクレスプリーはフルートらしい)
でその蜘蛛を操り様々なことをさせるらしい。
しかしこれはかなり集中力が居る為周りがうるさいと蜘蛛は勝手に動き回り無差別に人を襲うことになりかねないらしい。
それを聞いて観衆も緊張しながら芸を見ていた。
結果から言えば大成功だった。
マダム・オクタは器用に用意されたボールや棒などででサッカーをしてみたり用意されたティーセットや更に盛り付けられた大量の蝿を
人間がティータイムと同じように二本の脚のみを使って蝿をフォークとナイフで食べカップにいれてある何かを飲んだりしていた。
更には地面からクレスプリーにマダム・オクタは登り途中助手の海賊の格好をした少年に笛の役目を任せ口の中に巣をかけさせてりなど
ドラえもん達も口をあんぐり空けて驚く芸だった。
ちなみにこれが終わったあとミスター・トールがショーの終わりを告げて観客が帰ろうとしたときに
大きな蛇が出口から進入して恐怖させたがそこに蛇少年(体に蛇のような特徴がある少年)がやってきてその蛇を
捕まえた後その蛇と芸をしてその後
「本当にお開きです」
と言うミスター・トールの言葉で本当にショーは終わった。

119 :ドラえもん のび太と真夜中のバンパイア:2006/12/23(土) 07:26:53 ID:wY3Xq0hx0
ちなみにミスター・トールの言うお詫びの品は演目の間の休憩時間に無口な小柄の青いローブを着た助手達から渡された
蜘蛛の糸の形をした綿菓子やらどこを斬っても再生するゴム人形(数ヶ月で腐るらしいが)等それなりに魅力的な品ばかりだった。
それに満足したドラえもん達はウルフマンに襲われた恐怖やミスター・トールに対する不満など忘れ
「すごかったね〜」
「ウルフマンのときは死ぬかと思った・・・・。」
「のび太の癖にかっこつけるからだ!!」
「あの蜘蛛を操る人・・・ずっと私を見てた気がする」
「確かにケダム並に面白かった」
などとショーの感想を熱く語りながら家路へと向かうのであった・・・。

その数十分後
「さてハイバーニアス、真実を教えてもらおうか・・・。」
銀色の細長いトレーラーの中で蜘蛛の演目をしたラーテン・クレプスリーとミスター・トール、本名ハイバーニアス・トールは話していた。
そして二人は気づいてないがそれを闇にまぎれて聞いている影があった。
「ああ・・・。しかし私には君にどうしても頼まなければならない事がある。それを先に聞いてくれるか?」
「ふん・・・。一体なんだというんだ・・・。」
「---------をダレンとラーテン・・・君達で殺して貰いたい・・・。それが頼みであり今回日本に来た目的の一つだ・・・。」
それを聞いた影は誰を殺させるかは聞こえなかった物のそのまま気配を消してトレーラーから離れていった・・・。

120 :店長 ◆RPURSySmH2 :2006/12/23(土) 07:28:17 ID:wY3Xq0hx0
え〜クリスマスの予定?そんなものありません。やけくそでSS書いてます。店長です・・・。
というか書くスピード上げすぎな気がします。
これも昨日に仕上げたのですが規制の為書き込めず暇の為現在次の半分くらい書き終わってます
自分基本怠け者なので終盤あたりバテル予感しまくりです
今回は多分文字数今までに比べて多め、そしてその分グダグダ感も増量してしまいました
しかもフリークショーの説明やらミスター・トールの口上もパクリが多すぎました
さて本編ですが文章力の無さからグダグダなショーが終わって次からは本格的に事件が起こり始める予定。
更によく見てみれば前のSSハイバーニアスをハイバーバニアスと間違えて書いてしまった所がありました・・・。
申し訳ありません・・・・。OTL
今回のウルフマンの所、ミスター・トールをダレン・シャンの著者ダレン・シャン氏が演じる寸劇
があるので興味のある方はどうぞ、原作とこのSSでは色々と違うので参考に見てみるのも面白いと思います。
という訳でアドレス載せときます→ttp://www.shogakukan.co.jp/darren/news/news23_03.html


121 :店長 ◆RPURSySmH2 :2006/12/23(土) 07:29:30 ID:wY3Xq0hx0
>>さいさん
アンデルセン神父がいい感じに狂ってる感じがします。
ここまで見事に狂っていると誰も彼に文句など言えないんでしょうね。
というか火渡に神父の攻撃が効くのか気になって仕方ありません。
とにかく続き楽しみにしています

>>102
サーカスでは無くフリークショーでしたが・・・。
まぁシルク・ド・フリークの場合はサーカスと言ってもいいかもしれません
からくりは未読なので最近読み始めました
しかしまだ真夜中のサーカスまで買ってないので困惑気味
そんで持って本編はとりあえずこんな感じです。
物語は一応始動した感じにはなりましたかね?

>>104
ありがとうございます!!
しかしその分いろんな部分がグダグダになりそうな予感があって仕方ありません

>>106
うみにんさんのSS印象に残ってたんで影響されちゃたんですかね?

>>ふら〜りさん
感想の名前が逆なのにびびりつつ展開的には異世界とかそう言うのでは無くのび太の町を舞台にする予定です
先の予想は案外皆さんが考えてる通りになるかもしれません。
というか小説読むかダレン・シャンの漫画がそれなりに進んだところまで行っていれば確実にこのSSの展開が見えそうな気がしますOTL

122 :作者の都合により名無しです:2006/12/23(土) 08:17:12 ID:F9s5Zfl80
店長さん、朝早くから乙です。
物語が一気に加速しましたな。
ダレン・ジャンは知らないんで、かえってこれからの展開が楽しみです。

123 :作者の都合により名無しです:2006/12/23(土) 11:45:40 ID:lrlwphq+0
店長氏頑張ってるな
ダレンジャンの世界とドラえもんの世界は重なり辛いと思うけど
頑張って下され

あまり、ダレンジャン詳しくないので
キャラ解説か何かしてくれると幸いです

124 :作者の都合により名無しです:2006/12/23(土) 16:51:24 ID:WOCMLonY0
ダレン・ジャンってワールドワイドなファンタジーらしいね
初めて知った

125 :作者の都合により名無しです:2006/12/24(日) 09:39:28 ID:NPX9+KX80
ダレン・ジャンってアメリカ版オタクかw
サイトまで見に行ってちょっとわらたw

ウルフマンというと、アニメのキンニクマンのキャラをどうしても思い出すw

126 :ドラえもん のび太の超機神大戦:2006/12/24(日) 20:11:05 ID:rYLyBv+u0
第九十六話「待ち人」

最後の戦いから、早くも丸一日が過ぎていた。
のび太はただ一人、小さな公園でブランコに揺られていた。
待ち人は、まだ来ない―――そもそも、どこで会おうだの、そういった約束はしていない。
けれど、彼はこう言うだろう。
<俺たちが出会うべき運命ならば、何をどうしたところで必ず出会う>
いいだろう。だったらもう少し待ってやろうじゃないか。彼との最後の対峙を迎えるには今この時をおいて、他にない。
もしもこのまま置いてきぼりを食らうようなら、そもそもそれだけの因縁しかなかった―――そういうことだ。
だから、のび太はその時を待っていた。
待っている間、考えていた。
今回の事件のことや、今までの事件のことやら。
あれこれと考えることが意外と多くて、退屈はせずにすんだ。
―――そして。
足音が聞こえてきた。思考を中断して、視線を上げる。
狐面の男―――否、狐面はもう被っていなかった。以前彼が言った通りに。
「じゃあ始めようか、俺の敵。このろくでもねえ物語の、後始末だ」


127 :ドラえもん のび太の超機神大戦:2006/12/24(日) 20:11:36 ID:rYLyBv+u0
第九十七話「THE FOX AND THE GRAPES」

さっさと終わらせちまおう。西東はそう言った。
「これが小説ならば、もう読者が見たい部分は全部終わっちまったんだ。こんな場面、本来ならば書く必要などは
ない。後から<こうこうこんなことがあった>とでも注釈を入れればすむような場面なんだ。だから―――
さっさと終わらせちまおう」
そして西東は懐から、一丁の拳銃を取り出し、のび太に持たせた。
ずしりと重い―――人殺しのための鉄塊だ。
「人払いはしてある。しばらくは誰の邪魔も入らねえから心配するな。何も考えず、俺の脳天に向けて撃つ。それで
仕舞だ―――そうそう、一つだけ言わなきゃいけないことが残ってた。今回の勝負の結果についてだ」
「何か、文句でもあるの?」
「いや、文句は無い。お前が勝って俺が負けた。それには文句の付けようもないさ。だが、もしかしたらお前らはそれに
ついて、運命を切り開いた、運命に打ち勝った―――などと、傲岸不遜なことを考えてるんじゃないかと心配でな」
西東は一拍置いて続けた。
「俺達は運命に流していただいている身―――それに逆らうことは赦されない。お前らは運命を切り開いたわけではない。
―――ただ、運命がお前たちを勝たせてくださっただけだ。忘れるな。全ては運命だ。この結果は最初から決まっていた。
運命は最初からお前たちを選んでくださっていた。それだけだ」
「・・・・・・」
詭弁ですらない。言い訳にすらなっていない。
運命が全てを決めているから、どんな結果も運命を切り開いたことにはならない。
ただ、運命がそう決めたからそうなった。
それで全てを片付ける。それで全てを無為となす。
詭弁、言い訳、曳かれ者の小唄。なんと言ってもいいけれど―――それじゃあまるで、狐と葡萄の例え話だ。
あまりにも・・・あんまりすぎる。

128 :ドラえもん のび太の超機神大戦:2006/12/24(日) 20:12:14 ID:rYLyBv+u0
「西東、さん・・・」
のび太は言った。
「ぼくらが戦ってきた相手にとって、ぼくらって実は、全然眼中になかったんじゃないかと思うんだ」
「<全然眼中になかった>ふん。と、いうと?」
「まあ、そいつらはそいつらで別に目的があって・・・それさえ果たせるなら、別にぼくたちなんてどうでもよかった。
別にぼくたちがどうしようと、どうでもよかった。そんな奴らばかりだった。けど・・・あなたは違った」
そう、あなたは。
「あなたはぼくらを。ぼくらそのものを目的にした。最終的には世界の終わりを見ることがあなたの目標だったんだろう
けど―――それでも、ぼくたちを見ていた。敵としてだったけど―――見てくれた」
それは、怖いくらいに―――
「ぼく、人に褒められることなんて、あんまりないからさ。だから・・・あなたのことは怖いし、色々酷いこともされた
から、大嫌いだけど・・・それでも、嬉しかった。あそこまで褒めてくれて・・・認めてくれたから」
心の底から、それだけは嬉しかった。
「だから・・・だから、ぼくは。あなたがもう、世界の終わりなんて目指さないって・・・そう約束してくれるなら・・・」

「ぼくはあなたを殺す・・・そんなのはなかったことにして―――あなたとだって、友達になれると思うんだ」

「・・・くっくっく」
西東は、いつものように、犯しそうに笑った。
「やめてくれ。俺には友達はいらない。もう、いらない。俺の友達と言えるのは、二人だけだ。そいつらももう、死んだ。
だからもう―――いらねえよ、そんなもん」
それに、だ。西東は続けた。
「それに俺は、世界の終わりを見ることを諦めることはできん。シュウもまた、世界の終わりの答えではなかった。
ならば、どこかに―――どこかに、あるはずだ。世界の終わり。その解答は。俺はそれを、どうしても見たい」
「・・・・・・」
「俺はそのために、あらゆるものを捨てちまった。二人の親友も、娘も、何もかも、大事なものもそうでないものも、
全て等しく切り捨てた―――いまさら、自分の命程度を惜しめるものか」

129 :ドラえもん のび太の超機神大戦:2006/12/24(日) 20:12:45 ID:rYLyBv+u0
だから―――
「俺をここで殺さなければ、俺は再び十三階段を集め、世界の終わりを目指すだけだ。お前はそんな俺の遊びに、一生
付き合うつもりかよ?」
「それは・・・嫌だなあ、ちょっと」
のび太は苦笑した。
「だろうな。ならば、ここで」
俺との因果は、閉じておけ。
それだけ言って、西東は黙りこくった。もう何も言わない。
のび太は拳銃を、西東に向けた。外さない。のび太の腕があれば。のび太に腕がなかったところで、この距離ならば―――
外れることはありえない。
「・・・ああ、そうだ。言い忘れた」
西東は、突然口を開いた。
「これで俺とお前の勝負は幕を閉じるわけだが・・・お前の戦いはこれで終わりではない。むしろ、これからが本番だぜ」
西東は、笑った。犯しそうに笑った。
「世界はお前を放っておかない。直に第二・第三の俺が現れる。今回の一件などほんの前哨戦と思えるほどの無数の怪物
たちが、お前の行く手に待っている。幾多の不幸と幾多の不運が、あまねく異形が全ての異能が、お前に牙を剥くだろう。
全ての伏線を消化したなどと思うな。全ての世界を知ったなどと思うな。お前の知ったことなど、ほんの僅かだ。
それだけは、肝に銘じておけよ」
くっくっく。狐は笑った。
「それで―――お前は何処へ行く?世界はお前のような奴を放っておいてはくれない。これから先に待ち受ける数多の困難
を前に、何処へ?なあ―――答えろよ、俺の敵・・・野比のび太」
西東は言う。狐は言う。最悪は言う―――
「俺の屍を越えて、お前はこれから、どこへ行くんだ?」
のび太は答えた。
「ぼくはもう、どこにも行く気はないよ。当分冒険は真っ平だ」
そして、引鉄を―――誰にも恥じることのない、自らの意志で、引いた。
「ひとまず家に、帰るとするよ。それからのことは・・・それから考える」
銃声が響いた。
かくして、最悪の狐―――西東天との戦闘はこの時点で、完全に終結したのだった。

130 :サマサ ◆2NA38J2XJM :2006/12/24(日) 20:24:07 ID:TNmnq7UP0
投下完了。前回は>>16より。
今回二話に別れてるのは、100話でフィニッシュにするためです。
来年の1月、遅くとも2月には次回作に移れると思います。
次回作ではのび太が落ちながら戦ったり、陰陽弾を食らわせたりします。
そしてデモベファンお待ちかね、あの愛すべき漢もついにバキスレに進出させます。一部の方はお楽しみに。

>>18 そんな永いSSももうすぐ終了・・・

>>19 もう数回がまた大変です。

>>20 名シーンまでいただいて、嬉しい限り。

>>22 趣味に走りまくった話ですので、まあ、期待せずに(笑)

>>前スレ340氏
中々渋いチョイス。で、次回作は大当たり。新桃です。
続編が出ないなら自分で書きます。
二行で分かるラストバトル・・・やべえ、まんまだ。

>>ふら〜りさん
これは自分でもかなりお気に入りのシーンになりました。これをさらに越えるシーンを書くのが目標になったほど。

131 :作者の都合により名無しです:2006/12/24(日) 22:04:56 ID:wog/Udyh0
クリスマスの夜にサマサさん乙w
いよいよカウントダウンか・・
新作はうれしいけど、前作からのシャッフル軍団とか好きだったから寂しいな・・

132 :作者の都合により名無しです:2006/12/25(月) 09:46:24 ID:lc+q3zMS0
あと3話か。西東の告白により、戦いが終わったって感じがありますね。
のび太もアスランやバカ王子たちの前にちょっと影が薄かった事もあったけど
立派に主役の締めを果たしてくれました。

133 :作者の都合により名無しです:2006/12/25(月) 12:33:49 ID:yDKijp+N0
次の新桃にもプリムラ登場!

無理かw

134 :作者の都合により名無しです:2006/12/25(月) 16:13:28 ID:fHNzldtH0
サマサ氏乙。
映画版をイメージしてるだけあって、
のびたが随分大人っぽい問答してるな、西東と。
もう少しだけ、がんばって下さい。

135 :作者の都合により名無しです:2006/12/26(火) 08:09:56 ID:lXhth/110
年末はさすがにみんな忙しいか

136 :作者の都合により名無しです:2006/12/27(水) 08:16:05 ID:ZcxXHh4H0
休みに入ったらまた来るんじゃない?
バキスレの職人は勤め人が多いし

137 :邪神?:2006/12/27(水) 13:07:19 ID:wdbHrAaU0
お久しぶりな邪神?です。(0w0)
長い間カメンライダーを見過ごしていたので現在のストーリーが分かりませんorz
そしてクリスマスにパソコンを買ってもらえる事になってたんですが
急にダメとか言い出しましたのでまだまだ続行不能な状態が続きそうです。
お年玉はPS3に使いたかったんですがね・・・。
高三にもなってお年玉貰うなとか言うな!(#0w0)
親に貸した4万帰ってきてないのにお年玉貰わずしてどうしろっちゅうねん!
そしてお年玉で足りなかったら更に更に延期になります。
久々のカキコなのにこんなしょうもない報告で申し訳ありません・・・。
それでは、ごきげんYO・・・・。(0w0)ノシ

138 :作者の都合により名無しです:2006/12/27(水) 13:18:59 ID:+Dn90vQB0
なんにせよ邪神さん元気そうで何より
受験うまくいくといいな

139 :作者の都合により名無しです:2006/12/27(水) 20:34:09 ID:16W2m18/0
>>137
話の中の6割を占めるライダーが死んだ。
残りの4割の兄弟ラーダーは生きてる。

140 :作者の都合により名無しです:2006/12/27(水) 23:58:11 ID:0e4SUzzsO
ぼっちゃま…

141 :作者の都合により名無しです:2006/12/28(木) 14:17:26 ID:1vhIxlmX0
そろそろ誰か濃い!

142 :作者の都合により名無しです:2006/12/29(金) 03:19:55 ID:sDWLUo6WO
書きたいネタはあるが暇がないorz
年末年始も仕事がある社会人物書きってどのぐらいいるよ?

143 :作者の都合により名無しです:2006/12/29(金) 04:09:11 ID:MUzWeTLz0
年末年始も仕事ですか
大変だなあ。

144 :永遠の扉:2006/12/29(金) 07:26:09 ID:JJGCdE8p0
第009話 「例えばどんな風に悲しみを越えてきたの?」

ヴィクトリアは苛立たしげなためいきをつくと、ベッドに身を沈めた。
セーラー服のままなのは、あいにくパジャマなどというしゃれた衣服は持ってきていないからだ。
着のみ着のままこの街へやってきた。そして期せずして寄宿舎にいる。
黒いハイサイソックスを履いた幼い足を短いスカートか無遠慮に投げ出し、天井を睨む。
とかく苛立っている。
が、怒鳴ったり泣き喚いたりする激しさはない。
そういう感情は100年分の鬱屈に押しつぶされ、化石の硬直で奥底に追いやられている。
例えばどんな風に悲しみを超えていけばいいか、本当に少女だった頃から分からない。
学べなかった、という方が正確だろうか。
自分とわずかでも似た境涯の者と出逢えていたのなら、もっと違った人生だっただろう。
だが、100年という人一人の一生分の歳月でそれはなく、やがて母を失った。
港町を見下ろす小高い丘。そこに建つニュートンアップル女学院。
その屋根の上でちりゆく母の姿へ、涙は出なかった。
ただ、疲れた。
老女のように枯れてねじくれた精神から一絞りの何かが消えうせて、ただ疲れている。
その精神で過ごすのは、独りでただ自壊を待つだけの絶望的な期間。
闇に鎖された建物で血の通じた肉をかじり、開きもしない扉を永遠に見つめ続けるような。
母を失った後の人生に覚えたのは、そんな想像するだに億劫な意味。
だがその時。
一人の男が目の前に現われた。

気に入らない

初対面の印象は、他のあらゆるものに対するのと変わらなかった。

早坂秋水。
姿を見たときから一種のキナ臭さと、嫌いな匂いを感じていた。
何故なら出逢った場所は半ば男子禁制の女学院。
そこにわざわざ侵入し、自分を訪ねる者といえば察しはつく。

145 :永遠の扉:2006/12/29(金) 07:27:17 ID:JJGCdE8p0
錬金の戦士。
名前の次にされた自己紹介に、ヴィクトリアは「フン」と鼻白んだ。
更に彼は元・信奉者であるコトを明かしたが、心情は別に和らがない。
むしろそういう境涯の者をわざわざ差し向けて、いかにも闇の世界の住民を手厚く加護して
いるように見せる戦団の姿勢が腹立たしい。
「違う。ここに来たのは俺の意思だ」
「そう言うしかないでしょうね」
氷のような眼差しを差し向けると、折り目正しい学生服の美青年はパンフレットを取り出した。
「単刀直入に言う。君にこの学校へ来て欲しい。俺が言えた義理ではないが、いい学校だ」

少し面食らったが、ヴィクトリアはすかさず棘含みの指摘をくり出した。
ホムンクルスにとって学校はエサ場。そこを守るべき戦士が間口を開けている。
それが矛盾でなければ何なのか。何を目論んでいるのか。と。
「目論みはない。君が人を殺すとはどうしても思えないから誘っている」
話にならない、という風にヴィクトリアは肩をすくめた。
信じる。すがる。夢を見る。
そんな行為なら、100年前から散々してきた。
戦団にホムンクルスへと変えられたその時から。
ごく平凡で幸福な家庭を打ち壊された時から。
現実にそぐわない夢想を幾万回も繰り返し、そのつど絶望してきた。
信じる。すがる。夢を見る。
それらの無意味を辛酸の中で知り尽くした自分に、今さら信頼めいた言葉を投げかけれら
れた所で何も変わらない。変わるはずがないだろう。ヴィクトリアは頑なに信じていた。
だが凍えた眼差しの先、秋水は口を開いた。
「君は俺が見てきたホムンクルスたちとは違う」
秀麗な顔立ちにじっと見据えられて、表情が微かに揺れるのを感じた。
思えば誰かに真正面から見られたコトなど久しくない。
「馬鹿馬鹿しいわね。根拠もないのに」
「根拠ならある」
「何よ」
「君の目だ」
この後、がらんどうの礼拝堂によく透った声を、ヴィクトリアはなかなか忘れるコトができなかった。

146 :永遠の扉:2006/12/29(金) 07:28:18 ID:JJGCdE8p0
「冷えてはいるが、濁ってはいない」
目、という言葉にヴィクトリアはついつい目の前の青年のそれを見てしまった。
水のようにきらびやかで刃物のように玲瓏で、澄んでいながら一分の翳を宿す瞳。
それはどこか孤独で、自分と同じ境涯の色に染まっていて。
けれどもけして諦観に負けない強さを秘めていて。
例えばどんな風に悲しみを越えてきたの?
合わせた視線のなか思いがあふれた。
まったく突拍子もない思いと、興味が。
されどその対象は憎むべき戦士であり、ヴィクトリアは自らを抑えるのに少し苦労した。
どうしてこの早坂秋水という男は、ホムンクルスたる彼女に向かいあってくるのか。
戦士ならば化物を始末するのは当然だろう。
そう思ったからこそヴィクトリアは100年以上、母を守るように地下深くで過ごしてきた。
されど秋水は、人喰いという禁忌の話題を避けるわけでもなく、ヴィクトリアを責める材料に
する訳でもなく、ただ真剣に話をしようとしていた。
「それに、君は知らないだろうが、世界には他人の子供の為に身を削る母親だっている」
いったい誰のコトを指しているのかなどヴィクトリアには見当がつかなかった。
それが早坂真由美という、秋水や桜花を誘拐して育てた女性のコトだとは。
彼女は女手一つで幼い姉弟を養うべく過酷な労働に身をやつし、そして過労死を遂げた。
その姿勢は、あっけなく秋水たちを見捨てた実母に比較すればどうだろう。
秋水の口調の真剣さは到底横槍を入れられる物ではなかった。
「まして、実の母親が娘を飢えさせて平気でいられるとも、人喰いを黙認できるとも、俺には
どうしても思えない。だから君が命をつないできた手段が何か、見当をつけている」
小さな肩が密かに震えたのは、何か核心めいた物に触れられたからか。
いや、事実ヴィクトリアは地下に潜ってからの100年間、母アレキサンドリアのクローンの、「出
来損ない」にあたる部分を食べて命を繋いできた。
ヴィクトリアの特技といえば毒舌ぐらいしかないように思えるが、のちに蝶野爆爵の曾孫と結
託し、彼の部下を人格や記憶を保ったまま再生するのを見れば、クローン技術も特技の範疇
に含めてもいいだろう。

147 :永遠の扉:2006/12/29(金) 07:29:03 ID:JJGCdE8p0
さらに、通常のクローンが記憶や性格までも引き継げず、錬金術とちょっとしたつながりを
持つフランケンシュタインの製造技術ですら、元になった人間をそのまま蘇らすコトができない
──例をとると、雷が嫌いだった内気な少女が、雷を非常に好む快活なフランケンシュタイ
ンになったり──コトを思えば、ヴィクトリアの手腕は在野の錬金術師をはるかに凌いでい
るといっても過言ではない。
千歳の依頼で根来の髪を増殖したコトなどは朝飯前。
そんな飛びぬけた手腕を持つヴィクトリアだが、秋水との会話でつい少女らしい詭弁を吐い
てしまった。
「あらそう。でも戦士のアナタが招いた私が、学校で誰かを殺したらどうなるかしら?」
論議の軸を一種のありえない事象にすりかえて。
「戦団が始末しに来るわよ。身内の不始末にはとても敏感で、化物でもしないような揉み消
し方をする連中だから」
いっていたのはもちろん父のコト。聞くものが聞けば怨嗟含みの皮肉として眉をひそめただろう。
「分かっている。意見の食い違いから仲間を始末しかけた戦士なら見た事がある」
秋水は反論する訳でもなく、ただ静かに言葉を紡いでいた。
「だが君の場合は違う」
食い入るように見据えてくる瞳に、ヴィクトリアはかすかに戸惑った。
瞳から見える境涯の近さへ、毒気をぶつけるのがはばかられた。
毒を吐いても実直に応じてくる姿勢が、母とかぶって見えた。
結局、他に色々な話(例えば寄宿舎の管理人が戦士長とか)をし始めた秋水を強引に追い払うと。
見覚えのある戦士が入れ替わるようにやってきた。

「今日は先客万来ね。望んでいないっていうのに」

ステンドグラスから夕日をうっすらと浴びながら、ヴィクトリアはその戦士─楯山千歳─の要
件を聞き、銀成市への移動を頼むというよりは命令口調で一方的にいってのけると、地下へ
と姿を消した。

地下深くでガラス張りの水槽がぷくぷく泡を立てていた。もはやいない主を寂しがるように。


148 :永遠の扉:2006/12/29(金) 07:30:13 ID:JJGCdE8p0
「もうどこに居ても同じよ。だから気晴らしに行くだけ──…」
セーラー服の上にメタルブラックのマントといういでたちで呟いた通り、それだけのつもりだった。
翌日、千歳に銀成市へ移動した際には防人へ「寄宿舎には住まない」と広言してから適当
に街を歩き、夜は自分の武装錬金で夜露をしのぎ、楽しくもない物見遊山の挙句に寄宿舎
の近くへつい近寄った。
(別に見たいとかそういう訳じゃないわよ。戦士にさっさと話を断りにいくだけ)
転校の話を反故にしたいのならば黙って消えればいいだけだが、なぜかそうせず近寄った。

それからは前述の通り。
L・X・Eの残党と遭遇したところを栴檀香美に助けられ、総角と顔を会わせた後に寄宿舎へ。

(気に入らない)
香美や総角が、である。
前者は妙に人道を弁えた風で、後者はやけに悠然としている。
両者ともホムンクルスだというのに、禍々しい気配が微塵もない。
秋水いうところの「濁っていない」瞳の持ち主で、人喰いとは無縁そうだ。
そして彼らは再びヴィクトリアと会話するコトを望んでいたが……
(誰がアイツらなんかと)
ヴィクトリアは自身がそうであるにも関わらず、ホムンクルスをひどく嫌悪している。
というより、「錬金術」から派生した物ならば錬金の戦士であろうと錬金戦団であろうと、核鉄
も調整体も等しく激しい嫌悪の対象だ。
錬金術のせいで家庭が破壊され、100年の地下生活を余儀なくされれば彼女ならずともそ
うなるのは必然であるだろう。
(気に入らない)
ホムンクルスも戦士も、悪辣であるべきだったのだ。
いや、そうだと思い込みたかっただけかも知れない。
でなければそれらを恨み続けた100年という歳月があまりに空しい期間となってしまうのだから。
だのに香美たちは人当たりが良く、防人もごく普通の転校生への対応をヴィクトリアにしてきた。
(なんでホムンクルスが私を助けるのよ。なんで戦士が私をココに連れてくるのよ)
寝返って枕に顔を埋めながら、ヴィクトリアは叫び出したいほど不愉快になってきた。
されたコトは到底憎むべき事象ではないが、だからこそ憎らしい。
劣悪であるべき存在が、善良なのが気に入らない。

149 :永遠の扉:2006/12/29(金) 07:31:30 ID:/vAZ8Ysg0
(そうよ。……嬉しいわけ、ないでしょ)
考えまいとするが、さっき出会った総角のセリフが気になってくる。

──「悪いが、知らばっくれても分かる。少し父親の面影があるからな。取り繕っていても顔立ち
──ばかりは偽れないものだ。誰でも、な」

(アイツ、パパとどういう関係なのよ。だいたいなんで見覚えが……)
だんだん瞳が暗くなってきた。
(気に入らない)
そうとしか感想を抱けないのも腹立たしい。
過酷で辛苦しかない100年が心情を表す言葉を乏しくしているのが自分でも分かる。
が、ふかふかしたベッドの上で満腹の身をもてあましているうちに、ついつい心地よい眠気が
襲来し、いつしか彼女は寝入ってしまった。

遠い遠い記憶の中、風にたなびく一面の草原。
崩れかけた家の中で、目覚めぬ母を前に泣きじゃくる幼い自分。
夢を見ている。そう夢の中で気付くのは明晰夢というが、覚醒は選択しない。
たとえ夢の中でも母の姿が見れるのならば、永遠に醒めなくてもいい。
ヴィクトリアが思っていると、部屋の戸が開いた。
入ってきたのはあまり馴染みのない顔。
長い金髪で碧眼の、すらりと鼻筋が通った生真面目そうな男性。
(え?)
幼い自分も夢を見ている自分も同時に息を呑んだ。
前者は不意の来訪者に身を固くしただけだが、後者は違う。
(この顔……アイツと一緒……)
総角を思い出す。ただ、この来訪者の方はやや老けている。
総角が17〜8とすれば、こちらは20代後半。
だからこそヴィクトリアは唖然とする。

──この顔と同じ奴を見たコトはないか? もうちょっと老けてると思うが

寄宿舎の近くで聞いた総角の台詞と見事に合致している。

150 :永遠の扉:2006/12/29(金) 07:32:14 ID:/vAZ8Ysg0
少なくても彼はこの来訪者について何かを知っている。
何となくだった見覚えが、この夢のせいでハッキリとした輪郭を帯びていく。

「いいかいヴィクトリア。これから教えるコトはいまの君にはとても難しいと思うけど、頑張って
覚えるんだ。この技術を君のママに教えたのは俺だから、頑張れば君だってちゃんとでき
るようになる。いいかい。君は人間でいたいな? いたい筈だ」

来訪者が屈みこんで諭すように喋ると、幼いヴィクトリアは泣きながらこくりと頷いた。

「……よし。いいコだ。だが俺はここにそう長くはいられない。短い授業になってしまうが、
だからこそしっかりと覚えるんだ。いつか、いつかきっとこの技術が、君や周りの人間を
助ける手がかりになる。そう信じて正しく使ってほしい。……この、クローンの技術を」

幼いヴィクトリアはいやいやをした。来訪者にずっと傍に居てほしいとぐずっているのだろう。

「それはできない。俺も錬金戦団から追われる身だ。だが、いつまでも追われるつもりはない。
どれだけの星霜を経ようとも、奴らだけは必ず滅ぼす。奴らの総ては必ず滅ぼさなくてはな
らない。そうしない限り、たとえ君の父をここに取り戻しても……」

来訪者の目が狂気に染まった。それまではどこか中世的な優しい面持ちだった彼の頬は
限りない失意と怒りに引きつり、ドス黒い闇を宿した瞳が彼方を睨む。

「回り続ける。轍で結ばれし輪は断たるる事なく、永劫に」

胸で淡く輝き服を透過する光の形は、章印。ホムンクルスの証だ。
それに照らされ、認識票が首に掛かっているのが見えた。
一般に夢の中では文字を読めないというが、ヴィクトリアは読んだ。

「MELSTEEN=BLADE (メルスティーン=ブレイド)」

それが来訪者の名前らしいと気づく頃に、ヴィクトリアの夢は醒めた。


151 :永遠の扉:2006/12/29(金) 07:32:54 ID:/vAZ8Ysg0
窓から差し込むまばゆい光を浴びながら、ベッドの上で身を起こす。
例えば老人が幼少を夢見たとすれば、老化した脳細胞のせいでほとんど判然としないだろう。
だが不老不死ゆえに夢は鮮明で、それだけにヴィクトリアは分からなくなってきた。
総角と来訪者の関係、そして来訪者と自分の関係。
重大なコトを忘れている。
すっきりしない目覚めでヴィクトリアは朝を迎えた。

8月30日。

ヴィクトリアがまどろんでいるうちに秋水と桜花は寄宿舎への移住を完了した。
彼らが世界への無関心ゆえに必要最小限の家財道具しか持たなかったコトと、瞬間移動能
力を持つ千歳がいたおかげで、移設自体は30分とかからなかった。
まず桜花や秋水の部屋に千歳が飛ぶ。家財道具に触れる。寄宿舎の一室に飛ぶ。
だいたい5〜6回も繰り返したあと、秋水たちはあてがわれた部屋に家具を設置した。
そして朝、である。

長身が寄宿舎の廊下を姿勢よく歩んでいく。
すれ違った生徒は一瞬「え!?」と目をむいたが、男子生徒は手近な生徒にヒソヒソ事情を
聞き、女子生徒はぽーっと見とれるのであまり騒ぎにはならない。
もちろん彼はそれに気付かず、物思いにふけっている。
秋水は防人から渡された紙を見るのに忙しい。
(……寄宿舎見取り図。警護のための必要資料)
それを見ながら実地を歩きつつ、ヴィクトリアの部屋を目指している。
昨日、ごたごたしている所へ予想より早く彼女がやってきたから、碌に話すコトができなかった。
(せめてこれを使って案内ぐらいはしないと)
ヴィクトリアを銀成学園へ誘った自身の責務は、まだそれ位しか果たせない。
戦士陣営が倒すべき敵やるべきコトは非常に多い。
L・X・E残党を全滅させる任務は斗貴子が引き継いでいるがまだまだ山積み。
昨日寄宿舎近くで逆向凱を辛うじて退けたといっても、また襲撃を受けた時に上手くいくとは
かぎらない。
また、かつて死んだはずの彼を蘇らせた『もう1つの調整体』は、廃棄版だという。
にもかかわらず、一度は総角を退けて秋水に苦戦を強いたコトを思えば、正式版をけして

152 :永遠の扉:2006/12/29(金) 07:33:42 ID:/vAZ8Ysg0
ホムンクルスの手に渡してはならないというのは自明の理だ。
その正式版を手に入れるためには6つの割符が必要であり、うち1つは防人が管理している。
残りは5つ。こちらは千歳や桜花が捜索する手はずだ。
(もっとも秋水たちは知らないが、すでに残り5つは総角とその部下の手中へ落ちている)
本来なら秋水も寄宿舎警護に全力を裂くべきだが、ヴィクトリアに対してどうしても何かをして
やりたい。
幸か不幸か、秋水は寄宿舎に住むコトになった。
支援体制を保つためにヴィクトリアの傍へいるのは、つまり同時にホムンクルスである彼女
の動向監視にもなり、本来の任務を果たせる。
そういう都合のいい割り切りをしている訳ではなく、ただ漠然とヴィクトリアに協力したい。
カズキのように体当たりでヴィクトリアを説得できないとは分かっている。
けれども。
太平洋上で聞いてしまった。
彼女の父・ヴィクターの叫びを。
年端もいかない娘を戦団の手によってホムンクルスへと変えられた悲劇を。

自らの望まぬ形で闇に閉じ込められ、誰の助けも望めなかった。
そして最愛の者をずっと守り続けてきた。

要素だけを抜き出せば、防人たちがいうように前歴はあまりに似ている。
(君は姉さんや俺と同じなんだ。だから放っておきたくは──…)
「え? ええ? なんで? どーして秋水先輩がココに? もしかしてお泊り?」
小鳥のように可愛らしい声に、秋水は反射的に目をあげてしまった。
まひろが目を白黒させている。
見ればそこは廊下のT字路で、向うから来たまひろとばったり遭遇したらしい。

153 :スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2006/12/29(金) 07:34:34 ID:/vAZ8Ysg0
投票してくださった方、ありがとうございます! (ハイデッカさんには恐縮です)
よもやああいうスレがあろうとは。言動はつつしまねば。
けっこう俗物ですので投票経過をちらちら見てましたw 
一番嬉しかったのはまひろが賞を頂いたコトですが、小札に票があったのも地味に嬉しく。
色々と試行錯誤の末に生み出したキャラなので。
来年もご期待に沿えるよう、精進します。

>>73さん
あのあたり、迂闊にいじるのは一原作ファンとして、原作そのまま描くのはSS描きとして
抵抗があったので、+αはあまり本筋に関係ないアパートの住民だけにしております。
ホントは腐ってく真由美さんの描写に15行ほど裂きたかったんですが、やっちゃダメですよね。

>>74さん
こういう光のなさはひょっとすると、カマイタチさんの影響かも。あと無限回廊でよくある
犯罪経過の描写とか。やはり闇があってこそ光が引き立つので、前回はなかなかの手応え。
和月作品でいう「墨絵」みたいな独自技法が欲しいので、今後も色々試せたらいいなぁと思っとります。

>>75さん
実は他のアニメはプリキュアぐらい(あくまで敵目当てです。咲舞よりゴーヤーン可愛い)しか見てないの
で、比較はできませんが……出来栄えには大満足! 秋水との殺陣とか正に蝶サイコー!
まひろの艶っぽさは異常。最初ハルヒ声だったのがだんだんまひろそのものになってて良い感じ。

154 :スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2006/12/29(金) 07:35:35 ID:PVTFmAyh0
ふら〜りさん
実は前回を描くきっかけというのがふら〜りさんのレスだったりします。「錬金は未読」とのコト
でしたので、なるべくそういう方にも伝わるように、とガラにもない配慮をついつい。秋水のバック
ボーンを描かないと、今後の軸となる彼の行動原理が未読の方に分かりづらくなってしまいますので。

さいさん
>WHEN THE MAN COMES AROUND
インヴィジブルサンの語感の良さに痺れました。で、ウィンストンはひょっとして、照星のボツ
案(人の良い下町のあんちゃん)が入ってるのかも。そうでなくてもヘルシング風味が入って
るのが良いです。細い煙は一体? それと変な所に感心してしまったのですが
>オーク材で出来た頑丈なテーブルの脚がギシリと悲鳴を上げる。
オーク材のような洋風チックなディティールは自分には描けないので、「さいさんスゴい!」と。

ありがとうございます。(本当に色々と) 爆爵パートはもう完全に趣味ですねw あの屈折ぶり
とかヴィクターの敬意とかが好きで好きで。ただ、次回ぐらいに現代へ時系列が移ってしまうの
で、日露戦争後の日本の描写をもっと増やすべきだったと…… 次は盟主+研究者の要素から爆爵を描きます。

155 :作者の都合により名無しです:2006/12/29(金) 18:41:06 ID:QIjofmsN0
お疲れ様です。今回はヴィクトリア主役の会でしたね。
この作品はさまざまな視点から楽しませてくれますので
飽きなくスイスイ読めるから大好きです。
来年も、絶好調モードでお願いしますね!

156 :『絶対、大丈夫』:2006/12/29(金) 19:19:51 ID:RIuNJ0St0
        第二話<それは、未来への不安なの>

前回より少し前のお話。


「おじゃまします、小狼君。」
「ああ、いらっしゃい。」
さくらが、小狼が日本で活動する際の拠点としている、マンションにやってきた。
別に来るのは初めてではないが、二人きりというのは初めてである。なんせ、いつだっけか
ここに来たときには、当時小学生だった小狼の付添い人である、衛(ウェイ)がいた。
しかし、今は完全に二人きりである。
好きな人と一緒にいられるということは、きっと人間として一番幸せなのだろう。とてもにこ
やかな顔で、さくらは靴を脱いで、短い廊下を歩き、そのままリビングに入った。
ちょうど部屋の真ん中にテーブルがあり、そしてその付近にはソファ、そしてちょっと離
れた隅っこの方にテレビが置いてある……という感じの部屋は、綺麗さっぱり整理整
頓されており、埃一つないように思われる。ていうか、絶対にないと思う。


157 :『絶対、大丈夫』:2006/12/29(金) 19:21:45 ID:RIuNJ0St0
しかし────息を吸うたびに感じる、この暖かい感じは────
「とりあえず、そこに座ってくれ。」
と、座布団を指差す、少年の匂いだった。
「……うん。」
と答えながらさくらは、小狼に指されたとおりの座布団に、行儀よく正座した(ちなみに、
小狼はあぐらをかいて座っている)。
二人の位置関係は、テーブルを挟んで反対……つまり、顔を合わせているということで
ある。そのことに気づいた途端、座布団の場所を勧めた小狼も、それに従ったさくらも
まるで完熟トマトのごとく、真っ赤になった。
「あ……その……」
「あ、ああ……な、なんだ?」
「え、ええと……」
二人とも、会話を切り出そうとはしているのだが、しかし結局は何も言えないまま、時間
が過ぎていく。

こんな、微笑ましい、純情なカップルの恥ずかしくも幸せな時間は、いとも簡単に崩れ去
った。

突如、緑色の光の弾丸が、飛んできた。
小狼の部屋のバルコニーの窓を突き破り、そのままさくらへ当たる────前に、
「危ない!」
「!?」
小狼が、動いていた。
緑色の弾丸から、さくらを守る盾のように、彼女の体を抱き寄せる。
その直後に、鮮血が舞った。
突然の事態に流されるままだったさくらも、そこでようやく何が起きたかを理解した。
「────小狼君!?」
「───っ!!」


158 :『絶対、大丈夫』:2006/12/29(金) 19:24:23 ID:RIuNJ0St0
素人のさくらから見ても明らかに重傷を負いながらも、小狼は自分を貫いた緑色の光の
弾丸が飛んできた、窓の外を睨み付けた。そして、半狂乱になっているさくらに「壁の後
ろに隠れろ」と言って、自分は窓の向こうを睨んだまま、動かない。
「小狼君……」
パニックに陥りながらも、なんとかさくらは小狼の言葉に従い、言われたままに壁の後ろ
へと隠れていた。このような状況では、間違いなく自分よりも彼の方が対応できるという
ことはよく知っていたからだ。
バルコニーに、二つの足音が響く。その直後、声が聞こえてきた。
「ふうん……君が、あのクロウ=リードの後継者───いや、こっちは血縁者か。」
「………あなたと、あなたの大切な存在である……クロウ=リードの後継者は、私たち
についてきてもらいます。もちろん、反論はさせませんよ。」
どうやら、一人の少年と、少女の声らしかったが───やけに、機械的で、感情のこも
っていない声だった。
「誰が、お前たちに……」
臨戦態勢をとった小狼が、言いかけた、その時────
「文句は言わせないと、言ったはずですよ」
少女の声が響くと同時に、緑色の光の濁流が、小狼の体を、そして彼の部屋を包み
込み、とにかく破壊した。その濁流にぶっ飛ばされた小狼は、かろうじて破壊されなかっ
た壁に激突し、そのままもたれかかった。
「小狼君!!」
思わず叫びながら、さくらは壁にもたれかかる小狼のもとへかけつける。そして、その時
に、目に入った。バルコニーに立っている、緑色の髪と瞳の少女と、黒い髪と眼をした
少年を────



159 :『絶対、大丈夫』:2006/12/29(金) 19:29:43 ID:RIuNJ0St0
それから時間は多少流れる。



かなりの広さを持った、畳敷きの部屋。
そこに、さくらと小狼のふたりは、紅天元秀一、蒼地竜刹木……そして高町なのはの
三人と向かい合う形で、ちゃぶ台のすぐそばにある座布団に座っている。
最初に発言したのは、小狼だった。
「……いったい、あの二人は誰なんだ?何故俺たちを狙ってきた?」
それは、さくらも聞きたいと思っていた、質問。
秀一は、それに静かに、茶を啜りながら答えた。
「……あれが誰かは、俺たちにもわかっていない。」
「…………?」
思ってもいない答えに、小狼とさくらは口を開きかけたが、しかし結局何も言わなかった。
「……ただ、目的だけはわかっている。」
「………それって、いったいなんなんですか?」
不安そうな顔で聞くさくらに、秀一はできるだけ───とはいっても先ほどと対して変
わっていないが───柔らかめの口調で、言った。
「……どうやら、あれは、強い魔力を持ったものを狙っているらしい。」
「…………強い、魔力………」
「そうだ。それも、この……今俺たちがいる世界……お前たちが住んでいる世界だけ
ではなく、さまざまな世界でな……」
それを、刹木が続けた。
「ああ……しかも、もう被害者は全員合わせて三桁近くまでのぼってやがる。こりゃ、時
空管理局始まって以来の大量誘拐事件だな。」

160 :『絶対、大丈夫』:2006/12/29(金) 19:33:09 ID:RIuNJ0St0
聞けば、過去になんどか魔術師などの誘拐事件は起きた事はあるらしいが、それらもせ
いぜい被害者は2、3名。多くても10〜20人程度らしい。それを聞けば、この事件の
異常さが、いやでもわかった。しかも、この事件に自分たちも巻き込まれてしまったので
ある。
これからのことで不安になるさくらに、刹木が話しかけた。
「私たちは、この世界までとある魔導師の力を借りるために来て────まあ、そんとき
に偶然君たちがあの二人に襲われているところに遭遇したのさ。」
「………噂には聞いていた、あのクロウ=リードをも凌ぐほどの魔力を持った魔導師だ
からな。保護をしないわけにはいかんだろう。」
刹木の後に続いて秀一はそう言うと、再び茶をすすった。そして、お茶碗を一回ちゃぶ
台の上に置いて、再び口を開く。
「……ところで、木之本桜。」
「は、はい!」
話をふられて、慌てて返事をするさくらであった。
「────明日、君のご家族は、暇かな?」
「え────」
突然、家族の話をされて一瞬混乱したものの、しかしすぐに考える。確か、明日は父親
は出張でおらず、兄の木之本桃矢は────
「お兄ちゃんが、大学のみんなで行ってた旅行から、ちょうど帰ってきます。」
「………ふむ、そうか。」
満足そうに────見えないけれど────頷く秀一。

161 :『絶対、大丈夫』:2006/12/29(金) 19:37:50 ID:RIuNJ0St0
「………そして、君たちも今は冬休みの真っ最中で、しばらく学校はないんだな?」
「は……はい……?」
思いがけない質問に、さくらも小狼も怪訝そうな顔になる。
「一体、なんでそんなことを聞くんだ?」
と、不思議そうに小狼が聞いた。
秀一は、最後の一滴のお茶をすすり終えて、そして一息をついてから答えた。
「……とりあえず、君たちの身柄は、こちらでしばらく保護させてもらう。家族の暇につい
て聞いたのは、そのことを保護者に話すためだ。」

それが、さくらと小狼の身に起きた、なんだか信じられない話である。


麻帆良学園の、学園長室で、
「え、エヴァンジェリンさんが!?」
思わず、耳をふさぎたくなる様な大声で、10歳くらいの少年……ネギ・スプリングフィー
ルドは叫んだ。
それに答えたのは、全身をボロボロにした、まるでロボットのような(というかそのもの)少
女、茶々丸である。
「はい、間違いありません。証拠に、私のレーダーでは、マスターの生命反応を確認す
ることはできません。」
「そんな……」
悲しそうな顔をして、項垂れるネギ。

162 :『絶対、大丈夫』:2006/12/29(金) 19:50:13 ID:RIuNJ0St0
そんな彼の後ろに立っているまさに「ナイスミドル」と表現できる男が、さらに茶々丸に聞
く。
「それは、もしかして赤か、もしくは緑か黒い髪だったかい?」
「……はい。緑と黒は確認できませんでしたが、赤い髪の毛でした……高畑先生。」
その答えを聞いた男……高畑・T・タカミチはさらに自分の後ろに立つ、老人……この
麻帆良学園の学園長に言った。
「……学園長、これは……」
「うむ、間違いないじゃろう……」
頷きながら、学園長は嘆いた。
「………どうやら、時空管理局の言っておった通りのようじゃな。」


自宅に帰ったさくらは、夜中の1時になってもまだ眠れないでいた。
確かに、こんな状況ですぐに眠れるような精神構造をした12歳など、滅多にいないだろ
う。自分のベッドのすぐ下で毛布に包まっている小狼も、どうやら同じようだった。
「……眠れないのか?」
「………うん。」
「そうか………」
それきり、小狼も話しかけてこない。どうやらこれからの事に関して考え込んでいるらし
い。
さくらも、やはり彼と同じように考えていた。
────これから、自分はどうすればいいのだろう。
────これから、自分はどうなるのだろうか。
そんな、答えの出るはずのない疑問を抱えて、さくらの意識は、闇へ落ちていった。


163 :白書 ◆FUFvFSoDeM :2006/12/29(金) 19:57:59 ID:RIuNJ0St0
どうも。前回からちょびっと間が空きました、白書です。
サマサさんの超機神がクライマックス。
この後の展開にわくわくするようで、しかし、まるで好きだったアニメの最終回を
観るときのように寂しくも思います。
最近は、西尾維新の戯言シリーズをコタツに潜りながら読んでます。ただ、新書
は文庫に比べて、高いんだよな〜値段が。
さて、お年玉で全部買うことができるかどうか。すべては親や親戚が、いくら
俺にお年玉をくれるかにかかっている。


164 :作者の都合により名無しです:2006/12/29(金) 20:05:02 ID:QIjofmsN0
白書さんお久しぶり!
このさくらのSSもサマサさんに負けないようによい作品してあげてください!

165 :作者の都合により名無しです:2006/12/30(土) 12:54:56 ID:B2iFIyRZ0
>スターダストさん(SS大賞は氏が無冠で残念だったです)
今までのヴィクトリアの日常は普通の高校生とはかけ離れたものでしたからね。
平和で暖かな生活が彼女にはどうしても受け入れられないのかも。
自分が自分でなくなる感じで。
まひろが主人公とすると、ヴィクトリアは物語のキーキャラかな?

>白書さん(お久しぶりです)
むう、前回の詳しいお話し忘れてしまったw
でも、相変わらずほんわかしたムードと緊張感が結構うまい具合に融合してますね。
今から前回までのお話を読み直してきます。でも、もう少し更新多めだと嬉しいな。


166 :作者の都合により名無しです:2006/12/30(土) 16:07:21 ID:67pAjWVg0
スターダストさんの永遠の扉、どんどんお話が膨らむなあ
前作のボリュームをはるかに超えるな
内容も、前作より親しみやすい。
まひろのキャラが明るいからね。
ネゴロと千歳はまじめ過ぎるからw

167 :ふら〜り:2006/12/30(土) 22:09:29 ID:fjLmT8EM0
>>店長さん
結局、のび太たち含めて誰もケガなどしておらず、明らかに敵意をもって狙われたりも
しておらず。なのに、不気味な怖さがありました。ウルフマンのことにしても、はたして
どこまでが事故なのやら? でしたしね。フリークたち、敵になるのか味方になるのか……

>>サマサさん
荘厳なまでに豪快なラスボス戦が終わった直後の、耳を塞ぎたくなるほど静かなもう一つ
の最終戦。華やかな美少女も笑わせてくれる野郎も廃した、主人公のび太の幕引き。
ここまでの雰囲気になると、ここから大団円へどう繋がるか、予想させなさっぷりが何とも。

>>スターダストさん
まひろ→秋水とはまた一味違う、秋水→ヴィクトリア。凍ってるものを溶かしたい、閉じた
扉の外を見せてあげたい、と。しかしこうして図式化すると秋水、中心ですね。個人的
には総角・小札側に愛着ありますが、主人公ポジションなのはやっぱり秋水なんでしょか。

>>白書さん
お、小狼カッコいい。彼はさくら、あるいはのび太とかと違って充分な戦闘訓練を積んでる
専門家なんですもんね。とはいえ、基本的に相手はバケモノ(というには可愛いですけど)
ばかり。自分と同等かそれ以上の超能力者たちと対峙して、どこまでさくらを護れるか?

>>邪神? さん
おひさです。溜まったネタはしっかり書き留めといて、PCが使えるようになったら一気に!
お願いしますぜぃ。しかし今思えば、剣はこの時期、盛り上がってましたねぇ。カブトは……

>>予告
何とか、お年玉に間に合いました。ずっと前に、私宛ではありませんでしたが語ろうスレで
リクエストのあった作品です。今回は充分にメジャーな題材ですのでご安心を。最後まで
書ききれば間違いなく長編になります故、よろしくです。
というわけで皆様、よいお年を!

168 :作者の都合により名無しです:2006/12/31(日) 10:26:19 ID:3HmMLj9/0
おおふらーりさん連載予告ですか。

でもふらーりさんがメジャーな題材?
パタリロか?w
メジャー作品の中に必ずマイナーなキャラが混ざると思うw

169 :作者の都合により名無しです:2006/12/31(日) 12:38:20 ID:y02L3zDj0
ふら〜りさんがメジャーな題材か。
楽しみだ。でもちょっと前の作品だろうなw

170 :さい ◆Tt.7EwEi.. :2006/12/31(日) 21:46:50 ID:Mlqa2v3ZO
年内に続きをお届けしようと思っていたのですが、なかなか筆が進みませんでした。
申し訳ありませんが、レス返しと年末の御挨拶だけ書かせて下さい。

>>102さん
ヨーロッパに限っては神父の名は轟いてると思ってます。巨大組織のカトリックが陣取ってますし。
あのキレまくり大会は計算外でした。気付いたらあんな事に。
あと御支持の言葉ありがとうございます!

