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ジャンプキャラ・バトルロワイヤル PART.12
- 1 :作者の都合により名無しです:2006/09/15(金) 03:45:49 ID:y4xfwPCf0
- このスレは週刊少年ジャンプのキャラクターで所謂バトルロワイアルのパロディをしようという企画スレです。
これはあくまで二次創作企画であり、集英社や各作品の作者等とは一切関係ありません。
それを踏まえて、みんなで盛り上げていきましょう。
※ここはSS投下専用スレになります。感想、議論は下のスレでお願いします。
ジャンプキャラ・バトルロワイアル感想議論スレ PART.24
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1157991086/
- 2 :作者の都合により名無しです:2006/09/15(金) 03:52:35 ID:y4xfwPCf0
- 2/4【こち亀】○両津勘吉 /○秋本麗子 /●中川圭一 /●大原大次郎
1/4【NARUTO】●うずまきナルト /○春野サクラ /●大蛇丸 /●奈良シカマル
2/4【DEATHNOTE】●夜神月 /○L(竜崎) /○弥海砂 /●火口卿介
2/4【BLEACH】●黒崎一護 /○藍染惣右介 /●更木剣八 /○朽木ルキア
2/4【ONE PIECE】○モンキー・D・ルフィ /●ニコ・ロビン /○ウソップ /●道化のバギー
1/4【銀魂】●坂田銀時 /●神楽 /●沖田総悟 /○志村新八
1/4【いちご100%】●真中淳平 /●西野つかさ /○東城綾 /●北大路さつき
1/4【テニスの王子様】○越前リョーマ /●竜崎桜乃 /●跡部景吾 /●乾貞治
2/4【アイシールド21】○小早川瀬那 /●蛭魔妖一 /○姉崎まもり /●進清十郎
0/4【HUNTER×HUNTER 】●ゴン・フリークス /●ヒソカ /●キルア・ゾルディック /●クロロ・ルシルフル
2/5【武装錬金】●武藤カズキ /○津村斗貴子 /●防人衛(C・ブラボー) /●ルナール・ニコラエフ /○蝶野攻爵(パピヨン)
1/5【SLAM DUNK】●桜木花道 /●流川楓 /●赤木晴子 /●三井寿 /○仙道彰
1/4【北斗の拳】○ケンシロウ /●ラオウ /●アミバ /●リン
0/4【キャプテン翼】●大空翼 /●日向小次郎 /●石崎了 /●若島津健
2/4【キン肉マン】○キン肉スグル /○ウォーズマン /●ラーメンマン /●バッファローマン
2/4【ジョジョの奇妙な冒険】○空条承太郎 /○ディオ・ブランドー /●エリザベス・ジョースター(リサリサ) /●ブローノ・ブチャラティ
2/4【幽遊白書】●浦飯幽助 /○飛影 /○桑原和馬 /●戸愚呂兄
0/4【遊戯王】●武藤遊戯 /●海馬瀬人 /●城之内克也 /●真崎杏子
1/4【CITY HUNTER】●冴羽リョウ /●伊集院隼人(海坊主) /○槇村香 /●野上冴子
3/4【ダイの大冒険】○ダイ /○ポップ /●マァム /○フレイザード
1/5【魁!!男塾】●剣桃太郎 /●伊達臣人 /●富樫源次 /●江田島平八 /○雷電
1/4【聖闘士星矢】○星矢 /●サガ /●一輝 /●デスマスク
1/4【るろうに剣心】●緋村剣心 /○志々雄真実 /●神谷薫 /●斎藤一
3/6【DRAGON BALL】○孫悟空 /●クリリン /●ブルマ /●桃白白 /○ピッコロ大魔王 /○ヤムチャ
0/4【封神演義】●太公望 /●蘇妲己 /●竜吉公主 /●趙公明
0/4【地獄先生ぬ〜べ〜】●鵺野鳴介 /●玉藻京介 /●ゆきめ /●稲葉郷子
0/4【BLACK CAT】●トレイン・ハートネット /●イヴ /●スヴェン・ボルフィード /●リンスレット・ウォーカー
1/4【BASTARD!! -暗黒の破壊神-】●ダーク・シュナイダー /○アビゲイル /●ガラ /●ティア・ノート・ヨーコ
0/5【ジャングルの王者ターちゃん】●ターちゃん /●ヂェーン /●アナベベ /●ペドロ・カズマイヤー /●エテ吉
2/4【とっても!ラッキーマン】○ラッキーマン(追手内洋一) /●勝利マン /○友情マン /●世直しマン
1/4【世紀末リーダー伝たけし!】●たけし /●ボンチュー /●ゴン蔵 /○マミー
38/130 (○生存/●死亡)
- 3 :作者の都合により名無しです:2006/09/15(金) 03:54:12 ID:y4xfwPCf0
- 生存者
2/4【こち亀】○両津勘吉 /○秋本麗子
1/4【NARUTO】○春野サクラ
2/4【DEATHNOTE】○L(竜崎) /○弥海砂
2/4【BLEACH】○藍染惣右介 /○朽木ルキア
2/4【ONE PIECE】○モンキー・D・ルフィ /○ウソップ
1/4【銀魂】○志村新八
1/4【いちご100%】○東城綾
1/4【テニスの王子様】○越前リョーマ
2/4【アイシールド21】○小早川瀬那 /○姉崎まもり
2/5【武装錬金】○津村斗貴子 /○蝶野攻爵(パピヨン)
1/5【SLAM DUNK】○仙道彰
1/4【北斗の拳】○ケンシロウ
2/4【キン肉マン】○キン肉スグル /○ウォーズマン
3/4【ジョジョの奇妙な冒険】○空条承太郎 /○ディオ・ブランドー
2/4【幽遊白書】○飛影 /○桑原和馬
1/4【CITY HUNTER】○槇村香
3/4【ダイの大冒険】○ダイ /○ポップ /○フレイザード
1/5【魁!!男塾】○雷電
1/4【聖闘士星矢】○星矢
1/4【るろうに剣心】○志々雄真実
3/6【DRAGON BALL】○孫悟空 /○ピッコロ大魔王 /○ヤムチャ
1/4【BASTARD!! -暗黒の破壊神-】○アビゲイル
2/4【とっても!ラッキーマン】○ラッキーマン(追手内洋一) /○友情マン
2/4【世紀末リーダー伝たけし!】○マミー
38/130 (○生存)
- 4 :作者の都合により名無しです:2006/09/15(金) 03:55:31 ID:y4xfwPCf0
- 前スレ
ジャンプキャラ・バトルロワイヤル PART.11
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1156162539/
ジャンプキャラ・バトルロワイアル PART.10
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1156162539/
ジャンプキャラ・バトルロワイアル PART.9
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1152461310/
ジャンプキャラ・バトルロワイアル PART.8
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1143723647/
ジャンプキャラ・バトルロワイアル PART.7
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1141575538/
ジャンプキャラ・バトルロワイアル PART.6
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1139506098/
ジャンプキャラ・バトルロワイアル PART.5
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1137897651/
ジャンプキャラ・バトルロワイアル PART.4
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1132239130/
ジャンプキャラ・バトルロワイアル PART.3
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1123891185/
ジャンプキャラ・バトルロワイアル PART.2
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1121088002/
ジャンプキャラ主人公&ヒロインバトルロワイアル
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1115216913/
ジャンプキャラ・バトルロワイアルSS投下専用スレ PART.1
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/cchara/1119971124/
ジャンプキャラ・バトルロワイアル準備スレ PART.2
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1116767239/
ジャンプキャラバトルロワイアル準備スレ PART.3
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/cchara/1117638620
- 5 :作者の都合により名無しです:2006/09/15(金) 03:56:01 ID:y4xfwPCf0
- 基本ルール
ttp://aaaaaa2005.hp.infoseek.co.jp/ruru.html
キャラ紹介
ttp://aaaaaa2005.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/keijiban/test/read.cgi/jbr/1139394301/2-11
支給品一覧
ttp://aaaaaa2005.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/keijiban/test/read.cgi/jbr/1139394301/34-37
制限のある専用武器
ttp://aaaaaa2005.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/keijiban/test/read.cgi/jbr/1139394301/38
まとめサイト(地図含む)
ttp://aaaaaa2005.hp.infoseek.co.jp/
まとめサイト(携帯版)
ttp://aaaaaa2005.hp.infoseek.co.jp/keitai/index.html
旧まとめサイト
ttp://jumproyal.exblog.jp/
パロロワ事典wiki
ttp://www11.atwiki.jp/row/
ジャンプロワ雑談チャット2
ttp://chat.mimora.com/common/chat.mpl?roomnum=245041
- 6 :天に立つ者、地に伏すけもの ◆Ga7wkxwkZg :2006/09/15(金) 03:59:47 ID:jftkxd5O0
- 「これ、もうこの自転車は……」
他にも、サブマシンガンや包丁、ベアークロー(まもり以外は『何か篭手のようなもの』としか認識していない)や
トランシーバーが、完全に使い物にならなくなっていた。
「少し凍ってる……ああ、ひょっとしたら、ヒャドを入れた弾丸のお陰で助かったのかも」
まだ食べられそうな食料を地面に並べながら、ダイが、ふと思いついたという風に、そんなことを言った。
「なるほど」
結局残されていたのは、全食料のおよそ半分か。
無事だった道具は、ペガサスの聖衣、ハーディス、クライストと、盤古幡くらいであった。
「……さて」
両津のため息に、木に背を預け、体育座りで顔をうつむけているまもりに視線が集中する。
ここからが、『確認作業』の本番だった。
「説明してくれるんだよな。ええ、まもり?」
仮にもここに居る全ての人間にとっての恩人、に対する態度とは言い難い。
しかし、両津は、自分くらいしか、この『尋問』を担当できる人間が、この場にいないということも知っていた。
ならば嫌な役とはいえ引き受ける。戦いで役に立てないのなら、それ以外の、全ての嫌な役を引き受ける。
それくらいのことをして見せなければ、大人として、警察官として、あまりに情けないではないか。
「こんな世界だ、わしらは互いに、せめて仲間同士でくらいは、信じあわなくちゃいかん。
そしてそんな時に、仲間同士、一番やってはいけないのは、嘘を吐くことだ。
くだらない、本当に些細な嘘からでも、こんな時には致命的な疑心暗鬼の種になる。
ましてやお前は―――」
麗子にちらと目をやる両津。
「わしらの元仲間と、襲われた方とはいえ、いざこざを起こしとるんだ。
麗子は今でもキルアという少年が、お前のことを襲ったとは、信じられないでいる。
星矢もだ。そしてそんな人間が、わしら全員を殺せるような武器を密かに隠して持っていた。
わしらがどう思ったかは……わかるよな?」
常識的な思考をたてに、突きつけるのではなく、自らに考えさせて、証言を引き出す。
取調べの常套手段。
「なあ……正直なところを言ってくれんか?
歪な形でとはいえ、わしらはお前を助け、そしてお前はわしらを助けてくれた。
互いを助け合ったこれを、本当の信頼関係にするには、嘘を言った理由、お前の考えていることを打ち明けてもらうしかない。
わしは、わしはな―――」
一呼吸、ためる。
- 7 :天に立つ者、地に伏すけもの ◆Ga7wkxwkZg :2006/09/15(金) 04:02:04 ID:jftkxd5O0
- 「わしは、たとえお前が人を殺していても、そのことを正直に告白してくれるなら、受け入れるつもりでいる」
「両ちゃん!?」
「両津さん!?」
驚くダイたち三人に、振り返った両津の顔は真剣だった。
「わしは警官だ。まだ職歴も浅い麗子にはわからんかもしれん。だがな、人間、切羽詰るとなにをしでかすかなんて、本当にわからんもんなんだ。
そしてな、そういった状況では、殺した方が殺されたほうより『悪い』とは限らん―――」
ずしりとした人生経験の説得力。重い沈黙が、あたりに満ちる。
「好むと好まざるに関わらず、こうして全ての支給品が、全員の前に明かされた。
わしらは、嘘を吐いとらんかったろう? だが、お前は嘘を吐いていた。
そして、まだ『隠すもの』があるとしたら、それはまもり、お前の心に」
「……ごめんなさい……」
「……ごめんなさい……ごめんなさい……」
「……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」
「……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」
「……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……!!!」
両津の言葉が、途切れる。いや、途切れ、させられた。
まもりは、いつしか泣きだしていた。
ぽつぽつ落ちた涙粒が、すねとふくらはぎを伝うのが、場違いに色っぽいなと両津は余計なことを考えてしまった。
「……嘘を吐いていました。……たしかに嘘を吐いていました」
上げられたまもりの顔は、今までの無表情ぶりが嘘のように崩れきっている。
「……本当のことを言います……。だから……だからお願い…………セナを助けてあげて……!!!」
「……なるほど、な……」
両津は、まもり説明を聞き終わり、深くうなずいていた。
まもりの居た世界。両津や星矢の居たそこと酷似した、しかし青春の汗と友情、切磋琢磨が全てだったその世界。
そこに居た、悪魔のように頼りになる少年。
そしてもう一人の、かけがえの無い少年。
- 8 :天に立つ者、地に伏すけもの ◆Ga7wkxwkZg :2006/09/15(金) 04:04:27 ID:jftkxd5O0
- 彼らを守るため、まもりが自分にできることは何かを必死に考えたこと。
しかし結局『なにも出来なかった』こと……。
悪魔のような少年が死んだこと……。
そして、本当にもうどうしていいか、わからなくなってしまったこと……。
「私は、もう、いいんです……信用できないなら……このままここへ置いて行ってくださっても構いません……」
紛れも無い本気の目で、まもりはそう言い切った。
「でもセナは……セナだけは助けてあげて欲しいんです……!!
あの子きっと震えてる……今もどこかで震えてるんです……!!」
嘘のかけらも無い瞳が、両津にすがり付いていた。
「むむ……」
さもありなんと思われた。
まもりのいた世界は、ダイや星矢たちの居た世界、あるいは両津の居た世界と比べてさえも
さらに『常識的』な世界だった。そんな世界から来た、ただでさえ臆病な少年。
とてもではないがこの修羅界にも等しい闘争地獄で、いつまでも正気を保っていられるとは思えない。
誘導尋問のつもりが思わぬ懇願をされて、戸惑うと同時に急激に両津は自分の推論に自信が持てなくなっていた。
そう、もしまもりが自分のことしか考えないマーダーという人種であるとするならば
そんな人間がはたして「自分はいいから知り合いを救って欲しい」と本気でそんなことを望むだろうか?
(……わしの台詞に、たとえば「正当防衛で、自分は悪くないけど人を殺した」とか
「それでも私はぜんぜん悪いことはしませんでした。だから仲間に入れて」とか言ったなら、かえって疑いを深められたんだが……これは……)
両津自身、そもそも自分の推論が、かなり無理した仮定を重ねてのそれであるということを自覚していた。
今回のこれだって、悪事というほどの隠し事では実は無いのだ。
『両津たちを信用しきれなくて切り札を隠していた』
そう言われれば、出会って以降も微妙に仲間はずれにしていたという『事実』があるだけに
こちらもあまり相手を強く責められる立場でもない。
だがたとえそれで関係が険悪になっても、今の不気味な状態を続けるよりは悪くはなるまいと
それで、こうして強く出てみたのだが……。
(……そういえば、初めて出会った時も、真っ先にそのセナという少年の所在を尋ねてきたな……)
思考が今までと逆のベクトルに向かわせてみれば、そちらはそちらで『傍証』がいくらでもあるということに今更気づく。
「…………じゃあ、キルアちゃんのことも……本当だったの……?」
すこしだけ貰い泣きしそうになっていた麗子が、考え込む両津によってもたらされた沈黙に
おずおずとそんな質問を挟みこむ。
- 9 :天に立つ者、地に伏すけもの ◆Ga7wkxwkZg :2006/09/15(金) 04:06:25 ID:jftkxd5O0
- 「……それは……信じてください……本当なんです。……でも、そういえばあの子、私を殺さなかった……。
どうしても仲間を助けたいんだって……そのために強い武器が必要なんだって……そう、言ってました……」
「……そう……」
キルアに荷物を奪われるような状況にありながら、何故まもりは殺されなかったのか?
言われて気づくその不自然さに、情理両面から絶妙に折り合いをつけた説明がなされ、麗子が哀しそうにうつむいた。
(……なるほど。そうだな。キルアの例もあったんだった。わしらにとっては信用できる仲間であっても
何かの事情があれば仲間以外の者を襲うマーダーになり得る……いや、あえて見逃したというのなら
キルアは『道を踏み外した者』ではあるが『マーダー』とは呼べんか……。
……しかしそうなるとあの返り血が何なのかが、尚更分からん……。
ヤムチャの場合も、まもりを『襲って』はいても『殺そうとはしていなかった』という可能性なら大いにあり得そうだ……)
というよりヤムチャという人格は『人を殺す覚悟も持てないが、なんとなく道を踏み外してしまいました』
そういうパターンの想像図でなら、誰をも物凄く納得させてしまうような、何かとても情けない特有の空気を持っていたものだ。
(そして何より……これが演技にはとても見えん……)
そして現実問題として、持てる全ての手札を明かしてしまったまもりには、
もはや両津たちの不意を突き殺す、武器のひとつすら残されてはいないのだ。
(猥雑な道具が全て吹き飛んでしまったのは、あるいは僥倖だったのかもしれんな……)
両津が気持ちの上でも、道理の上でも急激にまもりを『信じる気』になっていると
それがまるで分かっているかのように、まもりによって最後の駄目押しがされた。
「……嘘を吐いていたのは悪かったと思います……でも、でも怖かったんです……。
一度、ゲームがはじまったばかりの頃、
私、この世界で出会って、はじめて信用した人に……見捨てられてしまって……。
足手まといの私が悪かったってことは分かってるんです……
でも……それからは、どうしてもセナたち以外を信じる気には……」
だから切り札を隠した。
だから必要最低限しか関わらなかった。
そう説明されれば、あの、どこか心に壁のあるようなまもりの態度も、綺麗に両津たちの腑に落ちた。
そうして、だけど変わったのだとも、まもりは言った。
両津たちが何の役にも立たない自分を見捨てなかったこと。
大切な支給品を、仲間内ではなく『まもりを救うために差し出して』くれたこと。
それがまもりの堅く閉ざされていた心に、この人たちならセナを、まもりを助けてくれるかもしれないと、希望を抱かせてくれたこと。
- 10 :天に立つ者、地に伏すけもの ◆Ga7wkxwkZg :2006/09/15(金) 04:09:57 ID:jftkxd5O0
- だからあえて『はじめて手を汚した』。
爆弾の存在を明かせば、疑義の目で見られるかもしれないという、その危険を犯してまでも―――
「わかった―――」
膝をつき、滂沱の涙を流すまもりをかき抱き、両津はその頭をゆっくりと撫でる。
「わかったよまもり」
目線で星矢、ダイ、麗子と頷きあいながら、両津は言葉をとどめない。
「お前はこれから―――わしらの本当の仲間だ。もちろんそのセナって子もな。
正直、居所は見当もつかんが―――」
いいんです。もし見つけたらで。
涙声で言うまもりに、ダイが両津の後ろから声をかける。
「これからはまもりも一緒に行こう! そうしてこんな世界からは脱出して、力を合わせてバーンを倒すんだ!!」
星矢も応じ、自らの宿敵の名をそこに連ねる。
「ハーデスもな!」
麗子が涙目で、喉をつまらせながら、それでも言った。
「フリーザって、あの気持ちの悪いオカマ口調もついでにやっちゃいましょう?」
……どうやら、今でも多少は疑いの気持ちを持ち続けているのは両津一人のようだった。
まもりの話を疑いもしていないのだろう三人のその態度に
気持ちのいい奴らだと思いながらも、危なっかしい奴らだという心配は拭い去れない。
だがまあ、あの本気の目からしても、武器が無いという事実からしても
(もう監視するのは自分ひとりでも問題ないか)
と心の中だけで思いながら、両津は最後に、いつものようにおどけて見せた。
「おいおい、ハーデスには他の連中を生き返らせてもらわなきゃならんのだ
半殺しとかで済ませとかないと、あの世に行った時、部長になんて言われるかわからんぞ?」
朗らかな笑いが森に木霊する。
森を覆っていた霧は、もうどこを探しても見当たらなかった。
雲の切れ間から覗いたほんのちょっとの太陽に照らされて、やっと顔を上げたまもりが、すこしだけ、はにかんだ。
- 11 :天に立つ者、地に伏すけもの ◆Ga7wkxwkZg :2006/09/15(金) 04:11:07 ID:jftkxd5O0
-
なんとか上手くいったようだ。
疑われていることは重々承知していたので、どちらかといえば拍子抜けしてしまったが、
よくよく考えてみればその疑いがそれほど確信的なものであれば、
あのシーン両津たちが大人しく支給品を藍染に引き渡すわけも無かった。
結局はその程度の『疑い』でしかなかったのだろう。
両津たちの誤算は、おそらく、マーダーであれば『本気で他人の保護を求める筈が無い』という
言ってしまえば偏見のため。
そして、肝心要のところでまもりが結局嘘を吐かなかった、ということだろう。
いかに犯罪者を見慣れた警察官とはいえ、いや、見慣れた警察官だからこそ
本気で人を慮る声に耳を傾けない筈は無かったのだ。
彼らなら信じられると思った―――――単にシステムを信じるのと同じ、それでしかないけども。
彼らにならセナを託せると思った―――――たとえそれが単なる、保険だとしても。
自分は変わった―――――あのまま半端に疑われたままでは、どうしようも無いと知ったから。
大体において、まもりが殺せた人間たちとは、つまるところ、まもりとある種の『信頼関係』を結んだ者たちなのだ。
隠密性を失った自分がいかに無力か、それをここ暫くの時で、まもりは嫌になるほど学ばさせられた。
そして真にまもりが恐れるべきものとは、皮肉な話だが、ダイたちのような『正義』を胸に抱くものではなく
藍染のような『まもりと似たメンタリティを持つ者』『人を易々と殺してみせる者』なのだとも。
そう――――『彼ら』『マーダー』を、ダイたちが狩るというならそれを助けよう。
ダイたちとともにあることで、自分が『足手まとい』になるというならそれも良い。
『弱者』である自分を庇うことで傷つく『強者』、どちらに転んでも、自分にまったく損は無いのだ――――。
ふとまもりは、自分が、ダイたちを、本当の意味で信じかけていること、
そして彼らの語る『脱出』をも信じかけていることに、気がついた。
それなのに、『脱出』ではなく『優勝』を望んでいる自分に、まもりは今度は、密やかに、演技ではなく笑っていた――――。
- 12 :天に立つ者、地に伏すけもの ◆Ga7wkxwkZg :2006/09/15(金) 04:12:54 ID:jftkxd5O0
- 【四国調査隊】
共通思考1:四国に向かう(数十分後、到着予定)。
2:仲間が死んでも泣かない。
3:出来る限り別行動はとらない。
4:ハーデスに死者全員を生き返らせさせる。
【両津勘吉@こち亀】
[状態]睡眠不足による若干の疲労、額に軽い傷
[装備]装飾銃ハーディス@BLACK CAT
[道具]支給品一式、食料二日分プラス二食分
(爆発でどれが誰のか分からなくなったので、絆を深めるために平等に再分配した)
[思考]1:まもりと麗子を守る決意(ついでに自分だけはそれとなく監視を続ける)。
2:セナを探す。
3:仲間を増やす。
4:三日目の朝には全員で兵庫に。だめなら琵琶湖に集合する(念の為まもりの件を確認できたらする)。
5:沖縄へと向かう。
6:主催者を倒す。
【秋元・カトリーヌ・麗子@こち亀】
[状態]中度の疲労
[装備]滅茶苦茶に歪んだサブマシンガン(鈍器代わり)
[道具]支給品一式、食料二日分プラス二食分
(爆発でどれが誰のか分からなくなったので、絆を深めるために平等に再分配した)
[思考]1:もう足手まといにはならない。
2:セナを探す。
3:四国へと向かう。
4:まもりを守る。
5:沖縄へと向かう。
6:主催者を倒す。
- 13 :天に立つ者、地に伏すけもの ◆Ga7wkxwkZg :2006/09/15(金) 04:14:44 ID:jftkxd5O0
- 【ダイ@ダイの大冒険】
[状態]健康、MP中量消費
[装備]クライスト@BLACK CAT
[道具]支給品一式、食料二日分プラス二食分
(爆発でどれが誰のか分からなくなったので、絆を深めるために平等に再分配した)
[思考]1:まもりと麗子を守る決意。
2:セナを探す。
3:四国へと向かう。
4:ポップを探す。
5:沖縄へと向かう。
6:主催者を倒す。
【姉崎まもり@アイシールド21】
[状態]中度の疲労、殴打による頭痛、腹痛、右腕関節に痛み(痛みは大分引いてきている)
右肩の軽い脱臼、不退転の決意
[装備]焦げたねじれ鉄パイプ(護身用に両津が廃棄した自転車から取り外した)
[道具]支給品一式、食料二日分プラス二食分
(爆発でどれが誰のか分からなくなったので、絆を深めるために平等に再分配した)
[思考]1:信頼関係を維持する(それがなければ下記の選択肢を自由に選ぶこともできないと気が付いた)。
2:できればセナを保護したい(自分が斃れた場合、両津らにセナを守ってもらう)。
3:星矢たちを『暗殺』する(セナのために脱出パターンへの備えはするが、脱出派では無い)。
4:星矢たちの足を引っ張りその戦力を削る。
5:星矢たちが許さない生粋マーダーを減らすため協力する。
6:セナ以外の全員を殺害し、最後には自害。セナを優勝させ、ヒル魔を蘇生してもらう。
- 14 :天に立つ者、地に伏すけもの ◆Ga7wkxwkZg :2006/09/15(金) 04:20:41 ID:jftkxd5O0
- 【星矢@聖闘士星矢】
[状態]中程度の疲労、全身に無数の裂傷
[装備]ペガサスの聖衣@聖闘士星矢
[道具]支給品一式、食料二日分プラス二食分
(爆発でどれが誰のか分からなくなったので、絆を深めるために平等に再分配した)
[思考]1:まもりと麗子を守る決意。
2:セナを探す。
3:四国へと向かう。
4:弱者を助ける。
5:沖縄へと向かう。
6:主催者を倒す。
ベギラマ、イオラ、バギマ、メラミ、焦げた首輪、首輪×2、爆砕符×2
マグナムリボルバーの銃弾50発、ヒャド、ヒャダルコ×2、ベホイミ
高性能時限爆弾が爆発した際、誘爆したのは以上11種類です。
ヒャド系とベホイミが混ざっていた為、支給品一式と食料の半分ほどが助かり、また藍染は辛うじて即死しませんでした。
【藍染惣右介@BLEACH――死亡確認】
【残り37人】
- 15 : ◆hR0cu29K.I :2006/09/15(金) 05:27:06 ID:AfZ9m8PS0
- 「刀がねぇんじゃ交渉の余地はねぇな・・・と、言いたいところだが
その地獄宛ての葉書とやらにゃあちょっとばかし興味があるな。
どうせ役立たずなモンだ。どっちか片方とだったら交換してやるよ」
兵庫県を滑走中の列車、車内にて
長鼻と魔法使いが包帯の悪魔と交渉を始める。
「ほんとか!!だったらおれのパチンコと!!」
しめたとばかりにウソップが立ち上がった。
「ま、待てよウソップ!そんなおもちゃよりもフェザーが先だ!!」
「な、テメエ!ウソップ海賊団にまつわる由緒正しき伝説の武器をおもちゃだと!!
それにこれはもともとおれの支給品だろ!とやかく言われる筋合いはねえよ!!」
「ちげぇよ!オマエには分かんないかも知れねーけどあれはただの羽根じゃ無いんだ!」
「ちっ・・・」
遠巻きにその様子を伺っていたパピヨンが悪態をついた。
(ぺらぺらと弱みを見せやがって・・・敵対交渉もままならんのか
- 16 :A列車で交渉をしよう ◆hR0cu29K.I :2006/09/15(金) 05:29:53 ID:AfZ9m8PS0
-
「ほう、この羽根にゃなにか特別な使い道があるってのか?」
しまったと思ったが時既に遅し。
「・・・・・・」
使い道が分からなければただの飾りでしかないアイテムも
利用価値があると分かれば違ってくる。
不覚にも自ら競り落とすアイテムの付加価値をあげてしまった。
「どんな使い道があるんだ?」
「そ、それは・・・」
頭をフル回転する。
交渉事が苦手なわけではないが思わず痛手を踏んでしまった。
なんとかリカバーするためにベストな答えを叩き出そうとするが敵はそんな猶予を与える気も無いようだ。
「はっきりしろよ。これでも気は短い方でな・・・
話す気がねえんなら交換はこっちの襤褸屑で決定だ。」
「ま、待て・・・」
思いつく限りではシシオにフェザーの有益な用途は無い。
ここは正直に話すべきと踏む
「こ、このゲームに・・・大幅な能力制限がかけられているのは知ってるか?
その羽根を使えばもしかしたらその制限をとくことができるかもしれない。」
「どういうことだ?」
これには傍観していたパピヨンも反応した。
- 17 :A列車で交渉をしよう ◆hR0cu29K.I :2006/09/15(金) 05:31:06 ID:AfZ9m8PS0
-
「その羽根の先にある石は"輝石"っていう魔力を蓄積しておくことができる特殊な石なんだ。
呪文が使えないヤツにはほとんど使い道はねえが・・・
俺みたいに呪文が使えるヤツはその威力を増幅させることができる」
「ほう・・・それで?てめえは何をしようってんだ?」
「可能性があるのは二つの破邪呪文だ。『シャナク』と『マホカトール』を試してみる。
シャナクってのは呪いを解く呪文だ。この能力制限が呪いの類によるものならゴールドフェザーで破邪力を強化すれば効くかもしれない。
そんでもう一つのマホカトールだが、コイツはかなりの高確率で成功すると思う。
五芒星で作られる結界で外界からの邪悪な干渉を拒絶した空間を作ることができる。もしかしたら・・・」
そう言い掛けて首輪を指差した。
盗聴を警戒して声には出さなかったがシシオにも意図したことは伝わったらしい。
「成る程、確かに癪に障ってたところだ。」
ニヤリと不敵に笑う。
仇敵である緋村剣心を屠ったシシオにとって、
目下の敵はバーン・フリーザ・ハーデスといったゲームの主催者達。
ただし脱出計画に興がないシシオにとって、優勝して主催者を倒すというシナリオが「天下獲り」の筋書きだったが、
この首輪だけは邪魔だ。言葉通り『ネック』であった。
- 18 :A列車で交渉をしよう ◆hR0cu29K.I :2006/09/15(金) 05:32:03 ID:AfZ9m8PS0
-
「案外と利害関係が一致しちまったな。
コイツはやれねぇがお前の言う実験には付き合ってやるのはかまわねえ。
必然的にそれまではお仲間ってコトになるが・・・
そちらの蝶々野郎は俺が同行することに不満じゃあねえのか?」
「蝶不本意だ」
間髪入れずにパピヨンが返す。
「――と言いたいところだが・・・条件次第だな。
その羽根・・・半分は貴様が持っていて構わんが、もう半分はこちらによこせ」
「そいつはできねぇ相談だ。
テメエ等が羽根だけ持って逃げねぇって保障がどこにあるってんだ?」
二人の狂人が睨み合い殺気が漂う。
「ハハッ!莫迦な。逃げる必要が何処にある?
強硬手段なら貴様を殺して全て奪う方がよほど理に適ってるだろう。」
緊張した空気が車両を埋め尽くした。
(こ、こいつら・・・やっぱおっかねぇ〜)
習性からウソップは自然と二人から距離を置いて車両後方席から二人を覗き見る。
- 19 :A列車で交渉をしよう ◆hR0cu29K.I :2006/09/15(金) 05:33:11 ID:AfZ9m8PS0
- 戦闘が始まった時のことを考えて身の安全を確保したつもりだった、が
「フッ、違えねえな。」
意外にもシシオはフェザーの半分を投げて遣した。
「コイツは互いの信頼の証って訳だ。」
パピヨンがしたり顔で笑う。
黙ったままポップは頷いた。
辛くもこれで交渉は成立。
圧倒的にシシオ優位かと思われた中でフェザーを勝ち取ったのはパピヨンの功績と言える。
狂人同士によって紡がれたのは意外にも希望への盟約。
一縷の望みを乗せて列車は大阪へと迫る。
待ち受けるのは新たな邂逅。
【兵庫県/汽車内/朝】
- 20 :A列車で交渉をしよう ◆hR0cu29K.I :2006/09/15(金) 05:34:46 ID:AfZ9m8PS0
- 【志々雄真実@るろうに剣心】
[状態]:全身に軽度の裂傷
[装備]:衝撃貝の仕込まれた篭手(右腕)@ワンピース、飛刀@封神演義
[道具]:荷物一式 八人分(食料、水二日分消費)、コルトローマンMKV@シティーハンター(ただし照準はメチャクチャ)(残弾1)
:青雲剣@封神演義、パチンコ@ONE PIECE(鉛星、卵星)
:ゴールドフェザー2本 シルバーフェザー3本@ダイの大冒険、キメラの翼@ダイの大冒険
:弾丸各種(マグナムリボルバーの弾なし) 、ソーイングセット、半透明ゴミ袋10枚入り1パック
[思考]:1:パピヨン達に首輪の解除をさせる。
2:無限刃を手に入れる
3:無理に戦う気はない。誰かを利用して参加者を減らせるなら、それが理想。(15分の時間制限のため)
4:強力な敵や多人数と戦う場合は、作戦を立てて対抗する。できれば無限刃を持った万全の状態で挑みたい。
5:長時間戦える東北へ向かう・・・?
6:少しでも多く参加者が減るように利用する。
7:全員殺し生き残る
【ウソップ@ワンピース】
[状態]:健康
[装備]:賢者のアクアマリン@ハンター×ハンター
:いびつなパチンコ(特製チクチク星×5、石数個)
:ボロいスカーフ(団員の証として)
:大量の輪ゴム
[道具]:荷物一式(食料・水、残り3/4)
:死者への往復葉書@ハンター×ハンター (カード化解除。残り八枚) 参號夷腕坊@るろうに剣心
:スナイパーライフル(残弾16発) ボロいスカーフ×2
[思考]1:オレのパチンコはどうなった?(怖くて聞けない)
2:ルフィ・ポップの仲間との合流
3:アイテムを信じて仲間を探す
4:全てが終わった後、死んだ参加者のためにとむらいの鐘を鳴らす。
- 21 :A列車で交渉をしよう ◆hR0cu29K.I :2006/09/15(金) 05:38:08 ID:AfZ9m8PS0
- 【ポップ@ダイの大冒険】
[状態]:健康 (MP全快)
[装備]:魔封環@幽遊白書 、アバンのしるし@ダイの大冒険
:ウソップ作の仕込み杖(投げナイフを使用) 、死者への往復葉書@ハンター×ハンター(ウソップから譲って貰った)
:ボロいスカーフ(仲間の証として)
:ゴールドフェザー 3本 シルバーフェザー 2本@ダイの大冒険、キメラの翼@ダイの大冒険
[道具]:荷物一式×3(食料・水、一日分消費) 首輪×2 ※玉藻、跡部の荷物を回収しました
[思考]1:脱出の鍵を探す。
2:ダイ・ウソップの仲間との合流
3:夜になったら死者への往復葉書を使ってマァムに手紙を書く。
4:フレイザードを早めに倒す
5:パピヨンはやはりあまり信用していない
【パピヨン@武装錬金】
[状態]:健康 核鉄で常時ヒーリング
[装備]:核鉄LXX@武装錬金(ニアデスハピネス微量消費)
:ボロいスカーフ(首輪から監視されていた場合への対策)
[道具]:荷物一式×4(食糧二食分消費)首輪×2、ベアクロー(片方)@キン肉マン ※ヒソカ、一輝の荷物を回収しました
[思考]:1:武藤カズキを生き返らせる。手段は問わない。ただし主催者の思い通りになるのは拒否
2:首輪を調べる。爆破実験は迂闊に行うべきではないと思っている(少なくとももっと脱出の為の駒が集まってから)
3:大阪・名古屋・東京のいずれかの大都市で汽車を降りる。首輪の解除に役立つ人間またはアイテムを探す
4:志々雄を危険視。対策を立てる。自分達が有利な広いフィールド、又は拠点の捜索。
5:ツリ目の少年の情報を得る。ツリ目の少年は見つけ次第殺す
6:他の参加者と必要以上に馴れ合う気はない
- 22 :A列車で交渉をしよう ◆hR0cu29K.I :2006/09/15(金) 05:38:54 ID:AfZ9m8PS0
-
<首輪の調査案 その@>
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
1.死体の首輪で爆発力を調査(調査トリガー:情報不足のため、脱出の目処がつく/有力な仲間ができるまで保留)
1.1 死体の首輪が爆発しなかった場合 → 外部から首輪を破壊する(首輪が誘爆するかは不明)
2.項目1の結果を受けて列車の中で、起爆トリガーの調査
2.1 禁止エリアがトリガーだった場合 → 列車内の調査
2.2 主催者側の監視がトリガーだった場合 → 予備の首輪の爆破実験を行い、主催側の視界の調査
3.項目1で破壊した、首輪の破片の分析(パピヨン・ウソップ)
4.「呪い」の調査、及び対処法の考案(ポップ) ⇒ シャナクを使ってみる
5.マホカトールを使用した首輪への外部干渉の断絶(調査トリガー:項目1、項目2を受けて本格解除を前提とした行動)
- 23 :A列車で交渉をしよう(修正) ◆hR0cu29K.I :2006/09/15(金) 05:54:53 ID:AfZ9m8PS0
- 以下の文中、「シシオ」を「志々雄」へ修正願います。
>>16
>思いつく限りではシシオにフェザーの有益な用途は無い。
>>17
>盗聴を警戒して声には出さなかったがシシオにも意図したことは伝わったらしい。
>仇敵である緋村剣心を屠ったシシオにとって
>ただし脱出計画に興がないシシオにとって、優勝して主催者を倒すというシナリオが「天下獲り」の筋書きだったが、
>>19
>意外にもシシオはフェザーの半分を投げて遣した。
>圧倒的にシシオ優位かと思われた中でフェザーを勝ち取ったのはパピヨンの功績と言える。
- 24 :天に立つ者、地に伏すけもの(修正) ◆Ga7wkxwkZg :2006/09/15(金) 14:55:58 ID:jftkxd5O0
- >>12の両津の道具欄に「盤古幡@封神演技」を追加します。
【両津勘吉@こち亀】
[状態]睡眠不足による若干の疲労、額に軽い傷
[装備]装飾銃ハーディス@BLACK CAT
[道具]盤古幡@封神演技、支給品一式、食料二日分プラス二食分
(爆発でどれが誰のか分からなくなったので、絆を深めるために平等に再分配した)
[思考]1:まもりと麗子を守る決意(ついでに自分だけはそれとなく監視を続ける)。
2:セナを探す。
3:仲間を増やす。
4:三日目の朝には全員で兵庫に。だめなら琵琶湖に集合する(念の為まもりの件を確認できたらする)。
5:沖縄へと向かう。
6:主催者を倒す。
- 25 :天に立つ者、地に伏すけもの(修正) ◆Ga7wkxwkZg :2006/09/15(金) 15:54:34 ID:jftkxd5O0
- >>12の【四国調査隊】に状態表を追加します。
【兵庫県/二日目/午前】
- 26 :新先生 ◆LNZixO6612 :2006/09/16(土) 02:41:18 ID:KsYIFPr60
- 斬が、剣を翳す。
「 一 瞬 だ。 オ レ の 剣 戯 に 酔 い な!!」
―FIRST CRASH〜陵辱の凶狂刹光血吊死魔劇斬"47”『最終章TYPE ZERO』―
世界は切り裂かれた。
そして、その場に残されたのは斬、タカヤ、そして一人の少女。
- 27 :新先生 ◆LNZixO6612 :2006/09/16(土) 02:42:21 ID:KsYIFPr60
- 【ヤムチャ@ドラゴンボール】
[状態]:超ウルフ人 SPARKING Neo
右小指喪失・左耳喪失・左脇腹に創傷(全て治療済み)
超神水克服(力が限界まで引き出される)・五行封印(気が上手く引き出せない)
[装備]:フリーザ、ハーデス、バーンの死体
[道具]:荷物一式(伊達のもの)、一日分の食料
[思考]:1.タカヤをころす。
2.最終形態へ
3.斗貴子達と合流後、四国で両津達と合流。協力を仰ぐ。
4.四国で合流できない場合、予定通り3日目の朝には兵庫県に戻る。無理なら琵琶湖。
5.クリリンの計画に協力。人数を減らす。
6.友情マンを警戒(人相は斗貴子から伝えられている)。
【タカヤ@夜明けの炎刃王】
[状態]:タカヤ・ルシフェルΩ
右小指喪失・左耳喪失・顔面喪失・両足喪失・左脇腹に創傷(全て治療済み)
[装備]:世直しマンの鎧
[道具]:荷物一式、一日分の食料
[思考]:1.奥義発動
2.ヤムチャをころす
- 28 :魂の座 1 ◆xJowo/pURw :2006/09/21(木) 00:01:34 ID:cEpOsD5C0
- ザ――――――
「・・・ここは・・・」
そこは暗い森の中だった。そこに蔓延る木々の中でも一際大きな杉の木の根元に、ケンシロウは凭れ掛っていた。
鬱蒼と茂る木々と厚い雲に遮られ、そこにはわずかな光しか届かない。
梢と、その合間にのぞく地面からは、久しく聞いた憶えのない雑音が絶えず鳴り続けている。
これは雨音。そう、雨が降っているのだ。
改めて見れば、確かにケンシロウの体は、枝葉の隙間から零れた雫でしっとりと濡れていた。
不思議と寒くは無い。それどころか、身体が、背中が焼け付く様に熱い。
「・・・ぐっ・・・」
そして、身体が思うように動かない。
どうやら背中に大きな傷があるようだ。痛みをあまり感じないのはその深さ故なのだろうか?
しかし、自分の身に何が起こったのだろうか。
ゆっくりと、自分の記憶を辿ってみる。
北斗神拳継承者として育ち、ユリアと出会い、核の炎を潜り抜け・・・
立ち塞がる数多の漢と拳を交えた。
そして気付かぬ内に見知らぬ土地に運ばれ、彷徨っていた。
・・・改めて己の半生を顧みれば、なんと起伏に富んだ人生だろうか。
一瞬、その全てが夢であったのでは無いかと錯覚を覚える。
だが。
ケンシロウは己の拳を見つめる。
硬く、傷だらけの武骨な掌。
シン、レイ、シュウ、ユダ、サウザー・・・
拳を交え、共に闘った南斗の男達の姿がよぎる。
ジャギ、トキ、ラオウ・・・
一子相伝の流派を巡って闘った、兄達の雄姿が蘇る。
そして、ケンシロウの眼差しに呼応するように、その拳には仄かな熱が宿る。
- 29 :魂の座 2 ◆xJowo/pURw :2006/09/21(木) 00:03:00 ID:cEpOsD5C0
- そう、この拳に刻まれた記憶は、偽りようの無い、俺の記憶だ。
そう――これは夢ではない。
ここは暴力の支配する、殺戮の大地。
これまでに2人の男と拳を交え、幾人かの人々と出会い、そして、その多くは救うことが出来なかった。
俺と闘った一人――DIO。
その目は冷たく、だが蟲惑的で、全ての生ある者を見下しているようだった。
あの男の――『スタンド』とやらの拳には、今までに闘った男と違い、“魂”と呼べるものが感じられない。
奴には、憎悪を抱くことすら躊躇う様な、『邪悪』を感じる。
そして、そのDIOの仲間、黒衣の男、ウォーズマン。
奴の目も生気を感じない冷たさだったが、DIOとは違い『感情』のようなものを漏れ感じる。
恐怖に怯え、それらから逃れるために感情全てを押し殺したような・・・
「・・・むっ!」
徐々に眼が慣れてくるにつれ、森の闇に隠されたモノが、段々と形を帯びてくる。
いつの間にそこに居たのか?
いや、はじめからそこに居たのだ。
全く気配を感じさせずに、黒衣の戦闘マシーンが、眼前に立っていた。
* * * * * *
- 30 :魂の座 3 ◆xJowo/pURw :2006/09/21(木) 00:03:38 ID:Fa0mALod0
- 思い返せば、なぜこのようなことをしたのだろう。
この男をDIOの元へ連れ帰れば、またDIOに褒めて貰える。
そして、この胸の中の妙な違和感も消え、再び心地よい『安心』が得られただろう。
なのに、私はこの男を連れ帰らなかった。
あの時・・・燃焼砲が発射されたとき、この男は身を呈して俺を庇ったように見えた。
だが、そんなことがあるはずが無い。戦闘中の敵を庇うなどありえない事だ。
そもそもこの男の拳には、明らかに殺意が込められていた。
だが・・・殺意だけではない、何か別のモノも共に込められていたのだ。
熱く、胸を焦がす何かが。
この男は、どこか似ているのだ。『あの男』に。
声は少し似ているが、容姿も雰囲気も全く異なる。
だが、2人に共通する何かを、はっきりと感じ取れるのだ。
彼を観察して分かる事が。
拳を交えることで感じ取れる何かが。
“魂”とでも言うべきだろうか。
弱き者を助ける優しさ。
道を誤らない賢さ。
真直ぐに道を歩む強さ。
・・・そう、今の自分には無い物達だ。
では、今の自分には“魂”が無いのだろうか・・・
確かめなければならない。
直接問い質さねばならない。この男の“魂”を。
・・・私の“魂”の存在を。
- 31 :魂の座 4 ◆xJowo/pURw :2006/09/21(木) 00:04:57 ID:cEpOsD5C0
-
男が私に気付いたようだ。
「貴様は・・・」
ケンシロウが、ゆっくりと立ち上がる。
しかし傷の影響は大きいようだ。立っているのがやっとに見える。
だが、傷の深さを感じさせない闘気と殺気がその体から滲み出す。
「・・・どういうつもりだ。何故、止めを刺さない。」
その質問は尤もだ。
しかし、その明確な答えは自分でも分からない。
まるで自問自答するような気持ちで、ケンシロウに言葉を投げかける。
「オマエヲ生カシテ連レテ行クノガ俺ノ役目ダ。」
「では、何故DIOの元へ連れて行かない?それともDIOがここに居るのか?」
「DIOハ・・・居ナイ。オマエヲ連レテ行カナイノハ、俺ノ意思ダ。」
「意思・・・だと?」
「ソウダ。オマエニ聞キタイコトガアル。」
そして、肝心の問いを吐き出す。
「・・・ナゼ、俺ヲカバッタ?」
ケンシロウの眉間に皺が浮かぶ。不可解、といった表情だ。
そして、ケンシロウが答える。
「お前を庇った憶えはない。」
それは、自分が求めた答えではなかった。
自分の迷いを晴らし、心に生じた亀裂を解消してくれるものではなかった。
やはり、ケンシロウが自分を庇ったように見えたのは、只の偶然だったのか。
「ソウカ・・・」
ケンシロウの言葉に少なからず期待していた自分がいた。
- 32 :魂の座 5 ◆xJowo/pURw :2006/09/21(木) 00:08:40 ID:Fa0mALod0
- だが、その期待は裏切られた。
もう、ケンシロウはDIOの元へ連れて行くしかないだろう。
そうすれば自分の迷いの正体がまた分からなくなる。残念だ。
だが、ケンシロウは意外な言葉を続けた。
「お前をこのまま放って行くのは危険すぎる。
・・・お前は、ここで倒す!」
(――!?)
これは、自分にとって全く予想外の言葉だった。
明らかに重傷を負っているケンシロウが、自分に適うとはとても思えない。
それはケンシロウにも当然理解できるはずだ。
不思議と、ケンシロウが命乞いをするという考えは浮かばなかったが、
まさか正面を切って自分に向ってこようとは考えていなかった。
自慢の電子頭脳が過熱する。
「状況ガ分カラナイノカ? オマエハ、ナゼ諦メナイ・・・?」
ケンシロウは真直ぐに自分を見据えている。
まるで射抜かれるようだ。
「俺には自ら地に伏すことなど許されぬ。
北斗の宿命が、
拳を交わした宿敵が、それを許してはくれない。
俺の拳に宿る漢たちの“魂”が、俺を前へと急き立てるのだ!」
“タ・マ・シ・イ”
全身を、電撃が走った。
もし、自分が生身の肉体を持っていたら、鳥肌が立ち、血が煮立っていたのだろう。
やはり。やはりこの男は“答え”を知っている!
- 33 :魂の座 6 ◆xJowo/pURw :2006/09/21(木) 00:09:13 ID:Fa0mALod0
-
「オマエ・・・教エテクレ、“魂”トハ・・・命トハ・・・イッタイ、ドコニ、ドウシテ・・・」
問い質さなければならない。答えを得なければいけない。
しかし、その思いと焦りとは裏腹に、どんなに電子頭脳を検索しても、適切な言葉が出てこない。
「オレハ・・・オレハ・・・」
自分の語彙力の無さがもどかしい。いや、言葉という物自体に限界があるのか。
対してケンシロウは、狼狽える自分を、しかしはっきりと見詰め、
そして一喝した。
「言葉は不要! 貴様の思いはその拳で語れ!!」
言うなり、ケンシロウは自分へと向って間合いを詰める。
流石に、もう話して済ませることは出来ない状況のようだ。
とっさにファイティングポーズをとりつつもウォーズマンは、
戦闘が始まることに、何故か奇妙な安堵を感じていた。
ああ、やはり私はファイティング・コンピュータ、ウォーズマンなのだ。
* * * * * *
- 34 :魂の座 7 ◆xJowo/pURw :2006/09/21(木) 00:09:43 ID:Fa0mALod0
- 「あたぁ!」
ウォーズマンの顔面を狙った拳は、しかし目的を捉えることなく空を切る。
ケンシロウの繰り出す剛拳は、ウォーズマンの身体を捉えることが出来ない。
ウォーズマンはケンシロウの拳を全て紙一重で躱してゆく。
ウォーズマンのフットワークと、ケンシロウの傷の深さによって生じる溝は、残念ながらそう容易く埋まるものではない。
「ダァッ!」
ウォーズマンの拳が、ケンシロウの腹部を撃つ。
対してウォーズマンの拳は、的確にケンシロウの身体を捉えてゆく。
どんなに贔屓目に見たとしても、ウォーズマンは圧倒的な優位に立っていた。
しかし、両者の眼は、まるで正反対だ。
怯える子供が必死になって恐怖に抗うように、ウォーズの機械の眼は、まるで今にも泣き出しそうだ。
それに対して、ケンシロウの眼は、闘志に燃え、その輝きを失うことは無い。
その眼は、正に長兄ラオウの如く。
そう、正に北斗神拳を体現するが如く。
(ナゼダ・・・ナゼ倒レナイ・・・!?)
もう何度目かも分からない。ウォーズマンの拳は、ケンシロウを倒すのに充分なダメージを与えているはずだ。
何度殴ろうとも蹴ろうとも、ケンシロウは屈しない。
『理解不能!理解不能!』
ウォーズマンの電子頭脳が悲鳴を上げる。
「クッ、来ルナ!ウワァ―――ッ!!」
ゴォォン!
ウォーズマンの渾身の一撃が、ケンシロウの顔面を捉える。
その時、遂にケンシロウの動きが止まった。
いや、自ら動きを止めたのか。
- 35 :魂の座 8 ◆xJowo/pURw :2006/09/21(木) 00:10:21 ID:Fa0mALod0
- 「・・・もう、いい。」
またしても予想外の言葉がケンシロウの口から発せられる。
「貴様の拳は悲しく、弱い。そんな哀れな拳では、この俺を倒すことはできん。」
まるで駄々を捏ねる息子を諭すように、ケンシロウはゆっくりと言葉を紡ぐ。
ケンシロウがウォーズマンを見る眼に、闘志の他に、哀しい色の光が交じる。
その光は、暖かく、まるで吸い込まれそうなほど深い。
その眼を見ていると、ウォーズマンの心にまたしても不可解な感情が溢れてくる。
これは・・・そうだ。『安心』だ。
自分を理解してくれたことに対する安堵の気持ちだ。
自分の、“魂”の叫びを。
「ウ、ウルサイッ!デタラメヲ言ウナッ!!」
だが、それを認めるわけにはいかない。
自分に『安心』をくれるのは、DIOから授かった氷の意思。
それを否定することは、ウォーズマンにとっては耐え難い『不安』を伴う。
だが、ミシリと、ウォーズマンの心に亀裂が広がる音がした。
「死ネェッ!!」
ウォーズマンの拳が、ケンシロウの口を塞ぐべく打ち出される。
だが。
―――スゥッ
瞬間、ケンシロウの姿が消えた。
ウォーズマンの拳は、ケンシロウに当たることなく空を打つ。
「グフウッ」
さらに、ケンシロウの強烈な一撃がウォーズマンのボディに炸裂する。
「 北斗神拳究極奥義 無想転生 」
- 36 :魂の座 9 ◆xJowo/pURw :2006/09/21(木) 00:11:25 ID:Fa0mALod0
-
* * * * * *
「あたぁっ!」
ガシィィッ
ケンシロウの拳が唸る。そしてその拳はウォーズマンの顔面を直撃する。
「クソォッ」
ブゥン!
ウォーズマンの拳は空を切る。
先ほどとは打って変わって、ケンシロウの拳が一方的にウォーズマンを撃っている。
その拳は、焼ける様に熱い。
「ダァッ!」
ウォーズマンは必死に拳を繰り出す。
まるで、纏わりつく何かを振り払うように。
(氷ノ精神ダ・・・オレハDIOノ命令ニ従エバ、DIOニ『安心』ヲ貰エル・・・ソレガ全テダ・・・!)
ガシィッ
しかし、ケンシロウの拳が身体を打つ度に、ウォーズマンの心は揺れ動く。
(違ウ・・・オレがスベキコトは、コンナコトデは無イハズだ・・・コレは正義デハ無イ・・・)
ケンシロウの、灼熱の拳が、氷の精神を溶かしてゆく。
(違ウ。俺ニハ、ソンナ資格ハ無イ。正義ヲ諦メ、DIOニ忠誠ヲ誓ッタのダロウ?)
(コノ男の行ク先ニコソ、オレの求メル『安心』がアルノデハナイか?正義の道の先ニコソ・・・)
(違ウ!DIOノクレタ氷ノ精神ヲ貫イテコソ、絶対ノ『安心』ガ得エラレル・・・正義ナド、邪魔ナダケダ!)
(俺ハ正義超人・・・弱キヲ助ケ、強キヲ挫ク。正ニコノ男ハ正義超人ソノモノではナイカ!)
(違ウ!!違ウ違ウ違ウ!!!)
ウォーズマンの内で、二つの心が鬩ぎ合う。
正義の心と、氷の精神。
それは正に、ケンシロウとウォーズマンの闘いの映し鏡のようだ。
- 37 :魂の座 10 ◆xJowo/pURw :2006/09/21(木) 00:12:03 ID:Fa0mALod0
- ガンッ!
殴られた頬が熱を発する。
ドゴッ!
蹴られた脚が燃える。
「あたたたたたたたたたたたっ!!」
全身が、そして心が熱い。
(正義・・・氷ノ精神・・・『安心』・・・“魂”・・・・・・)
氷の精神が瓦解してゆくのが分かる。
ウォーズマンの内面の闘いも、勝敗が決まる瞬間が近づく。
「ほあたぁっ!!!」
そして、止めの一撃が自らの顔面に迫り来る。
その時ウォーズマンの顔は、満面の笑みで溢れていた。
ガシィィィィィン!!!
* * * * * *
- 38 :魂の座 11 ◆xJowo/pURw :2006/09/21(木) 00:12:40 ID:Fa0mALod0
- 「なにっ!?」
ケンシロウの動きが再び止まった。
いや、止められたのだ。
ウォーズマンの顔面を確かに捉えたその拳は、その顔面で動きを封じられていた。
“ウォーズマン・スマイル”
その顔で大きく開いた口が、拳に噛み付き、咥え込んでいた。
「ククク・・・コレデキサマノ動キハ封ジタ。今度ハコチラノ番ダ!」
肉を切らせて骨を絶つ。その電子頭脳は僅かな隙をも逃しはしなかった。
ウォーズマンの百戦錬磨の人工頭脳が、土壇場で起死回生の打開策を弾き出したのだ。
「クラエッ!」
ドッ――――ゴォン!!
ウォーズマンの強烈な蹴りがケンシロウの脇腹に決まり、ケンシロウは大きく後方の大木まで吹き飛ばされた。
「ぐはっ、くっ・・・」
肋骨が数本折れたようだ。鋭い痛みが突き刺さる。
しかしそれでもなお、立ち上がるべく脚に力を入れる。
――だが。
ガクゥッ
足の力が抜け、膝が地を付く。
度重なる打撃によるダメージは、確実にケンシロウの身体に蓄積していたのだ。
「く・・・」
再び力を込めるが、その脚は他人の物の様に言うことを聞かない
「カ――――カカカ!!」
地面に屈するケンシロウを見下し、ウォーズマンが悪魔的に笑い声を上げる。
そのマスクは、ケンシロウの一撃によって大きく歪んでいた。その歪みが、笑顔をより一層際立たせていた。
- 39 :魂の座 12 ◆xJowo/pURw :2006/09/21(木) 00:13:17 ID:Fa0mALod0
- 「正義ナド俺ニハ必要ナイ!
俺ハ残虐超人ウォーズマン!!
俺ハ与エラレタ命令ヲ忠実ニ遂行スル、キラー・マシーンダ――――ッ!!!」
ウォーズマンが絶叫する。
まるでそれまでの迷いを断ち切るかのように。
「コレデ止メダ!今度コソ死ネェッ!!」
そして、自身の必殺技をかけるべく、ケンシロウの元へと突っ込んで来る。
「ウォォッ!スクリュー・ドライバ―――ッ!!」
逃れようのないスピード。圧倒的な回転力。
迫り来るその黒い槍は、己の死を確信するのに充分であった。
だが、それでも諦めることは出来ない。
「ぬぅぅん!!」
ケンシロウは、最後の力を振り絞り、再び両の脚で立ち上がった。
だが、ケンシロウに残された力は、それだけだ。
気力と精神力で立ってはいるものの、もう動くことも、ましてや迫り来るウォーズマンを避けることも適わない。
だが、立ち上がらなければいけなかった。
無様に散っては、亡き友に笑われてしまう。
北斗神拳伝承者として、一人の漢として、“魂”の火を燃やさなければならない。
そう、最後の一時まで。
高速で回転するウォーズマンの手が、自らの胸に飛び込んでくる。
「・・・無念・・・」
ドゴォォォォォン!!
- 40 :魂の座 13 ◆xJowo/pURw :2006/09/21(木) 00:13:55 ID:Fa0mALod0
- * * * * * *
人は、いつ死ぬのだろう?
心臓が止まり、脳が死に、肉が朽ち果てたとき?
それでは、
心の臓さえ動いていれば、
脳が機能を保っていれば、
血が身体を巡っていれば、
人は生きていると言えるのか?
否。
それは、ただ死んでいないだけだ。
ただの糞尿と血の詰まった肉袋だ。
死んでいるのとおんなじだ。
(中略)
人は、自分で生きるのをやめた時、死ぬのだ。
『諦め』が人を殺すのだ。
だから、生きることを『諦め』ない限り、その人間は生きている。
『諦め』を拒絶してはじめて
人間は人道を踏破する権利人となれるのだ。
H.K.オータ 「Vlad Tepes」邦語訳版より抜粋。
* * * * * *
- 41 :魂の座 14 ◆xJowo/pURw :2006/09/21(木) 00:15:08 ID:Fa0mALod0
- ウォーズマンは、ケンシロウの死を確信していた。
ケンシロウ本人も、自らの死を覚悟していた。
だが、ケンシロウの魂は、最後の瞬間まで屈しることは無い。
見開いた両目で、ウォーズマンの回転する指先を凝視する。
一瞬のはずなのだが、何故か酷く長く感じる。
ウォーズマンが、ケンシロウの、左胸へと、
正確に、心の臓へと突き進み、
ドゴォォォォォン!!
そのまま突き刺さり、
―――そして、止まった。
「なっ!?」
「ナニッ!?」
ウォーズマンの技は、ケンシロウの胸からから数センチ手前で、止まった。
ウォーズマンが抉ったのは、
ケンシロウの鋼のような大胸筋ではなく、
オリハルコン製の胸当。
フェニックスの聖衣だった。
- 42 :魂の座 15 ◆xJowo/pURw :2006/09/21(木) 00:15:47 ID:Fa0mALod0
- ケンシロウの不屈の精神に、
深い傷を負っても、何度打たれても、不死鳥のように立ち上がるその闘志に、
フェニックスの聖衣が応えたのだ。
そして、スクリュードライバーが達する直前、ケンシロウの体を聖衣が包んだのだ。
聖衣は自らが主と認めた者を見捨てはしない。
「これは・・・痛みが・・・消えた!?」
先ほどまで立つのがやっとだったケンシロウの身体に、みるみる精気が満ちてくる。
「ソッ、ソレガドウシタァーッ!!」
自身の理解できる範疇を遥かに超えた事態の連続に、理解しようとする努力を放棄したウォーズマンが、追撃をかける。
だが、今や立場は完全に逆転しつつあった。
かたや、ダメージの残った体と、錯乱した心で繰り出す拳。
かたや、フェニックスの聖衣の力を借り、未だ尽きぬ闘志で満ちた男の拳。
「ダァァッ!」
「あたぁっ!!」
どがぁあっ!!
ケンシロウの拳が、ウォーズマンの顔面を打ち抜く。
「ギャァァァッ!」――――ズガァン!!
圧倒的な力に吹っ飛ばされたウォーズマンは、そのまま後方の岩に叩きつけられた。
大勢は、決した。
* * * * * *
- 43 :魂の座 16 ◆xJowo/pURw :2006/09/21(木) 00:16:56 ID:Fa0mALod0
- 何故だ。聳え立つ巨大な壁に、この男は立ち向かい、打ち砕く。
何故だ。完璧なはずの私の計算を、この男は悉く覆す。
何故だ。この男は絶望を拒絶し、奇跡を起こす。
「キン・・・肉・・・マン・・・」
砕けた岩の破片に寄り掛かりながら、何故かその名を呟いた。
もう体に力が入らない。闘う気力も出てこない。
DIOに貰った安心も、どこかへ行ってしまった。
もう、何も考えられない。既に自分は死んでいるのではないかとさえ思う。
力なく顔をあげ、眼前の死神に眼をやる。
ピシッ
そのとき、度重なる衝撃に、ウォーズマンの仮面が軋み、
パー・・・・ン
真っ二つに割れ、地面に落ち、機械質な素顔が露になった。
「ア・・・ア・・・アァ・・・」
それがきっかけだった。
隠していた、押し殺していた感情が、洪水のようにあふれてきた。
罪悪感。無力感。失望感。自己嫌悪。後悔。恐怖。悲哀。懺悔。
そして最後に、羞恥心が。
「ミ・・・見ルナ・・・俺ノ顔ヲ見ルナ・・・俺ノ・・・醜イ・・・顔ヲ・・・」
力なくその顔を隠す姿を、ケンシロウは哀しい眼で見つめていた。
「・・・醜いのは、貴様の顔ではない。
・・・己自身に負けた、貴様の“魂”が醜いのだ・・・」
- 44 :魂の座 17 ◆xJowo/pURw :2006/09/21(木) 00:18:02 ID:Fa0mALod0
- ・・・俺の、魂・・・ 魂が、負けた・・・
・・・今なら分かる気がする。
確かに私は、この世界に負けていた。正義を貫くことを諦めていた。
自分の内で叫ぶ正義の声に耳を塞ぎ、
氷の精神の中に閉じこもり、悪を見て見ぬ振りをした。
その、氷の精神は、今、完全に溶けてしまった。
「そうか・・・私は、貴様に会う前に負けていた。
・・・既に死んでいたのかもしれないな・・・」
長い長い悪夢からやっと眼が覚めた気分だ。
そして気付いてしまった。自分の“魂”の在り処を。
もう、自分を騙すことは出来ない。
もう、魂が燃えるのを止めることはできない。
こんな所でへばっていたら、仲間に合わせる顔が無い!
「ぐ・・・おおおおおおおっ」
最後の力を振り絞る。
全身全霊に力を込めて、立ち上がる。
「我が名はウォーズマン! 一人の漢として、改めて貴様に勝負を申し込む!」
もう、ウォーズマンの眼には迷いも恐れも無い。
そこにあるのは、純粋な闘志。
「行くぞ!ケンシロウ!!」
「来るがいい!ウォーズマン!!」
「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」
二つの拳が交差する。
- 45 :魂の座 18 ◆xJowo/pURw :2006/09/21(木) 00:18:34 ID:Fa0mALod0
-
* * * * * *
ザ――――――
雨はまだ止む気配すら無い。
だが、鳴り響く雨音は、もうその耳には届かない。
「フッ・・・俺は・・・悪役・・・ヒールだ・・・
ヒールはヒールらしく・・・
ヒーローに倒されなきゃぁ、サマにならねえぜ・・・」
大木に凭れて、ウォーズが嘯く。
彼の魂が、体から抜け出てゆく。
ケンシロウは、静かにウォーズマンの拳を握り、呟いた。
「ウォーズマンよ・・・貴様の“魂”は、確かにこの俺の胸と拳に刻まれた・・・
胸を張って逝くがいい・・・」
「ケンシロウ・・・もっと・・・はやく・・・お前に・・・
会 い た か っ ――コ―――ホ―――・・・・」
事切れたウォーズマンの顔は、
仮面の無いウォーズマンの顔は、
安らかな笑顔だと、なぜかそう思えた。
- 46 :魂の座 19 ◆xJowo/pURw :2006/09/21(木) 00:19:37 ID:Fa0mALod0
- 【愛知県/昼】
【ケンシロウ@北斗の拳】
[状態]:背中一面に大火傷。全身打撲。左肋骨骨折。満身創痍。(聖衣の力で動ける)
[装備]: フェニックスの聖衣@聖闘士星矢(胸当部損壊)
[道具]:荷物一式×4(五食分を消費)、マグナムスチール製のメリケンサック@魁!!男塾、手裏剣×1@NARUTO−ナルト−
[思考]:1、洋一を探す(洋一の安否を確認する)。
2、DIOを倒す(他人は巻き込みたくない)。
3、つかさの代わりに、綾を止める。
4、DIO討伐後、斗貴子を追い止める。
5、ラオウを倒した者を探す。
6、ダイという少年の情報を得る。
【ウォーズマン@キン肉マン 死亡確認】
【残り37人】
- 47 :思い出補正 ◆023krkLrQI :2006/09/22(金) 11:55:21 ID:GLzPYcSJ0
- タカヤは、その少女に駆け寄る。
彼女の名は白川渚。
どうやらKに魂を乗っ取られていたらしい。
タカヤは、欲望のままに渚を介抱した。
時は流れ…
二人はあっという間に恋に落ちた。
そして、一人の子を宿す。
そして、今…
タカヤはヤムチャの攻撃により、窮地に立たされている。
生命の灯は消えかかっていた。
- 48 :思い出補正 ◆023krkLrQI :2006/09/22(金) 11:56:15 ID:GLzPYcSJ0
- 【ヤムチャ@ドラゴンボール】
[状態]:超ウルフ人 SPARKING Neo
右小指喪失・左耳喪失・左脇腹に創傷(全て治療済み)
超神水克服(力が限界まで引き出される)・五行封印(気が上手く引き出せない)
[装備]:フリーザ、ハーデス、バーンの死体
[道具]:荷物一式(伊達のもの)、一日分の食料
[思考]:1.タカヤをころす。
2.最終形態へ
3.斗貴子達と合流後、四国で両津達と合流。協力を仰ぐ。
4.四国で合流できない場合、予定通り3日目の朝には兵庫県に戻る。無理なら琵琶湖。
5.クリリンの計画に協力。人数を減らす。
6.友情マンを警戒(人相は斗貴子から伝えられている)。
【タカヤ@夜明けの炎刃王】
[状態]:タカヤ・ルシフェルΩ
右小指喪失・左耳喪失・顔面喪失・両足喪失・左脇腹に創傷(全て治療済み)
[装備]:世直しマンの鎧
[道具]:荷物一式、一日分の食料
[思考]:1.奥義発動
2.ヤムチャをころす
- 49 :関西十一人模様 ◆saLB77XmnM :2006/09/24(日) 01:04:00 ID:x+ptUYW80
- 雨が降っていた。
ザァザァと音を立てながら、大量の雨粒が頬を流れる。
涙は雨と共に流れ落ち、少女から悲しみを拭い去っていく。
「……」
津村斗貴子は考えていた。
ドラゴンボールの真意。願いが叶うというのは、真実なのだろうか。
(確証が、必要なんだ。絶対に生き返るという確証があれば、私の迷いも消える――)
斗貴子の目の前には、依然として二人の少年が立っている。
彼らは、斗貴子の奇行を望まない。
それは自分達が死にたくないからという理由ではなく、本心では殺戮などしたくはないと思っている斗貴子を思ってのことなのだ。
(もう、私に彼らは殺せない。私は結局、ホムンクルスのような外道にはなれなかったのだ――)
悩むのはもうやめようと思った。
決心したはずなのに、少年二人の何気ない言葉で自分は揺らいでしまった。
やはり自分は、戦士なのだ。弱き者を手にかけることなんてできない。
でも。
- 50 :関西十一人模様 ◆saLB77XmnM :2006/09/24(日) 01:04:44 ID:x+ptUYW80
- (カズキ……戦士長…………クリリン君)
みんな、みんな生き返れるかもしれないのだ。
ここで自分が諦めてしまったら、それはクリリンに対する――裏切りではないのか?
「君達の、名前を教えてくれないか?」
長い沈黙を破り、斗貴子が二人の少年に尋ねた。
「志村新八」
「越前リョーマ」
短く、そう答える少年二人。
緊張感は続いている。二人ともその瞳に侍魂を滾らせ、真っ向から斗貴子を見つめている。
彼らは、強い。
私なんかじゃ、とても適わない。
再び流れる沈黙。
斗貴子は動かない。
斗貴子が動かないので、二人も動かない。
「新八君……君の説得は、ありがたく受け取っておく」
「! じゃあ、もうこんな馬鹿な真似はしないんですね!?」
「…………いや」
斗貴子は悩んでいた。
皆を殺し、皆を生き返らせる道を取るか。
皆を救い、死んだ者たちを見捨てる道を取るか。
後者は、選んでも行き止まりである可能性がある。
それでも、挑戦するには十分魅力のある道だ。
なら。
- 51 :関西十一人模様 ◆saLB77XmnM :2006/09/24(日) 01:07:12 ID:x+ptUYW80
- 「ありがとう……君達がいなかったら、私はホムンクルスと同じになっていたかもしれない」
「ホムンクルス……? なにそれ、わけわかんないよ」
「分からなくていいさ。君達は、こんな場所に居るべき人間じゃない。カズキの友達のように、『日常』にいるべきなんだ……」
「お姉さん……?」
斗貴子が何を言っているのか分からない二人は、首を傾げる。
力強い瞳を持ち合わせながらも、その顔はやはり平穏な光を照らしていた。
「君達は、このまま頑張ってくれ。どう転ぶか分からないが……私は、もう少し賭けを続けてみようと思う」
いきなり、だった。
バルキリースカートの刃が地面を打ち、斗貴子の身体を天高く舞い上げる。
「あ!」
「お――」
別れの言葉を言う暇もなかった。
少年二人を残し、斗貴子は高速でその場を去っていったのだった。
向かうべき場所は、北――大阪。
(ドラゴンボールが、本当に信用できるものなのかどうか……)
スカウターで捉えた四つの反応。それに接触しようとしている四つの反応。
この計八つの光点が、もうすぐぶつかろうとしていた。
(――『ピッコロ』本人に会えば、分かるかもしれない)
斗貴子は懸ける。戦士の誇りと己の信念をベットに、『全員の生還』という高額な景品を狙う。
* * * * *
- 52 :関西十一人模様 ◆saLB77XmnM :2006/09/24(日) 01:08:21 ID:x+ptUYW80
- ぽっぽ〜、というなんとも旧世代的な音を鳴らし、列車が大阪駅にやってきた。
駅のホームでそれを出迎えるのは、キン肉マン。そしてその後ろのL。さらに後ろのベンチでは、ミサとセナが座っていた。
「八時ジャスト……さて、鬼が出るか蛇が出るか」
「グムー。どんな奴が乗っているのかと思うと緊張してきたわい」
列車が風を切りながらホームを通り過ぎる。
速度は徐々に緩やかになっていき、停車の合図を鳴らす。
『おおさか〜おおさか〜。停車時間は五分間となっております。駆け込み乗車はお止めください』
名古屋駅でも聞いたアナウンスが、Lの耳を揺らした。
扉が開かれる。タイムリミットは五分。その限られた時間内に、乗客とコンタクトを取らなければいけない。
「入りましょう、キン肉マン」
「おお!」
意気揚々と列車に乗り込む二人。先頭はキン肉マン。後方はL。
キン肉マンの強靭な肉体を盾にした、完璧な布陣だった。
これなら、万が一中にマーダーがいても大丈夫。
しかし、中で待っていたのは二人が思っていたよりも
激しく!
麗しく!
衝撃的な!
「ゲェー! 蝶々マスクのド変態〜〜〜!?」
「NON! パ・ピ・ヨ・ン!」
- 53 :関西十一人模様 ◆saLB77XmnM :2006/09/24(日) 01:09:18 ID:x+ptUYW80
- まず眼に入ったのは、全身レオタードに蝶々を模した仮面をつけた人間――に見える男。
なにやら個性的なポーズを取ってキン肉マンを牽制している。
「……キン肉マン、彼はあなたのお仲間の超人かなにかですか?」
「こーんな趣味の悪い奴、わしゃ知らんわい!」
「ですか」
思いがけないファーストインパクトに、さすがのLも怯んだのか。
ある意味ムーンフェイスの外見よりも衝撃的なパピヨンの姿に、Lは考える。
そして、すぐにある記憶にたどり着いた。
「あなたは……もしかしてホムンクルスのパピヨンさんではありませんか?」
「YES! ……そういうおまえも見たことがある顔だな。たしか……あの主催者どもに『世界最高の頭脳』と呼ばれていた人間か」
ビンゴ。蝶々マスクにレオタード。間違えようのない外見は、確かにムーンフェイスから伝え聞いていたパピヨンというホムンクルスそのものだった。
ムーンフェイスの話によれば、ゲームに乗るか乗らないかは微妙な線とのことだが……果たしてこの接触は正解か否か。
「おいパピヨン! 何いきなり警戒されるようなことしてんだよ!」
「そうだよオメェー! 誤解されて喧嘩ふきかけられたらどうすんだよ!」
と、隣の車両からさらに二人、長鼻とおしゃぶりが印象的な男たちが姿を現した。
「彼らは?」
「協力者だ。不本意だがな」
列車内の乗客は三人。これはLの推測していた結果よりもずっといいものだった。
「えー、パピヨンさん、でいいですか? いきなりですが、あなたとお話がしたい。不都合でなければ、このまま列車を降りて頂けませんかね?」
Lがパピヨンに申し出る。
「……本当にいきなりだな。『世界最高の頭脳』呼ばれるほどの人間が、見ず知らずの他人を信用するのか?」
「あなたの噂はムーンフェイスから聞いています。もちろん、あなたがホムンクルスであるということも。その上で、あなたとお話がしたい」
「ムーンフェイスに? ……ふん、だが俺がゲームに乗っていないという保障はなにもないぞ」
パピヨンは肩傍に黒死の蝶をチラつかせ、Lを牽制する。
だがLはそれでも怯まない。彼には、パピヨンがゲームに乗っていないという確固たる自信があったから。
- 54 :関西十一人模様 ◆saLB77XmnM :2006/09/24(日) 01:11:05 ID:x+ptUYW80
- 「そちらのお二人、先ほど『協力者』と言ったでしょう? ゲームで優勝するのに、二人も協力者はいらない。束になって裏切られる可能性もありますから。
だとすれば、脱出のための『協力者』と考えるのが妥当です。違いますか?」
「……ふん」
Lの推理にパピヨンは軽く鼻を鳴らし、心では感心していた。
瞬時に自分達の関係を見抜く洞察力、確かに普通の人間ではないらしい。
「おいおまえたち、一旦ここで降りるぞ」
「はぁ!? トーキョーってとこまで行くんじゃなかったのかよ!?」
パピヨンの下車宣言に長鼻の男、ウソップが異を唱える。
「俺たちの目的は、あくまでも他の参加者との接触だ。ここに人がいるというのなら降りない理由はないだろう」
「で、でもよぉ〜……そいつら本当に信用できるのか?」
「なにぉ〜! おまえらは知らんかもしれんが、Lはムッチャクチャ頭がいいんだぞ! 仲間さえ集まれば、こんなところすぐ脱出できるんじゃい!」
「いや、キン肉マン。すぐは無理ですよ」
ウソップとしても、心強い仲間が増えるのはいいことだと思う。
だがしかし、「このまま列車に乗ってりゃ強い奴とも争わないでいいんじゃねえかなぁ〜」なんて魂胆も密かにあった。
「あんたら、目的は脱出なんだな?」
「ええ、そうです」
頭を抱えるウソップの横、おしゃぶりをした男、ポップがLに話しかけた。
「じゃ、ここいらで一旦降りるか。ほら行くぞウソップ」
「ええ!? 決断はえーなポップ!? ちょ、ちょっと待って! あイタタ、持病の『オオサカで降りてはいけない病』がぁ〜」
大袈裟なアクションで身悶えするウソップを適当にあしらいつつ、パピヨンとポップは下車の準備を進める。
「待てよ」
遮ったのは、『四人目』の男の声。
- 55 :関西十一人模様 ◆saLB77XmnM :2006/09/24(日) 01:14:35 ID:x+ptUYW80
-
包帯だ。
「交換条件を忘れたわけじゃねぇだろうな? 俺を無視して勝手に列車を降りるとあっちゃあ、黙ってられねぇな」
全身を覆う、白の包帯。木乃伊男。
「お、おまえは……!」
L以外、全員が知っているその男。もちろんキン肉マンも。
「――久しいな、ブタ鼻。いや、キン肉マン、だったか?」
「――志々雄ぉーーーーー!!」
二日目。午前。大阪駅。
因縁の二人が、ついに再会を果たした。
- 56 :関西十一人模様 ◆saLB77XmnM :2006/09/24(日) 01:15:27 ID:x+ptUYW80
- 「この男が、志々雄真実……」
Lはその想像以上の異質な姿に畏怖を覚え、
「なんだ、おまえ達も知り合いか?」
「いったいどういう関係だ?」
「お、おい、なんか険悪なムードだぞ……」
志々雄と車内を共にしていた三人は首を傾げ、
「グヌヌヌ……」
キン肉マンは一人滾り、
「…………フン」
志々雄はそれを鼻で笑った。
「おまえらーーー! まさか志々雄の仲間だったのかぁーーー!?」
「は!? って、イデエグルジイクビシマッ……」
キン肉マンはウソップの胸ぐらを掴み、乱暴に尋問する。
Lの推理ではこの三人は脱出派であるようだが、もし志々雄と協力関係にあるというのであれば、話をする余地などない。
ラーメンマンとたけしを殺したのは志々雄――これは他でもない、L本人の推理なのだから。
「NON! この男とはたまたま乗り合わせただけだ」
顔色を青白く変色させていくウソップに代わり、答えたのはパピヨン。
「おいオッサン! アンタこいつと知り合いらしいが……いったいどういう間柄なんだ?」
次いでポップが質問し返す。
- 57 :関西十一人模様 ◆saLB77XmnM :2006/09/24(日) 01:16:51 ID:x+ptUYW80
- 「おまえら知らんのか〜!? この男は九州でわたしの仲間、まだ七歳だったたけしを誘拐したんだ!
その上わたしの無二の親友である超人、ラーメンマンを殺害! そしてついにはたけしにまで手をかけた……超極悪人なんだぞ〜!!!」
マスク越しでも分かるほどに血管を浮かび上がらせ、キン肉マンは車内に怒声を蔓延させる。
明かされた志々雄の悪行の数々に、息を呑む一同。唯一パピヨンは平静を保っていたが、その事実にポップは怒りを表し、ウソップは恐怖した。
(この野郎……ヤベー奴だとは思っていたが、まさか七歳児にまで手をかけるような下衆ヤローだったなんて)
(おいマジかよぉ〜!? オレは今までそんなヤバイ奴と一緒に居たのか? しかもコイツまだオレのパチンコ持ったままだし……)
ポップとウソップの志々雄を見る眼が、明らかに変化しているのが分かった。
それでなくても、傍には今にも爆発しそうなキン肉マンがいる。車内は一触即発のムードが流れていた。
「やい志々雄! ラーメンマンとたけしの仇討ちだ! 今すぐ列車から降りて、わたしと戦わんかい!!」
「断る」
「ゲェー! な、なんだってぇ〜〜〜!?」
プルルルー、と駅舎内に発車ベルが鳴り響く。タイムリミットが迫ろうとしていた。
「キン肉マン。そろそろ列車が出てしまいます」
「わ、わかっとるわいL! だが志々雄がここから降りんことには、わたしは納得いか〜ん!!」
駄々を捏ねるように志々雄と対峙して離れないキン肉マン。
このままでは列車が出発してしまう。駅舎内にはまだセナとミサが残っており、このままではメンバーが分断してしまう恐れがあった。
「生憎、俺の目的地はここじゃあねぇ。もう少し汽車の旅を満喫させてもらうことにするぜ」
「このヤロ〜、どうあってもここから降りないってんだな? だったら仕方がない。ここで決着をつけてやろうじゃないか」
「ほう、この汽車内でやろうってのか? ……おもしれぇ。走行中の列車なら邪魔者もいない、正真正銘の死闘(デスマッチ)ってわけか」
「し、しかしキン肉マン、ここであなたに抜けられては……」
「行かせてくれL! わたしがここで奴を倒さなければ、またラーメンマンやたけしのような犠牲者が出てしまう!」
ガンとして動こうとしないキン肉マンに、Lは困惑の表情を浮かべていた。
このままキン肉マンが離脱するとなると、Lは藍染らマーダーに対する予防線を失ってしまうことになる。
それでなくても、これから未知の参加者と行動を共にしようというのだ。現段階で一番頼りになるキン肉マンを欠くのは避けたい。
- 58 :関西十一人模様 ◆saLB77XmnM :2006/09/24(日) 01:19:16 ID:x+ptUYW80
- 「…………仕方がありません。では、こうしましょう」
キン肉マンを欠くわけにはいかない。だが、限られた残り時間でキン肉マンを説得するのも至難の業。
それに、できることならキン肉マンの望みを叶えさせて上げたいという思いもある。
現在の状況、これからの指針、キン肉マンの気持ち、全てを考慮しLが出した結論は、
「我々はこのまま――少なくとも私は、大阪で待機します。キン肉マンはこのまま列車に乗り込み、思う存分志々雄真実と決着をつけてください」
「おおっ! さすがはL! そう言ってくれると思ってたぞ!」
歓喜のあまりLに抱きつこうとするキン肉マンを遮り、Lは一つ、条件を付け加える。
「ただし、時間制限を設けます。時間制限は、今からジャスト一時間――上りと下りの列車が会する町、名古屋に着くまでとします。
キン肉マンはそれまでに志々雄と決着をつけ、同じタイミングで停車する下り電車に乗ってください。
そうすれば、10時にはこの大阪まで戻ってこれるはずです」
「なるほど……決着が着くのは二時間後、戻ってきた奴が勝者ってわけか。おもしれぇ」
「一時間もあれば十分じゃ〜! L! わたしは二時間後、必ずこの大阪に戻ってくることを約束するぞ!」
「応援しています、キン肉マン」
Lのこの提案により、キン肉マンVS志々雄真実の対戦カードが決定した。
時間は一時間。リングは関西を走る列車の中。
「話は決まったか。では俺たちはここで降りさせてもらうぞ」
キン肉マンたちのやりとりを静観していたパピヨンは物事の収束を確認すると、逸早く列車を降りた。
それにポップ、続いてウソップが下車しようとするが、
「待ちな」
「グェ?」
列車から外へ身を乗り出そうとしたウソップの首根っこを、志々雄が掴み取った。
- 59 :関西十一人模様 ◆saLB77XmnM :2006/09/24(日) 01:20:12 ID:x+ptUYW80
- 「ウソップ!? おいテメー! なんのつもりだ!?」
「慌てんじゃねぇよ。これから俺とキン肉マンがやるのは、一対一の『決闘』だ。どちらかが勝てば、どちらかが負ける。
生還するのはただ一人。だったら――その勝利を確認する、立会人が必要だろう?」
「な!? おい〜! まさか、俺をその立会人にしようっていうのか!?」
志々雄の手から解放されたウソップが、思い切り不服そうな顔で言った。
「そういうことだ。それに、おまえらとは『約束』があるからな。このまま大阪に残ると言っておきながら、とんずらでもされたらかなわねぇ。
こいつはまぁ――『立会人』兼『人質』ってところだな」
志々雄は自身の首にはめられた金属製の輪を小突き、笑みを浮かべる。
誰もがその提案に息を呑んだ。
当の本人であるウソップは必死で抵抗しようとしたが、
『列車が、発車いたします』
無常のアナウンスが鳴り響き、ドアは閉ざされてしまった。
「ウソップ!」
列車内に残ったのは、志々雄、キン肉マン、ウソップの三人。
列車の外に出たのは、パピヨン、ポップ、Lの三人。
交差する視線を引き離し、列車は無情にも東へ。
- 60 :関西十一人模様 ◆saLB77XmnM :2006/09/24(日) 01:21:37 ID:x+ptUYW80
- 「チクショー! 人質だと? ふざけやがって、パピヨン、俺は列車を追うぜ!」
「待て」
すぐさまトベルーラで飛び出そうとしたポップを、パピヨンが制した。
「言ってどうする。それこそ奴の思うツボだぞ」
「じゃあおまえは、ウソップを見捨てろって言うのかよ!?」
「あいつは『人質』であり、『立会人』だ。どちらかが勝てば、その勝利の証人としてここに戻ってくる――あいつが余計なことをしなければな。
ここでおまえが余計なことをすれば、それこそあいつの身が危険になるぞ」
志々雄の奇行を前にしても、終始冷静でいたパピヨンの言葉には説得力があった。
首輪解除の約束がある以上、志々雄はウソップを殺せない。殺せば、首輪解除の鍵を握るポップと敵対することは明白だから。
「大丈夫ですよ。キン肉マンは必ず勝ちます。あなた方のお仲間も、きっと無事に」
「やけに自信があるな。なにか根拠でもあるのか?」
「彼は『正義超人』です。仲間を放って死ぬなんて……絶対にありませんよ」
Lは、ラーメンマンの死体の前で号泣していたキン肉マンを思い出す。
誰よりも仲間を思い、『友情』を糧にして戦っていたキン肉マン。
それに対峙するのは、仲間の仇である宿敵だ。キン肉マンは意地でも勝つことだろう。
Lとキン肉マンが共にした時間は僅かだったが、Lにそう思わせるには、十分だった。
「まぁいい。では、改めて『世界最高の頭脳』とやらの話を聞くとしようか」
「ええ。落ち着いて話が出来る場所に移動しましょう」
「その前によ……あそこで座ってる二人もあんたの仲間なのか」
ポップは駅舎の隅に座る、二人の少年少女に興味を示した。
「ああ……彼らは、少々傷心中でして。落ち着いたら後々紹介します。今はそっとしておいてくれますか」
停車中に起こった一連の騒動にも、セナとミサの二人は興味を示さなかった。
尾を引いているのが、悲しみと憎悪である事は間違いない。
今は、そっとしておくのが一番の治療法だろう。
- 61 :関西十一人模様 ◆saLB77XmnM :2006/09/24(日) 01:24:04 ID:x+ptUYW80
- 「ミサさん、小早川君、すいませんが少しここで待っていていただけますか。 私たちはすぐ隣の喫茶店でお話をしてきますので」
Lが二人に話しかけてみても、やはり反応はない。
ふぅ、と溜め息をつき、Lは改めて駅舎を出ようとした。
そんなときだ。
駅の入り口に、一人の少女が立っているのを発見したのは。
「…………パピヨン」
スタンダードなセーラー服に、鼻頭についた十字傷が印象的な少女。年齢はミサと同じか少し下くらいか。
いかにも普通の女子高生といった感じだが、その瞳に宿る狂気は、どうにも危険な香りがする。
「……おまえたちは先に行っていろ。どうやらあの女は、俺の客みたいだ」
少女の視線は、パピヨンにしか向いていない。
その独特のファッションスタイルに警戒しているのでは、とLは推理したが、どうやら違うようだ。
Lは、もちろんポップも、この二人の関係は知らない。
錬金の戦士とホムンクルス――絶対に相容れない、敵対関係にあるということも。
* * * * *
- 62 :関西十一人模様 ◆saLB77XmnM :2006/09/24(日) 01:25:07 ID:x+ptUYW80
- 「驚いたぞ……ホムンクルスであるおまえが、極自然に人間の仲間と行動しているとはな」
「仲間? ……ふん、あいつらとは利害が一致したから共同しているだけだ。錬金の戦士共のような甘っちょろい関係と思われるのは心外だな」
駅の外、Lとポップが喫茶店に入ったのを確認し、二人の同世界者が対面する。
錬金の戦士、津村斗貴子。そして、ホムンクルス蝶野攻爵ことパピヨン。
以前は敵同士であった二人だが、この場で即戦闘、とはならなかった。
昔と今では、状況が違う。無闇やたらに戦いを仕掛けることは、己の身を滅ぼすことになりかねない。
「おまえの方も随分じゃないか。二日目になってもまだ生きていたとは。少し、いや、かなり驚いたぞ」
「……どういう意味だ」
「武藤カズキが死んだ」
――だがやはり、この二人が敵対関係であるという事実は覆せない。
ホムンクルスに対して絶対的な憎悪を抱く斗貴子に、パピヨンの存在は起爆剤そのもの。
そして、このような挑発的な言葉をかければ、闘争が生まれるのも仕方がないといえよう。
「武藤は何故死んだ? 武藤はどんな風に殺された? 武藤はどこで殺された? ――おまえはその時、何をしていた?」
「…………」
「俺は知っているぞ。いつも馴れ合っていたおまえらだが、おまえは武藤の死に立ち会えなかった。武藤の死を止めることができなかった」
パピヨンの瞳は、どこか空虚な視線を浮かべていた。
降りしきる雨の果てに、今は亡きライバルを求めるような、儚い視線を。
「おまえは何故まだ生きている? 武藤の死んだ世界で、おまえは何を望んでいるんだ? 優勝か? 脱出か? まさか『武藤の分まで頑張る』とは言わないだろうな」
パピヨン言葉が、凍りついたツララのように突き刺さる。
そうだ。カズキが死んだのは私の罪だ。
私がカズキを死なせなければ、私が彼に核金を与えなければ、カズキはこんなところには連れて来られなかった。
- 63 :関西十一人模様 ◆saLB77XmnM :2006/09/24(日) 01:25:46 ID:x+ptUYW80
- 「私は……」
斗貴子は答える。答えようとする。
「……」
――何を? 私はなんと答えればいい?
ドラゴンボールで全てをなかったことにしてもらうとでも言うか? そのために殺戮を働くと。
なら何故あの時、新八君や越前君を殺さなかった。迷いがあったから?
今は決断の時なのか? 迷いがあるから、押し黙ってしまっているのか?
私は、なんのためにここに来た?
……そうだ、確かめるためではないか。
私はまだ希望を、クリリン君の言葉を否定したわけではない。
「私の目的は、カズキを生き返らせることだ」
言った。正面から、ハッキリと。
「……ほう」
斗貴子のその言葉に、パピヨンは興味を示した。
「パピヨン、おまえに意見を聞きたい。私の話す『武藤カズキ蘇生計画』が、可能かどうか」
「……聞いてやる。話してみろ」
そして、斗貴子は冷たく閉ざしていた口を開ける。
クリリンに、口外しないと誓ったはずの御伽話――それを、あえて宿敵に打ち明けようとしていた。
- 64 :関西十一人模様 ◆saLB77XmnM :2006/09/24(日) 01:27:09 ID:x+ptUYW80
- 「…………」
沈黙。
斗貴子の話を聞いたパピヨンの反応は、無、だった。
ドラゴンボールという、七つ集めるとどんな願いをも叶えてくれるという宝玉の存在。
ドラゴンボールは、ピッコロという参加者が死亡すると使えなくなってしまうという事実。
ドラゴンボールを立証するクリリン、ヤムチャらの言葉。
ピッコロを優勝させ、ドラゴンボールを利用して全員を蘇生させるという計画。
そして、そのドラゴンボールが主催者の手によって封殺されているかもしれないということも。
全て話した上での反応が、無。
「私はこの計画を、ドラゴンボールという御伽話を信じきっていた……クリリン君は、最後までドラゴンボールを信じてやまなかったからだ。
彼の友人であるヤムチャという人物もまた、同様にこの話を肯定した。
そして彼らがこのゲーム内で最強と言っていた孫悟空なる人物もまた、参加者を減らすために活動している可能性がある」
「……信憑性はある、ということか。そいつらが全員グルで、全ては円滑に物事を進めるための罠という可能性はないのか?」
「事前に打ち合わせをするような暇はなかったさ。それに、あのクリリン君の精神を崩壊させるほどの信奉……嘘とは思えない」
「だが、おまえは迷っている。つまりそういうことだな」
「……」
――そうだ。自分は迷っている。
クリリン君があれほどまでに自信を持って確実と銘打った、ドラゴンボール蘇生計画。
私はそれを、今になって否定したがっている。
あの二人に出会ってしまったから。あの二人が殺せなかったから。
元を正せば、全ては悪になりきれなかった私に原因があるのだ。
だが私は――クリリン君のようにはなれない。
- 65 :関西十一人模様 ◆saLB77XmnM :2006/09/24(日) 01:29:06 ID:x+ptUYW80
- 「正に、究極のギャンブルといったところか。何しろ、自分も一度は死ななければならない。もしドラゴンボールが紛い物だったら、そのまま蘇生はなしだ」
――そうだ。この計画には、ピッコロを除く全参加者の命をベッドにかけなければならない。
この計画が絶対、百パーセント成功する。その証さえ手に入れば、私は――
「で、おまえはどうするつもりだ? このままドラゴンボールを信じて、殺戮を続けるのか?――ホムンクルスのように。
それとも、ドラゴンボールを否定して今から主催者に牙を振るか?――錬金の戦士らしく、正義に準じて」
「私は……ピッコロを探している」
パピヨンの質問に斗貴子が出した答えは、計画の『先延ばし』だった。
「彼にあえば、ドラゴンボールが真実であると立証できる。……決意することができる。迷いを捨てることができる。……カズキやみんなを生き返らせることが、できる」
「そのピッコロという人物、本当に話が通じるような奴なのか? そいつが優勝したとしても、全員を生き返らせてくれるとは限らない」
「それも含めて、全てはピッコロに合えば解決する……パピヨン、おまえは知らないか? ピッコロの居場所を」
「知らん」
「そうか……」
それが、終わりだった。
パピヨンとの会話で、自らの気持ちに一段落を付けた斗貴子は、雨の止まぬ大阪市外へ脚を向けた。
「どこへ行くつもりだ?」
「……兵庫県に、他の参加者が何人かいるのが確認できる。いくつか強い反応もあるようだ……ひょっとしたらこの中に、ピッコロがいるかもしれない」
今はとにかく、ピッコロを探す。
スカウターの反応を頼りに、まだ会ったことのない参加者と片っ端から接触していく。
そうすれば、いずれはピッコロにたどり着けるはずだ。
運がよければ、アビゲイルから手に入れた『衝突』のカードでめぐり合えるかもしれない。
それまでは――再び錬金の戦士でいるとしよう。
「最後に、パピヨン」
向けた背を再び振り向かせ、斗貴子はパピヨンに最後の質問をする。
- 66 :関西十一人模様 ◆saLB77XmnM :2006/09/24(日) 01:29:55 ID:x+ptUYW80
- 「おまえはこの話を信じるか? 仮に真実だとして、おまえは人数減らしに加担するか?」
ホムンクルスでありながら脱出を目指すパピヨンなら、どんな選択をするか。
単純に、好奇心で投げかけた質問だった。
パピヨンはすぐには答えず、スタスタと歩きながら、Lたちが待っている喫茶店へと進む。
そしてその扉の前に立ち、両手を頭上で交差させた。
「NON!」
まるでバッテン印を描くかのように、斗貴子に背を向けたまま答える。
「生憎、俺は他人を利用するのは好きだが、利用されるのは大嫌いなんでね」
それだけ言い残し、パピヨンは喫茶店内に入っていってしまった。
実に、パピヨンらしい答えだと思う。
ホムンクルスでありながら人を喰らわず、ライバルとの戦いに全てを注いだ男。
正に変人という肩書きがピッタリ当てはまる、変・人、だった。
そんなパピヨンの後姿を確認し、斗貴子もまた、己の道を歩もうとしていた。
今は何よりも、ピッコロの捜索を最優先に。
「待って!」
指針を定めた斗貴子を呼びかける声が。
- 67 :関西十一人模様 ◆saLB77XmnM :2006/09/24(日) 01:30:49 ID:x+ptUYW80
- 「君は……パピヨンの仲間か?」
「はぁ……はぁ……んっと、そう、です。……たぶん」
雨の中、駅舎内から出てきたのは、斗貴子と同じ年頃の女性。
パピヨンを見つけた際、隅のベンチに座っていた二人のうちの一人だった。
「私に何かようか?」
「あの……あの……」
その女性――弥海砂は、気持ちが先走るあまりうまく言葉を発することができない。
それでも、これは人生の転機なのだと自分に言い聞かせ、必死の思いで口を開く。
「月を……夜神月って人を知りませんか……っ!?」
「……!?」
斗貴子の顔が変わった。明らかに動揺している顔だった。
幸運だった。斗貴子は、月を知っている。
――彼女から更なる真実を問いただせば、私の運命は決まる。
「君は、月君の知り合いか」
「はい。恋人――でした。私、知りたいんです。月が……月が……本当に、死んだのかどうか」
「……」
言うべきか悩んだ。
ミサの目を見れば分かる。彼女はまだ、絶望していない。
心のどこかで、月はまだ生きていると信じているのだろう。
だからこそ、心苦しかった。
己の不注意から、友情マンの暴挙を防げなかったあの忌まわしい現実が。それを伝えることが。
しかし、真実を隠すことは、彼を思う彼女の思いを冒涜する行為にも等しい。
ミサは真実を知りたがっている。ならば、真実を知る者は告げなければならない。
「……死んだよ。月君は、仲間を装って近づいた友情マンという人物に殺された」
「…………ッ!」
- 68 :関西十一人模様 ◆saLB77XmnM :2006/09/24(日) 01:31:54 ID:x+ptUYW80
- 見た。
ミサの瞳が、絶望に落ちていく瞬間を。
やはり言うべきではなかっただろうか。
親しい人物を失うというのは、誰にとっても辛いことだ。
斗貴子自身、防人やカズキを失った際の悲しみは計り知れないものがあった。
彼女も、今は悲しみをグッと堪えている最中なのだろう。
「…………そっか、月やっぱり死んじゃったんだ……そっか」
しかし幸いなことに、ミサの声は思ったよりも穏やかなものだった。
おそらく、心のどこかでは彼の死を受け止めていたのだろう。
「……強いな、君は」
「そんなことないよ……でも、いつまでもウジウジしてたら月に笑われちゃう」
ミサの顔は気持ちのいいくらい晴れ晴れしていて、斗貴子にはそれが、眩しいほどに輝く太陽のように思えた。
「ねぇ……お願いがあるんだけど、もし何か武器が余ってたら、譲ってくれないかな?」
いつもの調子を取り戻したミサは、おどけた表情で斗貴子にそう頼んだ。
「武器? ……物騒だな。いったいなんのために」
「あたし、護身用の武器ってなにも持ってなくって……月の分を生きるためにも、身を守る武器が必要なんです」
「護身用か。確かに備えがないとなにかと不安だが……」
無闇やたらに武器を分け与えるというのもどうだろうか。
強すぎる力は、破滅を生む可能性がある。
(……いや)
少し考えてから、そんな心配がなんなのだということに気づいた。
斗貴子の目的は、あくまでも『全員の蘇生』。
もしミサが自分の分け与えた武器で他者を傷つけたとしても――殺したとしても、結局はあとで生き返るのだから。
それも、ドラゴンボールが真実であればの話だが。
(しかしここで私が武器を譲ることを拒めば、それは自らドラゴンボールを否定することに繋がる)
自分から希望を断ち切るような真似はしたくない。
- 69 :関西十一人模様 ◆saLB77XmnM :2006/09/24(日) 01:32:36 ID:x+ptUYW80
- 斗貴子はデイパックの中からショットガンと真空の斧を取り出し、ミサに譲り渡した。
一つはミサのために。もう一つは、駅舎内にいるという小早川セナのために。
交渉を果たした斗貴子は、改めて兵庫へと進路を取った。別れ際に忠告を残して。
「パピヨンという男には十分注意しろ。今は穏健派を気取っているらしいが、奴は自分の障害になるような輩に対して容赦をしない」
「うん。……津村さん、だっけ? あなたも気をつけてね」
「…………ああ」
さすがに、自分が一度皆を殺そうと考えていることまでは言えなかった。
降雨を突き破って疾走していく斗貴子。ミサは、その後姿を手を振って見送った。
「……よし」
第一段階はこれにて終了。
あとは……あいつをたきつけるだけだ。
ミサはLたちの待つ喫茶店内ではなく、再び駅舎内に戻ると、依然として項垂れている少年に声をかける。
「ねぇ、小早川くん」
「…………」
「返事してよ、小早川くん。さっきのことは謝るからさ」
「……」
「ミサね、さっき外でいい話聞いちゃったんだ。小早川くんにも特別に教えてあげる」
「…」
「みんなをね、生き返らせられる方法があるんだって」
「!!!」
塞ぎこんでいた少年――セナが、その言葉でやっと反応を見せた。
久しぶりに見た他人の顔は、ミサの満面の笑みだった。
- 70 :関西十一人模様 ◆saLB77XmnM :2006/09/24(日) 01:33:17 ID:x+ptUYW80
- 「そんな、そんなことが」
ドラゴンボールを使った全員蘇生の話――盗み聞きしていた斗貴子とパピヨンの会話の一部始終を話し終え、ミサはセナに笑顔を振りまいていた。
「すごい話だと思わない? それを使えば、みんな生き返るんだよ。君の知り合いとか、緋村さんとかタケスィーくんも」
「で、でも……それだとみんなを殺さないといけないんじゃ」
「みんな後で生き返るんだって。みんなだよ、みんな」
「……信じられるんですか?」
セナは、ミサの提供してきたうますぎる話に当然の疑問を抱いた。
全員が生き返る。既に死んだ者も、これから死にゆく者も、全て。
確かにそれは願ってもない話だ。だが、死んでしまった者全員を生き返らせるなんて、あまりにも夢物語すぎる。
それゆえ、現実に住むセナは信用することが出来なかったのだ。
「……小早川くんさ、『DEATH NOTE』って知ってる?」
「デス……?なんですかそれ?」
「人が簡単に殺せる、不思議なノート」
ミサが次に話したのは、ドラゴンボールに勝るとも劣らない不思議アイテムの話。
名前を書いただけで他者を殺害できるノートなど、それこそ夢物語を超越して単なる妄想と見て取れる。
だがこの話には、確かな確証があった。
「デスノートは、確かにあたしたちが居た世界に存在した。Lだって否定しないよ。なんなら聞いてみるといいよ」
ミサの顔はやっぱり笑顔で。
その笑顔がやたらと不気味で。
セナは、寒気を感じた。
「小早川くんがデスノートを知らなかったみたいに、世の中にはあたしたちの知らない不思議がいっぱいあるんだよ」
「だから、ドラゴンボールもあるっていうんですか?」
「そう」
- 71 :関西十一人模様 ◆saLB77XmnM :2006/09/24(日) 01:34:22 ID:x+ptUYW80
- 嘘には聞こえなかった。
ミサだって、彼氏の月を生き返らせたいという思いがあるはずだ。
それを考えれば――
「もし仮にその話が本当だとして、どうしてLさんに打ち明けないんですか? どうしてよりによって、僕なんかに打ち明けるんですか?」
「君は知らないかもしれないけど、Lって頭が固いのよ。自分の信じることしか絶対に認めないって感じで。あたしなんか、過去に犯罪者って決め付けられて監禁されたことあるんだよ、Lに」
「か、監禁って……」
「あたしが言いたいことは、あんまりLを信用するなってこと。そこで、ミサはこれを小早川くんに託します」
ゴトッ、と重厚な音を出してその場に置かれたのは、斗貴子から譲り受けたショットガン。
「これで、Lを殺して」
「な、なんですって!?」
あまりの衝撃発言に、セナは声を荒げた。
Lを殺す。共に脱出を誓った仲間を、この銃で殺せと。
「そんなこと、できるはずないじゃないですか!?」
「Lは、絶対にドラゴンボールを否定する。でもミサは、ドラゴンボールを信じる。だから、小早川くんはLを殺して。
ミサの邪魔にならないように。できるようなら、あの蝶々仮面とおしゃぶりの男も。その方が、ピッコロって人が優勝しやすくなるから」
「め、滅茶苦茶ですよ!」
そうは言ってみるが、ミサの顔は至って正常。作り笑顔ではなく、王道アイドルを思わせるナチュラルな笑顔で対応していた。
「Lは、いつか絶対にミサたちを切り捨てるよ。脱出するのに足手まといはいらないって。そうなってもいいの?」
「Lさんはそんなことしませんよ!」
「本当にそうかな? だって、緋村さんやナルトくんって人が死んだのも、全部Lが原因みたいなものでしょう?
あいつは結局、自分が生きてて、その上で勝利が手に入ればいいのよ」
四国――その単語に、セナは激しく心揺らいだ。
思えばキン肉マンとの接触時、あのタイミングにみんなで四国に向かっていれば。Lが邪魔をしなければ。
ナルトは、剣心は、死ななくて済んだのではないのだろうか。
- 72 :関西十一人模様 ◆saLB77XmnM :2006/09/24(日) 01:36:05 ID:x+ptUYW80
- 「いい? ミサと君は、一緒にLを裏切るの。でもこの裏切りはみんなのため。こんな最高な解決方法、他にないんだよ? それをLなんかに潰されるの、悔しくない?」
セナを納得させようとするまもりの声が妙にお姉さんっぽくて、なんとなくまもりに似ている気がした。
その声を聞いて、考えてしまう。
小早川瀬那は、どうしたいのか。
――ヒル魔さんが生き返れば、また一緒にクリスマスボウルが目指せる。
――進さんが生き返れば、クリスマスボウルで万全の王城と戦うことができる。
――緋村さんやナルトくんが生き返れば、今まで守ってもらえた恩返しができる。
――たけしくんやラーメンマンが生き返れば、キン肉マンだって喜ぶ。
――いいことずくめじゃないか。
しばらく考えて、セナは銃を手に取った。
「僕……やります。どこまでできるかわからないけど……そのピッコロって人を信じて、やってみます!」
迷いはない。
小早川瀬那、泥門デビルバッツ光速のラインバッカー、アイシールド21。
この一世一代のギャンブルに、身を投じることを誓う。
「……ありがとう、小早川くん。じゃあ、Lは君に任せるね」
「ミサさんは、これからどうするんですか?」
「ミサは、他のところで参加者を減らしながらピッコロって人を探す。もう会うことはないけど知れないけど……いつ死んでも大丈夫だよ。きっとあとで生き返れるから」
「そんな縁起でもない……でも…………ハイ」
胸に銃を抱えたまま、セナは笑顔で去っていくミサを見送った。
これが二人の少年少女を襲った『人生の転機』。
* * * * *
- 73 :関西十一人模様 ◆saLB77XmnM :2006/09/24(日) 01:36:55 ID:x+ptUYW80
-
――やったよ、月。ミサ、やりとげたよ。
雨振る関西を走りながら、ミサは興奮に打ち震えていた。
――月が本当に死んだんだって知った時は……ミサ、悲しくて悲しくて、もう泣きそうになっちゃった。
――でも、すぐにそんなわけにはいかないって気づいた。ドラゴンボールっていう便利な玉があることを知ったから。
殺すノートがあるならば、生かす玉があってもおかしくない。
ひょっとしたら、主催者が言っていたご褒美の蘇生というのも、本当にできるのかもしれない。
――ミサの渾身の演技、見てくれた? 泣き叫びたい気持ちを必死に抑えて、ミサ頑張ったんだよ?
――大丈夫。あの女も、ミサのプロの演技にすっかり騙されちゃってたみたいだから。
――これであの子がLを殺してくれたら、計画通り。月みたいにうまくはできないかもしれないけど……どうか、見守っててね。
抱きしめる真空の斧からは、不思議と月の温もりが感じられた。
これが、心の支えになる。これで誰かを殺せば、また安心ができる。
――あ、そうだ。月を殺したっていう友情マンも、ミサがぶっ殺してあげるよ。仇討ちって、なんか格好いいもんね。
全部やり遂げれば、きっと月に会えるから。
そう信じて、ミサは斧を振るう。
「みんな……みんなぶっ殺しちゃうんだから! それで後で生き返って、ミサと月を崇めた称えるいいんだぁ〜アハハハハハハハハハハハハハ!!!」
- 74 :関西十一人模様 ◆saLB77XmnM :2006/09/24(日) 01:37:40 ID:x+ptUYW80
- 【京都府/二日目・午前】
【志村新八@銀魂】
[状態]:重い疲労。全身所々に擦過傷。特に右腕が酷く、人差し指、中指、薬指が骨折。上腕部に大きな切傷(止血済み)。
顔面にダメージ。歯数本破損。朦朧。たんこぶ多数。貧血。
[装備]:無し
[道具]:荷物一式、 火口の荷物(半分の食料)
毒牙の鎖@ダイの大冒険(一かすりしただけでも死に至る猛毒が回るアクセサリー型武器)
[思考]:1、一旦琵琶湖に戻るor斗貴子を捜す。
2、藍染の計画を阻止。
3、まもりを守る。
4、銀時、神楽、沖田、冴子の分も生きる(絶対に死なない)。
5、主催者につっこむ(主催者の打倒)。
【越前リョーマ@テニスの王子様】
[状態]:非親衛隊員。重い疲労。脇腹に、軽度の切傷(止血済み)
[装備]:線路で拾った石×1
[道具]:マキ○ン
[思考]:1、新八が無茶をしないよう見張る。
2、新八の傷を治してくれる人を捜す。
3、藍染の計画を阻止。
4、死なない
5、生き残って罪を償う
- 75 :関西十一人模様 ◆saLB77XmnM :2006/09/24(日) 01:38:18 ID:x+ptUYW80
- 【大阪府/汽車内/午前】
【キン肉スグル@キン肉マン】
[状態]健康、激しい怒り
[道具]荷物一式
[思考]1:汽車内で志々雄と決闘。
2:九時までに決着をつけ、名古屋駅で下り列車に乗車。10時には大阪に戻る。
3:セナとミサを元気付けたい。
4:ウォーズ・ボンチュー・マミー・まもりを探す。
5:ゴン蔵の仇を取る。
【志々雄真実@るろうに剣心】
[状態]:全身に軽度の裂傷
[装備]:衝撃貝の仕込まれた篭手(右腕)@ワンピース、飛刀@封神演義
[道具]:荷物一式 八人分(食料、水二日分消費)、コルトローマンMKV@シティーハンター(ただし照準はメチャクチャ)(残弾1)
:青雲剣@封神演義、パチンコ@ONE PIECE(鉛星、卵星)
:ゴールドフェザー2本 シルバーフェザー3本@ダイの大冒険、キメラの翼@ダイの大冒険
:弾丸各種(マグナムリボルバーの弾なし) 、ソーイングセット、半透明ゴミ袋10枚入り1パック
[思考]:1:キン肉マンを倒す。いざとなったらキメラの翼を使い逃走。
2:パピヨン達に首輪の解除をさせる。
3:無限刃を手に入れる
4:無理に戦う気はない。誰かを利用して参加者を減らせるなら、それが理想。(15分の時間制限のため)
5:強力な敵や多人数と戦う場合は、作戦を立てて対抗する。できれば無限刃を持った万全の状態で挑みたい。
6:長時間戦える東北へ向かう・・・?
7:全員殺し生き残る
- 76 :関西十一人模様 ◆saLB77XmnM :2006/09/24(日) 01:38:59 ID:x+ptUYW80
- 【ウソップ@ワンピース】
[状態]:健康
[装備]:賢者のアクアマリン@ハンター×ハンター
:いびつなパチンコ(特製チクチク星×5、石数個)
:ボロいスカーフ(団員の証として)
:大量の輪ゴム
[道具]:荷物一式(食料・水、残り3/4)
:死者への往復葉書@ハンター×ハンター (カード化解除。残り八枚) 参號夷腕坊@るろうに剣心
:スナイパーライフル(残弾16発) ボロいスカーフ×2
[思考]1:キン肉マンVS志々雄の戦いを見届ける(本当は逃げ出したい)
2:ルフィ・ポップの仲間との合流
3:アイテムを信じて仲間を探す
4:全てが終わった後、死んだ参加者のためにとむらいの鐘を鳴らす。
【大阪府/二日目・午前】
【津村斗貴子@武装練金】
[状態]:肉体的、精神的に軽度の疲労。左肋骨二本破砕(サクラの治療により、痛みは引きました)
顔面に新たな傷、核鉄により常時ヒーリング
[装備]:核鉄C@武装練金、リーダーバッチ@世紀末リーダー伝たけし!、スカウター@ドラゴンボール
[道具]:荷物一式(食料と水を四人分、一食分消費)、ダイの剣@ダイの大冒険
:首さすまた@地獄先生ぬ〜べ〜、『衝突』@ハンター×ハンター、子供用の下着
[思考]1、兵庫県へ向かい、強い反応と接触する。
2、兵庫県でピッコロの情報が手に入らなかった場合、『衝突』を使って未遭遇の参加者に接触する。
3、ピッコロに会い、ドラゴンボールが真実である事を確かめる。
4、確証が得られたならば、今度こそゲームに乗る決意。
5、ドラゴンボールが使えないようであれば……
[備考]斗貴子が大阪駅に到着したのは列車出発後のため、キン肉マン、志々雄、ウソップとは面識がありません。
- 77 :関西十一人模様 ◆saLB77XmnM :2006/09/24(日) 01:39:44 ID:x+ptUYW80
- 【弥海砂@DEATHNOTE】
[状態]軽度の疲労、興奮状態
[装備]真空の斧@ダイの大冒険
[道具]荷物一式
[思考]1:ピッコロを捜しつつ人数減らし。
2:ドラゴンボールで月を生き返らせてもらう。
3:いざとなったら自分が優勝し、主催者に月を生き返らせてもらう。
4:友情マンを殺し、月の仇を取る。
5:ピッコロを優勝させる。
【大阪府・駅舎内/2日目・午前】
【小早川瀬那@アイシールド21】
[状態]顔面に軽傷、精神不安定(重症)
[装備]ショットガン
[道具]:荷物一式(食料残り1/3)、野営用具一式
[思考]1:Lを殺す。可能であれば、パピヨンとポップも殺害。
2:ドラゴンボールを信じて、より多くの参加者を減らす。
3:まもりとの合流。
4:ピッコロを優勝させる。
【大阪府・駅舎隣の喫茶店/二日目・午前】
【L@DEATHNOTE】
[状態]右肩銃創(止血済み)
[道具]:ナッパの荷物一式の中身(地図など。食料無し、水ペットボトル一本)
:デスノートの切れ端@DEATHNOTE、GIスペルカード『同行(アカンパニー)』@HUNTER×HUNTER
:雪走り@ONEPIECE、斬魄刀@BLEACH、核鉄XLIV(44)@武装練金
[思考]1:パピヨン、ポップらと情報交換。脱出のための計画を進める。
2:現在の仲間たちと信頼関係を築く
3:沖縄の存在の確認
4:ゲームの出来るだけ早い中断
- 78 :関西十一人模様 ◆saLB77XmnM :2006/09/24(日) 01:40:27 ID:x+ptUYW80
- 【ポップ@ダイの大冒険】
[状態]:健康 (MP全快)
[装備]:魔封環@幽遊白書 、アバンのしるし@ダイの大冒険
:ウソップ作の仕込み杖(投げナイフを使用) 、死者への往復葉書@ハンター×ハンター(ウソップから譲って貰った)
:ボロいスカーフ(仲間の証として)
:ゴールドフェザー 3本 シルバーフェザー 2本@ダイの大冒険
[道具]:荷物一式×3(食料・水、一日分消費) 首輪×2
[思考]1:Lと情報交換。が、内心ではウソップが心配。
2:脱出の鍵を探す。
3:ダイ・ウソップの仲間との合流
4:夜になったら死者への往復葉書を使ってマァムに手紙を書く。
5:フレイザードを早めに倒す
6:パピヨンはやはりあまり信用していない
【パピヨン@武装錬金】
[状態]:健康 核鉄で常時ヒーリング
[装備]:核鉄LXX@武装錬金
:ボロいスカーフ(首輪から監視されていた場合への対策)
[道具]:荷物一式×4(食糧二食分消費)首輪×2、ベアクロー(片方)@キン肉マン
[思考]:1:Lと情報交換。利害が一致するようであれば協力。
2:武藤カズキを生き返らせる。手段は問わない。ただし主催者の思い通りになるのは拒否。
3:首輪を調べる。爆破実験は迂闊に行うべきではないと思っている(少なくとももっと脱出の為の駒が集まってから)
4:首輪の解除に役立つ人間またはアイテムを探す。
5:志々雄を危険視。対策を立てる。自分達が有利な広いフィールド、又は拠点の捜索。
6:ツリ目の少年の情報を得る。ツリ目の少年は見つけ次第殺す。
7:ドラゴンボールは信用しない。
8:他の参加者と必要以上に馴れ合う気はない。
- 79 :関西十一人模様 ◆saLB77XmnM :2006/09/24(日) 01:41:01 ID:x+ptUYW80
- <首輪の調査案 その@>
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
1.死体の首輪で爆発力を調査(調査トリガー:情報不足のため、脱出の目処がつく/有力な仲間ができるまで保留)
1.1 死体の首輪が爆発しなかった場合 → 外部から首輪を破壊する(首輪が誘爆するかは不明)
2.項目1の結果を受けて列車の中で、起爆トリガーの調査
2.1 禁止エリアがトリガーだった場合 → 列車内の調査
2.2 主催者側の監視がトリガーだった場合 → 予備の首輪の爆破実験を行い、主催側の視界の調査
3.項目1で破壊した、首輪の破片の分析(パピヨン・ウソップ)
4.「呪い」の調査、及び対処法の考案(ポップ) ⇒ シャナクを使ってみる
5.マホカトールを使用した首輪への外部干渉の断絶(調査トリガー:項目1、項目2を受けて本格解除を前提とした行動)
- 80 :関西十一人模様 ◆saLB77XmnM :2006/09/24(日) 01:54:36 ID:x+ptUYW80
- >>51
14行目
向かうべき場所は、北――大阪。→向かうべき場所は、南――大阪
>>73
15行目
「みんな……みんなぶっ殺しちゃうんだから! それで後で生き返って、ミサと月を崇めた称えるいいんだぁ〜アハハハハハハハハハハハハハ!!!」
↓
「みんな……みんなぶっ殺しちゃうんだから! それで後で生き返って、ミサと月を崇め称えるがいいんだぁ〜アハハハハハハハハハハハハハ!!!」
- 81 :決着 ◆AJ.6Id7deU :2006/09/24(日) 11:32:57 ID:xzgJ+rts0
- タカヤの体は、死の炎に包まれている。
その中で、タカヤは狂ったように笑っていた。
「ふふふ、ふははははははははははははははははは
まだ、終らないよ!!ヤムチャ!!