>>104さん
いやいや私なんぞを大黒柱なんて言ったら他の古参の職人さんに怒られちゃいますよ。
私は唯々、精進あるのみです。
今後の作品にもイッちゃってる系のキャラは最低一人は出てくると思います。大好きなもんで。

>>107さん
どうやら私は品性下劣にまみれた私生活を送る星の下に生まれてしまったようです。

>ふら〜りさん
もう主役は神父と開き直ってしまったものでw
これから神父VS防人一行、カトリックVS錬金戦団に向けて物語を収束・加速させていきます。

171 :さい ◆Tt.7EwEi.. :2006/12/31(日) 21:47:54 ID:Mlqa2v3ZO
>店長さん
文句言う前に殺されますからねえ。
拳銃を抜いたガララ・ニョロロみたいなもんです。
神父の攻撃に関しては両作品の世界観を壊さない程度にムチャクチャな事を考えてありますw

>スターダストさん
オリジナルの武装錬金はある事情からかなりの数を考えてます。
サムナーのインヴィジブルサンはこれから御披露目ですが、ウィンストンも追々に。
細い煙が特性のヒントです。
>照星のボツ案
バレたw
一応、直接ではないにしろ照星の師匠的存在という設定なので。
あとはステロタイプなアニキキャラのイメージに、とあるミュージシャンをモデルにしてチョコチョコと。
舞台もキャラも欧州中心なので、作品全体にも何とかそういう風味を出していきたいな
と色々考えてしまいます。努力だけは買ってやって下さい。
>永遠の扉
ヴィクトリアのパートですね。
生い立ちや性格から本当にかわいそう過ぎて負の感情移入をしてしまうキャラです。
今回のお話のくだりでもヴィクトリアの内面を深く映し出しており、読んでて切なくなります。
『永遠の扉』ではまっぴーと同じくらい、かつ違った意味で見つめていたくなる存在だなあ。

172 :さい ◆Tt.7EwEi.. :2006/12/31(日) 21:49:41 ID:Mlqa2v3ZO
今年10月よりバキスレに参陣させて頂き、思いがけず皆様から御支持を頂いたばかりか
年末には新人賞受賞と、驚きと光栄と感謝の極みでした。
本当に応援ありがとうございます。
来年は『WHEN THE MAN COMES AROUND』を完結させ、それ以上のクオリティを新作の
『まっぴー&婦警SS』で出していけるように努力します。
目指すは大賞、バトル賞、最優秀キャラ賞!
今年は本当にお世話になりました。
来年もよろしくお願い致します。
それでは良いお年を。

173 :修羅と鬼女の刻:2007/01/01(月) 18:48:09 ID:e1p47OVy0
第三の幕府、江戸幕府。その末期には坂本竜馬や新撰組、薩摩や長州が
己の信念と日本の未来を懸けて戦った。
第二の幕府、室町幕府。その末期には織田信長や豊臣秀吉、徳川家康らが
己の野望と天下の覇権を懸けて戦った。
そして第一の幕府、鎌倉幕府。その末期、すなわち日本国史上最初の
「幕末の動乱期」においても、前述の坂本竜馬や織田信長たちに劣らぬ
英雄たちが激しい戦いを繰り広げた。
決して譲れぬ思いを胸に、己が信じる何かのために……

煌々と照る満月の明かりがなければ、伸ばした腕の先さえ見えないような深夜の闇。
虫や獣の声、川や滝の音以外は何も聞こえない深い山中。
だが今宵は特別、松明の明かりが辺りを照らし、男たちの争う声が響き渡り、
剣戟の音が満月に届けとばかりに響いている。その中心で、
「ぬんっ!」
剣戟、ではなく拳撃の音が響いた。腰を低く落とした男の拳が、鎧を打ち砕いたのだ。
砕かれた方の武者は、ひとたまりもなく尻餅をつく。そして粉々になった鎧の腹部を見て
冷や汗を流した。その鎧のすぐ下、自身の腹部が無傷なのは、鎧のおかげかそれとも、
「次は手加減しない。その弛んだ腹を貫き臓腑を抉るぞ」
……鎧のおかげではなかったらしい。月光を背負い、武者を見下ろして立つ
その男は、本当に鎧ごと人体を拳で貫くことができる。そう信じさせる気迫と
殺気を漲らせて、男は重く低い声で言った。
「どこの木っ端役人が知らんが、お前の主人に伝えよ。正規の税ならば我々も大人しく
納める。だがお前たちが私服を肥す為の無法徴収ならば、何度でも力ずくで奪い返すと」
さほど大柄ではないが、がっしりとした体躯に粗末な防具を身につけている。長い髪を
夜風になびかせ、意志の強さを現しているかのような鋭い目には闘志と知性が
同居しており、ただの盗賊団の頭とは思えぬ威厳がある。
武者は思い至って、震えながら男を指差した。
「さ、さてはお前か、お前らか! 最近、頻繁に出没する河内悪党(かわちあくとう)
とかいうふざけた連中は!」

174 :修羅と鬼女の刻:2007/01/01(月) 18:49:03 ID:e1p47OVy0
「ふざけてなどいない。奪われたものを回収して、元々の持ち主に返しているだけだ」
「ふざけていないというなら賊だ、国賊だ! 畏れ多くも帝の任を受けている我らを……」
武者の言葉が止まった。いつの間にか、鼻の頭に男の拳が触れている。
「……え、拳? いつの間に」
と言った一瞬後、拳が起こした風が遅れて到着し、武者の顔を突き飛ばした。更に
その一瞬後、ぶっ、と音がして武者は鼻血を吹き出す。
「お前ら如き腐れ役人に、帝の名を語る資格などない。今度またそんなことを言って
みろ、頭蓋を壊して脳髄を掻き出すぞ」
「だ、だから、その、我らは、都の、畏れ多くも、みか」
「まだ言うかああぁぁっ!」
と叫び声を上げて憤怒の形相で襲い掛かってきた男に恐れをなし、
「ひいいいいいいいいぃぃっ!」
武者は、腰を抜かしたまま転がるようにして逃げ出した。
周囲で戦っていた双方の部下たちの趨勢も、それで決した。武者の部下たちは雪崩の
ように逃亡、男の部下たちは勝ち鬨を上げて戦利品の荷車に群がっていった。
これでまた、付近の村人たちが少しは救われるだろう。が、所詮は焼け石に水だ。今や、
日本中で腐敗役人たちの腐敗政治で民が苦しめられている。まるで後漢王朝の末期だ。
『とすると、我らは黄巾賊か? いずれ曹操や劉備のような英雄が我らを滅ぼし、
代わって天下を平和に治めてくれるならそれでもいいが……』
残念ながらそんな英雄に心当たりはないし、第一ここは日本だ。日本の主は天皇、つまり
帝であって曹操らのような武士ではない。武士でありながら政を掌握し天下を乱している
鎌倉幕府が滅んで、帝が直接国を治められるようになれば、きっと世は変わるであろうが。
「後醍醐帝は、都では聖王と称えられるほど徳の高いお方と聞く。……お前はどう思う?」
言いながら、男はそばにあった大木の幹に掌を当てた。と、大木の枝が一本残らず
大きく揺れて、無数の葉が千切れて舞い散った。その葉と一緒に、
「と、とっとっ、と!」
小柄な少年が降ってきた。器用に空中回転して、すとんと着地する。
歳は十七、八くらいであろうか。裾を絞った袴に、ゆったりとした白い道着。腰の後ろに、
鍔のない刀を横にして差している。武士ではなさそうだ。旅の武芸者か、あるいは……と
男はいろいろ推察するのだが、少年は何だか楽しそうに、ニコニコ笑っている。

175 :修羅と鬼女の刻:2007/01/01(月) 18:49:33 ID:e1p47OVy0
「あはは。いやぁ、凄い技だねお兄さん。唐手(からて)かな?」
「そうだが。そういうお前は何者だ。幕府の手の者か」
「いやいや、そんなんじゃないよ。ただ、恩返しでお兄さんと戦わなきゃならなくてさ」
「何?」
「でも、何だかなぁ。お兄さんがこれほどの使い手だったとは。これじゃ恩返しどころか、
むしろ恩が重なってしまうというか。むむ」
ほりほりと頭を掻いて、少年は困った顔をしている。
「どういう意味だ? 恩返しで戦うだの、恩が重なるだの。話が見えんぞ」
「だからさ。お兄さんほどの使い手と戦うのは、オレにとって楽しいことなんだ……よっと!」
言うが早いか、少年の脚が跳ね上がった。間一髪、男は後退してその蹴りをかわす。間髪
入れず、少年が踏み込んできて拳を繰り出した。男は両腕を交差して受け止めるが、その
凄まじい力に体ごと突き飛ばされてしまう。
只者ではない。男はそう直感し、瞬時に気持ちを切り替えた。やらねばやられる相手だ。
二人の間に、陽炎のような闘気が揺らめく。男の部下たちが、その並々ならぬ気配に
気付いてそちらを見る、と、
「せいっ!」
「ぬんっ!」
男と少年の上段回し蹴りが激突した。強大な力と力がぶつかり合い、周囲につむじ風、
いや竜巻を起こして全てを吹き飛ばす! ……ように見えた。
「なんだ、あの小僧は?」
「お、おい! あいつ、頭と互角にやりあってるぞ!?」
男の部下たちは肝を潰して二人を見守るが、当の二人はそんなこと意に介さず、
「あはは、やっぱ凄いなぁお兄さん」
「お前こそ……な」
相変わらずニコニコしている少年に、男も薄笑いを浮かべて応じた。だがおそらく脛は
内出血している。今と同じ蹴り合いを二、三度やれば、もう立っていられる自信がない。
それなのに、なぜだろうか。この少年と向かい合っていると、妙に心が浮き立つ。乱れた
世も、国の行く末も、何もかも忘れて、このままこうしてずっと戦っていたいような……

176 :修羅と鬼女の刻:2007/01/01(月) 18:51:10 ID:e1p47OVy0
「いくよっ、お兄さん!」
少年が、また踏み込んできた。男は素早く反応し、右の拳で迎え撃つ。少年はそれを
潜りながら男の腕を取って、捻り上げながら男に背を向けた。男の肘間接を極めて
肩に担いで、そのまま背負い投げへ。男の肘がミシリと軋んで靭帯が、
「ぬおおぉぉっ!」
男が跳んだ。右腕を取られたまま空中で側転して少年の頭上を越え、捻りを解いて
振りほどいた。着地、と同時に至近距離から左手で目突きを繰り出す! と少年は
上体を逸らして突きをかわしながら前蹴りを放ち、男は目突きを咄嗟に肘落としに
変えてそれを打ち落とした。
少年が後ろに跳んで、間合いを取る。仕切り直しだ。
「あはは……もう、ほんとに、言葉がないよ。想像以上だ、お兄さん」
「無駄口を叩くな。次で終わらせるぞ」
「だね。オレもそのつもりだよ」
これが瞬き二つほどの間、正に瞬間の攻防。二人の、人間離れした戦いを
男の部下たちは身じろぎもできずに見入っていた。
二人の間の空気が、陽炎が、ますます熱く濃く強くなる。互いに必勝必殺を決意し、
拳と脚に気を込めて大きく一歩を……
「そこまで!」
横合いから声が飛んだ。男の部下たちが、男が、少年が、そちらを見る。
「忘れたのか。私はその男の実力を測れといっただけで、殺せとは言ってないぞ」
「……あ、あはは。ごめん。つい」
少年が、一気に元に戻った。また困った顔になって、ほりほりと頭を掻いている。
茂みを掻き分けて出てきたのは、山伏姿の青年。とはいえ本物の山伏ではない
だろう。男には一目で判った。肌が白すぎるし、体格も華奢すぎる。どう見ても、
山野を駆け巡る山伏なんかではない。ただの村人以下、むしろ貴族か何か……貴族?
『まさか。こんな山奥に、お公家様が来られることなど』
「河内悪党の首領だな。私は検非違使長官、日野資朝(ひの すけとも)という」
『っ!? あの、名門の……?』


177 :修羅と鬼女の刻:2007/01/01(月) 18:51:43 ID:e1p47OVy0
「お前たちの噂は、都まで響いている。そして勿体無くも帝のお耳に達し、いずれ
幕府打倒の蜂起の際には、ぜひ一軍として迎えたいとの仰せだ」
といって資朝は、一通の書状を広げて見せた。月明かりの下、男は目を凝らして
それを見る……間違いない、本物だ。ということはこのお方は本物の検非違使長官、
つまり帝の言葉、後醍醐天皇の言葉というのも事実!
「か、か、かしこまりましたっ!」
男は顔色を変えて平伏した。後ろにいた部下たちも慌ててそれに倣い、一同土下座。
「我らも、常日頃より現在の幕府のあり方に疑問を感じております! 帝が幕府を
討伐なさるというのであれば、この身命を賭して……たとえこの先百戦百敗しようとも、
この私が生きている限り、必ずや最後には帝に勝利を献じ奉るとお伝え下さい!」
「うむ。その言葉を聞けば、帝もさぞ喜ばれるであろう」
資朝が満足そうに頷いた。その袖をくいくいと引っ張って、少年が不満そうに言う。
「あのさ、盛り上がってるトコごめん。オレ、さっきの続きをしたいんだけど」
「……付き合ってやりたいのは山々だが、それはもうだめだ」
男が顔を上げて少年に答えた。
「帝の命を受けた以上、この命は帝の為にのみ使う道具。お前とやりあえば、おそらく
俺は死ぬまで戦いたくなってしまうだろう。だから、もうお前とはやらん」
「え〜! そんなぁ」
「戦が終わり、幕府が倒れ、帝の治世が完成し、平和な世が訪れたら……その時にな」
「あ、それだったら、オレも手伝うよ。で一日も早く戦を終わらせる。いいだろ?」
少年が資朝に問いかけた。資朝は「もちろんだ」と頷く。
「よし、決まりっ」
「決まりって、お前は一体何者なんだ。資朝様の従者か何かか?」
その質問には、資朝が答えた。
「私が山中で大猪に襲われていたところを助けてくれてな。その時の、一撃で獣を
打ち倒した力を見込んで、お前を試す役目と私の護衛を命じたのだ」
「では、資朝様の恩人ということですか」

178 :修羅と鬼女の刻:2007/01/01(月) 18:59:43 ID:e1p47OVy0
今度は少年が、ほりほりと頭を掻きつつ答えた。
「いやいや。ただオレは、腹減ってたから焼肉を食おうとしただけで。でも猪一頭じゃ
全然足りなくて、腹減りすぎで目が回って死にそうになってたら、この人が
弁当を分けてくれたんだ。だからオレの恩人。だから恩返しをしようとして、さ」
「うむ。この少年、腰を抜かしてた私の目の前で大猪を撲殺して焼いて食って、
それでも足りないと泣いて、その間ずっと私に気付かなかった様子でな」
「あはは。いやあ、それを言われると」
「……」
どうやらこの少年、馬鹿だ。それも並大抵ではない、かなりの大馬鹿だ。
「ま、まあいい。ではお前は、俺と共に幕府を相手に戦ってくれるというのか? 
それはこちらとしては願ってもない、心強い話だが」
「もちろん! だからさ、ぱぱっと戦を終わらせて、もいっぺんやろう、お兄さん!」
少し背伸びして、ぽん、と男の肩を叩く少年の瞳は、無垢で無邪気で。つい先ほど、
修羅のような強さを見せつけたのが嘘のようだ。
あるいは、とんでもない大物なのかもしれない。あるいは、ただの大馬鹿かもしれない。
男は我知らず苦笑しながら、少年に言った。
「何はともあれ、これからよろしく……だな。俺の名は楠木正成。お前は?」
「オレは、やまと」
ほりほりと頭を掻きながら、少年は名乗った。
「陸奥大和だよ。よろしくっ」

179 :ふら〜り ◆XAn/bXcHNs :2007/01/01(月) 19:00:52 ID:e1p47OVy0
うむ、あけましたね。では、おめでとうございますっっ! 本年もよろしくっ。
さて。日本史は結構好きなので、「風雲児たち」を筆頭にいろいろ嗜んでおります。で、
幕末よりも戦国よりも好きなのが太平記でして。漫画にもアニメにもゲームにも同人にも
絶望的なほど取り上げて貰えませんが、私は大好き。足利兄弟も楠木兄弟も萌え。
てなわけで。予告通りのメジャー題材、「修羅の刻」太平記編、お付き合い下さりませ。

……はぁ。コーエーさん、太平記に目ぇつけてくれないかなぁ。もちろんルビーでも
大歓迎なんだけどなあぁあぁ。


180 :作者の都合により名無しです:2007/01/01(月) 23:13:02 ID:m1ti2MOs0
おお、修羅の刻でしたか!
ふらーりさんのシリアスものってこれがはじめてかな?
期待してますので頑張って下さい!

181 :作者の都合により名無しです:2007/01/01(月) 23:30:48 ID:ptdBzwsc0
男性諸君、結婚すると不幸になる。幸せにして当たり前で感謝無し。都合の良い奴隷としてだけ感謝され、搾り取って用済みになればゴミ箱へポイ
女の外面は綺麗で清潔で良い人、内面はずるくて汚いため、口も悪い+薄情+嘘+女同士も上辺仲良し裏では悪口三昧
女の成分はA(性悪陰湿残忍+損得自己中感情)+B(良い女演技+体形+整形化粧+ファッション)
↑良い女演技は好きな男>>異次元>>男集団>他人の順に良くなる。年齢とともにBのメッキがはがれ内外ともに醜くなる(Aの良い女は極少数)
女は「人生の不良債権、北朝鮮、金メッキを施したゴキブリ」うわべが良くなればなるほど、内側は悲惨になっていく(家の中等
男女は対等で平等。男が女を養ったり守る必要はない。女はずる賢い。情けは不要!つけこまれるぞ
女は社会的優遇、過剰な法的保護、仕事と家庭の二束のわらじを得て、女尊男卑
(割りに合わない仕事は回避して結婚、楽な仕事は女で占拠→しわよせは全て男に)

★結婚は保留し、沢山の女と自由に恋愛(sex)を楽しめ♪★避妊必須
★捨てた女は優しい真面目男が結婚(残飯処理)してくれるさw★

それでも結婚する君へ究極護身法→夫婦財産契約登記
契約により、自分の稼いだ財産はすべて自分の物

弱い者いじめは最低と言いつつ、赤ちゃんを殺す母親(そして無罪判決(笑
狙撃は女子のほうが強い。男はノイローゼになってやめてしまうが
女は何人殺してもノイローゼにならない。骨盤が安定しているため

ナチスの拷問で、女の拷問の残虐非道さを見て、拷問をしていた男達もひいたという
拷問しながら楽しそうに笑みをうかべていたそうだ。罪悪感や引け目が無い

・有史以前が女尊男卑の時代だったことを指摘したのは、スイスの学者バッハオーフィン
アマゾン女族の女王は、法律を定め、男達には卑しい奴隷の仕事を課した
男児が生まれたら、生き埋めにするか、脚と腕を不自由にして、戦えなくし奴隷とした
・古代エジプトでは女性権力が非常に大きかった
・日本でも卑弥呼が女王
http://kr.img.dc.yahoo.com/b1/data/dci_etc/76.wmv ←女集団が女一人をリンチしている動画(執拗に蹴り続けながら皆楽しんでる 一部エロ有

女は虐げられてきた?父系社会など人類の歴史から見ればほんのわずかな期間に過ぎない。むしろ

182 :作者の都合により名無しです:2007/01/02(火) 01:30:36 ID:RhaUIjcZ0
>さいさん
来年へ向けて気合が入りまくってて好感が持てます。
サイトも巡回してますので、そちらも楽しみにしてます。

>ふら〜りさん
ふら〜りさん新作お疲れ様です!
今までの可愛らしい作風と違って、史実を舞台にですか。
楠木正成と陸奥との友情?を、しっかりと見届けたいと思います。

183 :作者の都合により名無しです:2007/01/02(火) 11:48:45 ID:KHAHeJTW0
新参ですが、空気読まずにちょっくらSS投下します。


184 :ヴィクティム・レッド:2007/01/02(火) 11:49:45 ID:KHAHeJTW0
「いいえ、あの人はみんなが思っているような傲慢な人でもなければ、
死と破壊に取り付かれたような怪物でもありません。
ただ、ちょっと怒りっぽくて、世界のあり方と自分の違いに苦しんで、でもそれをなんとかしようとしている。
 ──そんな、どこにでもいるような男の子です。わたしの、大切なお兄ちゃんです」


 横浜──。
 日本でも有数の港町であり、世界でも有数の中華街、その街並みを一人の少年が歩いていた。
 真夏だというのに長袖のシャツを着込んでいるが、暑そうに感じている様子はない。
かといって涼しそうな顔をしているわけでもなく、ただ暑さも寒さもどうでもいい、そんな風情だった。
「あ、ねえねえ、あの子可愛くない? 外国人?」
「モデルとかじゃない?」
 そんな声が少年の耳に聞こえてきた。それが自分を指していることは、周囲から発せられる視線と
気配でなんとなく知れた。
(……くだらねえ。なにをじろじろ見てやがるんだ)
 少年はかすかに眉をひそめた。そのせいで、もともと険しかった目つきがいっそう厳しいものになる。
無造作に伸ばされた金髪をかきあげると、青い瞳が苛立たしげに光を放った。
 アーリア人種としての特徴を完璧にそなえたその相貌は、確かに人目を引くものではあった。
外国人を珍しがる日本人の性格についても知識の上では把握している。
なにかの明確な悪意がある訳ではないことは理解していた。
 だが、それでも、少年の心に湧き上がるささくれた気持ちを抑えることは出来なかった。
 唾でも吐いてやろうかと思ったが、それだと自分が今苛立っていることを認めているようで、
少年の気にはいらなかった。その代わりにがさがさとポケットから一枚の紙を取り出し、眺める。
「『卵ヨリ鵺ヘ──飼イ葉ヲ食ム黒イ羊ヲ屠殺セヨ』、か。ふん、何様のつもりだ」
 誰にも聞こえぬように毒づき、
「まあいい。あんたらのお望みどおりに仕事をしてやるよ。オレは誰にも負けない」
 ぐしゃりと紙を握りつぶす少年の瞳は、ぎらぎらと不穏に輝いていた。

185 :ヴィクティム・レッド:2007/01/02(火) 11:50:49 ID:KHAHeJTW0

 横浜港から少し離れたところにある、倉庫街の一つ、古ぼけて打ち捨てられたその廃倉庫に、彼らは集っていた。
 幾つもの木箱が山と積まれた真ん中で、二つの集団が微妙な緊張感を漂わせながら対峙している。
「それで、ブツはこれか?」
 そう言ったのは二つの集団の片方側のリーダー格、明らかに日本のヤクザと分かる出で立ちの男だ。
「そうだ、確認してくれ」
 それに答えるもう片方の──そいつらは、一目にはどういうやつらなのか計りかねる雰囲気を纏っている。
そいつらの身なりは黒のスーツで統一されているが、その着こなしはマフィアやギャングというには上品すぎた。
ただの武器商人というには染み付いた血の匂いがきつ過ぎる。どこかの諜報機関といわれればそんな気もするが、
やはり違和感はぬぐえない、そんな集団だった。
「しかし、これだけの銃器をどうやって──?」
「あんたたちが知る必要はない。契約の内容に不満が?」
 言葉をさえぎる口調に、ヤクザたちは思わず息を呑む。そこにはおよそ人間らしい響きが欠落していた。
まるで人を人と思わない、自分たちをここに居並ぶ箱と同列の物として扱っているような──。
「い、いや、そんなつもりじゃないんだ。……お、おい」
「へい」
 あたふたと、ジュラルミンのアタッシュケースが差し出される。
 黒服がそれを受け取ろうとしたときだった。
「おいおい、火遊びが過ぎるんじゃねーのか」
 そんな場違いな声が倉庫に響き渡った。
 その場の全員が身構えるのへ、さらにどこか投げやりな言葉が降ってくる。
「ま、あんたらがどうやって小遣い稼ぎしようがオレには知ったこっちゃねーんだけど、よ──」
「上か!」
 黒服の一人が懐から拳銃を抜く。それが示す先、うずたかく積み上げられた木箱の上に、一人の少年が座っていた。
「ただな、ボスの命令なんだ。ウチの物資を横流ししてる馬鹿の息の根を止めて来い、ってな」

186 :ヴィクティム・レッド:2007/01/02(火) 11:51:53 ID:KHAHeJTW0
 その言葉に、黒服たちが真っ先に反応する。
「貴様、まさか──!」
 少年は木箱を蹴って宙に踊る。数秒後にはだん、とコンクリートの床に着地した。
 端正な顔立ち、無造作に伸ばされた金髪、その奥に光る青い瞳。
「で、ま、こうしてオレみてーなエージェントが派遣されたわけだ。
……ああ、ヤクザのおっさん、あんたらは大人しくしてりゃ殺さない。命令に入っていないんでな」
 冗談っぽく言う口の端は、きゅう、と吊上がっていた。
「ふざけるな!」
 激昂したヤクザの一人が、少年に向けて発砲する。
 だが、少年はそれをするりと避けた。まるで当然のように。歩くような速度で。
「ふん、相手の実力も見極められない馬鹿だってんならしょーがねえ」
 少年はひらひらと両手を振り、今や黒服もヤクザたちもいっせいに銃を構え、
「全員、死にな」
 その両手が背後に回された次の瞬間には、少年は両手に二丁拳銃を握り横に跳んでいた。

 それは、信じられないような光景だった。
 幾重もの銃口が向けられているにも関わらず、それらが放つ銃弾は一発たりとも少年に命中しないのだ。
 その一方で、少年が吐き出す弾は確実にこちらの人数を減らしてゆく。
 最初はヤクザから、そしてそれが全滅してから、黒服へと。
 弱いものから戦力を削る──。
 冷静に、かつ容赦のないその動きは、明らかに特殊な戦闘訓練を積んでいる者のそれだったが、
それを踏まえても、この圧倒的な人数差を覆す理由にはならない。
 こいつは、人間なのか?
 少年が発砲してから数分後、累々と重なる死体と、不敵な笑みを貼り付けてこちらを睨む少年とを眺めながら、
もはや最後の一人となった黒服はそんなことを思った。

187 :ヴィクティム・レッド:2007/01/02(火) 11:52:58 ID:KHAHeJTW0
「お前は……何者なんだ? 本当に人間なのか?」
 そう問いながら、黒服は一歩後ろに下がった。
「さーな。オレが教えて欲しいくらいだ」
 と、馬鹿にしたような答と共に少年が足を踏み出そうとするのを見て、黒服は内心でほくそ笑む。
 そして、二人の間に隔たる六メートルほどの距離を、一歩で詰めた。
「なに──」
 少年の口からそんなつぶやきが漏れるのにかまわず、黒服は己の右腕の内部から
特殊鋼のブレードを突き出し、それで少年の胴を斬りつけた。
 がき、と鈍い金属音がする。少年が咄嗟にに交差させた拳銃が両断された音だ。
 だが、手応えはあった。その障害物すら物ともせず、少年の胸と肋骨を切り裂いた感触が。
 どさりと少年がうつぶせに倒れる。それを見下ろしながら、破れたスーツの袖を押さえる。
「悪いな、こっちもただの人間ではない。自分はサイボーグだ。湾岸戦争で右腕と両足を失い、そして新たな手足を得た」
 もう聞こえてないだろうがな、と男が心の中で付け加えた。
 だが。
「あんた、サイボーグだったのか」
 確かに致命傷を負わせたはずの少年が、けろりとした表情で起き上がるではないか。
「しかもその異常な速度……最近、試験的に配備されてる高機動型か?」
 血に染まった長袖を脱ぎ捨て、Tシャツ一枚になる。
「くそ、あいつ、そんなこと一言も言ってなかったぞ。情報を出し惜しみしやがって。
オレの戦闘能力でも計るつもりだったのか? ったく、マジで何様のつもりだ」
 そして、少年はやっと男のほうを見た。その双眸は、怒りに燃えていた。
歯を剥き出しにして、身体全体から憤怒の感情を放射していた。
「チンケな裏切り者にこいつを使うつもりは無かったが……最新型のサイボーグだってんなら話は別だ」
 少年は両腕を真横に伸ばした。引き締まった、よく鍛えられた腕だった。
「な……」
 男は、今度こそ驚愕と恐怖に襲われた。
 少年の両腕が、異様な音を立て、その形を変えていく。人間の、いや、生物のものとは思えぬ異形の腕へ。

188 :ヴィクティム・レッド:2007/01/02(火) 12:03:06 ID:KHAHeJTW0
 そして、それは鋭角状の……まるで二本の刃のような形へと変貌した。
「貴様……何者だ!?」
 再び発せられたその問いに、少年は苛立ちを隠せない、棘のある口調で答えた。
「ああ? 見て分からねーか? あんたと同じだよ。エグリゴリの生み出した怪物さ」
 そう言い、少年はその大型のブレードを振るった。
 男は無駄だと半ば悟りながら、それでも機械化された俺の腕でそれを防ごうとする。
 だが、やはり、少年の刃は男の鋼鉄の腕を難なく断ち、もう片方の刃が男の胴体を真っ二つにしてしまった。
 自分で作った血の海にぐちゃりと落ちる。消え行く意識の中、男は最後の力を振り絞って再三の問いをぶつけた。
「貴様は、いったい……」
 男の思考が闇に溶けるその直前、少年の声が耳に届いた。
「レッド。オレは……キース・レッドだ」

 夕暮れの横浜中華街を歩きながら、少年──レッドは、心の内でぶつぶつ呟いていた。
(ムカつくぜ……どいつもこいつも)
 血染めの服は早々に着替えたが、肌に染みた血の匂いはまだこびりついているような感じであった。
 問題なく仕事を終えたのだから、こんなにカリカリすることもないだろうと自分に言い聞かせてみるが、効果はない。
 手傷を負わせられる不覚を取ったこと、その原因である情報の隠蔽、そしてそれを命令した──。
「キース・ブラック」
 その言葉が口から漏れるとき、レッドはいつも叫び出したくなる。
 胸に渦巻くあらゆる悪感情のすべてが、そこに起因しているような気がして。
「見てやがれ……オレはもっと強くなって、そして、あんたら全てを、あんたらの信じている全てを覆してやる」
 ふと、振り返る。
 真っ赤な夕日が街の向こうに沈もうとしていた。それを美しいと思うだけの心の余裕はあった。
 キース・レッドの苛立ちは、まだ収まらない。


第一話『赤』 了

189 :作者の都合により名無しです:2007/01/02(火) 12:06:07 ID:KHAHeJTW0
とりあえず以上す。
ARMSのキース・レッドの少年時代ってどうだったんだろうなー、
なにをどうしたらあんな性格歪んじゃったんだろうなー、とか思ったので書いてみました。
お目汚し失礼しました。

190 :作者の都合により名無しです:2007/01/02(火) 12:50:41 ID:96tpg7JP0
ARMSまで来るとは。
確かにレッドは他のキースシリーズに比べると描写少な目でしたね。
続きを期待しとります。

191 :永遠の扉:2007/01/02(火) 13:43:58 ID:Sp8b/9gh0
「武藤さん」
やや面食らった様子で秋水はその少女を呼んだ。
どうも一昨日から妙に遭遇しやすい。しかも逢うたび距離が狭くなりつつある。
路上から学校の屋上、学校の敷地内、一つ屋根の下の寄宿舎。
些細ではある。が、意図せぬところで他人と接近するのにはまだ抵抗を感じてしまう。
けしてそれは嫌悪ではない。けれども手放しで喜ぶコトはできない。
現在の秋水は一種の過渡期の中にいる。
過酷な幼少期の経験ゆえに鎖してきた心をわずかに開き、世界の中を歩こうとしている。
他者との関係を構築しようとは望んでいるが、払拭しきれぬ黒の記憶に足を引かれてもいる。
そういう未整理状態の雑駁(ざつばく)とした心持ちゆえ、喜べない。
ただ、まひろ個人への感情はけして悪くない。
桜花を慮ったりヴィクトリアの世話を快く承諾したり、演技に対して一種の活力を持っていたり
ロッテリやではわざわざ秋水の食べる分を切り分けてくれたりする一挙一動には、カズキを
見るような眩さと一種の敬意を覚えている。
だから「武藤さん」などととっさに呼んだ。が、それはまひろの気に召さなかったようだ。
(うーん。どうしよう。丁寧な呼び方は嬉しいけど、私としてはやっぱりまっぴーの方が……
でも秋水先輩にいうのは何か失礼だし……もうこうなったら奥の手よ!)
瞳にめいっぱい力を込めて、太い眉毛をぐぐっといからせてみる。
まっぴーって呼んでまっぴーって呼んでまっぴーって呼んで……
念を送った。
本人のイメージとしては円状の光線がぴゅらぴゅら出てる感じだが、もちろんそこにいるのは
おかしな形相で秋水を見つめる少女が一人。
秋水は生真面目な表情でどうしたものかと悩んでいる。
効き目はなさそうだ
(て、手ごわい! さすがは秋水先輩! でも私だって負けるワケにはッ!!)
秋水はため息をついた。
「1つ聞きたい」
「何でもッ!」
「……さっきから君は何を考えているんだ?」
「内緒!」
「断っておくが、あだ名で呼ぶつもりは毛頭ない」
まひろはぎょっとした。

192 :永遠の扉:2007/01/02(火) 13:45:49 ID:Sp8b/9gh0
「な、なんで分かったの。秋水先輩もしかして超能力者? それとも宇宙人? 未来人?」
1オクターブ高い声でまくしたてるまひろはほとほと手に負えない。
秋水にとっては疾風のごとき死神の列である。抗う術は我が手にはない。
「あ、そうだ。ところでどうして秋水先輩が寄宿舎(ココ)に?」
まひろは気楽だ。勝手に逸らした話を勝手に軌道修正した。
「マンションの部屋からアスベストが出て撤去が終了するまでにここで暮らすコトになった」
桜花から教えられたとおりの口上である。
だが、ほどよく低い声で息もつかせず喋ると、二枚目俳優さながらの説得力が発生する。
「そうなんだ。あ、ひょっとしてびっきーのところへ?」
「この見取り図で寄宿舎の案内をしようと思っている」
「私もちょうど今から行くところだよ!」
人懐っこい笑みのまひろを見ると、秋水は罪悪感に囚われてしまう。
カズキを刺した件があるから、まひろに無条件な信頼を寄せられると辛い。
詫びねばならないと分かってはいるが、そのとっかかりをつかめずにいる。
更にちょっとした悩み事が1つ。
こっちは黙ったままでいても埒が開きそうにないので相談した。
「やはり時間をずらした方がいいだろうか?」
「うん?」
まひろは可愛らしく小首を傾げた。
「まだ早朝だ。寝起きに立て続けて訪ねるのは良くない」
あ、という顔でまひろは元気一杯に返事をした。
「大丈夫! 知ってる人が来てくれたらびっきーも安心するよ、絶対。それに秋水先輩も、寄
宿舎はまだ分からないと思うし。一緒に行こうよ。案内、私も手伝うよ!」
「あ、ああ」
剣道の試合ではめったに相手の気迫に呑まれぬ秋水だが、どうもまひろはその限りではなく……

数十分後。
ベッドに腰かけ中のヴィクトリアは、5mほど先で壁にもたれる秋水を睨んだ。
苦虫を噛み潰して粉雪をびっしりまぶしたような冷たい形相だ。
「あのコは一体何よ?」
「武藤カズキの妹だ」
ものすごく直球な答えを秋水はした。もっとも直球以外の答えができるほど彼は器用じゃないが。

193 :永遠の扉:2007/01/02(火) 13:47:04 ID:Sp8b/9gh0
「道理で」
実に苦々しい表情で、まひろが去っていった方をヴィクトリアは眺めた。
胸中は、先ほどまで繰り広げられていた茶番のような会話劇に映る。

「おはよーびっきー!」
「お、おはようまひろ」
ヴィクトリアには2つの顔がある。
「裏」は冷然とした毒舌家だが、「表」は見た目そのままの気楽な少女。
普通の人間には「表」で対応するのだが……
いかにもおたおたとした調子で返事をしてから、ヴィクトリアは秋水を見つけた。
(何でアナタがココにいるのよ)
(……まさか君が姉さんと同じタイプだとは)
絶対零度のツリ目に射抜かれながら、秋水は自らの不明に気付いた。
というのもまさかヴィクトリアが人間に対して猫を被っているとは予想していなかったからだ。
こうなるとマズい。
彼女は「裏」を知った人間の前で「表」の顔を延々と演じなければならない。
それは例えるなら、手品のタネをあらかじめ総てばらされたマジシャンの芸披露。
いかに繕おうと本質がバレている。茶番でしかない。
が、軌道修正はもはや不可。
「ね、ね。朝ごはんまでまだ時間があるしさびっきー。寄宿舎を見て回ろうよ!」
「わー本当? ありがとー」
トロくさい口調で答えながら秋水を睨む。
(ジロジロ見ないでちょうだい。それともアナタ、私をからかうつもりかしら?)
屈辱の極みだ。
英米攻撃機に追いまわされ害虫の様に地べたを這い回るような屈辱の極みだ。
見え透いた芝居を嫌いな戦士の前でやり続けねばならない状態。
結局、案内の時はまひろに何か答えた後、秋水を睨むというパターンに終始した。
最後にまひろは。
「困ったコトが言ってね。ちなみに私のケータイ番号は……」
ヴィクトリアと秋水にそれを教えると笑顔で去っていった。

「すまなかったパワード。今後は会話中の君に近づかないよう務める。他の戦士にもそう頼んでおく」

194 :永遠の扉:2007/01/02(火) 13:48:11 ID:Sp8b/9gh0
「何を今さら。当然の対応よソレ」
口をへの字に結ぶヴィクトリアは、いかにも生意気な少女という風体だ。
人外たるホムンクルスでそれ止まりなのはまだ幸いだが。
「大体何よパワードって」
「君の苗字だが」
秋水はいかにも意外という風だ。
恐らく名前で呼ぶコトが失礼に当たると思って、この呼び方を選択したのだろう。
いちいち細かい配慮だが、ズレている。ついヴィクトリアは冷笑を漏らしてしまった。
「ふーん」
秋水の性格が少しずつ分かってきた。騙そうと思えばいくらでも騙せる生真面目君。
それゆえに学校に誘ったコトに陰謀はなさそうと思い始める。
もっとも、指示を下した戦団が罠を隠している可能性もゼロではないが。
「呼び捨てが嫌ならば敬称もつける」
「アナタ、つまらないコトに拘るのね」
折り目正しい青年に対して鼻を鳴らした。
「別にいいわよヴィクトリアで。びっきーとか変なあだ名で呼ばれるよりはマシ」
「不服なら彼女(まひろのコト)に掛け合おうか?」
いやに親身な秋水に「どうせ無駄だと思うけど」と答えかけて、ヴィクトリアは口をつぐんだ。
(というか何で戦士なんかと普通に話してるのよ私)
考えるとまたイライラしてきた。イライラすると秋水を排斥せずにはいられない。
「もう用は済んだでしょ? 早く出て──…」
「その前にもう1つ話しておきたいコトがある」
のそりと歩み寄ってきた秋水に、心臓がヴィクっとなるヴィクトリアである。
(あ、案内の時の後遺症よ。ただ切り替えが上手くできてないだけよきっと)
怯えとも怒りでもない奇妙な感覚を抑えようと、敢えて冷たい声を出す。
「何よ」
座っているせいか、眼前に佇む秋水はいやに背が高く見えた。
「前にも話したと思うが、あの衝動だけは耐えられないはずだ」
人喰いの衝動のコトを秋水はいっているらしい。
「だから出てきた時は俺たちにいって欲しい。これは俺だけの意見ではない。戦団総ての意
向だ。施設面や技術面で協力できるコトがあればなんでもする」

195 :永遠の扉:2007/01/02(火) 13:49:25 ID:Sp8b/9gh0
「いいたいコトはそれだけ?」
ヴィクトリアは鼻白んだ。なぜか期待を裏切られた気分で腹が立つ。
「ああ。とにかく君がココで人喰いをするコトは絶対にないと思うが」
「あるわけないでしょ。100年ずっと抑えたくないモノを抑えてたのよ?」
母・アレキサンドリアのクローンの『出来損ない』にあたる部分を食べてきた。
だから実のところ普通の人間には食指は動かない。
「コレも今さら。アナタたちの協力なんて別に必要ないわよ」
「だが」
秋水は真剣な表情で一拍おいた。
「予期しない形で衝動が出て、人を傷つけてしまうコトもある。だからそうなる前に相談を……」
「随分と身に覚えがありそうな口ぶりね。アナタにはそういうコトがあったのかしら?」
ヴィクトリアとしては話題をすり替えがてら、気に入らない元信奉者を嘲ったつもりだが
「……ある」
とだけ答えて部屋を出て行く後姿に、軽く胸を刺された。
そういえば女学院で見た秋水の瞳には、自分と近しいモノがあった。
軽い皮肉にも真剣に答えるような男がどうして人を傷つけ、瞳に翳を宿しているのか。
ヴィクトリアは気になったが、強引に振り払った。
(知ったところで何になるのよ。アイツは戦士)
やはり疲れた。といっても同じ姿勢を続けてきた今までの疲労とは一味違う。
例えるなら凝り固まっていた部分を動かしたような。
疲れはするがどこかかすかな爽快感もある。
しばらく何をする訳でもなくじっとしてから、ヴィクトリアは腰を上げた。
(朝食でも取りにいこうかしら。たまには普通の料理も──…)
「ヴィクトリア、起きてる?」
とつぜん扉の向うから掛かってきた声にヴィクトリアは面食らった。
(ママ?)
理知的で慎み深い声に母を想起したが、首を振る。
その声は確か、昨晩自己紹介をしてきた大人しげな少女の物だ。
「う、うん起きてるよ」
(名前は確か、ワカミヤチサト)
がらがらと扉を開けると、例のごとく「表」の顔で対応する。
「お、おはよう千里」

196 :永遠の扉:2007/01/02(火) 13:50:54 ID:JEERNuXB0
「覚えててくれたんだ。ありがとう」
嬉しそうに笑う少女は、とかくアレキサンドリアに似ている。
ショートヘアーで理知的な美人。声は優しい余裕にあふれていて耳に心地よい。
なお、アレキサンドリアの人間時の身長は172cmとかなりの長身である。
その点を容貌と絡めると、むしろ169cmの千歳の方がアレキサンドリアに近い。
もっとも千歳はぴしぴしと物事を断定していくタイプで基本的には事務口調。
優しげに話す分、千里の方が似ているだろう。
髪を真ん中で分けメガネをかけている所や、アレキサンドリアより一回り小さい158cmの
身長を差し引いても、つい母の面影を千里に見てしまうヴィクトリアだ。
「え〜と。ご飯食べに行こうか?」
「うん。私もそのつもり。あ、でも」
千里はヴィクトリアの髪を見ると、こんなコトを言い出した。
「髪、ちょっと寝癖ついてるよ」
「えっ」
髪に触れると確かにところどころ乱れている。
気付くと彼女はまひろと秋水を恨んだ。なぜ、指摘しなかったのかと。
もっとも髪に無頓着そうな連中だからやむなしだ。
ホントだと追従笑いを浮かべながら、ちょっと困ってみせた。
「ゴメン。先に食堂行ってて。髪を梳かなきゃ」
ヴィクトリアとしては千里に配慮したつもりだ。
あくまで彼女は戦士やホムンクルスが嫌いなだけで、人間自体は憎んでいない。
更に千里は亡き母に似ているから、邪険にはしたくない。
けれど。
「良かったら私が梳くけど。ほら、長いと色々大変でしょ?」
意外な申し出に、ヴィクトリアはドキリとした。
母に似た少女にそれをされる。
100年生きた少女らしからぬ甘ったるい期待を抱いてしまう。
短い沈黙の後、ヴィクトリアははにかみながら髪梳きを依頼した。
もしその時の表情を秋水に見られていたら、武装錬金で地下空間に叩き落して3日は閉じ込
めていただろう。それ位の気恥ずかしさを不覚にも浮かべていた。

髪を留めていた6本の筒をするりと引き抜くと、艶やかな光が1つの流れになった。

197 :永遠の扉:2007/01/02(火) 13:52:06 ID:JEERNuXB0
背中の半ばまで伸びたストレートヘアーを千里に褒められると、ヴィクトリアの鬱屈していた
部分が溶けていく。
「………」
ヴィクトリアはまたベッドに腰掛けて、千里はその後ろで両膝立ち。
丁寧に丁寧に髪を梳く千里に、限りない郷愁を覚えてしまう。
幼い頃、アレキサンドリアもよく同じコトをしてくれていたのを思い出した。
しゃっしゃっと梳られる感覚は、懐かしくも切ない。
「どうしたの?」
黙り込んだヴィクトリアを心配したのか、千里は声を掛けた。
「ずっと昔に、ママもこんな風にしてくれたなーって……」
「私もよ。なんていうか落ち着くよね」
「うん」
できるコトなら、毎日髪を梳いて欲しいと思った。

まひろは業務用炊飯ジャーをがぱりと開け、しゃもじで一生懸命ごはんを盛り始めた。
量は実に多い。通常の生徒ならすりきれ一杯が目安だというのに、まひろは山盛りだ。
まんが日本昔ばなしの老夫婦を彷彿とさせるほどに。
ちなみに米は千歳が炊いて、いまは食堂のおばちゃんと一緒にめざしを焼いている。
「あとはコーラ、コーラ。エイ!」
おぼんにご飯を乗せたまま、まひろは食堂備え付けの自販機を操作して、真赤な缶を乗せた。
よくもまぁバランスを崩さない物だと、秋水は妙なところで感心した。
朝食を摂りにきたらまた出逢った。時間的には当然だが。
「秋水先輩、隣は……あ、桜花先輩が座るよね。じゃあ前に座っていい?」
「ああ」
近寄ったまひろに答えてから、秋水は疑問を抱いた。
「食事はそれだけなのか?」
まひろの持っているお盆には山盛りご飯とコーラのみ。
「もちろん! 一緒に食べるとおいしいよ!」
シャキンっと引き締まって生真面目な、しかしどこかユーモラスな形相でまひろは答えるが
さすがに秋水でも拾える範囲の奇行であろう。
「栄養が偏っている。もっとバランスよく食べるべきだ」
そういう秋水の前には、ごはんと味噌汁と香の物。更にめざしが焼けたら食べる予定だ。

198 :永遠の扉:2007/01/02(火) 13:52:45 ID:JEERNuXB0
「そーかなぁ。炭酸を抜いたコーラって栄養あるんだよ。だから!」
まひろはしゃかしゃか缶を振り出した。
炭酸を抜きたいのだろう。
で、手が滑った。まひろの手元を離れた缶は秋水の額を直撃した。
いかに剣腕鋭い秋水といえど、まったくの不意打ちには反応のしようがない。
机でバウンドしてから床にごとりと落ちる缶。
「ご、ごめん! 大丈夫? ケガはない? 指は何本に見える?」
まひろはピースサインを差し出した。
「気にするな。至って無事だ。ケガはないし、指は……3ぼ」
言葉半ばで秋水は昏倒し、イスから転げ落ちた。流石に400g近い缶の直撃は答えたのだろう。
さて、秋水を語る上では避けて通れない文言というのが2ch界隈にはある。
だがよもやこのSSにおいてこれを用いるコトになろうとは。筆者もいささか驚いている。

秋水死亡。

「たた大変、秋水先輩が燃え尽きた──!!」

千歳はしゃなりしゃなりと厨房から出てくると、秋水の顔に自分のそれを近づけた。
息がかかるほど近くでまじまじと額を見て、瞳孔を見たり脈を図ったりした。
最後におどおどとコトの成り行きを見守るまひろの前で秋水の身を起こし、活を入れた。
「これで大丈夫よ。安心して」
実に手際がいい。しかし場の状況が状況だけに、クールさが却って滑稽だ。
「ありがとう寮母さん!」
千歳が去る頃に秋水が復活し、ついでに桜花が来た。

「災難だったわね」
秋水の右隣で桜花はクスクス笑った。だがどこか笑顔の雰囲気ではない。
「姉さん、まさか怒っている?」
「怒るワケないじゃない。おかしな秋水クンね」
その頃、彼女の自室では御前が枕を殴っていた。
「チクショー秋水の野郎! 桜花より先にまっぴーと朝メシ摂りやがってェー!」
目を吊り上げて御前は八つ当たりを続ける。「このド畜生がァッ!」と枕を蹴りまくる。

199 :永遠の扉:2007/01/02(火) 13:53:56 ID:JEERNuXB0
桜花と意識を共有して、わりと彼女の汚い意見をダダ漏らす御前が。
「そんなにっ、そんなにまっぴーが好きなのかよ! もう桜花には見向きもしないのかよ!」

「おはようびっきー、ちーちん。あ、枝毛発見!」
沙織は開口一番、ヴィクトリアの髪を引き抜いた。
「え、枝毛なんてあった? 千里に充分梳いてもらったのに」
食堂の入り口近くで、ヴィクトリアは微妙な痛みに顔を歪めた。
「そうかなー? 梳いても1本ぐらいはあるよ」
それを見たかったが、沙織は手際よくポケットにしまったから見るコトはできない。
廊下に捨てればいいのでは? という疑問も生じたが、恐らく後でゴミ箱に捨てるのだろう。
「おはよう沙織。朝部屋にいなかったけどどこへ行っていたの?」
「んー。急にラジオ体操が見たくなっちゃって。でもこの時期はあまりいないねラジオ体操」
ヴィクトリアに同伴していた千里はため息をついた。
いいコだが幼すぎて、時々高校生らしくないコトをやらかす。
そして食堂に入ると、まひろがいた。彼女の友人なので千里は沙織ともども彼女の横に座り
ヴィクトリアは秋水の左隣。
期せずして秋水は女性陣に囲まれて、他の男子生徒の嫉妬と羨望を浴び始めた。
もっともそれも束の間だ。
沙織がヴィクトリアを誘ってコーラを買ったのだ。
この瞬間、秋水は嫌な予感に囚われた。席を立とうとした。だが。
「あら秋水クンどこへ行くの? 私との食事がまだじゃない」
桜花は微笑んでいるが、根底にあるのは何やらザラっとした恐ろしげな感情だ。
(俺の事情も少しは分かってくれ姉さん)
やむなく着席。同時に前方でコーラを振りはじめる少女2人。
席に座らずそれをやる行儀の悪さはともかくとして、その位置で手が滑れば缶は必ず秋水へ。
右か左か──
すでに額に傷を負ってる今の秋水にとって、一瞬の遅れ、一瞬の判断違いが命取りになる。
彼は回転某六連に向かう緋村某のような緊張を以て、沙織とヴィクトリアの手を見た。
果たしてヴィクトリアの手が滑った。缶が飛来した。
彼女の抱く感情や先ほどのやり取りから考えればそれは故意の疑いもあるが、追及は後。
戦うべき時は今。缶を見るべき時は今。
うねりを上げて額を狙う缶を秋水はキャッチ。さすがホムンクルスが放っただけあり重い。

200 :永遠の扉:2007/01/02(火) 13:55:01 ID:JEERNuXB0
強烈に痺れる掌。そこへ休むコトなく強烈な打撃が加わる!
(一缶目に隠れて全く同じ軌道のニ缶目────!?)
沙織の放った缶が寸分たがわずヴィクトリアの缶に重なって、掌ごと秋水に直撃した。
その重さはヴィクトリア以上に感じられたが、恐らく手の痺れのせいだろう。
「あ! ゴメン秋水先輩。手が滑っちゃって!!」
素っ頓狂に叫ぶ沙織の声を聞きながら秋水は昏倒した。
それから千歳はしゃなりしゃなりと厨房から出てくると、さっきと同じ手順で活を入れた。
「これで大丈夫よ。安心して」
「ありがとう寮母さん!」
女性陣は感謝の声を上げた。そして秋水はコーラが嫌いになった。

以下、あとがき。
新年あけましておめでとうございます。
旧年中はバキスレと武装錬金とともに歩んだ実り多き年でした。
アフターを読んで「もう終わりなんだよなぁ」としみじみしてたらドラマCDが2つ出て、アニメ化
して、更に更に//。今年はDVDとゲームが出ますので、永遠の扉でもそのネタをばしばしと
やりたいです。とにかく頑張ります。

ちなみに前回の「8月30日」は「8月29日」の誤りでした。申し訳ありません。

>>155さん
ありがとうございます。視点のばらけ具合も坂の上の雲ゆずりなのかも?
これで話が進んでいけばゆうコトなしなんですが、その辺りはいずれ何とか!
今年は健康と環境と時間が許す限りバリバリと!! まずは目指せブレミュ編完!