この恨みは、必ず我が子が受け継いでくれる!!!」
ズゥゥゥゥズズズ… ドキューーーーン!!!
黒き塵と化したタカヤは、地獄の穴へと吸い込まれていった。
一方のヤムチャも、体力を使い果たし、瀕死の状態。
地獄へと誘われるのは、時間の問題だった。
- 82 :決着 ◆AJ.6Id7deU :2006/09/24(日) 11:34:46 ID:xzgJ+rts0
- 【ヤムチャ@ドラゴンボール】
[状態]:超ウルフ人 SPARKING Neo
右小指喪失・左耳喪失・左脇腹に創傷(全て治療済み)・気絶
超神水克服(力が限界まで引き出される)・五行封印(気が上手く引き出せない)
[装備]:フリーザ、ハーデス、バーンの死体
[道具]:荷物一式(伊達のもの)、一日分の食料
[思考]:1.タカヤをころす。
2.最終形態へ
3.斗貴子達と合流後、四国で両津達と合流。協力を仰ぐ。
4.四国で合流できない場合、予定通り3日目の朝には兵庫県に戻る。無理なら琵琶湖。
5.クリリンの計画に協力。人数を減らす。
6.友情マンを警戒(人相は斗貴子から伝えられている)。
【タカヤ@死亡確認】
- 83 :不幸が呼んだ必然の遭遇1/9 ◆7euNFXayzo :2006/09/25(月) 22:20:24 ID:egY/yDS50
-
「……ついてねー」
そんな一言で何もかも誤魔化せるなら、どんなにいいだろう。我が身に降りかかる災難を全て取り払う事が出来るなら、どんなにいいだろう。
いくら目を逸らしたところで変わる事のない、事実だった。助けなくてはならない、それだけを思って自分が撃ち出した炎の渦は、
結果的に彼を更なる命の危機へと追いやってしまった。どうしようもなく最低な自分を、見捨てる事なく追いかけてきてくれた彼を。
挙句の果てに、自分はその現実から逃げ出した。あの無機質な紅の瞳がどうしようもなく恐ろしくて、気がついた時には、『死にたくない』、
その単語だけが頭の中を支配していた。己の過ちによって焼き尽くしてしまった男の事でさえも、その瞬間には抜け落ちてしまっていた。
そうして自分は生き延びて、人っ子一人見当たらない雑木林の中を、とぼとぼと行く当てもなく彷徨っている。
仮に黒い仮面の男が自分を追いかけてきているのならば、自分はとっくに命を落としている筈だから――助かった。つまりは、そういう事だ。
やった。俺ってラッキーだ――当然、そんな気持ちになれるわけもないのだけれど。
……今更何が、ついてねー、だよ。
よくよく考えてみれば、自分が人助けをしようだなんて土台不可能な話だったのだ。自分は『ついてない』のだから。『不幸』なのだから。
追手内洋一の行動、願望というのは、何もかもが裏目にでて然るべき。それは、自分が最も深く理解していたというのに。
燃焼砲によって赤く焼け爛れた、ケンシロウの背中を思い返す。あの二人の実力は、洋一が見る限りでは拮抗していたように思えた。
その均衡を崩したのは、他ならぬ洋一自身だ。釣り合いの取れなくなった秤は、当然重みを持つ方へと傾く。
ケンシロウはもう、生きてはいまい。
洋一が、殺したようなものだった。
「……う」
黒仮面の男から逃げ出す際に散々垂れ流した涙が、今更になってまた滲み出してきた。格好悪いことに、鼻水のおまけ付きで。
そもそも自分に、泣き出す権利があるのかさえも怪しい。泣きたいのはむしろ、不幸のとばっちりを受けたケンシロウの方だろう。もっとも、
あの精悍な顔付きの男が涙する姿というのもあまり想像は出来ないが。……未だに、こんな事を考えられる自分にも呆れ果てる。
――これから、どうしよう、俺。
この世界に連れてこられてから、一人きりの時間というのはあまり長くはなかった。如何なる時も、洋一は誰かに守られ続けて生きてきた。
槇村香、三井寿、L、ムーンフェイス、趙公明――彼は決して、自分を守ってくれるような存在ではなかったが――そして、ケンシロウ。
趙公明はともかく、香、三井と共にいた時には、三井が。Lとムーンフェイスの時には、ムーンフェイスが、戦いの末に命を落としている。
ケンシロウに至っては、この手で命を奪ってしまった。偶然の一言では、片付ける事が出来ない。自分は、仲間にまでも不幸を齎すのだ。
自分一人で殺人者と出会って勝てる自信など、当然ない。かといって、善良な参加者と行動を共にするのも、気が進まない。八方塞だった。
いっそこのまま、誰とも出会わなければいいのに――一瞬とはいえそう考えてしまったのが、幾度目となる『運の尽き』だった。
- 84 :不幸が呼んだ必然の遭遇2/9 ◆7euNFXayzo :2006/09/25(月) 22:21:54 ID:egY/yDS50
-
――村剣心 、桃白白、蘇妲――
「――は?」
それは、ほんの数十分前に別れたばかりの男の名前。男が残した最後の台詞を思い返す。あの自信満々の口調は、一体何だったのか。
『うむ。この世界一の殺し屋、桃白白に任せなさい』――そう言い放った男が、死んでいた。お前、世界一の殺され屋の間違いじゃないのか?
頭が痛くなってきた。確かに桃白白の実力は自分にこそ遠く及ばなかったものの、6人もの参加者を葬ったという言葉もあって、
それなりに期待を掛けていたのだ。それがいきなりこの様とは――思い描いていた計画の図式が、のっけから狂わされてしまった。
……ったく、どうすっかな……。
頬の傷痕を一撫でしつつ、『地球人最強』の男、ヤムチャは思案に暮れていた。
何の気もなしに空を仰いでみる。今は爽やかなくらいの快晴だが、放送によれば今日の午前中から一部の地域で天気が荒れるという。
立ち込める暗雲。今の自分の境遇を表しているようで、これまた不吉だ。……これは流石に考え過ぎか。
しかし、真剣にどうしたものか。先程にも思った事だが、桃白白は自分に対して、西へ行け、と言った。そして奴は南へ行くと言い、死んだ。
ここからヤムチャが考えた事は、二つ。まず一つ、桃白白が向かった南の方角、桃白白と別れたのは群馬県での事だから、
この場合は首都圏の辺りに、桃白白を屠るほどの強者がいるという事。そしてもう一つは、先程にも思った事になるが――
あれだけ強気の態度を取りながら、自分と別れて早々に命を落とした桃白白の進言をそのまま受け入れて動くのは、不安があるという事。
後者は考察でも何でもない、単なる個人的な感想であるが――速攻死んだ奴の言う通りに動くってのも、なんか気が進まないだろ。
そういう事で、当初の予定であった西への移動という選択肢は、あっさりとヤムチャの思考から排除される事となった。残る方角は、三つ。
東は駄目だ。あの『ジッパー』の青年――ブローノ・ブチャラティ、とか名乗っていたか――と、再び遭遇する恐れがある。
戦闘力で遅れを取ったとは到底思っていないが、左小指に取り付いたこの『ジッパー』が、彼との再戦をどうにも躊躇わせていた。
戦いの後半では自分がブチャラティを圧倒していたが、次もあの通りにいくとは限らない。『ジッパー』の鈍い輝きは、
『次に会ったら必ず始末する』というメッセージにすら思える。この『ジッパー』が消える時までは、ブチャラティには会いたくないと、思った。
残された方角は、二つ。そういえばこれがあったっけかと、デイパックの中から地図を取り出して、ヤムチャは改めて移動先を吟味し直す。
……あれ、マジかよ。北も南も両方とも禁止エリアじゃねーか……やっぱ素直に西に行くか? いやけどなぁ……。
この世界に連れてこられてから、何度目になるか分からない優柔不断。一応新潟の隣には富山があり、静岡の隣には愛知県があるが――
ふと、そこで一つの可能性が頭を過ぎった。
- 85 :不幸が呼んだ必然の遭遇2/9 ◆7euNFXayzo :2006/09/25(月) 22:23:18 ID:egY/yDS50
-
桃白白を殺した参加者が、首都圏から西に向かって移動を行っていたら――南に向かえば、そいつと鉢合わせする可能性がある。
それなりの強者と、出会うかもしれないというわけだ。――これはヤバいな。北に行こう。そう結論付けて地図を仕舞い込もうとした時に、
――いや、しかし、待てよ? 地図を畳み込む途中だった手を、ぴたりと止めた。
――こいつはむしろ、絶好のチャンスなんじゃないか? ヤムチャの瞳に、調子付いた者特有の怪しげな光がきらりと瞬いた。
桃白白を倒したからといって、自分よりも強い相手だとは限らない。何しろ桃白白は、自分が一撃で気絶させることの出来た相手なのだから。
そう。あの数瞬の手合わせから導き出した結論。桃白白は自分にとっての『ザコ』なのだ。そのザコを倒した相手にビビっていて、どうする。
しっかりしろよ。オレは『地球人最強』なんだぞ? あの鎧のヤロウだって倒せたんだ。桃白白を倒したからって、それが何だっていうんだよ。
今のオレより強いヤツなんか、それこそ悟空くらいのもんじゃないか。
――悟空? あ、そうだよ、その可能性があったんだ!
もし桃白白を倒したのが悟空だったら、それこそ好都合ってやつだ! あいつにもクリリンの計画を話してやるんだ、
悟空が協力してくれれば、こんなゲームあっという間にケリがつく! ひゃっほう! そうと決まれば、気合が舞い戻ってきたぜ!
――意気揚々に地図を仕舞い込むヤムチャの中では、既に南にいる参加者=孫悟空、という事になってしまっていた。
『スティッキィ・フィンガーズ』の真の効力を目の当たりにしていない彼には、知る由もない。桃白白の死因、
それは彼の半身に大きく取り付いた『ジッパー』が解除されたためであり、更には今から数時間後、ブローノ・ブチャラティの命は、
『友情』の二文字を冠したヒーローの手によって奪われることとなり、彼が追い求める『桃白白を殺した参加者』の存在は、
完全にこの世界から消え去ってしまうという事も、何もかも――この時のヤムチャには、想像する事など出来なかった。
――吸血鬼の帝王は、かく語りき。真の強者とは、『運命』という名の悪魔を乗り越えた存在である、と。
この時のヤムチャもまた、『悪魔』の掌の上に立たされていたのかもしれない。
幾多の事象が絡み合い、結果として南へと歩を進める事となったヤムチャは、
時が経ち、太陽の光が雨雲によってすっかり陰ってしまった頃、こうして――
「――何だ、お前? ずいぶん変な頭してんなー……」
――『彼』と、出会ってしまったのだから。
- 86 :不幸が呼んだ必然の遭遇4/9 ◆7euNFXayzo :2006/09/25(月) 22:24:41 ID:egY/yDS50
-
自分のことを言われているのだという確信よりも先に、突然背後から声が聞こえてきたという事実に驚いて、洋一はばっと振り返った。
山吹色の胴着に身を包み、頬と右目に痛々しげな傷痕を刻んだ男の姿がそこにいた。暢気そうな顔をしているが、
真っ先にその『傷痕』へと目が行ってしまった事で、洋一の心は一瞬にして恐怖で埋め尽くされる事となった。
「ぎっ……ぎえ〜っ!!」
溢れんばかりの絶叫が、曇天の空に響き渡る。まさか出会い頭に叫ばれるとは思っていなかったのだろう、
目の前の男があからさまに狼狽した様子になって、「ば、バカ! いきなりそんなデカい声を出すんじゃない!」と洋一を宥めかける。
……あれ、もしかして、いい人? そう思って声を静めた洋一の前で、傷痕の男はうっかりしたとでもいうような調子で続けた。
「……って、別に誰か来ても大丈夫か。今のオレに掛かれば誰が来たってイチコロだしな……フッ」
一瞬にして、男の印象が『いい人かも』から『ナルシストかよ』に変化する。キザったらしく最後に付け加えた笑みがまた、
その自意識過剰っぷりを増長させている。流石に失礼かとも思ったが、知り合いの目立ちたがり屋ヒーローの顔が、浮かんだ。
ジト目になって眺めていると、男はワザとらしい咳払いを一つしてから、至極当然だというように、堂々とした声色で宣言した。
「い、いいかよく聞け! オレの名前はヤムチャ、地球人の中で一番強い男だ! 後で絶対に生き返らせてやるから、黙ってオレに殺されな!」
――と。
…………。
はい?
「こ……殺され?」
「そうだ。ああ、言っとくけど生き返らせてやるっていうのはウソじゃないぞ。ドラゴンボールっていう玉があって、それを使えばどんな願いも……」
「……つ」
「え?」
「ついてねえ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
――うお〜っ、ちくしょ〜っ! 結局どこ行ってもこうなるのかよ、ついてねえ〜っ!
未だに消える事のない不幸を呪いつつ、洋一はヤムチャに背を向けると、脱兎の如く駆け出した。これ以上にない全速力だった。しかし――
- 87 :不幸が呼んだ必然の遭遇5/9 ◆7euNFXayzo :2006/09/25(月) 22:26:36 ID:egY/yDS50
-
そこは木々の密集する森林地帯。加えて洋一は突然の遭遇に対して焦りまくっていて、極めつけに洋一は不幸。大宇宙一運の悪い男。
洋一が木の根に足を取られてスッ転んだのは、ある意味必然のことだった。顔面を咄嗟にカバー出来ただけでも、不幸中の幸いと言える。
「ぶえっ!」
腕を思いっきり擦り剥いた。痛い。痛いし、何より――ついてねー、って、そんな事思ってる場合じゃねーよ! 早く起きなくちゃ捕まる!
お約束とも言えるこの状況を嘆きつつ顔を上げ、間もなく「げっ!」と声を上げる羽目になった。
少しは引き離したと思っていたヤムチャの足が、すぐ目の前にあった。常人離れしたスピード。どっちみち洋一が転ばなかったとしても、
この分ではすぐに追いつかれてしまっていたに違いなかった。
「おいおい、お前……『足元がお留守』なんじゃないか? もうちょっと周りに気を配るんだな」
妙に得意気な顔で洋一を見下ろしつつ、ヤムチャが言った。『足元がお留守』のところであからさまに口元がニヤついていたが、
何故だかはさっぱり分からない。ただ一つ明らかなことといえば、大ピンチだ。例の燃焼砲も逃げ出す際に放り捨ててしまったので、
この自信満々の男に抵抗する手段が何一つ手元には無い。相手が自分を『殺す』と明言している以上、
何とかしなければ本当にその通りの結末を迎えてしまう……!
「おおおお願いします! どうかこの通り、命だけは助けてぇ〜っ!!」
地に手を着いて頭を下げる、命乞いの土下座。毎度お馴染みの行動であるが、他にどうしようもないのだから仕方がない。
頼む、このままどうにか見逃してくれ。そう胸中で願い続けた。しかし、頭上から聞こえてきたヤムチャの言葉は、非情だった。
「落ち着けよ。後で生き返らせてやるって言ってるだろ? 大丈夫だって、痛むのは一瞬にしてやるから」
「ウソだぁ〜! 絶対そんなこと言って自分一人だけ生き残るつもりなんだ、俺は信じねーぞ〜っ!!」
土下座が通じないので、泣き落としに移行する。というか、恐怖でそうせざるを得なかった。涙といい鼻水といい、
これだけ垂れ流してよく枯れないものだと我ながら思う。顔面をぐちゃぐちゃにしながらの懇願は流石に効いたのか、ヤムチャがたじろいだ。
「わ、分かったよ! そんなに疑うんなら一から説明してやるから、とりあえず静かにしてくれって! それからそのみっともない顔を拭け!」
そう言ってハンカチを差し出してくれたこの男は、やっぱり悪い人ではないのかもしれないとその時ちょっとだけ思ったりした。
- 88 :不幸が呼んだ必然の遭遇6/9 ◆7euNFXayzo :2006/09/25(月) 22:29:05 ID:egY/yDS50
-
「ふーん、ドラゴンボールねぇ……」
ヤムチャの親切に預かって――自分を殺そうとしている相手に、親切も何もないと言えばないのだが――汚れた顔を一通り拭き終えた後、
洋一はドラゴンボールに関する詳しい情報と、この世界におけるヤムチャの目的をあらかた聞かされた。
どんな願いでも叶えることの出来る不思議な玉。いささか都合の良すぎる話だとは思う。けれど、
熱意の篭もった口調で話すヤムチャの言葉を聴く限りでは、それを一朝一夕の作り話と即座に切り捨てる事は出来なかった。
何しろ洋一自身、一度は『蘇り』を経験した人間である。『都合の良すぎる話』というのも、幾度となく経験している。それこそ、
『どんな出来事も幸運によって解決出来る正義のヒーロー』などという話の方が、神秘性溢れる七つの宝玉の話よりもよっぽと如何わしい。
まず、仮にこの話が本当であるのなら、こんな行く先々で命の危険が付き纏う世界ともおさらばする事が出来る。
らっきょを持たない自分への無力感に打ちひしがれる事もなくなる。渡りに船という奴だ。
だが、逆に。
この一生懸命なヤムチャの姿も、言葉の内容も、何もかもが嘘八百で飾り立てられただけのものだったとしたら。
土下座も泣き落としも通じず、逃げ出す事さえも叶わない以上、洋一の命運は尽き果てる事となってしまうが――
疑おうが、信じようが、どの道殺されてしまうというのなら。――信じる以外の道など、洋一には残されていないということだ。
諦めの境地から導き出された、結論だった。がくりと項垂れて、これっぽっちの覇気も感じられない声で、言った。
「――分かったよ。ヤムチャさんの話、信じるよ……」
「ホントか!? よし、それじゃあ情の移らないうちにスパっとやらせてもらうぜ、恨むなよ!」
「だぁぁ、でもちょっと待ってーッ!!」
「何だよ、往生際の悪いやつだな……」
比喩でも何でもなく、まったくもってヤムチャの言うとおりだったが、殺される側にも心の準備という物がある。というか、
実に情けない話になるが、今更になって『やっぱ死にたくない』という強烈な感情が洋一の中で暴れ始めていた。
どうにか口八丁でやり過ごせないかと、なけなしの脳細胞をフル回転させる。とりあえず、駄目元の提案を突きつけてみる事にした。
「そ……その、ヤムチャさんの計画っていうの、ボクにも手伝わせてもらえないかなー、なーんて……」
「ダメだ! 桃白白のやつも同じこと言ってすぐに殺されちまったし、少なくともオレより弱いやつはもう仲間になんかしてやらんぞっ!」
即座に却下された。当然と言えば当然だ、あれだけ醜態を晒した後で『仲間にしてくれ』などと言い出したところで、向こうも期待は持てまい。
- 89 :不幸が呼んだ必然の遭遇7/9 ◆7euNFXayzo :2006/09/25(月) 22:31:24 ID:egY/yDS50
-
それにしても、このヤムチャという男。よっぽど自分の実力に自信を持っているらしい。
怪物揃いのこの世界において、『誰が来てもイチコロ』などと言ってのけるほどの自負。それだけの力を持っているからこそ、
他の参加者を全滅させて蘇らせるなどという無茶苦茶な計画をも実行に移す事が出来るのだろうが――
……コー、ホー。
ふと、その特徴的な呼吸音を思い出した。
あの、七つの傷を持つ拳士とも互角に渡り合ってみせた、黒い仮面の参加者。
自分で成し遂げる事は、到底敵わないと思っていた、恩人の仇討ち。
あの場から一目散に逃げ出してしまった自分に出来る、せめてもの償い。
……そう。この男にならば、それが出来るのではないか。
不甲斐ない自分に代わって、あの恐ろしい仮面の男を、打ち倒す事が出来るのではないか――?
「…………」
……はっきり言って、今更な話だ。
ヤムチャがあの男を殺したところで、洋一がケンシロウに傷を負わせて、あの場から逃げ出したという事実は変わり様がないのだから。
そう、これは自己満足だ。ケンシロウの仇を討ちたいとか、あの男は危険だから放っておけないとか、
それらしい御託をいくら並べてみたところで、根底のところにあるのは、それなのだ。けれど――
- 90 :不幸が呼んだ必然の遭遇8/9 ◆7euNFXayzo :2006/09/25(月) 22:32:39 ID:egY/yDS50
-
「……ヤムチャさんっ!」
「どわっ! きゅ、急にどうした? 遺言か何か残しときたいのか?」
「どうしても……死ぬ前に、どうしてもヤムチャさんにやってほしい事があるんだっ! その、かくかくしかじか……」
「……なっ!? じょっ、冗談じゃないっ! 何でオレがそんなことを頼まれなくちゃいけないんだよっ!?」
「地球人で一番強いんでしょーっ!? それが終わったら殺そうが何しようが構わないからさぁ、ねっ、この通りっ! 頼むよ〜っ!!」
――ケンシロウさん。
俺、怖そうな金髪の男の人に捕まったり、いきなり泣いていなくなったり、とどめに背中焼いちゃったり、迷惑掛けっ放しだったと思うけど。
やってみるよ。ていうか、実際にやるのはヤムチャさんだけど――
ケンシロウさんのために、なんて、言わない。……言えない、けど。
俺が、後悔しないで死んでいけるように。俺に出来る、精一杯のことを。
「そ、そんな事言われたってな……」
ヤムチャとしては、洋一の要求を突っ撥ねるのは簡単である。洋一はヤムチャに対して、何の強制力も持たないのだから。
ただ、この必死に食い掛かってくる少年を突き放して、有無を言わさず黙らせるというのは、流石に良心が痛む。あまりにも悪役に過ぎる。
かつては荒野の盗賊として無法者を気取ったヤムチャも、今となっては数多くの友人を持つ気のいい三枚目である。
寄り縋ってくる少年に対して、『うるさい! 死ね!』などと吐き捨てて首を刎ねるような外道感の溢れる行為に走れるほど、
ヤムチャはまだ非情になり切れてはいなかった。
……まあ、一応利害は一致してるよな。オレの目的は人数減らしなワケだし、それが済んだらこいつも死んでもいいって言ってるワケだし。
万が一、その仮面の男ってのがオレより強かったら、その時は逃げりゃいいだけの話じゃないか。そういえば、
あのイカつい野郎から逃げ出した時に置いてったサクラ、大丈夫だったかな。放送じゃまだ名前呼ばれてねーけど……。
「ヤムチャさ〜ん!」
「うおっ!? こ、こら! 襟首を掴んで揺さぶるなっ!
……ったくっ、分かったよ! このヤムチャ様が、その仇討ちを引き受けてやるぜ!」
「えっ、ホントに? うわ、追手内くんのままなのになんかラッキー!」
「ただーし! それが済んだらお前とは文字通りお別れだからな! 自分で何しようが構わないって言ったんだぞ、忘れんなよ!」
「ぐっ……や、やっぱりついてねぇ〜っ!!」
- 91 :不幸が呼んだ必然の遭遇9/9 ◆7euNFXayzo :2006/09/25(月) 22:34:49 ID:egY/yDS50
-
……こいつ、本当に死ぬ気あんのかよ? しょーがないやつだな……。
頭を抱えるたまねぎ頭の少年を、呆れ果てながらヤムチャは眺めていた。
ただ、このどうしようもなく無様な姿を晒し続ける少年のことを、同情の念というか、『俺にもこんな時期があったっけなぁ』とでも言うような、
奇妙な親近感を持った意識で見ている自分がいることに、彼自身はまだ気付いていなかった。
かくして、自称地球人最強の男と、自他共に認める大宇宙一不幸な少年が、未だ降り頻る豪雨の中、ここにコンビを組む事となった。
何とも不思議な協力関係を築いた彼らの下に、『ケンシロウ生存』を伝える放送が入るのはこの数十分後の事となるが――
――その時の物語は、また別の筆によって綴られる事になるだろう。
【長野県南部/昼】
【追手内洋一@とっても!ラッキーマン】
[状態]:右腕骨折、全身数箇所に火傷、左ふくらはぎに銃創、背中打撲、軽度の疲労、鼻が折れた、左腕に擦り傷
[道具]:荷物一式×2(食料一食分消費)
[思考]:1、ケンシロウの仇を討つ。
2、↑が済んだ後、ヤムチャの手で殺される……予定だが、やっぱりまだ覚悟は決まっていない。
【ヤムチャ@ドラゴンボール】
[状態]:右小指喪失・左耳喪失・左脇腹に創傷(全て治療済み)左小指に"ジッパー"
超神水克服(力が限界まで引き出される)
[装備]:無し
[道具]:荷物一式(伊達のもの)、一日分の食料、バスケットボール@スラムダンク
[思考]:1.ウォーズマンを倒し、それが済んだ後に洋一を殺す、……つもり。
2.参加者を減らして皆の役に立つ。
3.あわよくば優勝して汚名返上。
4.悟空・ピッコロを探す。
5.友情マンを警戒(人相は斗貴子から伝えられている)。
- 92 :魔翼飛翔 ◆bV1oL9nkXc :2006/09/26(火) 03:10:53 ID:LFd/uSBi0
- 小早川セナ。
泥門高等学校所属一年生。15歳。12月21日生まれ。
身長155cm。体重48kg。血液型A。
以前は、泥門デビルバッツのRB『アイシールド21』の正体であるという秘密があったが、
その秘密も仲間に明かし、現在は胸を張ってエースと言える存在となっていた。
引っ込み思案だった性格を変えた、元イジメられっ子の男の子。
どこにでもいる、普通の高校生。
少し気弱でおとなしい、アメフト好きの少年。
人殺しの運命などとは無縁である、平和な日本の学生。
それが、
どうして今、
(こんなことになってるんだろう)
がちっ
歯が強く噛み締められ、ギリリ、と耳障りな音が響く。
間接が軋み、カタカタと鳴っている。
別れ際にミサに見せた、虚勢の笑顔は消え去っていた。
恐怖だけでは、こうはならない。
想像だけでは、こうはならない。
『現実』の重みが腕を押さえつけ、駅のベンチから小早川セナが立ち上がることを妨げている。
鈍く輝く、無骨な凶器。
人殺しの道具は、小早川セナの腕の中に静かに存在していた。
(僕は、今から、この散弾銃で、Lさんを、殺す………… 殺 す ……)
カタ カタ カタ
全身の骨格が震える。
- 93 :魔翼飛翔 ◆bV1oL9nkXc :2006/09/26(火) 03:11:39 ID:LFd/uSBi0
- 『人を殺す』
思うまでは簡単だ。「ブッ殺す」なんて誰にでも言える。試合前に皆で言ったことだってある。
だけど、実行するとなれば、それは完全に別の話だ。
人一人の人生を終わらせる行為を、どうして簡単に決意することができるのか。
それが簡単に出来る者は、既に人間を辞めている。
人間の義務を、辞めている。
感情という爆弾で『人間』を粉々に破壊している。
或いは快楽で。或いは怒りで。或いは悲しみで。
或いは、大切な人を護るための情愛で。
人は人を殺す。
「殺そう」と思って殺す。
しかし、小早川セナには足りていなかった。
理性を吹き飛ばす程の感情も、
何より、人を殺す『決意』が圧倒的に足りていなかった。
ガシャン
掌に湧いた大量の汗によって、少年の手がショットガンを支え損ねた。
人殺しの凶器が駅のホームに滑り落ち、鉄が擦れる音が駅舎に響く。
無人の駅には、ショットガンと少年だけが存在している。
手から滑り落ちた凶器を、小早川セナは呆然と見ていた。
少年は動かない。
凶器を、ジッ、と見つめたまま動けない。
怯えという名の魔物に取り憑かれた少年の肩には、見えない重石が乗っている。
足の震えは大きくなり、涙までが頬をつたう。
気弱でおとなしい少年は、遂にショットガンから目を逸らし、両目を閉じた。
- 94 :魔翼飛翔 ◆bV1oL9nkXc :2006/09/26(火) 03:12:42 ID:LFd/uSBi0
- (このまま、逃げてしまおうか)
ミサさんとの約束は守れないけど、僕は――
アメフトの道へと自分を引き込み、その楽しさを教えてくれた蛭魔妖一。
常に努力を怠らない、再戦を誓った最強のRB、進清十郎。
頼りになる剣客。また、命の恩人である緋村剣心。
火影を目指すと目を輝かせていた、うずまきナルト。
瞼の裏に何人もの顔が浮かぶ。
死んでいった人間の顔。
死んで欲しくなかった人の顔。
息を大きく吸った後、目を見開く。
(逃げる?違う!)
ガクガクと震える膝でベンチから立ち上がる。
(勝つんだ!運命に!)
地面に落ちたショットガンを恐る恐る掴み、抱き締めるように抱えこんだ。
そのまま、おぼつかない足取りで出口へと向かう。
(まもりねえちゃん、ごめんなさい)
心の中だけで姉のように慕っていた女性に謝る。
僕、今から人を殺します。
最悪な運命を打ち破るために。
Lさんの言葉を無視して、四国に仲間を助けに行けなかった罪を贖うために。
皆のために。
皆を生き返らせるために。
今から、人を、殺します。
- 95 :魔翼飛翔 ◆bV1oL9nkXc :2006/09/26(火) 03:13:19 ID:LFd/uSBi0
- 駅の出入口へと足を進める。
意味無く声を潜め、足音を殺しながら。
その間も小早川セナの手は震えていた。
怯えを無視して無理矢理動かした身体はぎこちなく、
その決意は、虚勢とごまかしでで塗り固められたまがい物でしかなかった。
人を殺す決意など、一介の学生がそう簡単にできるものではない。
強がりで人は殺すことなど、無謀以外のなにものでもない。
それでも少年は前に進む。
勇気を振り絞り、一歩一歩地面を踏み締めて。
身体を動かせば覚悟は決まると信じて。
足は、まだ震えていた。
【大阪府・駅舎内/2日目・午前】
【小早川瀬那@アイシールド21】
[状態]:顔面に軽傷、精神不安定(重症)
[装備]:ショットガン
[道具]:荷物一式(食料残り1/3)、野営用具一式
[思考]1:Lを殺す。可能であれば、パピヨンとポップも殺害。
2:ドラゴンボールを信じて、より多くの参加者を減らす。
3:まもりとの合流。
4:ピッコロを優勝させる。
- 96 : ◆bV1oL9nkXc :2006/09/26(火) 23:26:40 ID:LFd/uSBi0
- >>94
上から四行目の
>常に努力を怠らない、再戦を誓った最強のRB、進清十郎。
を
>常に努力を怠らない、再戦を誓った最強のLB、進清十郎。
に変更します。
指摘してくださった方、ありがとうございます
- 97 :作者の都合により名無しです:2006/09/28(木) 02:45:13 ID:6risYmob0
- 進青汁郎
- 98 :エピローグ〜タカヤ ◆GbkBNy2sfs :2006/09/28(木) 11:25:42 ID:JPwBjGxY0
- ここは、とある惑星の医療室。
メディカルマシンに一人の少女、白川渚が入っていた。
「も、もうすぐよ…あなた。わたしたちの子、究極破砕超黒魔生物TAKAYAが…」
3時間くらいたっただろうか…
ジュギョ ジョグジョグジョグジョグジョグ スジャーー パー
渚のお腹から何かが出てきた。
ジュパーーーッ
渚は、反動で大量の血を、部屋中に撒き散らし息絶えた。
「父の仇、ヤムチャコロス、許さんぞぉぉぉ」
TAKAYAの怒りのオーラは、周囲の星々をぶっ壊した。
- 99 :作者の都合により名無しです:2006/09/28(木) 11:31:24 ID:fufEXGvl0
- うほ
- 100 : 完:2006/09/28(木) 17:46:17 ID:I29j+7rT0
- 周囲の星々を破壊したTAKAYAはそのまま目指すはヤムチャの気配感じる異世界に向け
高速を超え音速を超え光速をも超えるスピードで移動を開始する。
しかし産まれたばかりのTAKAYAは自分の体の限界を知らなかった。
それ故に体は見る見るうちに光速をも凌駕するスピードによって
蒸発してTAKAYAは死んだ。まさに無知ゆえの死であろう
その頃ヤムチャは
「あ〜よく寝た・・・。さて悟空とピッコロを探すか!!」
あの凄まじい闘いの記憶は忘却の彼方へと消えていた。
そしてバトルロワイアルは続いてゆく・・・・。
(完)
- 101 :京都時雨案内 ◆EsWc46RKiM :2006/09/30(土) 23:02:18 ID:TTy9GLz80
- 主催者たちの予告通り雨が降り始め、無人の古都の景色をいっそう暗いものに変えていった。
遠くで汽笛が聞こえる。上りの機関車が京都駅を発し、名古屋方面に向かうのが見えた。窓が破損して見えるのは気のせいだろうか?
大分縮小されているが京都の町並みは残っている。どういう理由かは不明だが有名な建造物は残っている事が多い。
古来より京都は権力者たちの争いの場であった。ある者は権力を、ある者は経済力を、ある者は武力を持って覇権を競い合ってきた。
今現在古都に降る雨はつわもの共も血と汗と涙なのだろうか? それとも志半ばで倒れた参加者のものなのか? 京都の風景は無言を返事とする。
(どうやら桑原和馬はまだ生き残っているようだな。ピッコロと、そしてアビゲイルも・・・・!)
定時放送を聞いた飛影はただそれだけ感想を抱いた。
飛影は桑原をあまり評価していない。人間にしてはやるな、そのくらいの認識だ。
しかしその桑原が生き残っている現状から彼が実力者と組んでいる可能性が高いと考えられる。
浦飯幽助が死亡した今、内容はともかく目的ができたのは僥倖だ。
桑原だけではない。かつて不覚を取ったピッコロと、そしてアビゲイルも生き残っている。
エリア封鎖が端から迫っているから必然と人が中央に集ってくる。機関車に乗ってきても駅で待ち構えていれば逃すまい。桑原やピッコロら以外の者でも情報源になる。場合によっては武器が奪えるかもしれない。
市内に入った飛影が真っ先にすべき事は拠点、スナイプポイントの確保だ。
こちらから一方的に相手を補足できる監視所、いうなればスナイパーが目標の狙撃かつ反撃を受けずに行える場所――――もっとも探す手間も無く“それ”は姿を現したのだが。
京都タワーに登れば市内を一望できた。今は時雨に染まった古都の風景しか見えないが侵入者があれば即座に補足できる。
スナイプポイントを確保した飛影はふとついさっき見た光景を思い浮かべた。
京都タワーで監視を始めた直後、兵庫県方面にて落雷発生を見た。妖怪である飛影には稲妻は妙に人工的であり(人工空間の現象をいうのも何だが)、自然にできたものでは無いと感じる。
(兵庫県に術者がいる・・・・稲妻を操る、か)
邂逅が楽しみだ、と軽く笑みを浮かべた。落雷を発生させた輩が京都に来るとは限らないが西にいるのは確認できたのは十分な収穫である。
- 102 :京都時雨案内 ◆EsWc46RKiM :2006/09/30(土) 23:02:54 ID:TTy9GLz80
- 京都タワーに居座って数時間、市内には誰も足を踏み入れてはこなかった。雨を避けて移動を自粛しているとも思われる。
遠く北に微かな気配を感じないでも無かったがピッコロ、アビゲイル戦の負傷を回復させるのを優先させた。何より遠すぎる。
もう下りの機関車到着まで1時間を切っている。また次の放送しだいでは京都に留まるか、それとも東西どちらかに移動する必要もありうる。
(・・・・・うん?)
そろそろ駅に移動しようか、と思っていた時である。西から市内に向かってくる人影を発見した。奇遇にも京都駅を目指しているではないか。
数時間ぶりに飛影は動く。複数の目的果たす機会に向かって。
「ハア、ハア、んもうヤになっちゃう!」
京都駅構内、弥海砂は乱暴にも板切れを放り投げた。乾いた床に板切れが跳ねこれまた乾いた音を立てる。
大阪で小早川瀬那と別れた後、東へ向かった。Lは完全封鎖前に九州、そして沖縄の確認を目指しているから逆に東へ向かえばいいと考え、とりあえず京都を目指したのだ。彼女は関西方面出身なので地理には明るかった。
途中で雨に降られため仕方なく板切れを拾い傘代わりにして京都までたどり着いた。女優兼アイドルの彼女にはちょっとカッコ悪い屈辱である。
一息ついて時計と時刻表、斗貴子に譲ってもらった真空の斧を確認し、ふと大阪の方角を振り向いた。
「小早川くんはうまくやってくれたかな〜?」
ドラゴンボールによる死亡者の復活とピッコロの優勝にはLが反対するに決っている。セナに殺害を教唆し、彼は一応それを了承したがLの他のもパピヨンという変態とその仲間がいる。L殺害の可能性は低いと考えざるをえない。
「まあいっか、まだ手段は残っているし」
彼女の作戦はこうである。上り列車に乗ったキン肉マンは列車内で包帯グルグル巻きの男(志々雄真実)と対決、勝負の如何にかかわらず名古屋で乗り換え大阪に戻る手筈になっている。立会人としてパピヨンの仲間が乗り合わせているがヘタレっぽかったので何とかなるはず。
勝ったのがキン肉マンなら合流するフリをして立会人もろとも殺害、包帯男に罪を着せる。勝ったのが包帯男ならばさっさと京都を去る。
どちらに転んでもLはキン肉マン殺害を包帯男の仕業と見るはずである。
セナの口から自分の事がばれてもその頃にはどこか遠くへ高飛びしておりどうすることもできまい――――
「・・・・おい、女」
突然の闖入者にミサの脳内作戦会議は中止された。心臓が飛び出しかかったが杞憂であった。
振り向いた方向には黒尽くめの少年がたたずんでいた。
- 103 :京都時雨案内 ◆EsWc46RKiM :2006/09/30(土) 23:03:30 ID:TTy9GLz80
- 「女、いくつか聞きたい事が――――!?」
闖入者飛影の台詞は旋風に遮られた。照準はメチャクチャであり難なく避け事ができた。肌を撫でる強風が妙に心地いい。
ミサは反射的に真空の斧を振るった。女の腕力で振るうには重かったが風の魔力がそれを補った。発生する旋風が吹き荒れ、板切れすらも空中へと舞おうとしている。
「ほう、風の術が付与してあるのか。面白い」
旋風が駅構内の壁を削るが崩壊させるにはいたらない。飛影も自身の身体能力とミサのヘッピリ腰のせいで致命的一撃を避け冷静に相手を観察できた。
何度目かのスイングで先程から吹き飛びそうだった板切れが舞った。板切れはミサの前方斜め上方へと飛翔し、それに合わせて飛影も柱を蹴り板切れの上空を抑えミサに向かって蹴り飛ばす――――
只の板切れ如きが飛影の蹴りに耐えられるはずも無い。板切れは砕け破片と化しミサへと降り注ぐ。とっさに両腕で頭を覆ったお陰で手を少し切ったが頭部には影響はなかった。我に返り周囲を見渡すが飛影は姿を消していた。
「・・て、何なの・・・・アレ? あの子は何処へ・・・・ッッ!?」
鈍い音と共に右腕が後ろ手に捻られた。あまりの激痛に真空の斧が滑り落ちる。
「ちょ・・・・やめ・・・・痛い・・・・!」
「いくつか聞きたい事がある。虚言は勿論、黙秘も許さない。正直に答えなければ・・・・分かっているな?」
ミサからの返答は無かったが首を縦に振る動作を了解と取る。
「桑原和馬という男を知っているか? 髪を茶色に染めた、年齢は・・・・お前と同じくらいだ」
「し、知らない・・・・会わなかったし、名前を聞いた事もない・・・・」」
「そうか。ではお前の名前は? 仲間がいるならそいつ等の事も話せ」
「私は弥海砂・・・・仲間とは大阪でケンカ別れしてきたの。Lって覚えてる? あいつとキン肉マンっていうパンツ一枚のレスラー」
セナの事は言わなかった。L殺害に成功していれば今後も利用できそうな隠し玉だ。虚言、黙秘の禁止にも接触しないと考えた。
「大阪と言ったな? 数時間前列車が停車したはずだが誰か乗っていたか?」
「パピヨンっていう蝶仮面の変態とその仲間が二人いて、一度大阪で降りたけど一人は名古屋へ向かってった。ねえもういいで・・・・ウグゥッ!」
軽く小指を捻った。骨折する心配は無いが相当堪えるはずだ。
「質問の途中に余計な口をたたくな。続けるぞ、兵庫県で大きな落雷があったがその被害の状況は?」
邪推されたくなかったのでブラフも含めて誰かが稲妻の術を使った事実は伏せた。
「知らない・・・・そっちの方には行ってない」
「最後の質問だ。氷泪石という首飾りは?」
「・・・・知らない」
「・・・・フンッ」
ミサの右腕の戒めを解くと飛影は乱暴に突き飛ばした。
- 104 :京都時雨案内 ◆EsWc46RKiM :2006/09/30(土) 23:05:39 ID:TTy9GLz80
- 3、4歩よろめいたもののミサは何とか転ばずに体勢を整えた。
振り向くと飛影はすでに真空の斧を拾いあげているところだった。
「斧・・・・返して。それないと」
「失せろ。殺されなかっただけ幸運だと思え」
ミサを振り返らずに飛影は下りのホームへ向かう。
既に彼にはミサへの興味は失せた。相手にするどころか殺すのも面倒なだけだ。
「アイタタ・・・・え、ちょっ・・・・待ってったら!」
右腕の痛みを堪えてミサは飛影を追う。大阪から強行軍した上、飛影との戦いで消耗しているので差は容易に縮まらない。
人数減らしの途中で倒れるのは覚悟していたが自分の意思は誰かに継いでもらわなくては死に切れない。
やっと追いつく事ができたのは飛影ホームのベンチに座っている頃だった。
下りの機関車が来るまでは約10分くらいある。ミサは恐る恐る空いている飛影の左側のベンチへ座った
「失せろと言ったはずだ。それとも死にたいのか?」
「ううん、ホントは死にたく無いけど脱出するには一回は死なないといけないらしいから」
(うざい女だ・・・・)
飛影は徹底無視を決め込んだ。
「その斧はあげる。でも代わりに私の話を聞いてくれても罰は当たらないと思わない?」
(よく言うぜ、いきなり襲いかかってきたクセに)
ミサの物言いには呆れ返ったが無視し続けた。
「あのね、死人も生き返るドラゴンボールっていう不思議なアイテムがあってピッコロっていう人が使えるの」
ピッコロ――――! 意外なところで聞く名だ。そういえば先程尋問した時は西日本にはいないと考えピッコロやアビゲイルの事は聞かなかった。
「おい女、今ピッコロと言ったな!? ヤツは何処にいる!?」
尋問で痛めつけた右腕を再び捻る。返答の変わりに悲鳴が返ってきた。
「痛い痛い痛い・・・・! 話す、話すからお願い、腕を放して・・・・!」
「ちっ・・・・」
突き飛ばしはしなかったがまた乱暴に腕を解き放った。
「言え、隠し事は無しだ!」
- 105 :京都時雨案内 ◆EsWc46RKiM :2006/09/30(土) 23:08:17 ID:TTy9GLz80
- 2回も捻られた右腕をさすりながらミサは答える。
「ピッコロ本人には会った事はないの。ただドラゴンボールってアイテムがあってそれを使えるのがピッコロだって聞いただけ・・・・て、信じてくれる?」
「・・・・続けろ」
「それでね、その人を優勝させてからドラゴンボールで死んだ人たちを生き返らせれば全部解決できるのよ。どお、グッドアイデアで・・・・ねえ?」
最後まで聞く必要はなくなった。さっさと立ち上がり停止線へと飛影は向かう。
大体自らを“大魔王”と称する輩がそんな計画を実行するはずが無い。よしんばドラゴンボールの話が本当でも自分と遭遇したとき話を持ちかけているはずだ。
「待ってったら、ミサの話がデタラメだと思っ・・・・!?」
一瞬見せたそれは刺すような、などとありふれた形容詞では表せない眼光だった。あえて例えるならメデューサの視線。
「フンッ、知らないというのは幸福だな」
「な、何よ・・・・?」
鼻で笑われて怯えながらも食い下がるミサ。
「そんなに与太話を信じたいなら関東へ向かえ。今頃ヤツが移動しているかもな」
「え・・・・あなたピッコロに会ったの? ねえ、教えてよ!」
飛影は答えない。とっくに彼の中ではミサは用済みの殺す価値も無い存在になっている。
遠くで汽笛が響いた。東には機関車が見えてくる。後ろでまだミサが喚いているが一切無視。
桑原和馬の仲間、ピッコロ、アビゲイル、そして氷泪石――――何と、目的は結構残っているではないか。
『京都〜京都〜』
列車到着と告げるアナウンスが流れる。
乗せているのは希望か、それとも絶望か? 兎に角機関車が到着し、そして――――扉は開かれる。
- 106 :京都時雨案内 ◆EsWc46RKiM :2006/09/30(土) 23:09:15 ID:TTy9GLz80
- 【京都/午前】
【飛影@幽遊白書】
[状態]全身に無数の裂傷
[装備]真空の斧@ダイの大冒険
[道具]荷物一式
[思考]1:強いやつを倒す
2:桑原(の仲間)を探す
3:氷泪石を探す(まず見付かるまいし、無くても構わない)
4:ピッコロ、アビゲイルを探す
5:稲妻の術者(ダイとは知らない)の確認
【弥海砂@DEATHNOTE】
[状態]軽度の疲労、興奮状態 、右腕が痛む(小一時間程度で治まる)
[道具]荷物一式
[思考]1:ピッコロを捜しつつ人数減らし。
2:ドラゴンボールで月を生き返らせてもらう。
3:いざとなったら自分が優勝し、主催者に月を生き返らせてもらう。
4:友情マンを殺し、月の仇を取る。
5:ピッコロを優勝させる。
- 107 :前編・ポップの不思議な喫茶店 1 ◆xJowo/pURw :2006/10/01(日) 02:20:57 ID:3GvrRnzp0
- >中断した箇所から冒険を再開する。
ピッ
再開するとこのデータは消去されます。よろしいですか
>はい
いいえ
ピッ
ポップ 午前 大阪 喫茶店1F を再開します。
カランコロンカラン。
長閑な音が喫茶店内に響く。店員に来客を知らせる合図のようだ。
当然、そんな優しげな者はこの世界にはいないのだが。
ポップは、Lに連れられて大阪駅横の喫茶店の中に入った。今までに見た家屋と同様、人の気配は無い。
Lは、何の気兼ねも無くスタスタと窓際のソファー席に陣取った。
「彼らも直ぐに来るでしょうし、先にお席にどうぞ。ええと…」
「ポップだ。」
「はい、ポップさん」
薦められるまま、Lの斜向かいの席に腰を下ろし、改めてこのLという男を観る。
不健康そうな顔と体に、ぎょろりと光る目。
ソファーの上で三角座りをし、爪を噛みながらこちらを窺うその姿は、どうにも知的には見えない。
(こいつは…天才ってより、なんかモンスターみたいだぜ。)
どことなく常人離れした雰囲気が不気味さを醸し出す。
- 108 :前編・ポップの不思議な喫茶店 2 ◆xJowo/pURw :2006/10/01(日) 02:22:29 ID:3GvrRnzp0
- 「どうかしましたか?私の顔が何か?」
「あ、いや、悪い、なんでもない。それより、話をする前に聞いておきたいことがあるんだ。」
「なんですか?」
失礼極まりない考えを誤魔化しつつ、話を切り出した。
「あの包帯男…志々雄は、お前の知ってる奴なのか?」
志々雄は、短い付き合いとはいえ、一応は同盟を結んだ相手だ。しかし、奴についての情報は皆無に等しい。
そしてLの目を見据える。この男のリアクションの一つ一つも、重要な情報だ。
「彼はあなた方のお仲間なのでは?」
「俺も会ったのはついさっき…岡山から乗り合わせただけだ。」
「岡山…やはり…」
Lはガリッと爪を噛む。
「…私も直接会ったのは初めてです。ですが、彼は恐らくはマーダー…
それも、複数の人物を殺している可能性が高い。
キン肉マンの言うたけし君、ラーメンマンの他に、
四国へ向った私の仲間も、彼に殺されたものと思われます。」
感情に乏しいLの顔が僅かに歪む。怒りか、悲しみか。そこまでは分からない。
だが、ということは。
「くそっ!やっぱりウソップの奴が危ねぇ!」
思わず声を荒げてしまった。
しかし、状況は最悪だ。志々雄が凶悪なマーダーならば、やはり共に列車に乗っている2人の身の保障など全く出来ない。
「おい、あんたの仲間…キン肉マンだったか?なんであいつを独りで行かせたんだよ!?確かに強そうな奴だったけどよ…
志々雄がそんな危険な奴なら、逆に殺されるかもしれねえじゃねぇか!!」
- 109 :前編・ポップの不思議な喫茶店 3 ◆xJowo/pURw :2006/10/01(日) 02:23:29 ID:3GvrRnzp0
- 熱く、感情的になる自分とは対照的に、Lはきょとんとこちらを見つめている。
そして、短く呟いた。
「ポップさん。あなたは…いい人ですね。」
「はぁ!?」
Lの見当違いな意見に肩透かしを喰らう。
「あなたは、この異常な世界でも健やかな精神を保っている。あまつさえ、見ず知らずの他人の心配までしている。」
そして意図の見えない賞賛を投げかける。この男は一体何を考えているのか。
「何が言いたいんだ?」
「いえ、あなたに『だけ』になら話してもいいかと思いましてね。
本来ならもう少し時間をかけてあなたのことを理解すべきなのですが、事態は急を要します。
私の持つアイテムの事なのですが…」
Lが話したのは、『デスノート』と呼ばれる支給品(の切れ端)のことだった。
参加者の顔と名前さえ判れば問答無用で殺害できる不条理極まりないアイテム。
しかし、それはLの元居た世界に実在する道具らしい。
「今のところ、このアイテムで死亡した参加者はいませんが、贋物と言い切ることも出来ません。
というより、私は本物だろうと考えています。
尤も、オリジナルとは制約など多少異なるようですが。」
俄かには信じられない話だった。
しかし、不条理だらけのこの世界に、バーンに世界最高の頭脳と言わしめたこの男。
Lが嘘をついている可能性もあるが、嘘にしては余りに荒唐無稽だ。
相手の手に乗るようだが、Lの真意を確かめる必要がある。
「…なんで今、俺にそんな話を?」
「いえ、志々雄 誠……
彼をこのデスノートで殺そうと思うのです。それも、今すぐに。
それを了承して欲しいと思いましてね。」
- 110 :前編・ポップの不思議な喫茶店 4 ◆xJowo/pURw :2006/10/01(日) 02:24:20 ID:3GvrRnzp0
- 「なっ!?」
突然にして、衝撃的なLの提案に、言葉を飲む。
Lはこちらを気にすることなく言葉を続ける。
「彼は凶悪なマーダーであり、私達の仲間はいままさに彼に危害を加えられようと――いや、殺されようとしています。
ですが、今ならまだキン肉マンもあなたの仲間――ウソップさんも生きている可能性が高い。
キン肉マンが負けるとは私も考えていませんし、
彼が無事志々雄を倒すことが出来れば、この行為は無駄になります。
それでも、万が一彼らが殺されることに比べれば格段にマシです。
そのためにも一刻も早くデスノートを使いたいのですが、納得して頂けますね?」
デスノートで、志々雄を殺す…
確かに、Lの言うことは尤もだ。
今、志々雄を殺さなければ、今列車に乗っている2人と、さらに多くの人間が志々雄の魔の手にかかるかもしれない。
仲間2人の命と。マーダー1人の命。どちらが大切かは火を見るよりも明らかだ。
「よろしいですね?では善は急げ、です。」
Lは、ポケットから小さな紙切れを取り出す。
あれがデスノートなのか。
あのちっぽけな紙切れに、俺たちの命が左右されるのか…
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
おもむろに紙切れに名前を書き込もうとするLを、半ば無意識に呼び止めていた。
Lは、明らかに不快そうにこちらを睨む。
「何ですか?まさかポップさんは志々雄の肩を持つのですか?」
「いや、そういうわけじゃないけどよ…」
「では邪魔をしないでください。」
「いや、待て、…少しだけ考える時間をくれ、ほんの1分でいい!」
- 111 :前編・ポップの不思議な喫茶店 5 ◆xJowo/pURw :2006/10/01(日) 02:27:53 ID:3GvrRnzp0
- なぜLに反対するのか、まだ自分でも分からない。
だが、自分の本能が告げている。
『ここで状況に流されてはいけない。』
俺は魔法使い。パーティが熱くなっているときこそ、独り、氷のように冷静でいなきゃいけない。
今、仲間を助けるためにはデスノートを使うべきなのは理屈では分かっている。
だが、それには何か大切なものを見落としている気がする。
仲間の命が懸かっている今だからこそ、冷静にもう一度考えるんだ。
冷静に、自分の直感を突き詰めろ…
Lは、じっとこちらを睨んでいる。
(それにしてもこいつ、何かに似てるんだよな……あ、)
そこで気付いた。丸いつぶらな瞳、丸まった体勢が、
なんだかスライムに似ているのだ。
「ぷっ!」
思わず魔封環をふき出してしまった。我ながら緊張感の無さに呆れてしまう。
「何なんですか?もう満足しましたか?」
スライムが怒った。もう微笑ましいとしか言いようが無い。
だが、より一層不機嫌そうなLには悪いが、おかげで気持ちが切り替えられた。
「いや、悪い、悪い。
でもな、やっぱりここで俺たちが志々雄を殺すのは良くないぜ。
…志々雄の為じゃなく、あんたの仲間、キン肉マンの為にはな。」
「…どういう意味ですか?」
Lの眉間に困惑の印が浮かぶ。無表情と思っていたが、見慣れれば意外と感情表現が豊かな奴だ。
- 112 :前編・ポップの不思議な喫茶店 6 ◆xJowo/pURw :2006/10/01(日) 02:28:41 ID:3GvrRnzp0
- 「俺は今まで、キン肉マンみたいなやつを何人も見てきたんだ。
仲間のため、自分の意地のためなら、例え敵いっこない相手にでも向かってくような熱血頑固野郎をな。
ああいう奴にとっては、自分が傷ついたり、それこそ死んじまったりするよりも、自分の『信念』ってやつの方が大事なんだ。
そういう奴の闘いにちょっかいだしても、恨まれることはあっても喜ばれることはねえよ。
むしろ、ここで決着をつけられない方が、あいつの為によくねえ。
晴らせない悔いや無念ってのは、死ぬまで足枷みたいに引きずっちまうものなんだよ。」
俺の意見に、Lは賛同し兼ねる様だ。
「詭弁です。キン肉マンがそんな精神構造であるかどうかも分かりませんし、
もしそうであっても、人の命がそんな『信念』より重いとは思えません。
ポップさんの意見はあまりにも非論理的です。
そもそも、それではウソップさんは見殺しですか?」
「そりゃアンタの価値観だろ?自分と全然違った価値観の奴なんて世界にゴマンといるぜ?
それに、志々雄を観察できたのはほんの数時間だけだが、いくつか分かったことがある。
あいつはマーダーでも、目に映った奴を片っ端から殺していくようなやつじゃねぇ。
相手の力量を見抜く目と、その場の状況を見極める頭をちゃんと持ってやがる。
ウソップを連れてったのがホントに見届け人としてだけなのかは分からねぇけど、
少なくとも何らかの目的があってのことだろう。
それに、志々雄はパピヨンと“大事な約束”をしている。
そいつらが済むまではウソップは殺されやしねえよ。まったくパピヨンの言うとおりだ。」
非論理的か、確かに自分でもそう思う。
だが、ダイは、ハドラーは、アバン先生は、戦友や強敵たちは、
そういうところを貫いたから、あの強さを手にしたのではないか。
その大事な部分を、外野が簡単に汚すべきではないんだ。
俺の意見を全て聞き終えた後、Lは静かに自分の目を見つめ、口を開く。
- 113 :前編・ポップの不思議な喫茶店 7 ◆xJowo/pURw :2006/10/01(日) 02:29:26 ID:3GvrRnzp0
- 「…では、それでも志々雄があの2人を殺したとして、あなたはどう責任を取るのですか?」
睨むLの目を見据えて、下っ腹に力を入れる。自分の覚悟を言葉に換える。
「そんときゃあ、俺がずっとあいつらの事を背負っていくさ。俺が死ぬまでな。
『あいつらは俺のせいで死んだ』って言われても、甘んじて受け止める。
出来る限りの償いもする。
できれば仇もとってやりたい。今のキン肉マンと同じだな。
でも、絶対にあいつらのことを忘れない。
あいつらの、全部を。
…仲間の命を背負うってのは、仲間が死ぬ辛さと怖さも背負うってことだ。
自分も命がけの覚悟でな。
責任取ってなにかすりゃ済むモノじゃ無いんだ。
でも、そうやって俺達は前に進むんだよ。これまでも、これからも。」
Lは、何か反論しようとしたようだったが、何も喋らなかった。
「それにな、ああいうバカは仲間の為に命張ってる時は、とんでもなく強くなるんだ。
大丈夫、キン肉マンは負けやしねぇよ。
それにウソップもな。
俺たちは、キン肉マンが勝つ方に賭けて、神様に祈ってりゃいいんだよ。
…そのデスノートってのは、闘う力の無い、弱い奴を守るために使ってやるべきだと思うぜ?
キン肉マンみたいな、『正義の味方』には似合わねぇよ。」
半ば自分に言い聞かせているような気がした。
出来ることなら俺だってキン肉マンを勝たせてやりたい。
だが、決闘の最中に割り込むのは、キン肉マンの『誇り』ってのを無視することになる。
(もしダイとハドラーの“喧嘩”に俺が横槍いれてたら、アイツ許してくれなかっただろうな…)
- 114 :前編・ポップの不思議な喫茶店 8 ◆xJowo/pURw :2006/10/01(日) 02:30:10 ID:3GvrRnzp0
-
ふぅ、とため息をついてLが喋りだした。
「非合理的にも程があります。あなた達はそんな全時代的な精神論でこの殺し合いを乗り切るつもりなのですか?