>>165さん(ままま、勝敗は兵家の常ですし。むしろ序盤のみでアレだけ票が頂けたのに光明を見ております)
そうなんですよ。普通の生活に縁がなく更に母を失って鬱屈している……というのがファイナ
ル終了時点の彼女だと。そこからピリオドの「小憎らしいけどどこか明るげ」に繋げる話を考
えております。当面は千里以外にはなじみ辛いと思いますが、そこからの変化が話の中核にも。

201 :スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2007/01/02(火) 13:56:13 ID:CO1QkBmD0
>>166さん
個人的事情でまとめサイトよりネゴロをDLしてみたのですが(バレさんの保管あってのです。
ありがとうございます)1300KB強でした。で、手元にある永遠の扉3〜6のまとめだけで256KB。
……ひょっとしたら9話終了段階でネゴロと並んでるのかも。今作は自分でもとても描き易いですw

ふら〜りさん
難しいところですね。自分も最初は彼を主人公としてたのですが、話に及ぼす影響の量は
かなり少なさそうです。でも節目節目では活躍するので、さながら坂の上の雲の秋山真之状態。
総角・小札を気に入って頂き、ありがとうございます。いずれ萌える過去話をば。必ず。
>修羅と鬼女の刻
鎌倉時代末期という選択が渋いw ふら〜りさんはこの時代にお詳しそうなので、歴史小説
大好きな自分としてはかな史実の描写っぷりに興味大です。
そして今作でも苛烈な肉体戦がありそう! あぁ、殴られる痛みとか腫れる頬とか燃えです。

さいさん
当たった!? ともかく、日曜洋画劇場で喋っていそうなウィンストンは好きです。
そして武装錬金は、むむ。細い煙が副次発生物かどうかですね。「細い」状態であるのがキー?
そしてヘルシング風味と洋画っぽさと武装錬金世界が融合した欧州の雰囲気は、大好きです。
なんていうか憧れています。
そしてヴィクトリアに関しては、「救い」という要素を描いてみたいと思っております。
ライナーノート準拠だとアレと組んでアレを起こすのですが、永遠の扉では……まだヒミツです。
少なくても彼女の選択や行動が、秋水やまひろ、その他の人物に影響を与えるとは思います。

202 :ドラえもん のび太の超機神大戦:2007/01/02(火) 15:08:37 ID:gQ+e3aib0
第九十八話「さよなら!」

―――そして、共に戦った仲間たちとの別れの時がやってきた。
「当たり前だけど・・・やっぱ、のびちゃんたちは元の世界に帰っちゃうのよね」
亜沙は名残惜しそうに口を開いた。
「うん・・・だけどさ、前みたいには悲しくないよ。だって、ほら」
のび太はCPSを指し示した。
「これがあれば、ほら、これからはいつだって会えるんだから。だからさ・・・」
「ちょっとだけ・・・ちょっとだけさよなら」
プリムラは、小さく微笑む。
「そうだよね?また、会えるもの」
「そうそう。ちょっと寂しいけど、会いたくなったらいつでも会いに行くぞ」
へへー、とフー子が屈託なく笑う。今の彼女はサイバスターに宿る精霊という立場上、サイバスターから遠く離れる
ことはできない。というわけで、フー子は稟の元でお世話になることになったのであった。
サイバスターと一緒に。
「―――って、サイバスターは俺が所有することに決定したのか!?あんなとんでもない代物を!?」
土見稟。神にも魔王にも凡人にもなれて巨大ロボットを所有する男。余りにもアレなキャッチフレーズだった。
<いいんだよ、稟。元の持ち主の俺が許可してるんだ。変にどっかに封印するよか、俺やお前、それに神王様や魔王様
の目の届くところに置いといた方がむしろ安心ってもんだ。なあ?>
「ま、そういうわけだ。どっかに隠したところで、妙な奴らに掘り出されて悪用されるかもしれねえからな。それを
考えたらマサキの提案通りにするのが吉ってもんだ」
神王は豪気に言い放った。仮にも伝説の古代兵器というのに、それでいいのか。
「そうそう。あ、置き場所ならこっちで用意するから心配しないでね。なあに、世の中これでどうにかならないことも
あるけど、それでも大概何とかなっちゃうものなんだよ。ふふふ・・・」
魔王は指で円マークを作り、にやりと笑った。大人って汚いと、のび太は思った。
「そういやマサキさんはそのままなの?シュウを倒したんだから、成仏とかは?」

203 :ドラえもん のび太の超機神大戦:2007/01/02(火) 15:09:08 ID:gQ+e3aib0
<あ、ああ・・・それがよ、その・・・考えてなかったんだ・・・>
「?何を?」
<いや・・・どうやったら成仏できんのか、その方法をな・・・何せ、死んだってシュウを倒してやるって、それしか俺は
考えてなかったからさ。この後どうすんのかってのは・・・>
凄い無計画ぶりだった。稟は呆れつつも笑いながら言ってやった。
「ま、どうすればいいのかなんて、ゆっくり考えればいいだろ。これからも俺と共同生活を続けるのも悪くないさ」
<へへっ・・・そうか。稟、お前っていい奴だな>
マサキも朗らかに返す。二人とも、すっかりいいコンビといったところだ。
「ま、とにかく・・・色々あったが見事大団円!こいつはめでたいじゃないか!」
アスランがさっぱりした口調で快哉を叫んだ。
「特にニコル。お前が生き残ってくれて本当によかった。スパロボですら生存ルートのないお前のことだ、最終決戦で
ポックリ逝っても不思議じゃなかったからなあ・・・」
「・・・アスラン、いい加減しつこいですよ。それとも何ですか?実はあなた僕のこと嫌いなんですか?」
「心外だな。俺はお前やイザーク、それにディアッカのことは魔導物語はなまる大幼稚園児における戦闘前の掛け合い
漫才システム並に大事に思っているというのに」
「全然大事に思ってないし例えが分かり辛い!?」
「ちなみにキラやリルルのことはバキスレにおけるバレさんの存在並に大事に思っている」
「酷い差別だ!」
「ま、小粋なコントはこのくらいにしといて」
「コント扱いになった!?」
さすがにショックだった。
「貴様というやつは・・・!」
「まあ、いいじゃねえか。面倒なことがとりあえず片付いて、やっと一息付けるんだ。ちょっとくらいは多めに見ようぜ」
ぶち切れそうになるイザークをしっかり抑えるディアッカ。こちらもまたいいコンビと言えよう。


204 :ドラえもん のび太の超機神大戦:2007/01/02(火) 15:09:39 ID:gQ+e3aib0
「全くもう、アスランは・・・」
キラは困ったように言いつつも、笑いがこみ上げてくるのを感じていた。最初はアスランの大変貌振りに面食らっていたが、
今ではすっかり慣れてしまった。
むしろ、こっちの方がしっくりくるくらいだとすら思えてきた自分が怖かったりもする。
「ふふ、だけど、みんな楽しそうね」
微笑むリルルの視線の先には、さらに調子をこきすぎて堪忍袋の緒が切れたニコル、イザーク、ディアッカに三人がかりで
ボコられているアスランの姿があった。確かに楽しそうだった。
「本当に・・・こうして皆とずっと一緒にいれたらと思うのですが」
ペコは寂しそうだった。そんな彼に、そっと小さな手が差し伸べられた。
プリムラだ。彼女は微笑みながら、ペコに向かって手を差し出していた。
「プリムラさん・・・」
思えば彼女とは色々あった。非常食扱いされたり、ペット扱いされたり・・・よく考えたらロクな目に会ってない気もしたが、
それでも今思えばそれすらも楽しかった。
ペコはふっと笑って、プリムラの手に自分の手を乗せて―――気付いてしまった。
これは―――この体勢は!
「お手、完成」
「・・・・・・」
ああ、何ということか。これまで決して人様に媚びることなどなかったというのに!その象徴たる<お手>など、犬の王
としての誇りに懸けて決して行うものかと心に誓っていたのに!
ついに―――ついに、その禁忌を破ってしまった!
ぼくは―――負けた。文字通り、負け犬だ・・・。
「はは・・・いいんだ。いいんですとも。ぼくは結局、こういうキャラなんですから・・・」
のび太は見た。爪が肉に食い込むほどに強く握り締められたペコの掌から、真っ赤な血が流れるのを。
「だはは、流石の王様も結局可愛いこちゃんには勝てねえってこったな」
USDマンは茶化すように言ってやった。
「可哀想に、ペコ・・・」
そしてのび太はそっと涙を拭ったのであった・・・。


205 :ドラえもん のび太の超機神大戦:2007/01/02(火) 15:10:12 ID:gQ+e3aib0
その時である。
「お、おいおい。なんかみんなもうまとめに入っちゃってるけど、これで本当にお終いにする気なのかい?」
バカ王子が急に慌て始めた。非常に怪しい。
「おや、どうした?ラストバトルで素で作者に存在を忘れられてたバカ王子よ」
「そんな屈辱的な上に説明的なセリフはよせ、アスラン。まあそれはともかく、この結末は僕は納得がいかないんだよ」
「どうして?ちゃんとハッピーエンドじゃない。何が不満なの?」
のび太が聞くと、バカ王子はニヤリと不敵に笑った。実に悪どい雰囲気だった。
「ふふふ・・・こうなったら明かそうか。僕が君たちの仲間になった本当の理由を・・・」
バカ王子はインターネットでバキSSまとめサイトを開き、超機神大戦四十五話の最後辺りの部分を見せた。もう一回
同じ説明をするのが面倒くさかったようである(作者が)。
「な・・・なんてことだ・・・真の敵は味方の中にいたのか!?」
「ちくしょう!今までおれたちを騙してやがったのか!」
ドラえもんは愕然とし、ジャイアンは悔しそうに歯噛みした。
「はーーーーーはっはっはっは!その通り!実は僕こそこのSSにおいて最もタチが悪い男だったのだよ!そんなこと
も気付かなかったとは愚かなり、地球人どもめ!わっはっはっはっは!」
バカ王子はとうとう開き直ったかのように高笑いをかます!
「しかしだ―――こんな中途半端に温いエンディングを迎えてしまうのでは、僕が全然楽しくないのだ!そこで・・・
こんな物をジェバンニの如く一晩で造ってしまいました!」
パチィン!と指を鳴らすバカ王子。その瞬間、大地が裂け、その中から数百メートルはあろうかという超々巨大ロボット
が姿を現した。
「これぞ超弩級究極絶対最強最大ロボ、イデゲタゼオラガオガイマジンデスティニー大龍虎王!その性能はグランゾン・F
の実に数十倍!こいつは凄い!無茶苦茶に凄いぞ!・・・と、いうことで予定変更だ。この無駄に長いSSを更に長くする
ために、僕がこれに乗って真のラスボスになろう!」
バカ王子は更にとんでもないことを言い出した。もはや完全に悪党そのものだ。
「さあ、戦え少年たちよ!血も涙もない修羅と化さねば僕を倒す事は叶わないぞ!わぁ〜はっはっはっはっ・・・!」
笑い続けるバカ王子。そんな彼の前に、ずかずかと歩み寄る二人がいた。
神王と魔王である。二人とも、紛うことなき殺気を放っていた。
「へっ・・・まさか、こんな近くに神罰を食らわせてやらなきゃならねえ輩がいたとはな・・・」
「全くだね。これはもう、魔界にご招待してあげようかな?」
流石のバカ王子もたらり、と冷や汗を流す。

206 :ドラえもん のび太の超機神大戦:2007/01/02(火) 15:10:44 ID:gQ+e3aib0
「―――なんていうのは冗談だよ。OK。話せば分かる、ブラザー」
「分かるかこのドチクショウがぁぁぁぁーーーーーーっ!」
そして二人が完璧な呼吸で世にも美しい軌道を描くアッパーカットをバカ王子に向けて放った!
「「―――神王・魔王合体奥義―――<神魔剛竜拳>!」」
「う・・・うおおおおお!こういうシチュエーションがあったならば一度は言ってみたかったセリフがある!」
吹っ飛ばされながらもバカ王子は己の魂を振り絞り、そしてあまりにも有名なあの言葉を叫んだ―――
「ばいばいきーーーーーーーーーん!!!!」
キラーーーン・・・バカ王子は宇宙(そら)に輝くお星様となった・・・。
その一部始終をのび太たちは、ただ呆然と見守るだけであった。そして、気付いた。
最後に美味しいところをこいつらに全部持ってかれた、と。
そしてクラフトが一同を代表するかのように神王と魔王の前に立ち、握手を求めた。
「グッジョブ!」
―――彼は本当に満ち足りた笑顔だった。未だかつて、これほどにいい笑顔はなかったとすら思わせるほどに。
三人はがっちりと手を取り合った。巨悪を倒し、その跡に咲いた一輪の花。
漢の歌がそこにはあった・・・。
「・・・なんていうか・・・もう・・・なんだ・・・」
のび太は呆れ果て、逆に清々しい気分ですらあった。
「こんな終わり方も、ぼくららしいと言ったららしいかな・・・」
「同感だ。けどな、のび太。一つ聞きたいことがあるんだ」
「え?」
そう尋ねてきたのはムウだった。彼はいつになく難しい顔をしている。
「君はあの最後の戦いの後で、<狐>と会ったんだろう?結局、奴はどうしたんだ?」
「・・・・・・」
「君は・・・本当に奴を殺したのか?」
「そうしないと、一生あの人に付き合わされるかもしれなかったからさ。それは嫌だった。けど・・・」
のび太は頭を掻きながら言った。

207 :ドラえもん のび太の超機神大戦:2007/01/02(火) 15:26:31 ID:KYbenAuP0
「あの人を殺すのは、もっと嫌な気がしたから・・・結局殺せなかったよ」
―――そう。のび太は結局、西東を殺さなかった。最後の弾丸は・・・虚空に向けて撃った。
西東には、掠りもしないように撃った。
そして西東は、もはや一言も発さずに、どこかへと去っていった。
「だからさ・・・逃がしちゃった」
そして、苦笑した。まさに、苦々しい笑いというにピッタリだ。
「・・・そうか。奴は、生きて逃げ延びた・・・結果的にはそうなるか」
「ひょっとして、ぼく、まずい事しちゃったかな?」
「そうかもな。奴がこれまでにやったことや、後々のことを考えると、引導を渡しとくべきだったかもしれん・・・けど、
終わっちまったもんは仕方ないさ」
ムウもまた苦笑した。
「タイムパトロールへの報告は上手く誤魔化しとくから、その辺は心配するな。明日からはまたいつも通り、平和に
暮らせるはずさ」
ムウはそう言ってのび太の肩を叩いたが、のび太は曖昧に頷くばかりだった。確かに明日からまた、静かな日常が戻って
くることだろう。けれど。
<世界はお前を放っておかない。直に第二・第三の俺が現れる。今回の一件などほんの前哨戦と思えるほどの無数の怪物
たちが、お前の行く手に待っている。幾多の不幸と幾多の不運が、あまねく異形が全ての異能が、お前に牙を剥くだろう。
全ての伏線を消化したなどと思うな。全ての世界を知ったなどと思うな。お前の知ったことなど、ほんの僅かだ>
それが真実ならば―――その日常も、呆気なく崩れ去るのかもしれない。新たなる脅威によって。
あるいは、最悪の狐の再来によって。
だけど、それもしょうがない。だって、自分で決めたことだから。
―――決めたからさ。一生付き合うって。

今回の物語は、ひとまずはこれで終わり。少年たちは、少女たちは、それぞれの世界へと帰っていく―――

208 :ドラえもん のび太の超機神大戦:2007/01/02(火) 15:27:10 ID:KYbenAuP0
―――そんな彼らを、物陰から隠れて見つめる人影があった。
眼鏡をかけた白衣の美女―――<ドクター>絵本園樹。
そしてもう一人。黒く長い髪を風に靡かせる女・・・。
それは、死んだはずのアザミだった。
「あ・・・あの・・・いいの?みんなの前に出なくて。友達なんでしょ?」
絵本がアザミに語りかけたが、彼女は素っ気無く答えた。
「こんな死に損ないのことなど、死んだままにしておいていいのですよ」
「そ・・・そうなんだ・・・あ、あたし、余計なこと言っちゃったよね・・・ご、ごめんなさい。なんであたしはいつも
いつもこうなんだろ。黙ってればいいのに勝手に口を挟んで場の空気を乱して邪魔して(略)」
文に直せば数十行は書けそうな勢いで、絵本はぶつぶつと呟き続ける。そんな彼女の姿に、流石にアザミも苦笑した。
「別に余計なことを言われたとは思いません。ただ私が偏屈なだけです・・・それにしても、あなた、一体どういう人
なんです?完全に死んだはずの私を蘇生させるなど、通常の医術の範疇を大きく越えています。いや、そもそも、何故に
私を助けたのです?あなたにそんな義理などないでしょうに」
「・・・だからあたしなんていなくなった方が世のため人のため・・・え?あ、あの・・・ごめんなさい。よく、聞こえなかった
から、出来たらもう一度・・・」
「・・・・・・」
「あ!ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさい!あたしったら人の話を聞かないなんて、我ながらどれだけ最低なら気が済むんだろ!本当に
本当に本当に本当にあたしときたら(以下略)」
―――アザミはやってられない、とばかりに、明後日の方向に向けて歩き出した。目的地、なし。理由も、なし。
何もなしに、ただ、歩いてみよう。そう思った。
そして―――もしも。もしも、縁が<合った>なら。いつかまた、あの賑やかしい連中と会えるだろう。
彼女はもはや振り返ることなく、歩き続ける。不確定な未来に向けて。

209 :ドラえもん のび太の超機神大戦:2007/01/02(火) 15:27:41 ID:KYbenAuP0
―――そして、一人残されて未だにぶつぶつネガティブな独り言を続ける絵本は。
「・・・おい」
「ひゃっ!?」
背後から乱暴に声をかけられ、驚いて振り向いた。そこにいたのは狐面―――いや、もはや素顔のままの西東だった。
「用事は済んだのか?ならもう行くぞ。時間に余裕がないわけじゃないが、それでも無為に過ごすのは実に愚かしい
ことだ。今回の舞台の幕は降りた。さっさと次のステージへと進もうじゃないか」
それだけ言って、さっさと歩き去ろうとする。絵本はぽかんとして動けない。
「ついて来い。置いてくぞ」
そう言われて、ようやく西東の後を追って駆け出した。そして、尋ねてみた。
「あの・・・狐さん?そうは言っても、これからどうするの?」
「<これからどうするの>ふん。とりあえずは、十三階段の再結成だ。それなりに当てはあるから、そいつらに片っ端
から粉をかけてみる。集まってからのことは、集まってから考えるさ」
「そ・・・そうなんだ。でもそれ、ようするに、何も考えてないってことじゃ・・・」
「そうだとも。何も考えてないぞ、俺は」
平然と言い放ち―――彼は、犯しそうに笑った。
「くっくっく―――まあいいさ。何せあいつは俺に、一生付き合ってくれるそうだからな。焦ることはない」
そして、誰にともなく呟いた。
「じゃあな、俺の敵―――俺とお前はどこまでも縁が<合う>ようだし・・・また会おう」



さて、次に、少年と共に戦った仲間たちのその後から―――

210 :サマサ ◆2NA38J2XJM :2007/01/02(火) 15:29:46 ID:KYbenAuP0
明けましておめでとうございます。前回は>>129より。
次回作のクロス先は前も言ったとおり新桃と、そしてさらに懐かしのギガゾンビの逆襲。その他色々。
平和になった新桃エンド数年後の世界。そこにやってきた侵略者と青いタヌキ。大体こんな感じです。
そしてヒロインは三歳児ょぅじょ(オリキャラ)だったりします。

>>131 本当に、クリスマスに何やってるのか・・・

>>132 確かに脇役に力を入れすぎました。

>>133 出せないこともないけど流石に出しませんw

>>134 映画版ののび太は、普通に頭がよさそうですしね。

>>白書さん
何ともハードな雰囲気に・・・しかしドラえもんなら、ドラえもんなら何とかしてくれるはず!
実際あいつ、原作まんまの設定で本気出したら誰だろうと勝てる気しねえw
戯言シリーズは超お勧めです。他には化物語もいいですよ(宣伝宣伝)。
最終回まで後二回。ご期待にそえるよう頑張ります。

>>ふら〜りさん
こんな感じに落ち着きました。どうも僕は重要人物を殺すことができない病のようです。
新作は時代劇?修羅の刻は実は読んでないけど、今後の展開に期待してます。

211 :作者の都合により名無しです:2007/01/02(火) 17:59:46 ID:/VT1DvJj0
新作2本と主力2本ですか。正月から職人さんたち頑張るなあ!

>修羅と鬼女の刻
修羅の刻とは予想外でした!メジャーかどうかはちょっと微妙だけどw
大好きな作品なので期待してます。ふら〜りさんの可愛いキャラたちも好きだけど
今回は歴史が舞台なのでシリアスな雰囲気になりそうですね。

>ヴィクティム・レッド
アームズ!こりゃまた大好きな作品ですよ。「力をくれてやる!」の見開き3ページは
漫画至上屈指の名シーンでしたね。しかも主役キースレッドですか。
いい所ついてるなー。個人的にはバイオレットで第二話をお願いしたい。

>永遠の扉
御前も含めて奇妙で微妙な人間関係?が構築されてますなあw
しかし、ヴィクトリアは表はまひろで裏は桜花(やはり裏)の顔ですか。
一番手ごわい相手かもしれない。でもまひろが出るとパッと明るくなりますね。

>ドラえもん のび太の超機神大戦
100話で終わりだから、もう2話ありますよね?でも、実質的な最終回か。
仲間たちとはこれでお別れなんですね。特にプリムラとは2度目の別れか。
でも、バカ王子の原作ちっくなノリで湿っぽくはなりませんでした。
エンディング期待してます。




212 :作者の都合により名無しです:2007/01/02(火) 18:07:30 ID:KHAHeJTW0
暇だったので、もういっちょ書き進めてみました。

213 :ヴィクティム・レッド:2007/01/02(火) 18:08:05 ID:KHAHeJTW0
「面白くなさそうな顔をしているな、レッド」
 そう声が掛けられるのへ、レッドはそちらを向くこともなく窓の外に目をやりながら答えた。
 声の主の顔など見たくはなかった。自分と全く同じ顔をした男の顔など。
「もっと嬉しそうにしたらどうだ。ここのところのお前の働きが認められ、今回の任務がお前にまで回ってきたのだ。
 まあ、せいぜいオレの足を引っ張ることだけはするなよ」
「……あんたは楽しそうだぜ、シルバー。人を殺すのが楽しいか?」
 これは半ば嫌味というか、組織内でかなりの地位にまで登りつめたキース・シルバーへの
やっかみが多分に混じっていたのだが、シルバーは真面目な声音で返してきた。
「楽しいな。戦う、ということの意味を考えたことがあるか? 昆虫は敵に価値を見出さない。
昆虫の世界には、餌と邪魔者──無害な邪魔者と致命的な邪魔者──しか存在しないからだ。
 理性と闘争本能を併せ持つ人間だけが、敵に価値を見出し、それを殺すことで己の価値を高めることができるのだ」
「よしてくれ。戦闘狂のたわごとなんざ聞きたかねーよ」
 そちらに背を向けたままレッドが手を振ってみせると、さすがにシルバーもむっとしたようだった。
「……まもなく作戦区域に到達する。降下準備をしておけ」
 そう言い残し、シルバーは立ち去っていった。レッドはそれを横目で見送り、また窓の外へと視線を戻す。
 眼下には密林が広がっていた。ヘリの騒がしいローター音に耳を傾けながら、
地平線の果てまで広がるその暗緑色の絨毯を眺めていた。
 南米のジャングルの夜空には、無数の星と満月、そして動性の光点が一つ灯っていた。

 その建物の内部では、『致命的な被害』を示すレッドアラートが絶え間なく鳴り響いていた。
 突如として現われた侵入者によって、この施設は壊滅的な打撃を受けていたのだ。
 そうした状況であるにも関わらず、侵入者の詳細は不明。どの程度の規模なのか、その武装は、侵入経路は。
 一切の情報が不確定なまま、施設のあらゆる箇所は破壊され、蹂躙の極みを尽くされていた。
(──つっても、侵入者がたった三人だなんて、こいつらじゃ想像もできないんだろうがよ)
 そう一人ごちたレッドは、目の前の警備兵に冷たい瞳を向ける。
「他に知っていることはあるか?」
 口から真っ赤な血を垂れ流すそいつは、力なく首を横に振った。
「も、もう……知らな、い」

214 :ヴィクティム・レッド:2007/01/02(火) 18:09:42 ID:KHAHeJTW0
「『ヴィクティム』の在り処はどこだ」
 『ブツ』はどこだ、という問いにも同じ動作で応えるそいつに、
「そうか、もういい」
 レッドは警備兵の胸に突き刺していた肉厚のブレードを引き抜いた。
 ずるりと死体が床に崩れ落ちる頃には、その大型の刃はレッド自身の右腕にと変わっていた。
「し、侵入者!?」
 声のした方向に目をやると、廊下の曲がり角付近で、武装した兵士が銃を構えているところだった。
 レッドはほとんど無造作に左腕を向ける。すると肘の辺りから生えていた奇怪な刃はその刀身を急激に伸ばし、
一瞬で兵士を両断した。そして次の瞬間には、やはり右腕と同じように、その板状は人間の腕の形へと変貌する。
 アドバンスドARMS『グリフォン』。それが、レッドの両腕に宿る力の名前だ。
 それは、謎の珪素生命体をベースにしたナノマシン群体によって構成される、変幻自在で唯一無二の武装兵器だった。
 普段は普通の腕の姿を模しているが、レッドの体内に移植されたコアを開放することで、それは戦闘に適した形態へと形を変える。
 いまだ未知の部分を残すオーバーテクノジーの産物であるARMSを装着できるのは、
レッドが所属する組織『エグリゴリ』においても指で一握りしかいなかった。
 そう、自分は選ばれたエリートなのだ。そこに疑いの余地はない。
 だが──。
 レッドの脳裏に、数時間前の光景が甦る。

「作戦の概要は単純だ。オレとグリーンが施設を急襲し、陽動を行う。お前はその隙を突いて、目標Aを奪還するのだ。
 グリーンはすでに先行している。お前は手薄になった正面から侵入し、『M-107』の所在を突き止め、所定のポイントまで輸送しろ」
 キース・シルバーはそう言って、話を締めくくった。
「ちょっと待てよ、シルバー」
 レッドはそれ呼び止め、
「グリーンが参加するなら話は簡単じゃねーか。あいつなら誰にも気づかれずにどこへでも侵入できる。
あいつ一人でやらしゃいいんじゃねーか?」
 レッドとしては当然の疑問だった。『チェシャ猫』の異名をとるキース・グリーンにとって、
どれだけ厳重な警備体制も、開けっ放しのドアと変わらない。グリーンとはそうした特性の持ち主だった。
「なにも分かっていないのだな、レッドよ」
 そう告げるシルバーの声には、軽蔑の音があった。

215 :ヴィクティム・レッド:2007/01/02(火) 18:10:47 ID:KHAHeJTW0
「『M-107』は、エグリゴリの重要機密だ。確かに、それは出来損ないの失敗作だ。だからこそ強奪される隙も生まれてしまった。
 だが、いや、それ故、我々は最大限の威力でもってこれを奪還しなければならない。
 つまりは見せしめだ。しかもそれは、分かる者には分かる、という形であることが望ましい。
 二度とエグリゴリに逆らう気のなくなるような、そんな決着だ。それには、グリーンの破壊能力は不可欠なのだ」
「……シルバーよ、つまりこう言いたいのか? オレじゃ力不足だ、と」
 搾り出すように、続ける。
「オレだと……オレの『グリフォン』だと、誰もビビりはしない、と」
「お前の『グリフォン』は不完全だ。いまだ第二形態までしか発現させていないではないか。
 グリーンは最終形態にまで発展させている。今回の任務は、あいつの能力『魔剣アンサラー』の最大効力を試す実地試験も兼ねている」
 シルバーの言葉を聞きながら、レッドの胸中にはまた形容しがたい苛立ちが湧き上がってくる。
「それに、このオーダーはキース・ブラック直々の命令だ。異議は許されない。
お前とて、キースシリーズの長兄に逆らうほど愚かではないだろう?」
 ほとんど最後の自制心を払い、レッドはうめくように答えた。
「……了解した」

(オレはいったいなんなんだ──?)
 施設の最深部に連なる廊下を駆け抜けながら、レッドは自問する。
 どこからか微かなイオン臭がする。遠くから建物が崩れる地響きが聞こえてくる。
 それらの原因は分かりきっていた。キース・シルバーとキース・グリーンの仕業だ。
 キースシリーズ。それは、アドバンスドARMSを移植するために生み出された新人類に与えられる名前である。
 レッドを含めた彼らは、皆、同じ遺伝子プールから発生した試験管ベビーで、いわばクローンの兄弟である。
 ほとんど同じDNA情報を持っているはずなのに、こうも違う。
 自分は恵まれているほうなのだ、という自覚はあった。その『違い』が良いほうに働き、
ARMSの移植手術に成功してレッドというカラーネームを与えられている。
 選ばれずに研究室の奥底で死んでいった、ほとんどの名も無き『キース』に比べれば、奇跡と言ってもいい境遇だった。
 だが、それだけである。
 どこまで行っても自分は『キースシリーズ』でしかないのだと、兄弟たるシルバーやグリーンの顔を見るたびに思い知らされる。
 そこが自分の限界で、そこを突破することはできない、自分の知らない目的のために自分は生み出され、
己の運命は最初からプログラムされているのだと、そういう意識を拭うことができないでいる。
 レッドは、そうしたなんの展望もない環境と、そんな自分に常に腹を立てていた。

216 :作者の都合により名無しです:2007/01/02(火) 18:11:59 ID:KHAHeJTW0
 やがてレッドは目的の場所へ辿り着いた。
 だだっ広い空間の中央に、厳重に封鎖されたコンテナが鎮座している。
 これが今回の任務の目標──反エグリゴリ組織に強奪された、『M-107』が収められたコンテナである。
 据えつけられた扉のセキュリティをいじくってみるが、当初の設定は変更されているらしく、なんの反応もない。
「ええい、まだるっこしい!」
 レッドは右腕を変形させ、扉に切りつけた。だが、それはいとも簡単に刃を弾く。
「くっ、なんだこりゃ? 硬すぎるだろ」
 最大限に硬質化されたブレードでも刃が立たないのであれば、自分にこれを開けることは不可能である。
 シルバーかグリーンに連絡を取って開けてもらうべきか、そんな選択が意識をかすめたが、
(ふざけろ、そんな真似ができるかよ!)
 オレはキース・レッドだ、選ばれた人間なんだ。あいつらとなんの違いもない、キースシリーズなんだ。
「あいつらだけが高いところにいるなんて……認められるかよ!」
 そう吼え、再度ブレードを振り上げたとき、
『力が欲しい?』
 そんな声が聞こえた。
『力が欲しいなら……貸してあげる』
「なに!?」
 その右腕に、今まで感じたことのない脈動が走った。その感触はARMS同士で起こる共振現象にも似ていたが、
それとはまた別の──。
 そして、目の前で今起こっていることに、レッドは目を見張った。
 振り下ろしたブレードと扉が接触した瞬間、その箇所から激しい火花が散った。
 そして、先ほどはあんなにも硬かった扉が、まるでバターでも切るように刃を受け入れていった。
そして扉は分断され、内部への入り口が開いた。
「なん……だと?」
 レッドは自分の腕と扉を見比べる。それはやはり自分の腕だったし、扉は綺麗に別たれていた。
「そんなところに突っ立っていないで、入ってきたら?」
 呆然とするレッドの耳朶を、コンテナ内部から発せられた声が打つ。
 それは少女の声だった。先ほどの脳裏に響いた声に似ていた。

217 :作者の都合により名無しです:2007/01/02(火) 18:15:11 ID:DuvPMUbW0
規制か?支援しよう。

218 :作者の都合により名無しです:2007/01/02(火) 18:27:42 ID:/VT1DvJj0
ついでにコテハンもお願い>ヴィクテム作者さん

219 :ヴィクティム・レッド:2007/01/02(火) 18:32:45 ID:KHAHeJTW0
 コンテナの内部は、レッドの予想と異なってまるでホテルの一室のように飾られていた。
 レッドは周囲を警戒しながらその部屋に足を踏み入れ、そして、そこに一人たたずむ人影を目にする。
「待ってたわ。わたしを助けにきてくれたんでしょう? もー、すごく心細かったんだから」
 ころころした可愛い声に、レッドは自分でも情けなくなるくらい間抜けな声で聞き返していた。
「あ、あんたは……あんたが、『M-107』なのか?」
 年の頃はレッドよりもやや年若い、十三、四くらいだろうか。肩まで伸ばされた鮮やかな金髪と、きらきら光る青い瞳がレッドに向けられていた。
「はじめまして。名前を教えてくれない? キースなんとかさん」
「キース……」
 レッドの口から漏れたその単語に、少女はにっこりと頷いてみせる。
「そう、わたしもキース。キース・セピアよ。キースシリーズでは珍しい女性型なの」
 そして、レッドに向けて手を差し伸べた。
「よろしくね」

第二話『茶』 了

220 :ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/01/02(火) 18:36:57 ID:KHAHeJTW0
無駄age失礼しました。
連続投稿とか普段あんましないたので、不覚を取りました。
連続投稿規制の解除時間って八分くらいですか? 誰か教えていただけたら嬉しいです。

>>218
これでいいすかね。

221 :ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/01/02(火) 18:44:21 ID:KHAHeJTW0
>>211
すんまそん、いきなりオリキャラ出してしましたorz
バイオレットお姉さまは今後登場させたいと思ってます。

222 :作者の都合により名無しです:2007/01/02(火) 21:17:08 ID:RhaUIjcZ0
>ハロイさん
ARMS大好きな俺としては嬉しい限りです。オリキャラも勿論OK。
レッドは原作ではバイオレットやブラックに食われてたけど、
この作品では大活躍期待してます。

>スターダストさん
ヴィクトリアの2面性は孤独の裏返しでしょうね。
桜花の場合は子供の頃のトラウマと弟への愛情からでしょうが。
まっぴーは可愛いな。一人だけ傷をおってないし。

>サマサさん
ラスト2話!その前に、みんなとのお別れですね。
前作ではプリムラは泣いてお別れでしたが、今回は
バカ王子のおかげ?でちょっとほのぼのしてますね。

223 :作者の都合により名無しです:2007/01/03(水) 06:26:00 ID:TodfxzD80
アームズが着たか。いつか来るとは思ってたけどw
キースシリーズたちが主役っていうのはいいな
隼人たちにも活躍してほしいけど

224 :永遠の扉:2007/01/03(水) 13:33:22 ID:uM5qGoG80
第010話 「5巻表紙のカズキのヤリ持ってない方の腕がヒョロ長くて気持ち悪い。中表紙
じゃ普通なのを思うと頭ん中ザラザラする。あーっ! ザラザラする!」

略して 

「レティクルに出会いし銀の星、ルーキーが踏みし銀の土」

「回復次第、残党を再編成するぞ佐藤。浜崎。それまでせいぜい上手くまとめておけ」
薄暗い実験室の片隅。大人がゆうに2〜3人は入れそうな巨大なフラスコの中。
逆向はたゆたっていた。顔の修復はゆるやかに進行中。
例の光線の上にパキパキと肉片が乗り、頭蓋骨の復元肯定さながらだ。
「ま、待て。その間にココをかぎつけられたらどうすりゃいい! 戦士が来たら全滅だぞっ!?」
血色の悪いサメのような男が声をありありと震わせた。
さほど広くない部屋に情けない声が響き、逆向の顔が引きつる。
「クズが。そうならないように俺自らが新設してやったんだろうが。いかに桜花の奴がアジトの
所在をハッキングできるといっても、それは過去のデータ。新たなアジトまでは突き止められ
るワケがない。いい加減少し考えて喋るコトを覚えたらどうだ? 佐藤」
「ぐ。じゃ、じゃあいま残党狩りにあってる連中はどうすんだ」
「捨て置く。どうせ俺の参集に応じなかったいわば『野良』の連中だ。せいぜい戦士の的にし
て時間を稼ぐ。そんなコトも考えられないのか? それからもう一つ」
フラスコを満たす紫色の液体に巨大な気泡がニ、三個ぶわりと浮いた。
「ザ・ブレーメンタウンミュージシャンズの連中も戦士の的にしろ。いいな。俺のライダーマン
の右手を真似ていい気になってる盗人野郎はおそらく、部下連中と戦士とのいさかいを避け
ようとしているだろう。が、させるな。徹底的に妨害し、否が応でも戦うよう仕向けろ! 互い
に衝突(ぶつ)けて消耗させろ! そこを回復した俺と再編成した残党、そして『奴ら』に救出
されたムーンフェイス様とでつく。いいな!」
歯噛みする佐藤の横に、褐色肌と赤刺青の大男が進みでた。
「かしこまりました逆向様。ご心配には及びません。当面はタガが締まるコトでしょう」
「昨日散々クズどもを粛清してやったからな」
物分りの良い回答に逆向は目を細めると、眠りについた。

225 :永遠の扉:2007/01/03(水) 13:34:02 ID:uM5qGoG80
(次目覚めた時にまだクズがいれば殺してやる。残り少ないL・X・Eだからこそ腐り肉(み)は
徹底的に断たねばならない。断って断って断ち尽くして、バタフライ様の意向に沿う者だけを
残して! 必ずL・X・Eを蘇らせてやる! もう1つの調整体を手に入れ、バタフライ様をも!))

「お、おい浜崎。逆向の奴に報告しなくいいのか」
浜崎はむっつりと口を結んだ。
「先日、銀成学園裏手の廃工場で早坂秋水たちに倒された調整体か。野良の動向など逆向
様に報告してもお叱りを受けるだけだがな」
「おかしいだろ。バタフライ様しか管理してなかった調整体どもがどうして流出……」
凶悪そうに吊りあがった目を不安そうにきょろきょろさせながら、佐藤は尋ねる。
「滅びかかった組織にはよくあるコト。何者かが持ち出したのだろう」
岩のような表情でまんじりとしない浜崎に、佐藤は怯えの色を隠そうともしない。
「ま、まぁそれもそうだな。分かってる分かってる。怒るなよ。ヘヘ。同期のよしみじゃねェか。
だが俺ァ見たんだ。あの廃工場の地下で」
「独断行動か」
「馬鹿いえや。俺だって命は惜しい。逆向の許可を得て偵察に行ったんだ。そしたら」
と佐藤はサッカーボールぐらいの輪を両手で作った。
「これくらいのホムンクルスの幼体を2ダースぐらい見たんだ。あっただけじゃねェ。俺が見た
限りじゃ他の場所でもかなりの数のホムンクルスが同じ目に」
「ほう。通常ならば5cmもない幼体が。というかあちこち偵察か。お前意外にマメだな」
浜崎の表情は柔らかい物に変わった。佐藤は血色の悪い肌を赤らめた。
「るせェ。褒めんな。つーかおかしかねェか? たぶんブレミュの奴らの仕業だろーがな」
「だろうな。が、なぜ奴らは殺さなかった? 殺すコトそのものが目的ならば、章印を攻撃す
ればいいだけだ。『殺さず、敢えて中途半端な幼体の形態に留める』、か。その辺りから能
力を暴けば、逆向様に報告する価値を帯びるが……」

「フ。鐶の奴は順調に『集めて』いるようだな」
サッカボールほどあるホムンクルスの幼体を見ると、総角は認識票に手をかざした。
「出でよ! 弓矢(アーチェリー)の武装錬金、エンゼル御前!!」
高速射出の矢が放たれ、幼体は粉砕された。

226 :永遠の扉:2007/01/03(水) 13:35:08 ID:uM5qGoG80
「お見事! 鐶どの操る武装錬金はゼロにできないのが欠点ではありますが、されどされ
ど斬りつけられた幼体どのはダメージゆえに半日は身動きが取れないのであります! そし
て本来フラスコの中以外にて生存は絶・望・的っ! この大きさではもって半日、ゆえにダメー
ジから回復する頃には消滅であり、道行く方に悪影響を及ぼさぬコト必定。けれど見つけた
以上、念のために倒されるのがもりもりさんなのであります。なーむー」
木立を縫って砂利に金色の光が注ぐ。あたりは鬱蒼とした林道だ。
そこにいるのは学生服姿の総角と、いつもの格好の小札(シルクハットも修復済み)だ。
「むむっ? というコトは鐶どのは半日ほど前にここへ来られたのでしょーか?」
小札はマシンガンシャッフルを口元から離すと、横の総角に聞いた。
「そうなる。まぁ、基本的に夜から朝にかけて『集める』よう命令してあるしな。ついでにもう
1つ、別の物を取るように命じてある。といっても対象の正体はいってない。表情に出ると
厄介そうだからな。ま、俺の求める武装錬金かどうかは五分五分だが」
「よく分かりませぬが……しかし鐶どのがココに来られたとなると、不肖たちが探す必要はな
いのでは?」
「確かに鐶の奴も探しただろうな。『もう1つの調整体』の隠し場所」
「いかに割符を揃えようとも、それを供える隠し場所が分からねば無意味ゆえ、こうして探して
おりますが……環どのが探されたのならば他を当たるできではないでしょーかっ」
総角はまっすぐに降ろしてある金髪を払った。ふぁさりと。
「甘いな。表層に見えなくてもそれ以外の場所にあるのが基本だ。割符がそうだっただろう?」
「そうでありました! 割符探しは見えざる場所を当たる苦難の連続! 貴信どの香美どの
鐶どのと不肖と無銘くん、そしてもりもりさんが一丸となり苦難を重ねた冒険譚! 思い出す
だけでも懐かしゅう……」
総角は気障ったらしく目をつぶり、小札の騒ぎを聞いた。
(フ。いま世界でお前の声を聞いているのは俺だけだろうな)
変な独占欲を充足している。

227 :永遠の扉:2007/01/03(水) 13:36:47 ID:uM5qGoG80
(もし俺が最悪の状況に立たされても……まぁ、そうならないよう色々講じておくのが俺だが、
最悪の状況に置かれていても、お前の声さえ聞ければ奮い立てるだろうな。10年前、ブレ
ミュを創った時もそうだった)
瓦礫に埋まる建物の中。出口の扉までは5m強。しかし出るコトは叶わない。
動きを封じているのは手だった。全身甲冑そのままの、巨大な手。
落下してきたそれが天井ごと自分の足を潰して動けない。
ただの瓦礫ならば即座に回復し脱出できた。だがその手は武装錬金であり、回復は不能。
様々な激情にもがく総角の耳を叩いたのが、繰り返し彼の名を呼んだのが──小札の声。
(まぁ、思い出に浸るのはほどほどにしてだ)
「苦労して集めた割符とお前のマシンガンシャッフルの特性を応用したら、もう1つの調整体
の隠し場所を探し当てるのも可能だろうさ。これ俺の仮説」
「おお、また昔の口調」
「お前相手でない限り使わない口調」
総角と小札は顔を見合わせると、照れくさそうに笑った。
「確かに不肖の武装錬金ならばそれも可能! でもやる前にトランプ占いをば!」
小札はトランプを勢いよく取り出すと、気合充分でシャッフルし始めた。
「よーし頑張れ小札。クイーンが出ればきっと見つかるぞ」
小札はきぇぇ!と藁束のような髪を揺らしてカードを引き抜いた。それは……
「Q、すなわちクイーンであります!」
「よっしゃ!」
総角は小札のテンションに合わせるようにガッツポーズを取った。
平素の彼からはかけ離れた挙動である。
「いますぐ隠し場所を発見できましょう!!!」
割符にロッドをかざすと、一瞬緑色に光ってそれから消えた。
「きゅう……」
小札は露骨に肩を落としてしょんぼりした。
「なさそうです」
「根気よくやればいい。そう落ち込むな」
総角は小札のシルクハットを取ると、クセっ毛をくしゃくしゃと撫でた。
「……」
くすぐったそうに小札は目を細めているが、総角に撫でられるのは嬉しいようだ。
「ちなみにマシンガンシャッフルに探索方法を昨日試さなかったのは」

228 :永遠の扉:2007/01/03(水) 13:37:38 ID:uM5qGoG80
「のは?」
ほんのり赤い顔を上げると、総角もつられてちょっと赤くなった。
「お前の体力回復を待つためだ。例のセーラー服美少女戦士との戦いで少し武装錬金を使
いすぎたからな」

「前々から思ってるけどさ、もりもりの奴、あやちゃんには過保護じゃん」
『ああ全く!! しかし男とはそういう生き物だぞ香美』
「そーいやご主人も昔は私に過保護だった。うん。呼吸が早いだけで獣医連れてったり」
『はーっはっはっは! 確か夏場でしんどかっただけだったな! だが心配だったぞ!』
「ありがと。まーそれはともかくとしてさ、もりもりの奴、さっきまでどこ行ってたのさ?」
『お前のいうさっきは数日前のコトだな! 皆神市への出張はだな、戦力になりそうなホムン
クルスを引き入れるためだともりもり氏はいってたぞ!! 仮に仲間にならなくても、僕たち
が潜伏できるような武装錬金の使い手ならブレミュで使えるようにしたいとも!!』
「へぇ。で、そいつ来てないけどどーなったの?」
『死んだ!! 上司をなんかスゴい理由で殺したせいで、錬金の戦士に殺された!!』
「うげ、弱い者イジメした感じの奴だけど、殺されてちゃ悪くもいえないし……フクザツ」
『そして結局、僕たちが潜伏できそうな武装錬金の使い手でもなく、振り出しだ!!』
「でも本当にそんな武装錬金あんの? まーどっちでもいいけどさ。で、後ろの奴は?」
『敵ながら天晴れ! ちっとも速度が落ちないな!!』
香美は木々の中を俊敏に飛びながら「ありゃー」と呆れた。
その背後10mほどの箇所では。木々が先ほどからばりばりとスゴい音を立てている。
まるで香美たちを追うように。
(しかし一応、もりもり氏から命じられた撹乱自体はできてるな!!)
「うわ、ちょっと速くなった。スゴい執念じゃん。追いつかれたらマズいかも」
斗貴子は歯軋りした。
彼女が割符の探索をしていると、香美が現われた。
最初は割符を優先し放置に務め……られる斗貴子ではなかった。
見るなりフルスロットルで襲い掛かり、処刑鎌(デスサイズ)を縦横に振りかざした。
が、香美はそれを軽々と避けて逃走。
樹上5mにおける追跡劇が幕を開けた。

229 :永遠の扉:2007/01/03(水) 13:39:05 ID:D+EiBnyn0
4本の可動肢と4本の処刑鎌からなるバルキリースカートで木々をブチ叩き、人智を超えた
速度で飛びすさる斗貴子。
とはいえ香美の速度はそれ以上。
昨日はヴィクトリアを抱えたままで斗貴子の吶喊を避けたほどだ。
『素で跳べばあの戦士が追いつける道理はない!! だが!!』
「そっ、ご主人のいうとおり!」
たんっ! と木の幹を蹴り上げると、豊満な胸がゆったりと揺れた。
(ははは! この感触! 香美をヒットアンドウェー用に教育してよかったと思える瞬間!!)
貴信がアホみたいなコトを考えてる間に、香美は木の枝に手を伸ばした。
「どーりとかそーいうの、執念で結構ひっくりかえるのよねー。だから念の為」
香美の手に触れた木の枝がバシュゥ!と小気味よく消えた。
と同時に、斗貴子めがけて突き出した手から、細かい木片が無数に射出される。
「くっ!」
斗貴子はとっさに2本のバルキリースカートで目を守る。
守りながらも、残り2本で木を叩いて追跡が途切れぬよう務めるが……
「ざんねん。いー判断だけどさ。前だけに気をとられるのはマズいじゃん」
「!!」
香美は斗貴子の背後にいた。一体どういう方法を用いたのか。
『はーはっは! 僕の武装錬金を使えばこれ位は朝飯前!!』
「あ、よく見たらあたし好みのうなじじゃん。つーワケでちょっと味見」
香美はちろりと舌を出すと、斗貴子の首筋からうなじをゆっくり舐め上げた。
(ははは! この感触! 香美が女のコ好きでよかったと思える瞬間!!)
「ひああっ!?」
斗貴子は瞳孔を見開いて、いやに情けない叫びを上げた。
首筋にザラっとした感覚が走った。それが舌だと気付くと凄まじい怒りが沸いた。
「っの! カ、カズキですら触れたコトのない場所をよくもォォォォォ!!」
「カズキって誰かしんないけどごちそうさま。そしてくらえカラミティエンドォ! てりゃ!」
首すじに食い込んだのは力のない手刀。
破壊力はないが、中空で硬直していた斗貴子を地上に落とすには充分だった。
「ほんとは耳たぶも噛みたかったけど、なんかやばそうだから退散」
『さらばだ!!』


230 :永遠の扉:2007/01/03(水) 13:40:16 ID:D+EiBnyn0
夕方。寄宿舎管理人室。
「今日だけで3回目、か」
「すみません」
「気にしないで。うち2回は私が撒かれちゃったし」
「そーだぞツムリン。むしろよく追いかけた方だって」
御前と桜花は気落ちする斗貴子を笑って諭した。
「しかし、こう行く先々に出てくるとなると困ったな」
防人はため息をついた。
「そうね。戦士・斗貴子ですら追いつけない相手となると、捕獲もできないし」
千歳も同意だ。
「それでなくとも元々手一杯。せめてもう1人ぐらい欲しいところだが……」
戦団はヴィクター討伐の余波で慢性的な人員不足。
手一杯なのはどこも一緒だし、5人もの戦士(正確には桜花は違う)がいるだけ恵まれている。
防人が悩んでいると、突然千歳の携帯電話が鳴った。
彼女はかけてきた者の名をみると、細い眉毛を疑惑に細めた。
「誰からだ?」
「火渡君からだけど……」
実に珍しい。かつては千歳や防人と同じチームだったとはいえ、7年前の惨劇以来、個人的
な親交はほとんどない。。
しかもこの夏、火渡は意見の対立から結果としてではあるが、防人を殺しかけた。
以来、任務上でも顔を会わすコトはない。
そんな彼が何故?
千歳は得体の知れない不安を覚え……やがてそれは現実の物だと知る。
電話に出た彼女は、かすかに色めきたった様子でヘルメスドライブを発現した。
それから何かを探したようだが「見つからない」と電話口に述べ、2、3やり取りをしてから
一座にこう告げた。
「……結果から、いうわね。もうすぐこちらに戦士が1名派遣されるわ」
「なーんだ。そういう連絡ならラッキーじゃねーの?」
「待って御前様」
桜花は千歳の様子がおかしいコトに気付いた。
美しい顔からは血の気が引き、言葉を紡ぐのにも躊躇している。
「結果から……? では、その原因になったコトが?」

231 :永遠の扉:2007/01/03(水) 13:41:01 ID:D+EiBnyn0
「第一、そういう指示は大戦士長の領分だ。なぜ火渡が?」
斗貴子と防人の問いに、千歳は意を決したように言葉を放つ。

秋水は、斗貴子が寄宿舎にいる間だけ部活に出るコトを許可されている。
彼は昼ごろからいつものように、他の部員に稽古をつけていた。
稽古をつけるというのは、相手の動作をつぶさに観察するというコトだ。
ただ打ちのめすのではなく、相手の性質を知った上で対処する。
いわば基本ともいうべき戦い方を徐々に彼は知りつつある。
先日の逆向との戦いでにもそれは出た。
そして稽古を積むたび、以前まであった強さへの停滞感は晴れていく。
部活が終わると、彼は寄宿舎に戻った。
管理人室に入ったのは、千歳が電話の内容を告白した数分後。
だから彼は、なぜ一座が異様な緊張感に包まれているのか理解できなかった。
そんな彼に、千歳はもう1度口を開いて説明した。

「大戦士長が何者かに誘拐されたの。同時にムーンフェイスが脱獄」

その頃、火渡赤馬は怒っていた。
「赤馬」などという放火犯の隠語を名に持つこの男は年中何かに怒ってはいるが、今回ばか
りは実に凄まじい。
昔で言う「総髪」を乱雑にアレンジした豊かな髪を後ろで散切りに結わえて、眉は太く、怒ると
すぐに犬歯をむき出す所はとても人々の安全を守る戦士に程遠い風情だが、一応は防人と
同じく「戦士長」。戦士を束ねる立場である。
もっとも束ねる戦士というのは、かの根来忍や楯山千歳のように性格や前歴に瑕疵があり、
とても正規の作戦に組み込めない者ばかりである。
いうなれば彼は、厄介な者を力づくで抑える役目を負っている。
彼もそれを、天に賦された自身の圧倒的な能力でしか成せないと自負している。
だからこそ目の前の惨状には、怒りを禁じえない。
顔面が陥没し目玉をどろりと流す戦士の死体。
獣の爪で腹を抉られ、辛うじて皮一枚で上半身と下半身が繋がっている戦士の死体。
腰を万力のような物でぐちゃぐちゃに潰れされて制服に血を滲ます物もあれば、明らかに毒
物を注射されたとみえる疱瘡まみれの紫死体もある。他にも酸鼻を極めたものが5〜6体。

232 :永遠の扉:2007/01/03(水) 13:41:41 ID:D+EiBnyn0
総て、照星の護衛につけられた戦士である。
「ハッ! クソッタレどもめ! あの老頭児(ロートル)を過信するからこうなんだよ!!」
けして死んだ者を悼んではいない。
自分たちのいる場所は錬金術という不条理の世界。
生きる不条理も死ぬ不条理も、それは当然のコト。
苛立っているのは、それを踏まえぬ連中の無能の姿勢。
ここは捉えたホムンクルスを収監する施設。
かつては基地内にあったが、火渡にとって因縁深いホムンクルスの脱走により、こちらへ独立。
そしてココにはL・X・Eや『もう1つの調整体』の全容を吐かせるために、ムーンフェイスという
謎めいた月顔の男が収監されていた。
だが彼はなかなか口を割らず、意を決した照星がわざわざ尋問に出向き。
現在に至る。
火渡は、ここに出向く直前の照星と会話をしたが、周りにいた護衛の顔つきをよく覚えている。
安心と油断に緩みきっていた。
どいつもこいつも本来護衛すべき対象の力を信じきり、自分たちの出番などないと最初から
決めてかかっていた。
不条理の世界にいるコトを理解せず、才覚も力量も覚悟もない分際で、重大な任務が果たせ
ると思い込んでいた。
火渡が怒る部分はそこだ。
7年前まで彼は自らの才能によって世界を救えると信じていた。
だが結果は違った。世界どころか小さな島の小さな集落すら救えなかった。
火渡の才能を以てすらその結果だというのに、いま死体になっている連中は……
「火渡様。犬飼と円山が到着しました」
毒島華花という小柄なガスマスクの少女の呼びかけにも答えず、火渡は手から炎を放った。
紅蓮に輝く奔流の目標は──…戦士の死体。
「燃え尽きちまえよてめェら。失敗して勝手にくたばった連中の埋葬なんざ知るかよ!」
「お、おやめ下さい火渡様!!」
毒島は大慌てでガスマスクを操作し、排気筒からガスを炎に吹きかける。
ガスマスクの武装錬金・エアリアル=オペレーター。特性は気体の調合。
彼女はとっさに二酸化炭素を作り、炎の周りに吹きかけた。
「てめェ。何勝手なコトしてんだ。殺すぞ」

233 :永遠の扉:2007/01/03(水) 13:42:25 ID:D+EiBnyn0
「ででで、ですが、戦士の死体は正規の手続きを踏んできちんと埋葬しないと。痕跡から敵
の情報を得られる可能性も、あの、その……」
「ああ?」
サラマンダーのような凶悪な瞳で睨まれ、毒島は声が出なくなった。
その横を不気味な顔の風船の群れがゆるやかに通りすぎ、死体の上で弾けた。
「まぁまぁ戦士長。死体の処理なんて、私の武装錬金を使えばすぐ済むわよ」
中世的な声がするとどうだろう。死体たちは一回りもニ回りも小さくなっていく。
風船爆弾(フローティングマイン)の武装錬金・バブルケイジ。
紫とピンクの半円を組み合わせてできた輪郭に、唇を上に剥いた垂れ目の顔をあしらった
やや大きめの風船だ。これが当たったものは1発につき15cm身長を吹き飛ばされる。
「でも死体なんて汚いモノ持つ趣味、私にはないのよねぇ。ゴミ捨てとかトイレ掃除嫌いだし」
艶やかな短髪と三白眼の美人(※男)は円山円(まどか)。
彼はしばらく考え込むと後ろの男に声をかけた。
「というコトで犬飼ちゃん。やっといて頂戴」
「ぐ。何で僕がそーいう下らない作業を!」
こちらはやや端正な顔立ちの長髪青年。名を犬飼倫太郎という。
眼鏡をかけて亜麻色の髪をあちこちではねさせている所はオシャレだが、けして美形に見え
ないのは内面の卑屈さや劣等感がにじみ出ている証拠だろう。
「そう騒ぐな。どうせ少し摘んで箱にいれる程度の作業。俺がやろう。たまには人間の臓腑を
見るのも悪くはない」
じゅらり、と肉食動物じみた舌なめずりに、円山・犬飼は驚いた。
「え」
「意外ね。あなたも来てたの?」
「というよりこの異変を戦団に通報したのが彼です」
十文字槍(クロススピアー)の武装錬金・激戦を携えてのっそり出てきたのは戦部厳至。
陣羽織を羽織った野武士のような長髪の大男だ。
「騒ぎを聞いて来てみればこれだ。残念ながら敵はすでに去っていた」
「集まったな」
火渡は一座を見渡すと、くわえ煙草で作戦概要を述べ始めた。

234 :スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2007/01/03(水) 13:44:10 ID:JuTFMqrI0
一度戦闘に入ると日常描写が難しくなるので、前回と今回で描くべきコトを叩き込んでみました。
原作未読の方には「なんかわらわら出てきたー!!」てな状態でしょう。すみません。
火渡はさいさんの『WHEN THE MAN COMES AROUND』でおなじみなので今さら語る必要は
ないのですが、その部下の毒島・円山・犬飼・戦部は分からないかも。いちおう原作キャラです。
新キャラについては次回でようやくいったん打ち止め。ここまでが微妙に長かった。
しかし、着々と大風呂敷になりつつ。考えてはいるけれど、畳めるんでしょうか?

>>211さん
期せずしてハーレム状態なのかも。あ、人間関係では秋水が中核だ。よかった。
ヴィクトリアは鬱屈した裏の顔の方が個人的には好きです。男女問わず、鬱屈という要素は
描いてて楽しいという。反面、まひろのお気楽ぶりもなかなか。

>>222さん
ですね。孤独で協力者を得られない → 敵を作りたくない という流れでああいう猫かぶりを
習得したのかも。つきつめると桜花とはまた微妙に違った性質なので今後それを描いていこう
かと。まひろは世界の闇と無縁な所がいいですよね。日常の象徴なので。

235 :ヴィクティム・レッド:2007/01/03(水) 14:58:17 ID:adkOg5c/0
 それは、不思議な感覚だった。ここではない、どこか別の世界、不思議の国にでも迷い込んでしまったような。
 戦場の真っ只中であることが嘘のような、煌びやかな装飾の部屋。
 そしてその内装の一部でもあるかのように、白い籐の長椅子に腰掛ける人形のごとき少女。
 白のワンピースに黒のカチューシャという簡素な服装の彼女は、キース・セピアと名乗った。
 それはつまり、彼女がキースシリーズであることと、もう一つ、カラーネームを与えられているということをも意味していた。
「あんたもまた……ARMSを……?」
 キース・レッドが疑わしそうにそう言うと、セピアはぷっと頬を膨らませた。
「あのー? レディが握手を求めてるんだから応えてくれてもいいんじゃないの?」
 差し向けたままの手をわざとらしくぶらぶらと振る。
「あ、ああ」
 なんとなく彼女に気圧される形で、レッドはその手を握った。すべすべした手触りとその冷たさは、作り物のような感じだった。
「お名前は?」
「……レッド」
 セピアはにぱっと晴れやかな笑みを見せた。その屈託というものがまるでない表情は、レッドにはとても作れぬものだった。
「あ、そ。じゃあレッド。わたしをここから連れ出して? アリスをいざなう白兎のように、ね」

 当初のレッドの脱出プランとしては、正面出口までの最短ルートを、レッドが先頭に立ち敵を排撃しながら突破する、
という強攻策だった。だが、セピアはそれに異論を唱える。
「戦い続けて『そこ』に辿り着くのもアリだけど、戦わずに辿り着けるならそれが最上だと思わない?」
「そんなわけにもいかねーだろ」
「なあに? そんなに戦いたいの?」
 なにか言い返してやろうかと思ったが、上手く言葉が出てこない。シルバーや他の兄弟を相手にするときとは、どうも勝手が違っていた。
「……じゃあ、あんたのプランを聞かせろよ」
 レッドは苦し紛れにそう言うのがやっとだった。
「うふ、聞きたい? プランは単純明快よう」
 そのもったいぶった口ぶりに、レッドはなんとはなしの嫌な予感を覚えた。
「わたしのプランはね、『わたしに任せて』」
「…………」
 レッドの予感はわずか二秒で実り、しかしこれっぽちも嬉しくはなく、軽い頭痛がした。

236 :作者の都合により名無しです:2007/01/03(水) 14:59:28 ID:adkOg5c/0

 ──そして、今、レッドはセピアとともに施設から脱出しようとしている。
 『M-107』、マテリアル107。それがキースシリーズを指していると気が付かなかったのは迂闊だった。
 言われてみれば、レッドにもマテリアルナンバーで呼ばれている時代があった。
 カラーネームで呼ばれることに慣れてしまい、そのときのことはすっかり忘れてしまっていたのだ。
(オレと連番のキースたちは今どうしてんだろーな……)
 廊下の壁にもたれかかりながらそんなことを考えていると、前方の様子を窺っていたセピアがレッドへと振り返る。
「こっちの通路には誰もいないみたい。行きましょ」
「……ああ」
 レッドは努めて無表情を装い、それに頷いた。
「アリスをいざなう白兎のように、ね──」
「ん? なにか言ったかな?」
「なにも言ってない」
 そう言いつつ、レッドは内心で嘆息した。
(……役がまるっきり逆じゃねーか)
 しかし、コンテナからこれまでただの一度も敵と接触していない。
 セピアの先導に従って進むコースはてんでばらばらだったが、巧みに敵の追撃を回避しているようだった。
 どうやら、目に見えぬ敵の動きすら見通す『なにか』を、セピアは備えているらしい。
 そして、そんなことを可能にするファクターと言えば──。
「……それがあんたのARMSか?」
 レッドがそう聞くと、セピアは素直に首肯する。
「そうよ。この建物は入り組んでるからよく分からないけど、平原とかだったら半径十キロ圏内は余裕で把握できるわ」
(その超感覚……眼球にでも移植されているのか?)
 レッドがその疑問を口にしようとしたとき、
「あ痛っ」
 セピアが急に床に倒れた。しかし、なにか躓くようなものはそこに見当たらなかった。
「お、おい」
 戸惑いがちに差し出したレッドの腕にすがり、セピアはふらふらと立ち上がる。

237 :作者の都合により名無しです:2007/01/03(水) 15:00:40 ID:adkOg5c/0
「あ、ご、ごめんね。実は近眼で、メガネも今持ってなかったから、ちょっと距離感つかみ損ねちゃった。
 ARMSのほうは意識を広範囲に広げてたから、逆に足元はお留守だったし」
 などと、かなり間の抜けた言い訳を口にする。
「待て。近眼だって? あんたのARMSは……目じゃないのか?」
「え? 違うよ? わたしのARMSはねえ、ここよ」
 と、セピアは自分の薄い胸に手を置く。
「心臓か?」
「ちっがーう」
 今度は手を上にずらし、鎖骨の辺りをぴたぴた叩いてみせた。
「肌よ。情報制御用ARMS『モックタートル』は、皮膚に移植されているの。驚いた?」
 そう言って、セピアは「えへへ」と歯を見せて笑った。

「……ね、待っ……て、よ。そん、な……速す、ぎるから」
 はるか後方から息も絶え絶えに訴えるセピアに、レッドはしぶしぶ走る足を止めて彼女を待った。
 結局、誰とも接触しないままに施設を脱出したレッドは、セピアを連れてキース・シルバーの指定したポイントへと急行していた。
 追っ手はなし。待ち伏せもなし。それはセピアによって確認されている。
密林の中を進んでいるため、発見される恐れも低い。任務達成は目前だった。
 ただ、問題があるとすれば──。
「ったく。あんた、それでもキースシリーズなのかよ?」
「そ、な、こと……言ったっ、て」
 セピアは常人を基準にしてもはるかに虚弱である、という点だった。
 たかだか五キロも進まない間に、三度も休憩を取らされている。これで四度目だ。
「このペースで行くなら夜が明けちまうぜ」
「……わたし、出来損ない、だから」
 地面にへたり込み、顔を俯かせながらセピアはつぶやいた。
(そういやシルバーもそんなこと言ってたっけな)
 出来損ない、失敗作、選ばれなかったもの、キースシリーズ、不完全、第二形態止まり……。レッドがそんな面白くない連想をしていると、
「ごめんなさい」

238 :ヴィクティム・レッド:2007/01/03(水) 15:01:51 ID:adkOg5c/0
「ああ?」
「わたし、あなたの邪魔してるね。あなたにとって、きっと大切な仕事なのにね」
「謝ることでもねーだろ」
「でも、ごめんなさい」
 萎れたようにうなだれるセピアを見ていると、レッドは無性にイライラしてきた。
 それはセピアの態度が気に食わないというのではなく、じゃあなんで怒っているのかと聞かれても、
レッドには答えようがなかった。ただ、なにかムカつくのだ。心の奥のなにかが、彼の神経を尖らせていた。
 そうした悪感情を振り払うように、レッドは山の中腹から盆地を見下ろす。
 そこには燃える建築物があった。それはもはや原型を保っておらず、奇怪なオブジェのように成り果てていた。
 レッドはその戦場に立つ二人の兄弟のことを思った。
 キース・シルバー。荷電粒子砲『ブリューナクの槍』を放つ『マッドハッター』のARMS適性者。
 キース・グリーン。空間を操り、空間の断裂を刃とする『魔剣アンサラー』を使う『チェシャキャット』のARMS適性者。
 たった二人で、この破壊をもたらしたのだ。
 レッドはその目で見たことはないが、兄のキース・ブラック、姉のキース・バイオレットも、これに比類する能力を備えているのだろう。
 自分にはそれがない。ただ、両腕を変形させた刃を振り回すだけだ。
(オレには力が無い……力があれば、なんでも出来る……力さえあれば)
 力が無いのなら、それを得ることが出来ないのなら、いったい自分はなんのために生まれてきたのか。
(力が欲しい)
「怖い顔」
 我に返ると、セピアが悲しそうに顔を覗き込んでいた。まるで心の奥まで覗き込むように。
「……んだよ」
 気まずげに横を向くレッドに、セピアはなにかを言おうとしたが、突如として身体を硬直させる。
ただならぬ雰囲気に、レッドはセピアの肩をつかんだ。
「どうした?」
「誰かが、いえ、複数の……機械化された兵隊が、こちらへ向かってきているわ。数は……二十、と、四」
 それに一瞬遅れて、レッドの耳に収められたインカムがひび割れた音を発した。

239 :ヴィクティム・レッド:2007/01/03(水) 15:02:54 ID:adkOg5c/0
「レッド──」
「シルバーか?」
「グリーンがミスを犯した。『魔剣アンサラー』の耐久限界を見誤り、ARMSが一時的な活動不能に陥った。
 最終形態での戦闘はまだ無理があったようだ。足止めが外れ、お前のところへ追撃部隊が向かっているはずだ。迎撃しろ」
「なんだと──」
「オレはグリーンを回収し、撤退する。作戦目的は果たした。所定のポイントで待つ」
「おい、待てよシルバー! シル──」
 がりっ、という耳障りな音と共に、一方的に通信が途絶える。
「くそ、なんだってんだ!」
「レッド、サイボーグ部隊が接近しているわ」
「分かってるよ!」
「違うの、聞いて。移動のスピードが普通じゃないの。どんどん距離が狭まってくる」
 それを聞いてレッドの脳裏に浮かび上がったのは、
「高機動型サイボーグか!」
 レッドはほとんど反射的にセピアを腕に抱え上げ、駆け出した。すこしでも距離を稼ぐために。反撃の時間を得るために。
 だが、どこまで逃げればいいのだろうか──。
 鬱蒼と繁る木々をかき分け、地面を蹴り、レッドは走る。奇妙な雄叫びを上げて野鳥が羽ばたく。どこかで獣が鳴いている。
 腕に抱えられたセピアは、不安げにレッドを見上げていた。
「向こうの人たち、あの、フォーメーションっていうの? それがほとんど崩れてないわ。
 ものすごく正確に、こっちへ近づいている。ダメ、もうすぐ追いつかれるわ」
 藪を抜けた次の瞬間、谷を飛び越えて向こう側へ着地する。その衝撃でバランスを失い、膝をついた。
「くそ──」
 高度に連携された高機動型サイボーグ部隊を、たった一人で迎え撃たなければならないのか。
 しかも、このセピアを守りながら。
 だが、やらなければならない。自分にはそれが出来るのだと、見せ付けなければならない。
 そうすることでしか、この苛立ちを、常に感じているやり場のない怒りを晴らすことはできないのだから。
「来る」
 セピアが言った。

240 :ヴィクティム・レッド:2007/01/03(水) 15:16:46 ID:adkOg5c/0
 夜の闇を切り裂くように、三つの影がレッドへ襲い掛かった。
「速い!」
 『グリフォン』を開放し、一瞬で刃へと変形する右腕で一つの影を切りつける。
 低い呻き声を挙げ、その影は墜落した。だが、その背後からもう一つの影が飛び出し、レッドを突き飛ばす。
 地面にもんどりうったレッドの首を狙い、二体のサイボーグが風を切って接近してくる。
 辛うじて体勢を整えたレッドは、一呼吸で両腕を振るって二体とも切り捨てた。
「ぅあっ!」
 セピアのか細い叫びがレッドの耳を打つ。
 レッドが自分のことに気を取られている隙に、三体の新たなサイボーグがセピアに迫っていた。
 だが、亜音速での活動か可能な高機動型サイボーグの攻撃は、彼女に届いていない。
 驚異的な身のこなしでアタックをかわすセピアの体表面には、幾何学的な紋様が浮かび上がっていた。
 皮膚表面に分布するARMS『モックタートル』の感覚能力が、サイボーグの攻撃を明敏に察知しているためだった。
 しかし、それにも限度がある。身体のほうが追いつかなくなってきたセピアの動きが徐々に怪しくなり、
「あ──」
 動きの止まった瞬間を狙われ、三方向からセピアへ高振動ブレードが伸ばされる。
 だが、それがセピアに届くよりも早く、レッドが庇うようにセピアの前に立ちふさがった。
 竜巻のごとく両腕を振り回して三体のサイボーグを切り捨てるが、
同時に受けた高振動ブレードのために、その突き刺さった部分からナノマシンが壊死してゆく。
まるでガラス細工のように、グリフォンのブレードは砕け折れた。
「セピア、オレの後ろに下がれ!」
 言いながら、自分も近くの大樹を背にする。少しでも攻撃可能な空間を狭めるためである。
 だが、それも気休めでしかない。折れたブレードで、後どれだけ戦えるのか。
 一目では把握しきれない数のサイボーグが現われ、一斉にこちらへ突進してくる。
 大樹と自分とにセピアを挟んだ格好で、レッドは死を覚悟した。
(力が……オレに力があれば)
「──が、──い?」
 狭窄したレッドの意識は、そのセピアの声を聞き逃した。
 そっと、セピアがその身体をレッドの背に密着させる。柔らかく、冷たい肌の感触が背中越しに伝わってきた。
「力が欲しい? 力が欲しいのなら……貸してあげる」

241 :ヴィクティム・レッド:2007/01/03(水) 15:24:40 ID:adkOg5c/0
 その言葉を理解するより早く、怒涛のような共振現象がレッドの両腕を襲った。
「がぁっ……!」
 びりびりと震えるような感触が背筋を駆け上る。両腕が熱い。
 そして、ある名状しがたい力が、レッドを支配した。
 レッドの足元では木の葉が舞い、波紋状を描き出している。気味の悪い音を立て、木々がうねる。
 そして、そして──。
 レッドの両腕、『グリフォン』が、これまでにない力を発現させていた。
(これは音波……超々高周波、か……?)
 両腕から発せられるその破壊的な振動は空気を撹拌し、指向性の音波を真正面から受けたサイボーグが次々とその身を崩れさせてゆく。
 慌てて退避しようと宙に飛び上がる者たちも、その影響から逃れることはできず、死んだ小鳥のようにぼとぼとと地面に墜落する。
 虫も植物も、鳥類も爬虫類も、その場にいる全ての生命を掻き乱し、そのARMSは、幻獣の名に相応しくあらゆる生き物を蹂躙していた。
 やがて一切の音が周囲から消え去り、耳に刺さるような痛みだけが、この空間を支配した。

 動くものがなにもなくなった二人だけの世界で、レッドとセピアは夜空を見上げていた。
「さっきのが……わたしのARMSの能力なの。『ニーベルングの指輪』。戦闘能力の無いARMS。
 その力は、他のARMSのナノマシンに干渉して、それが持つ力を加速させる」
 レッドは自分の両腕を見た。急な能力の発現による過負荷に耐えられず、その腕はぼろぼろだった。
 ナノマシンによる修復も追いつかないので、もうしばらくは動かせそうになかった。
 シルバーとグリーンの待つ合流地点に辿り着くのは、もう少し先になるだろう。
「ふ、くく」
 喉から漏れるその声が、笑いだと気づくのに数秒を要した。気が付くと、それはいっそう激しくなった。
 レッドは、妙にさっぱりした気分で、底の抜けたような笑いに身をゆだねていた。
 箍が外れたように笑い転げるレッドを見て、セピアは引き吊り気味の苦笑を浮かべる。
「なんで傷だらけなのに笑ってるのかなあ」
 それに答えず、収まりかけた笑いを噛み殺そうと背をくの字に曲げるレッド。
「さっき、初めて会ったときにも思ったけど、レッド、あなたってそうとう変な男の子だね?」


第三話『肌』 了

242 :ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/01/03(水) 15:37:34 ID:adkOg5c/0
他の方の話を読んでると大変参考になります。見習いたい部分が多いです。
正月休みも残り少ないし、書けるうちにできるだけ書いておきたいです。

>>223
隼人を含め、オリジナルARMSの四人は確実に出さないつもりです。

243 :作者の都合により名無しです:2007/01/03(水) 18:51:48 ID:JkG7zO0b0
スターダスト氏もハロイ氏も更新はやい!

>サマサさん
オールキャストでの別れですか。ラストは大団円かと思ってたけど、
ドラえもんサイドでのエンディングになるのかな?
出来れば、最後の回にはシャッフルサイドも出てほしい

>スターダストさん(吶喊ってどう読むんですか?)
ヴィクトリアの心の動きの前回と、一気に話が動き始めた今回。
やはりアクション面ではトキコが目立つな。
しかし、大戦士長誘拐ですか。あの大戦士長が・・

>ハロイさん(ヴィクテムってどういう意味ですか?)
レッドは確かに、ブラックたちに劣等感を感じてたのかも?
セピアは良さげな感じのオリキャラですね。
オリジナルたちが出ないのはちょっと残念だけど期待してます!


244 :作者の都合により名無しです:2007/01/04(木) 02:53:33 ID:VeKcY3fa0
>永遠の扉
急に話が激しく動いている中で、小札は相変わらずの口調でマイペースですな
ヴィクトリアが現れてから事態は急変すると思ってましたがあの馬鹿強い大戦士長がさらわれるとは
とりあえず、バトルパートでは秋水と斗貴子が活躍しそうだな

>ヴィクテム・レッド
レッドの劣等感が面白い。グリフォンという強大なアームズを持ちながら
それ以上の力を持つ兄姉たちのせいで捻じ曲がっている姿がいい
セピアも良キャラだな。
「ニーベルングの指輪」ってやっぱりアリスの話からの創作かな?



245 :作者の都合により名無しです:2007/01/04(木) 09:38:25 ID:cH54JmgS0
熟練者のスターダストさんは勿論だけど、
ハロイさんもうまいなあ
きっと他でも書いてらしたんだろうね

246 :ヴィクティム・レッド:2007/01/04(木) 11:19:47 ID:dKeKSOrI0
 ニューヨーク、マンハッタン島。
 その中央エリアに位置する巨大ビルは、とある軍需複合体の所有物だった。
 外見はただのインテリジェンスビルディングだが、実はそれの内部が高度に武装されたいわば陸の要塞であることを知る者は少ない。
そこが圧倒的な軍事力で裏の世界に君臨する秘密組織『エグリゴリ』の本部であることを知る者も。
 カリヨン・タワー。それが、禁忌の技術を積み上げる、現代のバベルの塔であった。

 レッドがドアを開けて廊下に出ると、キース・グリーンが声をかけてきた。
「やあ、レッド。身体はもういいのかい?」
「……お蔭さんでな」
「今回は僕の失態のせいで君にも迷惑をかけたと聞いている」
 レッドはグリーンが嫌いだった。
 真面目が服を着て歩いているような態度も気に食わないし、どこか人を馬鹿にしているような気安さも反発心を掻き立てる。
 それらの性格は鼻白む、というほど酷くはなく、きっと本人に悪気はないのだろうという想像はつく。
 世間知らずなお坊ちゃん、そんな感じの少年だった。名門と冠詞が付くハイスクールに行けば、この類の人格には幾らでもお目にかかれた。
 強力にして特異なARMS『チェシャキャット』を身に宿しているという自負が、彼にそうしたやや無神経な言動を取らせているのだろう。
 だがその一点に於いて、レッドはグリーンを嫌悪していた。
「ああ、いい迷惑だったぜ。てめえの仔猫も大したことねーんだな」
「……なんだい、それ。僕の『チェシャキャット』を馬鹿にしているのか?」
 ざわ、とグリーンの周囲の気配が変化する。氷のように冷たく、研ぎ澄まされた殺意ある気配へ。
 ARMS同士の共振現象により、レッドの両腕が微かに疼いた。
「──いや、止めよう。悪いのは僕だ。その言葉も甘んじて受けるよ。次は上手くやってみせるさ」
 ふ、と肩をすくめ、グリーンは笑う。そして、その場から煙のように消えた。空間操作能力を使った瞬間転移能力だ。
 グリーンが立っていた場所を睨みながら、レッドは吐き捨てるように呟いた。
「『次は』、か──。いいご身分だな、グリーンよ」

247 :ヴィクティム・レッド:2007/01/04(木) 11:20:49 ID:dKeKSOrI0

 話は数分前にさかのぼる。
 カリヨン・タワー最上階の大部分を占める一室にレッドは立っていた。
 いつも思う、この部屋には照明が足りない、と。
(この根暗野郎にゃ、ちょうどいいのかもしれねーけどな)
 そんなレッドの無意味な愚痴など知る由もなく、巨大な円卓を挟んで向こう側に座る男は口を開いた。
「報告書を読んだ。実に興味深い内容だ」
 男──キース・ブラックの声音は極めて無感動であった。本当に興味深く感じているとはとても思えない、
子供の描いた絵を褒めあぐねた大人が義理で『上手な絵だな』とでも言うような口調だった。
「このレポートでお前はこう言っている──
『エグリゴリでも研究中途である高機動型サイボーグの技術を、敵性組織も有していた。
その技術的な方向性もエグリゴリのそれと酷似している。
当方の技術を外部に漏らしている内部的存在の可能性は否定できない』、と」
 そう言ったきり、ブラックは口をつぐんだ。沈黙が部屋に満ちる。ブラックは組んだ手で口元を隠しており、その表情は窺えない。
「……それがどうした」
 静寂に耐え切れずレッドは言葉を吐き出す。それに答えたのはブラックではなく、その傍らに立つキース・シルバーだった。
「レッドよ、お前の所見など必要ない。可能性の有無を判断するのは我々だ。お前は与えられた任務をこなすことだけを考えろ」
 その突き放したような言い草に、レッドはかっとなる。
「オレはなにも考える必要がないってか? 黙ってあんたらのお使いやってろってか!?
 ふざけろよ、高いところから見下しやがって、どれだけ偉いんだよ、あんたら! オレは──」
「やめなさい、レッド。兄さんに向かってその口の利き方はなんだ?」
 シルバーとは正反対の位置に立つ、ハイティーンの娘がたしなめるようにレッドの言葉を制した。
「黙ってろよ、バイオレット! オレはブラックと話をしているんだ!
 あんたらがどれだけ強いか知らないがな、オレだって新しい力を手に入れた!
あんたらがオレを下に見る理由なんてもうどこにもないんだ!」
「なにを……言っているの?」
 バイオレットと呼ばれた娘は、戸惑うようにレッドを見る。それに応じて、シルバーが補足説明を行う。
「先の任務で、レッドの『グリフォン』は新たな能力を発現させた。高周波を発し周囲の環境に破壊をもたらす能力、
──と、本人の報告書にある」

248 :ヴィクティム・レッド:2007/01/04(木) 11:21:58 ID:dKeKSOrI0
「そうさ、オレは力を手に入れた。オレの『グリフォン』は──」
「使ってみろ」
 レッドの叫び声を縫うように、その声は部屋に響き渡った。
「……なに?」
「使ってみるといい、今、ここで」
 ブラックの声だった。静かな、だが容赦のない口調だった。
「ちょ、ちょっとブラック兄さん」
 すう、と片手を挙げ、制止しかけたバイオレットを黙らせる。
「どうした、レッド。私はお前の力が見たいんだ。遠慮はいらない。
お前が我ら『マッド・ティー・パーティー』に名を連ねる資格があるところを見せてみろ」
 エグリゴリの最たるトップエリートを示すその言葉を聞かされて、レッドの脳裏でなにかが弾けた。
「後悔するなよ!」
 『グリフォン』を発動させ、異形の姿へと変じた右腕を正面に突き出す。
(さあ、力を見せ付けてやれ、『グリフォン』!)
 だが──。
「なんでだ……? 何故なにも起こらない!?」
 あの密林で見せた超絶的な破壊が嘘だったかのように、なんの変化もそこに現れなかった。
 どれだけ意識を集中しても、そよ風一つ起こらなかった。
「らしくないな、レッド。柄にもなく冷静さを失ったのか」
 焦燥に駆られたレッドの心を射抜くように、ブラックの冷たい声が浴びせられる。
「サイボーグを破壊したのは、お前の力ではない。セピアのARMS『モックタートル』の能力に依るところが大きい。
彼女の『ニーベルングの指輪』によって、一時的にお前の潜在能力が引き出されただけだ。
『モックタートル』には直接的な攻撃能力は無い。だが代わりに他者のARMSの力を引き出して戦う。
ちょっと考えれば誰にも分かることだ。お前はそれを自分自身の力と勘違いしたのだ。
 お前が見た破壊の世界、それはただの幻想だ」
「な……」
 冷や汗がレッドの背中に走る。あの力はまやかしだった? オレの力じゃなかった?
「……だ、だが、それがオレの潜在能力だというなら」

249 :ヴィクティム・レッド:2007/01/04(木) 11:23:06 ID:dKeKSOrI0
 もはや自分でもなにを言ってるのか分からなくなってくる。
「オレの力が完全に引き出されると、そうなるというなら、オレは」
「レッド──」
 バイオレットが眉根を寄せ、どこか辛そうな表情でレッドを見ていた。
「バイオレット、オレは、本当は誰にも負けない力を持っているんだ」
「見苦しいぞ、レッド」
 シルバーがそう一喝し、左腕をレッドに向ける。それと同時に、強烈な電撃がレッドを襲った。
「『ブリューナクの槍』──応用次第では、このように高電圧を敵に放つという使い方も可能だ。
 レッド、これが力だ。自らの限界を知り、そこから導き出した可能性を実現させる。それが戦士というものだ。
 現実に存在しない力など力ではない。実現しなかった『可能性』にはなんの価値もない」
「……オレは」
(オレは馬鹿だ……!)
 虚脱したように膝を落とすレッドに、遥かな高みから声が降ってくる。
その声はとても遠く聞こえた。決して届かぬ世界からの呼び声だった。
「だが、私はお前に期待しているのだよ、レッド。お前もまた、我らと同じキースシリーズなのだから。
 お前の次の任務はすでに用意してある。幾多の戦場を潜り抜け、強くなれ」
 わずかに灯っていた照明も消え、部屋は暗黒に沈む。
「全ては、我らが母『アリス』の為に」

 そして、部屋から出たところでレッドはグリーンと鉢合わせしたのだった。
 鬱屈した感情に任せてグリーンを挑発してみたが、彼はそれに乗らなかった。
 そのせいで余計惨めな気持ちになったレッドは、窓辺に寄りかかる。
 外はもう夕暮れで、真っ赤な太陽が柔らかくレッドを照らしていた。
(あー、どーしてこう空回りばっかなんだろーな、オレ──)
 他の兄弟を見返してやろうと必死だったが、その歪みのためにとんでもない思い上がりを心に生じさせてしまった。
 人を信じることもできず、今、自分をも裏切ってしまった。
 この世界で自分だけが孤独であるような気がして、レッドは虚ろに窓の外を眺めていた。
「災難だったな、レッド」
 その落ち着いたアルトヴォイスの方向へ、レッドは力なく首を曲げる。
 腰に手を当てて立つバイオレットが、笑っているのか困っているのかよく分からない微妙な表情をレッドに向けていた。

250 :ヴィクティム・レッド:2007/01/04(木) 11:24:22 ID:dKeKSOrI0
「わたしも報告書を読ませてもらった。状況が状況だ。その種の誤認が生じるのも無理はない。
なにより、キース・セピアの能力は特殊すぎた」
「気休めはよしてくれよ。オレは……自分のことも分かっていなかったんだ」
 女性型というパーソナリティのためか、それともバイオレットという個人の性格によるものなのか、
彼女には他のキースシリーズに比べて排他性や刺々しさというものをあまり感じなかった。
「キース・セピアのことも憎んでいるか?」
 質問の意味が分からず、レッドはバイオレットの整った横顔を見つめた。
「どういう意味だ?」
 バイオレットはちらとレッドを見、再び窓を見た。
「彼女もキースシリーズだ。あなたがキースという名前を憎んでいることは知っている。
それに、セピアのせいで、あなたはわたしたちの前でいらぬ屈辱を受けた。違うか?」
「……そうか」
「ん?」
「そういう考え方も、あるよな」
 確かにあの密室での出来事は、今思い出しても腸の煮えくり返るような出来事だった。
 だが、バイオレットに指摘されるまで、いや、現に指摘されたこの瞬間でも、
その屈辱とセピアを結びつけて考えることは出来なかった。
「いや、あいつのことは別になんとも思ってねーよ。あいつはそういうんじゃなくて、もっと別の……」
「別の?」
 ここではなどこか、今ではないいつか、不思議の国で出会ったお姫様のような──。
 自分がいる暗黒の渦のような世界とはまったく別の、苛立ちも憎しみも無い世界の住人、そんな気がした。
「なんでもねーよ」
 ……それに、あのときの、あの密林の中での、心からの笑いは嘘じゃない。
 確かにオレは、新しい力の片鱗を見た。新しい世界を見た。
 未来のない運命を突破する、過去よりの呪縛を解き放つ、そういう輝くような力の欠片を。
 今はそれに手が届かなかったが、きっと、いつか──。

251 :ヴィクティム・レッド:2007/01/04(木) 11:46:17 ID:dKeKSOrI0
「ま、とにかく、しばらくはあんたらキースどもの顔は見たくねーな」
 冗談めかしてそう言うと、バイオレットは深刻な表情でレッドの瞳を覗き込んできた。
「それは……実に災難だな」
「……はあ?」
 またも意味の分からない顔をするレッドへ、バイオレットは心配そうな顔で続けた。
「新しい任務の話、聞いていないのか?」

 バイオレットがその扉を開けると、一秒の間も置かずに小柄な体躯が彼女にぶつかってきた。
「お姉さまー!」
「『お姉さま』はやめなさいと言ってるのに。しかし、よくわたしだと分かったな」
「えへへ、そりゃ分かりますよ。わたしの肌は特別製ですから」
「……バイオレット、こいつとは知り合いなのか?」
「ああ。歳は違えど、彼女とわたしは同じラボの出身だ。つまりは同窓さ」
「あ、また会えたねレッド。あれ? するとなんですか、レッドがわたしの?」
「そういうことになるな、セピア」
「えー、わたし、お姉さまがいいです」
「ダメだ。これは命令だからな。折を見て顔を見に来てあげよう」
「ホントですか?」
「ああ、約束する」
 珍しく笑みを浮かべるバイオレットと相変わらずにこにこ笑っているセピアを見比べながら、レッドは限りなく嫌な予感を覚えた。
「バイオレット、これはどういうことだ?」
「どうもこうもない、見ての通りだ。マテリアル107改めキース・セピアは、幹部候補生として正式にエグリゴリに所属することになった。
 ARMSの定着状態や本人の体調不良のため長らく『ヴィクティム』扱いだったのが、
今回の強奪事件で『本部にて管理しつつ、有効に運用すべき』との方針に変更されたのだ。
 彼女の適性から情報管理の部門に配属されることが内定しているが、それ以前の問題として彼女は『キース』だ。
エグリゴリの中枢を担うべく、過酷な任務を与えてARMSの性能を磨かなければならない。
 だが、お前も知ってるとは思うが、セピアは虚弱体質だ。単独での任務に耐え得ないだろう」
 ここからが話の本題だと言うかのように、バイオレットはレッドに頷いてみせた。

252 :ヴィクティム・レッド:2007/01/04(木) 11:50:44 ID:dKeKSOrI0
「そこで、キース・セピアはキース・レッドの指揮下に入り、ツーマンセルのユニットとして任務に当たってもらう。
 レッド、あなたは通常の任務の他に、キース・セピアを指揮し、監督し、管理する、という任務が与えられる。
 期間は半年。それまで、情報管理部門へは出向扱いとなる。つまり、あなたが名実共にセピアの上官になるのだ」
 再びレッドの予感は実った。今度こそはっきりと嬉しくなく、重い頭痛がした。
 そんなレッドの心境にお構いなく、セピアは底抜けに明るい声ではしゃぎだした。
「よろしく、レッド。……あ、わたしの上官になるんだから、サー・レッドとかのほうがいい?」
 かと思うといきなり手をぱんと叩き、
「そうそうそう、忘れてた」
 部屋の隅の戸棚まで駆け寄ると、すぐに戻ってくる。
「ほらほら見て。これでもう転ばないよ。どう?」
 細いフレームのメガネの奥からアーンモンド形の目を瞬かせ、得意げに、無い胸を張った。
「バ、バイオレット……」
 それからさらにあーでもないこーでもないと絶え間なくしゃべり続けるセピアに辟易して、レッドは救いを求めて彼女の姿を探す。
「少々かしましいが、賢く優しい子だ。ちゃんと面倒を見てやるといい」
 いつの間に淹れたのか、湯気の立つアールグレイを口に運びながら、バイオレットは薄く目を閉じた。


第四話『塔』 了

253 :ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/01/04(木) 12:17:05 ID:dKeKSOrI0
セピアと他のキースシリーズとの温度差が気になる今日この頃、オリキャラだからってはっちゃけすぎでしょうか。

>>243
ヴィクティムとはvictim、
モノとかブツ、実験体、被害者、犠牲者、いいカモ、生け贄、(暴力やら権力やらの)虜、
などという意味です。

オリジナルARMSは、時系列的に出しづらいかなー、という理由で出さないことにしてます。
恵や隼人はすでに発動させている辺りでしょうが、変に登場させても俺が収拾つけられなくなりますので。

>>244
混乱させる書き方してすいません。
セピアのARMSは『モックタートル(Mock Turtle)』です。
元ネタは原作に従い「不思議の国のアリス」の登場キャラから取ってます。
空想の動物で、まあ基本的には仔牛です。
なんでタートルやねん、っつーツッコミもあるでしょうが、直訳すると『紛い物の亀』となります。
高級料理である「海亀のスープ」の代用として作られるのが「Mock Turtle soup」で、これは仔牛を使うようです。
そこから来た、キャロルの創作した動物です。

で、ARMS『モックタートル』の使う特殊能力が、『ニーベルングの指輪』です。
ARMSの特殊能力の名前はたいてい北欧神話から取ってるようなので、
そこにあやかって、北欧神話を題材としたワーグナーの楽劇『ニーベルングの指輪』から取ってます。

254 :作者の都合により名無しです:2007/01/04(木) 16:33:15 ID:cH54JmgS0
ハロイさん更新すげえ!
もうラストまで頭の中で出来てるのかな
キースシリーズ勢ぞろいですね
バイオレット様も出てきたし・・

しかし、レッドからヤムチャ臭がほんのりとw

255 :作者の都合により名無しです:2007/01/04(木) 20:13:01 ID:QkAMUN1Z0
そうあれかし

256 :Kaz& ◆Was22KBhQs :2007/01/04(木) 20:13:52 ID:QkAMUN1Z0

わたし は へるめす の とり
みずから の はね を くらい 
かい ならされる

西アジアから地中海沿岸、そして欧州に至るまで、オスマン帝国は遍く
その猛撃からワラキア公国を護った公国の守護者、
マキャベリの指し示すとおり、彼は一切合財の手段を選ばず、
恐怖すら己の武器として、彼は故国を護ったのだ。

一つの意思が
十の想い出を踏み潰し
百の魔を産み
千の国を殺し
万の屍の上に
億土のクリスタニアを築き上げる。

だが、その生涯は捕囚として潰えた。
神の国(イェルサレム)、神の世界(クリスタニア)。
神による、神の為に生きる者のみが住もう、神の国。
神が築き、神の為にある神の世界。
そのキングダムオブヘヴンを目ざして死を重ね。
祈りを、戦いという祈りを、
神の為の戦いという祈りを、
死という折りを、
屍を重ねて神の御許へ行かんとした果てに、
彼は敗れて哀れに首を落とされた。


257 :Kazikli Bey:2007/01/04(木) 20:19:56 ID:QkAMUN1Z0


歓喜は男の拳によって示された。
アーサー・ホルムウッド
キンシー・モリス
ジャック・セワード
そして、エイブラハム・ヴァン・ヘルシング
只の人間だった。
エイブラハム・ヴァン・ヘルシングは、神秘学に通じた只の老人に過ぎなかった。
只の人間だったからこそ、化け物を打倒する権利を持ちえたのだ。

「醒めない悪夢なんてないさ…。
 哀れな伯爵よ、お前には何もない。
 城も領地も消え果た、彼女の聖餅蹟も消え果た。
 彼女はお前のモノになんて、ならない」

老人のしわがれた声に、化け物を打倒した歓喜は只の一かけらもなく、
ただ、事実だけを反芻していた。

「わたしの、まけか…」

敗者の声色の中には、澄んだ歓喜が仄暗く燃えていた。
それに気付いた老人は、怒りを込めて白木の杭を殴りつけ、彼の心臓により一層深く叩きこんだ。
悲鳴というより嗚咽、嗚咽と言うよりは屠殺される獣の叫びに似た音が彼の口から漏れた。
甘美なる敗北をもってしても、彼に消滅の祝福は授けられなかった。

「お前にはもう、なにもない!」


258 :Kazikli Bey:2007/01/04(木) 20:21:25 ID:QkAMUN1Z0

紆余曲折を経て、彼は道具となる。
その老人を騎士団長として迎え入れ、英国国教騎士団として再編された大英帝国守護騎士団の、
文字通りの鬼札という道具となったのだ。
それは煉獄だった。
地獄へと落ちることも許されず、
ただ戦い、
戦い、
戦い、
己を殺し得る「人間」を求める戦い。
崇高な祈りにも似た、戦いだった。

それでも、なお、諦めを踏み破る意思を持っていた。
人間であることすらかなぐり捨て、血を喰らう鬼へと成り果てて、
神の為の化け物として、
人に斃されるべき化け物として、彼は戦路(いくさじ)を征く。
戦鍋旗を掲げた軍団を飲み干し、
己の領民を、
己の臣下を、
己の兵を、
己の民を食いつくし、
それでもまだ彼は渇望しながら突き進む。
身も心も鬼と成り果てながら。


259 :Kazikli Bey:2007/01/04(木) 20:22:45 ID:QkAMUN1Z0

甲板に航空機が突き刺さり、大破炎上した空母が、霧から霧へと恐ろしい速度で突っ走る。
幽霊船。それはまさしく、あのような船をいうのだろう。
死と屍と死臭を満載し、
引きずりながら、鉄の船は軍馬と化しドーバー海峡を貫いて、テムズ川をさかのぼる。
歌のように落とされたロンドン橋の残骸を踏みしめて、
彼は帰ってきた。
ロンドン市外へ獣のように喰らいついたその船には、彼が、恐ろしい化け物がいる。
王立国教騎士団の鬼札、死なずの君、夜を往く者、吸血鬼アーカードがいる。
棺と化した王都へと、彼は帰ってきたのだ。

甲板を突っ走り、白銀の銃と鉄の銃を引っさげて、
十字軍と最後の大隊の真ん中へ、彼は帰ってきた。
死と恐怖の静寂を切り裂く咆哮をあげながら。



260 :Kazikli Bey:2007/01/04(木) 20:25:35 ID:QkAMUN1Z0


「あるじよ!
 我が主よ!
 マイ、マスター!インテグラ・ヘルシングよ!
 命令を!」

そして、今代の彼の主、
英国国教騎士団団長、
インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシングは、己の僕に命令する。

「我が下僕!
 吸血鬼アーカードよ!!
 命令する!!!」

彼女の言葉が死を呼び覚ます。
血の轍と、血の轍と、血の轍の最果てから死が群れをなしてやってくる。

「白衣の軍には白銀の銃をもって朱にそめよ!
 黒衣の軍には黒鉄の銃をもって朱にそめよ!
 一木一草尽く、我らの敵を赤色に染め上げよ…
 見敵必殺…ッ!
 見敵必殺ッ!!」

いっそすがすがしいほどの剛直さで、彼女は一気呵成に命を下す。

「総滅せよ。
 彼らをこの島から生かして帰すな」


261 :Kazikli Bey:2007/01/04(木) 20:28:52 ID:QkAMUN1Z0

ドイツ第三帝国NSDAP私兵集団武装親衛隊
吸血鬼化装甲擲弾兵戦闘団「最後の大隊」
残存総兵力572名。
ローマ・カトリックヴァチカン教皇庁・第九次空中機動十字軍
残存総兵力2875名。
大英帝国王立国教騎士団
残存兵力、インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシング、
セラス・ヴィクトリア、アーカード、3名。
その絶望的な戦力差は、しかし、只一つの号令によって覆される。

「拘束制御術式零号、開放!!
 帰還を果たせ!!幾千幾万となって帰還を果たせ!
 謳え!!」

絶叫にも似た言葉、アーカードは応える。
それこそが死の始まり。
それこそが彼岸を渡河する者の雄叫び。

「私は、ヘルメスの鳥」

詠うように…。

「自らの羽根を喰らい」

歌うように…。

「飼いならされる」

262 :Kazikli Bey:2007/01/04(木) 20:31:48 ID:QkAMUN1Z0

謳うように、彼は言葉を紡ぐ。
世界を軋ませ、大英帝国を軋ませ、最後の大隊を軋ませ、十字軍を軋ませ、
彼の棺は開かれる。

血とは、命の貨幣、魂の通貨。
血を喰らうとは、血を吸う鬼というものは、そういうモノなのだ。
彼の喰らった者が再び現世に舞い戻る。
死徒として、アーカードの一部として舞い戻る。
死の群れとして、死を増やす為に、死ぬ為に、死の為に、
死人が来る。
食い殺されたはずの特殊部隊が襲い掛かる。
僧兵の群れが襲い掛かる。
戦鍋旗を掲げた軍団が再び神の僕に襲い掛かる。
そして、オスマン帝国の戦禍から故国を護ったワラキア公国の騎士たちが蘇る。
恐るべき君主の兵士たちは、再び敵を串刺し刑に処す。
敵よ、敵よ、敵よ、貴様らの罪は只一つ、彼の敵であったという事だけだ。
幾万もの死の群れは、幾億もの絶望を纏って死を与えて回る。
ワラキア公王、ヴラド悪魔公(ドラクル)の名において、
ワラキア公王、ヴラド小龍公(ドラクル)の名において、
敵よ、敵よ、敵よ、死にたまえ。
紅い、赤い、朱い、死の河が彼方より来て彼方へと去る。
彼岸の彼方から来て、彼岸の彼方へと去る。
それはすべて死ぬ為に、それはすべて死の為に。

263 :Kazikli Bey:2007/01/04(木) 20:33:28 ID:QkAMUN1Z0
天も無く、地もなく、人々は突っ走り、獣は吠え立てる。
まるで彼らの宇宙が一切合切咆哮を始めたようだ。
死ねや、死ねや、人間は歩き回る陽炎に過ぎない。
闘え、死ね、あとはすべてくだらないものだ。
死んでしまえばよい。
死んでしまえばよい。
きっと彼らの全てが仇人で、世界がその絶対応報に頭を上げたのだ。

咎人はすべて串刺し刑に処され、王都ロンドンを赤く化粧する。
罪人はすべて串刺し刑に処され、死都ロンドンを紅く化粧する。
仇人はすべて串刺し刑に処され、大英帝国帝都を朱く化粧する。
地獄を謳いあげるためだけに、カズィクル・ベイは再び現世に舞い戻ったのだ。
地獄を謳うためだけに。

264 :銀杏丸 ◆7zRTncc3r6 :2007/01/04(木) 20:40:42 ID:QkAMUN1Z0

三が日過ぎてるのでアレですが、あけましておめでとうございます。
旧年中は誠にお世話になりました、本年度もよろしくお願いします、銀杏丸です。

今回は最近バキスレでも話題のヘルシングのSSで、
主人公の一人であるアーカードを題材にしております
新年お年玉SS、とでも思っていただけるとありがたいです
因みに、タイトルのカズィクル・ベイとは
オスマン帝国側が恐怖を込めて彼につけたあだ名で
意味はまんま「串刺し君主」
ドラクルとは悪魔とか龍とか言った意味があります
なんでも、彼の父親が神聖ローマ帝国から竜騎士団の騎士に叙勲された事がルーツとか
西洋じゃ悪魔も龍もキリストの敵なんでにたよーなニュアンスで十把一絡げです
おかげで日本のアニメを翻訳するときには非常に困るとか…

>>50さん
冥王神話のピスケスとニオベの大活躍に胸躍っております
あれくらいかっこよくてもよかったんだよ!ピスケスは!
長いのはもう、僕の悪癖です。もうちょっと削ってもよかったかなと思ってますが…

>>51さん
そういっていただくと、気恥ずかしい気分です。
これでも結構四苦八苦しております
職人諸氏はみな同じような苦境に望んでおられるのだなぁと思うと未熟さに身がしまる思いです

>>64さん
車田漫画のキャラクターはバックボーンがまったく描かれない為
読者サイドでの想像の余地があってとても書きやすいんですよ、実は
星矢の姉・星華なんてスポンサーのセイカノートからとられたそうですし
アフロディーテなんて最たるもので、そういったあたりが大好きです


265 :銀杏丸 ◆7zRTncc3r6 :2007/01/04(木) 20:42:13 ID:QkAMUN1Z0
>>スターダストさん
明治という時代事態が日本の青春時代だった、という意見は非常に納得
どの国の近代もそういった熱があるものですが、
特に日本は太平と戦乱という両極端へと揺れながら発展してきたという歴史を持つ国
爆爵でもそういった「青春の熱気」を厭わなかったというのは非常に面白かったです

>ヴィクトリア
してやられました…

>>さいさん
いかがでしたでしょうか?アーカードSSです
ヘルシングにはいろんなガイキチが出てきますが、
神父はそれでもまだ常識人の範疇だと思ってます、あくまであの連中の中では、ですが
ガチの狂信者だったヴラド、冷徹な情熱で戦争を愉しむ少佐、力に酔ったマクスウェル
こういった面子の中だと、神父の純粋さがなおのこと引き立ちます

>>ふら〜りさん
きれーな彼女も居て、黄金やら白銀の弟子も居て、聖域でも屈指の実力者でって
実は瞬、戦闘神話じゃ優遇されてるキャラの一人です
甘さ云々に関してはもう彼の戦闘シーンがすべての答えです
としか今の時点では言えません、申し訳ないです

では、今年もよろしくお願いします

266 :ヴィクティム・レッド:2007/01/04(木) 20:51:56 ID:mRWU0++g0
「セピア。今回のオレたちの任務を説明する。エグリゴリのサイボーグ技術の流出疑惑の調査として、
エグリゴリサイボーグ特殊部隊の隊長である、クラーク・ノイマン少佐に尋問を行う。
 彼は最新の各種サイボーグを束ねる手練の兵士であり、自身も高機動型サイボーグだ。
ただが尋問だとナメてかかると──って聞いてるのか?」
「聞いてますよー。クラーク少佐にお話を伺うんでしょー♪」
「鼻歌を歌いながら復誦するな! あんた、エグリゴリの任務をなんだと思ってるんだ!?」
「なによう。わたしがお風呂に入ってるのにドアの前でそーゆーこと言うことのほうが、どういうつもりなのか聞きたいわっ」
「あんたが日がな一日風呂に浸かりっぱなしだからだろーが!」
「汚れは乙女の柔肌の大敵なのっ。特にわたしの『モックタートル』にとってはね。
できるだけ清潔にしておいたほうが感度もよくなるのよう」
「勘弁しろよ……」
 洗面台にもたれかかりながら、レッドは頭を抱える。
 鏡に映った自分の顔は、とても憂鬱そうだった。

 ここ最近の日常は、キース・レッドにとってはなはだ不本意なものだった。
 その原因ははっきりしている。
 レッドの目の前で風呂上りの頬をほんのり桜色に染めメガネを蒸気で曇らせながらベーコンエッグにかぶりつく少女こそ、
レッドにとっての不本意の権化だった。
「なあ、セピアよ」
「んー?」
 口をもごもごさせ、だらしのない声を立てるセピア。
「あんた、いったいなんのつもりだ? ここでなにをやっている?」
 しばし無言。咀嚼したものを飲み込んで、セピアがしゃべれる状態になるまで、レッドは辛抱強く待たなければならなかった。
「……なにって、お風呂上りに朝ごはん食べてまふ」
「ここはオレのアパートメントだ。あんたには別の住居が用意されているはずだ」
「あ、あれダメ」
 きっぱりとセピアは首を振った。そしてオレンジジュースの入ったコップに手を伸ばす。
「なんでだよ」
「日当たりが良くないの。あれだと体の調子が悪くなっちゃうから」
「あんたは観葉植物か!?」

267 :ヴィクティム・レッド:2007/01/04(木) 20:52:55 ID:mRWU0++g0
 こいつはいったいなんのつもりなんだ?
 改めてレッドは自問した。
 もしかしたらキース・ブラックかキース・バイオレット辺りの命令で、自分の動向を監視・牽制するお目付け役として
張り付いているのか知れないと一度は疑ったが、そんな馬鹿げた疑いを持続させることは不可能だった。
 そうした疑念すら吹き飛ばす我侭勝手ぶりで、レッドを振り回し続けているからだ。
 信じがたいが、どうやら自分は『御しやすい相手』として懐かれしまったらしい。
 その推測が正しいとしたら、そこから先はたった一つの言葉で表現できる。
 最悪、だ。
 眉間に指を押し付け、爆発しそうな感情をなんとか押さえつけようとするレッドに、セピアは呑気な声で言い放つ。
「レッドはいつも難しい顔してるねえ」
「誰のせいだと思ってる?」
「しかも怒りっぽいし」
 まーこわーい、とかなんとかのたまいながら、デザートのヨーグルトを手元に引き寄せた。
(くそ、ブラックの野郎……手の込んだ嫌がらせだぜ)

 カリヨン・タワーの地下には膨大な面積の各種施設が存在する。
 サイボーグの実験運用施設もそのうちの一つだ。
 軍事方面にコネクションの多いシルバーに頼んでアポイントメントを取り付けてもらったところ、
その殺風景な、というか殺伐とした内装のエリアにて面会を許可された。
 パイプラインがミミズのように走る連絡通路を通り抜けながら、レッドは念を押した。
「いいか、分かってるな、セピア」
「はい、分かってるわ。クラーク少佐を拷問してゲロさせるのね?」
「…………」
 レッドは足を止め、呆れ返った表情でセピアを見た。
「あれ、違ったっけ?」
 ずれたメガネを直しながら、セピアは不安そうに視線を返してくる。
 「服装はちゃんとしろ」というレッドのニーズに応え、どこから調達してきたのかダーク系のスーツを身にまとっているが、
外見内面ともにローティーンの悲しさか、どう見ても「OLのコスプレ」としか映らない。

268 :ヴィクティム・レッド:2007/01/04(木) 20:54:02 ID:mRWU0++g0
「あんたは黙ってろ。一言も口を利くな。そうすれば、ただの『見た目が幼い女』で済む」
「ちょっと、ちょっとちょっと。それ、どーゆー意味?」
「言葉どおりの意味だ」
 これ以上問答する気にもならず、レッドは先へと進んだ。
「あ、待って」
 ぱたぱたとローファーを鳴らしながら、セピアが追いすがってくる。
(ブラック……なにを考えている? こんなコブつきでまともに話なんかできるわけねえだろうによ)
 レッドの憂鬱はまだ晴れそうになかった。

「まるで話にならないな」
 クラーク・ノイマン少佐はそう言って話を打ち切ろうとした。
 レッドがまだなにも言っていないにもかかわらず、である。
「こんな嘴の黄色いヒヨコを寄越されて、いったいなにをしゃべれと?
 しかもその少女はなんだ? ヨハンよ、エグリゴリはいつからキンダーハイムになったのだ?」
 話を振られた傍らの副官も、明らかにプライドが傷つけられているらしく、苦い表情を浮かべていた。
 レッドとしても内心「まあ、オレだってそう思うわな」などと半ば納得しかけていたのだが、セピアだけは声を荒げた。
「キ、キンダーハイムですってえ?」
 そしてくるりとレッドの方を向き、そっと耳打ちする。
「……キンダーハイムって、なに?」
(おいおい、正気か?)
 しかし閉鎖環境で育つことが前提のキースシリーズなら、どれだけの一般常識の漏れがあっても不思議ではない。
「チルドレンハウス、幼稚園。幼児を保育する公的、或いは私的施設だ。黙ってろと言ったぞ、オレは」
「あ、ごめんなさい。……っていうか、誰がキンダーハイムよっ。わたし、もう子供じゃないもん」
「黙ってろ」
「ごめんなさい」
 やっと静かになったセピアから目を背け、眼前のクラークへ向き直る。
「なあ、クラーク少佐、あんたの気持ちも分かる。ただな、オレもガキの使いで来てるんじゃねーんだ。
あんたらのボスでもある、キース・ブラックの命令なんだよ。話だけでも聞いてくんねーかな」

269 :ヴィクティム・レッド:2007/01/04(木) 20:55:04 ID:mRWU0++g0
「ならばミスター・ブラックを連れて来い。シルバーから話を聞いたときは、貴様のような子供が来るとは聞かされなかったぞ」
 その声には、武人としての明確な自負が込められていた。
 自分と対等のものでなければ、決して本音を明かさない、そんな矜持が、この男の機械化された体躯には漲っていた。
「オレとはまともに口も利けねえ、か」
「その通りだ。今からでも遅くはない、せめてキース・シルバーを──」
「断る」
 レッドは、自分でも驚くくらい決然とした口調でそう告げていた。
「なんだと? 貴様、自分の言っていることを理解しているのか?
キースシリーズ──ミスター・ブラックの弟だからとて、自分が偉くなったつもりなのか?」
 見るものを射すくめるような視線をレッドに向け、クラークは厳粛に言葉を発した。
「勘違いするな。貴様は私の認めた戦士ではない。虎の威を借りる狐に話すことなどなにもない」
 それを苛立たしげに眺めていたレッドは、
「ふーん。要するに、よ──」
 コアを開放し、『グリフォン』を発動させる。
「オレが虎だってことをあんたに教えてやりゃいいのか?」
 ひゅ、と空気を斬り、クラークの喉元にブレードを突きつけた。
 クラークは不適に笑い、その刃をつかむ。鋼鉄の腕につかまれたそれは、軋んだ音を立てた。
「大きな口は叩かないほうがいい。それは戦士の格を下げる恥ずべき行為だ」

「ね、レッド、やめようよ。こんなことしても、意味ないよ」
「オレの意味をあんたが決めるなよ。オレはあいつに勝って、情報を吐き出させる」
「でも」
「黙ってろって。もう二度と言わねーぞ」
「うー」
 下唇を噛んで上目がちに睨むセピアを捨て置き、レッドは足を踏み出した。
 三階分の吹き抜け構造となっているフロアの中央で、レッドはクラークと向き合う。
「本気なのか、小僧」
「オレぁいつだって本気だぜ」

270 :ヴィクティム・レッド:2007/01/04(木) 20:56:15 ID:mRWU0++g0
「そうか。ならばなにも言うまい。貴様が真に戦士であるなら、私にそれを示してみせろ。
ヨハン! 貴様とそこの少女が立会いとなれ。この戦いでどちらが命を落とそうとも、すべて合意の上だとな!」
 その言葉に、副官は重く頷く。
「おいおい、いいのかよ。こういうのはこっそりやるもんじゃねえのか?
同じ組織の人間同士が好き勝手に殺し合ったら、体制が滅茶苦茶になるぜ」
 クラークの圧倒的なプレッシャーに気圧され、二、三歩下がりながら、レッドはそう軽口を叩いてみせる。
「構うものか。それに私はミスター・ブラックの性格を良く知っている。
誰かに負けるようなキースなど、新人類のモデルたるキースシリーズに相応しくないと思うだろう」
 そして、機械の腕を掲げる。肌にびりびりと来るようなプレッシャーがレッドを襲った。
「勝てないキースは……ただの人間(キース)だ」
「ああ……そうかよ!」
 言いざま、レッドはクラークに飛び掛った。
 刃と化した両腕を交差させ、クラークの腕を狙う。
 だが、クラークはその鈍重そうな長身に似合わず、実に軽やかな動きでそれを避けた。
 そこに追い討ちを掛けるように、二度、三度とレッドはブレードを振り回してクラークに追いすがる。
(相手はオレを舐めてかかってる……高機動モードに切り替えられたら厄介だ、その前に戦闘不能にさせる!)
 クラークはレッドの攻撃を回避することに専念しているようで、一切攻撃を仕掛けてこない。
 この猛攻に攻めあぐねているのだと踏んだレッドは、さらに攻撃の手を早める。
 一歩ずつ、クラークが後ずさる。時に踏み込んでくることもあったが、それがレッドの誘いだと察しているのか、
決定的なレッドの攻撃圏内には決して足を踏み入れようとしなかった。
 このままレッドのスタミナ切れを待つつもりなのだろうか、だが──。
 とん、とクラークの背が壁に当たる。ずるずると移動していた戦闘領域は、クラークを壁際まで追い詰めたのだった。
 逃げ道を封じた今となっては、高機動モードに突入されても即座に対応できる。
「もらった!」
 わき腹の辺りに隙を見出したレッドは、そこに目掛けて右のブレードを突き出す、
「ふん、この程度か」
 だがその刃はクラークの右手に容易に捕らえられ、
「脆いな」
 花でも摘むかのような緩やかな仕草で、硬化されているARMSのブレードを断ち折った。