あなたはもっと利口な方だと思ったのですが、私の見込み違いのようです。」
「んだと!?」
聞き捨てならないセリフだ。だが、こちらに構わずLは続ける。
「全くもって不本意です。これで、あなたの意見を無視すれば、卑怯者の謗りをうけることになり、
あなたの意見を尊重すれば、仲間を見捨てることになるかもしれない。
そもそも、理屈に対して感情で、しかも価値観の相違などを持ち出すなど議論の上では反則です。
一目見ただけのあなたの方が、私よりもキン肉マンのことを把握できたのも気に入りません。」
矢継ぎ早に反論、というか悪口を続けながら、Lはノートの切れ端をつまみ上げ、
何も書かずに、再びポケットに仕舞い込んだ。
「…どういうつもりだ?」
「見て分かりませんか?デスノートを使うことは止めにしたんです。」
Lは不機嫌そうに答えた。本当に不機嫌そうだ。
「言い忘れましたが、デスノートのルールに、『対象の素顔を知っていなければならない。』というのがあります。
予想ですが、包帯で顔を覆っている志々雄の顔が、素顔として認められる確率は30%といったところでしょう。
その上でのメリット、デメリットを再考した結果、デスノート使用は不適当と判断しただけです。
…決してあなたの野蛮な精神論を全肯定したわけではありませんからね。」
- 115 :前編・ポップの不思議な喫茶店 9 ◆xJowo/pURw :2006/10/01(日) 02:30:45 ID:3GvrRnzp0
- ノートをしまうと、Lはふくれっ面でプイ、とそっぽを向いた。
案外ただの負けず嫌いなのかもしれない。
「へぇへぇ、よ〜く分かりましたよ!」
「しかし、あなたが“見かけによらず”物事をよく観察して、あなたなりに考えて行動していることは分かりました。
それだけでもよしとしておきます。」
一言多い奴だ。
だが、憎まれ口を叩かれるぐらいには打ち解けられたのだろうか?
「それと1つ注意しておきますが!」
今度は真剣な顔で、Lがこちらを向いた。
ちょうどその時。
カランコロンカラン
「待たせたな凡才共!世間話はもう済んだか?
それでは特別にこの蝶!天才が貴様らの啓蒙活動に尽力してやるとしよう!」
蝶々マスクの変態が店に入ってきた。
「…彼にはデスノートのことはくれぐれも内密に。」
「…分かってる。」
>中断
ピッ
このままスイッチを切ってください。
次に「冒険をする」を選ぶと、この続きからはじまります。
なお、ゲームを再開するときにこのデータは消去されます。
- 116 :前編・ポップの不思議な喫茶店 10 ◆xJowo/pURw :2006/10/01(日) 02:34:27 ID:3GvrRnzp0
-
【ポップ@ダイの大冒険】
[状態]:健康 (MP全快)
[装備]:魔封環@幽遊白書 、アバンのしるし@ダイの大冒険
:ウソップ作の仕込み杖(投げナイフを使用) 、死者への往復葉書@ハンター×ハンター(ウソップから譲って貰った)
:ボロいスカーフ(仲間の証として)
:ゴールドフェザー 3本 シルバーフェザー 2本@ダイの大冒険
[道具]:荷物一式×3(食料・水、一日分消費) 首輪×2
[思考]1:Lと情報交換。が、内心ではウソップとキン肉マンが心配。
2:12時に大阪駅にキン肉マンとウソップを迎えに行く。2人にもしものことがあれば…
3:脱出の鍵を探す。
4:ダイ・ウソップの仲間との合流
5:夜になったら死者への往復葉書を使ってマァムに手紙を書く。
6:フレイザードを早めに倒す
7:パピヨンはやはりあまり信用していない
【大阪府・駅舎隣の喫茶店/二日目・午前】
【L@DEATHNOTE】
[状態]:右肩銃創(止血済み)
[道具]:ナッパの荷物一式の中身(地図など。食料無し、水ペットボトル一本)
:デスノートの切れ端@DEATHNOTE、GIスペルカード『同行(アカンパニー)』@HUNTER×HUNTER
:雪走り@ONEPIECE、斬魄刀@BLEACH、核鉄XLIV(44)@武装練金
[思考]1:パピヨン、ポップらと情報交換。脱出のための計画を進める。
2:12時に大阪駅にキン肉マンとウソップを迎えに行く。
3:現在の仲間たちと信頼関係を築く。
4:パピヨンを警戒。ポップを信用。
5:沖縄の存在の確認 。
6:ゲームの出来るだけ早い中断。
- 117 :前編・ポップの不思議な喫茶店 11 ◆xJowo/pURw :2006/10/01(日) 02:35:02 ID:3GvrRnzp0
- 【パピヨン@武装錬金】
[状態]:健康 核鉄で常時ヒーリング
[装備]:核鉄LXX@武装錬金
:ボロいスカーフ(首輪から監視されていた場合への対策)
[道具]:荷物一式×4(食糧二食分消費)首輪×2、ベアクロー(片方)@キン肉マン
[思考]:1:Lと情報交換。利害が一致するようであれば協力。
2:武藤カズキを生き返らせる。手段は問わない。ただし主催者の思い通りになるのは拒否。
3:首輪を調べる。爆破実験は迂闊に行うべきではないと思っている(少なくとももっと脱出の為の駒が集まってから)
4:首輪の解除に役立つ人間またはアイテムを探す。
5:志々雄を危険視。対策を立てる。自分達が有利な広いフィールド、又は拠点の捜索。
6:ツリ目の少年の情報を得る。ツリ目の少年は見つけ次第殺す。
7:ドラゴンボールは信用しない。
8:他の参加者と必要以上に馴れ合う気はない。
- 118 :前編・ポップの不思議な喫茶店 12 ◆xJowo/pURw :2006/10/01(日) 02:38:33 ID:3GvrRnzp0
- <首輪の調査案 その@>
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
1.死体の首輪で爆発力を調査(調査トリガー:情報不足のため、脱出の目処がつく/有力な仲間ができるまで保留)
1.1 死体の首輪が爆発しなかった場合 → 外部から首輪を破壊する(首輪が誘爆するかは不明)
2.項目1の結果を受けて列車の中で、起爆トリガーの調査
2.1 禁止エリアがトリガーだった場合 → 列車内の調査
2.2 主催者側の監視がトリガーだった場合 → 予備の首輪の爆破実験を行い、主催側の視界の調査
3.項目1で破壊した、首輪の破片の分析(パピヨン・ウソップ)
4.「呪い」の調査、及び対処法の考案(ポップ) ⇒ シャナクを使ってみる
5.マホカトールを使用した首輪への外部干渉の断絶(調査トリガー:項目1、項目2を受けて本格解除を前提とした行動)
- 119 : ◆EsWc46RKiM :2006/10/01(日) 11:26:07 ID:+aimN4B10
- >>101の10行目から「市内に〜」の前行まで修正
(どうやら桑原和真はまだ生き残っているようだな。ピッコロと、そしてアビゲイルも・・・・!)
定時放送を聞いた飛影はただそれだけ感想を抱いた。
飛影は桑原をあまり評価していない。人間にしてはやるな、そのくらいの認識だ。
しかしその桑原が生き残っている現状から彼が実力者と組んでいる可能性が高いと考えられる。
桑原だけではない。かつて不覚を取ったピッコロと、そしてアビゲイルも生き残っている。
エリア封鎖が端から迫っている以上、遠からず彼らと再遭遇するだろう。
機関車に乗ってきても駅で待ち構えていれば逃すまい。桑原やピッコロら以外の者でも情報源になる。場合によっては武器が奪えるかもしれない。
浦飯幽助が死亡した今、内容はともかく目的ができたのは僥倖だ。
- 120 : ◆EsWc46RKiM :2006/10/01(日) 14:16:12 ID:+aimN4B10
- 加えて>>102 「まあいっか、〜」と「・・・・おい、女」 間を以下に修正。
彼女の作戦はこうである。
上り列車に乗ったキン肉マンは列車内で包帯グルグル巻きの男(志々雄真実)と対決、勝負の如何にかかわらず名古屋で乗り換え大阪に戻る手筈になっている。
またセナがL殺害に失敗したならば自分が教唆したと発覚するのは明白である。
もし勝ったのが包帯男ならばさっさと京都を去る。これが手間も最小限で理想的ある。
逆に勝ったのがキン肉マンなら合流するフリをして隙を見て殺害、包帯男に罪を着せる。多少リスキーだが女優である自分なら演技で騙し通せる自信がある。
立会人としてパピヨンの仲間が乗り合わせているはずだがヘタレっぽかったので問題無いだろう。脱出も機関車は遅いので飛び降りるのはそう難しくない。
どちらに転んでもLはキン肉マン(+ウソップ)殺害を包帯男の仕業と見て敵視するはずである。
志々雄は生き残っている限りL、場合によってはパピヨンも敵に回し自分への注意は分散され時間を稼げる。
全てが発覚した頃にはどこか遠くへ高飛びしておりどうすることもできまい――――
- 121 :後編・七龍珠 1 ◆xJowo/pURw :2006/10/02(月) 19:48:11 ID:E3Tzrx0d0
- 場所は大阪駅横喫茶店内。時は午前、10時前。天気は雨。
「お待ちしていましたよパピヨンさん。どうぞこちらに。」
Lはパピヨンを、自分とポップが座っているテーブルへと招いた。
この蝶々仮面は、一見ただの(?)変態なのだが、
亡きムーンフェイスの話では人型のホムンクルス、それもかなりの曲者とのことだ。
情報交換をするにしても、こちらにデメリットを生じないような事柄、
――主催者や首輪、この世界についての情報に限定すべきだろう。
パピヨンが自分の向かい側の席に着く。
「さて、煩わしい前置きなどは不要だ。
貴様の言う話とはなんだ?」
「志々雄 真実 についてです。」
そこで、紙とペンを、ポップとパピヨンに渡す。
「志々雄は強力なマーダーの可能性があります。彼についての対策を…」
口ではそう喋りながら、手元の紙には全く別のことを書きつける。
(まず私から、この世界と、主催者についての考察を述べます。――)
当然の盗聴対策。
2人とも何も言わずとも私の話についてきている。理解が早くて助かる。
と、パピヨンの眼前の空間に、黒い粉が舞い上がり、空中に文字を浮かび上がらせる。
(俺はこっちの方が楽なんでな。気にせず話を続けろ。)
言われる通り、そのまま話を続けるが、
惜しげもなく自分の能力を誇示するとは、見た目に違わず露出癖があるようだな、と思った。
- 122 :後編・七龍珠 2 ◆xJowo/pURw :2006/10/02(月) 19:48:53 ID:E3Tzrx0d0
- 先ずは、この世界と主催者達の思考などについて、自分なりの推測を述べていった。
沖縄に主催者達がいる可能性については、2人の意見も聞くことが出来た。
(おい、主催者が同じ世界にいるのなら、沖縄で無くとも佐渡や小笠原諸島・国後や択捉などの可能性もあるだろう?)
(世界の縮尺を考えれば、佐渡や小笠原は面積の上では考えにくいと思いますが…)
(いや、俺がバーンなら、自分の居城の周辺を禁止地域にしたりしねぇと思うぜ。
来られるものなら来てみろ、相手をしてやろう!って感じの奴だからな。)
(空中や地中、海中に隠れている可能性は?)
(空中は無いでしょう。参加者の能力によりますが、発見、狙撃される可能性があります。
地中や水中も、最初に我々が集められた部屋の大きさや雰囲気から、可能性は低いでしょう。
そもそも、そんな場所であのスキンヘッドの男が大暴れして、崩落、崩壊等が起これば台無しです。
私が主催者ならば、そんな不安定な場所に本拠地は作りませんよ。)
あらかたLが情報を出し尽くすと、今度はパピヨンの黒粉が蠢き出す。
(フン、では特別に俺からも情報をサービスしてやろう。)
パピヨンの情報は主に、首輪の性能と拘束ルールについての考察だった。
これは、かなり重要で価値のある情報ではあったが、
オーバーテクノロジーや魔法の知識に欠ける自分には実効性に書ける情報だった。
(つまり、これらのことは大半が推測であり、実験などはまだ行っていないのですね?)
(ああ、そうだ。都合の良い場所や能力者、アイテムに恵まれなかったからな。)
(アンタの支給品や仲間に、首輪解除に役立つような奴はいないのか?)
(残念ながら…)
彼らが首輪を持っていることには、今は敢えて触れなかった。
どうせパピヨンとの溝が深まるだけだ。
- 123 :後編・七龍珠 3 ◆xJowo/pURw :2006/10/02(月) 19:49:30 ID:E3Tzrx0d0
- 「さて、と。とりあえず話はこんなものか。」
あらかた情報交換が終わったところで、パピヨンが口頭で喋りだした。
「パピヨンさん、ポップさん、あなた方のこれからのご予定は?」
「とりあえず、パピヨンの実験に付き合いながら、12時にウソップを迎えに行く…ってところかな。」
どうやら彼らは然程明確な目的地などは持っていないようだ。
ならば。
「その後のことなのですが……よろしければ私達もご一緒させていただけませんか?」
彼らと行動を共にすることには、様々なメリットがある。
まず、単純な戦力として。こちらは、この場にいないキン肉マンただ独りが戦力なので、仲間は多いほうが良い。
そしてもう1つは、彼らが九州から来たという事実から。
まだ『同行』のことは喋ってはいないが、時が来たときに別行動をとっているよりは速やかに行動に移せる。
「NON!」
しかし、パピヨンが即断した。
「おいパピヨン、別にいいじゃねえかよ、一緒に行くぐらい…」
「フン、戦闘能力も無い一般人3人など足手纏いにも程がある。デメリットはあってもメリットが皆無だな。」
こちらの意図を読まれたようだ。
だがここで引き下がる訳にはいかない。
「パピヨンさんのご意見は尤もです。ですが、交換条件、というのはどうでしょうか?」
「交換?こちらの戦力に見合うモノをまだ貴様が持っているとでも?」
「ええ、まだ秘密にしている特別情報の数々を…」
「くだらん!どうせ貴様も、あのドラゴンボールとかいう戯事の事を言うつもりだろう!」
パピヨンが声を荒げる。
そのとき。
- 124 :後編・七龍珠 4 ◆xJowo/pURw :2006/10/02(月) 19:50:26 ID:E3Tzrx0d0
-
「ドラゴンボールのことを知っているんですか!!」
喫茶店の入り口には、ずぶ濡れの小早川瀬那が、
黒光りするショットガンを携えて、立っていた。
* * * * * * * * * *
降りしきる雨の中、小早川瀬那は、Lが入っていった喫茶店の前に立っていた。
これから、自分は人を殺す。
冷たい汗が全身からあふれる。口の中がカラカラだ。目も乾いてじんわりと熱く感じる。
体中がガクガクと震える。雨の寒さで震えているのだろうか。
まるで借り物のような手足で喫茶店の扉をそっと開ける。
中の人たちに気付かれないように、そっと。
そして、永遠にも感じる長い時間をかけて喫茶店内に入ったとき、思いがけない言葉が聞こえてきた。
「くだらん!どうせ貴様も、あのドラゴンボールとかいう戯事を言うつもりだろう!」
頭が真っ白になった。
そして、気が付いたときには叫んでいた。
- 125 :後編・七龍珠 5 ◆xJowo/pURw :2006/10/02(月) 19:54:36 ID:E3Tzrx0d0
- 「ドラゴンボールのことを知っているんですか!?」
店内にいた3人は、はっと僕の方を向いた。
緑の服の青年は、こちらに対して身構える素振りを見せたが、
Lと蝶々仮面の変態は、微動だにせずただこちらを見つめている。
静寂が、その場を包む。空気が皮膚に刺さり、痛い。
「その、ドラゴンボールというのはなんですか?」
沈黙を破ったのは、Lだった。
「…ドラゴンボールというのは、7つ集めれば何でも願いがかなうという魔法の玉のことだ。
俺としたことが、検討を違えたか。」
パピヨンが応じる。
「セナ君、どこでドラゴンボールのことを?それと、その銃は?」
『銃』という単語にビクっと過剰に反応してしまう。
自分の考え、“殺意”は彼らにはもうバレてしまっているのかもしれない。
それでも、何とか平静を装って、声を絞り出す。
「さ、先ほど、ミサさんに教わりました。そのときにこの銃も…
ミサさんも、誰か別の方に聞いたそうです。銃もその方から。」
チッ、と、蝶々仮面が舌打ちをする。
「あのブチマケ女め、余計なことを…」
「それで、ミサさんはどこに?」
「さ、さあ…まだ、駅のベンチじゃないでしょうか。」
自分でもまともなことを喋っているのかどうか分からない。
だが、1つだけ、Lに聞かなければならない。大事なことを。命を賭けて。
- 126 :後編・七龍珠 6 ◆xJowo/pURw :2006/10/02(月) 19:55:38 ID:E3Tzrx0d0
-
「Lさん、あなたはドラゴンボールのことを、信じますか?」
「はい、信じます。」
「えっ?」
全く予想していなかった。ミサの言っていたことと正反対だ。
訳が分からない。どういうことだ!?
そこで、僕の変わりに青年がLに尋ねた。
「おいおい、いくらなんでも突拍子なさすぎるぜ。
俺の世界にも、『何でも願いがかなうナントカ〜』って御伽噺はいくつかあるけど、
それをそのまま信じるバカはいねぇぜ?」
まったくその通りだ。
え?御伽噺?いやそんなことはない。ドラゴンボールは…
「そうですねぇ…
では特別に、私のとっておきの仮説をここでみなさんにお披露目しましょう。
セナ君!あなたが元々居たのは、西暦何年ですか?」
「え、えっと…200X年です。」
急に話しを振られて、慌て答える。
「あなたは『キラ』を知っていますか?」
「え…?キラ…?」
- 127 :後編・七龍珠 7 ◆xJowo/pURw :2006/10/02(月) 19:56:21 ID:E3Tzrx0d0
- 今度はセナにとって理解できない単語が飛び出す。
「ぼ、僕には何のことだか…」
全く見当がつかない。
すると、Lは向き直り、今度は蝶々仮面に話しかける。
「パピヨンさん。あなたにも同じ質問をしてもよろしいでしょうか?」
「フン…俺が居たのもそのチビと同じ200X年、『キラ』と言えば赤穂義士の仇敵か?
それともアニメか漫画のキャラクターか何かか――」
話している最中のパピヨンの言葉を最期まで待たずに、Lが言い放った。
「『キラ』とは、全世界を震撼させた殺人者の名前です。
…私の居た世界で、ですが。
因みに私が来たのも200X年、お2人と同じ年です。」
「フン…そういうことか…」
蝶の変態は、それだけで何かを察したようだが、青年は首を捻っているようだ。
僕も何のことかさっぱり分からない。
青年がLに質問した。
「L…それはどういうことなんだ?」
「いいですか、まず、我々は異なる様々な時代・場所からこの場所につれてこられたことはもうご周知の通りです。
ですが、一見同じ時代、同じ場所から連れてこられたと思われる者同士でも、
その世界での出来事が、微妙に異なっている場合があるのです。
例えば、今私が言った『キラ』は、世界中の凶悪犯と、自らに歯向かう者たちを次々と殺した大量殺人犯の名前なのですが、
彼の名前を知らない人間は、おそらく世界中を見ても少数派と思われます。」
- 128 :後編・七龍珠 8 ◆xJowo/pURw :2006/10/02(月) 19:57:16 ID:E3Tzrx0d0
- 「なんだ、悪人を殺すのなら良い奴じゃないか。」
横から茶化す蝶々仮面をLは鋭く睨む。
「…キラの善悪の話しはまた別の機会にしましょう。
問題なのは、世界規模での常識が通じない、同時代の者が複数存在する、ということです。
つまり、ここから考えられることは――」
「異なる世界、『平行世界(パラレルワールド)』が無数に存在し、我々は正に異なる次元から呼び寄せられた…か。」
今度はパピヨンがLを遮る。
「その通りです。ですから、例えばあなた方ホムンクルスについても、
私が知らなかった、のでは無く、私の世界には居なかった…というのが正解でしょう。
私は職業柄、世界中のあらゆる事象を把握していましたが、
私の世界では、ホムンクルスなどの人知を超えたモノが存在できる余地は、全くありませんでした。」
(と、いうことは主催者の誰かは時間と空間を自在に操作できる能力を持っているとでも?)
(そういうことになりますね。)
(おいおい、それじゃいくらなんでも分が悪すぎるぜ!バーン独りだけでも骨が折れるってのに。)
(意外と、彼らもただ連れてこられただけ、という可能性もありますよ?)
(黒幕の存在…か。気に喰わんな。)
(あくまで『可能性』の話です)
3人は喋りながらも何かを凄いスピードで書いているようだ。
その内容は流石にわからないけれど。
「他にも、私は私の世界では考えられないような道具や技術、それこそ魔法そのものを目にしました。
それらは、正に『現実を超越した』世界からもたらされたものだったのです。
ですから、ドラゴンボール等と言う夢のような話をされても、
『夢のような』異世界が無数に存在する事実を考慮すれば、
簡単に『あり得ない』と結論を出すことは出来ないのです。
むしろ、それを信じている人物が複数いるのならば、
それが実在する可能性のほうが高いとも言えます。」
- 129 :後編・七龍珠 9 ◆xJowo/pURw :2006/10/02(月) 20:02:24 ID:E3Tzrx0d0
- Lが『夢のような』という部分を強調したことに、少し苛ついた。
でも一方で、Lに対する嫌悪感が薄れているのも事実だ。
Lがドラゴンボールを認めるなら、彼を殺す必要は無いんじゃないか?
Lに、もう一度聞いてみる。
「じゃあ、今すぐドラゴンボールを探しに行きましょうよ!」
「残念ですがそれは不可能です。」
Lは間髪いれずに即答した。
「どっ、どうして?」
「ドラゴンボールが存在する、ということに異論はありませんが、
このバトルロワイアル会場内には恐らく、というよりほぼ確実にドラゴンボールはありません。」
Lの答えに頭が混乱する。
「ど、どうしてそんなことが言えるんですか!?」
だんだん声に熱がこもってくるのが、自分でも分かる。
そんな自分を宥めるように、Lは答える。
「いいですか、『どんな願いも叶える』というのは、あまりにも万能すぎます。
これを使えば、このバトルロワイアル自体を無効にすることが出来るかもしれません。
例えば、参加者全員を殺して首輪を外した後、全員を生き返らせたりしたら、それこそ始末に困るでしょう?
制限をかけるにしても、それがどんな制限であっても、なんらかの『抜け穴』が生じる可能性が高い。
そんなリスキーなものを、主催者が支給品に加える訳がありません。
それにもし、その万能アイテムの奪い合いを誘発したいなら、
万人が知っているような、もっと普遍的なものを用意すべきですしね。
例えば『魔法のランプ』とか。」
「ああ、それなら俺も知ってるぜ。」
青年がなにか言っているようだが、耳に入らない。
Lは自分の考えのほぼ全てを言ってのけ、そしてそれを否定した。
それを認めるわけにはいかないのに、なんだかミサさんより説得力がある気がする。
でも……
- 130 :後編・七龍珠 10 ◆xJowo/pURw :2006/10/02(月) 20:03:22 ID:E3Tzrx0d0
- 「ですが。」
Lの言葉が思考を遮る。
「このバトルロワイアルが終わった後、なら話は別です。
私達が都合よく元居た世界に戻れるとも限りませんし、
他の世界でドラゴンボールを探す、というのもいいかもしれません。
私には、死んで行ったムーンフェイスや緋村さんに対する『恩』と『義理』がありますからね。
彼らを生き返らせ、元の世界に返す。
DBはその上では重要なアイテムになりますね。
ですから、今は一刻も早くこのバトルロワイアルを中断させることに、
我々は心血を注ぐべきなのです。」
緋村 剣心さん…
Lも、死んだ人のこともちゃんと考えていたのか。
Lの考えた方法は、ミサさんの話よりもっと具体的で、実現できそうな気がする。
ヒル魔先輩や進さんと一緒に、元の世界へ――――
「フン、偽善者が。」
黙ってLの話を聞いていた蝶々仮面が、口を開いた。
「流石は“人間界最高の頭脳”といったところか。少し見直したぞ。
だが、人の望み…いや、『欲望』が、そんなにたやすく満たされると思うのか?」
この男の声色が嫌いだ。
黒くて、穢らわしくて、でも純粋で力強い。
自分の汚い部分を無理やり見せられているような気持ちになる。
- 131 :後編・七龍珠 11 ◆xJowo/pURw :2006/10/02(月) 20:03:59 ID:E3Tzrx0d0
- 「錬金術の基本原則に、『等価交換』というものがある。
簡単に言えば、『支払った対価分の物しか得られない』といったところか。
人の『欲望』というモノも同じく、何らかの対価を失って初めて満たされるモノなのさ。
努力、金、地位、名誉。そういった対価とな。」
仮面の奥の目が暗く光る。
「そして、『命』に見合う対価など……この世には存在しないッ!!」
「――!!」
それは、自分でも目を背けていた、核心の部分だった。
そこにパピヨンの言葉が蛇のように絡みつく。もう逃れられない。
「俺も今まではある男を蘇生させる計画を練っていた。
だが、貴様らの馴れ合いを見て考えを改めた。
『命』というモノは、
俺が必死にしがみついたモノは、そんなにお手軽に手に入る物ではない。
玉を集めたり、死神に縋ったりする程度で手に入るものなら、とっくに俺が手にしている。」
パピヨンの言葉が、ヒル魔達とクリスマスボウルに行くという、自分の夢を砕いてゆく。
その言葉をなんとか否定しようと考えるが、上手くいかない。
自分が大切にしていた部分を、土足で踏み荒らされているような気分だ。
「それと、貴様たちが根本的に間違っている部分がある。」
言わないで。もうあなたの声は聞きたくないんだ。
「 選択肢なんてのは他人に与えられるのでなく、 」
(黙れ…)もう分かったんだ。でも聞きたくないんだ。だからお願いだから。
- 132 :後編・七龍珠 12 ◆xJowo/pURw :2006/10/02(月) 20:04:31 ID:E3Tzrx0d0
- 「 自ら作り出していくものだ!! 」
「黙れぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
叫ぶと同時に飛び出した。
狙いは蝶々仮面。距離は約10ヤード。
やってやる。僕たちがクリスマスボウルに行くために。
立ち塞がるものは、全て、倒してやる!!
それが絶対不可能の壁であっても!!
「セナ君!」
「坊主!」
Lたちが何かを叫んでいるけど気にしない。蝶々仮面だけを見据える。
「フン。やはりあのブチマケ女に何か吹き込まれていたか。
この蝶!天才に挑む根性だけは褒めてやろう。
だが、身の程知らずにも程があるぞ!!」
蝶々仮面がこちらを睨む。だが、そんなものには怯まない。怯んでたまるか!
「ニアデス・ハピネス!!」
蝶々仮面が叫ぶと同時に、無数の黒い蝶々が打ち出された。
おそらく、これがアイツの攻撃手段なんだ。
蝶々達はまっすぐに自分に向かって来て、
そして、
爆発する
ドゴォォォン!!
- 133 :後編・七龍珠 13 ◆xJowo/pURw :2006/10/02(月) 20:05:05 ID:E3Tzrx0d0
- 「――何ッ!!」
でも僕は、迫り来る蝶々を、爆風を、紙一重で避ける。
背中から、通り過ぎた場所から爆音が聞こえる。
広がる爆風が、背中を押してくれるような気がする。
蝶々仮面は、予想外の僕のスピードに慌てているように見えた。
「うわあああぁぁぁぁぁっ!」
そして、雄叫びをあげ、踏み切った。
自分の体が宙を飛ぶ。
そのまま蝶々仮面の懐に飛び込み、
銃の引き金を
引いた。
ズドォン!
次の瞬間には、
蝶々仮面の変態の胸に、
大きな穴が開いていた。
だけど。
「……図に乗るなよ、糞チビが。」
ドン。
鈍い衝撃が体を貫く。
- 134 :後編・七龍珠 14 ◆xJowo/pURw :2006/10/02(月) 20:13:41 ID:E3Tzrx0d0
-
胸元がじわりと熱くなる。
「あ……」
ゆっくりと、胸に目をやると、
自分の左胸に、蝶々仮面の右手が刺さっていた。
「フン!」
蝶々仮面が腕を振ると、僕の体はそのまま壁に叩きつけられた。
不思議と痛みはない。
「セナ君!」
「パピヨン!」
遠くで誰かの名前が聞こえる。僕を呼んでいるのだろうか?
「セナ君!しっかり!」
Lが僕の体を抱き起こす。
ごめんなさい。あなたのことを殺そうなんて考えて。
「おいパピヨン!お前――」
「おい、まさか殺すな、とか言うんじゃないだろうな。
見ての通りの正当防衛、殺らなければこっちが殺られていたぞ。」
「いや、そうなんだが…
それより、お前は大丈夫なのか!?腹にでっかい穴があいてるぞ!」
「フン。ホムンクルスはこの程度では死にはしない。
だが、他のホムンクルスと違って、俺は、少々、デリケート、だがな――」
- 135 :後編・七龍珠 15 ◆xJowo/pURw :2006/10/02(月) 20:14:26 ID:E3Tzrx0d0
- ゴパァ!
言い終わらないうちに蝶々仮面は、大量の血を吐いて倒れた。
「おい!パピヨン――!!」
それを見終えて、僕は目を閉じた。
もう何も聞こえない。
ただただ寒くて、眠い。
思い起こすのは、瞼の裏に焼きついた、あの人たちの姿。
栗田さん、武蔵さん、みんな、クリスマスボウルに一緒に行けなくてごめんなさい。
ヒル魔さん、進さん、生き返らせて上げられなくてごめんなさい。
まもり姉ちゃん、守ってあげられなくてごめんなさい。
ごめんなさい、
ごめんなさい……
【大阪府・駅舎隣の喫茶店/二日目・昼】
【L@DEATHNOTE】
[状態]右肩銃創(止血済み)
[道具]:ナッパの荷物一式の中身(地図など。食料無し、水ペットボトル一本)
:デスノートの切れ端@DEATHNOTE、GIスペルカード『同行(アカンパニー)』@HUNTER×HUNTER
:雪走り@ONEPIECE、斬魄刀@BLEACH、核鉄XLIV(44)@武装練金 、首輪の知識@パピヨン
[思考]1:パピヨン、ポップらと同行。パピヨンとセナの介抱(埋葬?)
2:12時に大阪駅へキン肉マンとウソップを迎えに行く。
3:現在の仲間たちと信頼関係を築く。
4:パピヨンを警戒。ポップを信用。
5:沖縄の存在の確認 。
6:ゲームを出来るだけ早く中断。
- 136 :後編・七龍珠 16 ◆xJowo/pURw :2006/10/02(月) 20:15:19 ID:E3Tzrx0d0
-
【ポップ@ダイの大冒険】
[状態]:健康 (MP全快)
[装備]:魔封環@幽遊白書 、アバンのしるし@ダイの大冒険
:ウソップ作の仕込み杖(投げナイフを使用) 、死者への往復葉書@ハンター×ハンター(ウソップから譲って貰った)
:ボロいスカーフ(仲間の証として)、ゴールドフェザー 3本 シルバーフェザー 2本@ダイの大冒険
[道具]:荷物一式×3(食料・水、一日分消費)、首輪@跡部、首輪@玉藻、
: 首輪の知識@パピヨン、世界の知識@L
[思考]1:Lと同行。パピヨンとセナの介抱(埋葬?)
2:12時に大阪駅にキン肉マンとウソップを迎えに行く。2人にもしものことがあれば…
3:脱出の鍵を探す。
4:ダイ・ウソップの仲間との合流
5:夜になったら死者への往復葉書を使ってマァムに手紙を書く。
6:フレイザードを早めに倒す
7:パピヨンはやはりあまり信用していない
【パピヨン@武装錬金】
[状態]:腹に大穴。体力消耗大。気絶。
[装備]:核鉄LXX@武装錬金 (火薬少量消費)
:ボロいスカーフ(首輪から監視されていた場合への対策)
[道具]:荷物一式×4(食糧二食分消費)、ベアクロー(片方)@キン肉マン、
:首輪@中川、首輪@ヒソカ、首輪@一輝、世界の知識@L
[思考]:1:蘇生は不可能。だが武藤カズキとの再戦は必ず果たす。そのための情報を集める。
2: 12時に大阪駅にウソップを迎えに行ってやる。Lは同行させてやってもいい。
3:首輪を調べる。爆破実験は迂闊に行うべきではないと思っている(少なくとももっと脱出の為の駒が集まってから)
4:首輪の解除に役立つ人間またはアイテムを探す。
5:志々雄を危険視。対策を立てる。自分達が有利な広いフィールド、又は拠点の捜索。
6:ツリ目の少年の情報を得る。ツリ目の少年は見つけ次第殺す。
7:ドラゴンボールは信用しない。
8:他の参加者と必要以上に馴れ合う気はない。
- 137 :後編・七龍珠 17 ◆xJowo/pURw :2006/10/02(月) 20:15:52 ID:E3Tzrx0d0
- 【小早川瀬那@アイシールド21 死亡確認】
【残り35人】
*ショットガン(残弾不明)、野営用具一式と、セナの持ち物は、喫茶店内に放置してあります。
*Lは志々雄とパピヨンの約束の内容を知りません。
*パピヨンは何らかの、未知の方法で武藤カズキとの再戦を実現させようと考えています。
*理解した知識をアイテム欄に加えました。時間をかけて説明することで受け渡し(増殖)が可能です。
<首輪の調査案 その@>
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
1.死体の首輪で爆発力を調査(調査トリガー:情報不足のため、脱出の目処がつく/有力な仲間ができるまで保留)
1.1 死体の首輪が爆発しなかった場合 → 外部から首輪を破壊する(首輪が誘爆するかは不明)
2.項目1の結果を受けて列車の中で、起爆トリガーの調査
2.1 禁止エリアがトリガーだった場合 → 列車内の調査
2.2 主催者側の監視がトリガーだった場合 → 予備の首輪の爆破実験を行い、主催側の視界の調査
3.項目1で破壊した、首輪の破片の分析(パピヨン・ウソップ)
4.「呪い」の調査、及び対処法の考案(ポップ) ⇒ シャナクを使ってみる
5.マホカトールを使用した首輪への外部干渉の断絶(調査トリガー:項目1、項目2を受けて本格解除を前提とした行動)
- 138 :後編・七龍珠 修正 ◆xJowo/pURw :2006/10/02(月) 20:17:01 ID:E3Tzrx0d0
- 【大阪府・駅舎隣の喫茶店/二日目・昼】
【L@DEATHNOTE】
[状態]右肩銃創(止血済み)
[道具]:ナッパの荷物一式の中身(地図など。食料無し、水ペットボトル一本)
:デスノートの切れ端@DEATHNOTE、GIスペルカード『同行(アカンパニー)』@HUNTER×HUNTER
:雪走り@ONEPIECE、斬魄刀@BLEACH、核鉄XLIV(44)@武装練金 、首輪の知識@パピヨン
[思考]1:パピヨン、ポップらと同行。パピヨンとセナの介抱(埋葬?)
2:12時に大阪駅へキン肉マンとウソップを迎えに行く。
3:現在の仲間たちと信頼関係を築く。
4:パピヨンを警戒。ポップを信用。
5:沖縄の存在の確認 。
6:ゲームを出来るだけ早く中断。
Lの状態表の段落がずれました。
- 139 :後編・七龍珠 修正2 ◇xJowo/pURw :2006/10/05(木) 00:41:02 ID:W/hfrXNt0
- 2スレ目 20行目 実効性に書く→欠く
6スレ目 最後から5行目 急に話しを→話を
修正宜しくお願いします。
- 140 :後編・七龍珠 修正2 ◆xJowo/pURw :2006/10/05(木) 00:41:54 ID:W/hfrXNt0
- ↑です。
- 141 :キン肉マンVS志々雄真実 ◆kOZX7S8gY. :2006/10/06(金) 00:42:53 ID:aOZNUMIg0
- 【プロローグ〜不吉〜】
数多の超人達が好闘を見せたキン肉星王位争奪サバイバル・マッチから数ヶ月。
我々取材班は、優勝したキン肉マンチームのメンバーの一人、テリーマンのいるテキサスアマリロを訪ねた。
その日、テリーマンはいつものスリースターパンツを身につけ、我々が歓声を送ったファイティングスタイルで汗を流していた。
――王位争奪サバイバル・マッチも終わり、当面はファイトのご予定もないようですが、今日はどのような目的でトレーニングを?
「超人レスラーたるもの、日々の鍛錬は怠らないものさ。
確かに戦いの日々は去ったが、いつまた同じような危機が訪れるかは分からない。
アイドル超人軍の一員として、いざという時に戦いに赴けないようではファンが泣くからね」
――一流超人らしい意志の強さを感じますね。では今日のトレーニングメニューは?
「今日は親友であり、同じ正義超人のジェロニモを招いてスパーリングを行うことになっている。
彼もハワイチャンプとして鍛錬を積む毎日だからね。誘ってみたら快く了解してれたよ」
――さすがは正義超人。見習いたいくらいの厚い友情ですね。
「HAHAHA。正義超人といえば、一にも二にもまず友情。この絆のおかげで勝てた試合が何度あったことか。
特にあの男……そう、彼との友情は特別厚かった。
今は母星で王位を継ぎ忙しくしている頃だろうが……またいつか会いたいものだ……あっ!?」
――どうなされましたか?
「ゲェー! 新調したばかりのシューズの紐が切れた! ま、まさか……彼の、キン肉マンの身に何かが……?」
思わぬアクシデントの直後、テリーマンは予定していたトレーニングを全て中止し、我々の取材も已む無く中断されることとなった。
突然切れてしまったテリーマンのシューズの紐。それが何を危惧しているのか、詳細は誰にも分からない。
- 142 :キン肉マンVS志々雄真実 ◆kOZX7S8gY. :2006/10/06(金) 00:44:42 ID:aOZNUMIg0
- 【ラウンド1〜開幕前の論争〜】
車窓から見える景色は、豪快な横殴りの雨と、煌びやかな京都の町並み。
汽車内に車窓を覗く余裕がある者はいない。
乗客三者、見つめるのは、互いの視線のみ。
キン肉マンは、志々雄の瞳を。
志々雄は、キン肉マンの瞳を。
ウソップは、双方の瞳を交互に。
大阪駅を出発して約十分。ゴングはまだ鳴らされていない。
一触即発、いつ殴りかかってもおかしくないほど憤っているキン肉マンを抑え付けているのは、積もりに積もった仇敵への恨み。
友人二人を殺された怒り、爆発すれば相当なパワーを生むであろう感情は、蓄積されすぎたせいか抑制となって働いているのだ。
対する志々雄も、キン肉マンが向かってこないのであれば手を出す必要はない。
与えられた試合時間は一時間。その八分の一の時間しか戦闘を行えない志々雄にとって、展開を急くことは愚にも等しい選択だった。
会話もないまま二人の顔を見回すのは、完全に巻き込まれただけの不運な男。
人は彼を、海賊キャプテン・ウソップと呼ぶ(本人談)。
立会人としてここに残ることを強制されたが、元来臆病者の気質を持つ彼は、いつ始まってもおかしくない殺し合いにビクビクしていた。
三者が睨みあったまま、動かない。
均衡を破るのは、果たして誰になるのか。
『京都〜京都〜』
やがて、汽車は京都に到着した。
一旦停車し、揺れを失くす車内。
その空気を感じ取って、一人が先陣を切る。
- 143 :キン肉マンVS志々雄真実 ◆kOZX7S8gY. :2006/10/06(金) 00:45:41 ID:aOZNUMIg0
- ――旦那ぁ。いつまでこうやって睨みあってんのさ。
意外や意外。言葉を発したのは、志々雄の腰に下げられた一本の刀――宝貝『飛刀』――だった。
「ん? まぁ焦るもんでもねぇだろ飛刀。あちらさんは相当いきり立っているみてぇだが、どうやら俺の容姿を見てビビっちまってるらしい。仕掛けてこれないのも仕方ないさ」
「な、なにを〜! わたしはおまえを目の前にして、ラーメンマンやたけすぃの無念を噛み締めていただけじゃい! だ〜れがおまえみたいな包帯男にビビるか!」
「ななななんだ、いよいよ戦るのかおまえら? だったらこのウソップ様が、立会人としてちゃんと試合を見届けてやるぞぉ……は、離れたところで」
飛刀の言葉が口火を切り、一斉に喋りだす一同。
汽車は京都駅を発車し、滋賀県へ向かおうとしている。
すっかり騒がしさを取り戻した車内では、いよいよ因縁の対決が幕を開けようとしていた。
「志々雄。おまえと戦う前に一つだけ確認するぞ。わたしが剣八と試合をしている最中にたけすぃを誘拐し、その後ラーメンマンを殺害したのは……本当におまえなんだな?」
キン肉マンが今一度、志々雄に確認を取る。
Lの推理を信じないわけではないが、キン肉マンはラーメンマンやたけしの死亡の瞬間を目にしたわけではない。
万が一、二人の死が不幸な事故、もしくは恨み自体が見当違いであるような結果であったとするならば、無理に拳を振るう必要はないのかもしれない。
「ああ、本当さ」
しかし無常。志々雄は悪気のない顔であっさりと答え、キン肉マンが作る怒りの表情に口元を緩ませた。
「ラーメンマンを殺したのは確か昨日の夜だったな。重傷の身体でほっつき歩いてたんで、ちょっと喧嘩をふきかけてみりゃ、あの様だ。
あの時は失望したぜ。正義超人ってのは見掛け倒しなだけで、こうも弱いものなのかってな」
キン肉マンが右拳を握り締める。指と指の隙間から汗が滲み垂れる。
「そういや、結局てめぇと更木の試合はどっちが勝ったんだ?
更木はいつの間にか死んじまったみてぇだが……殺ったのはてめぇじゃねぇな。弱っちぃ正義超人なんかに、人殺しができるはずもねぇ」
- 144 :キン肉マンVS志々雄真実 ◆kOZX7S8gY. :2006/10/06(金) 00:46:57 ID:aOZNUMIg0
- キン肉マンが左拳を握り締める。指と指の隙間から血の汗が滲み垂れる。
「たけしを殺したのはラーメンマンを殺した後だったな。本当はもう少し生かしておくつもりだったんだが……案外使えなくってな。
やはり所詮は小僧。俺の手駒になるほどの器じゃなかったみてぇだな」
キン肉マンが唸る。グムム……グムム……と。必死に、何かを堪えるような表情で。
静かに、志々雄の術中に嵌められないよう、静かに思いのたけを解放していく。
「ラーメンマンはなぁ、それはそれは強い超人だったんだ」
「あん?」
「初めて会った頃のあいつは、血も涙もない残虐超人だった……だがわたしたちとの試合を通して、確かな友情で結ばれた掛け替えのない仲間だったんだ」
顔を俯かせ、表情を見せないよう、志々雄に友のことを熱弁する。
「中国出身で、千の技を持ち、一部では闘将とまで呼ばれていた男……それがラーメンマンだったんだ」
拳がワナワナと震えている。
「たけしにしたって……年齢を感じさせないほどの立派なリーダーだった。将来は正義超人にも負けない、たくましい男になっていたに違いないんだ」
キン肉マンが、
「それを、それを」
顔を上げる。
「おまえごときが、勝手に語るなーーーー!!!」
目からは、涙が溢れていた。
- 145 :キン肉マンVS志々雄真実 ◆kOZX7S8gY. :2006/10/06(金) 00:48:46 ID:aOZNUMIg0
- 身が震え、、耳は痺れるほどの声量だった。
友を思うキン肉マンの感情。
それは抑え付けられるようなものではなく、爆発は免れないものだったのだ。
「わたしは、死んでしまった二人のためにも志々雄、おまえを倒す! 絶対にだ!」
何よりも、『友情』を大切にしてきたキン肉マンだからこそ、この戦いは譲れない。
この戦いは、単なる仇討ちなどでは括れない。友の尊厳を懸けた、世紀の決戦。
超人オリンピック決勝なんかよりももっと貴重な、一世一代の大勝負だった
その思いを感じ取ったのか、
(こいつ……最初に見た時はおかしな野郎だと思ったけど……仲間思いのメチャクチャいい奴じゃねーか)
ウソップは思わず貰い泣きし、すっかりキン肉マンに感情移入していた。
そして、この刀もまた。
――こいつが、ラーメンの旦那が言っていたキン肉マン……
噂に聞いた通りの人物像。飛刀は亡きラーメンマンを思い出し、心を痛めていた。
しかしやはりこの男は、
「……ククク……ハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
言葉、などというものでは惑わされたりしない。
「何が可笑しい」
「可笑しいもなにも、ここまで笑える話もなかなかねぇぜ。正義超人っていうのは、ここまで笑える連中だったのか」
志々雄の大胆すぎる嘲笑に、キン肉マンは更なる怒りを蓄積させていた。
これが挑発なのだということは分かっている。
だからとて、感情が抑えられるはずがない。
友が、馬鹿にされているのだ。
- 146 :キン肉マンVS志々雄真実 ◆kOZX7S8gY. :2006/10/06(金) 00:50:16 ID:aOZNUMIg0
- 「仲間が死んで悲しみ、恨みを抱く。人間らしいもっともな感情だ。だがよ、それは所詮、一時の心情に過ぎねぇ。
時が経てば悲しみも晴れ、復讐心も失せる。なのに一時、死人に振り回され、自らを死に追いやる。馬鹿以外の何者でもねぇだろうが」
そういう人間は嫌いじゃない。復讐心は、最も利用しやすい感情だからだ。
だからといって志々雄自身がそういう人種であるかどうかは別だ。
彼とて大勢の仲間がいたが、その間を繋いでいたのは、共通の悲願成就を目的とした信念によるもの。
時には利用し利用される間柄。それでも瓦解することはなかった、強い絆。
正義超人達のような馴れ合いから生まれる友情ではない。信念から来る、絶対的な鎖の絆だった。
汽車は京都を越え、滋賀県に入る。
乗車してから、間もなく三十分が経過しようとしていた。
「そろそろ頃合か……さて、俺からも確認させてもらうぜキン肉マン。これから俺たちがやるのは試合なんかじゃなく死闘。
ルールもなけりゃ邪魔者もいない。もちろん、逃げ場もなしだ。決着はどちらかの死で決まる」
「デス・マッチというわけだな〜、望むところだぁ!
ラーメンマンやたけしを侮辱し、更にはわたしたちの友情までをも嘲笑った罪、このキン肉スグルがとくと味あわせてやる!!」
口闘が終わり、本当の意味での死闘が始まる。
がたんがたんと揺れる車内で、見詰め合ったまま立ち尽くす二人の闘争者。
開戦の合図を待ちながら、キン肉マンはファイティングポーズを取り、志々雄は飛刀を抜く。
(……ひょっとしてこれ、俺待ち?)
立会人としてその場にいたウソップは、何故かそう感じた。
決闘の開幕ともなれば、それなりの合図が必要だろう。それを実行できるのは、この場にはウソップしかいない。
「えー、こほん。ではでは! これよりキン肉マンVS志々雄のルール無制限汽車内デス・マッチを執り行う!!
勝負の行く末はこのウソップ様がちゃんと見届けてやるから、安心して戦え!
くれぐれも、く・れ・ぐ・れ・も! 俺にとばっちりは与えてくれなよ!
んじゃあ…………FIGHT!!!」
- 147 :キン肉マンVS志々雄真実 ◆kOZX7S8gY. :2006/10/06(金) 00:52:10 ID:aOZNUMIg0
- 【ラウンド2〜体術と剣術〜】
カ〜ンというゴングの音は鳴らなかったものの、今ここに、キン肉マン対志々雄真実の決闘が開戦された。
リングは縦に伸びた、動く汽車の内部。横方向への回避は制限され、逃げ場は後方にしかない。
偶然選ばれた試合会場とはいえ、血で血を洗うデス・マッチを行う場としては、これ以上ない最高の舞台だった。
「うりゃあぁぁぁ! 行くぞ志々雄ぉ!!」
開幕早々、キン肉マンがダッシュで志々雄に詰め寄る。
それほど広くはないバトルフィールド、目立ってスピードの速いわけではないキン肉マンでも、志々雄に接近することは容易だった。
志々雄は、突進してくるキン肉マンを黙って待ち構え、相手が自分の間合いに足を踏み入れたところで、一閃。
「わひぃ!?」
横に振るった飛刀の一撃を、キン肉マンは咄嗟にしゃがむことで回避した。
屈んだ体制のまま、上方に聳え立つ志々雄を捉える。
カエルの跳躍のように反動をつけ、そのまま前方にジャンプし、フライングチョップを繰り出した。
志々雄は飛刀を手元に切り戻し、キン肉マンのチョップを刀身で受け止める。
衝撃で弾かれ、二、三歩後ずさる志々雄。
反撃できなかったのは、キン肉マンの攻撃が思っていたより重厚であったのが一つと、満足に剣が震えない狭い戦場の悪条件が重なったためだった。
「チッ」
志々雄が思わず舌打ちする。
縦に振るえば天井に剣を取られ、横に振るえば客席が邪魔になってしまう。
剣術家自慢の、長い獲物を利用した戦法がかえってあだになる舞台。志々雄はこの状況に劣勢を感じた。
しかし、すぐにその心配が杞憂であったことに気づく。
あったではないか。
この狭い空間で、一方的に相手を攻め立てることが出来る剣術が。
「どうした志々雄! この狭い汽車内じゃ、満足に剣も振るえないんじゃないか〜!?」
「……あいつの技なんざ好んで使いたくはないが……この馬鹿にゃちょうどいい戦法かもな」
- 148 :キン肉マンVS志々雄真実 ◆kOZX7S8gY. :2006/10/06(金) 00:52:52 ID:aOZNUMIg0
- 志々雄がニヤリと口元を歪ませ、体制を変える。
飛刀を地に対し水平に構え、切っ先はキン肉マンに向けたまま握り手を引く。
空いた片方の手は剣先に添え、そこで停止した。
縦でも横でもなく、前方だけに焦点を絞った必殺の型――刺突の体制である。
今までとは違う構えを見せる志々雄に対し、若干の悪寒を覚えたキン肉マンだったが、それでも高ぶる戦意は抑えられない。
真正面から志々雄に突っ込み、今度は関節技を決めようと四肢を捉えにかかる。が、
距離にして五歩、いや六歩はあっただろうか。
間合いに踏み込むまでにはまだ余裕がある。
そう睨んでいたにも関わらず、志々雄は飛刀を前方に突き出した。
――剣術において、突きは縦斬り横斬りよりも一方向の間合いが格段に広いとされている。
その方向とは、前。
攻撃範囲が前方のみのため、縦や横などの多様な死角を招くことになり、
相当の達人でなければ自ら死を招くことになりかねない危険な技だが、この汽車内の狭い空間ではそのリスクも少ない。
しかも剣術という分野で考えれば、この世界に志々雄ほどの達人はいないだろう。
熟練の剣術家が繰り出す突きは、その突撃力から一撃必殺の至宝、剣道では禁じ手ともされている。
前後に広いだけの汽車内で、これほどまでに有効な剣技は他にない。
そして、最も恐れるべきはその想像以上の攻撃範囲ではなく、何よりも速度。
前に突き出すだけの単純な行為だけに、空気抵抗はほぼ皆無。
さらに踏み込みの速度が加わるため、その一撃を形容するとなれば正に――――神風の如し。
- 149 :キン肉マンVS志々雄真実 ◆kOZX7S8gY. :2006/10/06(金) 00:53:50 ID:aOZNUMIg0
-
ゲェー! 速い!
キン肉マンがそう感じた時点で既に、飛刀の刀身は伸びきっていた。
剣先はキン肉マンの胸――ではなく脇腹を掠め、どうにか致命傷は避けている。
「腰を捻って串刺しだけは避けたか。思ったよりいい反応だ。が」
志々雄は突き出した飛刀を引っ込めようとせず、そのままの型から、横に、
「詰めが甘い!!」
振るった。
キン肉マンの身体に横一線、斬撃による裂傷が伸びる。
飛び散る鮮血が志々雄の顔面を濡らし、微笑を誘った。
刺突を外されても、間髪入れずに横薙ぎの攻撃に変換できる。
これこそ、戦術の鬼才・新撰組副長土方歳三が考案した『平刺突』である。
また、この技を見知った者はこうとも呼ぶかもしれない。
――『牙突』と。
「痛っでェェェ!!! このヤロー、これくらいでわたしが参ると思うなよ〜!」
斬撃を受けながらも、さすがは厚い筋肉を鎧のように身に纏うキン肉マン。
果敢にも突攻を続け、志々雄の身体をホールドする。
「喰らえ! 52の関節技……カンガルー・クラッ」
- 150 :キン肉マンVS志々雄真実 ◆kOZX7S8gY. :2006/10/06(金) 00:54:38 ID:aOZNUMIg0
- そのまま締め上げにかかった、刹那。
志々雄の右手が僅かに動き、キン肉マンの身体に触れ、
ドンッ、と一衝撃。
強固に掴んでいたキン肉マンの関節技が、一片に解かれた。
裂傷から来る痛みに加え新たに襲ってきたのは、内蔵が揺さぶられているような気持ちの悪さ。
頭がグラつく。視界が揺れる。足元が覚束ない。
カンガルー・クラッチを破られ、一瞬無防備になったキン肉マンの身体に、志々雄の反撃が襲い掛かる。
キン肉マンの胸板に、飛刀の柄による打撃が与えられる。
零距離のため、斬り込みが来なかったのが唯一の救いか。
衝撃で吹き飛ばされ、元居た場所まで戻されるキン肉マン。
地を転がり悶絶しながらも、完璧に倒れ伏すことはなかった。
すぐさま立ち上がり、戦闘続行の意思表示となるファイティングポーズを取って見せるが、ダメージの影は隠し通せていない。
「ほう。まだ立てるのか。今のはラーメンマンを仕留めた技だったんだが、どうやら手前は奴より頑丈らしいな」
「な、なに? これがラーメンマンを苦しめ、死に至らしめた痛みだというのか……」
自身も苦しみを噛み締めながら、再度殺されたラーメンマンのことを思う。
立っているのも辛い現状、ラーメンマンもさぞかし苦痛に苛まれたのだろう。
考えていたら、またムカムカしてきた。
他人が苦しんでいる様を見て、笑っていられる外道、志々雄真実。
やはりここで見逃すわけにはいかない。
身を挺してでも、二人の友の仇討ちのためにも、
「志々雄ぉー! 貴様はここで倒ォォォスッ!!」
がむしゃらに、突き進む。
- 151 :キン肉マンVS志々雄真実 ◆kOZX7S8gY. :2006/10/06(金) 00:55:22 ID:aOZNUMIg0
- 「学習能力もないのか、こいつは」
やれやれとボヤキながらも、瞬時に構えを取る。
先程と同様の、待ちの体制から放たれる即行の片手平刺突。
キン肉マンの喉仏を狙った剣筋は、若干反れて左肩を貫く。
「ギャアアァァァァァ!!」
決して大袈裟とは言えない苦声を上げ、キン肉マンは再び地に倒れてしまった。
今度はすぐに起き上がれない。
ここが本当のリング上であるならば、レフェリーにダウンを取られ、カウントを読み上げられるところだった。
倒れるキン肉マンを見下ろしながら、志々雄がそっと歩み寄る。
「飛刀、さっきの一撃だが……あれはキン肉マンが避けたから狙いが外れたわけじゃねぇ。一体どういうつもりだ?」
――…………
「都合が悪くなるとだんまりか? まさか、ラーメンマンが恋しくなったわけじゃあねぇだろ?」
先程の刺突、志々雄は確かにキン肉マンの喉元を狙った。にも関わらず軌道はずれ、左肩を貫く結果となってしまった。
何故か。刀を握っていた志々雄には明白である。
剣先が触れる一瞬、飛刀が僅かな身震いをし、狙いが外れたのだ。
まるで、キン肉マンの死を拒むように。
機は逃したものの、戦況が志々雄側に傾いていることは揺ぎ無い。
静かに歩を進め、キン肉マンに止めを刺そうと、
「す、ストッ〜プ!」
歩み寄った斜線上、長鼻の乱入者によって道を阻まれた。
- 152 :キン肉マンVS志々雄真実 ◆kOZX7S8gY. :2006/10/06(金) 00:56:50 ID:aOZNUMIg0
- 【ラウンド3〜乱入者〜】
「あん? なんのつもりだ長鼻」
「も、もう決着は着いただろうが。勝負はおまえの勝ち。このキャプテン・ウソップ、しっかり見届け」
「寝言言ってんじゃねぇよ」
既に勝敗は決したと判断し、キン肉マンと志々雄の間に割って入ったのは、長鼻の立会人ウソップ。
ガクガクと笑う膝を懸命に震え立たせながら、血に塗れた志々雄と向き合う。
「俺達がやってんのは飯事みてぇな試合じゃねぇ。『死闘』なんだよ。
どちらかが死ぬまで決着なんてものは着かねぇ。最後に立っているのは、一人だ」
怪しい狂気的な笑みでウソップを牽制しながら、志々雄は淡々と言葉を紡ぐ。
その見た目以上の気迫に押され気味のウソップだったが、それでもその場を動くことだけはしなかった。
今自分が退けば、後ろにいるキン肉マンが殺されてしまう。
「け、けどよぉ……」
「志々雄の言うとおりだ……」
志々雄相手に尚も食い下がろうとしたウソップの後方、満身創痍のキン肉マンが、懸命に立ち上がる姿があった。
「これはお互いの意地を懸けたルール無用のデス・マッチだ……わたしはこの試合を受けたからには、最後までリングを降りることはない。
もちろん、ギブアップもな……ゴハッ!!」
それでも、志々雄の放った『衝撃貝』のダメージが残っているのだろう。
床に勢いよく吐血し、再び膝を突いてしまう。
「お、おい! 大丈夫かよ」
「大丈夫かだと〜……当たり前じゃー! ここでわたしが志々雄を倒さなければ、いったい誰がラーメンマンやたけすぃの仇を取ると言うんだ!」
言っていることは力強いが、当の身体はフラフラで、とても見ていられるような状態じゃない。
- 153 :キン肉マンVS志々雄真実 ◆kOZX7S8gY. :2006/10/06(金) 00:59:17 ID:aOZNUMIg0
- 「……なんで、なんでそんなに頑張るんだよ……仇討ちっていったって、自分が死んじまったら意味ねぇじゃねーか……」
ウソップが呟いた。
己の身を削ってまでも戦いを挑むキン肉マンの奇行の意味が知りたくて、その熱意の真意がなんなのか、知りたくて。
「ラーメンマンは、一番の親友だった。共に戦い、何度もお互いを助け合った仲だ……」
息も絶え絶えで、苦しそうな瞳を投げかけながら、キン肉マンが喋り続ける。
「たけすぃは、この世界に来て初めてできた友達だった。共にした時間こそ少ないが、掛け替えのない親友になれるはずだったんだ……」
キン肉マンの姿が、言動が、不思議と輝いて見える。
「そんな二人が殺され、侮辱された……ッ! 親友であるわたしが、どうして……どうして黙っていられると言うんだァァァ!!!」
心が、ハートが、震えた。
久しぶりに聴いた、心に響く大声。ああ、ルフィの声もこんくらいやかましかったな……などと思いながら。
「泣かせるじゃねぇかキン肉マン。だがもう勝負は着いたも同然だ。長鼻、さっさとそこを退い」
「退かねぇ」
その一言で志々雄から笑みが消え、周囲一帯に冷たい空気が張り詰めた。
「……意味が分からねぇな。てめぇは単なる立会人としてここにいる。そして俺とキン肉マンの死闘はまだ終わっちゃいねぇ。まだ理解できてねぇのか?」
「分かってるさ。どっちかが死ぬまで納得がいかねぇってのも。俺が手を出すのは見当違いだってことも。だけど退かねぇ」
「……まさか、キン肉マンを庇うってのか?」
「……ビンが」
「あ?」
「ロビンが死んだんだ!!」
- 154 :キン肉マンVS志々雄真実 ◆kOZX7S8gY. :2006/10/06(金) 01:00:13 ID:aOZNUMIg0
- 志々雄相手に声を荒げ、ウソップは堂々と言ってのけた。
「俺は、ロビンが死んだって知った時……とむらいの鐘を鳴らしてやるって決意をした……笑っちまうよな、何がとむらいの鐘だよ……」
声が震えている。だが、この震えは恐怖から来ているのではない。
不甲斐ない自分への、怒りから来ているのだ。
「ば、ばかも〜ん……ロビンマスクの奴なら、今頃母国で嫁さんと仲良くやっとるわい……」
力ないキン肉マンの指摘も、今のウソップには届かなかった。
「俺は、仲間の死に対してそんなことくらいしかしようとしなかったんだ……ここにいるキン肉マンみてぇに、仇を討つなんて考えもしなかった。
仇が誰か分からなかったからじゃない。俺が弱かったから、俺に仇討ちなんて無理だって、諦めちまったから」
もっと、強さがあれば。
もっと、度胸があれば。
もっと、勇気があれば。
自分も、キン肉マンのように。
「仲間が死んだってのに、俺は直前まで、隅っこで隠れてて、仲間を守ろうともしなかったのに……!」
次第に、ウソップの目から涙が流れ落ちていた。
それこそ滝のような勢いで、何が悲しいのか、志々雄には理解できなかった。
この涙は悲しさから来ているのではない。悔しさから来ているのだ。
「もう、仲間を失うのなんて嫌なんだよ……頼むから、殺さないでやってくれよ…………」
「この期に及んでそれを懇願するか? 第一、そいつはてめぇの仲間なんかじゃねぇだろ」
- 155 :キン肉マンVS志々雄真実 ◆kOZX7S8gY. :2006/10/06(金) 01:03:47 ID:aOZNUMIg0
- 確かにそうだ。ウソップとキン肉マンが出合ったのは、ほんの数十分前。
仲間になるとも言っていなければ、ろくに会話もしていない。
なのにウソップは、キン肉マンに対し仲間と――麦わら海賊団のみんなのような暖かさを感じて――何ら変わりない感情を抱いていた。
きっかけはなんだったのか。仲間を思うキン肉マンの姿勢に心打たれたのか。
「だったら!」
ただ、キン肉マンに死んで欲しくない。
それだけで、ウソップは志々雄の前に立ちふさがった。
「こいつは今から、我がウソップ海賊団の一員だ! 船長が仲間を守るのは当然の行為。キン肉マンを殺すつもりなら、俺が相手になってやらぁ!!!」
言った。言ってしまった。
伝説の人斬り相手に、宣戦布告してしまった。
ちっぽけな海賊団の、単なる嘘つきな狙撃手が。
「そうかい」
ウソップの宣言に対し、志々雄は短くそう返した。
そして再び歩を進め、ウソップとキン肉マンに接近する。
「ウソ〜ップ、ライフル!」
向かってくる志々雄に臆しながらも、ウソップは懸命に虚勢を張って対抗した。
スナイパーライフルを構え、銃口を志々雄に向ける。
(安心しろ……俺は狙撃の名手だ。こんな近距離、絶対に外すはずがねぇ)
ウソップと志々雄の距離は約7〜8メートル。
麦わら海賊団の狙撃主として活躍し、魚人や能力者とのタイマンでも勝利を収めたことのあるウソップが、万が一にも狙いを外す要因はない。
(大丈夫、大丈夫。俺は、この射撃の腕で何度も死線を越えて来たんだ。今度だって……うまくやってやらぁ!)
- 156 :キン肉マンVS志々雄真実 ◆kOZX7S8gY. :2006/10/06(金) 01:04:49 ID:aOZNUMIg0
-
ウソップが引き金を引く。
銃声が鳴る。
銃弾が飛び出た。
銃弾は一直線に志々雄へと伸び、
頬を掠めて奥へと消え去った。
「…………ハズした。この、俺が?」
唖然とするウソップを尻目に、銃弾を回避した志々雄はダンッと踏み込む。
同時に飛刀を下方から振り上げ、ウソップの構えていたスナイパーライフルへと一閃。
――やめてくれ! 志々雄の旦那ァ!!
交差による金属音が木霊した瞬間、飛刀の悲痛な叫びが上がったような気がした。
錯覚ではない。ウソップのスナイパーライフルが志々雄の手によって斬り弾かれた瞬間、飛刀は志々雄に懇願したのだ。
剣を振るな。ウソップを襲うな。と。
志々雄がそれを聞くような男でないことは、既に分かりきっていた。
ウソップの手から弾かれたスナイパーライフルは、回転しながら天井にぶつかり、志々雄の後方へ落下した。
回収は不可能。距離的にも、時間的にも。
ウソップが次の行動を取るより先に、志々雄は動く。
飛刀が振られた。
剣筋は一直線に、刺突の型で。
貫いたのは、ウソップの胸。
- 157 :キン肉マンVS志々雄真実 ◆kOZX7S8gY. :2006/10/06(金) 01:05:42 ID:aOZNUMIg0
- 「……恐怖で竦んだか? 手元が丸見えだったぜ」
ウソップの敗因は、近距離でライフルを使用したこと。
対抗できる武器がそれしかなかったとはいえ、本来なら長距離で性能を発揮するものを使ったのは、明らかに失敗だった。
何しろ志々雄は幕末を生き抜いた生粋の剣士。
ウソップの手元を見れば、引き金を引くタイミング、銃弾が飛び出るタイミング、そしてそれを回避するタイミング、全て把握することが出来る。
明治政府を恐怖のドン底に叩き落した人斬り相手に、近距離からの銃撃など意味を成さない。
「ま、死闘中の事故なんざよくあることだ。運がなかったと思って、諦めな」
自分は人質だから、自分を殺したらパピヨンやポップを敵に回すことになるから。
そう考えていた自分が馬鹿だった。
この男は、この志々雄真実という男は、
そんな『常識で考えられるような生き方』はしていない。
崩れ落ちるウソップを見て、キン肉マンは身震いした。
志々雄の枠に嵌らないほどの狂気。
彼が今まで戦ってきたどの超人たちよりも、異質。
冷酷、冷血、冷徹。どの悪魔超人をも凌駕する非道さ。
歴戦を戦い抜いた勇者であるキン肉マンでも、昔の、弱虫だった頃の感情を思い出さずにいられなかった。
――怖い、と。そう感じてしまった。
- 158 :キン肉マンVS志々雄真実 ◆kOZX7S8gY. :2006/10/06(金) 01:06:53 ID:aOZNUMIg0
- 「……飛刀、どうやらてめぇも、キン肉マンに絆されちまったみてぇだな」
――あ、あ、あ、ああ……
大変なことをしてしまった。
そう悔いるように涙を見せる飛刀に、志々雄は無情な言葉を浴びせた。
ウソップを、傷つけてしまった。
ウソップだけではない。
キン肉マンも、たけしも、剣心も、乾も、みんな、飛刀の刀身がやったことだ。
「まあいい。どんなに拒もうが、おまえは単なる俺の『獲物』だ。
どんなに泣き叫ぼうが、使い手に対する拒否権なんてものは存在しねぇのさ。
――ラーメンマンの時もそうだったようにな」
ああ、そうだ。
あの時も、自分は大変なことをしてしまった。
ラーメンマン……忘れていたはずのかつての持ち手を思い出し、飛刀はまた、涙を流した。
- 159 :キン肉マンVS志々雄真実 ◆kOZX7S8gY. :2006/10/06(金) 01:09:22 ID:aOZNUMIg0
- 【エキシビジョンマッチ〜ラーメンマンVS志々雄〜】
時は遡り、約半日前。
「私の、答えは……これだ!」
あの時、ラーメンマンは志々雄の誘いに対して拒否を示した。
正義超人として、悪である志々雄に徹底抗戦の意思を貫いたのだ。
「百戦百勝脚!」
歩み寄りながら、志々雄に蹴り技を仕掛けるラーメンマン。
しかし志々雄はそれを苦もなく避けて見せ、微笑を作った。
まるで、ラーメンマンがこの選択をすることを予期していたかのように。
「烈火太陽脚!」
「回転龍尾脚!!」
「飛翔龍尾脚!!!」
ラーメンマンはしきりに技を繰り出すが、そのどれもが志々雄にとっては児戯に等しかった。
数々の蹴りは掠りもせず、ラーメンマンの疲労は蓄積されるばかり。
――駄目だぁ旦那。どんどん技のキレが落ちてきちまってるよ。
「……分かっているさ飛刀。だが……!!」
ラーメンマンは、自分の力が衰えていることを承知の上で、尚も志々雄を攻め立てる。
何が彼をそうさせるのか。
もう理解している。
正義超人の持つ、信念だ。
- 160 :キン肉マンVS志々雄真実 ◆kOZX7S8gY. :2006/10/06(金) 01:10:13 ID:aOZNUMIg0
-
(例えここで力尽きようとも、きっと仲間の超人がこの男を倒してくれる。
だから――私は少しでも、この男を倒すために尽力するのみ!)
飛刀は、ラーメンマンを『馬鹿』だと思った。
知恵は兼ね備えているが、考え方が意固地すぎる。
ラーメンマンが信頼する友――キン肉マン、バッファローマン、ウォーズマンとは、それほどの男達なのか。
「――最後の勝負だ! いくぞ志々雄!!!」
「おもしれぇ。受けて立つぜラーメンマン」
ラーメンマンは最後の力を振り絞り、志々雄の背後に躍り出る。
そのまま股座に肩を差込み、両足を掴んで持ち上げ、跳んだ。
ラーメンマン最強のフェイバリット・ホールド『九龍城落地(ガウロンセンドロップ)』の体勢である。
――いけぇーーーー旦那!! このままいっちまえぇぇぇ!!!
「おうさ! 飛刀!!」
これが決まれば、ラーメンマンが勝利を掴む。
超人レスラーならともかく、ただの人間である志々雄にこの技を解くことは不可能。
絶対的な自信があった。ラーメンマンも、飛刀も。
しかし、ラーメンマンの高度が頂点にまで昇りつめたその瞬間、
「うっ」
ラーメンマンの身体が揺れた。
グラつき、体勢が崩れる。
(馬鹿な……私の限界は、もうここまで……)
- 161 :キン肉マンVS志々雄真実 ◆kOZX7S8gY. :2006/10/06(金) 01:10:57 ID:aOZNUMIg0
- 力尽きた。
趙公明戦のダメージを推してここまで来た利子が、今になって襲ってきたのだ。
地に落ちたラーメンマンは、その後一歩も動けなくなってしまった。
体力が切れたのも原因の一つだが、何よりもまず、体勢が崩れた際に受けたダメージが甚大だった。
志々雄が隠し持っていた、『衝撃貝』による攻撃。
ここぞというところで食らわされた衝撃に、ラーメンマンは成す術もなく崩れ去る。
「じゃあな、ラーメンマン。この刀は貰って行くぜ」
――旦那! 旦那!! 旦那ァァァァァ!!!
ラーメンマンと飛刀。
あまりにも残酷で、無情な別れの瞬間だった。
その後ラーメンマンはなんとか意識を取り戻し、最後の力を振り絞って友にメッセージを残した。
もしあの時、飛刀がもっと強く撤退を勧めていたら。
もっと分かりやすく、趙公明の危険性を説明していたら。
ラーメンマンは、死ななかったのだろうか。
- 162 :キン肉マンVS志々雄真実 ◆kOZX7S8gY. :2006/10/06(金) 01:11:58 ID:aOZNUMIg0
- 【ファイナルラウンド〜決着〜】
(無理だ……あんな残虐非道な悪魔に、わたしが勝てるわけがない)
――また泣き言か? キン肉マン。
(だって仕方がないだろう……あの男は私の親友だったラーメンマンを殺したほどの実力者なんだぞ)
――君はラーメンマンよりも強かったではないか。
(確かに、私はラーメンマンと戦い、勝利したことがある。だがあの男は別格だ……誰も、誰も勝てやしないんだ〜ッ)
――屁のツッパリはいらんですよ!
(……へ?)
――これはおまえの台詞だったろう、キン肉マン。
(お、おまえは…………ラーメンマン!)
血の臭い漂う汽車の中、倒れ落ちたキン肉マンは、友の幻影を見た。
強大な敵に立ち向かう自分を鼓舞しに来たのか。
それとも、情けない自分を叱咤しに来たのか。
どちらにせよ、合わせる顔がない。
キン肉マンはもう、立ち上がれない。
- 163 :キン肉マンVS志々雄真実 ◆kOZX7S8gY. :2006/10/06(金) 01:12:50 ID:aOZNUMIg0
- ――自力で立ち上がれないってんなら、俺達がいくらでも手を貸してやる。
(ば、バッファローマン……おまえまで…………)
キン肉マンの左手を、いつ現れたのか、バッファローマンが握っていた。
――我らはいつでも共にある。友がピンチなら、いつでも駆けつける。それが正義超人の友情というものだろう。
右手を、ラーメンマンが握る。
友情の握手(シェークハンド)で繋がれた三人の超人。
この絆があったから、ここまで来れた。
この絆がなかったら、ここまで来れなかった。
友情パワーがあるから、正義超人は強いんだ。
(立ち上がれ、キン肉マン! おまえの力はまだこんなものじゃないだろう!!)
(私が成し遂げられなかった悲願を、叶えてくれキン肉マン!!)
「――おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
キン肉マンが、燃え上がった。
- 164 :キン肉マンVS志々雄真実 ◆kOZX7S8gY. :2006/10/06(金) 01:14:04 ID:aOZNUMIg0
-
その瞬間、飛刀は三つの幻影を見た。
一つは、立ち上がったキン肉マンを囲うように燃え広がった、炎の幻影。
一つは、キン肉マンの左手を握る牛角の巨人の幻影。
そしてもう一つは、
――…………嘘だろ
見慣れた、懐かしい、
――旦那……旦那ァ……
額に『中』の一文字を記す、拳法着の超人、
ラーメンマンの幻影が、キン肉マンの右手を掴んでこちらを見ていた。
おそらく、それを見たのは飛刀だけだったろう。
志々雄は、尚も交戦の意思を示してくるキン肉マンに「ふん」と鼻を鳴らし、再び飛刀を構えて迎撃に出るだけだった。
「志々雄……わたしはもう逃げはしない。今度こそ、貴様を倒す」
沸騰しているような熱気を帯びるキン肉マンは、さっきとはまるで別人のようだった。
これが、ラーメンマンが信頼し、後を託した『友』。
――(ああ、これなんだな。正義超人の『友情』ってのは……)
- 165 :キン肉マンVS志々雄真実 ◆kOZX7S8gY. :2006/10/06(金) 01:15:15 ID:aOZNUMIg0
- 「うおおおおおおおおおお!!」
気合一声、キン肉マンが突っ込んだ。
もう幾度となく繰り返されているパターンに飽き飽きしつつも、志々雄は片手平刺突の体勢に移る。
飛刀に拒否の兆候は見られない。とうとう諦めたか。
何にせよ、今度こそこれで片がつく。
今までで最高の速度を乗せた剣を突き出し、一直線にキン肉マンを襲う。
「肉のカーテン!!」
「――ッ!?」
突き出された飛刀は、キン肉マンの両腕によって挟まれた。
分厚い筋肉の着いた両腕による、真剣白刃取りである。
(なっ……!? う、動かねぇ……)
切っ先がキン肉マンの身体に触れるより前に剣撃を止められてしまったため、志々雄の攻撃は不発に終わった。
それどころか武器を取られ、硬直状態へと誘われる結果に。
志々雄は、肉のカーテンからなんとか飛刀を抜き取ろうとするが、キン肉マンの怪力がそうはさせない。
元より、戦うために神から超パワーを授かった超人と、ただの人間では強度が違いすぎる。
「火事場の……」
肉のカーテンによる挟み込みが、いっそう強固になった。
捕らわれた獲物、飛刀の刀身を捻じ曲げるのではないかと思うほどの圧力。
だが、そんなものは関係ない。
――やっちまえーーーー! キン肉マーーーーン!!
飛刀にとっては、ただただ『ラーメンマンの友達』が志々雄を圧倒してくれていることが嬉しかった。
- 166 :キン肉マンVS志々雄真実 ◆kOZX7S8gY. :2006/10/06(金) 01:16:54 ID:aOZNUMIg0
- 「……クソ力ーーーー!!」
キン肉マンが豪快に叫び、挟み込んだ飛刀をそのままの形で投げ飛ばしてしまった。
天井をぶつかり地にバウンドし、車内の明後日の方向まで飛ばされた飛刀を見て、志々雄は初めて劣勢を感じた。
飛刀を握っていた手が痛む。獲物を無理やり引き剥がすほどのこのパワー。
本来の志々雄なら、単なる怪力相手に畏怖を示したりはしない。
この時劣勢を感じたのは、このキン肉マンという男に、パワー以上の『凄み』を感じたからだった。
「バッファローマン! わたしに力を貸してくれぇーーー!!」
獲物を失い隙の出来た志々雄に、キン肉マンがここ一番で勝負をかける。
左腕を大きく振りかぶり、志々雄の顔面目掛けて振るう。
激厚の筋肉によるラリアットは、まるで大木をそのまま振るわれたようで。
「がっ……!!」
威力に耐え切れず、汽車の遥か後方まで飛んでいく志々雄。
キン肉マンはそれを逃すまいと、執拗に攻め立てる。
「そりゃあ〜! マウントパンチ!!」
倒れた志々雄に覆いかぶさり、身体をガッチリとホールド。
身動きが取れなくなったところを、上から一方的に殴りつける。
攻撃を受けている、というだけでも屈辱的なものを、さらにはこの体勢。
志々雄の怒りは頂点に達し、その怒りが超人にも匹敵するパワーを生み出した。
「調子に……乗ってんじゃねぇ!」
唯一フリーになっていた両腕を動かし、キン肉マンの拳撃の間を縫って、目潰しを食らわせてやった。
「ウギャァアアアアァ!!! め、目が〜」
- 167 :キン肉マンVS志々雄真実 ◆kOZX7S8gY. :2006/10/06(金) 01:19:34 ID:aOZNUMIg0
- 浅かったものの、効果は抜群だった。
本来なら相手が怯んだこの瞬間に攻守を逆転させたいところだが、生憎今はそんな余裕はない。
仕方なくキン肉マンから目線を外し、志々雄は一路後方、汽車の最後部目指して走り出した。
東へ進む列車を、逆送する形で西に逃げる志々雄。
キン肉マンもすぐにそれを追うが、足の速度では志々雄に若干の分があった。
やがて、最後部車両まで到達した志々雄は、そこで足を止めた。
飛刀を失った今、頼れる武器は諸刃の効果を持つ宝貝『青雲剣』のみ。
戦況の悪さは誰が見ても明白だった。
懐から純白に輝く羽を取り出し、見つめる。
緊急脱出用に残しておいた、『キメラの翼』。
これを使えば、汽車内からの撤退も容易だろう。
どうする――逃げるか――戦うか――
(逃げる?)
考えてから、違和感を感じた。
逃走、撤退、退却、どう言葉を組み替えても、戦闘中の離脱には違いない。
分が悪いから逃げる。戦略的なことだ。ここで無理をする必要はない。利口な人間なら、これを使うことを選ぶ。
(――――あばよ、キン肉マン)
思考を止め、志々雄がキメラの翼を放り投げようと、
「――待てぇぇ!! 逃げるつもりか志々雄ぉぉぉ!!!」
した時だった。
- 168 :キン肉マンVS志々雄真実 ◆kOZX7S8gY. :2006/10/06(金) 01:20:11 ID:aOZNUMIg0
- (逃げる……ねぇ)
キン肉マンの声が耳に響き、思いとどまった。
戦って、劣勢になってきたから逃げる。
これは本当に、戦略的撤退と呼べるのだろうか。
違う。これは違う。これでは単なる――
「志々雄ぉ!」
――弱者の取る行為ではないか。
志々雄が突っ立つ最後部車両に、キン肉マンが追いついた。
息を切らしながら、志々雄と対面する。
共に満身創痍といった状態の両者。一瞬の硬直が生まれた。
キン肉マンの瞳を眺めながら、志々雄は再度考える。
その上で、質問をしてみる。
「……なぁ、キン肉マン。おまえは、何があっても絶対に貫くっていう『信念』を何か持ってるか?」
「な、なに?」
突然の質問に、頭を捻るキン肉マン。
一体どのような意味を込めているのだろうか。
「な、なんじゃい信念って」
「なんでもいい。てめぇが絶対に信じて疑わない事柄ってやつさ」
- 169 :キン肉マンVS志々雄真実 ◆kOZX7S8gY. :2006/10/06(金) 01:21:50 ID:aOZNUMIg0
- 「し、信じて疑わないもの……それなら友情だァ! 正義超人の友情は、何者にも劣らない絶対的なもの! この友情があるから、わたしはここまで来れたんだ!」
――そうだ。今まで経験してきた数々の戦いを思い出せ。
超人オリンピック、超人タッグトーナメント、キン肉星王位争奪サバイバル・マッチ、どれも仲間の超人達との友情があったから勝利できた戦いだ。
この志々雄戦も、バッファローマンとラーメンマンが支えてくれた。
だからこそ、絶対に勝たなければならない。
「そうかい。なら、今度は俺の信念ってやつを教えてやるよ」
志々雄は、握り締めたキメラの翼をその場に捨て、代わりに一本の刀を取り出した。
「俺の信念は、『弱肉強食』。弱き者は死に、強き者が生き残る。俺が目指したのは――そんな国だ」
志々雄の瞳に、消えかけていた炎が蘇ってくるようだった。
信じれば裏切られる。油断すれば殺される。殺される前に殺れ。
彼が掲げる信念、『弱肉強食』が、キメラの翼による逃走を許さない。
もしここで負けて死ぬというのなら――それは、志々雄がキン肉マンより弱かっただけのこと。
あれだけ政府を弱いと貶し、人斬りをやめた先輩に失望した自分が――こんな甘ちゃんに負けるわけにはいかない。
「最後の決着といこうぜ、キン肉マン」
「おう! 望むところだ!!!」
ぽっぽ〜、と丁度よく汽笛が鳴った。
名古屋駅はもう間もなくだろうか。
どちらにせよ、決着は、もうすぐ着く。
- 170 :キン肉マンVS志々雄真実 ◆kOZX7S8gY. :2006/10/06(金) 01:23:30 ID:aOZNUMIg0
-
「「勝負!」」
両者、一斉に飛び出した。
志々雄は依然、平刺突の構え。
だが前回までのような待ちの体勢ではなく、自ら踏み込んでの超速の太刀。
対してキン肉マンは、何も考えがないのか、肩からぶつかるただのタックル。
勝負の行く末は見え見えのようにも思えたが、その突進力だけは目を見張るものがあった。
志々雄の剣が、一足先にキン肉マンの身体に到達した。
青雲剣の効果も相成って、突きは三重の太刀筋を見せ、まるで螺旋の如く渦巻いて貫く。
さながらドリルを思わせるような剣撃も、相手がタックルのために姿勢を低くしていたからだろうか、急所を外れ、右肩に命中した。
(と、とまらねぇ――!?)
渾身の一撃も、キン肉マンの分厚い筋肉に阻まれ、決定打を与えられていない。
それどころか、右肩に突き刺さった剣は埋もれたようにビクともしなくなり、志々雄の連撃を困難にさせた。
そして、今度はキン肉マンの番――
志々雄が平刺突を放った際の猛進力に逆らうことなく、敵の頭を左腕で捕獲。
同時に頭を敵の左肩下に潜り込ませ、右腕は敵を持ち上げるための支えとして用意。
両腕の絡みを強固にし、大地の巨木を引き抜く心構えで、敵の身体を高く差し上げる。
そして両内腿を押さえ、身体の自由を奪ってしまう。
- 171 :キン肉マンVS志々雄真実 ◆kOZX7S8gY. :2006/10/06(金) 01:24:36 ID:aOZNUMIg0
- ――準備は整った。が、ここでは狭い。
キン肉マンは志々雄を逆さに抱え上げたまま、再びダッシュ。
目指す先は、列車最後部。
「うおりゃあああああああああああああ!!!」
しかし、ここは既に最後部車両。
これより後ろに待っているものといえば、車内よりもって狭いデッキと――外界。
(こいつ――まさかぁ!?)
最後部車両を越え、デッキを越え、外へ、跳んだ。
志々雄を抱えたまま、汽車のスピードに逆らった逆走体勢から。
敵を抱え上げた状態から高く舞い上がり、稲妻の如き勢いで地に叩きつければ、
首、背骨、腰骨、左右の大腿骨の五箇所が粉砕される。
これぞキン肉族48の殺人技の一つ、五所蹂躙絡み。
「喰らえ志々雄ォォォォォーーー!!!」
またの名を……
「 キ ン 肉 バ ス タ ー !!! 」
- 172 :キン肉マンVS志々雄真実 ◆kOZX7S8gY. :2006/10/06(金) 01:25:44 ID:aOZNUMIg0
-
キン肉マンが見たのは、歪み拉げた、レールの敷かれた大地。
志々雄が見たのは、どこまでも青い青い、空。
「………………ぐはっ!!」
激走する汽車から飛び降り、そのまま直接地に叩きつけた、決死のキン肉バスター。
その衝撃といえば、いくら名うての超人であっても耐えることはできない。
キン肉マンのホールドが解かれ、志々雄の身体が崩れ落ちる。
意識は……既になかった。
「やった……やったぞ……」
満身創痍のキン肉マンの身体が、プルプルと震える。
歓喜に震えているのだ。志々雄を、友の仇を倒したという確かな充実感に、身を震わせずにはいられなかった。
「勝ったんだ……わたしは、ラーメンマンやたけしを殺した志々雄に、勝ったんだぁ〜〜〜ッ!!!」
号泣し、キン肉マンはその場で咆哮を上げた。
雨がまだ降っていたが、もはやそんなものは関係ない。
今はただ、勝利が嬉しくて。
「やった! やった! やっグホッゲホゲホッ!?」
喜びのあまり小躍りしていたキン肉マンだったが、急にむせ返り、吐血してその場に倒れこんでしまった。
「う〜む、さすがに汽車から飛び降りてのキン肉バスターは無理があったか……下は砂利道だし、せめてマットだったらなぁ」
- 173 :キン肉マンVS志々雄真実 ◆kOZX7S8gY. :2006/10/06(金) 01:26:16 ID:aOZNUMIg0
- 決死で放ったキン肉バスターは、自らにもダメージを及ぼすほどの凄まじいものだった。
それに加え、技をかける際に受けた志々雄の突きによるダメージも大きい。
右肩には抉られたような風穴が開き、出血は甚大。
生きている方が不思議なくらいの、大ダメージだった。
「グムー。すぐにでも列車を追いたいが……これじゃあ動くこともかなわん。ていうか、なんだか眠くなってきたわい……」
キン肉マンがその場で力尽き、瞼を閉じかけた一方。
その姿を見つめる視線は、確かに見開いていた。
(時間は……どれくらい経過した? 14分……いや、もう15分経つか。……関係ねぇ。ここまできたら、もう)
意識は――まだある。
腕は――関節が痛むが、まだ動かせる。
脚は――やはり関節が痛むが、まだ動かせる。
まだだ。
まだ。まだ。まだ。まだ。まだ。まだ――
まだ。まだ。まだ。まだ。まだ。まだ――
まだ。まだ。まだ。まだ。まだ。まだ――
執念が、志々雄真実を呼び起こす。
- 174 :キン肉マンVS志々雄真実 ◆kOZX7S8gY. :2006/10/06(金) 01:27:14 ID:aOZNUMIg0
- 【ファイナルラウンド2〜『友情』と『弱肉強食』〜】
目の錯覚か――違う。
背後に聳え立つ狂気、熱気、殺気は、どれも本物。
本物の、志々雄真実のもの。
「あわわ……」
キン肉マンはその姿に怯えつつも、再び戦意を奮い立たせようとした。
だが無理だ。当に限界は超えている。
この男とて――限界は超えているはずなのに。
「な、に、を、驚、い、て、や、が、る」
そこに立つのは、炎の魔人。
全身を炎に焼かれ、その上で尚も君臨する、人型の化け物だった。
志々雄真実という男は、過去に全身を油で焼かれながらも、地獄の渕から生還した実績を持っている。
その時の後遺症として、戦闘活動時間が十五分――即ち限界を超えると、体温が臨界点まで上昇。
血液を蒸発し尽くす程の高熱を帯び、結果、人体発火を引き起こす。
この男、自身の人体発火を利用したのだ。
雨をものともしない大火災にまで進展した炎を纏い、志々雄は正に、業火の化身となった。
かといって、炎など鎧のように気軽に纏えるものではない。
今の志々雄の状態は、灼熱のマグマに全身を浸しているようなもの。
そんな状態で何故立っていられるのか。キン肉マンに剣気を向けられているのか。
理由は、なんだというのか。
- 175 :キン肉マンVS志々雄真実 ◆kOZX7S8gY. :2006/10/06(金) 01:28:15 ID:aOZNUMIg0
-
「志々雄……おまえは、わたしが今まで戦ってきた悪魔将軍やネプチューンマン、
スーパーフェニックスなどの強豪超人に勝るとも劣らない素晴らしい実力者だったよ。とても人間とは思えん」
「そ、い、つ、は、光、栄、だ」
執念? 根性? 意地? ――どんな言葉でも説明がつかない。
一度、いや二度、地獄を味わったことのある志々雄だからこそ、この業火の中でも君臨していられるのかもしれない。
「これが本当の本当の本当に最後になる。もうほとんど力なんて残っちゃいないが……わたしは手を抜かんぞ」
「あ、た、り、ま、え、だ」
ファイティングポーズを取って見せるが、自分の巨体を覆い尽くすほどの猛炎に、キン肉マンはほぼ立ち尽くした状態だった。
しかし志々雄は、剣を振るう。
業火の中で、
灼熱を帯びた刃で、
青雲剣の効果を含めた、
三乗の太刀で、
最後の秘剣を。
「死、ね」
―― 終 の 秘 剣 火 産 霊 神 ――
- 176 :キン肉マンVS志々雄真実 ◆kOZX7S8gY. :2006/10/06(金) 01:29:27 ID:aOZNUMIg0
-
――半壊した線路の脇、残されたのは、原型も分からぬほどに燃え上がった二つの焼死体。
その最後を見た者は誰もいない。その二人の勝負を見届けた者は誰もいない。
一時、地獄の業火がこの大地に召喚されたことを知る者は、誰も――
- 177 :キン肉マンVS志々雄真実 ◆kOZX7S8gY. :2006/10/06(金) 01:30:29 ID:aOZNUMIg0
- 【エピローグ1〜大嘘つきは最後に虚勢を張る〜】
キン肉マンと志々雄の決着が着いたほぼ同時刻。
名古屋へ向かう汽車内では、取り残された死に掛けの一人と一本の刀が、お互いを呼び合っていた。
「なあ、おまえ……飛刀って言ったか? あいつらは……キン肉マンと志々雄は、どこ行ったんだ?」
――わかんねぇ。後ろの方へ走って行ったきり、帰ってこねぇ。
「そっか。キン肉マン……勝ったかな?」
――当たり前さ! キン肉マンは、ラーメンの旦那があれだけ信頼していた『親友』だ! きっともうすぐ戻ってきて、あんたを治療してくれるさ!
「治療、ね……あのおっさんにそんな器用な真似できるとも思えねぇけど……そう信じたいぜ」
床に仰向けになって倒れるウソップの胸からは、大量の出血が確認できた。
他でもない、志々雄が飛刀を振るってできた傷が原因だ。
「痛ぇんだよなぁこれ……めっちゃくちゃ痛ぇんだよ」
――見りゃ分かるさ。
「つーか、死にそうなんだけど」
――それも、見りゃ分かる。
「じゃあ、助けてくれよ」
――そりゃ無理だ。刀に傷の治療なんてできねぇよ。
いつしか、ウソップは泣いていた。
悲しみや悔しさから来るものではない。
純粋に、『痛み』から来る涙だった。
「いてぇ……いてぇよぉ……」
――……
- 178 :キン肉マンVS志々雄真実 ◆kOZX7S8gY. :2006/10/06(金) 01:31:33 ID:aOZNUMIg0
- この時ウソップは、心から願った。
死にたくない。まだ死にたくない。この痛みから救ってくれるなら、なんでもする。
神様でも仏様でもパンツ一丁のレスラーでも包帯男でも喋る刀でもなんでもいいです。
頼むから、助けてください。死にたくないんです。お願いします。おでがいぢまずがらぁ……。
「死にたくねぇよぉ……チクショー! 死にたくでぇー!! じにだぐでべんだびょぉぉぉ!!!」
どこで何を間違えたんだ。
自分は、勇気を出して仲間を救おうとしただけなのに。
実力不相応のことをしたのがいけなかったのか、自業自得なのか。
ルフィならもっとうまくやれたのに。ゾロなら、ナミならサンジならチョッパーならロビンなら。
なんで、なんで自分だけこんな。
――ウソップの旦那……。
ウソップの悲痛な雄叫びに、飛刀は何も言えなかった。
彼を傷つけたのは志々雄だとしても、その傷を作ったのは自分自身だ。
今も飛刀の刀身には、べったりとウソップの血がこびりついている。
罪の意識に苛まれながらも、単なる刀に過ぎない飛刀は、ウソップに何もしてやることが出来ない。
精々励ましの言葉を送ってやれるくらい。そんなもの、気休めにもならないのに。
「ぎげぇぇぇ!! 飛刀ぉぉぉ!!!」
――!!
悲しみと後悔にくれる飛刀の前で、ウソップが突然奇声を上げた。
「俺の……偉大なる海賊、キャプテン・ウソップの最後の言葉だ! しかと聞いて、後世に伝えろォォォ!!!」
――…………ああ!
ウソップの意思に、飛刀はすぐ同調した。
- 179 :キン肉マンVS志々雄真実 ◆kOZX7S8gY. :2006/10/06(金) 01:32:21 ID:aOZNUMIg0
-
「キャプテン・ウソップの生き様は、最後まで立派だった!」
――キャプテン・ウソップの生き様は、最後まで立派だった!
「キャプテン・ウソップの死に様は、海の男らしい晴れ晴れした最後だった!」
――キャプテン・ウソップの死に様は、海の男らしい晴れ晴れした最後だった!
「偉大なる英雄にして世界の海を制した大海賊……キャプテン・ウソップは!」
――偉大なる英雄にして世界の海を制した大海賊……キャプテン・ウソップは!
外を流れる雨音にも、レールを走る激走音にも負けず、飛刀はウソップの言葉を復唱していく。
「 サイコーの、仲間思いだァァァァァゴハッッ!!? 」
――サイコーの、仲間思……ウソップぅぅぅうっぅぅうぅぅぅぅぅぅうぅ!!!
派手に吐血し、ウソップはそこで力尽きた。
瞳から色気が消え、顔面が蒼白になっていく。
これが、男の死に様。
これが、ウソップという偉大なる海賊の死に様。
飛刀は決して視線を逸らさず、この男が最後を迎えるその時まで。
――うっ、うっ、ぐぅ〜〜〜〜〜〜っぐ、じょぉおおおっぉぉぉ〜〜〜〜…………
泣きながら、見届けた。
- 180 :キン肉マンVS志々雄真実 ◆kOZX7S8gY. :2006/10/06(金) 01:33:15 ID:aOZNUMIg0
- 【エピローグ2〜さぁ行こう、みんなが待ってるあそこまで〜】
「グムー。志々雄の奴め、最後の最後であんな大技を放ってくるとは……」
どことも知らない空の上を浮遊しながら、キン肉マンはしきりに唸っていた。
ふよふよと、実態のない状態で浮くその様は、まるで幽霊のようで。
実際、つい先ほど死んでしまったわけだから、『ようで』とは言えないわけだが。
それにしても、最後に受けた志々雄のあの技は、どの超人のフェイバリット・ホールドにも劣らない、素晴らしいものだった。
まさか人体発火をで巻き起こった炎を利用し、それを剣に纏わせて放つとは。
あの技の前にやられたというのであれば、ファイターとしても本望に思えた。
「だが勝敗はダブルノックアウト。引き分けじゃい。わたしは別に負けたわけじゃないからなぁ〜、向こうに行っても文句言うなよラーメンマン」
自分が死んだことよりもまず、志々雄相手に素晴らしいファイトができたことが、清々しかった。
最初は、ラーメンマンやたけしを殺された恨みしか持っていなかったのに、今は不思議と晴れやかだ。
できることならもう一度、今度はリングの上で戦いたい。そう思えるほどに。
「おーい、待ってくれキン肉マーン」
「ん?」
呼ばれたので振り向いてみると、後ろからふよふよと漂う霊体が一つ。
まーた誰か死んだのか、とキン肉マンが足を止めた次の瞬間、その顔を見て仰天した。
「ゲェー! ウォ、ウォーズマン!?」
「よう。久しぶりだなキン肉マン」
半透明に見える霊体ながらも、重厚感の漂う黒のメタリックボディを持つあの肉体は、紛れもない正義超人のウォーズマンだった。
「お、おまえまで死んでしまったのか!?」
「ああ、たった今な」
- 181 :キン肉マンVS志々雄真実 ◆kOZX7S8gY. :2006/10/06(金) 01:33:57 ID:aOZNUMIg0
- 「アホー! おまえまで死んでしまっては、あのゲーム内に正義超人が誰もいなくなってしまうではないか!」
「ああ、確かに正義超人は全滅してしまった。だが、心配はないさ」
「な、なぁにぃ?」
フフフと微笑むウォーズマンを、キン肉マンは訝しげに睨む。
正義超人がいなくなっては、誰が人間達を守るというのか。
志々雄を倒したとはいえ、あのゲーム内にはまだまだ凶悪な殺人者達が――
「あのゲームに参加している人間達は、みんな強い心を持った奴らばかりだ。
俺たち正義超人が手を貸さなくても、きっと無事に生還してくれる。
中にはDIOのような頭の回る悪もいるが……奴はきっとケンシロウが倒すだろう」
自身ありげにウォーズマン・スマイルを浮かべる。
「でぃお? けんしろう? 誰のこと じゃそりゃ?」
「向こうに 着いたら話すさ キン肉マン 俺のやってきた 罪も 全部含めて」
二人の超人の身体が、どんどん薄くなっていく。
死んだ超人達は超人墓場に送られるというが、この二人が行き着く先もそうなのだろうか。
「 罪って 何やらかしたんじゃ おまえ 」
「 それは 向こうに ついてから 話す さ」
白く霞んでいく空に、晴天を見たような気がした。もうすぐ雨が晴れるのだろう。
道中ぶらり、今だけは使命も忘れて、気長に進む。
先に逝った二人の待つあの場所まで、超人同士、友達同士の雑談は続く――
- 182 :キン肉マンVS志々雄真実 ◆kOZX7S8gY. :2006/10/06(金) 01:35:44 ID:aOZNUMIg0
- 【エピローグ3〜志々雄真実という男〜】
蔓延る暗黒の空気、六月の湿気も寄せ付けぬ陰湿な空間、そこに詰まれた骸の山。
志々雄真実は、その頂上で目を覚ました。
「お目覚めですかな、志々雄様?」
「……………………方治か」
長い眠りから覚めた彼を出迎えたのは、数万にも及ぶ死者の軍勢。
十本刀、“百識”の方治を筆頭に、、同じく十本刀“盲剣”の宇水、
そして、志々雄の夜伽役であり愛人でもある駒形由美。
『友情』などというちっぽけな感情では括れない、志々雄真実の信頼できる仲間達である。
「随分長い間お眠りになっていたようですが、夢でも見ていらっしゃったのですか?」
「夢、ね…………そうだな。とても長い……夢を見ていた気がするぜ」
骸の山を降り、軍勢の中心に踊り出る志々雄。
全員の視線は志々雄に向き、隣には由美、背後には方治と宇水が付き従う。
「ねぇ志々雄様。そろそろ再会しましょうよ、『地獄の国盗り』」
「ああ……そうだな。もう、夢は覚めた。ここからが、俺の世界だ」
志々雄が歩を進めれば、由美が、方治が、宇水が、大勢の配下が後を辿る。
その先に何が待っていようとも。
その先に真の地獄が待ち構えていようとも。
突き進む。
それが、志々雄真実。
- 183 :キン肉マンVS志々雄真実 ◆kOZX7S8gY. :2006/10/06(金) 01:36:52 ID:aOZNUMIg0
-
「さぁ、次は閻魔の首を取りに行くぞ! 『地獄の国盗り』は、こっからが本番だ!」
泡沫の夢から覚め、彼は地獄で活動を再会する。
――大阪を出て、名古屋に向かう汽車の中で起きた、ちょっとした情事。
――そんなちっぽけなエピソードも、この世界の掛け替えのない一部。
――何が起ころうと、汽車は平穏に走り続ける。
――本日の運行、滞りなく。
【キン肉スグル@キン肉マン 死亡確認】
【志々雄真実@るろうに剣心 死亡確認】
【ウソップ@ワンピース 死亡確認】
【残り32人】
※ウソップの死体は名古屋行きの上り列車の中、キン肉マンと志々雄の焼死体は愛知県最西端の線路沿いに放置。
※ウソップの荷物一式(スナイパーライフル残弾16→15発)、飛刀@封神演義、キメラの翼@ダイの大冒険、は列車内に放置。
※キン肉マン、志々雄の荷物一式は炎により消滅。
青雲剣、衝撃貝、コルトローマンMKV、ゴールドフェザー、シルバーフェザー、鉛星、は辛うじて原型を留めていますが、どれも焼け焦げてしまっています。
※キン肉バスターの衝撃により、愛知県最西端の線路が一部破損されました。脱線の恐れがあります。
- 184 :作者の都合により名無しです:2006/10/06(金) 01:36:57 ID:gwm8+JxC0
- 支援
- 185 :後編・七龍珠 修正3 ◆xJowo/pURw :2006/10/07(土) 09:30:57 ID:MtCsemSR0
- 時間が間違っていたので修正します。
1スレ目1行目 時は午前、10時前。→時は午前、9時前。
3スレ目4行目、各人状態表の12時→10時
修正お願いします。何度もすみません。
- 186 :善でも、悪でも、 ◆bV1oL9nkXc :2006/10/09(月) 21:18:18 ID:Z76GGt1t0
- 草木が鬱蒼と生い茂る森の中、行く手を阻む枝葉を薙ぎ払いながら五人の人間が道なき道を進んでいた。
一時は覗いた晴れ間も今は消え去り、天は森にザァザァとシャワーを浴びせている。
ぬかるんだ地面や濡れて脆くなった古木を踏み締めて、南――四国へと向かうのは勇者達の一行。
先行するのは毛むくじゃらで眉が繋がった男と、黒剣を構えた少年。
歪んだ鉄の塊を抱えた金髪の女性と、鉄パイプを杖代わりにしている少女がその後に続く。
殿を務めているのは青銅色の鎧を着込んだ少年。
周囲を警戒するその目つきは鋭く、何者も寄せ付けないほどの威圧感を放っている。
五人は、降りしきる雨を森を進むことでやり過ごしながら、一歩一歩前へ前へと進んで行く。
時折、彼らの頭や肩に、森のカーテンが防ぎきれなかった雨露が落ち、その身体に雨の匂いを染み込ませていった。
「きゃ……!?」
金髪の女性が泥に足を取られ、本日何度目かの転倒をした。
隣を歩いていた少女が咄嗟に女性の身体を支え、その身体を起き上がらせる。
「あ、ありがとう。まもりちゃん」
「いえ、それより怪我はないですか?」
優しく笑いかけるまもりと、それに笑顔で応える麗子。
数時間前まであった余所余所しい雰囲気も、今では微塵もなかった。
麗子の転倒に気付いた両津が後ろを振り返り、軽い調子でからかう。
「おいおい麗子。現役警官のお前がまもりに助けられてどうする……っと」
振り返った拍子にバランスを崩し、よろける両津。
ダイが慌てて補助に入る。
「両津さん、大丈夫!?」
「あ、ああ。 すまんな、ダイ」
- 187 :善でも、悪でも、 ◆bV1oL9nkXc :2006/10/09(月) 21:19:01 ID:Z76GGt1t0
- 極限状態での長時間移動。しかも不眠での行軍。
何日もの徹夜が可能な両津でも、疲労は堆く積もっていた。
睡眠不足で判断が鈍り、思考能力が低下している。
このままではマズい。両津はそう思い始めていた。
せめて第五放送前の休憩時にもっと寝ていれば……
しかし、あの時は太公望が遺した情報やまもりの処遇などでバタバタしていたし……
そういえば、まだまもりに沖縄のことをしっかりと話していなかったな。
重要なことだし、一度話しておくべきだろう。
万が一、まもりがゲームに乗っているのだとしても特に害はないだろうし、
逆に、具体的な脱出の指針を示すことで心変わりをしてくれるかもしれない。
そうとなれば、落ち着いて話せる機会が必要だが――
その時ふと、麗子の様子がおかしいことに気付く。
何か気になることがあるようで、後ろをチラチラと伺っている。
歩くスピードを落としてさりげなく促してみると、
麗子は殿を務める星矢に詰め寄り、心配そうに声をかけた。
「星矢ちゃん、無理してない? 息が荒いわよ?」
その言葉に皆の視線が星矢に集中するが、
星矢はあくまで強気の態度を崩さなかった。
「聖闘士がこれしきのことでへばるわけにはいかないぜ!」
しかしその息遣いは荒く、藍染との戦闘での疲労は相当なものと思われた。
おそらく、本来の星矢ならこの程度の疲労などすぐに回復するのだろう。
だが、主催者達による制限下、本来の実力が存分に発揮できるわけではない。
いつも通りにに戦っていては自滅してしまう。
どこかでブレーキが必要だ。
- 188 :善でも、悪でも、 ◆bV1oL9nkXc :2006/10/09(月) 21:20:05 ID:Z76GGt1t0
- それでも流石は聖闘士、と言ったところか。
今でも十分戦えるように見えるし、気力も十分。
麗子には悪いが、星矢への心配は杞憂だろう。
(キルアを死なせてしまい、越前少年を一人で行かせてしまった負い目があるから、気持ちはわからなくはないがな)
念には念を入れて、星矢を休ませても損はないのだが――
さて、どうするか。
睡眠不足の解消。雨天行軍の回避。念のための星矢の疲労回復。全てを解決する手段は唯一つ。
濡れてしまった衣服を乾かすこともできるし、一旦どこかで休憩を挟むべきだろうか。
しかし、これ以上四国行きを遅らせることは避けたい。
鵺野先生や乾、公主やターちゃんを殺した犯人がまだいるかもしれないのだ。
愚図愚図していたら完全に逃がしてしまう。
だとすれば、多少の無理をしてでも四国に向かうべき――
「あの、ちょっといいですか?」
その時、まもりが口を開いた。
「そういうことなら、どこか落ち着いた所で休みませんか?
これからのことも、皆で一度話し合っておく必要があると思います。
それに、実は私も越前リョーマさんのことでお教えしたいことがあるんです」
「リョーマちゃんの!? でも、前聞いたときは知らないって……」
「ごめんなさい。あの時は、まだ皆のことを信用しきれていなくて……」
出会ってすぐ、麗子はまもりに、リョーマについて何か知らないか尋ねていた。
そのときのまもりの答えは「知らない」。
それからずっと一緒に行動してきたのだから、そのとき既に、まもりはリョーマの情報を持っていたということになる。
麗子にとって、思うところがないわけでは、ない。
もし、もっと早く情報を公開してくれていれば、リョーマを見つけることができたかもしれないのだ。
- 189 :善でも、悪でも、 ◆bV1oL9nkXc :2006/10/09(月) 21:20:55 ID:Z76GGt1t0
- だが、文句など言える筈もない。
まもりは、この世界で初めて出会った人に見捨てられ、心を閉ざしてしまっていたのだから。
傷ついた心を救うのも警官の仕事である。
そして、更にもう一つ。
私は、いや、私達は彼女に重要な情報を隠している。
ハトが運んできてくれた、『沖縄』の情報。
今まで私達は、まもりを完全に仲間外れにしてきた。
これからは、それでは駄目なのだ。
もう、隠し事はなしにしよう。
私達は、本当の仲間になったのだから。
「そう……。 でも、こちらこそごめんなさい。実は、私達もまもりちゃんに話していないことがあるの」
「本当ですか?」
「うん。とっても大事なことだから、まもりちゃんにも話しておかないとね。
両ちゃん、どこかで休憩しましょ。こんな森の中じゃゆっくり話し合いもできないわよ」
「……でも麗子さん」
その提案に星矢が不満そうな声を出す。
弱者を守るために少しでも行動したい。星矢はそう思っていた。
歩みを止めてしまったら、その分だけ犠牲者が増えることになるからだ。
しかし、麗子は星矢の文句に一切取り合わず、逆に星矢を窘め始めた。
「星矢ちゃんも! 疲れたんなら休息をとって大事に備えなきゃ!」
「だから俺はこれくらい……」
「さあさあ、どこか休めそうな民家を捜しましょう!」
「ちょ、ちょっと麗子さん!」
まもりと星矢の手をとり、先頭に立って歩き出す麗子。
始めは星矢も抵抗しようとしていたが、やがて諦め、渋々麗子の後についていった。
- 190 :善でも、悪でも、 ◆bV1oL9nkXc :2006/10/09(月) 21:27:30 ID:Z76GGt1t0
- (やれやれ)
両津は嘆息する。
どうやら休憩する流れになってしまったようだ。
ふと、横にいるダイを見ると、ダイは歯を食いしばり、何かに耐えるような表情をしている。
何かに焦っているような、誰かに対して怒っているような、そんな表情。
藍染を倒した直後だというのに、この表情は一体。
考える間もなく、両津は気付いた。 ――まだ、何も終わっていないことに。
(四国で鵺野先生達を殺したやつは、まだのうのうと生き残っている可能性がある)
そう思うと同時、激しい怒りが心の中に沸き起こる。
両津はダイの心を察した。
現在のメンバーの中ではおそらく両津だけができること。
四国で死んだ者を知る、ダイと両津だけに共通した感情。
「……ダイ。気持ちはわかるがここは辛抱してくれ」
「わかってるよ。……でも」
「どちらにせよ、体力を削られる雨中での行動は推奨できん。雨が上がったら即座に四国に入ろう」
「うん……わかった」
それでもダイの表情は晴れない。
両津は溜息を一つ吐くと、先を行く麗子に向かって大声をかけた。
「おい麗子! せめて大鳴門橋の手前まで行くぞ! 橋を通る人間を監視できる場所で休憩だ!」
そう言った後、両津はダイを一度振り返り、麗子達を追って早足で進む。
ダイは両津の心遣いに感謝しつつ、死んでしまった二人の仲間に思いを馳せた。
- 191 :善でも、悪でも、 ◆bV1oL9nkXc :2006/10/09(月) 21:28:40 ID:Z76GGt1t0
- (公主さん、ターちゃん、ゴメン。 そっちに着くのはもうちょっと遅れそうだ)
頭上を覆うは森の葉群。
その中の一枚の葉から滴り落ちた水滴がダイの頬に当たり、乾ききった涙の筋道を再度湿らせた。
※ ※ ※ ※
(セナ君の反応が消えた、か)
沈痛な面持ちで立ち止まった斗貴子は、しばらくその場を動かなかった。
降りしきる雨が斗貴子の身体を打ち、髪を、肌を、小早川瀬那の死を告げたスカウターをしとしとと濡らしてゆく。
小早川瀬那が死んだ。
それ自体は然程おかしなことではない。
殺人ゲームの中で人が死ぬことなど不思議でもなんでもない。
ただ、死ぬタイミングが不可解だ。
自殺や事故が原因とも考えられるが、どうも何か引っかかる。
小早川瀬那のグループにパピヨンがいたことが疑念を増幅させていた。
弥海砂の反応が何故か他の四つの反応から離れてから数分後、、
小早川瀬那の反応がパピヨンを含む三つの反応に近づき、消えた。
その間、”他の参加者は誰一人として近づいていない”。
(……何故だ)
見たところ、パピヨン達のチームは敵対しているようには見えなかったが、
それは『見かけ上』なだけだったのか?
- 192 :善でも、悪でも、 ◆bV1oL9nkXc :2006/10/09(月) 21:29:19 ID:Z76GGt1t0
- 私は小早川瀬那のことをよく知らないが、もしかしたら他の三人に深い恨みを持っていたのかもしれない。
パピヨンの性格を考えれば、他人の恨みを買うことは大いに有り得そうだ。
そうして少年は恨みを積もらせ、しかし武器を持たぬ為に晴らすことはできず――
私の渡した武器によって力を持ち、報復を決意し、結果、返り討ちに遭ったのだとしたら。
(私が殺したようなものだな)
たとえ自分が手を下していなくとも、全責任は私にある。
こうなることは始めからわかっていた筈。
過ぎた力は身を滅ぼす。力をすぐに使えるこのゲーム上では尚のこと。
それでも少年にショットガンを渡したのは、たった一つの目的の為。
今現在疑っている計画を、自ら否定しないため。
(そう、私がドラゴンボールの存在を信じる為だ)
頭から、死んでしまった少年のことを追い払う。
後ろを振り返ることはもう出来ない。
今、私がすべきことはピッコロに会うことだ。
ピッコロに確認をとれば、抱いている疑念も晴れる。
僅かに残った希望が、実現する。
ドラゴンボール計画がうまくいけば、セナ君もきっと生き返る。
月君も生き返る。
クリリン君も生き返る。
戦士長も生き返る。
カズキも、生き返る。
斗貴子は必死で自分自身に言い聞かせる。
- 193 :善でも、悪でも、 ◆bV1oL9nkXc :2006/10/09(月) 21:30:05 ID:Z76GGt1t0
- その時突然、これから向かおうとしていた六つの反応の一つが消滅した。
消滅したのは、元々一緒だった五人組の集団が兵庫で接触した、戦闘力が高めの反応。
(これは……)
斗貴子は、一旦考えをまとめる必要があると判断。
雨から逃れるため、斗貴子は一旦近くのバス停に入る。
バス停の屋根を雨粒がピシピシと叩く音を聞きながら、斗貴子は思考の海に沈んでいった。
生き残った五人組は、戦闘力が高い者が二人、高くない者が三人。
まず間違いなく脱出派。
そして死んだのは、戦闘力が高い者が一人。単独行動。
脱出派とぶつかって死んだのだから、ゲームに乗った者の可能性が高い(便宜上マーダーと呼ぶことにする)。
いくら戦闘力が高くても、五対一では敵わなかったということか。
つまり。
(脱出派五人とマーダー一人が戦って、脱出派が勝利。 マーダーは敗北し、死亡した)
そういうことになる。
……脱出派とマーダー、か。
果たして私はどちらなのだろう?
少なくとも、脱出派ではないことは確かだ。
私は脱出のための努力など、とうの昔に放棄しているのだから。
何の力も持たない少年達に凶刃を振り下ろしたのだから。
そして既に、一人の人間――しかも仲間を殺しているのだから。
つまり、私はマーダーということだろうか。
……それも違う気がする。
何せ、クリリン君を殺して以来、一人も参加者を殺していないのだから。
あれだけ殺す好機があったのに、だ。
ならば、私は何なのだろう。
人を殺すことを誓い、しかし殺しきれていない私は何なのだろう。
ぐちゃぐちゃぐちゃ。
わからない。わからない。わからない。
- 194 :善でも、悪でも、 ◆bV1oL9nkXc :2006/10/09(月) 21:30:50 ID:Z76GGt1t0
- 斗貴子は思考の海から浮上する。
結論はまだ出ていないが、今は取り敢えず―――
(ピッコロに会おう)
ピッコロに会えば、決まるはずだ。
私の立ち位置が―――
斗貴子はフラフラと立ち上がり、雨の中を覚束ない足取りで走る。
向かう先は、南下を始めた五つの反応。
何かを振り切るように走る斗貴子は、完全に道を見失っていた。
※ ※ ※ ※
ギィィィィィィ バタン
鉄の金具が軋む音が聞こえ、木製のドアが静かに閉められた。
グショグショに濡れそぼった服から水滴が滴り、玄関に小さな水溜りを作っている。
両津達が雨宿りの為に立ち寄ったのは大鳴門橋手前の民家。
生活の跡が皆無の住居に五匹の濡れ鼠が迷い込む。
「ふう、随分と濡れちゃったわね」
「服を脱いで乾かすか?」
「やらしいわよ両ちゃん!」
「ち、ちがう! わしはそんなつもりで言ったんじゃ……」
「……無防備な格好になるのは避けたほうがいいと思います」
「俺もまもりの意見に賛成だな」
「雨が上がったらすぐに動けるようにしておいたほうが……」
「わかったわかった! 皆してわしを責めんでくれ!」
- 195 :善でも、悪でも、 ◆bV1oL9nkXc :2006/10/09(月) 21:33:41 ID:Z76GGt1t0
- 誰からともなく笑いが漏れ、やがて全員へと伝染していく。
数秒間、住人がいないはずの民家に五人分の笑い声が溢れた。
皆でひとしきり笑った後、情報交換のために奥の居間へと移動する。
その途中で、両津が星矢を呼び止めた。
「おい星矢、お前は確か探知能力を持っていたよな。 藍染の存在を察知したアレだ」
「ああ。 前にも言った通り、聖闘士は小宇宙を感じ取ることで、相手の居場所を探知することができるんだ」
「その索敵範囲はどれくらいだ? 確か、わしとダイが最初に近づいたときは相当近くまで寄らないと気付かなかったが」
「あれは、その、キルアや越前のことを考えてて油断してたんだよ。
この世界では妙に小宇宙が感じ取りにくくて、かなり集中する必要があるから……」
「うーむ。この付近の参加者を探査してもらおうと思ったが、無理か」
「狭い範囲なら何とかできるけど、あんまり広い範囲は探れないな」
両津はやや落胆した。
四国にいる参加者や近づいてくるマーダーが探査できれば、かなり有利になると思ったんだが。
流石にそこまでうまくはいかないようだ。
その点、サクラが持っているスカウターを使えば島中の参加者の動向がわかる。
敵との遭遇に警戒するのも、ヤムチャ達二人と合流するまでの辛抱か。
あいつら、今頃どこにいるのだろう。無事ならいいが。
窓から見える大鳴門橋を一度睨んだ後、両津は空を眺める。
遠くの空には晴れ間が覗き、この雨がそう長くは続かないことを暗示していた。
空に向かってヤムチャ達二人の無事を祈った後、両津は踵を返して居間へと向かった。
その時である。
「待ってくれ両津さん! 小宇宙が一つ、こっちに向かってくる!」
「何だと!?」
「距離は……かなり近い! 俺達の居場所がわかってるみたいだ!」
「外に出るぞ星矢! ダイは麗子達を頼む!」
- 196 :善でも、悪でも、 ◆bV1oL9nkXc :2006/10/09(月) 21:34:23 ID:Z76GGt1t0
- 両津はホルスターから装飾銃ハーディスを抜き、星矢と共に民家の外に走り出る。
降りしきる雨の中、民家の前には一人の少女が立っていた。
顔に大きな十字傷がある、鋭い目つきをしたセーラー服の少女。
見覚えのある片眼鏡――スカウターをつけた、見覚えのない人物の登場に、両津は警戒心を顕にする。
(サクラが持っている筈のスカウターを、何故この少女が……)
両津と星矢、そして少女が張り詰めた空気の中、静かに、静かに対峙する。
先に口を開いたのは少女だった。
「……津村斗貴子だ」
「わしは、両津勘吉だ」
斗貴子に応えるように、両津も名乗りを上げる。
それに対して、斗貴子は少し驚いたような、納得したような顔を作った後、言葉を続けた。
「あなたが、ヤムチャとサクラが言っていた両津か」
「二人を知っているのか!?」
「ああ。 彼らとは協力関係にあったからな」
「……とりあえず、中に入ってくれ」
警戒を解かないまま、斗貴子を民家の中に招き入れる。
先に民家内に入って先導する両津と、ドアの横に立って中に入ることを促す星矢。
相手の前と後ろを押さえることで、妙な行動をできなくする布陣だ。
斗貴子の顔は知らない間に緊張で強張り、冷や汗を流す。
(もし私が参加者を襲っていたことを知られたら、先程彼らに殺されたマーダーのように……)
知らず、唾を飲み込む。
相手は五人。戦闘になったら勝てる見込みは少ない。
- 197 :善でも、悪でも、 ◆bV1oL9nkXc :2006/10/09(月) 21:35:17 ID:Z76GGt1t0
- そこで始めて、自分が弱気になっていることに気付き、自らの思考に呆れ果てる。
昔はこのようなことはなかった。
こんな軟弱な思考になったのはいつからだ?