271 :作者の都合により名無しです:2007/01/04(木) 20:57:34 ID:mRWU0++g0
「なに──」
「失望させるな。この程度が、かのARMSなのか?」
 驚愕の表情に歪むレッドの顎を、鋼鉄の拳が殴り飛ばした。
「ぐうっ!」
 レッドの頭部ががくんと揺らぐ。いくらマシンアームだからとて、ただ殴られただけでは到底受け得ない衝撃だった。
(こいつ、腕になにか仕込んでやがる!)
 咄嗟に背後へ跳躍し、第二撃を凌ぐ。そこへさらに突っ込んでくるクラーク。
 形勢は逆転した。今度は、レッドが防戦一方になる番だった。
「どうした。私はまだ通常の速度なのだぞ」
 言いながら、休むことなく拳を繰り出してくる。汗もかかず、ほとんど無表情に。
 かなり無理矢理な軌道から腕を伸ばしてくるにもかかわらず、体の軸はまったくブレてなかった。
 まさにサイボーグという言葉が似つかわしい、およそ人間離れした有様だった。
 しかも、その避けきれない攻撃をARMSで受ける度に、その部分のナノマシンが崩れてゆく。
 七度目の攻撃を貰ったころには、左のブレードも根元から折れて床に散った。
「くそ──」
 それを目で追った一瞬、レッドは致命的な隙を晒してしまった。
 すぐさまそのことに気づくがすでに遅く、ガラ空きの腹に強烈な一撃を見舞われた。
 無様に床を転がり、何メートルも向こうに弾き飛ばされる。ごふ、と口から血を吐いた。
「レッド! レッド!」
 セピアの悲鳴がすぐ近くに聞こえた。虚ろな視線をめぐらせると、セピアが半泣きになりながら駆け寄ってくるところだった。
「だ、だだ大丈夫!? でも分かったの、あの人の力の秘密は──」
「黙れ!」
 レッドの怒鳴り声に、セピアはびく、と身を怯ませた。だが、恐るおそるレッドへと手を差し伸べる。
「レッド、力が欲し──」
「黙れっつってんだろうが! オレに触るな!」
「え、でも」
「いいか、オレは黙れと言った! そのクソったれのARMSでオレに触るな! オレはオレの力で勝つ!」

272 :ヴィクティム・レッド:2007/01/04(木) 20:58:57 ID:mRWU0++g0
「無理しないでその少女の力を借りたらどうだ。貴様の弱さを補う『なにか』を、持っているのだろう?」
 こつこつと歩み寄りながら、クラークが告げる。
「うるせえ、よ」
 がくがくと震える足に活を入れ、なんとか立ち上がる。
「オレは勝つんだ。今度こそオレ一人の力で……」
 熱に浮かされたようにぶつぶつと唱えるレッドを見て、クラークは眉をひそめる。
「……貴様は、戦士ではないな」
「なんだと──」
「そうだろう? 勝つ見込みもなく戦いに赴くのは戦士ではない」
「ふざけろ、勝てる戦いしかしないのが、あんたの言う戦士なのか?」
 クラークは大きな素振りで首を横に振った。言葉の通じぬ未開の蛮人にそうするように。
「では聞くが、貴様の勝利とはなんだ?」
 オレの、勝利──。
 レッドの脳裏にその言葉がこだまする。
 キース・レッドの求めるもの。キース・レッドにとっての勝利。
 いつかの問いが再び首をもたげる。
(オレはいったいなんなんだ──?)
 だが、今は戦うしかない。戦って勝たねば、失敗作という烙印が待っている。
 オレは負けない、負けないために戦う。
 過去現在未来すべての時点において、たった一人で生きていくために。
「おおおおぉぉっ!」
 迷いを振り払うように、レッドは両足に力を込め、床を蹴った。
 キース・シルバーの言葉が甦る。
『理性と闘争本能を併せ持つ人間だけが、敵に価値を見出し、それを殺すことで己の価値を高めることができるのだ』
 かくして、キース・レッドは戦いの世界に再び没入する。
 『戦士』クラーク・ノイマン少佐を殺すために。彼を殺して戦士という価値を奪い取るために。


第五話『力』 了

273 :ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/01/04(木) 21:07:14 ID:mRWU0++g0
>>245
褒めていただいてありがとうございます。素直に大喜びです。
普段はvipの文才ない人間のはきだまりみたいなスレでSS書いて遊んでますが、
今回、身の程もわきまえず二次SS書いてみました。
努力はしてますので暖かい目で見てください。冷たい目でも大歓迎ですが。

>>254
ご安心ください(?)。正月休みももう終わるので、今後は鬼のようなスローペースで投下することになると思います。
ヤムチャすかww
まー、「負け癖◎」がレッドの基本属性だとは思ってますがww

274 :作者の都合により名無しです:2007/01/04(木) 22:52:24 ID:0AGZssmy0
>銀杏丸さん
そういえばなぜかアーカードってまだバキスレには登場してなかったな
さいさんのサイトで予告されてたSS,堪能させていただきました
これは読みきりか。アーカード主役のSSも読みたいな

>ハロイ氏
1日3回更新か?すごい。しかも内容も面白いからいいですね
レッドの焦燥感とセピアのお気楽感が相反してて面白い
でもレッドほどでなくともシルバーもヘボかったよね、原作

275 :ドラえもん のび太の超機神大戦:2007/01/04(木) 23:03:46 ID:Y7D1BEXy0
第九十九話「エピローグ」

―――メカトピア。平和になった機械と人間が共存する惑星。
無事に帰り着いたアスランたちは、畑を耕していた。
「―――って、いきなり何故に農業に精を出さなきゃならんのだ!?」
鍬を振り下ろしながら、イザークがアスランを怒鳴りつける。アスランは平然と答えた。
「俺は悟ったんだ。人間は自然と共にあるもの―――自然の恩恵なくしては生きてはいけない。だから野良仕事を
バリバリこなすしかないじゃないか!」
分かったような分からないような理屈だった。
「それはいいが、なんで農耕用機械があるのに鍬なんぞ使わなきゃならんのだ!」
「バカ野郎!己の手で作り上げる野菜だからこそ美味いんだ!何故きみはそれが分からない!」
「分かってたまるか!」
「戦火で花が吹き飛ばされても、ぼくたちはまた種を植える・・・それが俺たちの戦いだ!」
「むしろお前は吹き飛ばす側だ!しかも今植えてるのは花じゃなくて野菜だ!」
「まあまあ、二人とも・・・いいじゃない。こういうのも楽しいよ」
せっせと野菜の種を植えていたキラが二人を諌める。その時、遠くの方から巨大なロボットが近づいてきた。
それは今やメカトピアの守護神とすら称されているダイザンダー。その手には二人の人間を乗せている。
「あれは・・・リルルとニコルだ!おーい!」
キラが手を振ると、向こうも手を振り返す。地上に降りてきた二人は何やら本のようなものを持っていた。
「それは?」
「ああ。来年度の歴史の教科書ですよ。僕たちのことも載ってるから、アスランが見たがるかと思ったんで」
「こうして急いで持ってきたってわけ」
それを聞いたアスランはくっはー!と鼻息を荒くした。
「なんと!ついに俺も歴史上の偉人デビューか!ならば見るしかないじゃないか!」
アスランはニコルから引っ手繰るように教科書を受け取り、マジマジと凝視した。そして・・・
「む、これか!メカトピア歴30001年、大解放戦争・・・ふむ、こんな名前が付いたんだな・・・ん?ん!?
ば・・・バカな!なんてことだ!?」
「どうしたアスラン。お前の顔に落書きでもされてたか?」
イザークがニヤニヤ笑いながらアスランの顔を覗きこんだ。

276 :ドラえもん のび太の超機神大戦:2007/01/04(木) 23:04:18 ID:Y7D1BEXy0
「そうじゃない!こんな・・・確かに終戦の功労者として俺の名前は出てるけど、太字じゃないじゃないか!ん?
あっ!のび太とかドラえもんは太字だし、顔写真まで付いてる!何故!?」
「そりゃ、あの二人が主人公だもの」
「ガーン!何てこった・・・所詮このSSはドラSSだったということか・・・」
しょげるアスラン、笑いの発作を堪えるイザーク、そしてやれやれとばかりに二人を見守るキラ、リルル、ニコル。
「あれ?ディアッカはどうしたの?」
「ああ。彼なら最近開いた炒飯専門店が忙しいそうよ」
「<ここまで来たら、最後まで炒飯ネタで引っ張ってやる>ということだそうです。けど、手頃な価格とそれなりの味、
それにディアッカのキャラで随分繁盛してるそうですよ」
リルルとニコルの説明に、キラは納得したように頷いた。
「なるほど・・・ディアッカも頑張ってるんだね」
なら僕たちも頑張ろう。そう言いかけたところで、キラは気付いた。
畑の一部分。以前に種を蒔いた場所から、小さな小さな芽が出ていた。
「あ・・・」
自然と笑みが零れた。ちっぽけな芽だというのに―――それはまるで、命そのものの象徴のようだ。
失ったものは元には戻らないけど、また生まれてくるものもあるのだ。
そう思い知らされるように、その小さな芽は眩かった。
リルルはそんな彼らを見つめ、微笑む。
「ジュド」
そして傍らの大きな親友に語りかけた。
「これがわたしたちが、そしてのび太くんたちが守ったものよ・・・ふふ、少しくらい自慢しても、バチは当たらない
わよね?」
果たして彼は、その通りとばかりに、その機械の瞳に優しい光を宿すのだった。

277 :ドラえもん のび太の超機神大戦:2007/01/04(木) 23:04:49 ID:Y7D1BEXy0
―――神族と魔族、そして人間。ちゃんぽんみたいなごちゃ混ぜの世界。
「稟お兄ちゃん、おきろー!」
「りん・・・おきる」
「むぎゅう・・・!」
フー子とプリムラが布団の上に乗っかってきた。二人とも小柄とはいえ、二人分の重量は流石にきつい。
あの戦いから既に一ヶ月余り。もはや朝の恒例行事だ。
「分かった・・・起きる・・・起きるから、どいてくれよ、全く・・・」
<へっ。毎朝同じことばっか繰り返して飽きねえな、お前も>
「うっさい。黙れ脳内居候」
マサキのあしらい方も随分うまくなったと我ながら思った。
「稟くーん。朝御飯できてますよー。早く降りてきてくださーい!」
階下から楓の呼ぶ声。これもまた、いつも通りだ。
「ああ。今行く!」
ドタドタと階段を下りていく。今日もまた、騒がしい一日の始まりのようだった。

そして、学校も終わり、放課後。
「よーっす!稟ちゃんにマサキくん、元気してる!?」
亜沙、襲来。相変わらずテンションが高い。
<俺はまあまあだな。稟は・・・まあ、いつも通り、三大プリンセスの親衛隊に追い回されてこの通りだ>
「ぜえっ・・・ぜえっ・・・あ、あいつら・・・もしも今悪の宇宙人がやってきたとして、サイバスターに乗ったとして、
サイフラッシュを撃ったとしたら、あいつらを敵と認識する自信があるぞ・・・!」
「あっはははは!でも、流石にもう二度とああいう戦いってごめんだよ」
亜沙はふうっと溜息をついた。
「正義のバトルヒロインってのもいいけど、実際やるもんじゃないよあれって。ほんっと大変だもん」
「そうですよね・・・もう、ああいうことに首を突っ込むのは真っ平ですよ。よくぞ今生きてられるもんだ」
<けどよ、俺はまたどっかで今回みたいなことに巻き込まれそうな気がするぜ>
「何だよ。不吉なこと言うなよ」
マサキのセリフに口を尖らす稟だが、マサキは続ける。
<だってお前ら、のび太たちとこれからも付き合ってくんだろ?あいつら、言っちゃ悪いがトラブルを引き寄せちまう
タイプの人間だからな。それも、特上級だ。また妙な事件に関わっちまうかもしれねえ>

278 :ドラえもん のび太の超機神大戦:2007/01/04(木) 23:05:22 ID:Y7D1BEXy0
「・・・・・・」
<お前らの性格じゃ、そん時には、また助けちまうだろ?>
「・・・まあな。けど、それでいいよ」
稟はそう答えた。
<そうか?>
「ああ。そうだよ。だってさ―――」
稟は、にかっと笑った。暗さのない、爽やかな笑顔だ。
「友達って―――そういうもんだろ!」
「そうそう。稟ちゃん、いいこと言う!」
亜沙も合いの手を入れる。
<・・・へへっ。そうか>
「その通り・・・」
「そのとーりっ!」
「うわっ!?」「わあっ!?」<うおっ!?>
いつの間にかプリムラとフー子が目の前にいて、三人は驚いてひっくり返りそうになった。
「お前ら、なんでここにいるんだっ!?」
「・・・このお話の最後の出番があれだけなんて、ないと思ったから、ご都合主義的に・・・」
それだけのために出てきたのかよ。稟は呆れた。
「そーだそーだ!おれたちだってのび太と一緒に戦った、のび太のともだちだもん!」
「・・・はは・・・そうだな・・・全く・・・」
全く―――自分の周りには、平穏なんて望めそうもない!
土見稟の騒がしい日々は、まだまだ終わらないのであった。

279 :ドラえもん のび太の超機神大戦:2007/01/04(木) 23:05:53 ID:Y7D1BEXy0
―――犬の王国。そこに向かう途中、アヌビスのコクピット。
「USDマン・・・何故君もここにいる?」
「あ?まあいいじゃねーか。今んとこ行く場所もないしな。とりあえずご厄介になろうかと・・・」
「意外と図々しい奴だな、君は・・・」
<ふふ。まあそれくらいの甲斐性は見せてやれ、主よ>
憤然とするペコを、アヌビスが笑いの口調で抑えた。
「かかか。王国の連中、こいつを見たら驚くぜ。石像が巨大ロボに変わっちまってんだからな」
「おまけに敵だった君を連れてるんだからね」
「お、中々皮肉を言うようになったじゃねえか」
ひひひ、とUSDマンが笑う。ペコはふうっと息をつき―――同じように笑った。
「ありがとう、二人とも」
「あ?なんだよ、急に改まっちまって」
「・・・ぼくだけじゃ、今回の戦いでのび太さんを助けることはできなかった。アヌビスと、それに・・・USDマン。
君たちがいたから・・・」
「けっ!よせよせ!あんたがさっき言ったように俺様は元々敵だったんだぜ?」
「けど今は、仲間だろう?」
「む・・・」
USDマンはプイっとそっぽを向いた。柄にもなく照れているのかもしれない。
「アヌビスも・・・ありがとう。ぼくなんかより、実際に戦う君の方が、よっぽど大変だったはずだ」
<言うな、主よ。それが私の造られた理由だ>
「そうか・・・でも、もう一度言わせてくれ。本当に―――ありがとう!」
<・・・>
アヌビスは返事をしなかった。彼も照れているのかもしれない。ペコは苦笑した。
どいつもこいつも―――本当に、ぼくは仲間に恵まれすぎてるくらいだ。
そして、再びペコは王としての暮らしに戻った。後に彼は犬の王国史上最高の繁栄をもたらした偉大な王として、王国の
創始者であるバウワンコ一世さえも越えるほどの名声を得ることとなる―――

280 :ドラえもん のび太の超機神大戦:2007/01/04(木) 23:16:22 ID:Y7D1BEXy0
―――ドグラ星。
「いいか王子。俺の目が黒いうちは、もはや悪巧みなどさせんぞ!」
「分かってる。分かってるよクラフト。僕も懲りた。だからこうして始末書だって書いてるじゃないか」
神王と魔王の最強合体攻撃からも無事に生き延びたバカ王子は、王宮の一室に閉じ込められ、山盛りの原稿用紙を前に
ゲンナリした表情を隠そうともせずに言った。
「しかし、始末書を400字詰原稿用紙百万枚とはやりすぎだ!しかも手書きだと!?ワープロくらい用意せんかい!
文明の利器すら使わせないとはあまりにも酷いぞ!」
「それくらいせんと貴様が反省するとも思えんわい!」
クラフトは取り付く島もない。
「いいな!それを書き終えるまでは、この部屋からは出さんぞ!言っとくがこの部屋には貴様の逃亡を防ぐためにありと
あらゆるトラップが仕掛けられている!絶対に!出られんからな!」
クラフトは出て行った。それを見届けたバカ王子は、にやりと笑う。
―――5分後。
「何ィーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!王子が脱走したぁーーーーーーーーーー!!!???」
そして、当のバカ王子は。
「ふふふふふ・・・少年たちよ。今回は引き下がろう。だが!僕は負けたわけではないぞ!必ずや地球へと舞い戻り、
その暁には僕の頭脳の全てを駆使した嫌がらせをもってすっごい嫌な思いをさせてその顔を携帯の待ち受け画面に設定
してやる!楽しみに待っているがいい!わーーーーーーーーーーはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!
皆様、次回作での僕の活躍をお楽しみに!・・・え?次回作に僕の出番はない?ドヒャ〜ン!」
―――やはり、全く懲りていなかった。

281 :ドラえもん のび太の超機神大戦:2007/01/04(木) 23:16:53 ID:Y7D1BEXy0
未来世界―――タイムパトロール本部。
ムウ・ラ・フラガは今回の一件の報告のため、そこで一人の男と向かい合っていた。
「ふむ・・・よく分かったよ。何かと大変だったようだね」
柔和な顔に気遣わしげな表情を浮かべ、彼はムウを労った。
長く伸ばした柔らかな黒髪に、優しげに整った顔に微笑を絶やさぬ口元。
彼の名は、ギルバート・デュランダル。タイムパトロールの方針から運営まで、全てを決定する機関、評議会。
その評議会議長こそが、彼、デュランダルだった。
つまりムウはタイムパトロール最高権力者と向かい合っているということだ。並の隊員ならば、それだけで萎縮して
しまうだろう場面だったが、ムウはいつも通りの飄々とした態度を崩さずに報告を行っていた。
「しかし、わざわざ呼びつけたりして・・・よほど今回の任務はヤバイものだったってことですかね?」
「そうだね。何せ超特A級の時間犯罪者が分かっているだけで三人も関わっているほどの事件だ。直接の報告も欲しく
なるというものだよ。疲れているところに、申し訳なかった」
「それはいいんですけどね・・・自分は一つ、気になっていることがあります。お答え願えますか?」
「ふむ。何かね?」
そしてムウは己の疑問をぶつけた。それは以前問い合わせて、結局答えのなかった質問だ。
「そんなヤバイ事件に派遣したのが―――何故に、俺みたいな平隊員たった一人なんです?」
「・・・・・・」
「最後まで気付かなかった俺も間抜けですがね・・・本来ならこれは、、数十人単位でかかったっておかしくないような
事件だ・・・なのに、何故です?お答え―――」
「ムウ隊員」
冷たい声が背後から響き、背中に何かが押し当てられた。
(銃―――!?)
上半身だけ動かして、突然の襲撃者の正体を確認する。
それは、まるで人形のように美しい少年だった。ウェーブのかかった金髪を長く肩に垂らしている。
服はムウと同じ、タイムパトロールの制服だった。しかし、それは真っ赤だ。まるで、血の色のように。
そして胸元には、燦然と輝くバッジ。それは、タイムパトロールにおいても一部にしか支給されないものだ。

282 :ドラえもん のび太の超機神大戦:2007/01/04(木) 23:17:27 ID:Y7D1BEXy0
「―――<フェイス>か・・・!」
<フェイス>。それはタイムパトロール評議会議長によって選ばれ、特別な権限を与えられた<特務隊>の通称。
時に議長の飼い犬とも揶揄される彼らだが、その実力もまた一般の隊員とは一線を画している。
その証の赤い服と、バッジ。
しかし、ムウを驚かせたのはそれだけではない。目の前のこの少年は―――驚くほど雰囲気が似ていた。
ラウ・ル・クルーゼに―――!
そんなムウの機微を知ってか知らずか、少年は非情に告げる。
「ムウ隊員・・・喋りすぎは命に関わりますよ」
「へっ・・・そういうことですか、議長!都合の悪いことには答えない。そういうことですか!」
ムウの罵声にも、デュランダルは動じない。ただ、静かに佇むだけだ。
「ムウ隊員・・・今回の君の功績を考慮し、先程までの問題発言は聞かなかったことにする。下がりたまえ。
レイも銃を仕舞いなさい。そんなものをこんなところで出すものじゃないよ」
「はっ。申し訳ありません、議長」
レイ、と呼ばれた少年は、打って変わったように従順に銃を降ろした。本当に飼い犬だな、とムウは毒づいた。
「・・・言われなくてもスタコラサッサだぜ・・・ってね。失礼します」
「うむ。今後も君の活躍に期待しているよ」
空虚にすら聞こえる言葉を背に、ムウは議長室を後にした。


283 :ドラえもん のび太の超機神大戦:2007/01/04(木) 23:17:58 ID:Y7D1BEXy0
「・・・ギル。申し訳ありません。勝手なことをしました」
ムウが出て行った後、レイは深々と頭を下げた。<ギル>というどこか親しげな呼び方といい、態度といい、まるで肉親に
叱られるのを恐れる子供のようだ。先程の人形のような冷たい態度も随分と薄れている。
彼にとって議長は、単なる上司以上の存在らしい。
「いいんだよ、レイ。私のためを思ってやったことだろう?行き過ぎではあるが、怒ってはいないよ」
デュランダルはにこりと笑った。
「そう言っていただければ、安心します」
レイも笑顔を見せた。そうして笑えば、彼も当たり前の少年にしか見えない。
「―――しかし、彼は・・・ムウ隊員の処遇は如何様に?放っておけば、悪影響が出ないとも・・・」
「それについては、また考えるさ・・・おいおい、そんなに怖い顔をしないでくれたまえ。まあ、仕方ないかな・・・
君にとっては、彼はまさに、<親の敵>というべきだからな・・・」
「そうですとも・・・」
レイはその顔に、激しい憎悪を垣間見せた。
「奴は・・・ラウの敵だ!」
ぎりっと唇を噛み締めた。そんなレイを、デュランダルは痛ましそうに見つめる。
「クルーゼのことについては、私も遺憾に思っているよ。彼は犯罪者だったが・・・私の友人でもあったからね」
―――恐ろしい事実を、さらりと口にしてのけた。タイムパトロール最高権力者が、名高い時間犯罪者を、友人と言って
のけたのだ。
クルーゼは自分に言っていたものだ。
<もしも私を追うような任務を負わせるならば、ムウ・ラ・フラガにしてくれ。奴と決着を付けたいからな・・・>
(こんなことを、ムウ隊員には言えるわけがないな・・・クルーゼとぶつけさせるために選んだなどと・・・クルーゼが
負けるというのが予想外だったがね・・・)
そんなことを思いながら、すっとレイに目線をやり、言った。
「君も下がりなさい。クルーゼのことがあってから、随分疲れているはずだ」
「・・・はい。失礼します」
レイもまた、出て行った。後には一人、デュランダル議長だけが残された。
底知れぬ微笑を漏らす、彼だけが。

284 :ドラえもん のび太の超機神大戦:2007/01/04(木) 23:18:38 ID:Y7D1BEXy0
「―――おい、レイ!」
部屋を出たところで、レイは声をかけられた。振り向くとそこにいたのは、赤目に黒髪の少年だった。
負けん気の強そうな幼い顔立ちだったが、その制服の色は赤。そして<特務隊>のバッジ。
「どうしたんだよ!?急に議長の部屋に入ってくなんて!叱られなかったか?」
「・・・大丈夫だ。心配するな、シン」
「だけどさ・・・」
シン、と呼ばれた少年は、納得していないのか眉を顰める。レイは笑って言ってやった。
「本当に大丈夫だから、心配するな。それより今日は早く帰るんじゃなかったのか?妹の誕生日を祝ってやるんだろ?」
「あっ!そうだった!やっべー!まだプレゼントも買ってないや!」
「じゃあ早く行ってやれ・・・」
レイは、少し顔を伏せた。
「大事な人がいるというのは・・・いいことだな」
「え?う、うん・・・じゃあな!」
「ああ」
軽く手を振って、慌ただしく駆けていく友人を見送り、レイは暗い表情を顕にした。
「俺にもいるよ・・・大事な人は。一人は議長・・・ギル。そして、もう一人・・・」
―――そのもう一人は、奪われた。
「ムウ・ラ・フラガ・・・そして・・・」
彼と共に、クルーゼを討った者たち。
「俺は・・・絶対に許さん・・・!」
噛み締めた唇から血が流れ出すのも構わず、彼は誓った。
必ず、クルーゼの敵を―――根絶やしにしてやる。



―――いくつかの火種を残しながら―――物語の締めは、主人公たる少年に任すとしよう。

285 :サマサ ◆2NA38J2XJM :2007/01/04(木) 23:28:44 ID:QePnio0G0
投下完了。前回は>>209より。
最後の最後でスパートがかかってきましたが、書いてる途中あることに気付いて愕然。
「これ、うみにんさんの地底出木杉帝国と被ってんじゃないか・・・!?」と。
でもそのまま書きました。
続編の伏線っぽいものも書いてますが、これが活かされるとしても次回シリーズが終わってからでしょう。
下手すれば活かされない可能性の方が高いですが。
ちなみにデュランダルにレイ、シンは種デスティニーのキャラです。
そして次回、ついに最終回です。

>>211 今回は「みんな笑顔で終われるように」というのを目指しました。

>>222 本当にバカ王子の設定には助けられっぱなし。パワーアップイベントやら湿っぽくしないための
     ムードメイカーとしてとか。

>>243 彼らの後日談は今回書いて、次回はのび太サイドです。

286 :作者の都合により名無しです:2007/01/04(木) 23:37:38 ID:3xQQTgoN0
うは、最後の最後でシン・レイ・議長が来るとは思わなかったw
この話だとマユは生きてんのね
サマサ氏、GJです

287 :前スレ:2007/01/05(金) 00:02:25 ID:tNDku5hA0
http://comic7.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1162629937/l50

288 :ヴィクティム・レッド:2007/01/05(金) 01:10:46 ID:d1Ja8/Bu0
 キース・レッドのありったけの気迫を込めた攻撃も、もはやクラーク・ノイマン少佐には通用していなかった。
 刃の折れたレッドの『グリフォン』は、手に生える爪だけが最後の武装だった。
 身体中を走る痛みに耐え、持てる死力を尽くして腕を振るう。
 だが、そのすべてを嘲笑うように、クラークはそれをかわし、的確に攻撃を叩き込んでくる。
 その一発一発は鉛のように重く、なんども意識が飛びかけた。
 ぎりぎりの最後の一線でレッドを支えているのは、意地だった。
「さすがにしぶといな……ARMSの自己修復能力とは大したものだな」
 感心したように嘆息するクラークに向けて、爪を立てようとするが、
「遅い」
 その腕を絡めとられ、そこに内臓が引っくり返るような衝撃波を叩き込まれた。
 身体が痺れるような感覚、ばらばらになってしまいそうな痛み。
 クラークがゆっくりその腕を広げると、レッドはずるずると力なく床に滑り落ちた。
「もう立てまい。所詮ARMSといっても、貴様の身体の大部分は生身なのだ。私の攻撃に耐えられるわけがない。
貴様は私の攻撃手段すらつかんでいないのだろう?」
 意識がぼやけ始めたレッドの頭上に、クラークがその影を落とす。
「その脆弱な生身を否定するのが、サイボーグだ。貴様は、サイボーグの本質を理解しているか?
 人が生命体である以上、肉体というハードウェアの制約からは逃れられない。
 病気になれば死ぬし、血を流しすぎても死ぬ。それは他の下等生物と変わらない、如何ともしがたい点だ。
 だが、幸いにして人には知性があった。
 知性を具現化した『科学』という名の外在的な力を取り込むことで、ハードウェアの問題を部分的に解決したのが、サイボーグだ。
 『代替可能であること』を生命の本質とする観点に立てば、サイボーグこそ現在最も進化した生命体なのだ」
 その言葉も、レッドにはおぼろげにしか聞こえていなかった。ひどい耳鳴りがして、視界はぐるぐる回っていた。
「だが、サイボーグも不完全な存在だ。肉体のパッチワークにも限度がある。
 現行のサイボーグでは、『死』を超越することは不可能だ。
 それを解決する術が、炭素と珪素のハイブリッド生命体『ARMS』であり、次世代型サイボーグ『ネクスト』なのだ。
 そう遠くない将来、死から解き放たれた新人類が地球を支配するだろう。
 今はその過渡期だ。あらゆるいっさいのものはその礎となり、喜んでその身を捧げるべきなのだ。
 誉れある新世界への『ヴィクティム』として」

289 :ヴィクティム・レッド:2007/01/05(金) 01:11:44 ID:d1Ja8/Bu0
(なに言ってんだか分かんねーよ──シルバーといい、こいつといい、エグリゴリは講釈好きの集まりか……?)
 レッドは胸中で毒づくが、しかし状況は最悪だった。
 どっちを向いても、逃れることのできない死の運命が待っていた。
 ついてないな、となんとなく思う。
 ここ最近はずっと最悪続きだった。
 それはちょうど、セピアと出会ってしまった辺りからだろうか。
(──あー、あいつ、オレの疫病神だったのか)
「もう聞こえていないか? すぐに楽にしてやろう」
 視界はほとんど消えかかっており、その闇の中で、ぶん、と蝿の羽音がした。
(蝿──?)
 その疑問より一拍おいて、ある認識がレッドの意識を満たす。
(そうか……こいつ……)
 だとしたら、これほどしっくり来る結末は無いように思えた。
 今さらクラークの攻撃手段を見破ったところで、もう反撃する力など残っていない。
 それに、疲れた。
 ずっと戦い尽くめだったのだから、休みを貰ってもいいところだ。
 首を巡らせて、セピアの姿を探す。それはすぐに見つかった。
 ほとんど見えなくなったこの目にも、彼女の姿だけはなぜかはっきりと分かった。
(あばよ、オレの疫病神)
「さらばだ」
 クラークの拳が胸に叩き込まれる。瘧のようにがくがく揺れる身体は、死線に近づいていた。
 意識から音が遠のいてゆく。絶望的にかすむ視界のなか、そこに映るセピアは、
「────!」
 何事かを叫んでいた。
(……なに言ってんだか分かんねーよ)
 そして、ふと気がついた。自分がなかなか死なないことを。
「……馬鹿な!」
 そんな野太い声がレッドの耳に届く。そちらに目をやると、鉄面皮と思っていたクラークの顔面がくしゃくしゃに歪んでいた。

290 :ヴィクティム・レッド:2007/01/05(金) 01:13:03 ID:d1Ja8/Bu0
 遠のきかけていた意識が明晰なレベルにまで復活する。
 今や、セピアの声もはっきりと聞こえていた。
「負けないで! レッド!」
(──力。力が、欲しい)
 切実に、そう思った。
 勝つために。勝利を得るために。
 その思いに任せて、右腕を振る。再生していた『グリフォン』のブレードが、クラークの拳を切り落とした。
「なにっ!」
 驚くクラークを足で蹴飛ばし、身を起こす。満身創痍だったが、まだ戦えそうだった。
「レッド!」
 メガネを外し、涙の溜まった目をごしごしこすりながら、セピアは歓喜の声を上げる。
「黙ってろ、って言ったのによ」
「あ、ごめ──」
「しかもあんた、使っただろ。『ニーベルンゲの指輪』をよ」
「あ、あの、ごめ」
 あからさまにしょぼんとするセピアへ、レッドは短く告げる。
「ま、いーけどよ」
「え」
 聞き間違えたと思ったのか、うなだれていた首をがばっと持ち上げ、レッドを凝視する。
「だがな、今は使わなくていい。まだそのときじゃない。あんたの力を借りるのは、後だ。分かるか?」
「分かる、と思う」
 その向こうでは、クラークの放つ圧力が極限まで膨れ上がっていた。
「そうか。それなら……今だけでいい、オレを信じろ。オレは負けない」
 根元から折れたブレードも、いつしか再生していた。
「なぜなら、オレは勝つからだ」

291 :ヴィクティム・レッド:2007/01/05(金) 01:13:54 ID:d1Ja8/Bu0
 そう言い残し、レッドは三度クラークへ飛び掛った。
 同じくこちらへ向かってくるクラークとの交差の瞬間、
「貴様、私の攻撃に気がついたのか?」
「さあな」
 すれ違いざまにクラークの右の腹を切り裂く。
 だが同時に、その刃には深い亀裂が走っていた。
「もはや躊躇も油断もせん。私の最大最速で貴様を倒す!」
 脳内の加速装置のリミットを解放したクラークは、もはや視認できない速度でレッドへと突進してくる。
 反射的に胴体をガードしたブレードは、無残にも一撃で砕け散った。
 クラークは止まらない。〇,一秒の停滞も無く、連続的にレッドへと容赦の無い攻撃を叩き込む。
 ぼろきれのように舞うレッド、だが、人智を超えたスピードで繰り出される攻撃は、彼に倒れることを許さない。
 だが、それでも、レッドの瞳は光っていた。なにかを狙うように、絶え間なく開かれていた。
 これだけの威力で攻撃しているのにもかかわらず、レッドは生きていた。
「やはり気がついているな! だが!」
 分厚い左の掌低をモロに食らい、レッドは壁に叩きつけられた。
「だが、貴様に戦況を打開することは不可能のようだな! 先ほどとどこが違う! この私に手も足も出ないではないか!」
 冷静そのものだった仮面を脱ぎ捨て、クラークは咆哮していた。
 それこそが、先に自分で言った『肉体というハードウェアの限界』の証左であることに、彼は気づいているのだろうか。
 セピアは口元を押さえてそれを見守っていた。目を逸らさないことが自分の責務であるかのように。なにかを待ち続けているように。
 ぼそり、とレッドが呟く。
「……振動」
「なに?」
「振動だよ、あんたのマシンアームに備わっている機能は。
 蝿はジェットエンジンに匹敵するする周期で羽を振動させているらしいが、あんたのその腕はきっとそれ以上だろうな」

292 :ヴィクティム・レッド:2007/01/05(金) 01:15:13 ID:d1Ja8/Bu0
「……ほう、やはり見抜いていたか。その通りだ。私の腕には試験型の超振動兵器が内蔵されている。
私のデータを元にこの技術はさらに進歩するだろう。『振動』とは物理世界の根源だ。それを制するものが世界を制する」
 奇妙に歪んだ笑みを顔に貼り付けながら、クラークはレッドから距離を置く。
「貴様は私の力に気がついた。そしてそのARMSに同種の振動を起こさせて私の攻撃を緩和させていた。
だが……しょせんは泥縄だ。そんなもので、生命を破壊するこの振動を相殺できるわけが無い。
 だからこそ、貴様はこうして再び死の淵にあるのだ。そうだろう?」
 腰を落とし、最後の攻撃態勢を整える。レッドは壁に背中を張り付けたままぴくりとも動かない。
「さあ、今度こそ楽にしてやろう。もうこれ以上苦しみたくはあるまい」
「ああ、そうだな……もう、充分だ」
 クラークはその言葉に頷き、
「そうだろう、安らかに死を受け入れろ」
 全速力の加速を、全体重を込め、クラークの震える拳がレッドへと飛んだ。
「──そういう意味じゃねーよ、バーカ」
「なに!?」
 次の瞬間には、クラークの破壊的な攻撃がレッドごと壁を破壊し、その周囲は塵に包まれた。
 そして、それが晴れたとき──。
「ま、まさか……馬鹿な!」
 『グリフォン』の腕が、クラークの拳を掴んでいた。それは、微動だにしていなかった。
「もう充分だって言っただろ?」
 クラークは愕然とレッドを見やる。そのこめかみには玉の汗が浮かんでいた。
「完璧に……中和している……」
「なるほど、振動を制するものは世界を制す、か。いい言葉だな、後でメモっておこう。
 ……いや、まったくこれほどしっくりくる敵には出会ったことがねーよ。
 オレの『可能性』を実現させるのに、これほど最適な相手には、よ。こういうのを縁って言うのかね」
 理解しがたい、といった風情のクラークに、レッドはにやりと笑って教えてやった。
「オレの『グリフォン』も、振動を操る能力を持っている。だがオレは馬鹿なんでな、その使い方が分からなかったんだよ。
 あんたのお陰だ。あんたが直接身体に教えてくれたお陰で、オレはその力を理解した」

293 :ヴィクティム・レッド:2007/01/05(金) 01:24:12 ID:d1Ja8/Bu0
「なんだと……自分を追い込むことで、ARMSのさらなる進化を誘発したとでも言うのか?」
 ブン、という振動音が響く。だがそれはクラークの発するそれではない。
 いや、今もクラークはその腕の振動兵器を最大威力で発動させているのだが、
「貴様……逆の位相の振動を……私の振動を越えて……」
 低く唸るその音は次第に高く、やがて耳に捕らえられぬ高周波へと変じてゆく。
「キース・レッドッ!」
 がちがち揺れる拳が砕けるその直前に腕を引き抜いたクラークは、床を蹴って中空へ跳び上がった。
「ヨハン! 加勢しろ!」
 いきなり名指しされた副官は、驚いて問い返す。
「本気なのか、クラーク! こんな少年に!?」
 目に見えぬ高速移動で部屋中を飛び回り、クラークは叫ぶ。
「侮るな! 奴はキースシリーズだ! よもや卑怯と言うまいな、キース・レッド!
 これは戦いだ、尋常の勝負など存在しない世界だ! 貴様に現実の戦いの恐ろしさを教えてやる!」
 轟音が吹き、風となったクラークがレッドへ来襲する。
 それを紙一重でかわしたその背後から、六本の腕を持つ、怪物のような重サイボーグが迫る。
 それぞれが自在に稼動するアームから逃れるには、道は一つしかなかった。
 上へ──。
「やはり跳んだか!」
 『グリフォン』の腕で床を叩いて宙へ逃れたレッドの正面にクラークが躍り出る。
「死ね!」
 半壊したクラークの腕と、『グリフォン』の腕が正面から激突する。
 瞬間、両者は空中で静止した。
 振動も移動エネルギーも使い果たした二人に残されたのは、位置エネルギーのみ。
 糸の切れた凧のように、両者は見当違いの方向へ墜落する。
「レッドーッ!」
 天地が逆さになったレッドの視界に、両手を広げて待ち構えるセピアの姿が映る。
「セピア!」

294 :ヴィクティム・レッド:2007/01/05(金) 01:25:23 ID:d1Ja8/Bu0
 レッドはその名を呼び、その名の元に降りる。身をよじって体勢を整え、万全の状態で。
 着地したレッドの後方より、セピアが近づいてくる。
「レッド!」
 クラークは言った。『外在的な力を取り込むことで強くなることが、サイボーグの本質である』、と。
一人では生きていけないから。一人ではこの残酷な世界に立ち向かえないから。
 人はどこまで行っても結局は一人なのだと、レッドは思う。だから、孤独に耐える力を得なければならない。
 だが、それでも、自分だけでは辿り着けない世界がある。
 だから、このぎりぎりの状況で、クラークは副官を呼んだ。孤独の限界を、心では分かっていたから。
 セピアもまた、虚弱さゆえにそのことを強く理解していたのだろう。
 一人でやらなければならないこともある。そして、一人ではできないこともある。
 ならば、一人でも戦える力を求めて、それでも届かぬ瞬間の為に、もう一つの力を求めなければならない。
 それがクラーク・ノイマン少佐にとってはヨハンとかいう副官であり、
 そして、キース・レッドにとっては──。
「セピア!」
 それはさながら声楽者のように、音を重ねて、より高みの音色を生み出すように。
「力を──オレに力を!」
 この瞬間の為に備えていたセピアは、即座にアドバンスドARMS『モックタートル』の能力を最大限に解放し、レッドに注ぎ込んだ。
 『ニーベルングの指輪』。世界を支配する黄金で作られた指輪。
 それは、それを身に着ける者に眠る輝きを呼び覚ます魔法の指輪──。
「はああぁぁっ!」
 超振動を空気に乗せ超音波へと変えて攻撃する、という自分に最適化されたかたちでそれを支配した『グリフォン』は、
そこに『モックタートル』の力を上乗せした、極限まで加速されたその能力を放射した。
 その決して聞こえぬ幻獣の音色に無傷で耐えうる生命など、この世には存在しなかった。

「……何故、殺さない」
 機能のほとんどを失いながらもまだ生きていることに疑問を感じ、クラークは訊いた。
 それに答えるレッドの言葉は極めてシンプルだった。

295 :ヴィクティム・レッド:2007/01/05(金) 01:26:24 ID:d1Ja8/Bu0
「あんたを殺したら、情報を聞き出せないだろう」
 クラーク・ノイマン少佐はその言葉を何度か反芻し、悟ったように呟いた。
「……私の負けだ」

「──それで?」
「それでですね、クラーク少佐、実は自分でも情報を漏らした人を調べてたんですって。
で、その調べてる人が誰かに殺されちゃって、ちょうどその後にレッドとあたしが来たものだから、
『こいつらが犯人なんじゃないか』って疑ってたみたいなんです。
 で、事件をもみ消すために自分たちを始末しにきた可能性もあるんじゃないかって思ってるのに、
 レッドがいきなりケンカ腰だったから、『やっぱりそうなんだ』って」
「そう」
 薔薇の花が咲き誇る庭園で、バイオレットはセピアの話に耳を傾けていた。
「でもなんでかその疑いも晴れたみたいで、その調査ファイルを渡してくれたんです。
 それをブラックお兄さまに届けて任務完了です。
 それにしても、男の子って単純ですね。殴り合って仲良しになれるんだから。
 あ、でもでも、わたしレッドのこと凄く見直しました。
 なんかカリカリしてるだけの余裕のない人、とか思ってたんですけど、やるときはやるんだな、って」
「ええ、そうね──」
 眩しそうにセピアを眺めながら、バイオレットはティーカップに口を付けた。

「で、その事件の詳細は明らかになったのか?」
「ああ。ブラック兄さんがあなたの報告を引き継いで流出の犯人を割り出した」
「誰だ?」
「あなたは知らないだろうが、エグリゴリのサイボーグ研究の第一人者、デューイ・グラハム博士だ」
 さすがに驚いたレッドは、口を付けていたコーヒーカップを下ろす。
「第一人者がそんなことしてんのか?」
「彼は貪欲に臨床データを求めていたらしい。データ採取と引き換えに、誰彼構わずに技術を提供していたようだ」
「……なんつー執念だよ」

296 :ヴィクティム・レッド:2007/01/05(金) 01:27:00 ID:d1Ja8/Bu0
「ブラック兄さんはその臨床データの重要性を認め、博士に罰を下さなかった。それで決着さ」
「へっ、結果さえあれば後は野となれ山となれ、ってか。いけ好かねえやりかただ」
 不服そうに横を向くレッドへ、バイオレットが不思議なものを観察するような視線を向ける。
「しかし、意外だな」
「なにがだよ?」
「セピアはあなたのことを褒めちぎっていたわ。彼女はああ見えて警戒心が強い。
 皮膚感覚が敏感だからな。どうやって心を開かせたんだ?」
「どうって──」
「ま、いいさ。あなたとセピアが仲良くやっているなら、わたしには言うことがない。
 『居候だから料理くらいは覚える』と言って、料理書を探していたぞ」
「……居候? あいつ、居着くつもりなのか?」
「可愛い妹じゃないか」
 頭を抱えるレッドを眺めながら、バイオレットはコーヒーをすすった。
 が、すぐに顔をしかめて口を離す。
「この店も駄目か。ロクなエスプレッソマシンじゃないわね」


第六話『音』 了

297 :ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/01/05(金) 01:29:30 ID:d1Ja8/Bu0
なんか俺の趣味が入って後半が変なノリになったことをお詫びしておきますorz

298 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/01/05(金) 02:39:15 ID:PaKWNh380
《EPISODE7:The hairs on your arm will stand up at the terror》

「The same blue sky in a strange new world...Spinning round,turning round,spinning round...」

薄暗がりの中、呟くような不気味な歌声が低く響き渡っている。
それは、60年代に活躍したとされる“とされる”ミュージシャン崩れのテロリストが歌っていた曲だ。
歌声の主はNew Real IRAのリーダー、パトリック・オコーネル。
ギャラクシアン兄弟のアーマー市警察署襲撃、アンデルセン神父の出現、協力者の電話による激昂。
これらの出来事があった、彼にとっての馬鹿げた呪いの日から一夜が明けていた。
協力者からの電話以来、彼は言葉少なに本拠地(ホーム)の防備を固める命令を下し、あとは自室に
引きこもって歌ってばかりいる。
やがて歌声が途切れ、会話が始まった。

「パトリック、言われた通り“シャムロック”は地下にブチ込んでおいたぜ」
「ああ。ご苦労、コリン。あのクソッタレの協力者が寄越した化物だからな。まあ、念には念を
入れておいて損は無いだろう」
“不景気”と形容するのがピッタリな陰鬱な顔で報告する副官のコリンとは対照的に、
パトリックの答える声はひどく余裕に溢れている。
だが不景気な顔のコリンは、なおも不景気な声で続ける。
「手錠と鎖で何重にも縛りつけておいたから大丈夫だとは思うが……。一応、見張りも
二人程配置してある。MkXを持たせてな」

“ウェザビーMkX”
アメリカ製。全長111.8cm・重量2.95kg。
対生物用ライフル弾としては最強クラスの威力を誇る.460WbyMag弾を使用。
反動もまた凄まじく、対戦車ライフルを除けば、人類がぎりぎりどうにか一人でまともに
扱える最強のハイパワーライフルである。

が、それでもホムンクルスに通用するかどうか。


299 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/01/05(金) 02:40:09 ID:PaKWNh380
「そうか。少しでもおかしな動きをしたら頭部に集中砲火しろと伝えておけ。殺す事は出来ないまでも、
頭を砕けば行動不能には出来る」
パトリックの指示は的確なものであったが、コリンはその指示に答えず彼に質問をぶつけた。
強大な力に晒される事が常の“持たざる者(テロリスト)”にあるまじき質問を。
「なあ、パトリック……。俺達は一体どうなっちまうんだ? ウィリアムとノエルは死んじまったし、
協力者は信用出来ねえ。おまけにいつ暴れ出すかもわからねえ化物を抱え込んじまって……。
極めつけはあの神父だ。あんなの相手に勝算はあるのかよ……?」
「お前は死ぬのが怖いのか?」
同じように質問には答えず、質問で返すパトリック。
「……」
コリンは沈黙を守っている。
パトリックもまた何も言わず、彼を見つめている。

その時、ノックも無しに三人の男が室内にズカズカと入ってきた。アーマー市警襲撃の際に
撮影班を務めた三人だ
随分と鼻息が荒い。
「何の用だ」
パトリックはうるさそうに耳穴をほじる。
三人の代表らしき大男が進み出て、自分達の首領に詰め寄った。
「アンタにゃ悪いが、俺達はこの辺で抜けさせてもらうぜ」
「何故?」
事も無げに問い掛けるパトリックに対し、大男が呆れ半分怒り半分に答える。
「何故って……。アンタもその眼で見ただろ!? あの神父の化物っぷりを!
俺達ァ、その場にいたんだぞ! いつ死んだ振りがバレるかと生きた心地がしなかった……」
大男の身震いは決して大げさではないだろう。
大勢の武装警察官をまるで問題にしなかった化物。その化物をいとも簡単に屠り去った化物と
同じ空間にいたのだ。
しかも“ソレ”は自分達全員を標的にしている。
「とにかく抜けさせてもらう。そもそも俺達はReal IRAからだ。アンタの子飼いの連中とは違うしな。
警察や英軍が相手ならまだいいが、あんな化物の相手はごめんだ!」

300 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/01/05(金) 02:41:47 ID:PaKWNh380
「そうか……。残念だ」
パトリックは悠然と指を鳴らした。
パチンという音とほぼ同時に、凄まじい轟音が部屋にいる全員の耳を劈く。
「があッ!」
背中が赤く弾けた大男は悲鳴、いや断末魔の叫びを上げて倒れた。即死だろう。
「なっ……!?」
残された二人が振り返ると、メンバーの一人がいつの間にか三人の真後ろでライフルを構えている。
それだけではない。次々に、いわゆる“パトリック子飼いの部下達”が大口径のライフルや
ショットガンを構えて入ってきた。
その中には唯一の女性メンバーである少女ブリギットの姿がある。
小柄な彼女だけは比較的軽量な“AR-18”アサルトライフルを構えている。
だがAR-18はIRAの武装闘争初期から使われ続けている、いわばシンボルだ。
メンバー達は物も言わず、迅速に残りの二人を射殺した。
だが射撃を止めようとしない。屍体となった三人をなおも撃ち続ける。
腕や脚、頭部が破片となって飛び散り、三人は徐々に人間の形状から掛け離れた存在になっていく。
その様子に笑みを浮かべながらパトリックは静かに言い放つ。
「よく“撃ち捏ねておけ”。形も残らず、ミンチになるまでな。闘志を無くし、愛国を忘れた
アイルランド人の埋葬は狗(イヌ)の餌が相応しい」
そして思い出したように己の副官の方へ振り返った。
「お前もだ、コリン。長い付き合いだったな」
「ひいッ……!」


301 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/01/05(金) 02:43:12 ID:PaKWNh380
彼らは声も出さず表情も崩さず、裏切り者を肉片に変えるべく銃を撃ち続けている。
彼らが恐れるのは首領のパトリックだけだ。パトリックに殺されるのは怖いが、
英国人やユニオニストやプロテスタントと闘って死ぬのは怖くない。
それは“人間同士”の闘争に限った事かもしれないが。

彼らの兇行は彼らだけではなく、パトリックの性質も如実に表している。
昨日降り掛かった厄災を以ってしても、“彼の闘志を衰えさせる事は出来ない”。
その様はどんな敵にも敢然と立ち向かう猛獣のようだ。

否、もっと正しい例えがある。彼は“蟻”だ。女王蟻の為に餌を探す働き蟻だ。
皆無に近い知能と、痛みを感じない下等な身体と、虫同士の体積比としてはトップクラスの
力強さを持つ蟻だ。
恐れも、苦痛も、死すらも知覚せず、ただ“目的”に向かって行進する。
障害物や外敵も意に介さず、飢えや傷も意に介さず、
誰かが死んでも意に介さず、自分が死んでも意に介さず、
ただ“目的”に向かって、“死”に向かって行進し続ける。

それは彼の部下達にも当てはまる。
ヴァチカン第13課だけではない。彼らもまた“狂信者”なのだ。
彼らにとっての十字架とは“アーマライトAR-18”、
彼らにとっての祈りとは“武装闘争”、
彼らにとっての救い主とは“首領パトリック”、
彼らにとっての神の御国(イェルサレム)とは“統一アイルランド”。

彼らも彼らも彼らもすべて同じ種の生物だ。そんな彼らを判別する“掟”がある。
人間界のみならず、自然界さえも支配する最も原始的な掟。

それは“強さ”だ。


302 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/01/05(金) 02:46:07 ID:PaKWNh380
しばらくして、幾重にも織り成される銃声に電子音が混じり始めた。
「撃ち方やめ! やめだ! 電話が鳴ってる!」
メンバー達はパトリックの合図で一斉に銃撃を止めた。
それを確認すると、パトリックは携帯電話を取り上げながらメンバーの一人に命令を下す。
「ザック、今日からお前が副官だ! 屍体を片付けておけ!」
部下の返事を待たず、通話ボタンを押して難聴気味の大声で話し始める。
「誰だ!?」

『私だよ、パトリック君』
この気取った声。例の協力者だ。
『昨日は失礼した。柄にも無く興奮してしまってね』
「いや、別に気にしていない」
『そうか、それは良かった。それで今後の事なのだが……。実はこれからそちらへ伺おうと思う。
今から48時間以内にはそちらに到着する予定だ』
「ああ、結構だ。歓迎するぜ」
『それはありがたい。私や君達のこれからについてじっくりと語り合おうじゃないか』
「これからか……。そうだな、その方がいい」
『ああ、そうそう。ひとつ注文があるんだ……。贅沢を言うようで悪いのだが、アイリッシュコーヒーは
飲み飽きてしまってね。出来れば紅茶(ティー)を用意しておいてもらいたいな。
アーマッドかウィタード・オブ・チェルシーが好みなのだが』
「わかった。用意しておこう」
『ありがとう。では失礼する』

パトリックは電話を切ると、心底楽しそうに笑った。
“まずは一人”
「テメエが来るのを楽しみに待ってるぜ。ただし、御馳走するのは紅茶なんかじゃねえ。
とびきり上等な鉛玉だ……」


303 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/01/05(金) 03:15:02 ID:PaKWNh380



「屍体の山を眺めながら飲む紅茶もオツなものかもしれんな。フフフ……」
“協力者”と呼ばれた男は携帯電話をデスクの上に置くと、鏡の前でネクタイを締め始めた。
さほど広くはない部屋にはあるのはデスクとソファ。眼を引くのは壁一面の巨大なクローゼットだ。
「やはり理想だの理念だのを掲げるアマチュアは使えんな……。我が組織もそんな輩でいっぱいだ。
まったく嘆かわしい……」
ブツブツと独り言を呟きながら、ネクタイのバランスを入念にチェックする。
ようやくネクタイの締め具合に納得したのか、クローゼットから丁寧にプレスされた
スーツのジャケットを取り出し、袖を通す。
ジョン・フィリップス。ロンドンに本社を構えるハイクラス・ブランドのオーダーメイドだ。
「この世を救うのは神などではない。“プロフェッショナル”だ……」
聞く者もいない独り言を続けながら外套を羽織る。彼が所属する組織に支給された外套を。
「これをデザインした奴はアメリカの南部生まれに違いない」と常日頃から揶揄している外套を。
ふと、デスクの上が気になる。

扉をノックする音が響いた。
男は特に答えようともせず、デスクに置かれた小物類の位置を几帳面に揃えている。
ドアの向こうから彼を呼ぶ声が聞こえる。

「サムナー戦士長、そろそろ出発のお時間です」





あけましておめでとうございます。
今年も皆さんに楽しんで頂く事を念頭に頑張っていきたいと思います。
EPISODE7は前後編構成で。後編はちゃんと原作メンバー出ますんで。
ああ! 失敗だー! 「とされる」が一個多かったー! なんてザマだ……。

304 :さい ◆Tt.7EwEi.. :2007/01/05(金) 03:16:09 ID:PaKWNh380
ふら〜りさん
『修羅の刻』物ですね! 原作では新撰組の時に夢中になって読んでいたのでとても嬉しいです。
楠木正成と陸奥大和の活躍を楽しみにしてます。
あと格闘描写も!