錬金の戦士に有るまじき怯えは、十中八九、現在持っている負の感情が原因だ。
人を殺すことへの迷い。ドラゴンボールへの疑念。
そして、『今自分がやっていることは正しいのだろうか?』という焦燥感。
私は迷い続けている。
信念など、何一つ貫き通せていない。
これでは武装錬金を使えるかどうかも怪しいものだ。
今の私に、源となる闘争本能など殆ど残っていないのだから。
「最後まで貫き通せた信念に偽りなどは何一つない、か」
「何か言ったか?」
怪訝そうに尋ねかけてくる星矢に、なんでもないと答えてから、斗貴子は民家に足を踏み入れる。
脇を通り過ぎる斗貴子のセーラー服を見た星矢は眉を顰めた。
(血のりの跡がかなりあるな……)
雨で随分と落ちてはいるものの、セーラー服は血色の黒に薄く染まっていた。
今までに何人もの参加者を傷つけてきた証拠。
(藍染を殺そうとしてた俺がとやかく言える立場じゃないか。 こんなゲーム中だしな)
星矢は後で聞いてみようと思いつつ、今は何も言わないことにした。
斗貴子が居間へと続く廊下を進むのを見ながら、星矢は開けっ放しだったドアを閉め始める。
もし星矢が、セーラー服に染み込んだ血の中に越前リョーマの血液が含まれていることを知っていたならば、
彼は、どんな行動をとっただろうか。
- 198 :善でも、悪でも、 ◆bV1oL9nkXc :2006/10/09(月) 21:35:54 ID:Z76GGt1t0
-
ギィィィィィィ バタン
※ ※ ※ ※
「そうよ、琵琶湖よ! どうして思いつかなかったのかしら!」
麗子は、居間に入ってすぐにリョーマの話を切り出していた。
両津と星矢がまだ部屋に入ってきていないのにも関わらず話を始める麗子に、
まもりは苦笑しながらもリョーマの情報――正確にはリョーマの連れ合いである新八の情報を教えた。
それを聞いた麗子は、まずリョーマの友人の無事を喜び、それからリョーマの居場所を推測した。
(リョーマちゃんは確かこう言っていたわ。
『その友達、こっちに向かってきてるはずだから、勝手に移動するわけにはいかないんスよ、ここで合流する予定だし』
そのお友達を探すために大阪に行く、と。
リョーマちゃんのお友達が琵琶湖に、しかも私達がいた小屋に辿り着いているなら、
リョーマちゃんもそこにいるかもしれない)
しかし、二人がそのまま琵琶湖の小屋にいる保障はない。
何せ、琵琶湖に集まる原因を作った藍染は既に死亡しているのだ。
第六放送で藍染の名前が告げられれば、二人とも別の場所に移動してしまうかもしれない。
そうでなくとも危険な舞台。力を持たない少年だけでは危険すぎる。
でも、これ以上四国行きを遅らせるのは、両ちゃんとダイちゃんに悪いしなあ……
どうしようか。
麗子は無意識の内にその場をぐるぐると回っていた。
その様子を見たまもりは、思わず笑ってしまった。
- 199 :善でも、悪でも、 ◆bV1oL9nkXc :2006/10/09(月) 21:36:42 ID:Z76GGt1t0
- (まるで、手間のかかる弟を持ったお姉さんみたいね)
悩み続ける麗子を、穏やかな目で見つめるまもり。
他人のことを守ろうと必死になっている麗子に、まもりは親近感を――
(ダメ)
何を考えているのだ私は。
これから殺すかもしれない相手に情が移ってどうする?
下手に仲良くなってはいけないのに……
大体、リョーマの情報を教えたのも、麗子達から情報を引き出すためだ。
相手の信用を得て、仲間だと錯覚させることでお人好しを利用する。
そのために情報を教えたのに、私が情にほだされてどうする。
最終的に、麗子達は敵になる。
敵はいつか殺さなければならない。殺さなければ―――
「―――ぞ星矢! ダイは麗子達を頼む!」
まもりが自らを戒め始めたとき、玄関から野太い声が飛んだ。
どこか焦ったような、両津の声。
「両ちゃん!?」
「まさか、敵襲じゃ」
「二人とも、オレから離れないで!」
クライストを構えたダイが居間の中央に陣取り、麗子とまもりがそれぞれの鈍器を持ち上げる。
三人は互いに背後を守るように立ち、耳を澄ませた。
家の外で話し声が聞こえた後(雨の音ではっきりとは聞こえなかったが)、玄関のドアの閉まる音。
そして足音、三人分。
足音が居間に近づくにつれ、ダイ達三人の陣形は崩れ、三人とも居間の入り口を注視する。
- 200 :善でも、悪でも、 ◆bV1oL9nkXc :2006/10/09(月) 21:37:44 ID:Z76GGt1t0
- ドアの前で足音が止まった。
居間と廊下を隔てるドアが開け放たれ、両津が姿を現す。
その後ろには、初めて出会う少女。あからさまに緊張している。
当然と言えば当然だ。こんなゲームの中で五人もの他人に囲まれ、しかも注目されているのだから。
藍染との戦闘直後で皆過敏になっているとは言え、一人の少女にこんな対応はあんまりだ。
麗子は無遠慮な自分の行動を後悔し、できるだけ優しい笑顔を作ってから挨拶した。
「始めまして、こんにちは。 私は秋本・カトリーヌ・麗子よ」
「……私の名前は斗貴子。 津村斗貴子だ」
「よろしくね斗貴子ちゃん。 ほら、まもりちゃんとダイちゃんも」
一瞬の逡巡の後、まもりとダイも麗子に続いた。
「姉崎まもりです」
「オレはダイ。 よろしく」
(この少年は確か……)
斗貴子は無意識の内にデイパックを押さえつける。
この中には『ダイの剣』がカプセル化して入っている。
ゲームが始まった当初はこの剣をダイに届けることが目的だったのだが、
目的が変わった今はどうしても渡す気になれなかった。
少なくとも、協力を得られる保障ができるまでは迂闊に行動すべきではない。
「名乗り忘れていたな。 俺は星矢だ」
星矢が最後に居間に入り、ドアをバタンと閉めた。
居間に全員が揃うと同時、いきなり両津が質問を始める。
「さて斗貴子、さっそくだがヤムチャ達のことを」
「ダメよ両ちゃん!」
麗子の制止が両津の詰問を打ち切った。
- 201 :善でも、悪でも、 ◆bV1oL9nkXc :2006/10/09(月) 21:38:21 ID:Z76GGt1t0
- 全く、両ちゃんは相変わらずせっかちだ。
そんなだから、派出所に道を尋ねてきた人にさえ怖がられるのよ。
何か言いたそうな両津を無視して、麗子は優しい声を出す。
「斗貴子ちゃんは今、何か困っていることはある?
友達を探すとか、仲間が欲しいとか、私達にできることなら協力するわ」
「……ピッコロと言う人物を探している」
斗貴子は一縷の望みをかけて、ピッコロのことを尋ねた。
この五人の中にピッコロはいなかったが、誰かピッコロの情報を持っている人物がいるかもしれない。
しかし、結局誰もピッコロのことを知らなかった。
うなだれる斗貴子に、今度こそ両津が質問を浴びせかける。
麗子が非難めいた目線を向けるが、今度はこっちが無視。
「ヤムチャとサクラはどこにいる? 何故一緒に行動していないんだ?」
「……効率を優先して、名古屋で二手に別れた」
「ふむ」
(スカウターを渡すことで斗貴子の身を守り、戦闘力の高いヤムチャがサクラを守りながら仲間集めをする、か。
確かに筋は通るが……まあいい。この辺りは後でじっくり聞こう。
それより今は、最優先事項の確認だ)
「一つ聞きたいんだが……ヤムチャは、その、錯乱していなかったか?」
「……どういうことだ?」
「うーむ、何と言ったらいいのか。つまりだな、まもりを襲った男がいて、
”その男がヤムチャかもしれない”。 特徴が酷似しているんだ。
わしもないだろうと思ってはいるのだが、完全にないとは言い切れない雰囲気がヤムチャにはあるからな……
率直に聞こう。”ヤムチャが一般人の女の子を襲う可能性はあるか?
- 202 :善でも、悪でも、 ◆bV1oL9nkXc :2006/10/09(月) 21:39:00 ID:Z76GGt1t0
- 無論、斗貴子には心当たりがある。
ヤムチャは、参加者を減らすことを共に誓った同類なのだから。
彼は今も自分の役割を果たしているらしい。
迷うことなく、怯むことなく、参加者減らしに精を出している。
それに比べて、私は―――
「……」
「おい、どうした?」
「……質問に答えよう。『その可能性は大いに有り得る』 まもりの言っていることは、おそらく本当だ」
「な!?」
両津にとって衝撃的な答えだった。
予想はしていたが、それでも俄かには信じ難い。
「本当か!」
「嘘だと思うなら、サクラに聞いてみるといいだろう。 おそらく、同じ答えが返ってくる筈だ」
「サクラはヤムチャと一緒にいるんじゃないのか!?」
「私が名古屋で最後に会ったのは、サクラ一人だ。 ヤムチャはいなかった」
「くっ……」
砕けるくらい歯を強く噛み締め、あらゆる感情を押し込めてただ立ち尽くす両津。
最もショックを受けているように見えるのは両津だが、他の四人も似たような反応をとっていた。
「くそォッ、何でだァーーーーーッ!」
元は脱出の為に戦っていた人間がゲームに乗ってしまったことに対して、憤慨する星矢。
「……」
無言でクライストを握り締め、静かに怒りを滾らせるダイ。
「なんて、こと」
口を両手で覆い、目を大きく見開いて驚愕する麗子。
- 203 :善でも、悪でも、 ◆bV1oL9nkXc :2006/10/09(月) 21:39:42 ID:Z76GGt1t0
- (……無理だ、な)
その反応を見て、斗貴子はドラゴンボールについて説明することを断念する。
ここまで正義感(パピヨンなら偽善と言うだろうが)溢れる者達が、人を殺すことが前提の計画に協力してくれるわけがない。
大体、ドラゴンボールのことを疑っている自分に、どんな説得ができるというのか。
相手を説得することは、自分が信じていることが大前提だ。
今の私は、説明することすらできそうにない。
両津達は、それぞれがそれぞれの方法で憤りをぶつけている。
それは驚きと悲しみと怒りと、その他の幾つもの感情が組み合わさった結晶体。
ただ、その中で一人だけ、
「…………え?」
まもりだけが、純粋な驚きのみを発露させていた。
(あの、男が、マーダー!?)
あの油断だらけの情けない男がゲームに乗っている?
毒薬を飲まされて失禁までしたあの男が本当に殺人者?
しかも、よりによって両津勘吉の元仲間。
やっぱり情報を隠していたんだわ。
それなら、私が最初から疑われていたことも納得がいく。
やっぱり、迂闊に嘘を吐くべきではなかった。最悪のミスだ。最低の失敗だ。
いや、もはやそんなことはどうでもいい。
問題は”ヤムチャがゲームに乗っていること”ただ一点。
彼は、必ず私に復讐しようとするだろう。
そのとき危険になるのは誰?
『あなたは小早川セナという少年を知っていますか?』
私は確かにこう言った。言ってしまった。小早川セナが大事な人だと言ってしまった。
私が復讐の対象にされて、危険になるのは誰?
決まっている、セナだ!
- 204 :善でも、悪でも、 ◆bV1oL9nkXc :2006/10/09(月) 21:40:25 ID:Z76GGt1t0
- 唯でさえ高かったセナの死亡率が急激に上昇する。
もう、一刻の猶予もない。
どうにかしなければ。
なんとかしなければ。
セナを、守らなきゃ。
でも、居場所がわからない。セナ、一体どこにいるの?
藁にも縋る思いで、眼前の少女に向かって絶叫するような声を出す。
「セナを! 小早川セナを知っていますか!?」
そのとき生まれた斗貴子の表情の変化を、まもりは見逃さなかった。
何の脈絡もなく叫ばれた名前。
何も知らないなら、また、会ったことがあるだけなら、ただ戸惑うだけだ。
しかし、斗貴子の戸惑いは瞬間的なものだった。
戸惑いの表情から、辛そうな、それでいて哀れむような表情へと変化する。
「可哀相に」とでも言いたげな、嫌な表情。
最悪な予感に顔は青ざめ、胃は吐き気を訴え続ける。
「セナのことを知っているんですね! セナはどこ!? どこにいるのッ!?」
「……セナ君とは大阪駅で出会った。 そのとき彼は、四人の仲間と一緒だった」
「一緒だった? 遠回しな表現はやめてください! セナは無事なのッッ!?」
凄まじいまでの気迫に、一瞬たじろぐ。
その表情、鬼神の如し。
まもりの勢いに押され、斗貴子の口は思わず動いてしまっていた。
「セナ君達五人の反応のうち、一つが消滅した。 セナ君は……死んだかもしれない」
そう、最低な言葉を吐き出した。
- 205 :善でも、悪でも、 ◆bV1oL9nkXc :2006/10/09(月) 21:42:03 ID:Z76GGt1t0
- 違う。今、私が言うべき言葉はこんな言葉ではない。
こんなその場しのぎの、偽善ぶった言葉ではない。
消えた反応は確実にセナ君のものだった。
こんなところで嘘を吐いても何の意味もない。どうせ、第六放送でわかることだ。
それに、何を他人事のように言っているんだ?
小早川セナが死んだのはお前のせいだろう津村斗貴子!
「そうですか」
違う。違うんだ姉崎さん。
セナ君は―――
何かを言おうと開けられた口は、結局何の言葉も発さなかった。
目の前に、まもりの姿がなかったから。
まもりは既に、居間の入り口まで移動していた。
他の四人に向かって深々と頭を下げる。
「今まで、本当にありがとうございました」
「おい、まもり!?」
「四国には両津さん達だけで向かってください。 私は大阪駅へ向かいます」
両津達が驚きの声を上げる中、斗貴子は反射的にまもりの元へと飛んだ。
鉄パイプを握り締め、部屋を出て行こうとするまもりの肩を掴む。
斗貴子のこの行為に何の意味があるのかはわからない。
ただ、必死だった。
「無茶だ! 途中で敵に遭ったらどうするつもりだ!」
「セナが殺されてるかもしれないのに、そんなことを気にする余裕があるの?」
「セナ君は、彼の仲間に殺されたかもしれないんだぞ!(ああ、この期に及んで何を責任転嫁しているのだ私は!)
今行ったら、キミも殺されるかもしれない!」
「そうですか。 それはいいことを聞きました。 セナは、仲間に、殺されたかもしれないんですか」
- 206 :善でも、悪でも、 ◆bV1oL9nkXc :2006/10/09(月) 21:44:25 ID:Z76GGt1t0
- 止まらない。
姉崎まもりは止まらない。
「――ッ! セナ君を殺したかもしれないパピヨンという奴は、ホムンクルスという常識を超えた存在だ!
圧倒的生命力を誇り、人を喰らい、錬金術まで使いこなす化け物だ!
ただの人間に勝てるわけがない!」
「もし、そのパピヨンとかいう奴がセナを殺したのだとしたら――」
幽鬼のように振り返るまもり。
その瞳に宿るのは、決意の色。覚悟の色。
燃える、瞳。
「私はそいつを許さない! セナをいじめるやつは、この私が許さない!
たとえ首だけになっても、私の首はそいつの喉笛に喰らいついて噛み千切るでしょう!
もしセナが生きていたならば、私は全力でセナを守る!
その目的が果たせないなら、私の命など路傍の石ほどの価値もないッ!
私は最後まで諦めない! もしここで諦めたら、今まで私がしてきたことの、」
今まで私が奪った命の、
「全てが無駄になるッ!」
斗貴子は、まもりの言葉を理解すると同時に、
ハンマーで頭をぶん殴られたような気がした。
他の四人もまもりの気迫に押され、動くことができない。
その隙にまもりは斗貴子の手を逃れ、外に駆け出していってしまった。
パシャパシャパシャ。水溜りが砕ける音が遠ざかる。
ザァザァザァ。雨粒が砕ける音が大きくなる。
誰もかれもが無言の中、一人の女性が立ち上がった。
- 207 :善でも、悪でも、 ◆bV1oL9nkXc :2006/10/09(月) 21:45:12 ID:Z76GGt1t0
- 「両ちゃん、ごめんなさい。 私はまもりちゃんを追うわ。
あんなコ、一人にするわけにはいかないでしょ?」
そう言って荷物をまとめ、出て行こうとする麗子。
「おい、麗子!?」
「麗子さん、落ち着いて!」
両津や星矢の静止の言葉を無視して、居間のドアを開け放つ。
そうした周囲の喧騒に構わず、斗貴子の口からは戸惑いの言葉が漏れていた。
「何故、そこまで意志を貫けるんだ……」
自分の命など、目的を果たせなければ価値がないと言い放ったまもり。
その言葉が、斗貴子の胸の奥で眠っていた”何か”を揺さぶった。
錬金の戦士である自分が、今まで当然のように持っていて、しかし今持っていないもの。
それを、まもりは持っていた。
独り言のつもりだったが、それを麗子は自分への質問だと思ったらしく、
振り返って返答をよこしてくれた。
「私は警察官よ。警察官は、力無い人々を守ることが役目。
それじゃ、理由にならないかしら?」
また、揺さぶられた。
斗貴子からいつの間にか失われていた意志が、信念が、闘争本能が息を吹き返す。
「両ちゃん達は四国に向かって。 もうこれ以上、私のわがままに付き合う必要はないわ」
一方的に別れの言葉を言った後、麗子は両津の手を振り払い、雨の中を駆け出していった。
あまりに予想外の展開に、ヤムチャマーダー化のショックを受けていた両津は対処できなかった。
これではいかんと苛立たしげに荷物を背負い、ダイと星矢に向かって大声を出す。
「くそっ、あいつら、勝手な行動とりやがって! ダイ、星矢、行くぞ!」
両津の呼びかけに、ダイはしかし、
- 208 :善でも、悪でも、 ◆bV1oL9nkXc :2006/10/09(月) 21:47:15 ID:Z76GGt1t0
- 「……イヤだ」
はっきりと拒絶の言葉を口にした。
ダイの言葉に驚いた両津と星矢が振り返ると、ダイは既に出発の準備を整えていた。
ただし、その目が向いているのは大阪ではなく、四国へ続く大鳴門橋。
「四国はもう目の前なのに、これ以上、公主さんとターちゃんを放っておくのはイヤなんだ。
それに、すぐそこにオレの仲間を傷つけて殺したやつがいるかもしれないのに、
そいつを放っておくことなんかできるもんかッ!」
――……すまぬ。下界の空気は私にとって毒のようなものでな、だいぶ慣れてはきたが……
――空気が毒? そうか、確かにこの辺の空気は汚れてる気がする。山の方にでも行けば楽になるかな?
――……おぬしは優しい子じゃな。名は?
――おれの名前はダイ。元の世界じゃ一応勇者って呼ばれてる。
――ふふっ、頼りがいのありそうな勇者じゃな。
――それじゃあ、ターチャンさんだっけ。
――ターちゃんでいいのだ。
――じゃあターちゃん。とりあえずそっち側の木の根にでも座って話をしよう。
――ありがとう。
それは、在りし日の会話。
平和だった頃の四国での思い出。
――……ダイ……お主が行くのなら、私も行く……
――……頼む、私から離れないでくれ…………
――ダイとターちゃんに出会えなければ、私は何も出来ないまま死んでいたかもしれん。二人には感謝の言葉も無い…
下界の毒で常に苦しんでいた仙女。
自分を頼ってくれ、守ろうと誓った人。
でも、守り切れなかった人。
- 209 :善でも、悪でも、 ◆bV1oL9nkXc :2006/10/09(月) 21:48:08 ID:Z76GGt1t0
- ――君は強い、公主さんをしっかり守るのだ。
――両津さん、すまないのだ。ここは、ダイに行かせてやってほしい。
――ダイは子供ではない!!・・・・・・立派な男なのだ。
ジャングルの平和を守る王者。
自分の力を認めてくれ、共に戦うと誓った仲間。
でも、その約束はもう果たせない。
二人とも殺されてしまった。
オレがいない間に、何者かの手によって。
「オレはッ、二人を殺した犯人が許せないッ!」
「落ち着けダイ! お前一人で行っても何にもならんぞ!」
両津の制止は、しかしダイには届かない。
「両津さんは他の皆と一緒に行ってくれ……オレは一人で大丈夫。
オレの大事なものをたくさん奪ったやつは、絶対にぶちのめしてやるッ!」
ダイは、窓を剣の一振りで破壊する。
もはや、忠告を聞く耳は持っていなかった。
誰にだって、曲げることができないことはある。
「じゃあ星矢、……後は頼んだ」
そう言って窓枠を潜り抜ける。
両津が慌てて窓際に寄ると、ダイの後ろ姿は殆ど見えなくなっていた。
「バカヤローーーーッ! 鵺野先生や乾の仇を討ちたいのはわしも同じなんだよ!」
そう吐き捨てて両津も窓枠を飛び越える。
砕かれきれずに残ったガラスの破片が両津の身体を切り裂くが、両津は全く気にしない。
斗貴子の中で、何かがまた騒いだ。
- 210 :善でも、悪でも、 ◆bV1oL9nkXc :2006/10/09(月) 21:49:08 ID:Z76GGt1t0
- 「星矢、お前は麗子達を守れ! いいか、絶対に守れよ! 集合場所はここだ!
斗貴子はここで待ってろ! すぐ戻る! ヤムチャのことはその時たっぷりと聞かせてもらうぞ!」
「両津さんは!?」
「わしはダイを追う! ガキを一人で放っておけるか! わしは警察官だ!」
両津は雨を突き破って駆け出す。
これも、意志。
曲げることのできない、戦士の意志。
「クソッ。 麗子さんもダイも両津さんも、俺の気持ちを何にも考えてないな」
最後に残った星矢が、頭を掻きながら出て行こうとする。
その星矢に向かって、斗貴子は殆ど縋るように叫ぶ。
「キミはッ、このゲームで死んだ皆を生き返らせることができると思うか!?」
他に、もっと言うべき言葉はあっただろう。
今更こんなことを尋ねるのは、無様以外の何物でもない。
まだドラゴンボールについての疑念に拘泥しているとは、どこまでも軟弱。
それに対する星矢のの返答はたった一言。
振り返りすらしなかった。
「 当たり前だっ! 」
言い切った。
何の迷いもなく、何の逡巡もなく言い切った。
「キルアも石崎さんも太公望も! 一輝もサガもデスマスクも! 皆必ず生き返らせてやる!」
断言する。
その言葉は、斗貴子の胸に深く染み渡った。
焦燥感が、消えていく。
- 211 :善でも、悪でも、 ◆bV1oL9nkXc :2006/10/09(月) 21:49:58 ID:Z76GGt1t0
- 星矢はそのまま歩みを止めることなく部屋を出て行き、居間には斗貴子一人取り残される。
一人だけ、置いていかれる。
誰も斗貴子のことなど気にかけず、自らの意志に従って突き進んでいる。
彼らの意志は些事を気にしない。
それに比べて自分はどうだ?
―――――――――――――――軟弱者以外の何者でもないッ!
「オオオオオォォォォォッッッ!!」
咆哮が轟き、ミシリと家が揺れる音。
斗貴子は骨が砕けるほど強く、柱に拳を叩きつけていた。
打ちつけられた拳の皮は捲れ、中手骨と血管が露出する。
流れ出る血は、柱に赤い線を引く。
(情けない! 戦士の恥晒しもいいところだ!)
――以前、カズキに言ったことがある。
早坂姉弟との死闘の後でのことだ。
敗北した二人を殺そうとした私に、カズキは言った。
殺さないで欲しい、と。
そして私は言った。 カズキに向かって確かに言った。
『キミのその優しさが、戦いの中では”甘さ”になる。その”甘さ”は、いずれキミを殺す』
――笑わせる!
どの口が言えた言葉だ!
私も、結局あの少年達を殺せなかった!
これが”甘さ”でなくて何だと言う!?
見ず知らずの少年二人に何か言われたくらいで崩れるほど私の信念は脆かったのか!?
- 212 :善でも、悪でも、 ◆bV1oL9nkXc :2006/10/09(月) 21:50:49 ID:Z76GGt1t0
- 私は、クリリン君に誓った筈だ。
――今度は、私が背負おう。君の分の決意も、覚悟も、その全てを……私が、引き受ける。
そう……誓った筈だッ!
それが何だこの体たらくは!?
秘密にしておく筈のドラゴンボールの話を、私は一体何人に話した?
アビゲイル、越前リョーマ、志村新八。 あろうことかパピヨンにまでッ!
――理由はわかっている。
色々と言い訳をしていたが、つまるところ理由はたった一つ。
私は、誰かに理解してもらいたかった。
誰かに許してもらいたかった。
無実の人間を殺すことへの、免罪符が欲しかった。
『どうせ後で皆生き返る』ことを認めてもらうことで、罪の意識から逃れようとした。
「ふざけるなァァァァァァァッッ」
再度、拳を打ち付ける。
指の肉は完全に削がれ、白と赤のコントラストが惨たらしい。
ピッコロを探してドラゴンボールの存在を確かめる?
本当にドラゴンボールが使えるかどうかわかってから計画を実行する?
――甘えるのもいい加減にしろ!
甘えるな! 逃げるな! 目を逸らすな!
今私がやっていることは、学生が夏休みの課題を後回しにすることと何も変わらない。
ただ、嫌なことから逃げているだけだ。
――いつかの、カズキの言葉を思い出す。
『偽善者と呼ばれるのも、自分の不甲斐無さに辛くなるのも、
皆が苦しんだり悲しんだりするのの代わりだと思えば、大丈夫、何とか耐えられる』
これが、カズキの覚悟。
貫き通した、カズキの信念。
- 213 :善でも、悪でも、 ◆bV1oL9nkXc :2006/10/09(月) 21:52:34 ID:Z76GGt1t0
- ――本当に、合わせる顔がない。
カズキに、戦士長に、そしてクリリン君に。
『オレが……死んだら、みんなは、一体、何のために……』
クリリン君の、最期の言葉。
彼は最期まで信念を貫いた。
誰よりも重い志を、誰よりも重い罪を背負い込んで。
それを……それをッ!
そのクリリン君の志を私は疑った!
疑って、足を止めて、情報を漏らして、クリリン君を裏切った!
――身体の奥から熱いものが込み上げてくる。
「武装、錬金ッ!」
四本のアームが具現化される。
戦乙女の、四枚の翼。
まだだ。
まだ、私の闘争本能は死んじゃいない。
これから私はクリリン君の遺志を継ぐ。
随分と遅くなったけれど、私の意志で跡を継ぐ。
四の五の考えるのはもうヤメだ。
ドラゴンボールの話は本当か?
主催者が何か対策を打っているんじゃないか?
そんなことは”どうでもいい”。
- 214 :善でも、悪でも、 ◆bV1oL9nkXc :2006/10/09(月) 21:53:08 ID:Z76GGt1t0
- 私はクリリン君を信じる。
戦友の言葉を信じるというだけのことが、今までどうしてできなかった!
ピッコロ? 主催者? 知ったことか!
ピッコロが計画への協力を拒否したら、力づくで協力させればいいだけだ。
もし主催者がドラゴンボールに対する対策を立てているならば、
”その対策を打ち破る方法を考えればいいだけの話だ”。
それより、もし私が何もしなかったせいで計画が失敗したら、
私が殺したクリリン君にどうやって謝ればいい!?
「相手が可哀相なので、何の罪もない人を殺すことができませんでした」とでも言うつもりか?
ぐだぐだ悩んでいて、あれこれ考えていて、その結果何もできませんでしたと言い訳をするのか?
私は、そこまで堕ちてない。
先のことを気にしすぎて、何も出来ない臆病者では決してない。
クリリン君に出来て、私に出来ない道理はないッ!
四本のアームが床を穿ち、斗貴子の身体を持ち上げる。
そこに、迷い続ける津村斗貴子はいなかった。
そこにいたのは、錬金の戦士・斗貴子。
皆の為に己を殺して戦う、非情なる戦士。
「ハァッ!」
ダイが破壊した窓から、斗貴子がその身を空中に躍らせる。
雨を切り裂き、戦乙女が空を往く。
- 215 :善でも、悪でも、 ◆bV1oL9nkXc :2006/10/09(月) 21:55:06 ID:Z76GGt1t0
- 善でも、悪でも――――
「セナッ……」
貫き通せた生き様に――――
「まもりちゃん、リョーマちゃん、どうか無事でッ」
「公主さん、ターちゃん、ごめん。
オレがわがまま言って四国を離れたせいで……
仇は、必ずッ」
貫き通せた魂に――――
「ダイの馬鹿野郎! 早まりやがって!
お前が死んだら何にもならんだろうがァ!」
「麗子さんもまもりも、必ず俺が守ってみせる!
藍染のときの失敗は、もう二度と繰り返さない!」
貫き通せた信念に――――
「もう、迷ってたまるかァァァァァァッッ!!」
――――偽りなど、あるはずがない。
- 216 :善でも、悪でも、 ◆bV1oL9nkXc :2006/10/09(月) 21:55:59 ID:Z76GGt1t0
- 【兵庫県・大鳴門橋/二日目/昼】
【両津勘吉@こち亀】
[状態]:睡眠不足による若干の疲労、額に軽い傷
[装備]:装飾銃ハーディス@BLACK CAT
[道具]:盤古幡@封神演技、支給品一式、食料二日分プラス二食分
(爆発でどれが誰のか分からなくなったので、絆を深めるために平等に再分配した)
[思考]1:ダイを追い、勝手な行動をとったことについて叱る。
2:ダイを連れ戻し、大鳴門橋手前の民家で星矢達と合流。サクラとも合流したい。
3:斗貴子からヤムチャのことを聞く。できれば本人からも事情を聞きたい。
4:仲間を増やす。
5:沖縄へと向かう。
6:主催者を倒す。
【ダイ@ダイの大冒険】
[状態]:健康、MP中量消費
[装備]:クライスト@BLACK CAT
[道具]:支給品一式、食料二日分プラス二食分
(爆発でどれが誰のか分からなくなったので、絆を深めるために平等に再分配した)
[思考]1:いい加減我慢の限界。 四国に向かい、公主とターちゃんの仇を討つ。
2:ポップを探す。
3:沖縄へと向かう。
4:主催者を倒す。
【兵庫県/二日目/昼】
【姉崎まもり@アイシールド21】
[状態]:中度の疲労、殴打による頭痛、腹痛、右腕関節に痛み(痛みは大分引いてきている)
右肩の軽い脱臼、不退転の決意
[装備]:焦げたねじれ鉄パイプ(護身用に両津が廃棄した自転車から取り外した)
[道具]:支給品一式、食料二日分プラス二食分
(爆発でどれが誰のか分からなくなったので、絆を深めるために平等に再分配した)
[思考]1:大阪駅に向かい、セナの無事を確認する。(あまりのショックに他の思考は全て吹き飛びました)
2:セナ以外の全員を殺害し、最後には自害。セナを優勝させ、ヒル魔を蘇生してもらう。
- 217 :善でも、悪でも、 ◆bV1oL9nkXc :2006/10/09(月) 21:56:33 ID:Z76GGt1t0
- 【秋元・カトリーヌ・麗子@こち亀】
[状態]:中度の疲労
[装備]:滅茶苦茶に歪んだサブマシンガン(鈍器代わり)
[道具]:支給品一式、食料二日分プラス二食分
(爆発でどれが誰のか分からなくなったので、絆を深めるために平等に再分配した)
[思考]1:まもりを守る。 琵琶湖にいると推測したリョーマも保護したい。
2:沖縄へと向かう。
3:主催者を倒す。
【星矢@聖闘士星矢】
[状態]:中程度の疲労、全身に無数の裂傷
[装備]:ペガサスの聖衣@聖闘士星矢
[道具]:支給品一式、食料二日分プラス二食分
(爆発でどれが誰のか分からなくなったので、絆を深めるために平等に再分配した)
[思考]1:まもりと麗子を守る決意。
2:大鳴門橋手前の民家で両津達と合流。
4:弱者を助ける。
5:沖縄へと向かう。
6:主催者を倒す。
【兵庫県・大鳴門橋手前の民家付近/二日目/昼】
【津村斗貴子@武装練金】
[状態]:左肋骨二本破砕(サクラの治療により、痛みは引きました) 右拳が深く削れている
顔面に新たな傷、核鉄により常時ヒーリング 絶対に迷わない覚悟
[装備]:核鉄C@武装練金、リーダーバッチ@世紀末リーダー伝たけし!、スカウター@ドラゴンボール
[道具]:荷物一式(食料と水を四人分、一食分消費)、ダイの剣@ダイの大冒険
:首さすまた@地獄先生ぬ〜べ〜、『衝突』@ハンター×ハンター、子供用の下着
[思考]1:四国or大阪に向かったメンバーを追い、殺害する。
リョーマ達の時の二の舞にならないように説得や説明はしない。
2:クリリンを信じ、信念を貫く。跡を継ぎ、参加者を減らす。
3:ドラゴンボールを使った計画を実行。主催者が対策を打っていた場合、その対策を攻略する。
4:ドラゴンボールの情報はもう漏らさない。
- 218 :善でも、悪でも、(修正) ◆bV1oL9nkXc :2006/10/10(火) 03:38:16 ID:4gUDcaS90
- >>187の七行目からの
>そういえば、まだまもりに沖縄のことをしっかりと話していなかったな。
>重要なことだし、一度話しておくべきだろう。
>万が一、まもりがゲームに乗っているのだとしても特に害はないだろうし、
>逆に、具体的な脱出の指針を示すことで心変わりをしてくれるかもしれない。
を、
>そういえば、まだまもりにヤムチャのことを話していなかったな。
>サクラと共に東に向かい、仲間集めをしているわしの仲間。
>そしてまもりが「自分を襲った」と言い張った男。
>嘘を暴かれて追い詰められたまもりが暴走しないよう、
>今までその存在をまもりから隠し続けてきたが、そろそろ話してもいい頃だろう。
>藍染の一件で、わしはまもりがマーダーである確率はそこまで高くないと判断した。
>まもりの言葉はある程度信用できる―――そう、考えた。
>それは、相対的にヤムチャが道を踏み外してしまった確率が上昇したことを意味する。
>まもりが襲われた時の詳しい状況を聞けば、何かわかるかもしれない。
>>189の六行目からの
>ハトが運んできてくれた、『沖縄』の情報。
>今まで私達は、まもりを完全に仲間外れにしてきた。
を、
>それは、両ちゃんの仲間であるヤムチャさんの情報。
>この事実は、私達がまもりちゃんのことを疑っていた証拠だ。
に変更します。申し訳ありません。
- 219 :ヤムチャvsタカヤ〜そして伝説へ:2006/10/11(水) 00:03:45 ID:TYpNCsS00
- ヤムチャvsタカヤの激闘から数百年…
地球では、平穏な日々が続いていた。
ヤムチャの子孫は、今日も平和に暮らしており、超生物TAKAYAの血は、完全に途絶えていた。
しかし、また悪災は起ころうとしている。
ここは、地球の果ての不毛の地。
一人の科学者、ジョナサン・ジョーンズの手には一つのビーカーが握られていた。
それは、忌まわしき輪廻の血。
「ふはははははは…蘇るのだ!!!!
タカヤの魂は、まだ死んではいないぃぃ!!!」
大地が、かすかに光った。
- 220 :The Rain Heals A Scar1/11 ◆7euNFXayzo :2006/10/13(金) 23:32:14 ID:Czn75y0z0
-
傍から見れば、オレのやってる事っていうのは自殺行為か何かにでも映るんだろう。そりゃあそーだな。
つってもまあ、今に始まった事じゃない。
このフザケた世界の中で、下らない意地を張ってあれやこれをオジャンにしちまうのはこいつで二度目になる。
今更になって思い返してみると、つくづくウマが合うはずのない奴だったなと思う。
お天道様のそのまた向こうにでも住んでるんだろう、カミサマ様なんかを信じきっちゃってやがる馬鹿女。
勝手に人の保護者ぶって。
勝手に人殺しの傷を癒して。
勝手に死んでいきやがった、アイツ。
どうなろうが知ったこっちゃねーと、そう思っていた。
……ああ、そうだよ。最初っから最後まで、勝手尽くしの女だったってことは間違いない。
けれど、それはあくまでも“他人のための”自分勝手だっていうこともまた、分かっていて。
だからこそ、オレはあそこに引き返した。何もかもが、手遅れになった後だったけれど。
よくよく考えると、こうやってアイツの印象を一々思い起こしてること自体、オイオイ何やってんだって感じではある。
馬鹿はどっちだって話だよ、くそったれ。オレか? オレだな。ああ、分かってたってんだよそんな事は。
まあだからって、オレがあいつと同じ生き方に走る事なんざ、何億光年経とうがあり得やしないけどな。
何でか、って?
決まってんだろ、バーカ。
――マミー、クン。
オレは、捻くれてんだよ。
- 221 :The Rain Heals A Scar2/11 ◆7euNFXayzo :2006/10/13(金) 23:33:25 ID:Czn75y0z0
-
勢いを増して降り頻る雨粒の一つ一つが、対峙する男と少年の身体を遠慮なく叩き続けている。
その雨粒は彼らを打ち、大地を打ち、全てを打つ。打ち付ける。激しく、それでいて、淡々と。
雨というものはどこまでも無慈悲で、冷たく、容赦がない。
その容赦のない雨の下に、彼らは、立っている。天恵の雫がもたらす響きなど、微塵も意に介すことなく。
「『安心なんてクソくらえ』か。フン……その気概にはいたく感心させてもらったものだが、
こうして現状を目の当たりにしてみれば、つくづくマヌケな信念だったとしか言いようがないな」
「――ケッ」
力強いオーラを全身から発散させて佇むスタンド・ビジョン、『ザ・ワールド』の後方。
傷だらけの顔で自らを睨み付けている少年から、微動だにせず視線を突き返し、尊大に腕を組んでいる吸血鬼の帝王、DIO。
その男が発したあからさまな挑発に対して、吐き捨てるかの如く、傷痕の少年――マミーは、そう端的に応じた。
いつだってそうだ。目の前の野郎はどんな相手に対しても、それを見下す口調と態度で接している。
『恐怖を克服するために生きるのが人間だ』などとのたまったこの吸血鬼こそが、この世に怖いものなどは何もないと、思い上がっている。
罵倒の文句など、その気になればそれこそ湯水のように出てくる。「気にいらねー」「調子に乗んな」「ナメんじゃねーぞ」etc。
それらの全てを、この自称帝王は鼻で笑って聞き流すことだろう。だからこそ、マミーは沈黙に己を浸す。
必要なのはただ一つ、拳による洗礼。お前の好き勝手が通用しない相手がここにいるのだという存在証明を、その身に直接刻み込むこと。
「ブッ殺してやるよ、DIO」
そう言ってマミーが浮かべる不敵な笑みもまた、『恐怖』を克服した者のそれ。
最も、マミーの求める理想郷には、『安心』の文字など一片たりとも存在はしないのだけれど。
「……その眼だ」
DIOの瞳が細められる。勇猛果敢な挑戦者に対する賛美の色などというものは、そこには浮かんでいない。
むしろ、その間逆。今正に一戦を交えようという相手に対して彼が向ける眼差しは、薄汚いものを見ているかのように酷く冷めていた。
「我が『運命』の前に二度も立ち塞がった、クソ忌々しいジョースター家の者どもと、貴様の瞳は同じ色をしている。
『負けず嫌い』を前面に押し出した、下等でしかない猿(モンキー)どもの色だ……フフフ、『気に食わない』のはお互い様という訳だな、マミー。
そういう色の眼をした連中が、このDIOと相対した結果どういう末路を辿るのか。命を持って実感するがいいッ!」
- 222 :The Rain Heals A Scar3/11 ◆7euNFXayzo :2006/10/13(金) 23:34:58 ID:Czn75y0z0
-
一層膨れ上がっていく『ザ・ワールド』の周囲に満ちたオーラは、雨のカーテン越しにもはっきりと認識できる。
今となっては人間を超越した存在でこそあれど、元の世界においては平穏に身を置いてきた彼女にとっては、
直接こちらへ向けられたものではないというのに、その重圧が途方もなく巨大なものに感じられてしまっていた。
この闘いは、いや、果たして闘いと呼べるような体裁を成すほどのものに発展するだろうか。
それほどまでに、『ザ・ワールド』とDIOから放たれる存在感は圧倒的だ。身じろぎ一つしないマミーの精神力に、感服すらしたくなる。
――彼がこれから迎えるものは、『予定調和の死』だ。そのように、東城綾はこの状況を捉えていた。
元よりマミーは、DIOを殺すためだけに彼と行動を共にしていたそうだが、
吸血鬼とスタンド能力。二つの異能を持つDIOに対して、策一つ弄さず立ち向かおうだなんて、正気の沙汰では到底あり得ない。
DIOは言っていた。誰にでも、乗り越えなければならない『運命』が存在する、と。
ならば、マミーにとっての『運命』とは、DIOであるということなのだろうか。この衝突もまた、必然であるとでもいうのだろうか。
「――綾」
一瞬、それが自分の名前であるという事が理解出来なかった。この状況において、自分は蚊帳の外の存在なのだと思っていた。
「君は見届けるだけでいい。『運命』の前に倒れ伏す者の、惨めなザマをな」
手を出すな、という事だ。どうやら、本当に蚊帳の外にされてしまったらしい。
綾へと声をかける間も、DIOの視線はマミーを捕らえて離さない。マミーもまた、同様。
二人の間に、見えない首輪でも取り付けられているかのようだった。相手の命を奪わなければ、決して外すことの出来ない死の首輪。
「『決闘』が望みなのだろう、マミー。舞台は整ったぞ」
「ハッ……やる事成す事、つくづく厭味ったらしいヤローだ」
いつの間にか、マミーの笑みはDIOにも伝染していた。互いが互いを見据えて笑う、一見奇妙な睨み合い。
自分が上だと信じるからこそ、余裕を抱いて放てる笑い。自己を保ち続けているからこそ、余裕を抱いて放てる笑い。互いに質の、違う笑い。
「――ま、御誂え向きだな」
その笑いの仮面が剥がれ落ち、隠して磨がれていた牙が露になる時――
猛獣同士の血肉の喰らい合いは、始まる。
- 223 :The Rain Heals A Scar4/11 ◆7euNFXayzo :2006/10/13(金) 23:36:29 ID:Czn75y0z0
-
「うらぁッ!」
先手を取ったのはマミー。ハート型のマークという特異なデザインセンスの代物が取り付けられた『ザ・ワールド』の顎を打ち抜かんと、
極限まで握り締められた右拳でのストレートを見舞う。超人的握力を持つマミーならではのファイトスタイル、『ただ、ブン殴る』。
『ザ・ワールド』が放った迎撃の左フックに、拳の側面を正確に打ち払われる。舌打ちするマミーの顔面に、返し刃で飛んでくる豪脚の左ハイ。
咄嗟に身を屈めたマミーの頭上を、尋常ならざる速度で薙がれた死神の鎌が通り過ぎる。巻き込まれた髪の毛が、数本千切り飛ばされた。
想像以上のスピードに肝を冷やす。まともに受ければ、首の骨を折られていたかもしれない一発。けれど、とにかく、避けられたのだ。
蹴り足を大きく振り上げる必要のあるハイキックを外した、それは絶対的な隙の生まれる瞬間。その隙を逃すことなく、
がら空きになっている『ザ・ワールド』の脇腹へ渾身の左ボディーをぶち込む。人体とは違う奇妙な殴打の感覚だったが、手応えは、あった。
「ヌウゥ……!」
苦悶の声は『ザ・ワールド』ではなく、その後方で余裕綽々に構えていたDIO自身の方から上がっていた。御山の大将を気取っていた男から、
初めて漏れる憤りの唸り。その声を聞きたかったんだよ。口元がニヤ付き出すのを止められなかった。当然、止める気も起きなかった。
そして、良いことを知ったと思った。この『スタンド』とかいうインチキパワーも、完全無欠の能力というワケではないのだ。
こいつをブン殴る事は、DIOをブン殴ることに繋がる。こいつをブッ殺すことは、DIOをブッ殺す事に繋がる。
ならば益々、動きに磨きが掛かるというもの。一気に攻勢に出る、そう考えて踏み込んだ身体は、即座に弾き飛ばされる羽目になった。
「――ぶッ!?」
高圧電流を食らったような痺れが、左頬から伝わってきていた。驚愕が意識を支配する。よろめく足をどうにか踏み止まらせて、再び構えた。
若干開いた相対距離に、奇妙な違和感を覚える。何より、自分は確かに攻め込んでいた筈だった。押しの一手のみを選択出来ていたのだ。
見えない一撃。催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてない、決して感じ取ることの出来ない挙動。
何が起こったのかを、悟った。またかよクソヤロー。オレにもその『スタンド』とかいうの寄越しやがれ。
口の中が切れていたが、こんな物は傷の内にも入らない。吐き出した紅混ざりの唾は、すぐさま豪雨に紛れて散っていった。
「なかなかのパワーとスピードだ。マグレとはいえこの『ザ・ワールド』に一撃を与えるとはな……」
いけしゃあしゃあと言ってのけるDIOの表情に、乱れはない。捻り潰してやりたいと思った。押され気味だった癖に何がマグレだ、ふざけんな。
- 224 :The Rain Heals A Scar5/11 ◆7euNFXayzo :2006/10/13(金) 23:38:20 ID:Czn75y0z0
-
「だが、今の手合わせで理解出来ただろう? 我が『ザ・ワールド』は最強のスタンドだ。
その気になれば、今の時間停止で貴様を殺すことも出来たのだよ。……何故そうしなかったのか、分かるか?」
「…………」
「貴様の望みを叶えてやるためだ、マミー。死後の世界などに興味はないが、
このDIOとの対決に比べればさぞかし『退屈』に過ぎる場所だろうから、な。
せめてもの手向けとして、貴様には我が能力の全てを堪能していって欲しいのだよ」
言うが早いか、あれほど強烈な存在感を示していた『ザ・ワールド』の姿は、まるで最初からその場にいなかったかのようにぱっと掻き消えた。
依然としてDIOの口調は、『帝王』としての態度を崩していない。立ち振る舞いも、同様。森羅万象を踏み躙るようにして、こいつは立っている。
この男はきっと、生まれついての『帝王』なのだろうと思った。『自尊心』の三文字が、常に意識の何処かでこびり付いているような奴なのだ。
天晴れだとさえ、思い始めていた。DIOの言葉を要約すると、『本気を出したら勝負にならないから手加減してやる、安心しろ』という事になる。
ここまで嘗め切った態度を取られてしまっては、マミーとしても返す言葉が浮かばない。馬鹿は死ななきゃ治らないという格言があるが、
おそらくこの男に関してはそれも通用しまい。死んでも治らない類の馬鹿だ、こいつは。だから馬鹿のままブッ殺してやる。ああ、決めたぜ。
――マミーの言語中枢においてごく僅かに残されていた、熱の通っていない冷静な部分はそう言っていた。
一々相手にするだけ馬鹿げていると、丁度この空を埋め尽くしている理不尽に湧いた雨雲のように、
この男の持つ嘗め腐った態度もまた、『仕方のないもの』なのだと。『キレた』ところで、どうにもならないものなのだと。
けれど、その『仕方のないもの』というものは、マミーの中にもまた存在していた。
DIOの持つそれとはまた別のベクトルを向きながらも、同等以上に存在する、『調子に乗ったヤローは許さねー』という絶対的な自我。
その自我が、唯我独尊の極みを往く男の発言を余すことなく捉えた結果どうなるのかと言えば――
「……ふ、ざ、け、ん、じゃ……」
――決まっていた。
「ねええええええええええええええええええええええええーッ!!」
マミーは、キレた。
- 225 :The Rain Heals A Scar6/11 ◆7euNFXayzo :2006/10/13(金) 23:40:15 ID:Czn75y0z0
-
咆哮と共に雨粒を突き破った拳が狙うのは、『ザ・ワールド』の加護を自ら取り払った傲慢不遜の帝王、その本体。――直接ブッ殺すッ!!
悠然と翳した左の掌で一撃を受け止めたDIOの口元が、不気味に吊り上がる。憤怒の爪を受け止めてみせたことに対する笑みにしては、
奇怪な印象をマミーに与えていた。『狙い通りだ』とでも言いたげな、歪んだ笑みの浮かべ方。ただ拳を止めただけではない――のか?
「KUUAAA……!」
――こいつは、ヤバい。
何の根拠もない確信だったが、マミーの第6感は思考回路へ大音量での警告を発していた。拳を引けと。続けて聞こえた。『食われるぞ』と。
それは賢明な判断だったが、既に全てはDIOの計略の中にあった。引き戻そうとした右拳は、万力のような力で掴まれてしまう。
マミーの握力であろうと、吸血鬼となり人間の限界を超えたDIOの捕縛から逃れる事は容易ではない。ならば空いている左腕の方で――
――引き剥がそうとしたその時、異変は起こった。
右手の感覚が失われていく。掴まれているため、等という単純な理由ではない。神経の自由が利かないのだ。そして気付いた。『冷たい』。
「んなッ……!?」
視界で起こっている現実味のない光景に、思わず目を見開いた。マミーの右手が、拳骨の形を作った状態で凍り付いていたのだ。
更に、マミーの拳を握り締めているDIOの腕もまた、凍っていた。『ザ・ワールド』のような『スタンド』の影は何処にもいない。ならば、
これはDIO自身の能力だというのか。何処までインチキだ、クソ――火傷のような鋭い痛みに、歯を食い縛って耐える。DIOが口を開いた。
「実に一世紀ぶり、更にはジョジョの肉体をいきなりで操作出来るかは少々心配だったがな……所詮はみみっちい心配だったと『安心』したぞ。
マミー! 貴様の腕の水分を気化させ『凍らせた』ッ! これがこのDIOの『気化冷凍法』だッ! UREEEEEEEEYYYYYYYYYYYYYッ!!」
「うおおおおおおおおおおおおッ!?」
マミーの二の腕から先を完全に凍らせ尽くした『気化冷凍法』は、そのまま腕の皮をバリバリと引き剥がして夥しい量の血を噴出させていく。
人体の呼吸を司る『波紋』の達人であれど、悲鳴を上げるほどの痛み。それだけのダメージを受けながらも反撃に転じることが出来たのは、
単なる意地と根性の後押しがあったために他ならなかった。
「……オ……ラァッ!!」
拳もまともに作っていない、力任せに腕をぶん回すだけのラリアット。飛び退き避けられこそしたが、どうにかそれで距離を取る事は出来た。
- 226 :The Rain Heals A Scar7/11 ◆7euNFXayzo :2006/10/13(金) 23:42:50 ID:Czn75y0z0
-
意思とは裏腹に荒くなっていく気息。しかし、それは決して『屈服』のためではない。あの時にぶち当たった壁は、確かに打ち崩したのだから。
この呼吸音は、闘争本能の表れだ。『興奮』は必ずしも『動揺』の証明にはなり得ない。『呼吸』は『生存』だ。必死になって息を吐くことが、
『まだ生きてやる』という意思表示に繋がる。吸って吐く、それだけの動作を繰り返す事が、そのままDIOへの『抵抗』となる。そう思った。
――利き腕を失くした。オレの握力の半分は、もうアテに出来ないっていうワケだ。けどよ、それがどうしたってんだ?
元々バクチで挑んだんじゃねーか。オレは一時の賭けに負けた。その代償として右腕は使えなくなった。それだけの話だろーが。
腕一本どっちかさえ残ってりゃ、まだオレは闘えるんだ。まだオレはDIOをブン殴れるんだ。まだオレはDIOを――殺せるんだ。
だらりと垂れ下がった右腕は、その瞬間に思考から排除した。闘志を込めて振り上げるのは、残された側の左腕のみ。それで充分だった。
雨のせいだと思いたかった。心なしか、薄く靄がかった視界の向こう――完全に『余裕』の形で表情を固めていた吸血鬼が、
意外そうに眉を顰めたのが分かった。そうだ、そうやってもっと戸惑いやがれ。オレは幾らでも立ち上がってやる。嫌そうな顔で出迎えろ。
「ほう……まだ這いずってみせるのか。これ程までに力の差を見せ付けられても、尚もこのDIOに向かってくるのか……」
「笑わせんな……近付かなきゃあ、テメーをブチのめせねーだろーがよ……」
「フン! 吐く台詞までも連中と瓜二つか……何故理解しようとしないのだ?
このDIOは、貴様の誇る脆弱な『暴力』も、掲げる些細な『感情論』とやらも、その全てを『超越』したところに立っている存在なのだぞッ!
『波紋』も『スタンド』も持たぬ、只の『人間』が何故足掻く? 貴様の行為は『無駄』でしかない……汚らわしいぞ、このカスが……ッ!」
――――――――。
「……ハッ」
決定的な言葉を、聞いてしまったように思えた。
あの瞬間に何故、自分が一時のこととはいえ『弱肉強食』の理論の中に取り込まれてしまったのか。それが理解出来たような気がした。
DIOが強者で、マミーは弱者。図式にでもして表すのならば、結局のところそうなってしまうのだろう。
それを認めたくなかったから、あの月の夜に自分は吼えた。それはある意味で正しくて、そしてある意味で間違っていた。
単純な力の差を測るだけの『弱肉強食』に、一体何を躍らされていたのか。自分よりも強い、そう認めた連中などよくよく思えば腐るほどいる。
吼えるまでもないことだった。DIOは『強い』。それは間違いない。けれどその力は、『精神』の上に成り立つ『力』ではない。
『力』の上に『精神』がいる。マミーとは違う。比べてはならない質の、『強さ』だったのだ。
……ようやく、スッキリしたぜ。
目の前の男には決して解くことの出来ない難問の答えを、出す事が、出来た。この時点でもう、オレの――『勝ち』だ。
- 227 :The Rain Heals A Scar8/11 ◆7euNFXayzo :2006/10/13(金) 23:44:31 ID:Czn75y0z0
-
「――そんなくだらねー『力』の上で胡坐掻いてるウチは、一生経っても分かんねーだろーよ」
勝ち名乗りを、上げてやった。けれど、これで終わりではない。
――『力』でも、勝ってやる。こっから先にあるのはもう、只の喧嘩だ。せいぜい楽しく遊んでやるぜ、DIO。
「フン――ならば来るがいい、マミー! 最終ラウンドだッ!!」
従者の如く、再びDIOの傍らに『ザ・ワールド』が出現する。それは逃れようのない死の予感。絶対的な、力の象徴。けれど、もう、怯まない。
マミーは、笑った。
一歩一歩を踏みしめる度に、足元で水滴が跳ね踊る。長い事雨曝しになっていた身体からは、これっぽっちの熱も感じ取る事が出来ない。
それなのに、『寒い』という言葉が欠片も浮かんでこないのは、つまりはそういう事なのだろう。今更な話だ。そう思って、考えるのを止めた。
どうせ、この世界の中で朽ち果てていくだけの身体なのだから。悲観的になった所で、仕方が無いのだ。今考えるべき事柄は、一つだけ。
「――雨、思ったよりも長く降るかもしれませんね」
「……そのようだな」
もう間もなく放送が流れる。天候が安定しないのはあくまで午前中のみの事だと、主催者達の言葉を全面的に信じるならばその筈なのだが、
天の気紛れか、無機質に続く雨脚は一向に途絶える気配を見せていない。この分ならば、午後に入っても移動を続ける事は可能だろう。
並んで歩いている彼も、同じ事を考えている筈だ。先刻までの闘いの記憶に、心を揺さ振られてさえいなければ。
ちら、と横目で眺めるのは、特徴的な星型の痣の横、首筋に浅く刻まれた一線の傷痕。無謀の少年が、最期に一矢報いてみせたことの証。
彼があの瞬間に迎えたものは、『予定調和の死』――だった。確かに。
しかし、その死の間際に彼がやってみせた行為というのは――果たして、あの帝王の『予定』の中に含まれていたのだろうか?
彼自身が与えた武器なのだと、前に聞いてはいた。けれど、彼が勝利を確信した瞬間、あの『武器』の存在は思考に入っていたのだろうか?
到底、切り出すことの出来ない問いかけだった。代わりに、別の疑問を口にした。
- 228 :The Rain Heals A Scar9/11 ◆7euNFXayzo :2006/10/13(金) 23:46:25 ID:Czn75y0z0
-
「その傷は、彼の血を吸えば治すことが出来たんじゃないですか?」
「……フン。所詮は掠り傷だ、放っておけばすぐに消え去る。それに……」
湛えた笑みは、相も変わらず威厳と余裕を兼ね備えたもの。にも拘らず、綾の目にはそれが何処か苦々しげに映った。
「……奴の血は、このDIOには、馴染まん……」
それ以上はもう、答えなかった。綾も黙って、前に向き直った。
雨は、止まない。光は、差さない。吸血鬼達の『夜』の時間は、終わらない。終わらないが――
――彼らの『夜』に牙を突き立てた男は、最期の瞬間まで、獣のままだった。
【長野県南部/昼】
【DIO@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:脇腹に小ダメージ、首筋に浅い傷痕。
[装備]:忍具セット(手裏剣×7)@NARUTO−ナルト−
[道具]:荷物一式×2(食料の果物を少し消費)、
護送車(ガソリン無し、バッテリー切れ、ドアロック故障) @DEATH NOTE、双眼鏡
[思考]:1.得体の知れない不快感。
2.ケンシロウを追う。
3.太陽が隠れる時間を利用し、『狩』を行う。雨が止んだら近くの民家に退避。
4.綾、ウォーズマンを利用する。
【東城綾@いちご100%】
[状態]:吸血鬼化。波紋を受けたため半身がドロドロに溶けた。ちょっとブルー。
[装備]:特になし
[道具]:荷物一式×3、ワルサーP38、天候棒(クリマタクト)@ワンピース
[思考]:1.DIOと共に行動。
2.DIOを優勝させ、西野つかさを蘇生させてもらう。
3.真中くんと二人で………。
- 229 :The Rain Heals A Scar10/11 ◆7euNFXayzo :2006/10/13(金) 23:47:32 ID:Czn75y0z0
-
その亡骸は笑っていた。
腹には拳大の風穴を開け。
片腕を紅に染めて。
血溜まりの中に埋もれながらも。
傷痕の顔を満足気にして、笑っていた。
亡骸に歩み寄る影が、一つ。
……『白銀の癒し手(スィルヴェン・マウンティア)』。
女の声が響くのと共に、亡骸の傷が癒えていく。腹の傷も、腕の傷も、顔の傷、も――
ちょっと待て、顔はそのままでいいんだよ。
え、どうして?