>>182さん
ありがとうございます!
サイトでは下品な事ばかり言ってるのに楽しみにして下さるとは嬉しいやら申し訳無いやら。

スターダストさん
金曜ロードショーでもゴールデン洋画劇場でもなく“日曜洋画劇場”というのは
私にとって最大の褒め言葉です。何なら木曜のテレ東でも。
>永遠の扉
まっぴー、ヴィッキーのパートと来て、待望のブレミュパートですな。
香美、零キタ(゚∀゚)ッ!! しかし香美は斗貴子でも関係無しの恐れ知らずですな。
そして再殺部隊登場で展開も派手になりそう。武闘派揃いだし。
ハードな事になりそうで今から楽しみ。

銀杏丸さん
>Kazikli Bey
アーカードの過去からこれまでと、そして八巻の名場面“死の河”……。
圧巻の文章で引き込まれました。こういう文体は好きです。つーか憧れますね。
もはやSSというよりも詩ですわ。素晴らしいプレゼント、感謝の極み(ヒュパッ
>ガイキチ
確かに一理ありますな。特にマクスウェルに対しては制裁を加えましたからね。
信仰に対して常軌を逸した真面目っぷりだった、と言ってもいいかも。
逸し過ぎだけど。

305 :作者の都合により名無しです:2007/01/05(金) 08:19:31 ID:Z/TmlCDK0
>銀杏丸氏
うお、アーカード!神父がバキスレで活躍してるのに、主役が
出てないってのはやはりおかしいですよね。ヘルシングらしい雰囲気の
読みきりで楽しめました。もう少しインテグラが活躍してほしかったな。

>サマサ氏
シャッフルチームに、いつもの笑顔の日常が戻ってきて良かったなあ。
USDマンやバカ王子たちも「らしい」エピローグぶりですしね。
とうとうラスト1話ですか。3年越しのこの話のラスト、期待してます!

>ヴィクティム・レッド
おお、アクションも面白いですね!派手なシーンが多い今回だけど
セピアの可愛さがアクセントになってて。ノイマンを倒したレッドだけど
バイオレットの悠然とした態度が、やはり格の違いを感じさせるなあw

>WHEN THE MAN COMES AROUND
青森から帰宅早々お疲れ様です!今回は説明が多い回でしたけど、
何か伏線めいたものが多く盛り込まれていますね。少女ブリギットとか。
神父が大活躍するようになってから、必然的に描写が過激になっていきますねえ。


306 :修羅と鬼女の刻:2007/01/05(金) 11:03:57 ID:WZLvigy60
>>178
燦々と日の光が降り注ぐ、清々しい空気に満ち満ちた山の中。木々が少し途切れて
ちょっとした広場になっている場所で、若者が木刀を振るっていた。
速く強く、華麗で切れ味良く、荒々しくはないが鋭さに溢れたその剣筋は、若者が
正統な剣術の修行を生真面目に積んできたことを示している。
また、別の方面からも若者の素性を伺うことができる。身に纏っている道着の仕立てと
いい、綺麗に結われた髪といい、更には木刀の見事さといい。どれを取っても若者の
身分の高さと育ちのよさ、大切に育てられたのであろう箱入りな人生を如実に語っている。
もっとも、その割には若者の剣技は見事すぎるのだが。いくつかの型を十度ずつほど終え
たと思ったら、今度は太く束ねて地面に突き立てた竹の束に、木刀を横薙ぎに打ち込んだ。
竹は大きくしなる。当然、反動が来る……いや来ない。若者の木刀で押さえられている。
数拍おいて、若者は木刀を放した。そして今度は、他にも立ててある竹の束に次から次
へと打ち込んでいく。
そのどれもが大きくしなり、反動を発揮しようとするが若者の木刀に押さえられて、
というのを繰り返す。どうやらこれは、力でムリヤリ押さえ込んでいるのではないらしい。
若者の、どちらかといえば華奢な体にそんな強力があるとは思えない。では、一体?
「……ふうっ」
ひとしきり打ち込みを終えて、若者が一息ついた。額の汗を袖で拭う。
と、どこからか妙に可愛い……というか甘く高い、少女の声が聞こえてきた。
「お見事お見事、大したものです」
ぱちぱちと拍手しながら、十代半ばと見えるその少女は歩いてきた。天から降ったか
地から沸いたか、どこからかいつの間にか、そこにいた。
その出で立ちも異様というか何というか。袖が大きく裾の短い、簡素な着流し姿
なのだが、真っ赤なのだ。まるで血で染めたかのように、目に痛いほどの真紅。
それでいて肌は真っ白。天空から地上へと舞い降り、まだ誰にも踏み荒らされていない
新雪のような純白。そして流れるように長い髪がまた、血の紅色ときている。
顔立ちは人形のように整っているのだが、いやそれ故に、人間ではないかのように
思えてしまう。天女か、それとも……魔女なのか。
「先ほどから拝見させて頂きましたが、あれは力の流れを読んで制するという、
柔術の鍛錬ですね? おそらく、素手の戦いも相当な腕前とお見受け致します」
悠然とした笑みを浮かべて、少女は若者に語りかけてくる。

307 :修羅と鬼女の刻:2007/01/05(金) 11:04:51 ID:WZLvigy60
「……褒めてくれるのは光栄だが、そなたは?」
と若者は尋ねるが、少女は相変わらずの笑みを浮かべて流す。
「ふふ。わたしのことなど、どうでも宜しいではありませんか。ただわたしは、
殿方の『勇』を何よりも好むもの」
「? 勇、とな」
「はい。それぞれの信念を胸に抱き、あるいは怒りを剣に乗せ、あるいは忠義に命を捨て、
敵わぬ相手にも怯まず向かっていく……『勇』をもって戦う殿方を、何よりも愛しております。
なれば、まさにそのもの、わたしのことは『勇』と呼んで頂きとうございます。ということで、」
少女は、初めて表情を変えた。相変わらず笑顔ではあるが、その瞳に青白いものが灯る。
「貴方様の『勇』をお見せ下さい」
「何?」
「わたしと、立ち会って頂きたいのです」
奇妙な申し出に、若者は怪訝な顔をした。が、すぐさまその表情を引き締めて跳び退いた。
それほど、凄まじかったのだ。勇、と名乗ったこの少女から感じた殺気が。
いや、殺気だけではない。この少女の秘めたる実力は、半端ではない。若者はそう読んだ。
「そ、そなたは……どういうことだ? 女の身でありながら、なぜこんな」
「さて?」
勇は、くすくすと笑って答える。
「なぜ、と改めて聞かれても困ります。わたしにとっての殺傷本能は食欲や性欲と同じ
ですから……貴方のような殿方を見ると……どうも……喰らいたくなってしまって」
勇の紅い舌が、そっと唇を撫でる。その、どこか淫靡な匂いが漂う舌なめずりに
若者の目が引き寄せられる、と、
「はっ!」
勇のしなやかな脚が、若者を襲った。長い脚が鞭のようにしなり、鉈のような重さをもって、
若者の手首を砕こうと振り上げられる。
若者は咄嗟に木刀の柄で受け止め、打ち落と……せない。ばかりか、一方的に押された。
このままでは木刀を飛ばされてしまう。だが若者は力を込めて押し返したりはせず、
自ら積極的に木刀を上に投げた。
勇の蹴りも上方に流れる。若者の手が素早く下ろされ、下から勇の脚を救い上げた。

308 :修羅と鬼女の刻:2007/01/05(金) 11:05:24 ID:WZLvigy60
「……お見事」
勇の体は後方に縦に一回転して、ほぼ音もなく着地した。
若者はというと、大きく目を見開いたまま動かない。
「頭から落とすこともできたでしょうに、わざわざ空中でわたしの体を操って、
体勢を整えさせましたね? 技は本当にお見事ですのに、いやはや甘い」
ため息をつく勇。若者はまだ、硬直したままだ。勇がまた笑って、
「本能的にかわせたものの、蹴り足が見えなかった、と? けれど逆に言えば、
見えぬ攻撃を本能の反射のみでかわしたということ。これもまた大したものですよ」
「……そ、そ、そなたは、一体……」
冷や汗を流す若者の、道着の襟がぴりりと音を立てて裂けた。勇の爪先が掠ったのだ。
もし、勇の蹴りが顎を直撃していたら。あるいは、ノド笛を切り裂いていたら。
「戦いこそは至上の交流ですわ。閨での情交以上の、ね……ふふふふ」
勇は、若者に冷たい微笑みを見せると、突然くるりと背を向けた。
「貴方はまだ、喰らう時ではないようです。いずれ熟した折には、ぜひ」
「じ、熟す、とは、どういう意味だっ」
もう勇に飲まれつつある若者が、少し震えた声で尋ねた。勇は楽しそうに答える。
「そうですねぇ。差しあたって、殺気を身につけること。貴方は優しすぎます。それでは
今以上に強くはなれません。他人を躊躇いなく殺せるようにならないと」
「そ、そんなこと……いや、できるようにならねばならぬが……だが私は……」
と若者が目を伏せて呟き、はっと顔を上げた時には、もう勇の姿はなかった。
辺りには静寂が帰ってきている。川の音と鳥の声だけが聞こえている全てだ。
冷たい汗と、裂けた襟元を残して、ほんのひと時の魔女との語らいはこうして終わった。
「な、何なんだ……今のは」
天下を取るには、あんな化物とも戦っていかねばならないのだろうか。そんな化物すら、
本能的に助けようとして手を差し伸べてしまう自分が。
技量の面でも、精神の面でも、自分はまだまだ未熟すぎる。若者は痛感した。
『……そうだ、悩んでばかりはいられない。この乱れた世を正し、万民を救う為に、
私はもっともっと強くなり、戦い抜かねばならないんだ……』
若者は決意も新たに、飛ばされた木刀を拾い上げて振るい始めた。
近いうちに必ず来る、戦乱の時代に備えて。


309 :修羅と鬼女の刻:2007/01/05(金) 11:06:14 ID:WZLvigy60
深夜の山奥。月や星以外の明かりはないそこを、焚き火が照らしていた。
その前にどっかと腰を下ろしているのは、紅い髪と紅い着流しの美妖女、勇。
「やれやれ。本当に、犬も殺せない顔をしてましたね。あれが源家の嫡流とは……
まあ、そこがまた、面白いことを引き起こしてくれそうですけど。ふふっ」
若者のことを考えて、楽しそうに焚き火の中から焼肉を取り出して、噛りつく勇。
その傍らには、眉間を拳で砕かれた熊の死骸が転がっている。腹や胸は
抉り出されて空っぽだ。その抉られた部分は今、焼かれて美味しそうな肉汁を
滴らせている。で、上品で小さな唇の中に消えていく。
やがて熊一頭をきれいに平らげると、勇はごろりと横になった。若者との
立会いを思い出し、予想以上だった腕前を胸の中に蘇らせ……
「よく……眠れそう……」
そっと、目を閉じた。その周りには熊も猪も狼もいるのだが、どいつもこいつも
勇に手を出そうとはしない。
焚き火が怖いのではない。勇が怖いのだ。そこに寝ているのは人間ではなく、
日本最強の生物……獣たちは、そう感じ取っているのである。

その強さのあまり、人ではないと噂される一族があった。陸奥が修羅なら、
こちらは魔。先祖に魔物の血が混じっているのではないかと恐れられる、
人ならざる強さを誇る一族。その末裔にしてズバぬけた力をもって生まれた子が
この少女、勇。
『半魔』の勇と、源氏の末裔・足利尊氏の、これが出会いであった。

楠木正成、陸奥大和、足利尊氏、そして勇。
表と裏、光と陰で壮絶な戦いを繰り広げる四人が、今、歴史の舞台に上がった……


310 :ふら〜り ◆XAn/bXcHNs :2007/01/05(金) 11:07:56 ID:WZLvigy60
最初は陸奥と不破を予定してましたが、この時代はまだ分派してないと気付いてぅあぅ。
で、こうなりました。なお前にも述べましたが私は尊氏や正成に萌えてる人ゆえ、史実
とは少々距離のある描写になるかもです。本家『刻』や、あるいは当スレの『聖少女〜』
のような重厚硬派なノリとはちと違う路線、と心得下されぃ。

>>ハロイさん
アニメを少しだけ観ましたARMS。故に予備知識はほぼ皆無ですが、メイン二人の構成
が丁寧ですね。コンプレックスを抱えつつ可能性を秘めたヒーロー、自身の戦闘力は低い
けどサポートに秀でて、家事にも前向きなヒロイン。まずはこの二人の距離の変化に注目。

>>スターダストさん
>しかも逢うたび距離が狭くなりつつある。
何気にそんなことを自覚してた秋水。姉・妹・母(?)と各種属性の女性陣に囲まれ、随分
と幸せ……だと自覚できるのはいつのことか。総角はその辺、もう完璧みたいだからなぁ。
とか言ってる間に、またえらく凄惨な現場。上記の一同も、ギャルゲモードから一転するか。

>>サマサさん(桃伝は初代だけクリア済み。あとはアニメ版♪も〜もももももも桃太郎♪)
>最後の弾丸は・・・虚空に向けて撃った。
まさか・もしやと覚悟してたんですが安心。でエピローグ編ですがアスランたちもプリムラ&
ペコも期待に応えて予想を越えてましたっ。ここまでの物語で皆を好きになれたから、皆の
笑顔を見られるのが嬉しい。次作への期待もじわじわきてて、故に次作での再会が楽しみ。

>>銀杏丸さん
ぅお、これはまた「憧れはすれども自分じゃ絶対書けない」タイプの作品。描写は濃くて重い
けどテンポが良くて、映画の予告編のような。ここから原作の物語へと繋がっているので
しょうか? うまく言えませんが、長編ともども中世欧州の高貴っぽい雰囲気が巧いですね。 

>>さいさん
相変わらず、あっちもこっちもマッドにやってますなぁ。宗教信念に裏づけされた闘志・根性
って、史実のジャンヌや天草みたいにカッコよくもなるし、本作のように「恐怖の狂信集団」
にもなる。あ、だから唯一そうでないチームが錬金で。でもそれ故に、今は少し頼りなさげ。

311 :作者の都合により名無しです:2007/01/05(金) 20:57:48 ID:qV4095dH0
>ハロイさん
レッドはかっこいいけど、どうしてもセピアの方が目立ってしまいますな
あとバイオレット姉さん。姉さんがいるとコーヒー飲んでるだけでも
なんか場面が締まる。この物語はどういうフィニッシュになるのかな?

>さいさん
神父にも負けず劣らずのマッドな連中が大挙して登場、
そして活躍しそうですなあ。敵も見方もまともな人間の方が少なそうだ。
でもこれ書いてる人も、サイトの日記を見たら結構・・w

>ふらーりさん
ふらーりさんの新境地かな?文体からいつものやさしさを感じるけど
でも、今までとはまったく違う気合が感じられる。
楠正成はまったく知らないけど、日本史物は好きなので頑張って下さい。

312 :作者の都合により名無しです:2007/01/05(金) 22:00:21 ID:aUi9Pn360
ハロイさんの更新凄いな。内容もいい。
セピアとバイオレットは対比されてるのかな?

さいさん、神父主役のこの作品は暴力描写てんこ盛りですが
次のまっぴーものはエロスてんこ盛りでw

ふら〜りさんは書き手としても一皮向けた感じだな
でも、欲を言えば陸奥以外歴史キャラだけが良かったかな

313 :作者の都合により名無しです:2007/01/06(土) 00:36:30 ID:8E2jgK7XO
さいさんオリキャラの狂いっぷりがいい感じだなぁ

サマサさんはいよいよ締めか
伏線のレイがやたら気になるぜ
何気にキャラは好きな奴多いんだよな種死も
シンとかレイとかステラとか

314 :作者の都合により名無しです:2007/01/06(土) 08:11:37 ID:pJfw7S7I0
楠木正成ってイマイチマイナーだな
日本武士の鑑とも呼ばれた男なのに
ふら〜りさんの意欲作に期待してます



315 :AnotherAttraction BC:2007/01/06(土) 08:14:20 ID:K7hdi1MO0
前スレ361から
…二人の少女に逃げ場など無かった。
兵士達に囲まれ、自分達についてあれこれと話題が上る事は、突然捕まえられ籠に入れられた小鳥にも似た心境だ。
「…だからこっちの髪の長いガキ、資料にあったろ? 読んでねえのかよ」
「ああ……で、それが何だよ?」
疑問符を並べる兵士の廻りの悪さに、イヴに注目した方が焦れた。
「だから、一番下に書いてあったろ? 『捕まえて来たら賞金』ってよ」
それを聞いて、全員が軽い首肯で得心した。ならば、と一人がイヴの髪を掴み物の様に引き摺る。
「やぁ……っ!」
彼女が痛みに身を捩るも、誰一人気にしない。「命」或いは「人」等の認識が一切無いからこその行動だ。
「気ぃ付けろよ、そんなでも兵器なんだから」
「判ってる」
罪悪感など羽ほども無い、まるで日常の作業の様な間延びした会話。それがイヴには髪を引かれる痛みより、結束帯で後ろ手に
きつく縛られる痛みより辛く、恐ろしい。
誰も助けになど来てはくれない。こんなに恐ろしくとも辛くとも、神が人間に全く干渉しないのと同じで、彼女を救う手など
何処にも現れない。無神論者が生まれるプロセスを味わいながら、彼女の心に絶望が少しずつ塗りたくられていく。
しかし―――、

316 :AnotherAttraction BC:2007/01/06(土) 08:14:52 ID:K7hdi1MO0
「―――やめて!!!」
シンディがイヴを捕まえた兵士の足にしがみ付いた。
「何だぁこいつ、離れろ!」
蹴る様に足を振ると、彼女の矮躯はボールさながらに転がる。それでもなお、と再び立ち上がった彼女の行動を銃口が押し留めた。
「大人の言う事は聞け、って教わってねえのかガキ」
「…」
銃口以上の無慈悲が僅かな怒りで睨み付ける。普通の生活ならまず眼にしない身近な殺意が、彼女をその場に縛り付けた。
如何に人並み以上の行動力を持った少女でも、圧倒的にそびえる現実を前にしてはどうする事も出来ない。
―――死ぬの? あたし…―――
余りに普段と地続きで、却って恐怖は感じられない。ただそう思うだけが彼女に出来る全てだった。
だがどれだけ無力でも、イヴだけは助けたかった。
あんなに優しいお姉ちゃん、笑顔が人形みたいに可愛いお姉ちゃん、でも今は震えて可哀相なお姉ちゃん――――でも、
命懸けでも助けられない。それだけが寂しくて、それだけが胸を潰してしまう様に重い。
…無力である事は罪では無い、ただそれはどうする事も出来ないほど悔しくて辛い事だ。
「…止めて……言う事聞くから、いっしょに行くから…シンディ……殺さ…ないで」
その時、イヴの涙混じりのか細い嘆願が銃爪を留まらせた。
「お願い……お願いだから…酷い事……しないで…」
弱々しく、今にも消えそうな言葉で助命を乞う。それで精一杯な彼女を横目で見ていた兵士も、嘲りをバイザーに隠して銃を引いた。
「だったら自分で付いて来い。逃げるな、逆らうな、言う事は絶対に聞け。…でないとこのガキを殺すぜ」
侮蔑に少々の威圧を込め、彼はシンディの襟首を掴まえた。
「…? それも連れてくのか?」
「こいつで言う事聞かせりゃいいだろが。売っ払えば煙草銭くらいにゃなるだろうし」
まるで荷物の梱包の様に彼女の手首を縛られるのを、イヴは涙の向こうから見るしかなかった。
(………ごめん…ごめんね…私のせいで……こんな事に……)
巻き込んでしまった、普通に暮らしていただけの彼女を。
何故こんな事になってしまったのだろう、痛いのも怖いのももう嫌なのに。
こんなただ辛くて怖いだけの世界から、どの様な形でも良いから開放されたかった。
もう嫌だ、もう見たくない、もう耐えられない。いっそ消えてしまいたいほど、この世にあまねく何もかもが恐ろしかった。

317 :AnotherAttraction BC:2007/01/06(土) 08:15:54 ID:K7hdi1MO0
「―――よし、じゃあ行くぞ」
シンディと共に兵士に急き立てられ、思考を自閉の門奥に閉ざそうとしたその時だった。
「……ふ…ふ、二人を放しゃあがれ!! この……あ、悪党共!!!」
彼らの後ろの路地から、イヴに声をかけた出店の主人が麺棒を構えて現れた。
威勢こそは良いもののやはり銃は恐ろしいのだろう、疲労や気温とは無縁の汗を満面に滴らせ、膝も盛大に躍るのを食い止めている
だけの有り様だ。どう見た所で彼らの脅威には成り得ない。
更に出てきた路地を見れば、似た様な服装の連中が小声で彼の人道的蛮行を必死で止めようとする。
「ちょっとゲンさん、お止しよ!」「逃げろって! 死ぬぞ!!」
「危ねえよ、俺たちも…!」「良いから早くこっち来いって!!」

「やかましい!!!」

だが彼は助言を一喝で封じた。
「だとしてもよ……シカトする訳にゃいかねえだろうが!!! 女子供平気で撃つ奴等に攫われたらどうなるか…判んだろう?
 大体よ、大人が………ガキほっぽったらお仕舞いなんだよ!!!」
それなりに台詞で自分を奮い立たせたが、勿論兵士達は三文芝居でも見る様に見入った。
「何だこれ? やっちまうか?」
「――だな」
思考の延長で向いた銃口の数は想像以上に多い。装備も無ければ訓練も無い、何より急造の気構えしか使える物を持ち合わせていない
彼に防ぐ手段など何処にも無い――――――――しかし彼は、却って臆せず銃を隔てた悪漢達を戦意で見据える。

318 :AnotherAttraction BC:2007/01/06(土) 08:16:40 ID:K7hdi1MO0
「……待てよ、そういきなり撃つ事も無えだろ」
銃口を制した意外な助け舟は、兵士の一人だった。彼は銃を捨て、備品も捨て、挙句戦闘服の上着も脱いで店主に歩み寄った。
「おっさん、気に入ったぜ。だから公平にこいつで決めようか」
突き出した拳が示すのは、素手の勝負だった。
「あんたが勝ったら二人は無傷でくれてやる。それで良いな、お前らも」
問い掛けには、全員が拍手と歓声で応じる。まるで一転する状況に店主は呑まれそうになった。
「お…俺が負けたら…」
「殺す。他に何が有る?」
しかし改めての死刑宣告に肝が据わったらしく、素人構えではあるがそれなりに手馴れた動作で拳を握る。
鬼の様な髭面と巨躯で判断するだけでも、恐らくは相当喧嘩慣れしているのだろうが。
対する兵士は棒立ちのまま自然体で、言い出した勝負を始める気配すら見せない。
舐められた。そう判断した店主は拳を全力で固めて殴り掛かった。
――――――――――兵士に打撃が届くほんの紙一重、何かが彼の顔に弾けた。
「!? 〜〜〜〜ッッ!」
たまらず押さえた両手からは、血がかなりの勢いで滴り落ちる。しかも掌には、鼻が折れた感触が不快に伝わった。
「おおっと危ねえ、喰らっちまう所だったぜ」
綽々と語る兵士の右手は、前方裏拳の形で止まっていた。

319 :AnotherAttraction BC:2007/01/06(土) 08:19:09 ID:K7hdi1MO0
鈍い音と共に血に塗れていく店主に引き換え、兵士は余裕で手足を打撃に霞ませる。
「あ〜あ、また始まったよあいつ。完全にビョーキだな」
「…ナイフや銃より良いんだそうだぜ、打っ殺すのが」
兵士達の呆れ気味の会話を聞きながら、イヴは店主の現状と末路に蒼褪めた。
そもそもが単なる喧嘩自慢と殺傷目的で訓練した兵士とでは初めから土俵が違う………と言うより、勝負ですらない。
勝負を持ちかけたのは何と言う事も無く、ただ嬲り殺す為だけの提案だ。
(何で………何でこんな事するの…?)
心が問うても誰一人答えない。兵士達は緩やかな死刑に見入り、シンディは眼を背け、店主の仲間達は飛び出したい感情を
やっとの思いで押さえている。
誰にも傷付いて欲しくない、誰にも辛い目に遭わないで欲しい――――…それはそんなに贅沢な願いなのだろうか。
命が、優しさが、愛情が、それらが生きるにはこの世界が残酷に過ぎるのだろうか。
所詮彼女が欲した物は、世界の上辺に過ぎないのだろうか。
………思考の迷路を廻る彼女を置いて、顔を裂傷と血に彩った店主が遂に膝をついた。
「ぐ……お…」
「なかなか持ったじゃねえかおっさん、素人にしちゃ上出来だぜ」
嘲り含みの賞賛と腹へのトゥキックは同時だった。
「おご………っっ!!」
血と吐瀉物を吐きながらのた打ち回る其処に、およそ戦果は期待出来ない。既に決着は着いていた。
「でも寝るのはまだ早ぇな、もう少し起きてねえとあのガキ共苛めちまうぜ?」
「……効いてる様に見えてんのか若造……かかって来いや」
血塗れの唇は体の限界を無視して悪態を返す。しかし、這い蹲った体が行動を拒絶しているのは自身が誰より弁えている。
それでも、この暴虐に屈したくは無かった。そして出来る事なら、二人の少女を助けたかった。
「ふ…ん、まあ―――ガッツは買うぜ」
愉しげに笑う兵士は彼の頭上に踵を振り上げた。それが止めなのは誰の目にも判る、流石に血塗れの顔にも絶望が差した。

320 :作者の都合により名無しです:2007/01/06(土) 08:25:25 ID:pJfw7S7I0
わーい、NBさんがきたー!
投稿規制かな?支援
今から学校なので、帰ってきてからゆっくり読みます

321 :作者の都合により名無しです:2007/01/06(土) 08:41:57 ID:YKUtqqyI0
紫煙

322 :AnotherAttraction BC:2007/01/06(土) 08:46:04 ID:K7hdi1MO0
「…うおッ!?」
―――突然兵士が、奇声を発して斜め前のめりに倒れた。
「あ…」
それを呆然と見守る店主だったが、今度は小さな影が彼と兵士を隔てる形で視界を陣取る。
何とそれは、助ける筈の少女の片割れ……小さい方の少女だった。
兵士達の注意が私刑に集まっている最中にこっそりと離れ、兵士の片足に体当たりを食わせ店主を護ったのだ。
(…シンディ!!)
この状況で必要以上の騒ぎを起こせば射殺は必至、にも拘らず彼女は逃げもせず勇気を振り絞った。
だがイヴにはそれが理解出来ない。
何故敢えて更なる恐怖や苦痛に身を投じようとするのか? 彼女には今だけで充分耐えられないのに。
何故この状況で、そんな真っ直ぐな眼が出来るのか? 彼女にはもう何も見たくないのに。
彼女はシンディの身を案じながら、相も変わらず答えの返らぬ自問をする。
(何でなの……? 何であなたも、おじさんも、そんなにするの? 痛いのに、怖いのに……何で……)

「………やりやがったな、このガキ!!!」

323 :AnotherAttraction BC:2007/01/06(土) 08:46:40 ID:K7hdi1MO0
胴間声に我に帰った彼女が見た物は………店主を背後にあの兵士の拳銃を真っ向から見返すシンディだった。
「―――――何でこんなことするのよ!! 
 おじさんひどい怪我してるでしょ!? 町が燃えてるでしょ!? お姉ちゃんに酷いことしてるでしょ!?
 あんたたち何でこんな酷いことするのよ! ……帰って―――――今すぐ帰ってよ!!!」
彼女は銃口越しの兵士を怒鳴り付けた。其処に虜囚の態は微塵も無く、この惨状を起こしたあらゆる物に対する義憤だけが凛と有った。
「ああ? 何言って…」
「何でこんなことするのよ!!! 誰もすごく悪い事なんかしてないのに、何で皆に酷いことするのよ!!!
 あんたたちそんなに偉いの!? こんな事しなくちゃいけない理由でも有るの!? 言ってみなさいよ!!!」
声の限り言葉を荒げ、シンディは眼前の暴悪に出来うる限り噛み付いた。
しかし息を荒げる彼女に対し、拳銃を向けた兵士もイヴを捕まえたまま離れで聞いた兵士達も微かに失笑を洩らすだけだった。
「…ふぅ〜……まあそうだな、命令されたからか?」
あっけらかんとした即答に、兵士達の失笑が僅かに大きくなる。だがシンディは愕然を目の前の兵士に向ける。
「…な…なに? ……それ………」
「いやぶっちゃけた話、命令なんかどうでも良いんだがな。ガス抜きっつうか、束の間の娯楽っつうか、それともストレス解消っつうか、
 まあ――――、なんつうの? お前らが弱くて俺達が強い、そんなのでいいんじゃねえの?
 別にいいじゃねえかよ、どうせ死ぬんだし」
それを合図に、兵士達の失笑は一気に哄笑へと変じた。
「最後にお利口になって良かったな。あ〜あ、あのガキが止めた分無駄にしちまいやがって、知らねえぞ俺は」
不快なコーラスを背景に、改めて照星はシンディの額を捕らえた。

324 :AnotherAttraction BC:2007/01/06(土) 08:48:22 ID:K7hdi1MO0
「…あ?」
銃爪を止めたのは、先刻以上に固まったシンディの双眸だった。
「何が…『お前らが弱くて俺達が強い』よ。大人なのに子供みたいなこと言って……あんたたちこそ、パパとかママとかに
 人に迷惑掛けちゃいけないって教わってないの? 人が痛いことは自分も痛いことだって、知らないの? あたしのクラスだったら
 ほとんどの子が知ってることなのに、大人なのに判らないの? 
 あたしよりずっとずっと子供のくせに……何が『大人の言う事は聞け』よ!!! あんたたちみんな、おっきいだけの子供じゃない!」
今度の罵声には、彼らの笑いさえ止まった。
「ちがわないでしょ? 体おっきくて、おっかないもの振り回して、それで脅かしてるだけの子供なのに……集まってちょうしに乗ってる
 だけで良くこんなこと言えるわね!! ちがうなら何か言ってみれば!?」
勿論反論は出なかった。それを証明する様に、銃を持つ手が照準を維持出来ない。
「……負けないから………あたしは力なんてないけど…あんたたちになんか、絶対に負けないから!!」
「…ならやって見やがれ!!!」
兵士の怒号を前にしても、シンディは目を逸らさなかった。

――――――彼女の視界が、赤一色に染まった。

……しかし、待てど暮らせど銃声も衝撃もやっては来ない。そして良く感じてみれば、自分の目を含む顔には何か液体が張り付いている。
それを拭うと、目の前には想像だにしない自体が展開していた。
―――あの兵士の銃を持つ手を落とす形で、金色の刃が胸の真ん中まで切り込んでいた。
「「……え?」」
二人の疑問が奇妙に重なるや、兵士は残る手で胸から生えた刃を握る。
「何だ……これ?」
彼の認識が固まっていくに連れて、致命傷を受けた体が死の痙攣か、もしくは恐怖か、震え出す。
「何だよこれ………何なんだよこれェッツッ!!!」
叫んだ瞬間、彼の体は刃に持ち上げられ、破壊された店舗の壁へと激しく投げ付けられた。
そして―――、店主とシンディ、並びに露店の仲間達は見た。その長い金色の刃が、囚われた少女から伸びているのを。
「……キャアアアァ――――ッ!!」
絹裂く絶叫が、シンディの口から迸った。

325 :AnotherAttraction BC:2007/01/06(土) 08:50:49 ID:K7hdi1MO0
「このガキ!!!」
ようやく反応した兵士の一人がイヴの頭にOICWを向けた途端―――彼の背中から刃が生える。
「やべえ…離れろ!! スイッチ入りやが……!」
彼の喉に、刃が押し込まれた。
俯く彼女の貌は前髪に隠れて判らない。だが、その小さな肩が小刻みに震えていた。
「…う」
兵士達が遠巻きに銃器を構えるも、彼女は動かない。だが僅かなうめきに何がしかの感情がこもっていた。
「…うぅ」
「テーザー(有線スタンガン)使え! 金に無んねぇぞ!!」
言い様複数のOICWの銃口下部から有線の電極がイヴに放たれた。しかしそれは全て、突如消失した獲物の前に空を切る。
『!?』
驚く全員が索敵システムに従い上を見上げると―――――、其処には拘束を自力で断ち切った少女が、全ての髪を長大に伸ばし
隼が獲物を狩るが如く彼らに直下する。

「…う………あああぁぁぁああぁあぁぁぁ!!!」

夜と彼らの心を、峻烈に少女の咆哮が引き裂いた。
そして転瞬降り注ぐ刃の豪雨。その中心に彼女が降り立った頃には、半数以上の兵士が全身を串刺しにされた。
「う、オオォッ!」
誰かが至近にも拘らず恐怖に任せてグレネードを放つ。しかし弾体はイヴに届くが爆発しない……彼女が素手で掴み取ったのだ。
「…は?」
彼が呆気に取られたのはその事ばかりではない、弾体が手の中で鋭い円錐に変じたからだ。そしてその所為で、放たれたそれが
右目に叩き込まれるのに反応出来なかった。
「うわぁぁぁ!! 来るなァッ!!!」
遂に彼女に機関銃が吠えた。だがそれも、的の小ささと迫る挙の速さに殆どが的を外す。
幾つかが彼女の華奢な腕を抉った。しかしそれでも、刃と彼女の戦意は折れなかった。

326 :AnotherAttraction BC:2007/01/06(土) 08:51:32 ID:K7hdi1MO0
「…ああああぁぁぁああぁぁぁぁッ!!!」
猛りながら、刃を侵略者達に突き立てながら、彼女の心は唯一つに燃え滾る。
―――誰も失いたくない。何も無くしたくない。欲する全てに、消えて欲しくない。
だが、行動しなければ無くなってしまう。抵抗しなければ奪われてしまう。その価値を判ろうと判るまいと。
彼女にとって命より大切な全てが、暴威によって失われ、非可逆に蹂躙される。それを耐えられる筈が無い。
しかし痛みは恐ろしい、恐怖もだ。だがそれに膝を抱えるだけでは、確実なゼロだ。
(…スヴェン……こう言う事だったんだ…)
今なら、あの冷たい言葉の意味も判る。

『………俺達の旅には連れて行けない』
『…お前は絶対に死ぬ…』
『これがお前の限界だ、イヴ』
『……足手纏いは要らない』

あの言葉の裏を読まず、ただ悲しみに明け暮れた自身の何と愚かしい事か。
危険さ、気構えの足らなさ、彼の優しさ、そして言わなくてはならない辛さ、全てが一つ一つに集約されていたと言うのに。
それを知ってしまった今、シンディと店主に見せられた今、もう蹲ってはいられない。
そして同時に哀しかった。戦わなくてはならない、傷付かなくてはならない現実が。
「ぁぁぁああああぁぁぁぁあぁぁぁ!!!」
傷を受けても、血がしぶいても、彼女の咆哮も攻撃も全く止まらなかった。
――――――彼女は、生まれて初めて怒っていた。
「待て! 判った! 悪かった…悪かったから、助けてくれ!!」
最後の残った兵士がへたり込んで彼女を手で制した。
「な? 俺はもう出て行くから、許してくれよ。お願いだ、俺にもお前くらいの子供が居るんだ。だから…」
それを聞いて、イヴの怒りにもやや戸惑いの色が差した。
「……俺の帰りを待ってるんだ、それに病気で…俺が居ないと、あいつが一人ぼっちに…」
「…私だって、誰も殺したくない。今までも、ずっと」
それを言葉に乗ったと確認し、内心安堵の吐息をついたが……
「―――でもあなたは殺したんでしょう? あなたが殺した中にも、きっと誰かの大切な人が居たんでしょう?
 それを知らないなんて……言わせない!!!」
消えた炎が燃え盛る様に、またも彼女は瞋恚の一色に染め上がる。
言葉は無かった。言わせなかった。何か言う前に真冬の三日月にも似た冷たく鋭い一刀が、防弾バイザーメットを貫いた。

327 :AnotherAttraction BC:2007/01/06(土) 09:02:45 ID:K7hdi1MO0
……数分間の奮迅は盛大な虐殺に終わった。
返り血に塗れ、髪も血が染みてほぼ黒になっていたが、それも彼女のナノマシンが少しでも行動力に還元しようと体全体から吸収する。
歩み寄りながら見る見る血が引いて行く彼女に、シンディも店主も言葉を失っていた。
無理も無いだろう、突然見知った筈の人間が怪物に変じては。そう思ってイヴは、弁明を止めた。
「……怖くして…ごめんね」
蹲る店主の前にしゃがみ込み、手を当てる。それだけで痛々しい傷は癒え、苦痛のうめきもまた消え失せた。
「これでもう大丈夫ですから、急いで安全な所に逃げてください」
店主の無事を確認すると、ふと視界に路地の人々が入る。
「ばっ…化け物だ!」「ひ、ひいぃッ!」
「た、助けてくれ!!」「待てよ! 待ってくれ!」
無論それは、彼女を見ての反応だった。慌ただしく逃げる彼らの背中が寂しかったが、それを止める術は無い。
彼らにも優しくして貰った。だが、それがもう一度彼女に起こる事は有り得ない。彼らは人間であり、自分は兵器で化け物なのだ。
それだけが少し寂しく、切ないが、此処は既に戦場。悲哀を貪るのはその後と、彼女は背を向け走り出した。
「……お嬢ちゃん」
引き止めたのは、傷を癒した店主だった。
「…あ……有り難うよ」
諦めた筈の彼女の背中越しに、ほんの僅かに暖かく、その言葉は響いた。

(杞憂…だったな)
その光景を物陰から覗いていたスヴェンは、ライフルを滑らかに分解してケースへと突っ込んだ。
見付けた時、シンディに銃が向けられているのには流石に肝を冷やしたが、結局は自分の力で何とかなってしまった。
もう本当に放って置いても大丈夫だろう、安堵の溜息を吐いてイヴの側に来た際こっそりと付けた発信機のスイッチを切った。
(何が『放っとけ』だ……甘いな俺は)
つまるところ非情になりきれない事に自嘲する。しかしそれも彼女を思えばこそだ。
何度めかのコールでようやくマリアとも連絡が取れた。それで娘共々彼らも誘導させればこちらの問題は無いだろう。
「だけど……辛いな、イヴ」
兵士から徴発したOICWをスリングで引っ提げ、彼も自らの戦場へと駆けて行った。

―――――イヴは、走っていた。
死体や延焼の間を駆けるのは、まるで冥府の谷の様に彼女の気分を陰鬱に炙る。しかし足を止める暇は無い、思い煩う暇も無い。
彼女は選んだのだ、煉獄を進む道を。最早、過去の苦痛と恐怖は彼女を縛る枷には成り得ない。
なればこそ、彼女は奔る。あの騒々しい日常に戻る為、イヴは戦場に身を委ねた。

328 :AnotherAttraction BC:2007/01/06(土) 09:05:58 ID:K7hdi1MO0
明けましておめでとうございます。NBです。
今回寝惚けてすごいミスを仕出かしました。

前スレに投稿しちゃってたよ、俺!!!

余りにも恥ずかしいので、今回は極めて手短にここまで、ではまた。

329 :作者の都合により名無しです:2007/01/06(土) 18:15:28 ID:whmgm1xm0
NBさんあけおめ
イヴの子供ゆえの純真さからきずかなかった
スヴぇンのやさしさが分かって良かったです。
大戦争って感じで、派手な年の始まりですね!

330 :作者の都合により名無しです:2007/01/06(土) 22:34:56 ID:YRuJTLC70
NBさんあけおめです!
NBさんのこの連載も3年越しですね。
筆力の高さにも、遅筆ぶりにも磨きがかかっていますがw
今年もがんばって下さい!

イブとスヴェンの仲がまた縮まりそうな感じですね。
今年一発目なのに、主人公のトレインの影が薄いけど

331 :ヴィクティム・レッド:2007/01/07(日) 00:43:55 ID:rn9kcwNf0
 光一つない部屋の中、さらに黒く、闇に沈む男の姿があった。
「あの二人は、どうしている?」
 その闇の狭間から、それとは別の姿無き声が答える。
「驚異的な達成率で任務をクリアしている。
 定点的に評価を下すなら、問題点はまだ多い。山積みと言ってもいい。
 にも関わらず、最終的には──たとえ辛うじてあろうとでも──目標を達成している。
 決戦能力とでもいうべきか……最後の最後で状況を制圧する能力に秀でている、という見方もあるがな。
 それぞれの資質的な欠損を相互に補い、高次の一存在として成立している」
 それを引き取るように、微かな食器の音を響かせながら女は言った。
「二人で一人、というわけか。さすがね。わたしも姉として鼻が高い」
 そこで言葉が切れる。だがまもなく女は続けて言葉を発した。
「この紅茶、香りが上手に開いているな。変な渋みもない。これは誰が淹れたのかしら」
 闇に沈む声がそれに応じる。
「私だ」
「まあ……」
「意外かね?」
「ふん、茶の味などどうでもいいだろう。……セイロンか?」
「いや、ダージリンだ」
「アッサムです」
「淹れた本人がダージリンだと言っているのだがな」
「アッサムです」
「…………」
「…………」
 死神が通り過ぎる、という慣用句に相応しいほどの静寂が場を満たす。
 気を取り直すように軽く咳払いをした後、姿無き声は先ほどの説明を続ける。
「クラーク・ノイマン少佐の一件以来、『グリフォン』は飛躍的に成長を遂げている。
 最終形態には至っていないが、能力自体は分子レベルでの超振動を可能にしている。
 それが分子結合への干渉にまで及ぶのは時間の問題だろうというのが、ドクター・ティリングハーストの見解だ」

332 :ヴィクティム・レッド:2007/01/07(日) 00:44:27 ID:rn9kcwNf0
「それに名前はあるのですか?」
「なんだと?」
「わたしの『マーチヘア』は『バロールの魔眼』。あなたの『マッドハッター』は『ブリューナクの槍』。では『グリフォン』は?」
「む……オレは知らんな」
「『それ』に名はまだ無い。不確かな可能性を秘めたままの、未だこの世に出ていない力だ」
「……『グリフォン』はさらに進化すると? 分子の破壊を超えた、更なる力がその先にあるというのか?」
「全ては可能性の段階だ。或いは分子結合の破壊にすら至らず、能力は完成を迎えてしまうかもしれない。
小さいスケールでまとまった、世界を変えるには到底及ばぬ矮小な力のまま」
「道は半ばなり、というわけですね」
 女は感慨深げにつぶやき、黙った。さくさくとなにかを噛み砕く音が控えめに響く。
「このクッキー、香りがついているわね。誰が焼いたのかしら」
「私だ」
「まあ……」
「意外かね?」
「ふん、菓子の匂いなどどうでもいいだろう。……ナッツか?」
「いや、アーモンドだ」
「アマレットです」
「焼いた本人がだとアーモンドだと言っているのだがな」
「アマレットです」
「…………」
「…………」
 さくさくさくさくさくさくさく、と連続した音が響く。
 それを遮るように、闇に沈む声が静かに語る。
「『グリフォン』が日々進化するように、『モックタートル』もその能力を発展させるだろう。
 『プログラム・ジャバウォック』が本格的に始動する日は近い。
 四人の適性者にはすでにオリジナルARMSが移植され、目覚めの日を待ち続けているのだ。
 それまでに、我々にはどうしてもクリアしておかなければならない課題がある」

333 :ヴィクティム・レッド:2007/01/07(日) 00:45:04 ID:rn9kcwNf0
「『エクスペリメンテーション・グリフォン』」
「そうだ」
「それは、いったいどういう概要なのですか?」
「極秘だ。お前たちにも全貌を伝えることはできない。計画遂行の段階ごとに進行役を変えるのも、その為の処置だ」
 姿無き声は苛立たしげに問う。
「何故そんな回りくどいことをする」
「向こうには『モックタートル』がついている。運命の流れを肌で感じる、黄金の仔牛が」
「……わたしは、あの子を不幸せにするようなことはしたくありません」
「それを選択するのは本人だ。他人から与えられた籠の中の幸福を、彼女は幸福と感じると思うか?」
「どちらにせよ、オレには関係の無いことだな。あのような失敗作どもにはなんの同情も憐憫もない」
「お前はそれでいい」
 海よりも深いしじまの中で、女は重い口を開いた。それは決然とした口調だった。
「わたしは、あの二人には強くなって欲しいと思っています。その意味では、わたしに与えられた仕事を拒む理由はありません」
「そう、だからこそ私は第一段階の進行役にお前を選んだ。もしも私のやることに疑念があるのなら──」
「ええ、それすらも凌ぐ力をあの二人に」
「茶番だな。オレたちはそれぞれ違う運命をプログラムされている。その無慈悲な歯車の回転には、何人たりとも横から手を加えることはできない」
「その通りだ。これは遥かな太古よりすでに決定されたプログラムなのだから。それは、私とて同じことだ。誰もそこからは自由になれない。
 我々の為すべきことはたった一つ──」
 その言葉を最後に、声は闇に沈みきり、溶けた。

「全ては、我らが母『アリス』の為に」


挿入話『闇』 了

334 :ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/01/07(日) 00:47:42 ID:rn9kcwNf0
とりあえず一休みの回です(俺が)。次回からまた話が進みますゆえ。

335 :作者の都合により名無しです:2007/01/07(日) 03:14:30 ID:NRfyyG2J0
>AnotherAttraction BC
アクションシーンに常に新しい試みのようなものが感じられるな
その中でイブの変化がかかれてて、さすがにうまいっす。

>ヴィクティム・レッド
幕間劇ですな。静かな描写の中に、バイオレットとレッドの
明らかな格の差を感じさせます。頑張れヘタレッド。

336 :永遠の扉:2007/01/07(日) 13:57:07 ID:VbgVq19L0
関東某所の採石場。
夕闇迫るその場所で、少年が1人、細長い道を走っていた。
一般道を走っていれば次々に車を追い抜けそうな速度で。
足にローラーがついていると見まごうほどの水平移動で。
原動力は彼の踵。外側で金属質なパーツが高速回転し、じゃらぎじゃらぎと砂利を吹き上げている。
そんな彼から逃げるように、チーター型ホムンクルスが全力疾走している。
だが、距離は縮まる一方であり、やがて崖下に追い詰められた。
周囲に道はなく、崖は急勾配。俊足を持っても駆け上がるのは難しそうだ。
兵法には、「敵の逃げ道を完全に断たない」という不文律がある。
なぜならば退路を断たれた者というのは、その絶望と焦燥を転化させる。
目の前の敵を打ち倒し、活路を開こうというエネルギーに転化させる。
項羽が敵をことごとく全滅させた結果、戦うもの総ての苛烈な抵抗を招いたのはこの不文律
を破ったせいであるし、首だけを少年にねじ巻け、凶悪な牙を剥いたチーターも具体例。
ネコ科動物特有のしなやかさで優雅に反転、追っ手に向かって踊りかかった。
少年の戦い方は失敗……とはいえないが、あまり模範的な物でもない。
そも、ホムンクルスが無尽蔵に作れるのに対し、倒す手段は限られている。
主なのは武装錬金。核鉄という道具によって闘争本能を武器にする方法だ。
ただ、核鉄は総てで100個しかなく、その内3つは現在月へと消えている。
残り97個の核鉄とて、錬金戦団は総てを手中にしていない。
どころか、L・X・Eやザ・ブレーメンタウンミュージシャンズのようなホムンクルスの共同体が
所持している状況を鑑みれば、いかにホムンクルスを倒すという行為が難儀かお分かりに
なるだろう。
さらに現在、ヴィクター討伐の余波でかなりの数の戦士が戦線離脱を余儀なくされている。
よって戦士はなるべく無傷で任務を遂行しなくてはならない。
迂闊に敵を追い詰めて、死力を浴びたりするのは戦術的にも戦略的にも下策。
(ま、新人でもそれぐらい把握してるけどな。先輩から散々叩き込まれたし)
踵の外側で回転していた戦輪(チャクラム)を急停止。上空に向かって射出する。
とはいえそれまでかなりの速度で走っていたから、慣性までは殺しきれない。

337 :永遠の扉:2007/01/07(日) 13:57:46 ID:VbgVq19L0
ひとまずつま先から倒れこむように──スライディングの要領で──チーターの下をかいく
ぐって立ち上がり、彼はため息をついた。
「ったく。制服とかないワケ? 私服でこんな戦いやってたら財布の方が持たないって」
カジュアルな黒ズボンをパンパンとはたくその後ろで、チーターは……
声も立てず横に倒れた。
「ハイ撃破。っと」
生あくびまじりの弛緩した顔つきでチーターの屍骸に歩み寄ると、その額──ホムンクルス
の最大の弱点である章印──に刺さった武器を回収した。
それは一言でいうなら、ギア。
直径20cmほどの輪に、台形状の刃を等間隔で8個あしらっている。
用途としてはインドの投擲武器、戦輪(チャクラム)に近いだろうか。
なお、これと同型の武器は日本にもある。
名を「輪(りん)」といい、こちらは台形ではなくサメの尾びれのような刃を持っている。
投げるだけではなく、手に持って白兵戦を演じたり、紐をくくりつけて鎖鎌のように振り回すコ
トも可能だ。以上は本筋と関係ない与太話。
「アレ位、予想できるに決まってんだろ。だから途中で軌道を変えて章印に当たるようにイン
プットしといた」
近くの崖がぐらり、と崩れた。何故か少年の手にあるのと同じ戦輪を刺したまま。
土砂崩れではなく、人一人分の大きさ分。局地的に。
「ついでに、物陰から俺を狙ってた奴にも当たるように」
「な、なんで分かっ……たん……だ」
額にに戦輪(チャクラム)をめり込ませた男が、呻きながら倒れた。
その体表は砂利そのものの模様に染まっている。ただし周りよりは心持ち明るい色だ。
カメレオンかカエルか、とにかくそういう擬態能力を持っていたホムンクルスなのだろう。
「色。オマエ擬態するなら、いまが夕方だってコト考えろって」
少年は辺りを見回した。すっかり日が傾き、薄暗い。
「周りはこんなんなのに、色が明るい時のままだからバレバレだっての」
消滅しつつある擬態の男から戦輪を抜き取ると、少年はひどくやる気のない顔をした。
「うわ。グロ。相手が化物でもこーいうのはなぁ……先輩はなんでブチ撒けても平気なんだろ?」
元々垂れ気味の目を更に垂らして、軽くうなだれる。


338 :永遠の扉:2007/01/07(日) 13:59:03 ID:VbgVq19L0
火渡らが集合した拘置所は深緑鮮やかな森の中にぽつねんと佇んでいる。
地元の人間すらココが何の施設かは知らない。そして普段誰も近づかない。
人里遠い静けさの中、火渡は今にも夕焼けと同化しそうな色彩である。
「犬飼。円山。戦部。てめェら3人はいまから老頭児(ロートル)を探しに行け。さらった奴ともどもな」
死体がない以上、さらわれたと見るのが妥当だろう。
「戦士・千歳がいてなお『探せ』という事は」
「ヘルメスドライブじゃ見つからなかったというコトかしら?」
「え、ええ。先ほど火渡様が依頼されたのですが」
毒島はおどおどしながら一生懸命戦部と円山を見上げた。
「ケッ。相変わらず肝心な時に役立たねェ。……おい負け犬」
エリートじみた細面の青年がニタっと笑った。
「妥当なトコロだね。彼女が無理なら僕のレイビーズでしか追跡不可能」
彼が犬笛を吹くと、背後から3つの影が走りよってきた。
「よし来……え? 3つ?」
彼操る軍用犬(ミリタリードッグ)の武装錬金・キラーレイビーズは新造人間の相方が務まり
そうな容貌で、2体1対である。
だがやってきたのは3体。
犬飼は目をごしごしこすって余計な影の正体を見極めると、天地が避けんばかりに仰天した。
「ほ、本物の犬! 犬笛につられてきたのか!?」
野良犬だろうか。小さなチワワがレイビーズと共に走ってきている。
「何びっくりしてるのよ。可愛い子犬じゃない。というか目をこすらなくても一目瞭然」
「うるさい! 僕は本物の犬が嫌いなんだ! どっか行け!」
必死に叫びながら犬飼は、チワワに向かって石を投げた。
果たしてチワワは正気に戻ったのか、ギャウギャウ鳴きながらどこかへ消えた。
にもかかわらず犬飼はぜぇぜぇと息を切らしながらそちらを恐怖の顔で睨んでいる。
「このザマだ。とても一人で追跡は果たせそうにねェ。てめェらは負け犬の護衛だ」
火渡は煙草を口から離し、炎とも煙ともつかぬ真赤な気体をくゆらせた。
「ふむ。追う価値はあるな。大戦士長をさらうほどの敵…… 不足はなさそうだ」
気体の光に照らされて、戦部の目が獣のように輝いた。
精悍無比の闘志あふるる瞳にあるのは強者への限りない欲求のみ。
大戦士長坂口照星といえば錬金戦団の中でも五指に入る実力者である。

339 :永遠の扉:2007/01/07(日) 14:00:04 ID:VbgVq19L0
素手でも火渡を圧倒できる実力を持ち、操る武装錬金もあらゆる意味で規格外。
そんな男を誘拐した者への好奇を、戦部は隠そうともしない。
「護衛ねぇ。この人だけでも充分だと思うケド」
下まつげくっきり艶やか三白眼の美人(※男)が少しおどけた。
「テメーは根来の代わりだ」
「ところで彼、いつ退院するの?」
「あと1週間はかかるかと」
こういう情報について毒島は妙に詳しい。
例えばいま傍にいる戦部が、ホムンクルス撃破の記録保持者というコトも知っていたりする。
「命令は以上だ」
行け、と口を開きかけた火渡は、何故か熱に満ちた狂笑を浮かべた。
視線は森の一点に釘付けだ。
「な、何か?」
怯える毒島の頭に手を当てて、戦部も野趣溢るる野太い笑みを浮かべた。
「とても戦団関係者ってカッコじゃないわね。一般人ではもっとなさそう」
円山が艶やかに笑うと、犬飼だけは厳しい顔で犬笛を口にした。
彼らの視線の先には──…
編笠と黒装束を身につけた筋骨隆々の男が、油断ならない様子で佇んでいた。
「ま、まさかこの人が大戦士長をさらった、敵!?」
一同は軽く目配せすると頷き、毒島だけが数歩後ろに下がった。
「ハッ、この場にいるってコトはそうだろうな。ちょうどいいじゃねェか」
いうが早いか、火渡は両腕から炎を放射した。
白熱をえんらえんらと対流させる炎はまるで高純度の燃料を得たがごとく。
焼夷弾(ナパーム)の武装錬金・ブレイズオブグローリー。
通常はその正体を表さず、ただ火渡を炎と一体化させている。
燃滅の権化は夕闇を突っ切り、枝や葉を消し炭にしながら黒装束の男へ殺到。
むろん彼は飛びすさるが、もとより1対多数。行動の選択肢を潰されやすい立場にある。
「回避などは委細承知!」
炎と共に走りより、一気に距離を詰めていた戦部は十文字槍を振りかざす。
「チッ」
朱色の柄で下腹部をしたたかに打ちすえられ、初めて声を漏らした黒装束の男。
だがその表情は顔の殆どを覆っているゆえ伺い知るコトはできない。

340 :永遠の扉:2007/01/07(日) 14:05:19 ID:VbgVq19L0
(行け! レイビーズ!)
犬笛噛みしめ人に聞こえざる音波を繰り出す犬飼。
彼の思うまま、2体の軍用犬が唸りを上げて殺到する。
「用いしは不可抗力ゆえ」
腹にめりこむ十文字槍に押されながらも辛うじて踏みとどまり、黒装束の男は低く呟いた。
「忍六具(シノビロクグ)の武装錬金・無銘が壱。編笠」
瞬間、戦部の顔面を驟雨のような光が爆砕し、迫りつつあるキラーレイビーズを襲った。
とっさに犬飼、レイビーズに回避行動を取らせ次なる行動に備える。
たたたっ! 半ば廃墟と化した拘置所に刺さったのは……無数の矢。
黒装束の男は構えていた。編み笠を取り、本来被るべき部分を前方に向けて。
どうやら矢はそこに仕込まれていたようだが、火渡にとってはどうでもいい。
「随分舐めたマネしてくれるじゃねェか!」
戦部の顔が吹き飛ばされた瞬間にはもう、激発寸前の形相で炎を放っていた。
もっともそれは戦部だけを空しく焼いたのみ。
黒装束の男はすでに樹上。網笠を被り、一座を冷然と観察している。
足場は細い枝だが、不思議と折れる気配がない。巨躯の彼が乗っているにも関わらず。
「忍六具(シノビロクグ)の武装錬金・無銘が弐。鉤縄」
袂にそれをするりと仕舞うと、彼は周囲の異変に気付いた。
「ハイ予想通り。ちなみにココに来なかったら下ろすつもりだったわよ」
樹上に充満していたのはバブルケイジ。面妖な顔の風船爆弾。
「これだけあれば終わり。さぁ、大戦士長の行方、キッチリ吐いてもらおうかしら」
(行け! キラーレイビーズ! 風船を叩き割れ!)
犬笛に合わせて犬の自動人形が樹上へと飛び、バブルケイジを叩き割る。
「アフン」と苦悶に顔を歪めて風船が破裂し、他の風船も巻き込んでいく。
1つの破裂につき15cmの身長が吹き飛ばされる風だ。
大量破裂で引き起こされた強風を浴びれば、抵抗不能な大きさまでに縮められるだろう。
だが黒装束の男は破裂の瞬間!
懐から紅色の何かを鋭く抜き打ち、風を打ち払った。
「忍六具(シノビロクグ)の武装錬金・無銘が参。三尺手拭」
50cmはある黒みがかった紅色の手拭。そして彼は元の身長のまま。

341 :永遠の扉:2007/01/07(日) 14:07:25 ID:ATITzwGu0
「ウソ」
円山が口の前でパーを作って唖然とする中、黒装束の男は指笛を吹きボソリと呟く。
「忍六具(シノビロクグ)の武装錬金・無銘が肆。忍犬」
影も見せぬ何かがレイビーズ2体の首を切断し、そのまま火渡へ特攻した。
「チッ」
火渡は火炎そのものに身を変えて攻撃をいなし、そして見た。
眼前に着地した子牛ほどある黒い犬を。正確には自動人形(オートマトン)を。
忍犬は低い唸り声を発すると、火渡に飛び掛る。
回避自体は火炎同化をなせば容易いが、攻撃に転じられない。
しかも忍犬は炎に溶けるコトなく延々と向かってくる。
「5対1でここまで粘るたぁな。あのクソルーキーよりは上か。だがブッ殺す!」
文章にすれば長いが、3秒にも満たない攻防だ。
炎を浴びていた戦部が再生を完了するまでの、短い時間。
彼の持つ十文字槍(クロススピアー)の武装錬金・激戦の特性は、創造者の高速自動修復。
先ほどの風で舞い落ちる木の葉の中、戦部は樹上に飛び掛る。
「忍六具(シノビロクグ)の武装錬金・無銘が伍。打竹」
それは本来火種を指す言葉ではあるが、彼の用いているのは実質的に火薬らしい。
細い竹筒がいくつも火を噴きながら、むき出しの筋骨隆々の上半身に炸裂する。
「フン。この程度の爆発など、横浜で戦ったホムンクルスには遠く及ばんッ!!」
事実、爆破された部分は瞬時に再生し、まるで足止めの用をなさない。
「おおおおおおおおッ!!!」
野太い咆哮を上げながら斬りつけたのは、黒装束の男が足場としていた細い枝。
流石に膂力あふるる一撃を受けてはひとたまりもなく崩れ落ち、敵はやむなく地上に降りた。
「まだまだァ!」
戦部が斬り込むたび森が震える。
先ほどの編笠の矢はもうないらしく、黒装束の男は防戦一方だ。
戦部は突き、薙ぎ、石突でゆるゆると牽制しつつ時には連続で突きを繰り出していく。
その野性味あふるる槍技に流石の黒装束の男も押され始め──…
やがて彼は、足をよろけさせた。
しかしそれは疲労と見るにはあまりに性急。かすかに覗く目元も病的に色が失せている。
「ようやく効いたようね」
円山は会心の笑みで毒島を見た。

342 :永遠の扉:2007/01/07(日) 14:09:18 ID:ATITzwGu0
「ハ、ハイ」
気恥ずかしそうにガスマスクの少女は答える。
武装錬金により気体の調合を得意とする彼女が。
「戦闘が始まってから一酸化炭素を敵のいるあたりに少しずつ撒いてましたので。しかし人間
ならとっくに致死量。まだ動ける彼はホムンクルスと考えるのが妥当かと」
「そして俺には一酸化炭素など効かん」
「全身修復が内部にも及んでいるから?」
「違うな。気合だ」
戦部は蒼ざめる敵の喉首に槍を突きつけた。
その間にも火渡と忍犬の戦いは続いているが、自動人形は使い手自身を倒せば止まる。
長引いたところで火炎同化で攻撃が当たらぬ火渡が負ける道理もないだろう。よって。
「勝負はついた。貴様が何者か吐いて──…」
「古人に云う」
すらりと口を開いた男に、火渡以外の注目が集まる。
敵の情報を得て任務を遂行するという意識より、たぶんに個人的好奇心の混じった視線が。
もともとこの場にいる戦士たちは『奇兵』と呼ばれる存在だ。
任務より自らの嗜好を優先する部分が往々にしてあり、それがここでも出た。
ただし黒装束の男の返答は……
あまりに馬鹿げていた。
職務意識も好奇心も満たさない物だった。
「『なーにもいえない。話しちゃいけーない。デビルマンがだーれなのか』」
「ハァ!?」
レイビーズの破損に顔を曇らせていた犬飼もスゴい声を上げる。
「…………」
黒装束の男は黙った。ひたすらに黙った。黙って黙ってタメてから。
「我が名は鳩尾無銘」
「結局名乗るんですか!?」
「姓はみぞおちと書いてきゅうびと云う。無銘は刀のそれ……」
「ホウ。懇切丁寧なホムンクルスもいたもんだ。ならついでに一つ聞かせてもらおうか」あ

343 :永遠の扉:2007/01/07(日) 14:11:22 ID:ATITzwGu0
「坂口照星をさらいし者のコトならば、我は仲間に非ず。むしろ敵対する立場。奴らを追いし内
になりしは戦う羽目。総ての行動は正当防衛」
(微妙に韻踏んでるけど、もしかしてラッパー志望かしら?)
ダンサー志望の円山は首を傾げた。
「そして」
「そして?」
「忍六具(シノビロクグ)の武装錬金・無銘が陸。薬」
無銘は顎をガチリと鳴らし、何かを飲み込む仕草をした。
どうも奥歯に何かを仕込んでいたらしい。
すわ、毒を呑んだかと戦部は疑ったがそうではない。
「回復完了」
言葉と同時に忍犬が無銘をかっさらい、風を食って森の奥へと消えた。
(そんな。一酸化炭素中毒を治す薬なんて聞いたコトは──… まとまった酸素を注入しな
限りすぐ動けないのに)
首を傾げつつも毒島は火渡に指示を仰ぐ。彼女はどこまでも火渡に従順なのだ。
「追いますか?」
「ブッ殺してやりてェが、どうせ追う相手が同じならその内出会うだろ」
「つまり奴を信じるという事か。まぁ、疑ってもキリはなかろう」
「のっけから下らない横槍が入ったが、行け!!」
円山はクスクス笑った。
「でもレイビーズの首、斬られちゃってるケド?」
「う、うるさい!」
犬飼は憮然とした顔で首を2つ拾い上げた。
「頭を斬られても歩くぐらいはできるんだよ!」
「まー確かにこの前は下半身を斬られても動けてたしねェ」
「そうだ! そして首の方は直るまで僕が持って追跡する!!」
「ほう。負け犬のクセにえらく強気じゃねェか」
火渡が面白そうに笑うと、犬飼は見えないように歯軋りした。
(うるさい! 負け犬扱いされる位なら死んだほうがマシだ!)
脳裏によぎるのは、かつて抹殺対象にしていたヴィクターIII──武藤カズキ──に図らずも
命を救われた屈辱の記憶。
(あんな下らない目にまた遇ってたまるか。大戦士長は必ず僕が見つけてやる!!)

344 :永遠の扉:2007/01/07(日) 14:13:41 ID:ATITzwGu0
そして犬飼の祖父は戦士長を務めていた。
探知犬(デイテクタードッグ)の武装錬金・バーバリアンハウンド。
錬金術の産物を嗅ぎ分けるそれで、犬飼老人は戦団に多大な貢献をしていた。
それを思えば、奇兵扱いでしかも敵から助けられた自分はどうだろう。
くわえ直した犬笛にヒビが入るくらい切歯して、犬飼は歩き出した。戦部も円山も。
後に残ったのは毒島と火渡のみ。
「ところで火渡様。脱走したムーンフェイスの追跡はいかがしますか」
「ああ?」
火渡は凄んだ。ムーンフェイスが嫌いなのだ。
何度か尋問を試みたが、ヘラリとした態度に受け流されたのでかなり嫌悪感がたまっている。
(ケッ。声を思い出すだけでも虫唾が走りやがる)
まったく火渡のようないかにも熱血漢という声の持ち主からすれば、太った中年女性のような
高いオクターブの声のムーンはいけすかない。でも毒島はなぜかムーンの声が好きだ。
「い、いえ、大戦士長をさらった敵と同行していればいいんですが、もし別行動なら」
「るせェな。分かってんだよその位。行くとすれば銀成市だ」
「狙いはやはり例の『もう1つの調整体』……ですか?」
「あぁ、それもあるがな」
「他にも何か」
火渡は舌打ちし、髪をかき乱した。
「おい。テメーはいますぐ足の速い戦士をピックアップして、その中で銀成市にいま一番近い奴
にさっさと連絡しろ。銀成市へ行け、脱走したムーンフェイスが向かってるかも知れねェってな」
「え?」
可愛い声を漏らしてきょどきょどする毒島をじれったそうに火渡は睨む。
「それから防人へ連絡だ。千歳が欲しがってた戦士を派遣してやるから、今いる奴のうち1名
はてめーの護衛に回しやがれってな。どうせアレだけ戦士を抱えてんだ、ちっとも才能のない
アイツに全員使いきれるワケがねぇ。ここだけは俺の指示におとなしく従えってんだ」
「た、確かにムーンフェイスを捕獲されたのは防人戦士長です。復讐のために狙われても不
思議はありませんし、いまの防人戦士長では以前のように戦えるかどうかも……でもどうして
私が? こんな重要なコトは火渡様が直接伝えられたほうが──…」
石がガスマスクに投げられた。
「きゃん!」

345 :永遠の扉:2007/01/07(日) 14:15:23 ID:ATITzwGu0
「黙れ。テメーはいわれたコトだけしっかり伝えてりゃいいんだよ。ミスったら
火渡は凄惨な笑みを浮かべた
「殺 す ぞ ?」
「ひぃい〜!」
ガスマスクの目のレンズに涙を滲ませて、毒島は慌てて条件に合う戦士へ電話した。
奇兵とはいうものの、即座にそれができるあたり秘書の才能がある。

採石場の少年は悩んでいた。
自分の武器についたホムンクルスの肉片や体液の扱いに。
人間ほど汁気はないが、そろそろ生臭さが気になる。
「……武装錬金の手入れとかどーすんだろ? ま、とりあえず任務終了っと」
所在なげに夜空を見上げた。
暮れはじめた空にかかっているのは爪のように細い三日月。
戦友であり恋敵でもある男。大事に思っている先輩が大事に想っている少年。
彼が10日ほど前に消えた場所だ。
「あのバカ。さっさと帰ってこいっての。先輩、体調を崩したりしてませんよね」
電車を使えば1時間ほどで駆けつけられるが、次の任務を待たねばならない身だから叶わない。
ただ、もし連絡が取れるなら。
(武装錬金の手入れの方法とかすっげェ聞きたい。そしたらきっと先輩は)

「手入れも何も、解除してまた発動すればキレイになるだろう」

などとぶっきらぼうな口調でいうのだ。
昔から見続けているので知っている。彼女はわりと喋り出しに力を入れるクセがあって、後は
反論を許さない厳しい口調でぴしゃりといってのけると。
でも質問にはわりと答えてくれる優しい部分もあるから、そのギャップがたまらない。
(やっぱり先輩はいいなぁ)
にへらと頬を歪めて夢想する。
その直後である。彼に電話がかかってきたのは。
一瞬びっくりしたが、しばらく黙った後にガッツポーズ。
「やった! 先輩とまた任務につける!」
彼は喜び勇んで疾走し、近場に置いてた荷物をひったくると駅へ急行した。

346 :スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2007/01/07(日) 14:16:43 ID:rQVQFDFS0
あわわ、今回でムーンその他を出してアイツらも銀成市へやりたかったのに。
てコトで次回こそ本当にキャラ打ち止め。

今回の内容には、1つだけ事実と違う記述が混じっています。
けれどそれは必要あっての間違いですので、気付かれてもそっとしておいて頂きたく……
本編で必ず訂正されます。致します。

ちなみに 火渡赤馬の声:関智一 ムーンフェイスの声:関智一 です。

>>243さん(とっかん、ですね。ふりがな忘れてたorz)
ヴィクトリアともう1名は今後の展開に不可欠なので、登場させたいま流動的に話を転がして
いけます。斗貴子さんの戦いは反射的に描けるので好きです。で、照星のさらわれる場面は
悩んだ末、今回は省略。描けばまたオリキャラを出さねばならず、必然的に視点がブレてしまうので。

>>244さん
小札だと前作で照星が負っていた変な役目を気兼ねなくやれるので、いいガス抜きになってますw
その照星の誘拐から銀成市サイドに微妙な影響を及ぼしつつ、今後の展開への布石としたく。
斗貴子さんや秋水、もう1人はともかく桜花だけは戦闘が難しそう。弓矢って応用力ないですよ和月先生。

>>245さん
ありがとうございます。ようやく構想をダイレクトに吐き出せるようになりつつあります。

銀杏丸さん
>Kazikli Bey
静かな出だしが徐々にうねりを帯びて激しい唱和と化し、一気に消滅する。まさに謳、詠、歌。
読んでてこう、音の奔流を感じたといいますか、淡々とした文章の中に感情の拍動があって
カッコいい。こういうキャラの描写も良いです。

あの時代、若者がみんな一生懸命で、青臭さが充満していた時期だと思いたいんですよ。
坂の上の雲では、戦艦の修理を予想より早く仕上げる修理工たちの意気にすごく感動しましたし。
で、そういう向上心を持つ人間達なら爆爵も嫌わないかな〜っと。それと照星の件、申し訳ありません。

347 :スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2007/01/07(日) 14:17:54 ID:xUJ98ghK0
さいさん
>WHEN THE MAN COMES AROUND
え、サ、サムナー!? あぁ……読み返してみると確かに協力者と口調が同じ。こうして情報を得るのですね。
ただ、アーマー市警の顛末を知ってたのは、また独自の方法がありそうですね。例のICは果たして。
てかこの人、誰に対しても性格悪っ! でも清濁併せ呑むという部分は好きです。
そこは火渡と通じそうで、潜入捜査のうまさは千歳が認めそうで、防人ともいずれ打ち解けそうで。
ただ彼らはあまりに若すぎ、団結もまだまだ甘い。だからこそどう立ち向かうか楽しみです。

ふら〜りさん
>修羅と鬼女の刻
タイトルにもある鬼女の登場ですね。和風の怪しい美少女は大好きです。
それに翻弄される純朴な青年というのもまた。ただ尊氏、絵巻のヒゲぼうぼうで再現されるの
が困りモノw 性格はめっちゃ少年漫画の主人公なんですが。むしろ正成がライバルっぽいかも。

未熟な部分の多い秋水に変化を及ぼすのが楽しいので、世界に起こる大きな出来事の中
であがいていくって感じで行こうかと。総角は割りと達観してるので、戦闘の「流れ」を作って
いくと思います。彼は彼でまた、動かしやすいポジションです。

348 :作者の都合により名無しです:2007/01/07(日) 15:21:43 ID:CieOFmXa0
>ハロイさん
意外と上層部に期待されてたレッド。この期待を己のエゴで裏切ってしまったんだな。
バイオレット姉さんとセピアの絡みとかが楽しみ。大人の女と少女のコンビはいい。

>スターダストさん
火渡対ムーンフェイスが近々見られるのかなあ?ブラボーでないと勝てなそうな感じだったけど。
いろんな錬金が出て、いよいよ決戦間近って感じですね。キャラ関係把握しっかりしなくちゃw


349 :作者の都合により名無しです:2007/01/07(日) 19:49:27 ID:KfI4KCML0
スターダストさん、ハロイさん、年末から驚異的なペースお疲れ様です。

>ヴィクティム・レッド
最初、ブラックとバイオレットと思ったらシルバーでしたか。
大物っぽい雰囲気だから、なんとなく間違えた。
シルバーってヘタレのイメージあるから、レッド以上に・・
バイオレットにお茶のシーンはよく似合いますね。優雅な感じだ

>永遠の扉
今回と次回で、作中のオールキャスト勢ぞろいかな?
可愛いまひろや小札、いい女の千歳や桜花やトキコさんと、
特に女性陣が豪華なSSですな。でも、火渡やムーンフェイスたちの
脇を占める戦闘キャラも豊富で、いよいよ物語の終盤へ突入かな?

350 :作者の都合により名無しです:2007/01/07(日) 22:28:47 ID:NRfyyG2J0
スターダストさん乙です。
更新回数と一回の投稿量、そして内容と手抜きなしで頭が下がるっす
忍六式って、氏のオリジナルですよね?
相変わらず豊富な知識だなあ。それがSSに生かされててうらやましい
大戦争らしいけど、いずれはまっぴーも戦場に関係するのかな?


サナダムシさんはそろそろかな?年明けまだきてないよね

351 :作者の都合により名無しです:2007/01/08(月) 22:09:16 ID:MyJHXfkU0
スターダストさんの作品は今が中盤あたりかな?
小札は結構死んじゃいそうな気もするw

352 :作者の都合により名無しです:2007/01/08(月) 22:43:35 ID:yDVv9vDK0
>>350
サナダさんは鬼更新してからパタッとしばらく来なくなるパターン
また新連載か、良短編か、やさぐれの続きで楽しませてくれるだろう

353 :作者の都合により名無しです:2007/01/09(火) 09:14:26 ID:2IxPSWHQ0
バレさん復活されたのかな?
サイトの最終更新日が「最終更新日19/1/9」になってたんだけど
内容はまだ未確認。
前回は11月9日だったから、本当に二ヶ月ぶりか。
復活だったらお帰りなさい!

354 :Der Freischuts〜狩人達の宴〜:2007/01/09(火) 11:09:10 ID:GPjbxt1d0
 非常階段内。人の住む空間から隔絶されたそこは、不思議な静謐さを纏う場所
だ。本来の用途に使われるまで、そこは独特の冷気と雰囲気を保ち続ける。
 唐突に――そして静かに、沈黙が破られた。階下から木霊する音。それは遠く
から徐々に、徐々に迫ってきた。
 人が駆け上がる足音だった。一定のリズムで刻まれるそれは、防音が完璧な壁
から外に漏れることはなかったが、階段内に響き渡り、静寂を払拭していった。 
 そして――見える姿。がむしゃらに振られる腕/額から吹き出る汗/ぜはーぜは
ーという呼吸/黒いコート――シグバール。軽やかには見えなかった。疲労困憊、
その言葉が適切だろう。部屋から飛び出し、今の今まで、非常階段を上ってきた
のだろう。全力で。
 走る。走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る。
 頂上へ向かって。
 このビルの最上階を目指して。
 いったいどこまで続いてるんだ、このクソッたれな階段は。かれこれ、部屋を
飛び出してから、十分はたったか。ただでさえ体力が消耗しているというのに、
一面コンクリートの代わり映えの無い景色が、精神を磨耗させていく。
 そろそろ足を休めるか。――そう思ったところで、目当てのものが現れ始めた
。重々しい鉄の扉。階段はその扉の前で途切れている。おそらく、向こう側には
屋上の景色が広がっているだろう。
 俄然やる気が出た。今までの疲労はどこへ行ったのやら。シグバールは尋常で
は無い速度で階段を駆け抜け「どりゃあぁぁぁぁ!!」扉を蹴破った。
 広がる視界。だだっ広いだけで、そこには何も無かった。強風でがたがたとフ
ェンスが鳴る。高所の刺すような冷気がほてった肌に心地よい。そして時間が時
間なら、突き抜けるような青空を楽しむことも出来ただろう。が、今は夜の帳が
下りている。深呼吸を繰り返した。心臓は徐々に静まり、普段のリズムを刻み始
めていた。呼吸が整い、額の汗をハンカチで拭いたところで一言――「階段で最
上階まで上るもんじゃねぇな」

355 :Der Freischuts〜狩人達の宴〜:2007/01/09(火) 11:10:11 ID:GPjbxt1d0
「さて、売られた喧嘩は買わなきゃならん。が」
 シグバールは嘆息した。何で俺が、こんな苦労をしなきゃならんのだ――何が
簡単な任務だ、ゼムナスめ。貸しは高くつくからな。憶えておけ。
 
 ノーバディの居城――通常空間と虚数空間の狭間にある、本来は存在しない世
界。そこで、シグバールは命令を受けた。白亜の大きい大きい椅子が立ち並ぶ部
屋の中で。ゼムナスという男に。ゼムナス。]V機関のリーダーであり、ノーバ
ディの指導者であり、シグバールが最強と信じる男。
 強い男だった。力だけではなく、その精神も。本来統制のなかったノーバディ
たちを纏め上げ、強靭な組織を作り上げることが出来たのも、全てゼムナスの手
腕があったからこそだ。
 ゼムナスとシグバールは旧知だった。共に賢者の下で真理へ至る道を探してい
た。だが、紆余曲折あり、その二人を含む賢者の弟子の六人はノーバディとなり
、賢者の下を去った。]V機関設立より以前に知り合った仲――だから彼のゼム
ナスへの態度は、どのノーバディよりもくだけていた。やれ任務がきついだの、
予算を増やせだの、他メンバーが言いにくい事柄をすんなりと言える間柄。だが
一方で、シグバールは誰よりもゼムナスの隠された意図を読み取る。誰もが首を
かしげる命令に、何の疑問も出さずに従い、予想以上の成果を示してくる。それ
が、どんなに汚い仕事でも。 互いのことを深く知っていなければ出来ないこと
だ。それは互いに相手を認め合っていることの証左。余人には計り知れない信頼
の形。

356 :Der Freischuts〜狩人達の宴〜:2007/01/09(火) 11:10:56 ID:GPjbxt1d0
シグバールは別の世界から任務を終え帰還してからすぐに、ゼムナスから指令
を受けた。当然ごねた。一仕事終えたと思えば、また任務。体の疲労は問題ない
。が、ここでこの任務を簡単に承諾すれば、次々と別の任務がシグバールの元へ
やってくるに違いない。もちろん命令は受けるが、自分は便利屋ではない。
 ――だがしかし、断る気もさらさらなかった。]V機関は慢性的な人手不足に
陥っていた。これはノーバディの原型となる強い心の持ち主≠フ基準を満たす
者が少ないことに起因していた。自然、ただの心から生まれるハートレスとノー
バディの間には絶対的な数の格差が生まれている。 その上、単独行動が可能な
上級ノーバディが十指にも満たないことも、ナンバーを冠する]V機関員に負担
を強いている要因だった。
 だから、最古参の自分が、仲間の負担を和らげてやらねばならない。ゼムナス
もそう自分が考えていると見抜いたからこそ、この任務を任せたのだ。ゼムナス
が言うには、これは簡単な任務だという。事実、話に聞く限りでは楽な部類のよ
うだ。激務の続くシグバールに配慮したのだろう。

 ひとしきり愚痴をこぼした後、シグバールは新たな世界に旅立った。
 そして、現在に至る。

357 :Der Freischuts〜狩人達の宴〜:2007/01/09(火) 11:11:41 ID:GPjbxt1d0
 シグバールにはリップヴァーンの位置は分からない。これは決定的な差で
ある。対策の立てようが無い。反撃のしようが無い、逃亡もままなら無い。
が、まるきり手も足も出せない、ということでも無い。方法はあった。リッ
プヴァーンを見つけ出す方法は。
 グールには心が無い。吸血鬼に噛まれた時点で、魂と共に心は別次元――
世界の中心/王国の心/キングダムハーツへとシフトされる。だからグールの
海であるこの一帯には、心は存在しない。――たった一つを除いて。
 吸血鬼禍が起こるところには、確実にその元凶がいる。歪んではいるが、
心を持っているもの――吸血鬼。実際には、吸血鬼の心は人間が吸血鬼にな
る際に生じる高度な複合呪詛――吸血鬼を吸血鬼たらしめる強力な『呪い』
――が、脳に残留するデータをサルベージし、屍体を効率よく動かすため
に再構成したまがいものだった。が、その高度な再現度から、それはほとん
ど心といって差し支えない。

 だから吸血鬼は十分に心を持っている、と言える。
 やりようはある。どこから狙ってきているのか、その居場所を突き止める
ことができるのだ――その心を使って。

 宵闇の彼方から、羽音が聞こえる。歪んだ陰影を描く不気味な翼を背に持
ち、ねじくれてはいるが不思議な均衡を保った身体の悪魔が数体現れる。彼
らは耳障りな羽音以外には一言も言葉を発さず、その寡黙さを維持しながら
シグバールの周辺に着地した。避雷針、フェンスの上、または床の上に。
 それらは]V機関に使役されるハートレス達だった。シグバールが事前に
用意していた手駒達。ないよりはマシ≠ニいう軽い気持ちでつれてきたが、
思わぬところで役に立ってくれそうだ。


358 :Der Freischuts〜狩人達の宴〜:2007/01/09(火) 11:12:39 ID:GPjbxt1d0
「おまえら、仕事だ。なぁに緊張すんな、簡単なことさ。お前達がいつもや
ってること、心を持ってる奴をを探し出してそいつのいるところに向かうこ
と、ってハナシ。抵抗すんなよ、お前らじゃ相手になんねぇからな」

 一応注意しておくが、知能を持たないハートレスに何を言っても無駄だろう。
本能的に心を追い求めるこいつらに、我慢の二文字は無い。だが、要は標的を
発見できればいいのだ。そのためにはハートレスが何体犠牲になってもかまわ
ない。

「見つけたらすぐに、俺に教えろよ。――んじゃ、いけ」
 
 一斉に飛び立つ悪鬼の群れ。それらは甘い蜜/心に誘われ、心を持つもの/狙
撃手の下にたどり着くだろう。
 標的の位置――それが分かれば後は単純だ。
 狙いを絞ってトリガーを引く。それだけだ。


359 :Der Freischuts〜狩人達の宴〜:2007/01/09(火) 11:17:24 ID:c+FPwigjO
 リップヴァーンは吸血鬼になってからも、マスケット銃を手放
しはしなかった。大抵、吸血鬼に転化したものは銃を好まない。
銃に頼っていては、その異常なる力――吸血鬼の力を、思う存分
楽しめないからだ。自分の腕で骨を砕き肉をすり潰し全身を血で
染め上げる。全ての吸血鬼はその衝動を抱えている。生まれたも
った異能を行使したいという欲望――それが吸血鬼の強みでもあ
ったし、弱点でもあった。
 
 だがリップヴァーンは銃を捨てなかった。理由は単純だ。
彼女の異能が、銃を媒介としたものであるが故に。魔弾。その力
は幾多の吸血鬼――エルダーさえも上回る。丸腰の吸血鬼はもち
ろん、近代兵器で身を固めた吸血鬼でさえも問題にならない。

 その力を、わざわざ捨てるなどと、考えられなかった。
 そしてその力で殺戮を行えなくなるのもまた、リップヴァーン
には考えられなかった。

 吸血鬼になってから、リップヴァーンは新しい悦びに目覚めた。
 マスケット銃を構え、自分の目で遠くの獲物を撃ち抜く――その瞬間
、途方も無い興奮が襲う。始めはさざなみに過ぎない。だが――獲物
を見つめ、それがどんな人生を送ってきたのかを想像し、どんな喜び
や、悲しみがあったのだろうかと考え――その人生を自分が刈り取る
のかと夢想するだけで――波は大きくなり、意識は大海へと連れ去られ、
気づいた瞬間には引き金を引いている。その夢遊が、彼女にとって変え
難い快楽となるのだ。

 リップヴァーンは、自分を制御すると同時に、その快感を味わっていた。
 彼女は、速く引き金を引きたかった。



360 :ハシ ◆jOSYDLFQQE :2007/01/09(火) 11:22:19 ID:c+FPwigjO
あけましておめでとうございます。今年もよろしくおねがいします。
私の正月は何かしよう何かしようと思いながら結局思っていただけという
最悪の結末を迎えました、まる
【駄目人間】
前スレより
>>435さん
リップもえらい押してましたが、ここからはそうはいきませんよ。これから
シグの反撃が始まります。
>今度はもう少し感覚をつめてね。 
orz

>>444
>原作は知らないけど
狂気もまた醍醐味ですが、熱い男が好きならば是非。ペンウッド卿とかベル
ナドット隊長とか、最近では人間だった頃の旦那とかアイランズ卿とか。
>リップバーンの無敵さが気に入っています
ごめんなさい、ここからは原作の泣き虫モード全開で劣勢に回ると思います。

>>446
>テンプレを担当している者としてちょっと心配
すいませんでした。速く書けるようになりたいんですが……
>きっとネタを仕組まれて
私は常にネタ切れです(何

>>ふら〜りさん
新連載おめでとうございます! 修羅の刻は未読ですが、ふら〜りさんの
筆力で読むスピードが進む進む。未読の人にもおもしろいと感じ
させるのは、やっぱスゲーです。


361 :ハシ ◆jOSYDLFQQE :2007/01/09(火) 11:23:51 ID:c+FPwigjO
>>21
二人の意識は既に消失し、その魂はどこかへとシフトしていった。
それが天国なのか、地獄なのか、それとも他のどこかなのか、誰にもわからない。
ただ、そこにはどこまでも広がる青空があった。
今の二人は、この上なく自由だった。

>>銀杏丸さん
人に背かれ神に背かれ楽園は降りず、すべてを失った。
それでも諦めを踏破する旦那は、ああ、やっぱり人間なんだな、って思います。
ただ、その諦めを踏破した先に待つのが、自らの終焉ってのが、
んー、ぐむー。救われない。戦いではいつも無防備に敵の弾丸を受けるのは少
しでも破滅に近づくため? とかなんとか思ったり。
こういう、キャラの深いところまで考えさせてくれるSSはとても好きです。
GJです。

>>さいさん
テロリスト、ヴァチカン、戦団、それぞれの思惑が渦巻く中でサムナー戦士長の
存在は厄介なものになりそうですね。神父と交戦してる時に、後ろから「死ねぇ!」

なんてされたら……ただでさえ神父の相手で大変なのに。
後、もしかしてブリギットはあのトンでも義手の持ち主で、二重人格の殺し屋に
ナイフのとってもエグイ一撃を食らった某鰤ですか……?

362 :作者の都合により名無しです:2007/01/09(火) 12:26:08 ID:2IxPSWHQ0
ハシさんお疲れ様です
シグバールの疾走からはじまって、リップバーンの快感を制御する姿。
相変わらず登場キャラの一人一人がかっこいいですね。
原作もやっぱりかっこいいのかな?一度読んでみます。
ご自分のペースで良いんで、一月に一度くらいはお願いします。

363 :作者の都合により名無しです:2007/01/09(火) 19:08:50 ID:0lQeZKkI0
ハシさんもバレさんも復活したみたいでめでたい!

364 :修羅と鬼女の刻:2007/01/09(火) 19:11:10 ID:hvEWysvW0
>>309
時の帝・後醍醐天皇は倒幕を企て、兵を率いて幕府に反旗を翻した。幕府は直ちに
軍を差し向けてこれを討伐せんとする。天皇は京都の南端に位置する笠置山中、
笠置寺に陣を張った。天皇の実子にして、かねてより僧兵として修行を積んでいた
護良親王(もりよししんのう)も比叡山の僧兵たちを率いて、背後から天皇を援護。
そして楠木正成も赤坂城に手勢を集結させ、幕府軍を迎え撃った。総勢五百人の
河内悪党が籠もる赤坂城を取り囲む幕府軍は、一万なのか二万なのかそれ以上か。
圧倒的多数、どころか絶望的多数の敵軍だが、正成は奇策の数々で健闘、むしろ
優勢に戦いを進めていた。

赤坂城は正成が急ごしらえで造った城、というか砦なので、小さなものである。鉤縄を
投げて城壁に引っ掛けて、簡単に登っていける。そのはずなのだ。普通は。が、
「……ん?」
縄を掴み、城壁を登っていこうとした幕府軍の武士たちが、ふと手を止めた。城内から、
弓矢ならぬ長〜いひしゃくが突き出されたのだ。
何だ? と思って見ていたら、そのひしゃくが振り回されて、
「熱ちちちちぃぃっ! お、おのれ、卑怯者どもめっ! 正々堂々と……ぐ熱いっっ!」
「くそ、負けるか! やあやあ我こそは……ぅあダメだ、あち、あち、あち、あちっ!」
熱湯がブチまけられた。矢なら盾や鎧で防げるが、熱い湯となるとどうにもならない。
盾を伝い、鎧の隙間に流れ込み、肌に直接火傷を負わせる。防ぎようないのだ。
蟻のように城壁に取り付いていた武士たちが、悲鳴を上げて転げ落ちて逃げていく。
そして逃げていくのを確認した上で、その背に向かって一斉に矢が射かけられた。
無論無防備、防御も回避もなく全部命中、武士たちは虫ケラのように射殺される。
武士たちにもメンツがあるので、河内悪党如きチンピラ風情を相手に全軍撤退など
許されない。結果として、似たような虐殺劇が何日も続くこととなった。

365 :修羅と鬼女の刻:2007/01/09(火) 19:11:53 ID:hvEWysvW0
「お〜お〜。今日も今日とてさすがだね、お兄さん」
城壁の上に立って、陸奥大和は感嘆し拍手した。今日もまた幕府軍の武士たちが、
何百という単位で射殺されている。万を余裕で越える敵軍を相手に、当方は僅か
五百なのに全員無傷、敵の損害はもう数千に達している。大勝もいいとこである。
護良親王とやらも頑張ってるらしいし、これなら完全勝利の日も遠くはないだろう。
「あはは。案外ちょろいもんだね、倒幕なんて。動乱の時代をあっという間に
駆け抜けて、新時代の到来か。日本の夜明けってやつ? まぁオレとしては、また
お兄さんとやれればそれでいいんだけど……って」
いつもながらニコニコしてた大和が、ふと気付いて口を止めた。隣にいる正成の
表情が、妙に沈んでいる。
「どしたの、お兄さん。大勝利なのに。あ、それにも飽きたとか」
「誰がだ。戦に飽きることなどあるものか。今俺が考えていたのは、我が軍のことだ」
言いながら正成が、城内に目を移す。ここから見下ろすと、今日の後始末と明日の
準備をしている皆の様子がよく見える。湯を大釜で沸かし、矢を作り、弓の手入れをし、
いつも通りだが……心なしか、元気がない。
「確かに、毎日大勝だ。だがそれでも、相手は全員が戦の専門家、武士たち。対して
こちらは、少々盗賊団の真似事をさせたとはいえ、百姓や木こりや猟師の寄せ集めに
過ぎん。ちょっとやそっと勝ったところで、恐怖心が拭いきれるものではない」
「あ、なるほど。しかも状況的には大軍に囲まれた小勢だしね。怖いか、普通は」
「当然だ。あまり長くこのままだと、攻防で勝っても他のことで負ける。皆の精神状態を
何とかせねば、死者なし兵糧あり一方的大勝、にも関わらず城が落ちかねん」
「……ふむ」
ほりほりと頭を掻きながら、大和はちょっと考えた。
「んじゃ、今夜はみんなで宴会しようよ。オレ、とっておきの芸を披露するからさ」
「宴会を? それで皆の鋭気を養おうというのか」
「そういうこと。ダメかな?」
「いや、ダメということはない。それはそれでいい考えだと思うが」
「じゃあそれでいこっ。期待しててくれよ、オレの芸」
大和はいつものニコニコ顔で、自信ありげにそう言った。

366 :修羅と鬼女の刻:2007/01/09(火) 19:12:48 ID:hvEWysvW0
その日の夜。僅かな見張りを残して、赤坂城内の広場で大宴会が催された。
殺伐とした殺し合い(実質的には一方的虐殺だが)の日々に疲れきっていた河内悪党
の面々は、久々の酒と粗末ながらも宴会用の料理に、少しずつ元気を取り戻していく。
そして宴もたけなわになった頃、大和が登場した。ほっかむりをして、おどけた化粧を
して、両手に一本ずつ鍬を持って。器用にその二本を操って、滑稽な踊りを始める。
「♪犬が西向きゃ尾は東、オイラが笑うと星が散る、っとくらぁ♪」
皆が笑いながら見ていると、事前に打ち合わせしてあったのであろう、宴席の中から
二本の鍬が投げられた。大和は最初に持っていた二本を高く投げ上げて、その二本を
受け取った。やがてその二本を投げ上げて入れ替わりに落ちてきた二本を取り、で踊る。
「これは……」
「ほう……」
笑っていた皆の口から、溜息が漏れ出した。大和は四本の鍬を絶え間なく、まるで
お手玉のようにくるくると投げ回して、それでいて踊りの方も全く淀みなく続けていく。
片手逆立ちの姿勢から高く跳び上がったり、宙で両脚を振り回しつつ身軽に前転したり。
でも鍬は落とさない。
「♪天下の国々栄えあれ〜クルリと回ればクルリと回れば、世は変わる〜っと♪」
ぱしっ、と最後に二本ずつの鍬を両手で受け止め、踊りは終わった。
飲み食いを中断して見入っていた皆が、一斉に歓声を上げて拍手する。正成さえ
心から感心して、惜しみなく手を叩いていた。
その隣の席へ、皆からぱしぱし叩かれながら、ほっかむりの大和がやってくる。
「どもども、どもども。どうだった、お兄さん?」
「どうもこうもない。お前は武術のみならず、宴会芸に於いても人の域を越えているな」
「あはは、そりゃどうも」
ほりほりと頭を掻く大和、嬉しそう。
「オレはご先祖様とは違って馬鹿だからさ、こんなことぐらいしかできなくて」
「そう言えばお前の一族……陸奥圓明流といえば、源平合戦の折にもかの九郎判官
義経殿を助け、並々ならぬ武功を挙げたと伝えられているが。真のことか?」
「らしいけどね。でもオレはオレ、オレにできることをやるだけさ。だから後編も頑張るよ」
「後編? 何だそれは。今の踊りに続きがあるのか?」
と正成は尋ねるが、大和はニコニコするばかり。
「あはは。ま、楽しみにしてて。明日になりゃわかるからさ。兵法とか軍略とか、
そういうのを全然知らない馬鹿には、馬鹿なりのやり方があるってこと」

367 :ふら〜り ◆XAn/bXcHNs :2007/01/09(火) 19:13:47 ID:hvEWysvW0
今は天国におられる本物の楠木正成様、ごめんなさい。貴方が鎌倉幕府軍に対し、
心身両面で大っっ打撃を与えた「アレ」、次回大和にやらせます。何卒お許しを。

>>NBさん
肉体的苦痛と精神的悲痛の緻密な描写、敵キャラの非道さ、主人公サイドの優しさと
決意……いつもながら感服してます。イヴが延々と苦しんでいたから、最後のスヴェンに
救われた気分ですが、でもそれは読者のみ。イヴ自身がそうなってくれる日が待ち遠しい。

>>ハロイさん
手の内で転がされてる印象はあれど、早々と組織からのお墨付きを貰ったみたいですね、
お似合いのコンビ。今のところはまぁ順風な二人ですが、さて次に来るのは任務上の強敵
か、三角関係を作る新参者か、それとも命令で別チームを組まされるか。いろいろありそう。

>>スターダストさん
二回ほど続いてた華やかギャルゲ風味から一転しましたな。本作のバトルは高速攻防の
中で互いに罠を仕掛けあってるのが面白い。敵を知り己を知れば……で、敵の能力を
知らないと割とあっさり逃げられたり。でも自分の能力を使いこなせば追い込める、と。

>>ハシさん
巻き起こされた壮大な惨劇といい、ここまでに魅せた高い戦闘能力といい、そして今回
披露したアブない嗜好といい。いろんな意味で強烈な悪役っぷりを発揮してるリップが、
>泣き虫モード全開
ですと? それはまた随分なモード変換。ちょいとS的な意味で楽しみです、泣き虫モード。


368 :ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/01/09(火) 19:20:00 ID:qNUA3YOQO
アク禁の余波を食らい、書き込めませんですorz
http://up2.viploader.net/mini/src/viploader99395.txt.html
ここにうpしましたので、暇で暇でしょうがない人がいたらコピペお願いしたいです。

369 :ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/01/09(火) 20:29:08 ID:qNUA3YOQO
よし、これを機に、書きたいと思いつつも尻込みしてた他の方への感想を書きます。
感想下手なので見当違いのこと書くかも知れませんが許してください。

>>NB氏
黒猫のイヴが主人公なんですね。つーか兵隊ヒドスww
読んでると胸が苦しくなるほど真に迫った筆力には憧れます。
そしてその非道に立ち上がる凛々しいイヴの姿がもう。
こういう展開大好物です。
イヴに恐怖する鬱展開かと思えば、最後に残された救いも読後感の良さを増してます。すごいす。

>>スターダスト氏
秋水燃えの俺としては堪えられない逸品です。
また毒島萌えでもあるので、彼女の活躍は嬉しいかぎりです。
あとちりばめられたギャグがいちいちツボです。デビルマンとかリアルで噴きました。

>>ハシ氏
ヘルシングは好きですがKH2は未プレイです。
が、それはそれで新鮮な気持ちでキャラに没入できます。
リップバーンの今後が激しく気になります。原作だとエロ可哀相な子だからw
言葉のセンスが切れ味良すぎで妬ましいです。

>>ふら〜り氏
陸奥vs範馬キター!
国家や歴史のダイナミズムが個人の闘争に集約される点で、両作品とも大好きです。
そして独特に味付けされた大和や勇といったキャラがとても魅せます。
丹念な描写は読みやすく、物ぐさな俺としては頭の下がる思いです。その文才を分けて下さい。



と、まあ最終レスに近い辺りから感想書いてみました。
本当は全部に書きたいんですが、携帯からだと辛いのでこの辺で。

370 :作者の都合により名無しです:2007/01/09(火) 20:40:54 ID:zWKisjJV0
テス

371 :ヴィクティム・レッド:2007/01/09(火) 20:41:48 ID:zWKisjJV0
 ばしっ、と平手が頬を叩く音が、実験室に響いた。
「この出来損ないが! こんな簡単なテストもクリアできないのか?」
 叩かれた少年は腫れた顔を片手で抑え、眼前に立つ研究員を睨んでいた。
「なんだ、その目は!」
「……なら、お前がやれよ。簡単なテストなんだろ」
 そう言うと、研究員はさらに激昂して少年を殴る。
「モルモットが口答えをするな! 私を馬鹿にしているのか!?」
 今度は平手ではなく拳だった。少年の唇が裂け、一筋の血が流れる。
「まったく……同じ兄妹でも妹は偉い違いだな。やはりクズはクズか」
 研究員は忌々しげに吐き捨てると、白衣の襟を正して威厳を整え、少年を省みることなく実験室を出て行った。
「ぐ、ぐうう……」
 一人残された少年の瞳から涙が溢れ、それは顎を伝って床にぽたぽた落ちる。
「殺してやる……いつかみんな殺してやる……!」
 長く伸ばされた金髪をぐしゃぐしゃと掻き毟りながら、少年はいつまでも熱い涙を流していた。

「さて、キース・レッドよ。検査の結果が出たぞ。お前のARMSナノマシン分布域は──」
「なあ、ドクター・ティリングハースト。そーゆー些細な話は後で聞くからよ、要点だけ教えてくれ」
 遮るように手をひらひら振るレッドに、ドクターは眉をひそめた。
「些細? これが些細な話かね? では聞こう。お前にとっての要点とはなんだ?」
「オレの『グリフォン』はいつになったら最終形態になるんだ?」
「……やれやれ。キースどもはそういうことしか頭にないのかね?
いいか、レッド。『グリフォン』は急速に成長しておる。お前の望むように最終形態を発現させる日も遠くないじゃろう。
 だがな、その急成長に肉体が追いついておらんのじゃ。お前の身体はARMSに蝕まれている、という表現もできる。
 命を削ってまで力を手に入れたいのかね? 飽くなき戦闘の果てに、お前はなにを見ているのだ?」
「んなこた知ったこっちゃねーよ。オレは『使えるやつ』だってことを他のやつらに見せつけ続けなきゃいけねーんだ。
 そして、オレがたった一人の、誰にも代わりができないキース・レッドだってことを教えてやるんだよ」
「愚かじゃの、レッド。己の価値を求める一方で、その価値を自ら減じておる。これほど不毛なことはないぞ」
 ドクターは首を振り、レッドの肩に手を置いた。それはどこか手馴れた仕草だった。
まるで以前にも、こうして誰かの勝気を諌めたことのあるような、それはそういう仕草だった。

372 :ヴィクティム・レッド:2007/01/09(火) 20:42:42 ID:zWKisjJV0
「ちっ。説教かよ。たまんねえよな」
 レッドは苛立たしげにドクターの手を振り払う。ドクターはそんなことは気にする素振りもなく、じっとレッドの瞳を覗き込んでいた。
 その心を見透かすような視線に苦々しく顔をしかめていたレッドは、ふと、
「……あー、ドクター。あのよ──」
「レッドー! お話終わった?」
 いきなり医務室に飛び込んできたセピアに背中からタックルをかまされ、レッドは言いかけていた言葉を飲み込んだ。
「痛えな、なにしやがる!」
 レッドの抗議を無視し、セピアはドクターに手を挙げて挨拶をした。
「ハロー、ドクター。ご機嫌いかがですか?」
「ああ、見ての通りじゃよ。身体の調子はどうかね?」
「はい、元気です。お薬が良く効いているみたいです。それにわたしのナナノノちゃんも頑張ってるみたいで」
「ナナノノ?」
 レッドがその疑問符を投げかけると、セピアは首だけこちらへ向けて答えた。
「ナノマシンよう」
「馬鹿じゃねーのか、あんた」
「ふ、女の子らしいではないか。お前もあまり無理をしてはいけないぞ、セピア」
「それはレッドに言ってくださいよ。わたしの上官なんですから。ね?」
 どこかいたずらっぽい声音で告げるセピアへ、ドクターは真面目くさって頷く。
「なるほど。理に適っておる」
「おいおい、ドクター。こいつのたわごとを──」
「レッド。お前に与えられた任務のことは耳にしておるぞ。お前にはセピアの体調を管理する義務がある。そうだな」
 その言い方は卑怯だ、と思ったが、なにも言い返せなった。代わりに、最近ではすっかり馴染んだ台詞を口の端に乗せる。
「勘弁してくれよ……」
 それからさらにあーでもないこーでもないと益体もない話を絶え間なくしゃべっていたセピアは、話の最後に、
この医療セクションを探検してくる、と言い残して慌しく医務室から出て行った。
 嵐の過ぎ去った部屋の中で、レッドは半ば脱力したように天井を見上げていた。

373 :ヴィクティム・レッド:2007/01/09(火) 20:43:23 ID:zWKisjJV0
 どうも自分とセピアの間には埋めがたい溝がある気がしてならない。
 それは別にいい。その程度の溝なんて自分の人生には幾らでもある。
 ありすぎてまともに歩けないような現状、今さらその溝が一つ増えたところでどうと言うこともない。
 ただ、不可解なのは、セピアのほうはそうした認識に乏しいのか、やたらと無防備に接近してくることである。
 バイオレットは彼女を「警戒心が強い」と評していたが、それは間違いなんじゃないか、と思う。
「それで、なんの話だね?」
 レッドのあまり生産的でない思考は、ドクター・ティングハーストの声で破られた。
「……なにがだよ」
 ドクターはカルテになにかを書き込みながら、目を上げずに重ねて問う。
「先ほど、なにかを言いかけたな?」
「あ、ああ──なにを言うつもりだったかとっくに忘れちまったよ」
 肩をすくめかけたレッドは、思い出したように身を乗り出した。
「いや待て。それとは別の話だが……セピアをなんとかしてくれ」
「なんとか? なんとかとはどういうことだね、レッド」
「あいつ、オレのアパートメントに本格的に定住するつもりだ。
日に日に訳のわからん小物や衣服が増えていっている。昨日は得体の知れない料理を食べさせられた」
「ふん、お前にとって良い傾向だと思うがね。キースシリーズは総じて他者とのコミュニケーション能力に欠けるきらいがある。
その中で、セピアのように他人を思いやれる才能は稀だ。お前が彼女から学ぶことはなにもないのか?」
「……は、馬鹿言ってんじゃねーよ。あいつが人の気持ちを思いやれるって?
 オレの意思を無視して私生活を踏みにじってるのはどこのどいつだよ」
 ドクターは書く手を止め、レッドを見た。まるで本当に分かっていないのか、とでも問いたげに。
 そして、およそ関係のないことを話題に上らせた。
「セピアのARMS『モックタートル』について、お前はどれほど把握している?」
「あ? ああ……皮膚に分布するナノマシンによる超感覚と、体表面から発する微弱な生体パルスを併用したアクティブサーチ、
それから『ニーベンルンゲの指輪』──他者のARMS能力を強化させる、いわばアクセラレイターARMS、だろ」
「なるほど。だが、それは正答ではない。それだけでは答の半分ほどにしか到達しておらん」
「なんだと? なら百パーセントの答ってのは、なんだよ」

374 :ヴィクティム・レッド:2007/01/09(火) 20:44:01 ID:zWKisjJV0
「それは──」
 ドクターが言いかけたその時、医務室のドアが激しい勢いで開け放たれた。
「ドクター・ティリングハースト! 大変です!」
 レッドの顔が露骨に不機嫌になる。
 困惑と苛立ちの混じったなんとも言い難いその表情をレッドに作らせる相手など、そうはいない──セピアであった。
「迷子を見つけました!」
 なぜか嬉しそうに顔を紅潮させるセピアは、彼女よりもさらに幼い少女と手をつないでいた。
 透き通るようなブロンドを長く伸ばし、子供らしい麻葱色の衣装に身を包んだその少女は、愛くるしい顔を曇らせてセピアに寄り添っていた。
「ほう……」
 ドクターが感心したようにつぶやく。レッドはなんとはなしにその少女を観察してみた。
 利発そうな顔立ちだが、なにかに怯えているようにその視線は足元に固定されていた。
 なにをそんなに怖がっているのか、と不審に感じるくらいの落ち着きのなさである。
 レッドにとっては、数多ある嫌いなものの内の一つに入る、そういう態度の持ち主であった。
(なんだ、この根性無さそうなガキは)
 すると、少女はさらに身を縮こませてセピアの影に隠れるようにする。
「もー、ダメだよレッド。この子を怖がらせたら」
「オレはなにもしてねえし、なにも言ってねーよ」
 しかしまあ、少女に対して抱いていた悪感情が雰囲気として漏れていたのかもしれない。
 こんな子供相手に苛立つのも自分の余裕の無さを示すようで嫌なので、レッドは努めて気持ちを和らげようとした。
 そうしたレッドの努力の成果か、少女はおずおずとセピアから離れ、レッドやドクターを含めた医務室の中を見渡した。
「さ、もう大丈夫よ。こっちの目つきの悪いお兄ちゃん、見た目ほど怖い人じゃないからね」
「うん──」
「で、どうしたんだ、それ」
 レッドが少女を顎で示すと、
「だから迷子だってば」
「そもそも、なんでこんなガキがこんなところにいるんだよ」
 その疑問にはドクターが答えた。
「なに、驚くには及ばないだろう。エグリゴリの研究対象にはこうした子供も多く含まれておる。
 お前たちのようなARMS適性者や、チャペルの子供達、それにこの子のような遺伝子強化者。
 ……ふん、ぞっとしない話じゃの」

375 :ヴィクティム・レッド:2007/01/09(火) 20:59:46 ID:zWKisjJV0
「あの、わたし、お薬、もらいにきたんです。……わたしのじゃなくて、兄さんのお薬、です」
 それははっきりとした声だった。とても綺麗に澄み切った、天使の歌声のようなソプラノだった。
 その細い顔からこうも華やかな声がでるんだな、とレッドは少し感心した。
「兄さん、最近、お熱が続くみたいで」
「それならお前たちの主治医に頼んだほうが良かろう。なぜそうしないんだね?」
 少女は言いよどみ、それでも誰かに聞いてほしかったのか、言葉少なに語った。
「……周りの大人の人たち、兄さんに冷たくて。兄さんのことを役立たずとか不良品とか、そう思ってるんです。
みんな、わたしには優しいのに、でも兄さんにだけ辛く当たってて……熱が下がらなくて兄さんとても苦しそうなのに、
……う、うう……ぐすっ」
 次第に声の湿り始めた少女を、慌ててセピアが慰める。
「そんな悲しい顔しないで。天使みたいなお顔が台無しよ。ね?
 事情はなんか良く分からないけど、そのうちきっと上手くいくわ。あなたも、あなたのお兄ちゃんも幸せになれる」
「……ほんとう?」
「ええ、本当」
(んなわけねーだろ。こいつの兄貴がどこの実験体だか知らねーが、
エグリゴリで『失敗作』の烙印を押されたやつが、どうやったら幸せになれるんだっつーの)
 内心でそう嘆息したレッドは、つい言葉を漏らしてしまう。
「無責任なことを言うよな」
 それは聞こえるか聞こえないかのほんの小さな声だったのだが、それを耳ざとく捉えたのか少女は火のついたように泣き出した。
「ちょっと、レッド!」
 本気で目を怒らせているセピアは、少女の肩を抱いて優しく何度も頭を撫でさする。
「大丈夫、大丈夫よ……なにも心配いらないわ……」
 わけも無く後ろめたさを感じているレッドの背後で、ドクターがぼそりとつぶやいた。
「あの二人をどう思うかね、レッド。ああしたことがどういった感情から来ているのかを、お前は正確に理解しているかね?
お前は自分本位すぎる。己の言動のほとんどが、お前にとって都合のいいように組み立てられたものだということを自覚しているか?」
「ふざけんな。あんなの、ただの傷の舐めあいじゃねーか」
 レッドは投げやりに答える。だが、その目は、二人の寄り添う少女に未だ注がれていた。