……気が向いたら、教えてやる。
亡骸の傍に、気付けば影は、二つ。
友達も向こうで待ってたよ。なんかオジサンみたいな顔のオトコのコと、怖そうだけどカッコいいオトコのコ。
――ハッ、泣かせてくれんじゃねーか、アイツら。
マミークン。
あ?
……お疲れ様。
――ケッ。
……ありがとよ。
- 230 :The Rain Heals A Scar10/11 ◆7euNFXayzo :2006/10/13(金) 23:49:07 ID:Czn75y0z0
-
二つの影は、やがて降り落ちる雫の群れの中へと、静かに溶けて、消えていった。
その場には、眠るようにして横たわる少年の安らかな笑顔だけが、残された。
【マミー@世紀末リーダー伝たけし! 死亡確認】
【残り31人】
※フリーザ軍戦闘スーツ@ドラゴンボールはマミーが装着したまま。
手裏剣はマミーの亡骸の側に放置されています。
- 231 : ◆bV1oL9nkXc :2006/10/15(日) 08:28:12 ID:QLZncapk0
- 【善でも、悪でも、】の修正です。
度々申し訳ありません。
>>186の三行目
>南――四国へと向かうのは勇者達の一行。 を
>南西――四国へと向かうのは勇者達の一行。
>>190の十九行目
>せめて大鳴門橋の手前まで行くぞ!を
>せめて瀬戸大橋の手前まで行くぞ!
>>194の十二行目
>両津達が雨宿りの為に立ち寄ったのは大鳴門橋手前の民家。を
>両津達が雨宿りの為に立ち寄ったのは瀬戸大橋手前の民家。
>>195の十八行目
>窓から見える大鳴門橋を一度睨んだ後、を
>窓から見える瀬戸大橋を一度睨んだ後、
>>208の四行目
>四国へ続く大鳴門橋。を
>四国へ続く瀬戸大橋。
- 232 : ◆bV1oL9nkXc :2006/10/15(日) 08:29:08 ID:QLZncapk0
- >>216の一行目
【兵庫県・大鳴門橋/二日目/昼】を【岡山県・瀬戸大橋/二日目/昼】
八行目
>大鳴門橋手前の民家で星矢達と合流。を
>瀬戸大橋手前の民家で星矢達と合流。
二十二行目
【兵庫県/二日目/昼】を【岡山県/二日目/昼】
>>217の十五行目
>大鳴門橋手前の民家で両津達と合流。を
>瀬戸大橋手前の民家で両津達と合流。
十九行目
【兵庫県・大鳴門橋手前の民家付近/二日目/昼】を【岡山県・瀬戸大橋手前の民家付近/二日目/昼】
に修正します。
- 233 :ニューヨークのヤムチャ:2006/10/15(日) 12:07:50 ID:PMTE9q9q0
- ここは、ニューヨークの繁華街。
そこに、一人の青年がいた。
彼の名は、ヤムチャ。
正確にいうとヤムチャ3世。
100年前、タカヤとの激闘で戦死した初代ヤムチャの子孫だ。
あの闘いの後、彼は一人の子を残した。
それは、ブルマのお腹に宿った隠し子だ。
- 234 :ニューヨークのヤムチャ:2006/10/15(日) 12:17:17 ID:PMTE9q9q0
- 産み落とされたヤムチャ2世は、悟飯とビーデルの子、パンと恋に落ちた。
そして、二人は一人の子を授かることとなる。
それが、この物語の主人公3代目ヤムチャなのだ。
代々、ヤムチャ一族には、首筋にアザを持っている。
それは、タカヤの闘いでできた、後遺症。
きれいに、狼の形を象っている。
「傷が疼くな…」
それは、新たなる闘いの予感か。
- 235 :Rain of passing each other ◆B042tUwMgE :2006/10/17(火) 23:45:19 ID:8bmZSkMe0
- 九時になりました。
名古屋駅に、列車がやって来ます。
東からは、西へ向かう下り電車が。
西からは、東に向かう上り電車が。
私たちが乗り込むのは、東から西へ向かう下り電車。
目的地は滋賀県、琵琶湖です。
普通に徒歩でも行ける距離だけど、富士山の登頂を終えたばかりの仙道君は大変お疲れです。
それでなくても、私たちはたくさんの修羅場を潜り抜けてここに立っているのです。
山梨県で巻き起こった闘争の数々は、肉体的にも精神的にも堪えました。
死んでしまった仲間もいます。
その仲間が残してくれたものもあります。
私たちは、それをみんなに伝えなくてはいけないのです。
生き残った者として。
生かされた者として。
私、槇村香は元気です。
〜〜〜〜〜
- 236 :Rain of passing each other ◆B042tUwMgE :2006/10/17(火) 23:46:13 ID:8bmZSkMe0
- 列車が着きました。
俺と香さんはこの列車に乗って、滋賀県へ向かいます。
琵琶湖の近辺には、警察官であるという秋本麗子さん、そして聖矢という少年がいるはずです。
既に移動してしまっているかもしれないけど、俺たちは、なんとしてでも彼等を捜さなくてはいけないんです。
太公望さんや、デスマスクさん、それに三井さんの死を無駄にしないためにも。
共に、脱出の道を歩むために。
俺と香さんは恐る恐る車内を覗き込み、他の乗客がいないかどうかを確認します。
どうやら大丈夫そうです。
俺と香さんは座席に着き、発車を待ちます。
停車時間は五分。
その間に、新たな乗客が訪れないとも限りません。
俺は用心として、如意棒を装備。
ポケットには『六亡星の呪縛』を忍ばせ、万が一に備えます。
もしこの五分で、香さんの害となる人物が乗り込んできたとしたら。
俺が、この命に代えてでも。
仙道彰が、香さんを守ります。
〜〜〜〜〜
- 237 :Rain of passing each other ◆B042tUwMgE :2006/10/17(火) 23:47:09 ID:8bmZSkMe0
- 私としたことが、とんだミスを犯してしまったようですな。
名古屋に列車が到着するのは、約九時零分。
出発するのは、約九時五分。
余裕を持って行動していたものの、ケンシロウさんや追手内洋一君との一件で、すっかり時間を浪費してしまった。
その上、この空から降り注ぐ雨が煩わしいことこの上ない。
悠長に雨宿りなどしている暇はなく、私はサクラさんと共に名古屋駅に駆け込みます。
おお、列車は既に到着しているようですね。
現在時刻は九時四分。
なんと、列車の発車時刻まであと一分を切っているではありませんか。
私とサクラさんは慌てて走る速度を速め、列車に直進していきます。
しかし無情。
あと数メートルというところで列車の扉が閉まりだし、絶体絶命の窮地に。
どんどん閉まっていく扉を見て、私はもう駄目だと思いました。
しかし、そんな考えは一瞬で吹き飛んだのです。
ここで列車を逃せば、また雨の中を歩かなければならない。
そんな無駄な労力を使うくらいなら、私はこのギリギリの刹那に全てを懸ける。
とうとう、使うべきときがやってきたようですね。
この私が開発した、天下一級品の駆け込み乗車術、その名もアビゲイル・ロケットを!
みなさんは、駆け込み乗車はいけませんよ byアビゲイル
〜〜〜〜〜
- 238 :Rain of passing each other ◆B042tUwMgE :2006/10/17(火) 23:47:51 ID:8bmZSkMe0
- あと少しで、下り列車の扉が閉まってしまう。
焦りだした私は、咄嗟に車内に飛び込もうとしました。
でもそれよりも早く、隣を走っていたアビゲイルさんが私の腕を掴んだんです。
それもすごい勢い。
腕がもげるんじゃないだろうかという一瞬の心配をかき消し、私は風になりました。
アビゲイルさんは、私の腕を掴んだままダイブしたのです。
今正に扉が閉まりきろうとしていた車内に。
無理やり、捻じ込むように。
その刹那に見えたアビゲイルさんの横顔は、やたら恍惚としていて、なんつーか、いつもよりキモイ。
キモかったんです。
キモかったんです。
いや、本当に。
繰り返して言いたいほど。
あの一瞬はあんまり思い出したくないけど、とにもかくにも、私たちは列車に乗り込むことが出来たのです。
アビゲイルさんの、なんだかよく分からない妙技で。
でも、波乱って結構とめどなく来るものなんですよね。
列車の中には、既に先客がいたんですよ。
男性と女性が、一組。
しかも男性の方は、棍みたいな武器を持ってるし。
やだこれ、ひょっとしてピンチ到来? by春野サクラ。
〜〜〜〜〜
- 239 :Rain of passing each other ◆B042tUwMgE :2006/10/17(火) 23:48:54 ID:8bmZSkMe0
- 発車直前、すごい顔ですごい勢いで駆け込んできたのは、やたら濃ゆい顔のおじさんでした。
一緒に女の子もいたけれど、それよりもなによりも、そのおじさんの顔が濃ゆすぎてあんまり印象にありません。
突然の来訪者に、仙道君は如意棒を構えます。
もしこの二人が敵であるならば、とてもまずい状況です。
列車は既に走り出し、外へは脱出不可能。
しかも相手は二人組み、片方を『六亡星の呪縛』で封じても、片方にやられてしまう。
この二人が敵なら、私たちはガチンコで戦い、勝利しなければ生き延びられない。
私の盾になる形で、仙道君が一歩前に出ます。
そして、如意棒を構えたまま質問を投げかけます。
質問の内容は、もちろんゲームに乗っているのかいないのか。
仙道君のこの質問に対し、二人組みの答えは男性、女性共にノー。
嘘をついている可能性も十分にあったのですが、私は直感で、この二人は敵ではないと感じました。
必死に顔を横に振って否定する女の子はもちろん、濃ゆい顔のおじさんも、悪い人には見えなかったから。
いや、おじさんの方は見ようによっては悪い人に見えなくもないけど……むしろ悪人面かもしれないけど。
まぁデスマスクさんみたいな前例もあるし、きっといい人だと思う。
仙道君も私と同じことを感じたようで、警戒は解かないものの、如意棒を下げて二人組みに名を尋ねました。
そして私、槇村香は、アビゲイルさんと春野サクラちゃんに出会ったのです。
〜〜〜〜〜
- 240 :Rain of passing each other ◆B042tUwMgE :2006/10/17(火) 23:49:39 ID:8bmZSkMe0
- 話を聞くに、この二人も脱出を目指しているらしい。
それもアビゲイルさんは、『冥界の預言者』と呼ばれる暗黒の僧侶だそうで、首輪の解析にも力を入れているそうです。
そしてサクラさんは忍者をやっているらしく、傷の治療もできるという。
この二人を仲間に出来れば、とても心強い。
問題は、この二人が嘘をついているんじゃないかってところです。
もしここで俺が決断を誤れば、香さんの身を危険に晒すことになってしまいます。
それだけは避けなければならない。
香さんを守るためには、多少なりとも疑心暗鬼にならなければいけないんです。
そのときの俺は、よっぽど怖い顔をしていたのでしょう。
自分でも気づかぬ内に、まだ信頼しきれいていない乗客二人を睨みつけていたのです。
そのことを気づかせてくれたのが、香さんの優しい一言です。
大丈夫。
それだけ、耳元で囁いてくれて、俺の心は平静を取り戻したのです。
俺はアビゲイルさんとサクラさんを信用することに決め、情報交換を持ちかけました。
そしてその第一歩として判明したのは、お互いの目的地。
アビゲイルさんとサクラさんは、両津勘吉という仲間が待つ四国に向かうんだとか。
四国といえば、太公望さんの仲間のダイという少年がいるはずの場所です。
四国はいずれは向かわなければいけない場所ですが、俺たちはその前に琵琶湖で秋本麗子と星矢という人物を確認しなければならない。
今を逃せば琵琶湖を立ち寄る機会が遠のいてしまう。
だからといって、このままアビゲイルさんたちと別れてしまうのは惜しい。
俺、仙道彰は悩みます。
〜〜〜〜〜
- 241 :Rain of passing each other ◆B042tUwMgE :2006/10/17(火) 23:50:50 ID:8bmZSkMe0
- 四人で自己紹介などしていたら、三十分という時間などあっという間に過ぎ去るものです。
列車は仙道君たちの目的地である滋賀県に到着し、我々は別れの時を迎えました。
しかしせっかく出会えた同志、このまま別離してしまうのは勿体無い。
そこで私は、サクラさんにこんな提案を持ちかけました。
四国行きは一旦先送りにし、私たちもここで降りましょう。
サクラさんの仲間の状況を第一に考えての四国行きでしたが、三人の内の二人が、三時間以上も前に死亡してしまった今、残りの一人が未だ四国にいるとは限りません。
それに、外は未だ雨脚が強い。
必然的に列車を利用する参加者も多くなり、それを狙って狩りに躍り出るマーダーも出てくるはず。
危険性を避けるために、ここは一旦休止し、仙道君たちに同行するのが得策でしょう。
私の提案に多少は渋るかと思ったサクラさんですが、思ったよりもすんなり聞き入れてくれました。
状況を正確に把握し、感情に流されず、ベストな選択肢を選び出す。
この物分りのよさも、忍特有のスキルといったところでしょうか。
とにかく、これで問題解決。
我々は更なる情報交換を続けるため、四人で列車を降りました。
無人の列車が走り出し、西へ進んでいきます。
私、アビゲイルはその列車を振り向かない。
〜〜〜〜〜
- 242 :Rain of passing each other ◆B042tUwMgE :2006/10/17(火) 23:52:59 ID:8bmZSkMe0
- なんでも、仙道さんと香さんには、太公望という公明な仙人の仲間がいたらしい。
一日目の時点で死んでしまったものの、彼には大勢の仲間がいて、その内の二人が琵琶湖にいるかもしれないというのです。
仙道さんたちの目的は太公望さんの仲間たちと合流し、太公望さんが掴んだ脱出のためのヒントを伝えること。
滋賀県で列車を降り、琵琶湖に向かっているのもそのためです。
まだ四国にいるかもしれない両津さんが心配だけど……うまくいけば、四国に残った太公望さんの仲間たちと合流できているかもしれない。
今は、アビゲイルさん、仙道さん、香さんの三人と一緒に、仲間を捜すことに専念することにします。
両津さん、どうか無事でいてください。
もう、ナルトみたいな悲しいことにはならないで。
……一応、ヤムチャさんも。
雨の降りしきる中、私たちは一件の小屋に到達しました。
琵琶湖の周囲に建てられた小屋の中では、一番大きな建物。
太公望さんの仲間がいる可能性のある小屋です。
中から物音は聞こえてきません。
誰もいないのか、それとも寝ているのか。
万が一マーダーが根城にしているとしたら……そのときは、私が。
そして、春野サクラは扉を開きます。
〜〜〜〜〜
- 243 :Rain of passing each other ◆B042tUwMgE :2006/10/17(火) 23:53:59 ID:8bmZSkMe0
- 中を見て、私の顔は青褪めました。
室内は無人。
それはまだいいんです。
問題なのは、室内が荒れていたこと。
位置のずれたベッド。
散乱する椅子と机。
床を濡らす、血。
ここで誰かが争い、傷ついたということは明白でした。
それも、床に付着した血を見るに、まだそんなに時間は経っていないようです。
イコール、この付近にまだ傷ついた者と傷つけられた者がいる。
そしてそれは、太公望さんの仲間たちかもしれない。
これは一大事だ、と真っ先に動いたのは、仙道君でした。
扉を開け、一目散に外へ駆け出します。
私もアビゲイルさんもサクラちゃんも止めようとしましたが、仙道君は聞こうとしません。
おそらく、一人でこの周囲を捜索するつもりなのでしょう。
そんな危険な真似、一人でさせられるわけがない。
私は仙道君を追うため、小屋を飛び出しました。
そして槇村香は、雨の中、地に伏す仙道君を見たのです。
〜〜〜〜〜
- 244 :Rain of passing each other ◆B042tUwMgE :2006/10/17(火) 23:54:39 ID:8bmZSkMe0
- サクラさんの診断によれば、どうやら仙道君は風邪をひいてしまったようです。
極度の睡眠不足を押し切っての山登り。
雨の中をユニフォーム一枚で疾走。
その上、女性一人を守らなければという男としてのプレッシャー。
そんな状態で無理をすれば、そりゃぶっ倒れもしますよ。
限界に達した仙道君の身体は高熱を帯び、現在は小屋に戻ってサクラさんと香さんの看病を受けています。
さすがのサクラさんも病には弱いらしく、傷を治すみたいに簡単にはいかないようです。
何しろこのゲームに薬品類は支給されていませんからね。
もちろん街の薬局や病院を回ってもそんなものは手に入らないでしょう。
仙道君は、ある意味一番厄介な敵にぶつかってしまったというわけですな。
しかし辛そうです。
ここまで、相当無理をやらかしてきたんでしょう。
これが呪いや毒の類なら、私にもどうにかできるのですが。
しかし仙道君がこんな状態では、無闇に動き回ることもできない。
雨はまだ降っているようですし、この期に休息を取るべきですかね。
見れば、香さんも相当眠たそうな顔をしています。
本当に、この二人はこんな虚弱な体で、どんな修羅場をくぐってきたと言うのか。
やれやれと思いながら、紳士的なアビゲイルは香さんと看病を交代してあげるのです。
〜〜〜〜〜
- 245 :Rain of passing each other ◆B042tUwMgE :2006/10/17(火) 23:55:13 ID:8bmZSkMe0
- 仙道さんと香さんが眠り、今起きているのは私とアビゲイルさんのみという状況。
このまま仙道さんの看病を続けるべきかとも思いましたが、それでは次の行動が遅くなってしまいます。
仙道さんにはなるべく早く良くなってもらわないと。
そこで私は、アビゲイルさんに単身での外出を提案しました。
目的は、病に効く薬草を探し出すこと。
薬は置いてないかもしれないけど、薬になるような草花なら採取できるかもしれない。
もちろん、周囲にはこの小屋を襲った危険人物がいるかもしれない。
だからこそ、私は単身で出て行くことを進言したのです。
仮にも私は木ノ葉の忍。
例え敵に襲われたとて、任務を果たすまでは絶対に死なない覚悟です。
アビゲイルさんは露骨に嫌そうな(心配からだろうけど)顔をしましたが、なんとか了承してくれました。
仙道さんと香さんをアビゲイルさんに任せ、私は外へ赴きます。
さっさと薬草を探して、薬を調合してあげなきゃ。
仙道さん……どうか、私が、春野サクラが戻るまで頑張って。
〜〜〜〜〜
- 246 :Rain of passing each other ◆B042tUwMgE :2006/10/17(火) 23:55:48 ID:8bmZSkMe0
- チッ。
どうやらハズレだったようだ。
京都駅に到着した列車には誰も乗り込んでおらず、そこから闘争は生まれなかった。
強い奴と出会えるチャンスかとも思ったが……どうやら運に見放されているみたいだな。
列車の待ち伏せが無駄に終わってしまい、俺は次なる進路を定めた。
次の行き先は、西、兵庫県。
稲妻の術者の詳細を確かめるため、足を運んでみることにしよう。
運がよければ、こんどこそ強敵と出会えるはずだ。
去り際、一人女が喧しく騒いでいたが、俺には関係ない。
こんな雑魚にも劣る馬鹿女、俺が手を下さなくても、どうせどこかで死ぬ。
無駄な時間を割くよりも、今は稲妻の術者を捜す方が先決だ。
俺、飛影は強者を求めて空を舞う。
〜〜〜〜〜
- 247 :Rain of passing each other ◆B042tUwMgE :2006/10/17(火) 23:57:39 ID:8bmZSkMe0
- なんっなのよアイツ!
ミサにあんだけ無礼を働いた上に、去り際はシカトだしさ!
その上武器まで奪っていくしぃ〜〜〜悔しいぃぃ〜〜〜!
はぁ……月ぉ……ミサ、いきなり挫折しそうだよ。
さっきからずっと降ってる雨で服も髪びっしょりだしさぁ。
もう、雨が止むまでどっかの家でシャワーでも借りちゃおうかな。
早く月を生き返らせてあげたいけど……それくらいのワガママ、月なら許してくれるよね?
でも武器がなくなっちゃったから不安……いっそLのところまで戻って……あ、そうだ!
なんで今まで忘れちゃってたんだろう。
いや、むしろ今を思い出せたことを誇るべきよ。
あそこにあったじゃん、武器。
意気揚々とスキップを踏み、ミサミサは進路を南に取るのです。
〜〜〜〜〜
- 248 :Rain of passing each other ◆B042tUwMgE :2006/10/17(火) 23:58:17 ID:8bmZSkMe0
- その惨状は、見るに耐えない酷い有様だった。
もっとも、それは一般人の感覚だ。
こんなもの、霊界や魔界を行き来してきた俺にとっては毛ほどの恐ろしさも感じない。
燃やし尽くされ、焼け焦げた木々や雑草の残骸。
数時間前、ここ兵庫県で、大規模な爆発が起こった。
それは間違いない。
問題は、誰がやったかだ。
考えられるのは、あの稲妻の術者。
これが稲妻の術による被害とは到底思えないが、他に該当者が見当たらない。
まぁ、その術者と敵対していた参加者とも考えられるが……どちらも、既に近くにはいないようだ。
どうする?
もっと西へ足を運んでみるか?
それとも、一旦関西方面へ引き返すか?
どちらを選ぶにしても、当てが外れたことに変わりはない。
俺は苛立ちを覚えながらも、再び脚を進めた。
その先には、今度こそ。
飛影は、止みつつある雨をものともせず、進む。
〜〜〜〜〜
- 249 :Rain of passing each other ◆B042tUwMgE :2006/10/17(火) 23:59:05 ID:8bmZSkMe0
- あった、あった!
雨ざらしになりながらも、まだそこに二つの死体は残っていた。
昨日の夕方頃、大阪で見つけた首なし死体と槍刺し死体。
話では藍染さんの仲間だったそうなんだけど、今となってはそれも本当かどうか。
ま、それは別にいっか。
ミサが欲しいのはこの槍ぃー。
あたしは槍を死体からズプププと引き抜き、自分の武器として頂戴することにした。
フフフフフ。
これで他の参加者をいっぱい殺して、早くピッコロを優勝させちゃお。
初めて見たときはビックリして逃げ出しちゃった死体だけど、今となってはあんまり嫌な気分はしない。
これって、ミサが強くなったってことじゃない?
そうだ、どうせ武器が手に入ったんなら、この期に練習しておかなくちゃ。
なんせミサってば誰からも好かれるアイドルで、自分自身の手で人を殺したことなんてないから。
デスノート? あれは名前書くだけじゃん。
だから本番になって戸惑わないように、この二つの死体を使って練習しちゃおっと。
人を殺す練習。
そうしてミサミサは、二つの死体を華麗に解体しちゃうのです♪
〜〜〜〜〜
- 250 :Rain of passing each other ◆B042tUwMgE :2006/10/17(火) 23:59:36 ID:8bmZSkMe0
- 雨が傷に響く。
意識が薄れる。
肩を貸してくれる越前君は、そんな僕をしきりに励ましてくれた。
斗貴子さんはどこに消えたんだろ。
僕たちの力じゃ、彼女を追うことは叶わなかった。
仕方ないから、琵琶湖に帰ってきた。
この辺でのたれ死んでる……はずの、若島津を供養してやらなくちゃ。
ナンバー2……若島津……この世界で唯一、お通ちゃんの魅力を理解してくれた同志だったのに。
もう、いないんだよな。
そういえば、姉崎さんは無事かな。
若島津を誰が殺したのかは分からないけれど、彼女まで死んだら、僕は。
また、誰も守れなかったことになる。
そんなの、父上や姉上や銀さんに申し訳が立たない。
はぁ……。
ごめんね越前くん、迷惑かけて。
ごめんね斗貴子さん、僕が不甲斐ないばっかりに、あんなことになっちゃって。
チクショー! 情けないぞ志村新八、シャキっとしろ!
〜〜〜〜〜
- 251 :Rain of passing each other ◆B042tUwMgE :2006/10/18(水) 00:00:28 ID:3CpdWCV90
- 見慣れた景色が戻ってきた。
琵琶湖……ここに来るのももう二度目かな。
結局あのミニスカのお姉さんは見つけられなかった。
見つけてどうするって問題でもないと思うんだけど、新八サンはどうしてもあの人を止めたがってたみたいだから。
でももうさすがに限界だよ。
ただでさえ雨が降ってるっていうのに、こんな大怪我で、人探しなんてできるわけないじゃん。
ったく、俺がいなかったらアンタ今頃死んでたよ。
恩着せがましいかもしれないけど、ホント、感謝してよね。
って……駄目だ、眠ってる。
しょうがない。
このまま担いで、あの小屋まで運んであげるか。
トレーニングだと思えば、全然苦じゃないよ。
青学、越前リョーマ、まだ生きてます。
〜〜〜〜〜
- 252 :Rain of passing each other ◆B042tUwMgE :2006/10/18(水) 00:01:05 ID:3CpdWCV90
-
放送が近づくにつれ、雨脚はどんどん弱まっていく。
雨が晴れた後には、きっと晴天が覗き、空に虹がかかることだろう。
その天の元で、殺戮が行われようとしても。
願いましょう。
この雨が、最後の雨にならないことを。
このすれ違いと出会いを、幸運と思いましょう。
未来に、虹がかかると信じましょう。
- 253 :Rain of passing each other ◆B042tUwMgE :2006/10/18(水) 00:01:44 ID:3CpdWCV90
- 【滋賀県/琵琶湖湖畔の小屋/昼】
【仙道彰@スラムダンク】
[状態]:睡眠中、発熱、疲労大、負傷多数(サクラによって治療済み)。軽度の火傷。太公望から様々な情報を得ている。
[装備]:如意棒@ドラゴンボール
[道具]:支給品一式(食料一日分消費)
遊戯王カード
「真紅眼の黒竜」「光の護封剣」「闇の護風壁」「ホーリーエルフの祝福」…二日目の真夜中まで使用不可能
「六芒星の呪縛」 五光石@封神演義、トランシーバー×3(故障のため使用不可)、兵糧丸(3粒)@NARUTO
[思考]:1、何があっても香を守り抜く。
2、琵琶湖、四国と巡り、太公望の仲間と接触。太公望からの情報を伝える。
3、追手内洋一を探す。
4、アビゲイルと協力し、首輪の解除。
5、ゲームから脱出し、仲間とともに主催者を倒す。
【槇村香@CITY HUNTER】
[状態]:睡眠中、疲労小、右足捻挫。少し走れるほどには回復した。太公望から様々な情報を得ている。
[装備]:ウソップパウンド@ONE PIECE
[道具]:荷物一式(食料三人分)、アイアンボールボーガン(大)@ジョジョの奇妙な冒険 (弾切れ)
[思考]:1、休息を取る。
2、仙道の看病。
3、琵琶湖、四国と巡り、太公望の仲間と接触。太公望からの情報を伝える。
4、追手内洋一を探す。
5、アビゲイルと協力し、首輪の解除。
6、ゲームから脱出し、仲間とともに主催者を倒す。
- 254 :Rain of passing each other ◆B042tUwMgE :2006/10/18(水) 00:04:21 ID:3CpdWCV90
- 【アビゲイル@バスタード】
[状態]:左肩貫通創。全身、特に右半身に排撃貝の反動大。無数の裂傷(傷はサクラによって治療済み)、
[装備]:雷神剣@バスタード、ディオスクロイ@ブラックキャット、排撃貝@ワンピース、ベレッタM92(残弾数、予備含め31発)
[道具]:荷物一式×4(食料・水、十七日分、一食分消費)、首輪、ドラゴンレーダー(オリハルコン探知可能)@ドラゴンボール、超神水@ドラゴンボール、
無限刃@るろうに剣心、ヒル魔のマシンガン@アイシールド21(残弾数は不明)
[思考]:1.仙道の看病をしつつ、サクラの帰りを待つ。
2.香、サクラを護る。
3.なるべく早い内に斗貴子を止めたい。
4.レーダーを使ってアイテム回収、所有者の特定。
5.首輪の解析を進める。
6.協力者を増やす。
7.ゲームを脱出。
【滋賀県/琵琶湖周辺/昼】
【春野サクラ@ナルト】
[状態]:ナルトの死によるショック中(少し立ち直りました)
[装備]:マルス@ブラックキャット
[道具]:荷物一式(二食分の食料を消費、半日分をヤムチャに譲る)
[思考]:1.琵琶湖周辺で薬草を探す。
2.琵琶湖周辺で秋本麗子、星矢を捜索。
3.四国で両津達と合流。
4.四国で合流できない場合、予定通り3日目の朝には兵庫県に戻る。無理なら琵琶湖
5.ケンシロウ、洋一を心配。
6. ヤムチャは放っておこう。
- 255 :Rain of passing each other ◆B042tUwMgE :2006/10/18(水) 00:04:54 ID:3CpdWCV90
- 【志村新八@銀魂】
[状態]:睡眠中。重度の疲労。全身所々に擦過傷。特に右腕が酷く、人差し指、中指、薬指が骨折。上腕部に大きな切傷(止血済み)。
顔面にダメージ。歯数本破損。朦朧。たんこぶ多数。貧血。
[装備]:無し
[道具]:荷物一式、 火口の荷物(半分の食料)
毒牙の鎖@ダイの大冒険(一かすりしただけでも死に至る猛毒が回るアクセサリー型武器)
[思考]:1、小屋に戻って休息。
2、もう一度斗貴子に会いたい。
3、藍染の計画を阻止。
4、まもりを守る。
5、銀時、神楽、沖田、冴子の分も生きる(絶対に死なない)。
6、主催者につっこむ(主催者の打倒)。
【越前リョーマ@テニスの王子様】
[状態]:非親衛隊員。重度の疲労。脇腹に、軽度の切傷(止血済み)
[装備]:線路で拾った石×1
[道具]:マキ○ン
[思考]:1、小屋に戻って休息。
2、新八が無茶をしないよう見張る。
3、新八の傷を治してくれる人を捜す。
4、藍染の計画を阻止。
5、死なない。
6、生き残って罪を償う。
- 256 :Rain of passing each other ◆B042tUwMgE :2006/10/18(水) 00:05:45 ID:3CpdWCV90
- 【兵庫県/昼】
【飛影@幽遊白書】
[状態]全身に無数の裂傷
[装備]真空の斧@ダイの大冒険
[道具]荷物一式
[思考]1:稲妻の術者(ダイとは知らない)の確認。
2:強いやつを倒す。
3:桑原(の仲間)を探す。
4:氷泪石を探す(まず見付かるまいし、無くても構わない)。
5:ピッコロ、アビゲイルを探す。
【大阪市内/昼】
【弥海砂@DEATHNOTE】
[状態]軽度の疲労、興奮状態、衣服が血に塗れている
[装備]魔槍@ダイの大冒険
[道具]荷物一式×3(一食分消費)
[思考]1:どこかでシャワーを浴びる。
2:ピッコロを捜しつつ人数減らし。
3:ドラゴンボールで月を生き返らせてもらう。
4:いざとなったら自分が優勝し、主催者に月を生き返らせてもらう。
5:友情マンを殺し、月の仇を取る。
6:ピッコロを優勝させる。
※追手内洋一の情報はまだ仙道と香には伝わっていません。
※大阪市内に放置されていた大蛇丸と富樫源次の死体がバラバラに解体されました。
- 257 :駅にて ◆pKH1mSw/N6 :2006/10/18(水) 23:39:05 ID:6wH8nrYa0
- 朝の陽射しが昼の陽光へと移り行く時間帯。
本来なら、目を眩ませるほどの熱線を乱射する太陽が拝める時だ。
地表の熱の殆どを生み出す太陽を、奉る筈の大空。
今はしかし、その全身を、ドロドロと濁りきったヘドロのような雨雲に侵食され尽くしていた。
黒に限りなく近い灰色に蹂躙され続けている空は、大粒の涙を流す。
涙。涙。涙雨。
ザアザアと、流された涙が地表に降り注ぎ、落ちて、砕ける。
ザアザアザア、ザアザアザア
雨音は周囲の音を掻き消し、吸収し、静寂を創り出す。
一定のリズムを刻む雨音だけが聞こえる、有音の静寂を。
ザアザアザア、ザアザアザア
降り続く雨。止まない音。繰り返す静寂。
ザアザアザア、ザアザアザア
と、そこで
…………カッシャカッシャ、カッシャカッシャ…………
静寂が破られた。
車輪が、鉄の車輪が、汽車の車輪が動く、駆動音。
落ちて砕け、唯の水滴となった雨を車輪とレールで磨り潰し
ザアザアという雨音を汽笛で打ち砕き
静寂を繰り返す雨のカーテンを鉄の身体でブチ抜き
汽車は奔る。
東へ、東へと驀進する。
- 258 :駅にて ◆pKH1mSw/N6 :2006/10/18(水) 23:39:50 ID:6wH8nrYa0
- 堕ちた水滴が、窓にベタリと張り付く。
汽車の中に進入しようとした水滴は、しかし耐え切れず脱落する。
跡に残るのは、斜めに引かれた透明の線分。
ビシリ、ビシリ
雨達は飽きることなく、傷一つすらつけることができない斬り跡を残し続ける。
斬り跡はやがて、汽車の速度によって後ろに吹き飛ばされていく。
しかしすぐに、新しい斬り跡が、
ビシリ、ビシリ
その繰り返し。
飛刀は、そんな光景をボンヤリと眺めていた。
傍らには血塗れのウソップの死体。
溢れ出た血は飛刀の刀身をヒタヒタと濡らし、カラカラと乾き、パリパリと固まって赤色に染め上げた。
黒く変色した血液は、時間の経過をもの語る。
――どうして誰も戻ってこないんだろうなァ。
ウソップの最期の言葉を聞き届けてから数時間経っても、キン肉マンも志々雄も戻ってはこなかった。
果たして二人はどうなったのか。
暗鬱たる気分で汽車に揺られていると、いらぬ想像をしてしまう。
オレのことなど忘れてしまったのか。
汽車を降りてしまったのか。
それとも、死んでしまったのか。
歩くことができない飛刀に確かめる術はない。
汽車は奔る。
刀も、死体も、想いすら閉じ込めて。
※ ※ ※
- 259 :駅にて ◆pKH1mSw/N6 :2006/10/18(水) 23:40:30 ID:6wH8nrYa0
- 「だ……りゃァッ!」
気合と共にルフィは悟空をベンチの上に放り投げた。
ベンチがギシリと撓み、それでも何とか悟空の体重を支えきる。
「ゼェゼェ……肉、食いてェ……」
気絶中の悟空をそのままに、ルフィは地面に大の字に転がった。
『埼玉駅』の文字が描かれた建物を雨避けの仮宿に、ルフィは一時の休息を得る。
周囲から聞こえる雨音が、ルフィの気分を落ち着かせていく。
「起きたら、全部話してもらうぞ」
ベンチに横たわる悟空を見ながらルフィが呟く。
「……あァそうだ、ブッチャーとツバサはどこいった……っつーか、ここどこだ?」
ルフィはデイパックの中からコンパスと地図を取り出し、現在位置を確認しようとして―――やめた。
現在位置すらわからないからどうにもならない。
そう、ルフィは迷子になっていた。
「ナミがいれば楽にわかるんだけどなァ……」
いない仲間のことを言っても仕方がない。
とにかく今は。
「東京タワーに行く。 ブッチャー達も、ウォンチューとルギアも、カズマってやつもそこにいる」
(本当は今すぐにでも……けど、力が出ねェ)
ルフィの腹は激しく鳴り、空腹を訴えていた。
東京タワーは高い建物によじ登って後で探すことにして、今は何か食べることにする。
- 260 :駅にて ◆pKH1mSw/N6 :2006/10/18(水) 23:41:18 ID:6wH8nrYa0
- デイパックの中からスヴェンに譲って貰った食料を取り出す。
半日分の、しかしルフィにとってはおやつにも満たない食事を取りながら、ルフィはスヴェンのことを思い出していた。
出会ってから結局殆ど話をしなかった眼帯の紳士のことを考えると同時に、
今まで出会った仲間達の顔が、もう会うことができない仲間達の顔が頭の中を駆け巡る。
鎧を着込んだヒーロー。大きな角を持った牛のおっさん。猿。最後まで出会えなかった考古学者。そして、金髪の少女。
共に歩み、共に戦い、そして散っていった仲間達のことを、一人一人噛み締めるように反芻する。
ニコ・ロビンという、一人の女性を。
エテ吉という、一匹の獣を。
バッファローマンという、一人の超人を。
世直しマンという、一人のヒーローを。
スヴェンという、一人の紳士を。
イヴという、一人の少女を。
「……ぶっ飛ばしてやる」
主催者への怒りを顕にして、血を滾らせるルフィ。
その手の中で、食料を入れていた空き缶がグシャリと潰れた。
『汽車が参ります 白線の内側までお下がりください』
決意を新たにしたルフィの耳に、ややマヌケな声が聞こえてきた。
「誰だァッ!」
立ち上がって周囲を見渡しても誰もいない。
ルフィがその声を汽車到着のアナウンスだと理解すると同時、黒塗りの汽車が駅のホームに飛び込んできた。
黒煙を吐き出しながら、徐々にスピードを落としていく巨大な質量。
「何だこりゃ?」
見慣れない物体の登場に驚くルフィの前で汽車が完全に停止した。
アナウンスが響く。
『さいたま〜さいたま〜。停車時間は五分間となっております。駆け込み乗車はお止めください』
- 261 :駅にて ◆pKH1mSw/N6 :2006/10/18(水) 23:42:19 ID:6wH8nrYa0
- ドアが開いたその瞬間、
東京タワーのこと、
悟空のこと、
主催者のこと、
全部、吹き飛んだ。
「ウソォォォォォーーーーーーーーーッッップ!!!」
ルフィの目に飛び込んできたのは、赤。
ドス黒く変色した、赤、赤、赤。
そして、赤い海の中に沈む一人の男。
海賊にして狙撃手。発明家にして大嘘つき。そして何より、大切な仲間。
「しっかりしろォ!!」
ルフィはウソップの身体をホームの上にに引きずり出し、傷の手当てをしようとした。
しかし遅い。徹底的に無駄。完全無欠に手遅れだ。
ウソップはもう、終わっていた。
大きく目を見開き、土気色の顔を歪ませて死んでいた。
しかしルフィは諦めない。
(こんなときはどうすりゃいいんだチョッパー!)
頼れる船医も今はいない。
「クソォ……そうだ! 肉を食べさせれば……」
――そいつは無理だと思うぜ。 ウソップの旦那はもう、何も食べることはできない。
汽車の中からルフィに語りかけたのは一本の大剣。
刀身に浮かび上がった目とルフィの目がカチ合う。
ルフィは『剣が喋る』という奇妙な現象に怯むことなく飛刀を掴み上げた。
「テメェ……ウソップがどうしてこうなったか知ってんのか?」
――ああ、知ってる。 全部話してやるよ。
- 262 :駅にて ◆pKH1mSw/N6 :2006/10/18(水) 23:48:21 ID:6wH8nrYa0
- 伝えることは山ほどあるけれど。語ることは山ほどあるけれど。
まず第一に何よりも優先して伝えよう。
大嘘つきの、最期の虚勢を。
偉大なる海賊、キャプテン・ウソップの最後の言葉を。
――キャプテン・ウソップの生き様は、最後まで立派だった!
「うお!?」
――キャプテン・ウソップの死に様は、海の男らしい晴れ晴れした最後だった!
「お前……」
――偉大なる英雄にして世界の海を制した大海賊……キャプテン・ウソップは!
「……」
――サイコーの、仲間思いだァァァァァァァァァァァッッッ!!!
「――当たり前だァ!!!」
「じっでる゛んだよ゛、ぞんなごどは……」
ルフィは泣いた。7回目の仲間の喪失に。
大粒の涙を、悲しみを隠すことなく。
その横で、汽車のドアがゆっくりと閉まった。
がたんがたんと、汽車が動き出す。
一人と一体と一本を置き去りにして走り出す。
天はまだ泣いている。
死んでいった者達のために。
残された者達のために。
そして、死に逝く者達のために泣いている。
ザアザアザア、ザアザアザア
- 263 :駅にて ◆pKH1mSw/N6 :2006/10/18(水) 23:49:03 ID:6wH8nrYa0
- 【埼玉県/埼玉駅/昼】
【モンキー・D・ルフィ@ONE PIECE】
[状態]:両腕を初め、全身数箇所に火傷。疲労・ダメージ大。少し空腹。
:ギア・2(セカンド)を習得
[装備]:飛刀@封神演義
[道具]:荷物一式(食料無し)
[思考]1:飛刀からウソップのことを聞く。
2:ブチャラティ、翼、ルキア、ボンチューと合流する為に東京タワーへ
3:"仲間"を守る為に強くなる
4:"仲間"とともに生き残る。
5:仲間を探す
【孫悟空@ドラゴンボール】
[状態]:顎骨を負傷。出血多量。各部位裂傷
:疲労・ダメージ大。 空腹でまともに動けない
[装備]:サイヤ人用硬質ラバー製戦闘ジャケット@ドラゴンボール
[道具]:荷物一式(食料無し、水残り半分)
:ボールペン数本
:禁鞭@封神演義
[思考]1:気絶中
2:不明
※ウソップの死体と支給品:荷物一式(食料・水、残り3/4)
:賢者のアクアマリン@ハンター×ハンター
:いびつなパチンコ(特製チクチク星×5、石数個)、大量の輪ゴム、ボロいスカーフ×2
:死者への往復葉書@ハンター×ハンター (カード化解除。残り八枚)
:参號夷腕坊@るろうに剣心
は埼玉駅のホームに置いてあります。
※汽車の中には、スナイパーライフル(残弾15発)、キメラの翼@ダイの大冒険が落ちています。
- 264 :駅にて(修正) ◆pKH1mSw/N6 :2006/10/19(木) 00:10:09 ID:G29ZDtov0
- >>259の六行目と>>263の一行目の
「埼玉駅」を「さいたま新都心駅」に変更します。
議論スレで指摘してくださった方、ありがとうございます。
- 265 :柱の男:2006/10/19(木) 13:11:05 ID:bsNOVtLM0
- ―サハラ砂漠エリアB24地点―
ピー ピー
「はい。例の化石、見つかりました。
今すぐ、そちらに送ります」
発掘されたのは、人のような形をした化石。
というよりか、それは化石と一体化していた。
- 266 :化石の男:2006/10/19(木) 13:24:09 ID:bsNOVtLM0
- ここは、日本軍、東京基地。
何人かの兵士が、先ほど送られてきた化石を解剖していた。
「なにか、分かったことは?」
「はい、こいつの名はカイン。1000年ほど前に実在した人物です」
「で、例の刻印については?」
この化石の左肩下部から、妙な文字が刻まれていたのだ。
『KIYU』と。
そこへ、一人の男が入ってきた。
100年前に行なわれたバトルロワイアルの優勝者にして、
この日本に、自分の私兵軍を創った人物。
化石の捜索も、彼が命令してのだ。
男の名は、仙道彰。
- 267 :作者の都合により名無しです:2006/10/26(木) 18:04:56 ID:wA99ittq0
- 保守
- 268 :『偽りの友情』に反逆せよ ◆kOZX7S8gY. :2006/10/27(金) 01:34:20 ID:6ft++4d+0
- 朽木ルキアが目を覚ましたのは、全ての決着がついた後だった。
時は放送直前。
危惧していたボンチューの戦い、合流予定だったルフィや翼の命運、
その全てに関与することができず、ルキアは後悔する間もなく、時間の経過を受け入れたのだ。
「目覚められたか、ルキア殿」
眠りから覚めたルキアに挨拶を贈ったのは、額に『大往生』の三文字を刻んだ大柄の男。
男塾一号生雷電。ルキアを昏倒させた張本人だった。
目覚めて早々、ルキアは不機嫌な瞳で雷電を睨みつけた。
言葉はなくとも物語っている。
何故あの時、私を止めたのだ。と、そう言いたいのだ。
「……拙者のことが憎かろう。だが、これも全てはボンチュー殿との誓いのため」
「また、『男と男の信義』か」
首筋に違和感を覚えながらも、ルキアは立ち上がり、周囲を見渡す。
そこは薄暗い一室。外からは尚も雨が降り注ぐ轟音が聞こえる。
時間は、確かに経過してしまったのだ。
ルキアは雷電に嫌悪感を抱きつつも表には出さず、質問だけした。
「ここはどこなのだ? あれからどれくらいの時が経った? 承太郎殿はどこに行った?」
「ここは埼玉県、時刻は11時を回り、もう間もなく放送でござる。承太郎殿は……重傷の身を押して、付近の探索に出ておられる」
「埼玉? 翼たちとの合流場所は東京ではなかったのか?」
「東京には既に立ち寄った。だが、誰もいなかったのだ。……壮絶な、戦いの跡を残すだけで」
数時間前、まだルキアが雷電の背で眠っていた頃。
二人の重傷人と降り止まぬ豪雨を考慮し、鈍行で東京に向かっていた雷電達が東京に到着したのは、10時近くのこと。
東京に足を踏み入れた時点で、戦闘音や何者かの叫び声を聞こえてきたが、確認しようにも手駒が足りない。
ルキアは気絶中であり、承太郎も火傷等で満足には戦えない。
唯一二人を守れる雷電だったが、二人を残して戦闘音を確認しに行くわけにもいかない。
雷電達は待機を迫られ、東京を探索したのは10時を回ってからになってしまった。
- 269 :『偽りの友情』に反逆せよ ◆kOZX7S8gY. :2006/10/27(金) 01:35:23 ID:6ft++4d+0
- 「そのときには既に終わっていたのだ。何者かと何者かによる戦闘が。
粉々に砕け散った大地や拉げた電柱などが目に入ったが、生憎それをやったであろう当人たちは発見できなかった」
「東京タワーには、誰もいなかったのか?」
「うむ。ブチャラティ殿、翼殿、姿は知らぬがルフィ殿も、そこにはいなかった。
ただ一つ、付近の地面に北を示す矢印があったので、それを辿ってここまで来たのだが……」
「合流は、まだ果たせていないということか」
この部屋にいない承太郎が、その事実を物語っている。
おそらく、火傷の身を押して仲間の捜索に出向いてくれているのだろう。放送間際のギリギリまで。
「むっ……? 噂をすれば影。どうやら、JOJO殿が戻られたようだ」
雨音に混じった人の気配を察知し、雷電は玄関口に向かう。
ルキアもその後を追い、共に承太郎を出迎えようとするが、
二人が玄関前まで脚を運んだ瞬間、薄っぺらい木の扉は、何者かによって乱暴に蹴破られた。
「承太郎殿!?」
その正体は、なんら問題ない、雷電とルキアが出迎えようとしていた空条承太郎だった。
ズブ濡れになった学ランから水を滴らせ、不機嫌そうに二人を睨みつける。
背には、二人の男が背負われていた。
ルキアと雷電が、背負われた二人の顔を確認して顔を青くさせた刹那、
「大空翼と、ブローノ・ブチャラティは死んだ」
逸早くその遺体を発見し、ここまで担いで来た張本人が、怒りの口調で告げた。
- 270 :『偽りの友情』に反逆せよ ◆kOZX7S8gY. :2006/10/27(金) 01:36:30 ID:6ft++4d+0
-
そこは、どうにか雨風が凌げる程度の粗末なボロ屋。
その一室、カビでも生えていそうな青臭い畳の上に、二者の遺体が置かれる。
大空翼とブローノ・ブチャラティ。
チームメイトであり、ファミリーであり、仲間だった二人が、死んだ。
誰が殺したのか。ヤムチャか。
何故死んだのか。戦ってか。
真相は分からない。
死人は物を語らない。
ただ理解できることは一つ。
大切な仲間が、死んだ。
「やはり……私か? ……私が、死を招いているのか?」
死体から目が放せない。
釘付けになった視線は、ルキアのもの。
「私が……死神だから……」
死を招くから、死神。
種族や役職のことではない。
朽木ルキアに関わった人間は、確かに死を迎えているのだ。
- 271 :『偽りの友情』に反逆せよ ◆kOZX7S8gY. :2006/10/27(金) 01:37:14 ID:6ft++4d+0
- 坂田銀時。
海馬瀬人。
バッファローマン。
スヴェン・ボルフィード。
イヴ。
世直しマン。
大空翼。
そして、ひょっとしたらボンチューやルフィも……
「みんな、私のせいだというのか! 一護が死んだのも! 翼が死んだのも!
バッファローマンや世直しマン……イヴやスヴェン殿が死んだのも!」
明度的にも心境的にも暗い一室の中に、ルキアの悲痛な叫び声が充満する。
「私はいつも、皆に守られるだけ……あの時も、尸魂界に幽閉された時も、私は助けられるだけだった!
私がいなければ……私さえ生きていなければ……!!」
死神だから。
覆せない事実が、ルキアの心を汚染していく。
「あまり気に病まれるな、ルキア殿。翼殿とブチャラティ殿は、戦って死んだのだ。男として、これ以上の最後はなかろう」
雷電が優しい言葉を投げかけるが、ルキアは聞く耳を持たない。
ちっぽけな慰めは、時として起爆剤にもなる。
今のルキアの状態は正にそうだ。
周囲の親しみを持った人間が、次々死んでいく。
自分自身は九死に一生を得ながら、今も生きているのに。
こんな現実、並みの精神力では立ち向かえない。
- 272 :『偽りの友情』に反逆せよ ◆kOZX7S8gY. :2006/10/27(金) 01:44:30 ID:6ft++4d+0
- 「ならば訊くぞ雷電! あの時、ボンチューを助けに向かおうとした私を何故止めた!?」
「言ったはず。男と男の信義を違えるわけにはいかぬからだ」
「だがそのせいで、あやつは死ぬかもしれない! 私は生かされておきながらだ!
そうまでして、何故私を生かす!? 私の命に、どれほどの価値がある!?
皆を犠牲にして生き延びる者など、死神以外の何者でもないではないか!!
それでもまだ、私に気に病むなと――」
「喧しい!!!」
ゴチンッ、と鈍い音が響いた。
激昂したルキア、その扱いに四苦八苦していた雷電が、途端に黙りこくる。
ルキアは、自分の頭部が承太郎のゲンコツによって殴られたという事実も分からず、キョトンとした瞳を怒れる学ランに送っていた。
「ギャーギャー喚くんじゃねぇ! 俺は煩い女が大嫌いなんだ!」
唖然とするルキアの胸ぐらを掴み、承太郎は怒りの形相を近づける。
その血走った視線には生気が満ち溢れ、自分を蔑んでいたルキアとは、まったくの対極に位置している。
「いいかよく聞け! 翼やブチャラティ、それに世直しマンは、己の精神を貫き、最後まで戦い抜いて死んでいったんだ!
それがテメーみたいな小娘一人のせいだと!? ふざけるな!!」
声を荒げ、少女を威嚇しているというその光景だけでも、ルキアと雷電にとっては衝撃的なものだった。
普段は決して冷静さを失わず、クレイジーな翼のストッパーとしてクールを貫いてきた承太郎。
その承太郎が、今は桑原を彷彿させるほどの熱さを見せていた。
- 273 :『偽りの友情』に反逆せよ ◆kOZX7S8gY. :2006/10/27(金) 01:45:35 ID:6ft++4d+0
- 「翼のチーム結成の夢が崩れたのはテメーのせいか!? ブチャラティが志半ばで退場していったのはテメーのせいか!?
テメーは何様だ!? 全ての死者が、テメーのために死んでいってるとでも思ってんのか!!?」
――今頃になって、承太郎に殴られた頭部が痛み出してきた。
この痛みは、以前にも味わったことがある。
ボンチューが、バッファローマンが、世直しマンが自分を諭してくれた、ゲンコツの痛み。
「いいか!? この先誰が死んだとしても、テメーは二度と俺の前で悲しむな!
泣きたいなら、部屋の隅ですすり泣け! 自分を悲観したいなら、いっそ自殺でもしちまえ! いいな!」
そう言い捨て、承太郎はルキアの胸ぐらを乱暴に突き飛ばした。
ルキアは唖然としたまま反応をよこさず、承太郎はそんなルキアに興味を示すこともなく、玄関口へ向かっていった。
「JOJO殿! どこへ行かれる!?」
「散歩だ。放送までには戻ってくる。……それと雷電、悪いが二人を埋葬してやってくれ。
……そこで不貞腐れてる死神も、それくらいはできるだろうからよ」
振り返らず、声だけで返答して、承太郎は出て行ってしまった。
後に残された雷電は、承太郎の身を案じつつも、仲間の死体のために埋葬のための準備を進める。
「立てるか、ルキア殿」
「…………大丈夫だ、雷電殿。……迷惑をかけた」
静かに陳謝したルキアに、雷電は変わらぬ強面の表情で答えた。
立ち上がり、再度翼とブチャラティの遺体に手を合わせる。
黙祷。
- 274 :『偽りの友情』に反逆せよ ◆kOZX7S8gY. :2006/10/27(金) 01:46:33 ID:6ft++4d+0
- (承太郎殿には、感謝をしなくてはいけないな)
もう少しで、ルキアは腐ってしまうところだった。
バッファローマンが、世直しマンが、ボンチューが、なんのためにルキアの周りに居てくれたのか、それを忘れてしまうところだった。
単に守られていただけではない。
今生きていることには、それ相応の理由がある。
死んでいった皆のためにも、ルキアは腐るわけにはいかない。
「……いかがした、ルキア殿?」
「いや、なんでもない」
気がつけば、不謹慎にも笑ってしまっていた。
今は翼とブチャラティの埋葬中だというのに。
(この者たちの思いは、私と雷電殿、そして承太郎殿が受け継ぐ)
土に埋もれていく二人の仲間。
その最後をしかと目に焼き付けて、
死神、朽木ルキアは、
二度と、俯かないと誓うのだ――
- 275 :『偽りの友情』に反逆せよ ◆kOZX7S8gY. :2006/10/27(金) 01:47:10 ID:6ft++4d+0
- 止みつつある雨の下、承太郎は一つの球体を弄ぶ。
茶色から黒く変色し、ところどころ削れて球の形を失いつつある、木製のサッカーボール。
翼の死体横に転がっていた、他でもない承太郎自身が作り出し、翼に託した彼等の“絆”だった。
「ボールは友達、か」
いつか、翼が言っていた言葉だ。
サッカーを愛し、ボールを愛し、チームメイトを愛した、我等のキャプテン。
彼が残したこのボールには、どんな信念が刻まれているというのか。
「11人の仲間集め……今から再開するには、さすがに骨が折れるな……やれやれだぜ」
無謀な挑戦だとは、思う。
だが、これは亡きキャプテンの夢だ。
仲間ではあるがチームメイトになったつもりはない承太郎、だがそれでも。
「『主催者』は、必ず『打倒』する。それでいいだろ、翼――」
半壊気味の木製サッカーボールを宙に放り、承太郎は『スタンド』を発現させた。
スタープラチナ。またの名を、星の白銀。
この輝きを、翼に、翼の友達に、翼との絆に――
- 276 :『偽りの友情』に反逆せよ ◆kOZX7S8gY. :2006/10/27(金) 01:49:06 ID:6ft++4d+0
- 「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァァ!」
宙に待ったボールを、『スタープラチナ』の拳が穿つ。
粉々に砕けた木片は地に返り、自然へと戻る。
だが、翼の信念だけは、『スタープラチナ』の、承太郎の拳に残る。
「翼……おまえの『信念』は、俺が確かに受け継いだ! 例えどちらかが果てようとも……俺とお前は『チーム』だ」
振り返らず、仲間が待つボロ屋へ帰還の道を辿る承太郎。
その手には、ドーナツ状の金属物質が一つ。
こちらは、ブチャラティが残してくれた『信念』。
必ず主催者を打倒し、生きて帰れという――イタリアンギャングからのぶっきらぼうなメッセージだった。
- 277 :『偽りの友情』に反逆せよ ◆kOZX7S8gY. :2006/10/27(金) 01:50:29 ID:6ft++4d+0
- 【埼玉県/2日目・昼】
【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:左腕骨折・肩に貫通傷・全身各所に打撲・左半身に重度の火傷(以上応急処置済み)
[装備]:シャハルの鏡@ダイの大冒険
[道具]:荷物一式(食料二食分、水少量消費)、双子座の黄金聖衣@聖闘士星矢、らっきょ(二つ消費)@ラッキーマン、ドーナツ状に分断された首輪
[思考]:1.ルフィの捜索。桑原、ボンチューとの合流。
2.首輪の解析。
3.翼とブチャラティを殺害した人物を突き止め、仇を取る(ヤムチャが怪しいと睨んでいる)。
4.悟空、仲間にできるような人物(できればクールな奴がいい)、ダイを捜す。
5.主催者を『必ず』打倒する。
【雷電@魁!!男塾】
[状態]:健康
[装備]:木刀(洞爺湖と刻んである)@銀魂、斬魄刀@ブリーチ(一護の衣服の一部+幽助の頭髪が結び付けられている)
[道具]:荷物一式(水と食料を一日分消費)
[思考]:1.ルフィの捜索。桑原、ボンチューとの合流。
2.何があっても仲間を守る。
【朽木ルキア@ブリーチ】
[状態]:重傷・重度の疲労・右腕に軽度の火傷
[装備]:斬魄刀(袖白雪)@ブリーチ・コルトパイソン357マグナム(残弾21発)@シティーハンター
[道具]:荷物一式・バッファローマンの荷物一式、遊戯王カード(青眼の白龍・使用可能)@遊戯王
[思考]:1.ルフィの捜索。桑原、ボンチューとの合流。
2.ゲームから脱出。
3.仲間が死んでも、もう自分を蔑むことはしない。
4.いつか必ず、フレイザードとピッコロを倒す。
※ブチャラティ、翼の死体は埋葬しました。
- 278 :『偽りの友情』に反逆せよ ◆kOZX7S8gY. :2006/10/27(金) 01:51:32 ID:6ft++4d+0
- 「このミクロバンドという腕輪は、実に素晴らしいアイテムだ!」
時は、放送直前。場所は東京の外れ。
大空翼、ブローノ・ブチャラティの二人組みと激戦を繰り広げ、その命を奪っていった諸悪の根源が、そこにいた。
ブチャラティに“ソダリッツィオ・ブジャルド[偽りの友情]”と罵られたヒーロー、友情マンである。
彼の周囲には支給食料である菓子パンの屑が食い散らかされ、友情マンはその中心で恍惚な気分に浸っていた。
数時間前まで悩まされていた、『空腹』という生の一大事を、あるアイテムのおかげで一挙に解決できたからである。
装着者の身体を縮小するという超常科学の結晶、ミクロバンド。
ブチャラティの荷物からこれを入手した友情マンは、この応用性抜群のアイテムを何よりもまず、食事に使っていた。
例え一個のパンでも、自らの身体を小さくして食べれば、そのボリュームは何倍にも膨れ上がる。
そんな食いしん坊な小学生が思いつきそうな夢の発想を、友情マンはミクロバンドを使って実際にやってのけたのだ。
結果、たった一個のパンで友情マンの胃袋は満腹になった。
今後もこれを有効活用していけば、例え悟空のようなイレギュラーが発生したとしても大丈夫。
ただでさえ、現在友情マンが所有している食料は膨大な量なのだ。
空腹という名の敵は完全に退けた。
次に成すべきことは、これからの方針についてだ。
既にゲームが始まって約一日半。
その間友情マンは、東北、関東、中部地方を練り歩き、何人もの友達を得ることに成功した。
中にはペドロ、ガラ、悟空と、『友情マンのために』犠牲になってしまった友達も大勢いたが、それは友情を育んだ仲ならば当然のこと。悲しむことではない。
「僕の友達で生き残っているのは……桑原君に斗貴子君か。
二人とも今はどこにいるかも分からないし……やっぱり、身近に友達が誰もいないっていうのは落ち着かないなぁ」
- 279 :『偽りの友情』に反逆せよ ◆kOZX7S8gY. :2006/10/27(金) 01:52:11 ID:6ft++4d+0
- 100人以上いた参加者は既に40人近くにまで減った。
間もなく放送が流れるが、今まで通りのペースでいけば、おそらく既に30人近くにはなっていることだろう。
そんな中で、友情マンの友達として成り立つ人材がどれだけいるか。それが問題だった。
「もうこの近くに、僕の友達になってくれそうな人はいないのかもな……ここは思いきって、西に移動してみるかな」
関西や中国方面ならば、まだ見ぬ友達候補達が友情マンを待っているかもしれない。
ゲーム中にはまだピッコロのような要注意人物もいるし、勝利マンを倒した参加者も依然健在の可能性がある。
友情マンには、まだまだたくさんの友達が必要だった。
友達を守ってくれて、友達のために死んでくれる、素敵な『友情』を持った人材が。
友情マン。その名の通り、友情を信条にする正義のヒーロー。
彼が掲げ、信じる『友情』は、断じて『ソダリッツィオ・ブジャルド[偽りの友情]』などではない。
「さて、そうと決まればさっそく出発――うぉっ!?」
食事を済ませた友情マンが、早速西へ歩を進めようとした瞬間。
足元を、一つの影が通り抜けていった。
「な、なんだ!? …………く、黒猫?」
その影の正体を確認した友情マンは、一瞬の驚きを恥に感じるほど拍子抜けした。
足元を駆け抜けていったのは、なんてことはない、ただの小さな黒猫。
このゲーム内でも野生動物はなんどか見たが、黒猫を見るのは初めてだった。
「雨が降っているというのに、猫が出歩くとは珍しい……。
しかし、日本では黒猫が道を横切ると不幸が訪れるという迷信もあるしな。
猫とはいえ、ここは友好的に……」
- 280 :『偽りの友情』に反逆せよ ◆kOZX7S8gY. :2006/10/27(金) 01:53:48 ID:6ft++4d+0
- 駆け去ろうとしていた黒猫を、チチチッと声で呼び寄せ、友達になろうと試みる友情マン。
だが黒猫はそんな友情マンには見向きもせず、その場を離れていってしまった。
「…………フン。まあいいさ。猫なんかと友達になったって、僕にはなんのメリットもない」
なついてこなかったのが悔しかったのか、友情マンは素っ気ない態度を取りながら、一人西への旅路を進めて行った。
黒猫が通り過ぎていったことなど、単なる偶然なのかもしれない。
たかが迷信と、笑い飛ばすのが正解なのかもしれない。
『友情』を『偽り』と信じず貫く者に、不幸が訪れるか訪れないかは、また別のお話――
【東京都/最西端/昼】
【友情マン@とっても!ラッキーマン】
[状態]:腕を骨折
:全身に強い打撲ダメージ
[装備]遊戯王カード@遊戯王(千本ナイフ、光の封札剣、ブラックマジシャン、ブラックマジシャンガール、落とし穴は全て24時間後まで使用不能)
[道具]:荷物一式(水・食料残り六日と半日分)
:千年ロッドの仕込み刃@遊戯王
:スーパー・エイジャ@ジョジョの奇妙な冒険
:ミクロバンド@ドラゴンボール
:ボールペン数本
:青酸カリ
[思考]1:休息を取りつつのんびり西へ移動。
2:頼りになる友達を作る。
3:参加者を全滅させる。
4:最後の一人になる。
- 281 :仙道の過去:2006/10/27(金) 13:33:21 ID:1phT5lAt0
- あれは、100年前のことだった。
―バトルロワイアル―
仙道も参加者の一人だった。
当初は、脱出派に属しており、主催者の居場所も突き止め、いざ最終決戦という所だったのだが…
仙道の頭に一つの疑惑がよぎる。
「本当に、フリーザ達に勝てるのか?」
仙道の結論は、NO。
結果として、脱出派の仲間達を裏切り殺してしまった。
そして最期の一人になり、晴れてこのゲームの優勝者となった訳だ。
- 282 :仙道の過去:2006/10/27(金) 13:34:24 ID:1phT5lAt0
- それから、俺は主催者達の元へ赴き、褒美ももらった。
余談だが、ある人物を生き返らせてもらった。
その後、おれは魔物に転生し、バーンの部下となった。
強くなりたかった、ただそれだけで。
100年の後、おれは『タカヤ』とう超生物がいたことを思い出した。
そいつが再び活動を始めようとすることも、予感で感じた。
そして、仙道は人間界に戻り、今に至る。
その頃、ヤムチャも仙道達の下へ向かっていた。
「タカヤの野郎…今度こそぶっ殺してやるぜ!!!」
- 283 :第六放送[二日目12:00] ◆kOZX7S8gY. :2006/10/29(日) 00:33:13 ID:IpDMWWmI0
- 日は頂点にまで昇り詰め、着々と大地を照らす準備を進めている。
天と地を遮る雨雲は次第に抵抗を止め、少しずつ、少しずつ晴れていく。
晴れた空に掛かるのは、希望の虹か。
それとも、再び絶望の血雨が流れるか。
確認するは、地よりも天よりも高くに位置する存在達。
例え虹が掛かろうと、地の雨が降ろうと、やることはこれまでと変わりない。
晴天、雨天関係なしに、この世界の時間は進む――
――ご機嫌いかがですかな、皆さん。
今回の放送は私、フリーザが担当します。
放送も今回で六回目。さすがに悲しむことにも慣れてきましたかね?