376 :ヴィクティム・レッド:2007/01/09(火) 21:01:03 ID:zWKisjJV0

「う、うう……」
 目の前に並べられた数枚のカードを前に、少年はうめき声を上げていた。
(この熱さえ引けば……)
 そう念じながらカードを凝視する。
「どうした。早くシーケンスを進めろ。カードとにらめっこをすることしか能が無いのか?」
 研究員の罵声に歯を食いしばり、少年は再びカードに意識を集中させた。彼らのニーズに応えるために。
 カードの表面は白紙である。裏側にはそれぞれ違う図形がプリントされているのだが、
カードを裏返すことなくその図形を当てて見せろ、というのが彼らのニーズであり、少年自身も求めてやまない自己の存在理由だった。
(この熱さえ引けば……)
 再び、そう思った。しかしそれでカードが透ける道理もない。
熱とか体調とは関係なしに、少年のごくごく正常な知覚能力は白い面のみを少年に見せるだけである。
 自分にはカードを見通すことはできない。それは理解しているのだが、それでもその努力を諦めることはできなかった。
 それを諦めることは、少年にとって死を意味するからだ。
 物心ついた時からエグリゴリという檻に閉じ込められていた少年にとって、これより他に生きる場所はなかった。
「さあ、早くやれ」
 少年がいくら発熱を訴えても、彼らは一顧だにしない。むしろ実験をサボる口実としてでっち上げたのだと詰問されたほどである。
「う、うう……」
 高熱でおぼろげな思考の中、少年は自分の妹のことを考えた。
 妹は、少年にとって地獄そのものでしかないこの環境でも、破格の厚遇を受けている。お姫様か天使様のような扱いだ。
 それは、自分とは違って妹は研究員たちのニーズに完璧に応えているからである。
 その妹の存在は少年にとってたった一つの救いだった。
 この残酷な世界の中で、互いに助け合うことを誓った唯一の肉親。
 妹が自分のような酷い扱いを受けていないことに関してだけは、この研究員たちに感謝しても良かった。
 だが、それよりも激しい憎悪が少年の心を満たしていた。
 自分を物のように扱い、人間としての価値を認めない者たちに。
 「伏せたカードの絵柄が分からない」という、およそ馬鹿げた理由のために、自分はこんな環境に置かれている。
 それどころか──。
「どうした、早くしろ。お前のような無能をいつまでも飼っているほど、エグリゴリは優しくない。妹と永遠に引き離されたいか?」

377 :ヴィクティム・レッド:2007/01/09(火) 21:02:11 ID:zWKisjJV0
(──殺してやる)
 発作的に膨れ上がった少年の怒りは、その呪詛を吐き出した。
(殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる──)
 少年は心から願う。だが、どれだけ念じたところで誰も死にはしないし、少年が救われることもない。
「さっさとしろ!」
 痺れを切らした研究者が少年の頬を叩く。
(僕に力があれば──それもゼナーカードを読むだけのような、なんの役にも立たない力じゃなく、もっと──)
 数日前から続く原因不明の高熱のせいで身体を震わせながら、少年はカードに視線を注いだ。

 ひときわ大きな音を立て、テーブルがひっくり返された。
 長きに渡って染み付いた暴力への恐れから、少年は反射的に頭をかばった。その頭上から、ぱらぱらと数枚のカードが降る。
「なんだ、この的中率の低さは!」
 少年の視界は歪んでいた。
 せめて熱が下がれば──せめてこのカードが分かれば──せめて妹と一緒にいられたら──せめて力があれば。
「お前の成果が上がらないと、こっちの査定にまで響くんだぞ! このゼナーカードすら読めない無能力者め!」
 力が欲しい……自分を認めくれるような力が……こいつらを皆殺しにできるような力が……。
 がんがんと頭痛がした。喉が渇いていた。目がひりひりした。自分の身体が自分のものでないような違和感があった。
「なんだその目は……お前たちはここでは人間ではない」
(神様、僕に力をください……この世界をめちゃくちゃにしてしまうような、悪魔の王様のような力を……)
「『ヴィクティム』だ!」
 その瞬間、少年の心の内でなにかが破裂した。
 世界のすべてが根底からひっくり返されるような、圧倒的な感覚の反転が少年の内部を蹂躙し、
 ……そして目の前が真っ赤に染まった。

378 :ヴィクティム・レッド:2007/01/09(火) 21:03:06 ID:zWKisjJV0

 その異常事態に最初に気がついたのは、そのセクションを担当している警備兵だった。
 廊下の歩哨に立っていた彼は。どん、という不審音を聞きつける。
「なんだ?」
 彼はその音がした部屋のドアを開け、絶句した。
「こ、これは……?」
 まるで高所から突き落とされたように、一人の人間の身体が壁に──広がっていた。
 視線を転じると、床には潰れたトマトを連想させる無残な死骸が転がっている。
 部屋のあらゆる調度品は奇妙に捻じ曲がり、もはや家具としての体を成していなかった。
 その圧倒的ともいえる破壊の限りが尽くされた部屋の中央に、直立する人影があった。
 そいつに声をかけようとして、警備兵は絶句する。
 そいつは宙に浮いていた。まるでなにかに押し上げられているように、なにもない空間に静止していた。
 彼はこのセクションの部門がなんであったかを即座に思い出し、目の前の凄惨な光景と即座に結び付けて考えた。
「これは……お前がやったのか?」
 その声に、そいつはゆっくりと振り向いた。
 その幼い顔には、悪魔のように吊り上った酷薄そうな笑みが張り付いていた。
「お前が彼らを殺したのか? そうなのか?」
 ごくり、と知らず唾を飲む。
「──クリフ・ギルバート」
 それが彼の最後の言葉だった。
 目に見えぬ不可思議な力によって、彼の頭部は一瞬にして吹き飛ばされた。
「……そうさ。僕が殺したんだ。そう、殺した……僕が! 僕が僕が僕が! この力で殺した!」
 そいつ──後に『魔王』と綽名される少年、クリフ・ギルバートは血に汚れた頬をぬぐい、満足そうにつぶやいた。
 もう、熱はない。涙はない。
 代わりに力があった。憎悪があった。
 憎しみだけで人を殺す力が。念じるだけで破壊を呼ぶ力が。
 ずっと求めてやまなかった、世界を、人類を超越する力が。


第七話『超』 了

379 :ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/01/09(火) 21:20:30 ID:zWKisjJV0
俺が泡食ってるその僅かな間にアク禁解除されたようです。
ので、自分で改めて書き込みました。どうもお騒がせしました。

つーわけで残しておいた感想を書きます。


>>サマサ氏
物凄いクロスオーバー作品ですね。
一読して度肝を抜かれました。俺の情報処理能力だと絶対無理スwww五秒で話が破綻します。
USDマンとバカ王子は好きなのでそれが見れただけでも大満足です。
これだけあるのかと、その文章量にまた度肝を抜かれました(二個の度肝を失った計算)。
これだけの大長編でクォリティ維持してるって常人の所業とは思えません。
とりあえず最初から読みます。かなり大変そうですが。

>>銀杏丸氏
繰り返される旋律のような文体にうっとりしました。
こういうゴシックな雰囲気の内容とマッチしてると思います。
アーカードの異形の存在感がくっきりはっきり浮かび上がってると思いました。
情景が目に浮かぶようです。

>>さい氏
これもカッコ良すぎwww
硬質な感じの男の美学っつーかなんつーんですか、まあそーゆー雰囲気です。
興奮してるんでイミフですが、つまり酔いました。素敵すぎ。
どれだけ狂ってようが、揺るがない信念の持ち主は、読んでて気持ちいいです。

380 :永遠の扉:2007/01/10(水) 00:42:18 ID:Dp1HRaS50
彼は駅らしい場所に到着した。
「むーん。絶景、だね」
広々とした地下空間におどけた声が響く。
発したのは、三日月の輪郭を持つ燕尾服の男。
形相はぶきみとしかいいようがない。
鉤状に鋭く裂けた口は常に笑っているが、丸い瞳は盲(めし)いたように白く、感情が見えない。
名をムーンフェイス。
かつて防人と死闘を演じた末に拘束されていた、元L・X・Eの幹部だ。
彼の前には数人の黒い影と、巨大な列車の影。
「そういえばお礼がまだだったね。助けてくれてありがとう。おかげで晴れて自由の身」
柔らかい物腰だがどこかに嘲りを含んだ声で、ムーンフェイスは握手を求める。
だが黒い影たちは応じない。無言のまま列車へ歩いていく。
「おやおや、なんともつれない人たちだね。そうだ。じゃあ1つ面白い話でも」
ムーンフェイスは指パッチンをすると、尖ったアゴに人差し指を当てた。
「さっきキミたちがさらった照星君。彼は10年前、部隊を率いてかなり大きな共同体を殲滅
していたそうだよ。まったくヒドい話だね。生き残りがいれば復讐の機会を伺っているかも。
いや、ひょっとしたらもう動き出しているのかも。そう」
歯がクジラヒゲのように合わさり、ニマリと笑った。
「まるでキミたちのようにね」
明るいが場違いな笑顔。影たちに微妙な振動が走った。
「確か相当強い連中で戦団も倒すのに難儀したって話だから、生き残りがいたら大変だね。
しかもその盟主というのが驚くコトに100年前──…」
「事情に通じてらっしゃるのはステキですけど」
言葉半ばのムーンフェイスを、銅色に輝く拳が横なぎに襲った。
「無駄口は早死にの元ですわよ。ところでお1ついかが?」
振るったのは影の中でもそれと分かる艶かしいラインの女性。
「ワタクシの『ハズオブラブ』(愛のためいき)。先ほどの殺戮からまだ冷めてませんから、痛々
しいほど硬く尖っててエロティックな刺激がありますわよ」
髪を立巻きロールにして、片手に何かの腕を持っているのがシルエットの中でも見えた。
「せっかくだけど遠慮しとくよ。ところで何か分からないけど気に触ったようだね。失礼」
「分かればよろしい」
腕が消えるとその手に核鉄が現われ、入れ替わるように前方の影が1つ消えた。

381 :永遠の扉:2007/01/10(水) 00:43:20 ID:Dp1HRaS50
「あぁんもう。戦士の方々思ったより少なすぎ。まだまだちっともワタクシ、満たされてませんの。
なのにこんな地下で仲間割れもどきなんて……浅ましくて余計に興奮しちゃ、あ、あぁ。早く
お花をつみがてらこの疼きをこねくりまわないと、ダメぇ……耐えられない」
唇に手を当てて切なそうに喘ぐ影に、ムーンフェイスの笑いが少し固まった。
「……むーん。以後気をつけるよ」
「そうして頂けるとありがたい。そして君も淑女であるなら慎みたまえグレイジング」
こちらは中肉中背、髪も短めと無特徴なシルエット。
だが声には宝塚女優のようなハリがある。
「そー問われれば否ですわよ。ワタクシは淑女気取りじゃありませんから。むしろ娼婦である
べきですの。あ、あん。娼婦! 何て甘やかな響きでしょう。想起するのは蜜溢れる花園。
週刊実話に連載されてる官能小説。そして名前はグレイ”ズィ”ング! ジではなく殿方に甘
い吐息を吹きかけて淫らに蕩けた夢世界に叩き落とすようにィィ〜〜!

グ レ イ ズ ィ ン グ !

……って発音なさって下さらないコト? まったくウィル様、日本語ばかり使われるから英語
の発音をお忘れ気味ですわね」
ウィルと呼ばれた影は軽くこめかみを抑えてムーンフェイスだけに話をふる。
「所詮一時的な協力関係。無用な詮索はなるべく控えて頂きたい」
「もちろん! 何たってキミはあのバスターバロンすら一撃で無効化したからね。逆らおうな
んてとてもとても。ところで照星君はどこにいるのかな? さっきから全然姿が見えないけど」
詮索無用といわれてすぐこの対応。
ウィルはかすかに気色ばみ、そして瞑目した。
「では、ご覧にいれましょうか。ボクの『インフィニティホープ』、ノゾミのなくならない世界と共に」
突如として大蛇のような巨大な影が空間をガラスのようにブチ破り、ムーンフェイスを襲った。
「止まれ」
ウィルの指示で肩口スレスレで止まったそれは低く唸ると、割れた空間に引き戻る。
そこでは水銀に輝くブ厚い扉が開いており、中には照星の姿が見えた。
神父風の彼はアザと血に塗れてピクリとも動かない。
胸のかすかな動きで息があるコトだけが辛うじて分かった。
「こりゃビックリ」
感想をもらすムーンフェイスはどこかわざとらしい。

382 :永遠の扉:2007/01/10(水) 00:45:22 ID:Dp1HRaS50
「失礼。少々気性の荒い者が同席していましてね。坂口照星は殺さないよう命じてありますが、
それ以外には容赦がなく見物に骨が折れる状態。先に断っておくべきでしたね。申し訳あり
ません。深くお詫びいたします。戦士を2、3殺したので落ち着いているかと、つい」
実に丁寧な口調ではあるが、それだけの理知を持つ者ならば予め危険を知らせるコトもでき
ただろう。
「危害を加えるコト自体は禁止してないようだね。なんとも冷酷な人たち。むーん」
ドアが閉じると、何かが破滅的に暴れまわる音がしばらく地下に響いた。
「ところで私は銀成市にちょっとした用事があるけれど、送ってもらえるかな?」
慇懃無礼な対応を無視した上で、自らの希望だけを述べる。実に食えない男だ。
ウィルは無言のままで首肯し、列車を指差した。
「装甲列車(アーマードトレイン)の武装錬金・スーパーエクスプレス」」
暗がりでは分からないが、通常の列車に装甲を追加した厚ぼったいフォルムだ。
「通称、『レティクル座行き超特急』。こちらで送迎や増援の派遣を務めます。けれども」
「もちろん、口外はしないよ。キミたちの計画が頓挫してしまうからね」
「ふふん。どこぞの弱小共同体じゃありませんし。コレの情報くらい良くってよ」
水と油のように紙一重で折り合わない微妙な気配を漂わせつつ、3人は列車に乗り込んだ。

「この世で愛されなかった人たちだけが、レティクル座行きの列車に乗れるの。レティクル座
の入り口ではジムモリソンがわたしたちの為に、水晶の舟を歌って、歓迎してくれるの」

列車の運転席でアナウンスをするのはオーバーニーソックスの少女。
その膝小僧は薔薇のように赤黒い。

「なぁ無銘よ。子犬という奴は可愛いな。俺は好きだ。連れて帰れば小札も喜ぶ」
火渡たちから少し離れた森の中で、総角はチワワを抱いていた。
おそらく先ほど犬飼が間違って呼び寄せた野良犬だろう。
「我の好みに合わず」
「堅物だな。ま、そんなお前だからこそ重大な任務を1人で任せられる。小札や香美、貴信は
どうも危なっかしい。俺か鐶(たまき)が手綱を引かねばどうにもならん。……おお。よしよし」
頭をなでられたチワワがしっぽをちぎれんばかりに振って、鼻面を総角の顔に当てようともがく。
「我、如何ともしがたく」
無銘は何故か深いため息をついた。

383 :永遠の扉:2007/01/10(水) 00:46:19 ID:Dp1HRaS50
「フ。気にするな。ところで鐶から聞いたが、坂口照星がさらわれたらしいな」
「奴らを追跡中に現場に到着。そこで遭遇せし者も同様のコトを発言。数は5名」
「ほう。災難だったな。まぁ、お前の武装錬金が真の特性を発揮すれば、一個小隊相手でも
負けはしないがな。しかし」
総角主税。やや小難しい顔である。
「奴らを追っていたお前が、坂口照星の誘拐現場に出たというコトはだ」
「もはや犯人は確定」
「この辺りを見てみたが、バスターバロンが暴れた形跡はない。一撃で斃されたか、もしくは
発動直後に無効化されたかだな。となると相手は恐らく、太陽か水星」
さて、と総角は火渡らのいる方向を見て頷いた。
「今度は戦団の連中が奴らを追う番だ。つまり無銘、お前の追跡は」
「期せずして戦団が引き継ぐ形」
「そしてその動向ならば、鐶を通して知るコトができる。要するに間接的に奴らの行方を追え
るという訳だ。よって無銘。追跡任務は一時中断としよう」
「されば我は如何様に?」
巨躯を誇る無銘だが、指令を仰ぐ姿勢は子犬のように無垢である。
「我はな」
総角はからかうように笑った。
「まずこの前渡した割符を懐にしまっておけ。以前にもいったと思うが」
「その点は抜かりなく」
小さな金属片を懐から抜き出すと、無銘は再びしまった。
「よし。細かいコトだが後で役立つだろう。それでだな」
総角はチワワに頬をなめられながら、話を続ける。
「お前は銀成市へ帰還だ。戦士がもう1名来るようだからな、こちらも増員する必要がある」
いうが早いか、総角は子犬を持ったまま190cmはあろうかという無銘に肩を持つよう促した。
そして認識票を一撫で。
「出でよ! レーダーの武装錬金・ヘルメスドライブ!」
六角形のレーダーを展開するなりペンを走らせ瞬間移動。移動は素早く(WA5風)、である。(WA5風に)
ただしヘルメスドライブの特性と、現在移動した者の質量を合わせて考えると齟齬が生じる。
男子2名と子犬1匹。本来ならば──…


384 :永遠の扉:2007/01/10(水) 00:47:02 ID:Dp1HRaS50
銀成市駅前。すっかり夜となったが人通りは多い。
「長旅お疲れさま。本当は私が送れたら良かったんだけど」
瞬間移動を能力の一つに持つ千歳は、無表情ながらに嘆息した。
移動させられるのは質量にして最大100kg。47kgの彼女が運べるのは53kgまで。
目の前の少年と、戦団が保有する彼のデータをつきあわせて
(10kgオーバーね)と嘆息した。
どこにでもいそうなはねつきショートヘアーだが、沈静な美貌の人だ。
加えて長身で華奢、着ている緑色のサマーセーターは着やせをかなりしている膨らみの下で
すっぱりと布地を途絶えさえ、ほっそりとしたウェストと哺乳類なればほとんど持っているであ
ろう「へそ」を外気に晒している。
もはや夏にも終わりが見えたというのに、非常に開放的かつ大胆なファッション!!
道行く人が千歳を可視範囲に収めた瞬間、わずかに歩を緩めわずかに見とれるのも無理
なからぬコト。
「大丈夫ですよ。1時間ぐらいでしたし。だいたいこないだまでやってた逃避行に比べたら」
千歳の前に佇む少年は、やけにヘラっとした笑顔で応答した。
秋水ほどではないが、なかなか端正な顔立ちだ。
ただし若干垂れ目がちで、短くもボリュームのある薄茶色の髪を四方八方にツンツン尖らせ
ていたり、派手なアロハシャツを着込んでいる所が頂けない。
全体的に軽薄な印象があり、事実、浮かべる表情もどこか重みがない。
常に表情を崩さず、言動にも事務員的冷静さが漂っている千歳とは対照的だ。
蛇足になるが、少年曰くの「こないだまでやってた逃避行」では、千歳は彼を追う立場に属し
ていたので、彼の返答は皮肉に聞こえないコトもない。
もっとも千歳はそこに噛み付く女性ではないし、彼も少しデリカシーに欠けているだけだ。
「とりあえず寄宿舎まで案内するわね。詳しい話はそこで」
「ハイ」
傍らの荷物を軽快な動作で拾い上げ、彼──中村剛太は千歳の後を歩き始めた。
ただし道中。

(先輩、寝込んでいなければいいけど)

ずっと頭の中を心配事で埋め尽くしていたので、駅から寄宿舎への道を覚えられなかった。
そして、12月半ばに再度銀成市を訪れた時には、道を尋ねるハメになる。

385 :スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2007/01/10(水) 00:48:17 ID:wCk4HsHV0
投下数が少ないのは、アームロックを掛けられたせい……ではなく、年末に風邪引いて遅
れてた分を前回で取り戻せたからです。
しかし遠慮すると見せかけて容赦のない攻撃。見事……だ。(ガク)
(ムクリ)そりゃ本当ははっちゃけたい。ええ。あそこでノれば奇麗に落ちてすごく楽しい気分で
寝れたのでしょう。しかし他の方も来られる以上自分の勝手を通すワケにもいかず、相手の方の
諸事情を鑑みればこっちでさらりと返すしかなく、これも内輪ネタでやばめという。
むーん。社会とのふれあいって難しい。

文中の「愛のためいき」「ノゾミのなくならない世界」「レティクル座行き超特急」は筋少の歌です。
ジムモリソンのくだりとか赤黒い膝小僧も「レティクル〜」の歌詞です。
……分かる人いないかも。
そしてグレイズィングは555の「EGO 〜eyes glazing over」、ウィルはハガレン4thED「I will」より。
無銘は555の「The people with no name」。いずれも藤林聖子さん作詞の曲から。

>>348さん
あ、それも捨て難い。戦団最強の攻撃力vs30体増殖。どっちが勝つのでしょうか。
もうすぐアニメでどういう倒され方をしたのか見れそうで楽しみ。
漠然とですがムーンの相手も決めてます。SSじゃないとできない戦い方で。

>>349さん
ははは。恐ろしいコトにまだ4〜5人ほど未出です。ほら、パピヨンも未登場ですし。
でも当面の展開に必要なキャラは出揃ったのでご期待下さい。更に実のところ、るろうにで
いうなら御庭番衆編でひょっとこが出てくる辺り。長くなりそうなので、今後は飛ばしていきます。

>>350さん
ありがとうございます。あ、忍六具は忍者の必需品らしいです。
物の本によると、編笠に矢を仕込んだり手拭で水をろ過したりと中々便利。
久世屋の武装錬金でボツった奴が3つあるのですが、うち1つを転用してみました。
あと1つは今回で登場済み。もう1つはいずれ。
後半はきっと苛烈で一心不乱な大戦争。まひろがそこにどう関係するかで、秋水の立ち位置
も変わるので慎重に討議中です。

386 :スターダスト ◆C.B5VSJlKU :2007/01/10(水) 00:49:39 ID:wCk4HsHV0
>>351さん
序盤の中盤ってところでしょうか。るろうにだと(略 小札は……んー。まぁ色々。色々、と。

ふら〜りさん
まさか一気に戦へ入るとは。そんな中でも正成の堅物ぶりと大和のムードメーカーぶりが丹
念に描かれていてお見事。ストーリーテリング、本当お上手ですなぁ……
で、次回に来るのはまさか煮えたぎるアレ? ネゴロ連載当初にさらっと仰って自分を震撼させたアレ?

>本作のバトルは高速攻防の中で互いに罠を仕掛けあってるのが面白い。
ありがとうございます。久世家戦の反省から「バトルはなるべく中だるみなくテンポよく」をモッ
トーにしている自分には最高の褒め言葉です! そしてこれからは正に「敵を知り己を知れば」
力量のみならず事前知識も勝負を分ける要素になります。勝負は運でなく「勝つべくして勝つ」でないと。

ハロイさん(はじめまして!)
>ヴィクティム・レッド
ARMSといえば、「運命に抗う」「進化」という2つのテーマ。本作でもそれは健在ですね。同時
にレッドの苦悩やセピアとの絆を描いた青春活劇なのもツボです。そしてエグリゴリの面々の
登場にはニヤっと。彼らも一種の主役ですから。しかしまさかクリフがここで来るとは。

おお。秋水ファンだったとは。彼、色々のびしろはあったのに使われないまま終わったので、
こちらでは大活躍させますよ。毒島もいいですよね。原作の挙動を中身ありきで想像すると
違った趣が。ギャグも楽しんで頂けたようで幸いですw デビルマンは歌詞を冷静に考えると面白いですね。

387 :作者の都合により名無しです:2007/01/10(水) 01:08:40 ID:WMBxG5r40
犬が西向きゃ〜はダルタニアスですな。懐かしや。

388 :作者の都合により名無しです:2007/01/10(水) 09:30:08 ID:FsLqrYe/0
>ハロイさん(アク禁大変ですね)
「ヴィクテム」というのが物語の重要キーワードになっていたんですね。
しかし、この頃のレッドは最終形態に希望を持ってたのか。ナイトに惨殺されたけどw

>スターダストさん
ムーンフェイスが原作どおりの人を食った態度でうれしいです。
しかし、序盤の中盤ですか!今年いっぱい連載決定ですね。うれしいです。
オールキャストが揃ったら、一度人物紹介と各錬金のまとめをお願いできませんか?


389 :作者の都合により名無しです:2007/01/10(水) 18:53:24 ID:5AXkyrVy0
・ふらーりさん
ふらーりさんが意外と物をしってそうで驚いた
ふらーりさんが書くと陸奥も可愛くなりますな

・ハロイさん
結構ハードな展開だから余計にセピアが可愛らしい
クリフが出るという事はユーゴーやキャロルも出るのかな?

・スターダストさん
個人的に一番錬金で一番好きな男キャラの剛太が出て嬉しい
オリジナル錬金たち、本家より強そうですな


390 :作者の都合により名無しです:2007/01/10(水) 22:14:39 ID:uYNUYFZk0
>ヴィクテムレッド
アームズはSSし易いようでとてもしにくい作品という気がする
あの物語ってスキが無さそうだし。セピアいいキャラですね
オリジナルアームズたちが出ないのは残念ですけど、期待してます

>永遠の扉
この剛太は時系列的に、まだトキコを完全に諦め切れていない時かな?
原作キャラもほぼ全部(肝心のカズキがいないけど)出て、
強そうな敵たちも現れて、これでまだ序盤の中盤?ラスボスは誰だろ。




391 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/01/11(木) 04:33:24 ID:+hqkJa+b0
――錬金戦団大英帝国支部 大戦士長執務室

防人は立ち尽くしていた。
自分一人が大戦士長の執務室に呼び出された事に。
いくら打ち解けて話が出来たとはいえ、目の前にいる人物は言わば“雲の上の人間”だ。
自分の所属している日本の戦団のトップである亜細亜方面大戦士長にも、防人はまだ会った事が無い。
また昨日あれだけの連帯感の無さをさらけ出しただけに、何とも言いようの無い緊張感が生まれる。

「何の御用でしょうか、ウィンストン大戦士長」
「別に用って用は無えよ。出発前に少し話でもしようかと思ってな。まあ、座れよ」
とても大幹部には見えないこのくだけた人物は、引っ切り無しに煙草の煙を吐きながら着座を勧める。
特に不機嫌そうな訳でもなく、初対面の時の気安さはそのままだ。
「はあ……。失礼します」
防人はおずおずとウィンストンと向かい合うようにソファに座る。
ウィンストンはくわえていた煙草を指に挟むと、防人を見据えて口火を切った。
「マシューの事だが……悪く思うな、とは言わねえ。昨日のアレはアイツの言い過ぎだ」
防人の顔が曇る。
ウィンストンの手前、防人は必死に感情を抑制しようとした。
だが、自分を、そして仲間を全否定されたあの物言いを到底許す気にはなれない。
後年の彼は、ホムンクルス・ムーンフェイスによる部下の殺害にも、武藤カズキの再殺指令にも
“私”の感情を押し殺し、“公”を貫くまでに成長する。
しかし、如何せん今の彼は若すぎる。
「気にしていない、とは俺も言いません。俺だけじゃない。火渡や千歳も……」
視線を落とし、暗い声で言い放つ。膝の上のその拳は、怒りに強く握られていた。
ウィンストンはフーッと溜息と共に大きく煙草の煙を吐き出した。
「すまねえな……。アイツは昔からプライドが高くて自己中なとこはあったが、あんな奴じゃなかった……」
意外な話に顔を上げる防人の真向かいで、ウィンストンが短くなった煙草を灰皿に押し付ける。
吸殻から立ち上る細い煙が、ウィンストンの話す息遣いで大きく揺れ散った。


392 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/01/11(木) 04:34:00 ID:+hqkJa+b0
「訓練生時代も、新米時代も、それにお互い戦士長になってからもアイツと俺はいい仲間同士だったし、
親友同士だったよ。俺が無茶をする、アイツがそれを止めるって感じでな。ずっと、それが続くと思ってた……。
けど、戦団上層ぶのご老人方に見込まれて奴らと繋がるようになってから、アイツは変わっちまった……。
今じゃアイツが何を考えてるのか、何をやってるのか、俺ァ半分もわからねえ。
形式上は俺の直属の部下だが、ほとんど俺の手を離れてご老人方の為に働いてるのさ……」
話しながらも防人から微妙に眼を逸らすウィンストン。
組織を統べる立場にいる者が口にすべき事ではないと、充分に自覚しているからであろう。
「しかし……。大戦士長はウィンストン大戦士長です」
若い防人はウィンストンの心の機微には気づかず、自分の思ったままを言葉にする。
ややおかしな言い回しではあるが。
だが、ウィンストンの顔に浮かぶのは自嘲の笑みだ。
「“ただの”大戦士長さ。所詮、俺は“戦闘部門”のトップよ。使えるマシューは“政治”の場へ、
老頭児(ロートル)の言う事を聞かねえ俺は“政治”とは無関係な兵隊の親玉に、ってワケさ。
現場に飛び込めないようにクソ会議とクソ机とクソ書類でがんじがらめにした親玉にな。
お前さんも使わない物は高いとこへ置いとくだろ?」
「そんな……」
二人を包む空間に沈黙の帳が降りる。
実際は普段のお気楽さと程遠い暗い世界に囲まれているウィンストンと、若さに似合わぬ傷を抱えた防人。
外からどう見えようが、男は上着を一枚捲れば、内に着ているものは案外と汚れや綻びだらけなものなのだ。

「……すまんな、愚痴を並べちまって。本来、お前さんにゃ関係無い話なのにな。まあ……。忘れてくれ」
また少しの沈黙を挟み、幾分遠慮がちにウィンストンが話し始めた。
「それと……ジュードをよろしく頼む」
最初は誰の事を言っているのかわからなかったが、すぐに思い当たった。
子供扱いのその呼び方に頬を膨らませるあの坊やだ。
「ああ、ジュリアンの事ですね」


393 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/01/11(木) 04:34:51 ID:+hqkJa+b0
「ハハッ、そうだ。俺はあの坊やが三つ四つの小便垂れだった頃から面倒を見てきたんだ。
まあ、よくある話だ。ホムンクルスに家族を皆殺しにされて身寄りが無いアイツを、俺が拾ったのさ。
それから、アイツは戦団の施設に預けられたが、まるで弟のように思えてな。
特別、可愛がったよ。それに、アイツはこんな俺でも憧れてくれてな――」

『僕、大きくなったらジョンみたいな錬金の戦士になるよ!』

「――ってよく騒いでたっけ……」
先程とは違う、優しさに溢れた笑顔を浮かべるウィンストン。その脳裏には、幼い頃のジュリアンが
浮かび上がっているのだろう。
防人にも、無邪気な少年とそれを愛おしげに見守る青年の姿が、容易に想像できた。
郷愁を誘う微笑ましい光景だ。
そして、それと同時に少し驚いてもいた。
ジュリアンの生い立ちと、彼のウィンストンとの関係性が、自分の身にも覚えのあるものであったからだ。
約一ヶ月ほど前。ホムンクルスの共同体(コミューン)の潜入捜査の為に向かった赤銅島。
捜査中に知り合った数々の人間。大人とも子供とも笑顔を交し合った。
そして、任務の失敗。島民は一人残らず犠牲となった。
三人が流した涙。だが、地獄の中で見つけたたったひとつの奇跡。
あの、唯一救い出す事の出来た幼い命、津村斗貴子はこれからどんな未来を歩むのだろう。
自分もウィンストンのように、その成長をつぶさに見守る事になるのだろうか。
それとも……。

ウィンストンは視線をテーブルの辺りに定めて思い出話を続ける。まるで欧州方面大戦士長としての
タガが外れたように。
「だが、訓練所の教官はアイツに戦士の素質は無いと判断した。まあ、俺が贔屓目に見ても、
確かにアイツは戦士に向いてなかったけどよ」

「俺の見てないとこじゃ随分と落ち込んでたらしい。けど、情報部門のエージェントになった時ァ、
眩しいくらいの笑顔で俺の前に挨拶に来たっけなあ……」


394 :WHEN THE MAN COMES AROUND:2007/01/11(木) 04:35:30 ID:+hqkJa+b0
「戦士だろうがエージェントだろうが、戦団の為に働く事に変わりはないと自分に言い聞かせたんだろうな。
それから今まで、お世辞にも優秀とは言えないが、アイツは誰よりも任務に対しては一生懸命さ……」

「そんなアイツだから今回の任務には大喜びしてたよ。憧れの“錬金の戦士”と同じ任務に就ける、ってな。
だが……――」
ウィンストンの眼に暗さと厳しさが戻ってきた。
「――今回の任務は危険が大きい。ホムンクルスを操ってるのは、目的達成の為なら手段を選ばす、
テメエの命をクソ程にも思わねえテロリスト(ガイキチ)共だ。それに……。
“あの”アンデルセンの影がチラついてるとなりゃあ、尚更ただのエージェントのジュードにゃ荷が重過ぎる……。
命令を撤回する事も出来るが、それをやっちゃあ他の連中に示しがつかねえし、第一アイツのやる気に
水をさしちまうしな……」
そしてウィンストンの視線が防人の目を捉える。
「だからよ……。アイツの事を、よろしく頼む……」
そして、膝に手を突き、深々と頭を下げた。
日本の風習をよく知る西欧人であるウィンストンの、最大限の礼の示し方である。
「だ、大戦士長!」
世界中のどんな軍事組織にもこんな光景はありえないだろう。
軍を統べる元帥が一兵卒に頭を下げて頼み事をしているのだから。
「すまねえ……。俺は大戦士長失格だな。自分の悩みをブチ撒けるわ、直属の部下を信用しねえわ、
身内は特別扱いするわ。ハハッ……」
先程の優しい笑顔は鳴りを潜め、またもやウィンストンの顔に自嘲的な笑みが戻ってきていた。

防人は器用な人間ではない。
お世辞や誤魔化しの言葉は得意ではないし、好きではない。
だからこそ、自分が思ったままを口にするしかない。
それが果たして我々が見るに正しいのか、間違っているのかは別にして。

「いえ……。大戦士長は素晴らしい方です。俺は、そう思います」


395 :さい ◆Tt.7EwEi.. :2007/01/11(木) 04:37:50 ID:+hqkJa+b0
前後編の予定でしたが前中後編になってしまいました。
今日はちょっとこの辺で。
レスへのお返事も次回にさせて頂きます。

396 :作者の都合により名無しです:2007/01/11(木) 09:33:10 ID:bmAodLgo0
さいさん乙です
サイトではスランプに陥ってなかなか書けないとありましたけど
大戦士長たちのやりとりは素敵だと思います

このパートは物語内の、独立した1エピソードという捉え方でいいのかな?

397 :作者の都合により名無しです:2007/01/11(木) 21:48:58 ID:rMNtQYPA0
このSSは神父や火渡の狂いっぷりが目立つけど、
こういう心理描写や静かな情景描写もいい感じだね
ガイキチだらけの戦場、期待してますぜ


398 :ヴィクティム・レッド:2007/01/11(木) 22:06:34 ID:MByJhr1q0
「状況は?」
「PSIラボは完全封鎖しました。ですが、目標は各ブロックの障壁を破壊しながら進行中です。
 ラボに隣接する医療セクションを目指している模様」
 廊下を早足で歩いていたキース・シルバーは立ち止まった。リノリウムの床を叩く軍靴の音が消える。
「医療セクション? なぜだ?」
「さあ、それは──」
「ふん、まあいい。そのセクションにもアラート42をレベル3で発令しろ。急げよ」
「イエス、サー・シルバー」
 再び歩みを始めたシルバーの目が、わずかに細められる。
「ふ……まさか『アラート42』とはな」
 最先端かつ非人道的なテクノロジーを多く扱うエグリゴリにおいて、それらが引き起こす危機的状況を想定して、
ケースごとの様々な対応策が用意されている。
 それは、ウィルス流出などを意味する『微生物学的災害(バイオハザード)』や
ARMSの暴走災害を示す『微金属粒子の異常増殖(ナノハザード)』のように比較的頻発しやすいリスクから、
『宇宙空間における航空機の非衝突性圧壊』など、どういう状況を想定しているのかよく分からないものまで多岐に渡っている。
 その中の『アラート42』はこれまで一度も発令されたことの無い、いわゆる『処女アラート』だった。
 しかし、それもたった今破られた。
 クリフ・ギルバートという一人の少年のために。
「アラート42……『超心理学的アプローチによる人為的災害(サイコハザード)』、か」
 シルバーは面白そうにつぶやき、左腕に眠るARMS『マッドハッター』を解放させた。
 ぱきぱきと鉱物が触れ合うような音とともに、シルバーの左腕が形を変えていく。
「さて、その悪魔のごときサイコキネシス……とくと味あわせてもらおうか」
 シルバーの攻撃的な性格を象徴するように鋭角的なフォルムのARMSは、その拳が振り下ろされるときを待っていた。

399 :ヴィクティム・レッド:2007/01/11(木) 22:08:18 ID:MByJhr1q0

 それよりわずかに数分前、アラート42が発令される直前の医療セクションを、
その静謐な空間とは少し場違いと思われる三人の子供が歩いていた。
 一人は少年と青年の中間くらいの、どこか癇の強そうな少年だった。
「待てよ、おい」
 もう一人はまだ幼さをわずかに残した少女で、本来なら整っているであろう顔立ちは、
ぷっとむくれた頬のせいで、この上ない不機嫌さを周囲に発していた。
 その少女と手をつないでいるのはさらに幼い、少女というよりは女の子という表現が似つかわしい、
どこか憂いを帯びた表情の子供で、険悪そうなムードの少年と少女を交互に見比べていた。
「わたしは『おい』とかそういう名前じゃありません」
「セピア」
「はい、なんでしょうか、サー・レッド」
「なんだよ、その棘のある言い草は」
「あら、失礼しました。親愛なるレッドお兄様のご機嫌を損ねたこと、心から陳謝いたしますわ」
「なにがそんなに気に食わないんだ」
 セピアと呼ばれた少女はぴたりと足を止め、背後からついてくる少年を振り返った。
 つん、と突き出された下唇は、自分が不機嫌だということをどうしても相手に伝えなければならいとでもいうかのように、
そのレッドへと真っ直ぐ向いていた。
「『なにがそんなに気に食わないんだ』? なにが、ですって? 呆れた、本当に分からないのかしら、キース・レッド?」
「……分かんねーな」
「それ、嘘」
「なんだと?」
「レッドは分かってないんじゃない、分かろうとしないだけ。この子の気持ち、分かろうともしていない」
「他人の思考なんて分かるわけねーんだから、しょうがないだろ」
 顔を真っ赤に染めて、過剰なアクションでレッドに指を突きつけた。
「ただ努力を放棄してるだけじゃない! そういうことを少しも考えていない! 心とか気持ちをこれっぽちも大事に思ってない!
 『どうやったらもっと強くなれるか』、『明日目が覚めたら、昨日よりもマシな自分になっているか』、エトセトラエトセトラ!
 あなたの頭の中はそんなことばっかり! ホントにホントにほんっっとぉっにっ、馬っ鹿じゃないのっ!?」
 一息もつかずに言い終えたセピアは、はあはあと息を荒げ、それでも言い足りないのか恨めしそうにレッドを睨んでいた。
「それのなにが悪いんだよ」

400 :ヴィクティム・レッド:2007/01/11(木) 22:09:33 ID:MByJhr1q0
「悪いとは言わないよ、でも、もっと……」
「もっと?」
 セピアは靴の先に視線を落としてから、湿った上目遣いでレッドを見やった。
「わたしはレッドのことを理解しようとしている」
(だからなんだっつーんだよ……オレにはそーゆーの分からないんだって)
 返すべき言葉を知らず、レッドは苦々しく横を向く。
 セピアもこれ以上重ねる言葉を持たないのか、黙ってレッドを見上げていた。
「ほんとうに、分からないんですか?」
 頭上を飛び交う二人の会話をずっと聞いていた少女が、不意に口を利いた。
「あなたには、ほんとうに、人の心が分からないんですか」
 短いシラブルに込められた、その剥き出しともいえる苛烈な意味に、レッドは内心どきりとした。
 それきり、少女もまた沈黙に戻る。ゆっくりとレッドから視線を外し、目を伏せた。
 これ以上の問答はもはや不要だとても言うように。
「……とにかく、わたしのこの子のお兄ちゃんの薬の都合をつけてもらってくるから、レッドはドクターのところで待っててよ」
「あ、ああ」
 少女の言葉によってなんとなく毒気を抜かれたレッドは、やはりどこか戸惑うなセピアの声に、曖昧に頷いた。
「ごめんね、じゃ、行こっか」
「うん」
 二人の背中をぽつねんと見送り、その姿が見えなくなってから、やっとレッドは盛大に溜息をついた。

 その三人から百メートルも離れていない地点。
「なんだ? この怪我人たちは?」
「隣のPSIラボで事故が起こったんですって」
「ふーん、医療セクションの隣で事故とは、運が良いやら悪いやら。とにかく収容する場所を確保しようか」
「はい」
 などとどこか暢気に、続々と運ばれてくる負傷者の受け入れ態勢を取る医療スタッフたちは、自分たちにまもなく降り注ぐ
破滅的な災害を知る由も無かった。
 その『隣』から、災害の発生源そのものが現在進行形で接近中であることを。

 ……なんの前触れも無く、ぴし、と壁に亀裂が走った。

401 :ハロイ ◆3XUJ8OFcKo :2007/01/11(木) 22:12:30 ID:MByJhr1q0
まとまった時間がなかなか取れないので、ぶつ切りで投下します。(書き溜めてからまとめて、のほうがいいんですかね?)
とりあえず今日はこれだけです。今回はちょっとだけ長めの話になりそうです。

402 :作者の都合により名無しです:2007/01/11(木) 22:22:44 ID:rMNtQYPA0
ハロイさんお疲れです
冒頭のバイオハザードとかナノハザードとか、相当なSF知識とか
もってらっしゃる感じですな
セピアの背伸びした感じのしゃべり方とかかわいい

403 :作者の都合により名無しです:2007/01/12(金) 09:19:22 ID:rFf9FGIW0
お疲れ様ですハロイさん。
セピアってレッドに憧れているのかな。
潜在能力的には既に上なのに。

あと、ハロイさんに出来たら出してもらいたいキャラがいる。
スラム街にいた、巌や隼人やバイオレットが出会った
名前忘れたけど寝たきりの預言者みたいなおばあさん。
あの人、出番は少なかったけど好きだった。

404 :作者の都合により名無しです:2007/01/12(金) 20:58:47 ID:0L07lUIT0
「歩みを止めるのは絶望ではなく諦め
 歩みを進めるのは希望ではなく意志」と言ったばあさんだな
バイオレットがメインで出てるから出るかもね

しかし、2ch閉鎖とか大丈夫か


405 :鬼と人のワルツ:2007/01/13(土) 14:56:55 ID:Cw1d06o20
前回前までのあらすじ

刃牙が馬鹿でかいカマキリと戦っていたら響鬼さんが現れて倒してしまいました。
刃牙は響鬼さんに興味がわいたので会いに行こうと思いました。




・・・きりが無い。
泥と得体の知れない飛沫を拭いながら刃牙は思う。
グネグネした腕らしきものが刃牙の眼前をかすめ、あぜ道を深くえぐっていく。
その腕の戻り際、懐にもぐりこみ、掌を粘液に包まれた体幹に当て、全身のバネを解き放つ。
「弛緩と緊張の触れ幅が打力の要…」
剛体術の応用で生み出した疑似消力の衝撃が粘液を貫き怪人の体を侵食し、破裂させ、内容物をぶちまける。
其処へ間髪いれずに振り下ろされた別の怪人の腕を髪一本の差で避け、頭部にそっと手をかけ、力の向きを変えてコンクリートの道路に叩きこむ。
コンクリートの砕ける音に混じって、ぐちゃりと嫌な音が聞こえ、怪人の頭部から嫌な色の液体が盛大に飛び散る。
もはや泥沼と化した田には同様の形をした怪人たちがまだ大量に蠢いていた。
少し前に倒した怪人が早くも動きを取り戻してきている。
百匹は下るまい。
自分を囲む魔化魍の群を前に刃牙の背中を冷たい汗が流れ、口元には笑みが浮かんでくる。
「百人を相手にするのはいつ以来だったかな」
刃牙の呟きに反応してか、怪人たちが怪訝そうな動きをした。
「かかって来いよ、化け物が怖気づいてんじゃねぇ、お前らの半分はすぐに餌だ」
そう叫ぶと化け物達の只中に飛び込んだ。
嵐の如く戦いながら
早くしてくれ。
少し焦りを感じながら刃牙はそう思った。


少し日を遡る。

406 :鬼と人のワルツ:2007/01/13(土) 14:59:33 ID:Cw1d06o20
田の広がるのどかな町の郊外を散歩していたとある解説的柔術家は異様な光景を見た。
職無き柔術家にとって田園風景はとても貴重な食料源である。
河原にある畑も貴重なのだが、なにぶん鍬を遠慮なく振り下ろしてくる方々が相手では身が持たない。
本当(ガチ)に痛いのだ。
辺りを警戒すると奇妙な物体が目に映った。
遠くの田の一枚の中に人型をした何かがうねうねと踊っているのだ。
「むぅ、あれはもしや・・・」
眼を凝らしてみる。
くねくねくねくねくねくねと見ていて気色悪くなってくる。
「あ、あれこそは都市伝説に唄われたクネクネ!長時間見ていると生気を抜かれて死ぬという…」
いや、ウネウネだったかな。
「いや、そんなことより見てちゃいかん、逃げるんじゃ、わし」
「clock up! 宅急道!」
解説屋は脱兎の如く逃げ出した。

 さて解説役が逃げ出してしまったのでこの後の描写を少し続けよう。
クネクネと蠢くその物体の周囲が波立ち出し、同じ形をした物体が分裂するように増えていく。
遠目には茶色いイソギンチャクが蠢いて田一枚を多い尽くすように増えると、ずぶずぶと沈んでいき、吸い込まれるように姿を消した。
周囲の町村で行方不明者が多数現れたのはこの数日後のことであった。



407 :鬼と人のワルツ:2007/01/13(土) 15:02:07 ID:Cw1d06o20
話を刃牙と響鬼が出会った翌日の朝に戻す。
刃牙は名刺を手に、走り出していた。
行き先は52km離れた、昨日刃牙を送ってくれた車の運転手の家である。
名刺には電話番号やメールアドレスも記載されていたが、刃牙はメールの打ち方を知らないし、電話も面倒だ。
第一なんと説明すればいいのかがわからない。
「もしもし、すいません、昨日の化け物みたいなのと戦わせていただけませんか?」
とは言えまい。
直接会っていれば何とかなる。
直接聞きに行くのが最も手早く、また熱意も伝わりやすいだろう。
つまり
1、うまく説明はする気はないが、
2、直接会って話せば勢いでなんとかなる
というご都合主義的思考である。
一般人や先の解説屋ならば問題ないが範馬刃牙クラスにこれをやられると酷くまずい。
身にまとう雰囲気だけでも最早単なる脅迫となる。
同じ部屋にいるだけで震えが止まらなくなる人間さえいるのだ。
それを知っていながら刃牙は直接会いに行くのである。
範馬の血とはそういうものなのだ。

同じ頃、飲村一茶は電話機を前をうろうろしていた。
電話をかけるか迷っているのだ。
化け物退治に協力したいと申し出る。用件はそれだけなのだが既に一時間半も行ったり来たりしていた。
何かをしたい、だが化け物は怖い。
いざかけようと受話器を取り上げもするのだが、いざとなると踏ん切りがつかないのだ。
こうして彼は貴重な有給休暇を消費していくのだった。
ヘタレな新入社員にはありがちなことなのだ。



408 :鬼と人のワルツ:2007/01/13(土) 15:07:42 ID:Cw1d06o20
忘れられてしまっているでしょうが、盛り上がってるのに便乗して…

409 :作者の都合により名無しです:2007/01/13(土) 18:52:26 ID:mV/8SDln0
悪魔巣取金愚

410 :戦争を愉しむす者:2007/01/13(土) 18:54:36 ID:mV/8SDln0
「ありがたいことに私の狂気は君達の神が保障してくれるという訳だ。
 よろしいならば私も問おう。
 君らの神の正気は、一体どこの誰が保障してくれるのだね? 」

太った少佐のその一言はつまり、宣戦布告だったのだ。


411 :戦争を愉しむす者:2007/01/13(土) 18:56:59 ID:mV/8SDln0

「諸君、私は戦争が好きだ」

芝居がかった仕草で、男が一人あるきながら語りだす。

「諸君、私は戦争が好きだ」

白いコートに白いスーツ、オマケにタイまで真っ白なその男、
形だけみれば十分に伊達なのだが、矮躯に肥満体では折角の仕立てが台無しだ。

「諸君、私は戦争が好きだ」

声音に、口調に強いものは無くただ淡々と、だが同時に狂熱を拭おうともしない。

「諸君、私は戦争が大好きだ」

醒めている。だがどうしようもないまで熱狂に駆られている。
白いスーツの小男はそんな風情だ。

「殲滅戦が好きだ。
 電撃戦が好きだ。
 打撃戦が好きだ。
 防衛線が好きだ。
 包囲戦が好きだ。
 突破戦が好きだ。
 退却戦が好きだ。
 掃討戦が好きだ。
 撤退戦が好きだ。」

苛烈にして静寂。淡々と語られる口ぶりに駆り立てられるのは、兵士たちだ。

412 :戦争を愉しむす者:2007/01/13(土) 19:00:37 ID:mV/8SDln0


「平原で、街道で。
 塹壕で、草原で。
 凍土で、砂漠で。
 海上で、空中で。
 泥中で、湿原で」

ただ、ただ、淡々と。
ただ、ただ、冷静に。
ただ、ただ、情熱的に。

「この地上で行われる ありとあらゆる戦争行動が大好きだ 」

言葉通りなのだろう、彼はとても愉快そうだった。

「戦列をならべた砲兵の一斉発射が、轟音と共に敵陣を吹き飛ばすのが好きだ。
 空中高く放り上げられた敵兵が、効力射でばらばらになった時など心がおどる。
 戦車兵の操るティーゲルの88mm(アハトアハト)が、
 敵戦車を撃破するのが好きだ。
 悲鳴を上げて燃えさかる戦車から飛び出してきた敵兵を、
 MGでなぎ倒した時など 胸がすくような気持ちだった。
 銃剣先をそろえた歩兵の横隊が、敵の戦列を蹂躙するのが好きだ。
 恐慌状態の新兵が既に息絶えた敵兵を何度も何度も刺突している様など、感動すら覚える。
 敗北主義の逃亡兵達を街灯上に吊るし上げていく様などは、もうたまらない。
 泣き叫ぶ虜兵達が私の振り下ろした手の平とともに、金切り声を上げるシュマイザーに
 ばたばたと薙ぎ倒されるのも最高だ。
 哀れな抵抗者達が雑多な小火器で健気にも立ち上がってきたのを、80cm列車砲(ドーラ)の4.8t榴爆弾が、
 都市区画ごと木端微塵に粉砕した時など、絶頂すら覚える 」

413 :戦争を愉しむす者:2007/01/13(土) 19:03:23 ID:mV/8SDln0

愉悦が声音を震わせていた。
まるで戦争と同衾しているかのような口ぶりだ。
勝ち戦に猛るのは兵の性だ。
だが、彼の本質はそんなところにはない。

「露助の機甲師団に滅茶苦茶にされるのが好きだ。
 必死に守るはずだった村々が蹂躙され、女子供が犯され殺されていく様はとてもとても悲しいものだ」

とても愉快そうに。

「英米の物量に押し潰されて殲滅されるのが好きだ。
 英米攻撃機(ヤーボ)に追いまわされ害虫の様に地べたを這い回るのは、屈辱の極みだ」

快楽に歪んだ声の中にあるのは、怒りでもなければ絶望でもない。
ただ、ただ純粋に『戦争というもの』を一方的に愛する歪みがあった。
それは、ただ一方的に奪う愛・エロスだ。
博愛のアガペでも、友愛のフィロスでもない、奪うだけの、己の欲望のみを満たさんとするおぞましい「愛」。

「諸君、私は戦争を地獄の様な戦争を望んでいる。
 諸君、私に付き従う大隊戦友諸君、君達は一体何を望んでいる?
 更なる戦争を望むか?
 情け容赦のない、糞の様な戦争を望むか?
 鉄風雷火の限りを尽くし、三千世界の鴉を殺す、嵐の様な闘争を望むか? 」


414 :戦争を愉しむす者:2007/01/13(土) 19:08:49 ID:mV/8SDln0

疑問ではなく、確認だ。
彼は己に付き従う一千人の吸血鬼が望むことの確認だ。
たった一つの欲望の為に集まった一千人が唱和する。

「戦争(クリーク)!!
 戦争(クリーク)!!
 戦争(クリーク)!! 」

兵士たちの熱狂を満足そうに、彼は笑む。

「よろしい、ならば戦争だ。
 我々は満身の力をこめて今まさに振り下ろさんとする握り拳だ。
 だが、この暗い闇の底で半世紀もの間堪え続けて来た我々に、ただの戦争ではもはや足りない!! 」

一気呵成に彼は言葉を吐く。
最早留まらぬ狂熱と共に。
最早止まらぬ狂喜と共に。

「大戦争を!! 一心不乱の大戦争を!! 」

振り下ろされた手と共に、狂気が進む。

415 :戦争を愉しむす者:2007/01/13(土) 19:12:35 ID:mV/8SDln0
「我らはわずかに一個大隊、千人に満たぬ敗残兵に過ぎない。
 だが諸君は、一騎当千の古強者だと私は信仰している。
 ならば我らは諸君と私で、総兵力100万と1人の軍集団となる。
 我々を忘却の彼方へと追いやり、眠りこけている連中を叩き起こそう。
 髪の毛をつかんで引きずり下ろし、眼を開けさせ思い出させよう。
 連中に恐怖の味を思い出させてやる。
 連中に我々の軍靴の音を思い出させてやる。
 天と地とのはざまには、奴らの哲学では思いもよらぬ事がある事を思い出させてやる。
 一千人の吸血鬼の戦闘団(カンプグルッペ)で、世界を燃やし尽くしてやる 」

一千人の吸血鬼たちに伝播した狂熱は、一つの意思となって進軍する。
戦争。
只それだけを求める兵どもの狂熱は、天と地の彼方へと突き進む。

「全フラッペン発動開始、旗艦デクス・ウキス・マキーネ始動」
「離床!!全ワイヤー、全牽引線、解除 」
「最後の大隊 大隊指揮官より 全空中艦隊へ」
「目標、英国本土。ロンドン首都上空!!
 第二次ゼーレヴェー作戦、状況を開始せよ。
 征くぞ、諸君」

かくして惨劇の幕は上がる。

416 :銀杏丸 ◆7zRTncc3r6 :2007/01/13(土) 19:18:00 ID:mV/8SDln0
うお、もう490kbこえてる!
ちょっとスレたててきます

417 :作者の都合により名無しです:2007/01/13(土) 19:26:36 ID:mV/8SDln0
新スレです
http://comic7.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1168683721/l50

失礼しましたーッ
この銀杏丸不徳の至りーッ

418 :作者の都合により名無しです:2007/01/19(金) 11:44:51 ID:x8TIuQhP0
保守あげ

419 :作者の都合により名無しです:2007/01/22(月) 21:50:29 ID:SuH4GXbb0

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