フフフ……失礼。このようなことを言っては、またバーンさんに叱られてしまいますね。
あなた方は実によく働いておられる。このゲームを企画した側としても、実に嬉しく思いますよ。
それでは、そろそろ脱落してしまった方々の名を読み上げるとしますか……
おっと、私ばかり喋るというのもなんなので、今回はハーデスさんの手を借りるとしましょうか。
ではハーデスさん。お願いします。
――藍染惣右介、ウソップ、小早川瀬那、大空翼、キン肉スグル、ウォーズマン、ブローノ・ブチャラティ、志々雄真実、ボンチュー、マミー――以上の10名だ。
――おや? 今回もそれだけですかハーデスさん。
いけませんねぇ。寡黙もいいですが、あまり度がすぎると、皆さんに疑われてしまいますよ?
ハーデスさんという人物が、本当に存在するのかどうか。
あなたには優勝者へのご褒美として、死者の蘇生をしてもらわなくてはならないのですから。
悪戯に存在感を失くし、生き残っている皆さんの不安を煽るような真似は感心しませんねぇ……ホホホ。
- 284 :第六放送[二日目12:00] ◆kOZX7S8gY. :2006/10/29(日) 00:34:17 ID:IpDMWWmI0
- ――…………………………………………
――ああ、すいません。どうかお気を悪くしないでくださいハーデスさん。
生憎と、これが私の性分でして……ホホ……失礼。
では気を取り直して、新たに追加される禁止エリアを発表しましょうか。
――新たに追加される禁止エリアは、『千葉県』『石川県』『福井県』です。
また一段と狭くなってしまいましたねぇ。
皆さんも、不用意に禁止エリア近くを出歩くことはやめた方がいいですよ。
さて、話は変わりますが、午前中の天候はどうでしたか?
私の予報したとおり、ほとんどの地域で雨、所によっては雪も降っていたようですが……
この先も同じようなことが起きないとは限りませんからねぇ。十分に用心してください。
ところで皆さん、『首輪』は正常に動いていますか?
いえね、この雨で万が一故障でもしたら大変だと思いまして。
なにせ精密機械ですからねぇ……ああでも、これまでの放送で名前を読み上げられた方々は、皆さん確かに死亡しているのでご心配なく。
残った皆さんのせっかくの功績が、糠喜びだったでは報われませんからね。
- 285 :第六放送[二日目12:00] ◆kOZX7S8gY. :2006/10/29(日) 00:35:01 ID:IpDMWWmI0
- ――残り人数も少なくなり、さらなる激戦が繰り広げられることでしょう。
この期に及んで、首輪を弄っていたらボンッ――なんていうつまらない死に方だけはなさらないように。
首輪遊びをなさるなら、慎重に、丁寧に、それ以上自分の首を絞めることにならぬよう注意して臨んでください。
私共としても、やはりクライマックスには盛り上がりが欲しいですからね。
それではまた六時間後。今度は、夜にお会いしましょう。
【現在二日目/日中/正午過ぎ/残り31人】
- 286 :第六放送[二日目12:00] ◆fMebUY.FDs :2006/10/29(日) 12:37:06 ID:ZKkx53MT0
- あ、あと一つ言い忘れていました。
もう一人、死亡者が出たんです。
友情マン。
自殺したようです。
まったくここまで来て、何考えてるんでしょうね。
それでは… またお会いしましょう。
【現在二日目/日中/正午過ぎ/残り30人】
- 287 :暗い森 ◆pKH1mSw/N6 :2006/10/30(月) 01:20:09 ID:DyVmsRQp0
- 「ウォーズマンは死んだか」
広葉樹林が生い茂る黒い森に吸血鬼が二匹。
放送の残響残る暗闇に、ニンゲンをやめたイキモノが二匹。
人間とは”異質”な者達を取り囲むのは、暗い森。時刻を無視した夜の森。
地面には落ち葉が敷き詰められ、シダ植物が鬱蒼と周りを囲んでいるのが見渡せた。
青緑の苔と、有機物のくせになぜか無機質な樹木の幹が組み合わさった視界に、
僅かな木漏れ日が差し込んで、奇妙な生ぬるさを感じさせる。
「ウォーズマンは戦闘のプロフェッショナルだった。
機械の身体を持ち、人間などには決して負けない戦士だった。
綾、勝てる実力を持っていながらウォーズマンはなぜ負けたと思うね?」
基本問題を出す先生のように、軽い調子で尋ねるDIO。
「…………わかりません」
しかし綾は、DIOの問いに対する解答を持ち合わせてはいなかった。
根が優等生である綾は、答えをひねり出そうとウォーズマンのことを思い浮かべるが、
思い出せたのは、ただただ無表情の黒マスクだけだった。
怒りはない。悲しみもない。戸惑いすら、ない。
果たして仲間と呼んでいいのかもわからない男の死に、特に感想はない。
無論DIOにとってもウォーズマンの死などは些事でしかない。
DIOが考えていることは――放送で呼ばれなかった目障りな男のことだけだ。
「ケンシロウは、このDIOの圧倒的な力を見ても尚追いかけてきた。
しかもたった一人で、だ」
たかが一人の女を殺された程度で命を捨てる。
バカげた男だが――それゆえ危険でもある。
「ケンシロウは……このDIOを倒すために自らの命を引き換えにしてもいいと思っている。
このDIOに挑むということはそういうことだ」
無謀。人間にとってはあまりにも無謀。
「バカげたことだが……しかし、そのバカげたことが結構重要なのだな。
ウォーズマンのヤツは忠誠を誓うと言っておきながら、
このDIOのために死んでもいいという覚悟ができていなかったということだ」
- 288 :暗い森 ◆pKH1mSw/N6 :2006/10/30(月) 01:21:05 ID:DyVmsRQp0
- DIOはそう言い捨てると、止めていた歩みを再会した。
ザクザクと落ち葉を踏み締める音がして、その後にもう一つの足音が続く。
四鬼夜行が、獣が朽ちて三鬼夜行。
そして今は、悪魔が還らず二鬼夜行。
――氷の精神に入った僅かな亀裂。
その亀裂はやがて氷塊をクモの巣のように駆け回り、結果、氷塊は一人の男によって破壊された。
DIOへの忠誠という氷塊は、不死鳥の炎によって溶け崩されたのだ。
だから悪魔は敗北した。
だからあとほんのチョットというところで勝利が掴めなかった。
ウォーズマンがDIOへの忠誠心を失わなければ――気絶したケンシロウをその場で始末していれば――
不死鳥は、羽撃かなかっただろう。
「さて綾、君に命令を与える」
西へと向かう歩みを止めることなく命令を出すDIO。
「なんでしょうか?」
「フン、雨足が大分弱まってきた。まもなく晴れ間も覗くだろう。放っておいてもあと数時間で夕方だが…………
念には念を入れて、ウォーズマンが早朝に発見したという新しいアジト候補『琵琶湖の小屋』へ向かう。
報告によると、琵琶湖付近はここより更に深い森で、尚且つ飲み水が大量に手に入るそうだ。
君はケンシロウを探し出し、このDIOの元に連れて来るんだ。わかったな?」
DIOはデイパックから双眼鏡を取り出すと、綾に向かって放り投げた。
空中に曲線を描く双眼鏡が綾の手元に届いた瞬間、
綾も、双眼鏡も、影さえも消え去った。
「わかりました――――」
ガサガサという葉擦れの音と、了解という意味の言葉だけを置き去りにして。
- 289 :暗い森 ◆pKH1mSw/N6 :2006/10/30(月) 01:21:47 ID:DyVmsRQp0
- 「フン」
DIOは軽く鼻を鳴らすと、西への侵略を開始する。
(新しいアジトに着いたら、まず周辺の地形を把握せねばな。特に、大量の水は使い道がある)
そこまで思考を続けて気付く。
『念には念を入れて』
このDIOが、不安になっている?
「バカらしい……」
DIOの首筋についた一筋の傷からドロリと血が垂れる。
獣が残した爪痕が、DIOの苛立ちを僅かに増幅させた。
※ ※ ※
「…………さて、説明してもらおうか」
「つ、ついてねぇーーーーーーーーーーーっ!」
第六放送は様々なものをもたらした。
とある死神には悲しみと新たな決意を。
とある少女には絶望を。
とある魔法使いには悔恨を。
そして、この少年には不幸を。
「なんでケンシロウってヤツが生きてるんだよ? 殺されたんじゃなかったのか、アァン?」
「ひ、ひえぇぇぇぇぇぇっ! じ、じんだど思っだんでずっ!」
「ピーピー泣くんじゃない! ったく……」
半泣きになって腰を抜かす洋一に、流石のヤムチャも詰問の調子を緩めた。
いや、この場合『流石ヤムチャ』と言うべきなのかもしれないが。
「まあいいや。これでお前を殺していいんだったな」
無慈悲に宣告し、手刀を構えるヤムチャ。
- 290 :暗い森 ◆pKH1mSw/N6 :2006/10/30(月) 01:22:49 ID:DyVmsRQp0
- 「ま、待ってぇ! や、ややや約束が違いまずっ!
あれは仇を討てたらってことで、別に死んでないなら……」
「往生際が悪い! どの道お前は役に立たないんだから大人しく殺されとけ!」
「うぅ…………ま、待って!」
もはや恥も外聞もなく(元から彼にはないが)額を地面に擦り付けて懇願していた洋一は、
意外なことにヤムチャの言葉に対して反応し、勢いよく顔を上げた。
「立つ! 役にだぢまずっ!」
ヤムチャは泥だらけの洋一の顔をまじまじと見つめた。次いで身体を見る。
細い腕。震える足。貧弱な身体。情けない顔。たまねぎな頭。
結論。
「嘘つけ」
「ほ、本当なんだよぉ!
確かに今は全く役に立たないけど、俺はらっきょを食べると変身して強いヒーローになれるんだ!
変身できたらヤムチャさんの人数減らしも手伝うから!」
――もうこれしかねー!
このまま殺されるのはイヤだ!
他の人間を殺すほうが死ぬよりマシだ!
ああ、でもヤムチャさんの計画だと一回死ななくちゃ……
でも今死ぬのはイヤだぁ!
洋一の頭の中では『生への渇望』が『人殺しへの恐怖』を次々と駆逐し始めた。
「本当かぁ?」
ヤムチャが疑わしそうな顔を向けても洋一は目を逸らさなかった。
充血して真っ赤になった目玉を大きく見開いて必死な表情を見せる。
追手内洋一らしくない根性。
生命への執着は、人を獣に変える。
(こんな情けないヤツが目を逸らさなかっただけでも、少しは信用できるか)
僅かばかりだが、ヤムチャの信用を勝ち取れたのはそのおかげだろう。
- 291 :暗い森 ◆pKH1mSw/N6 :2006/10/30(月) 01:31:14 ID:DyVmsRQp0
- 曰く。
普段情けない人物が見せる根性には一定の信用が置ける。
しかし、危機は去らない。
「変身できたとして、お前は俺より強いのか?
ま、言っちゃなんだが俺は地球人最強…………」
自慢げに実力を語りだす自信家に、ラッキーマンの強さをいかにして示すか。
洋一は無い頭を限界まで絞り切った。
「ヤ、ヤムチャさんは、ふ、ふふふ不幸に……運命に勝てると思いますかッ!?」
運命。
それは人間には干渉することができない神の所業。
世界を構築する歯車。
世界の道標。
予め決められた物語の台本。
「も、ももももし俺が幸運を操るヒーローに変身したらヤムチャさんはかかか、勝てると……
ひぃぃぃぃぃぃっ! ごめんなさいごめんなさい調子に乗りました!」
地面で額をゴリゴリと摩り下ろす音が響く。
めっちゃ怖い顔してるよヤムチャさん!
やっぱダメか! ついてねー!
「…………不幸、か」
と、洋一の予想とは裏腹に、頭上から降ってきたのは鉄拳ではなく呟きだった。
恐る恐る顔を上げると、ヤムチャが何やらブツブツと呟いている。
「……考えてみればそうだよな。俺の人生は常に不幸の連続だった……
ケチのつけ始めは、女性恐怖症だった頃に運悪くブルマの裸を見ちまったこと。
それからもぶっ飛ばした女の子が牛魔王の娘だったり……
天下一武道会では参加した三回とも一回戦から優勝者や神と戦うはめになったり……
雑魚のサイバイマンにすら自爆されて……クソッ、何て不幸なんだ!」
サイバイマンに自爆されたのは不幸でもなんでもなく、ただのヤムチャの油断なのだが敢えて何も言うまい。
- 292 :暗い森 ◆pKH1mSw/N6 :2006/10/30(月) 01:32:58 ID:DyVmsRQp0
- 激しく悔しがるヤムチャを見て、洋一は光明を見出した。
「そ、そうですよね! 不幸には勝てませんよね! じゃあ俺を仲間に……」
「いや。それとこれとは話が別だ」
「つ、ついてねぇーーーーーっ!」
当たり前の話だ。
証拠がないのだから。
「うう……俺、また死ぬのかぁ……」
「だ、大丈夫だって! 俺が絶対に復活させてやるからよ!」
ヤムチャも、洋一には同情するほかなかった。
これが普通の人間だったら躊躇せずに殺しているのだろうが、未だ洋一の首は繋がったままだ。
この期に及んでヤムチャはまだ気付かない。
洋一に奇妙な親近感を持っている自分に。
微妙に躊躇しているヤムチャの前で洋一がポツリと呟く。
ゲームの最初に思ったことを。
身勝手な本音を。
ヤムチャと同じ、願望を。
「結局いつもどおり冴えないままか……活躍、したかったなぁ」
敵に襲われ、仲間を見捨てて逃げ出した。
その次は仲間に見捨てられ、敵にさえも見捨てられた。
更に、恩人を助けようとして逆に大怪我をさせてしまった。
この島に来てからロクなことをやっていない。
「ついてねー…………」
「…………」
――こいつ、俺と同じだ。
ここに至ってようやく気付く。
洋一は、数時間前までのヤムチャ自身であると。
- 293 :暗い森 ◆pKH1mSw/N6 :2006/10/30(月) 01:33:47 ID:DyVmsRQp0
- 「……ああくそ、仕方ねえな。仲間にしてやるよ!」
「へ?」
急に意見を翻したヤムチャにキョトンとする洋一。
そんな洋一に向かってヤムチャは手を伸ばした。
洋一を起き上がらせるために。
ヘタレから立ち直らせるために。
「いいか? お前はこれから死に物狂いで活躍するんだ。
勇気を振り絞れば汚名返上も夢じゃない」
どこか、自分自身にも言い聞かせるようなヤムチャの言葉。
「は、はい! らっきょが手に入ったら必ず!」
差し伸べられたヤムチャの手を握り、嬉しさを隠さずに応える洋一。
(ラッキー! きっと俺の命乞いがヤムチャさんの心の琴線に触れたんだ!
これでらっきょさえ手に入らなかったら、ヤムチャさんに守り続けてもらえるかも!)
ヤムチャが洋一に手を差し伸べた理由は、多分、同族に対する哀れみ。
尤も、ヘタレの程度は洋一のほうが何倍も上だったのだが。
「さて、これからどうすっかな」
ケンシロウの敵討ちという目的は消滅してしまった。
愛知県にずっと留まっていた洋一が言うには、二日目以降、愛知県に悟空やピッコロは現れなかったようだ。
「だとしたら、悟空がまだ中部地方にいる確率は低いかな……移動するかぁ」
「そ、そうしましょう! (ケンシロウさんに見つかったら殺される! ……恨んでるだろうなぁ、きっと)」
東と西、どちらに行くべきか。
桃白白に勧められた西か。
それとも東にとんぼ返りするか。
ブローノ・ブチャラティが死に、小指のジッパーが消え去った今となっては脅威もない。
が、指針もない。
「……こいつで決めるか」
ヤムチャはバスケットボールを取り出すと人差し指の上でクルクルと回転させる。
- 294 :暗い森 ◆pKH1mSw/N6 :2006/10/30(月) 01:34:44 ID:DyVmsRQp0
- 「ほっ!」
回転しながら空中に突き上げられたボールは、頂点で一瞬止まったあと下降を開始する。
一度地面に当たって垂直にバウンドしたボールは――――
――――東へと転がった。
「よし、関東に向かうぞ」
「うえぇっ! そんなんで決めちゃうの!?」
まあ、ヤムチャさんが守ってくれるなら何でもいいけど。
(とにかく、らっきょだけは見つけないようにしないと……ラッキーマンになったら戦うはめになるしなぁ)
追手内洋一は知らない。
まさに関東にらっきょがあることを。
これが運命。
これが追手内洋一。
「おい、さっきらっきょがどうのこうの言ってたが、らっきょがなくても戦うんだぞ」
「ええええええっ! 俺、らっきょがないと戦えないよ〜」
「そんなことで汚名返上できると思ってるのか? 勇気を出せ!」
「わ、わかったよ〜 で、でも素手じゃ人は殺せないし、俺、握力も弱いし、素人だし……
そ、そうだ。武器が手に入ったら喜んで戦うって!
あ〜でも俺武器持ってないや。……え? ヤムチャさんも持ってないの?
困ったなぁ〜 武器があればいくらでも戦うんだけど。ついてねー、ついてねー……」
この直後、禁止エリアの静岡県を避けようと北上した二人は桃白白の死体を発見することになる。
当然、桃白白が身に着けていた脇差も。
これが運命。
これが追手内洋一。
「ついてねええええええええええええええええええええッッッ!!!」
- 295 :暗い森 ◆pKH1mSw/N6 :2006/10/30(月) 01:35:41 ID:DyVmsRQp0
- 【岐阜県南部/日中】
【DIO@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:脇腹に小ダメージ、首筋に浅い傷痕。
[装備]:忍具セット(手裏剣×7)@NARUTO−ナルト−
[道具]:荷物一式×2(食料の果物を少し消費)、
護送車(ガソリン無し、バッテリー切れ、ドアロック故障) @DEATH NOTE
[思考]:1.琵琶湖の小屋に移動。付近の地形(湖など)を使った戦闘方法を考える。
2.綾を使ってケンシロウをおびきよせ、殺害する。
3.得体の知れない不快感。
4.太陽が隠れる時間を利用し、『狩』を行う。雨が止んだら近くの民家に退避。
【愛知県北部/日中】
【東城綾@いちご100%】
[状態]:吸血鬼化。波紋を受けたため半身がドロドロに溶けた。マァムの腕をつけている。ちょっとブルー。
[装備]:双眼鏡
[道具]:荷物一式×3、ワルサーP38、天候棒(クリマタクト)@ワンピース
[思考]:1.双眼鏡を利用してケンシロウを見つけ出し、琵琶湖の小屋まで連れて行く。
2.DIOを優勝させ、西野つかさを蘇生させてもらう。
3.真中くんと二人で………。
- 296 :暗い森 ◆pKH1mSw/N6 :2006/10/30(月) 01:38:08 ID:DyVmsRQp0
- 【長野県/日中】
【追手内洋一@とっても!ラッキーマン】
[状態]:右腕骨折、全身数箇所に火傷、左ふくらはぎに銃創、背中打撲、軽度の疲労、鼻が折れた、左腕に擦り傷、額が削れた
[装備]:脇差
[道具]:荷物一式×2(食料一食分消費)
[思考]:1、ヤムチャの手伝いをする(戦いたくねー!)。
2、ラッキーマンに変身して参加者を殺す(らっきょ欲しくねー!)。
3、死にたくない。そのためなら人殺しも厭わない。
[備考]:ヤムチャはあまり洋一に期待していないため、悟空や斗貴子のことは話していません。
ドラゴンボールについての情報だけを話しました。
【ヤムチャ@ドラゴンボール】
[状態]:右小指喪失・左耳喪失・左脇腹に創傷(全て治療済み)ジッパーは消滅
超神水克服(力が限界まで引き出される)
[装備]:無し
[道具]:荷物一式×2(伊達と桃白白のもの)、一日分の食料、バスケットボール@スラムダンク
[思考]:1.洋一を活躍させてやる(らっきょを使った変身にはあまり期待していない)。無理な場合は諦めて殺す。
2.参加者を減らして皆の役に立つ。
3.あわよくば優勝して汚名返上。
4.悟空・ピッコロを探す。
5.友情マンを警戒(人相は斗貴子から伝えられている)。
- 297 :Vain dog(in rain drop) 1 ◆xJowo/pURw :2006/10/31(火) 20:10:19 ID:nnCnYf+G0
- 降りしきる雨の中を走っていた。
これでも体力には相当な自信があった。
ちょっとした運動選手ぐらいになら勝てるだろうと思っていた。
だが今、実際には子供に完敗してしまっている。
「ハァ、ハァ、くそっ、見失った!」
独り四国へ向かったダイを追い、両津はここまで全力で走ってきた。
だが疲労の溜まった体では、異界の勇者を捕まえるには少々些か荷が重すぎたようだ。
瀬戸大橋を渡り香川に着いたところで、ダイの姿が全く見えなくなってしまった。
限界を訴える体を労わって、走る勢いを緩める。
とはいえ、本当なら焦る必要は無いのだ。
全てはもう、6時間以上も前に終わっている。
ダイの向かう先は知っている。
香川山中のダムの、管理施設。その中の、ある一室。
……竜吉公主のいた部屋。
今更そこに行っても、彼女が生き返るわけではない。
それどころか、見るに耐えない、辛い現実が待っている筈だ。
それでも、ダイはあの場所に行かねばならないのだろう。
年端も行かない少年が、どうしてこんなにも過酷な運命を背負わなければいけないのか……
ゴツッ
考えながら歩いていると、何かにつまずいた。
泥にまみれたそれは、一目では分からなかったけれど、
よく見れば、それは人の足。
鵺野鳴介の遺体だった。
- 298 :Vain dog(in rain drop) 2 ◆xJowo/pURw :2006/10/31(火) 20:11:01 ID:nnCnYf+G0
- 「ぬっ、鵺野先生!!」
それが鵺野だと気付き、慌てて遺体を抱き起こす。
泥にまみれたその体は、すぐには人だとは判らなかった。
おそらくダイも気付かずにここを走り去ったのだ。
鵺野の遺体は傷だらけだった。何者かと戦った結果敗れ、力尽きたのだろう。
彼は怒りに我を失い、誰かと争った末に息絶えたのだろうか。
それとも、彼の生徒のような、弱者を守って死んだのだろうか。
……ああ、答えは後者だ。
彼の遺体からさほど離れていない場所に、銃で頭を打ち抜かれた少年の遺体が横たわっていた。
「くそっ!!こんな少年まで…!一体誰が!!」
未来ある少年に、生徒思いの教師。なぜ彼らが死ななければいけなかったのか。
無性に腹が立った。
誰に言うわけでもなく、燃え上がる怒りや無常観を声にしてぶちまけた。
だから、まさか返事が返ってくるとは思ってもいなかった。
「決まっているだろう、このゲームに乗った参加者に、だ。
……私のような、な。」
後ろを振り向くと、
雨の中に、セーラー服を着た死神が立っていた。
- 299 :Vain dog(in rain drop) 3 ◆xJowo/pURw :2006/10/31(火) 20:11:32 ID:nnCnYf+G0
- 「ど、どういう意味だ!?」
背筋を冷たい汗が流れる。
彼女は津村斗貴子。
先ほど会ったばかりなのだが、その時とは雰囲気が違う。
いや、まるで別人のようだ。
彼女から感じられるのは、威圧感と、……殺気?
本能的に、黒い装飾銃の収まったホルスターに手を伸ばす。
狼狽える自分とは対照的に、彼女は真直ぐに自分を見据えている。
そして、動いた。
「悪いが、あなたとゆっくり話している時間は無い。
早くダイ君に追いつかないといけないからな――。」
彼女はそう言い終わるより前に、自分に向かって突っ込んできた。
「ま、待て!儂の話を――」
「問答無用ッ!!」
納得できないが、するしかない。彼女には会話を交わす意思は無いのだと。
彼女にあるには、闘う意志……自分を殺すという、漆黒の意志だけだ。
咄嗟にハーディスを構え、彼女に照準を合わせる。
だが、
次の瞬間、彼女が消えた!
「遅い!」 ザンッ!
視野の外から、彼女の声と共に凶刃が飛来する。
驚異的なスピードだ!
「クソッ!」
咄嗟に、声のした方へ銃口を向ける。
しかし、流石に体が反射神経についていかない。
腕は向くのだが、肝心の銃を持った手が追いつかない。
- 300 :Vain dog(in rain drop) 4 ◆xJowo/pURw :2006/10/31(火) 20:12:15 ID:nnCnYf+G0
-
……ん?腕に手が追いつかない?
何かがおかしい。どういうことだ?
よく見れば、腕の先にあったはずの右手が、無くなっていた。
まるでどこかに置き忘れたかのように。
「うっ、うわぁぁっ!!!」
手首から鮮血が迸る。
「そのままッ!」
雨の中を死神が踊る。
「臓物をッ!ブチ撒けろぉぉッ!!」
刃が左右に滑ると同時に、視野が紅く染まった。
ああ、これは儂の血か。
世界が回る。ああ、儂は倒れているのか。
だんだんと、目の前が暗くなる。
儂は、死ぬのか……?
視野の端で、津村斗貴子はくるりと向きを変え、そのまま走り去っていった。
きっとダイを追うつもりなのだ。
「ダイ……お前は、死ぬな……」
しかし蚊の鳴くようなその呟きは、そのまま雨音に紛れて消えた。
* * * * * * * * * * * * *
- 301 :Vain dog(in rain drop) 5 ◆xJowo/pURw :2006/10/31(火) 20:19:31 ID:nnCnYf+G0
- 降りしきる雨の中を走っていた。獲物を追う猟犬のように。
だが、私の獲物は兎や狐の類ではない。
幼いが、粉うこと無き獅子の子供。ともすれば己が逆に屠られる、危険な獲物だ。
それを今から狩らねばならない。
今までのように心に迷いがあれば、彼を討つどころか返り討ちに会うのがオチだ。
迷うな。迷いを消し去れ。
迷いを塗り潰すんだ。
闘志で。殺意で
漆黒の意思で。
黒く、暗く、冥く、
私を全部塗り潰すんだ!!
…………
彼を見つけるのにはさほど時間はかからなかった。
雨で泥濘んだ道にははっきりと彼の足跡が残っていたし、虎の子のスカウターもある。
彼は、香川県の山中にある、ダムの管理施設内に居た。
人気の無い建物内に入り、彼の居る部屋へと、気配を殺して向かう。
そのとき、建物の中から声が聞こえた。
「公主さん、なんでっ、なんでっ!!うわぁぁぁぁっ!!」
彼の声だ。
その後に、途切れ途切れに嗚咽が続く。
誰かを悼んでいるのだろうか?そういえばこの場所には薄らと血の臭いが漂っている。
もしや、彼の居る部屋に居るのだろうか。悼むべき対象が。
彼の居る部屋へと近づくにつれ、血の臭いが濃くなってゆく。予想は当たりのようだ。
「公主さん……公主さん……」
彼のすすり泣く声もはっきりと聞こえるようになる。
- 302 :Vain dog(in rain drop) 6 ◆xJowo/pURw :2006/10/31(火) 20:20:06 ID:nnCnYf+G0
- そして、目的の部屋に辿り着く。
扉の隙間から部屋の中を伺うと、確かに少年はその部屋の中にいた。
一体の亡骸と共に。
腕が千切れ、顔を潰された女の遺体。赤の他人であっても、それは十分に痛ましい姿だった。
ましてや彼女は彼の知己。その心情は察するに余りある。
「うう……ひっく」
悲痛な声を漏らす彼は、勇者の称号を持っているとはいえ、やはりまだ少年なのだ。
親しい人の死に悲しみ嘆くその背中は、見た目以上に小さく感じる。
こんな小さな少年を殺す……
今、よりにもよってこんな時に、彼を手に掛けるのか。
これは、
これでは……
復と無い、好機ではないか。
冷静に、状況を見極める。
場所を、地形を。空間を。時を。
自分と、相手を。
そして、ベストのタイミングを計る。
その時は、間も無く訪れた。
――ご機嫌いかがですかな、皆さん。
――今だ!
* * * * * * * * * * * * *
- 303 :Vain dog(in rain drop) 7 ◆xJowo/pURw :2006/10/31(火) 20:20:46 ID:nnCnYf+G0
- 降りしきる雨の中を走っていた。公主さんのいたダムを目指して。
他のものには目もくれずに、ただひたすらに走っていた。マーダーが潜んでいるかもしれないのに。
いや、
本当は、公主さんやターちゃん達を殺したマーダーがまだ付近に留まっているとは、自分でも思っていなかった。
そいつはきっともう、次の獲物を求めてどこかへ行ってしまっているだろう。
それでも、俺は自分で行って確かめたかった。
もしかしたら。
公主さんやターちゃん達がまだ生きているんじゃないか、という僅かな希望が心の片隅に残っていた。
もしかしたら。
死んだ人の名前をバーンが読み上げるのだって、どこまで信用できるか分からない。
もしかしたら。
バーンが死んだと思っているだけで、実はまだ生きているのかもしれない。
もしかしたら。
バーンが嘘をついているかもしれない。
もしかしたら。
そして、ダムに辿り着く。
もしかしたら、どこかに隠れて助かっているかもしれない。
公主さんのいた部屋へと走る。
もしかしたら、怪我をした公主さんが助けを待っているかもしれない。
部屋の、ドアを開ける。
もしかしたら、ここに公主さんが――
そこに横たわっていたのは、紛れも無く、変わり果てた公主の躯だった。
「あ、あ……公主さん、なんでっ、なんでっ!!うわぁぁぁぁっ!!」
横たわる公主のもとへと駆け寄る。
その姿は、無残だった。
すらりと伸びた、白くて美しい手の片方は失われ、
思わず見惚れてしまうほど綺麗だった顔は、その顔は……
- 304 :Vain dog(in rain drop) 8 ◆xJowo/pURw :2006/10/31(火) 20:21:20 ID:nnCnYf+G0
- 「公主さん……公主さん……」
堰を切ったように涙が溢れてきた。目の前の非情な現実から目を覆うように。
「うう……ひっく」
今はただ、泣くことしか出来なかった。
そして、このまま世界が終わってしまうのではないかと思えるほどの長い時間の後、
(実際は、短い時間だったのかもしれないけれど)
定時放送が始まった。
――ご機嫌いかがですかな、皆さん。
その時。
ザクッ
鋭い痛みに、思わず体をよじる。
「な、何!?」
「クッ、浅いかッ!」
一陣の風とともに、黒い影が室内を舞う。あれはつむじ風か、鎌鼬か。
いや、あれは実体を持った脅威……敵だ!
背中から肩、腕と、生暖かい血がつたう。
致命傷を避けられたのは、戦士としての本能のおかげだろうか。
今は悲しんではいられない。目の前の敵と戦わなければ――
ザン! 再び、影が自分に襲いかかる。
ギィン! 咄嗟に剣で攻撃を防ぐ。
しかし、凄まじいスピードで迫る斬撃のいくつかは防ぎきれず、腕や脚に浅い刀傷がはしる。
「クソッ!」 ブン!
なんとか反撃を試みるが、横に薙いだ黒剣は虚しく空を切る。
驚異的な敵のスピードが薄暗い室内と相まって、その姿を補足するのは困難だ。
- 305 :Vain dog(in rain drop) 9 ◆xJowo/pURw :2006/10/31(火) 20:22:08 ID:nnCnYf+G0
- ガッ! ガッ! ガッ! ガッ!
四方の壁から、天井から、何かを突き立てるような音が響く。
恐らくこれは、敵の移動音だ。
どうやら敵は壁を蹴る反動を利用して、この室内を正に縦横無尽に飛び回っているのだ。
ズバッ 左肩を刃がかすめる。
ブンッ 反撃は空を切る。
どうやら敵は、ヒットアンドアウェーに徹するつもりのようだ。
隙の大きい強打は来ないが、細かい攻撃を絶え間なく繰り出してくる。
このままではジリ貧だ。堪らず敵(のいるであろう空間)に叫ぶ。
「お前は誰だ!何でこんなことをするんだ!!」
ザクッ! 返答代わりに右足を刃が抉る。
ガッ!ガッ!ガッ!ガッ!ガッ!
そして、さらに移動が、攻撃が激しくなる。
俺が相手のスピードにいいように翻弄されていることがばれてしまったからだ。
そのことに気づき、自分の迂闊さを悔いる。
いけない。このまま手を拱いていては、いつか確実に仕留められてしまう。
兎に角、敵の動きを止めなければ。敵に攻撃を当てなければ。
ふぅ。息を吐く。
一旦、心を静める。
公主さんには悪いけれど、今は眼前の敵にだけ集中する。
動きに惑わされるな。気配を感じろ。
すっと、目を瞑る。
代わりに、全身の感覚を研ぎ澄ませる。
自分の周りに渦巻く“殺意”を感じ取れるように。
その時、迫りくる漆黒の波動が、一筋に収束した。
今だ!
- 306 :Vain dog(in rain drop) 10 ◆xJowo/pURw :2006/10/31(火) 20:25:04 ID:nnCnYf+G0
-
「空裂斬!!」
ギィン!!
渾身の力を込めて放った一閃が、四本の刃を撥ね返した。
凶刃は彼女の体から弾け飛び、後方の壁に突き刺さる。
武器を失った彼女は、突進する勢いをうまく制御できずにバランスを崩し、俺の方に倒れこむ。
そう、襲撃者は女性だった。
先程、小屋でであった、確か斗貴子さんという名の女性だ。
何故、彼女が俺を襲ったのかは分からない。
でも、彼女を傷付けずに事を納められて本当に良かった。
もう二度と公主さんのような悲劇を繰り返したくはなかった。
彼女の小柄で華奢な躰が、木の葉の様に舞い降りてくる。
その格好は、まるで何かを求めて手を伸ばしているように見えた。
白くて、スラリと伸びた指先。吸い込まれるような錯覚を覚える。
事実、一瞬俺は、まだ戦闘中だというのに見蕩れてしまったのだ。
俺の目に映る手が。
綺麗な爪先が。
ぴんと伸びた指先が。
俺の目の方に伸びた指が。
眼球に、飛び込んできた。
ぐしゃっ
「うっ、うわあああああぁぁぁぁっ!!」
- 307 :Vain dog(in rain drop) 11 ◆xJowo/pURw :2006/10/31(火) 20:25:37 ID:nnCnYf+G0
- 痛みと共に、暗闇が体を飲み込む。
反射的に剣を振るが、まるでそれが当然であるかのように、手応えは無い。
そして、その反動でバランスを崩してしまい、蹌踉めいてしまう。
まともに立っていられない。
何気ない動作も、視力が完全に絶たれてしまうと満足には行えないのだ。
目を瞑るのと潰されるのではこうも違うものなのか。
地面が揺れる様に感じ、船酔いにも似た吐き気がする。激しい頭痛が内側から俺を蝕む。
――藍染惣右介、ウソップ、小早川瀬那、大空翼、――
断続的に続く主催者の放送が、死者を読み上げる声が頭の中に響く。気が変になりそうだ。
ガン!
何かが俺の方に飛んできた。
その棒状の何かが腕に直撃し、剣を弾き飛ばす。
「しまった……!」
剣を拾おうにも、どこに飛ばされたのか見当がつかない。
立っているのがやっとの自分には、剣を拾い上げる手立ては無いのだ。
(素手で戦うしかないか……!?)
バシッ!
再び何かが飛んできたが、今度はなんとか防御することができた。
びちゃっ
だが、その物体からは、得体の知れない液体が飛び散り、それをまともに顔に受けてしまった。
憶えのある、酸鼻な臭いが鼻を突く。
これは……血!?
じゃあ、今飛んできたものは……
足元に落ちたそれは、
竜吉公主の右腕だった。
- 308 :Vain dog(in rain drop) 12 ◆xJowo/pURw :2006/10/31(火) 20:26:40 ID:nnCnYf+G0
- 「うっ、うわっ、ああっ!」
狼狽えるべきで無いのは分かっているが、冷静でいられるのにも限度がある。
口元まで垂れた鮮血が、鉄に似た味を口内に広げる。
――生き残っている皆さんの不安を煽るような真似は感心しませんねぇ……
放送の声が俺を惑わせる。
五感の全てが狂いだす。
ガッ! ガッ! ガッ!
またあの移動音が始まった。
右から、左から、上から。
あらゆる方向から聞こえる音が室内で反響し、その発生源を特定させない。
気配を探ろうにも、肉体的にも、精神的にも限界だ。
ガッ! ガッ! ガッ!
四方八方から音が響く。
ガッ! ガッ! ガガッ!
ガッ! ガガッ! ガッ! ガッ! ガガッ!
ガガッ! 「くっ、くそっ……!」 ガッ! ガガッ!
ガッ! ガッ! ガッ! ガッ!
ガッ! ガガッ! ガッ! ガッ!
音源は除々に、自分の傍まで近づいてくる。
止めを刺す気なのか。
「脳漿をッ……!」
右か?左か??どこだ!?どこから来る!??
「ブチ撒けろォッ!!!」
――上!?
- 309 :Vain dog(in rain drop) 13 ◆xJowo/pURw :2006/10/31(火) 20:27:16 ID:nnCnYf+G0
- * * * * * * * * * * * * *
全ては、私に有利に動いていた。
戦闘能力や潜在能力なら、明らかに向こうのほうが上だった。
だからこそ、形振り構わず、打てる手は全て打つことにした。
放送が流れ、注意力が乱れる隙を付き、
室内の薄暗がりに身を隠し、
私の姿に油断した相手に付け込み、
そして、視力を奪うに至った。
ここまででも上出来だったのだが、念には念を入れることにする。
まず、彼の武器を奪い、彼自身の状態を計る為に遠距離から攻撃を加えた。
これは、所持していた槍状の武器を投げつけることで行う。
結果は上々。彼は攻撃に対応できず、手にしていた剣を地に落とした。
次に、嗅覚・触覚面を撹乱し、更なる動揺を誘うことにする。
その為に、室内に落ちていた一本の腕を拝借して、彼に投げつけることにした。
これに対し、意外にも彼は、飛来する物に反応して、防御した。
思った以上に順応性が高い。だが、べったりと彼にかかった血飛沫は、十分に彼を混乱させたようだ。
さて、十二分に準備が整ったところで、
彼が暗闇に完全に順応してしまう前に、止めを刺すことにする。
しかし、これまでの攻防から推測するに、ひとつの不安材料が浮かぶ。
バルキリースカートの斬撃だけでは、彼に決定打を与えられないかもしれないのだ。
彼はこれまでの攻撃を紙一重で避け続けている。
万が一こちらの一撃が躱されるか防御され、
カウンターで最初の大広間で見せたような一撃を食らえば、一気に形成が逆転してしまう。
- 310 :Vain dog(in rain drop) 14 ◆xJowo/pURw :2006/10/31(火) 20:27:47 ID:nnCnYf+G0
- よって、次の一撃は、今までとは異なる手段を講じることにする。
取り出したのは、鞘に収まった剣。彼の剣だ。
何度も素振りしてその感触、質量を確かめたから分かる。
この重量で殴りつければ、如何に彼といえども無事では済むまい。
急所に決まれば即死、防御されても腕の骨ぐらいなら叩き折れるだろう。
そして、バランスを崩したところにバルスカによる追撃で、止めを刺す。
これが、今私が考え付く中で、もっとも成功率の高い戦法だ。
壁に弾き飛ばされたバルスカを回収し、再び装備する。
そして、最後の一撃を打ち込むべく、加速を始める。
壁を蹴り、天井を駆け、その音で撹乱し、気配を紛らわす。
彼は、明らかに私を見失っている。
(いける……!)
確信を結果に変えるべく、移動速度を速める。
「脳漿をッ……!」
狙いは一つ、彼の脳天。
その一点めがけて、速度を乗せて、振り抜く。
「ブチ撒けろォッ!!!」
瞬間、彼の右手が頭上に伸びる。
体が本能的に防御しようとしているのか。大したものだ。
だが、そんな不十分な体勢で、この力積を防ぎきれるものか。構わずに、振りぬく。
「オオオオオオォォォォッッ!!」
その時、有り得ないことが起こった。
- 311 :Vain dog(in rain drop) 15 ◆xJowo/pURw :2006/10/31(火) 20:29:14 ID:nnCnYf+G0
- ぱしっ
脳天めがけて振り下ろした剣が、彼の掌に吸い込まれる。
彼は、その小さい腕で、この重い剣をしっかりと受け止めたのだ。
「な……!?」
有り得ない。彼は見た目からは想像も付かないほどの怪力の持ち主なのか?
いや、これはそれよりももっと不条理な感覚だ。
そう、まるで、“剣が意識を持っていて、主を傷つけることを拒否している”ような。
若しくは、“私にとっては鉛のように重いのに、彼にとっては羽のように軽い”
この剣が、そんな矛盾した物質でできているかのようだった。
ぶうんっ 「うわあっ!」
彼が剣を私ごと、力任せに振り回す。実際彼は怪力の持ち主なのだ。
堪らず剣から手を離し、彼から間合いを取る。
「こ、これは……この剣はっ!」
彼が剣の柄に手を掛け、ゆっくりと鞘から刀身を引き抜く。
私がどんなに力を入れても鞘から抜けなかった剣が、その水色に輝く刃をあらわにしてゆく。
「この剣は……俺の剣だ!!!」
彼の、何かが変わった。
いや、『戻った』と言ったほうが相応しいか。
今まで覚束無かった足元が、今やしっかりと大地を捉え、全身からは覇気が溢れている。
そして、血に濡れて閉じた双眸は、しかし私をしっかりと捉えているように思えた。
失われた半身を取り戻したか如く、彼は私に正対し、構える。
それは日本刀を用いた抜刀術にも似ていた。
そして、獅子が私に牙を剥く。
「アバン・ストラッシュ!!」
- 312 :Vain dog(in rain drop) 16 ◆xJowo/pURw :2006/10/31(火) 20:29:47 ID:nnCnYf+G0
-
ズドオオォォン!!
「なっ、何だと!!?」
一方の壁が、大きく二つに割れた。割れ目からは、小降りになった雨空が覗く。
あんなものをまともに食らえば、文字通り『まっぷたつ』になってしまう。
一撃目は紙一重で避けられたが、果たして私が回避したのか、それとも彼がわざと外したのか。
どちらにせよ、この狭い室内では今の攻撃を躱し続けるのは不可能だ。
(地の利を取った筈が裏目に出たか……!)
「そこかッ!」
彼が追撃を掛けるべく再び構える。
完全に気配を読まれている。
感覚も鋭敏になっているのか、それとも私の動揺が大きいからか。
今、当初とは状況が完全に変わってしまった。
このままここで彼との戦闘を続けても、勝てる見込みは限りなく低い。
……それならば。
「アバン――」 彼が振りかぶる。
私は、懐に忍ばせた『切り札』に手をやる。
そして。
「ストラッシュ!!」
「『衝突(コリジョン)』!オン!!」
ズドオオォォン!!
…………
- 313 :Vain dog(in rain drop) 17 ◆xJowo/pURw :2006/10/31(火) 20:30:17 ID:nnCnYf+G0
- あれは、ある種の賭けだった。
予想通りにカードの効果が瞬時に現れていなければ、今頃私は三途の川を渡っていただろう。
だが、あの場面で戦術的後退を選んだのは正解だった。
彼我の損害を比べても、こちらはほぼ無傷、向こうは多数の手傷に、眼球二つ。
あの剣を与えてしまったのは余計だったが、彼の実力を垣間見ることもできた。
後は、ピッコロを探しながら、彼を倒すための対策を練ればいい。
状況は、何も悪くはなっていない――
ふと、そういえば放送で両津の名前が呼ばれなかったな、と思った。
しかし、どうせ生きていても虫の息、放っておいてもいずれ死ぬだろう。
気にすることは無い。
* * * * * * * * * * * * *
- 314 :Vain dog(in rain drop) 18 ◆xJowo/pURw :2006/10/31(火) 20:30:47 ID:nnCnYf+G0
- 降りしきる雨の中を走っていた。
いや、自分では走っているつもりだったが、実際は歩く早さと大差ない。
それでも、がむしゃらに足を動かしていた。
「はぁっ、はぁっ……」
自ずと息が荒くなる。
しかし、こんなにも体を動かしているというのに、寒くて堪らない。
長時間雨にうたれたせいなのか、それとも大量に血を失ったせいなのか。
自分は何故、まだ生きているのか。
傷は浅くは無いが、辛うじて急所からは外れていた。
斬られる瞬間、腰を抜かしたおかげで狙いが外れたのか、
それとも彼女にまだ、僅かな迷いがあったのか……
そこまで考えて、止めた。
今動かすのは、頭より体だ。一刻も早くダイと合流して、ダイに加勢してやらないと。
借り物のような体を必死に動かし、ダム施設へと向かう。
人に「ゴキブリ並み」と言わしめた体力・生命力は、伊達ではないことを見せてやる。
「待っていろよ、ダイ……
お前は死んではならんのだ……お前は、我々にとってかけがえの無い『希望』なのだから……」
- 315 :Vain dog(in rain drop) 19 ◆xJowo/pURw :2006/10/31(火) 20:31:19 ID:nnCnYf+G0
- 【香川県/ダム施設近辺/二日目/日中】
【両津勘吉@こち亀】
[状態]:右手掌離断、胸部から腹部にかけて裂傷(応急的処置済みだが持続的に出血)、出血多量、体力消耗大、額に軽い傷
[装備]:装飾銃ハーディス@BLACK CAT
[道具]:右手@両津、盤古幡@封神演技、支給品一式、食料二日分プラス二食分
(爆発でどれが誰のか分からなくなったので、絆を深めるために平等に再分配した)
[思考]1:ダイを追い、斗貴子から守る。
2:ダイを連れ戻し、大鳴門橋手前の民家で星矢達と合流。サクラとも合流したい。
3:傷の手当をする。
4:仲間を増やす。
5:沖縄へと向かう。
6:主催者を倒す。
【香川県/ダム施設内・宿直室/二日目/日中】
【ダイ@ダイの大冒険】
[状態]:失明、全身に裂傷、体力消耗中程度、MP中量消費
[装備]:ダイの剣@ダイの大冒険
[道具]:支給品一式、食料二日分プラス二食分
(爆発でどれが誰のか分からなくなったので、絆を深めるために平等に再分配した)
[思考]1:傷の手当をする。
2:公主を埋葬する。
3:両津や星矢達と合流する。
4:ポップを探す。
5:沖縄へと向かう。
6:主催者を倒す。
- 316 :Vain dog(in rain drop) 20 ◆xJowo/pURw :2006/10/31(火) 20:32:01 ID:nnCnYf+G0
- 【????/二日目/日中】
【津村斗貴子@武装練金】
[状態]:軽度疲労、左肋骨二本破砕(サクラの治療により、痛みは引きました) 右拳が深く削れている
顔面に新たな傷、核鉄により常時ヒーリング 絶対に迷わない覚悟
[装備]:核鉄C@武装練金、リーダーバッチ@世紀末リーダー伝たけし、スカウター@ドラゴンボール
[道具]:荷物一式(食料と水を四人分、一食分消費)、子供用の下着
[思考]1:『衝突』により出会う相手に対応する。ピッコロ以外は基本的に抹殺する。
2:クリリンを信じ、信念を貫く。跡を継ぎ、参加者を減らす。
3:ドラゴンボールを使った計画を実行。主催者が対策を打っていた場合、その対策を攻略する。
4:ドラゴンボールの情報はもう漏らさない。
5:ダイを倒す策を練る。
※アバンの書@ダイの大冒険、首さすまた@地獄先生ぬ〜べ〜、クライスト@BLACK CATはダム施設内・宿直室内に落ちています。
※津村斗貴子は、フレイザード、ピッコロ、承太郎、雷電、ルキア、ルフィ、悟空、洋一、DIO、綾、仙道、香 の内、いずれかの元へ飛来します。到着時間は、おおよそ放送直後になります。
- 317 :カイン:2006/11/01(水) 11:08:49 ID:uSOmkmZC0
- 仙道の私兵軍は、目の前にある人間の形をした化石を丹念に調べる。
やはり、これは…
ピキ
突然、化石にわずかにひびが入る。
バキキキキキキキキ……
禍々しいオーラを射出しながら、それは、だんだん人間の姿を形成して行く。
『カイン』と名づけられた、その人間は激しく吼えた。
「UKIKIRYYYYYYYYYY!!!!!
タカヤ様は、どこだぁぁぁぁぁーっ!!!」
- 318 :カイン:2006/11/01(水) 11:17:18 ID:uSOmkmZC0
- 「やはり、タカヤの部下か!!
行け!! ミヤギ! ハセガワ! ウオズミ!」
仙道の命令で、部下達が一斉にカインに襲い掛かる。
しかし…
カインの眼光が、部下達に焦点を合わせる、
ただそれだけで部下達は、みじん切りされたネギのように粉々になった。
そして次にカインが、仙道に照準を合わせようとした時だった。
バタン、とドアが開かれた。
その奥から、ヤムチャが姿を現した。
- 319 :Vain dog(in rain drop) 修正 ◆xJowo/pURw :2006/11/02(木) 10:08:21 ID:6uwDDe3v0
- 状態表を修正。衝突の行き先で、悟空と洋一を削除。
※津村斗貴子は、フレイザード、ピッコロ、承太郎、雷電、ルキア、ルフィ、DIO、綾、仙道、香 の内、いずれかの元へ飛来します。到着時間は、おおよそ放送直後になります。
あと、文末の改行が、何故か2行余分なのが混ざっています。
30行で区切ってるんですが、3スレ目とか、32行になってるし…
改行数の限界って、31行でしたっけ?どなたか教えていただけると助かります。。。
- 320 :愛をとりもどせ!! ◆kOZX7S8gY. :2006/11/05(日) 23:28:07 ID:LMPjgK8j0
- 恥の多い生涯を送ってきました。
はじめてズレを感じたのは、あの石仮面に出合った時でした。
赤鼻の道化師さんは自分を殺そうと銃を向け、嫌がる自分の服を無理やり引きちぎり、「派手に散れ〜い」と言っては満足げに高笑いするのです。
弱い人間だった自分は何も抵抗することが出来ず、道化師さんの真っ赤なお鼻に目を奪われるばかり。
ただ死を待つだけの、他愛もない弱者の最後。
そんな絶望的状況を一変してくれたのが、石仮面。
自分は人間をやめ、人間を超越し、人間を殺したのです。
今でも時々思うのです。あの頃の自分は、まだ人間でいれたのでしょうか?
好きな人も、友達も、どちらにも『逢いたい』と願っていた頃の自分は、まだ人間だったのでしょうか?
今は、もう違うから。
なおさら、考えてしまうのです。
♪
- 321 :愛をとりもどせ!! ◆kOZX7S8gY. :2006/11/05(日) 23:28:51 ID:LMPjgK8j0
- 「そんなボロボロの姿で、いったいどこへ行こうと言うのかしら」
雨は止むも、未だ晴天は覗かず。
残りカスのように散布する雨雲は太陽の光を遮り、少女の活動を助力する。
加えて、ここは太陽光も覗かない程の広葉樹林に囲まれた深い森の中。
影の細道で遭遇した二人に、『光』という名の邪魔者はない。
「……東城綾、か」
フェニックスの聖衣を身に纏った、満身創痍の拳闘士が一人、そこに立っていた。
彼の名はケンシロウ。
彼に話しかけた少女とは初対面のはずだが、ケンシロウはその少女を知っていた。
「私のことは、西野さんから聞いたの?」
「ああ。君が人間をやめたということもな」
「そう。それなら話が早いわ」
年齢不相応の妖艶な笑みを零しながら、綾はケンシロウに歩み寄った。
近づく歩幅は狭く、細かい。リンやユリアとなんら変わりない、女性の歩み。
当たり前だった。彼女は西野つかさの友達で、こんなゲームに参加していること自体がおかしい、ただの女子高生なのだから。
そう、『この間』までは。
「『DIO』があなたを捜している。あなたも、DIOと決着を着けたいのでしょう? 案内するから私に着いて来て」
綾は翻り、ケンシロウに背中を見せる。
彼女自身は、ケンシロウに殺意を持ってはいない。
綾はDIOの手足として、彼を戦場に運ぶだけだ。
- 322 :愛をとりもどせ!! ◆kOZX7S8gY. :2006/11/05(日) 23:30:27 ID:LMPjgK8j0
- 一歩、二歩、三歩、足を運ぶが、後を着いて来る気配は動かない。
「……どうして着いて来ないの?」
綾の誘いに、ケンシロウは反応を見せなかった。
脚を動かさず、視線を逸らさず、拳は握らず。
ただ一点、目の前で振り向いている少女を見つめて。
「そう。ロボットさんにやられた傷が痛むのね……そんな身体ではDIOには勝てない。
だから、私に着いて来れない。そういうことね」
ケンシロウが負った傷は、綾の目から見ても酷い。
これではDIOは到底――吸血鬼となった綾とて――倒せない。
「あなたも人間……命が惜しいのね。
でも、私はあなたをDIOの下に連れて行かなければならない。力尽くでも」
ケンシロウと正面から向かい、綾は不気味に微笑んだ。
彼女の役目は、あくまでもケンシロウをDIOの下に導くこと。
綾自身に戦意はないが、彼が従わないと言うのであれば、その時は。
「……君は、何故西野つかさを殺害した?」
爪を研ぎ始めた吸血鬼を前にしても、ケンシロウは未だに拳を作らない。
目の前の少女を『東城綾』と見て、数時間前に起こった事の真意を問いただす。
「つかさは、東城綾のことを友達だと言っていた。例え人間をやめても、それは変わらないと」
「……あなた、人を愛したことってある?」
質問するケンシロウに、綾は質問で返した。
- 323 :愛をとりもどせ!! ◆kOZX7S8gY. :2006/11/05(日) 23:32:48 ID:LMPjgK8j0
- 「『愛』っていうのはね、人を狂わせるの。人は誰かに愛を抱くと、もうその人のことしか見えなくなる。
特に、自分以上に思い人の近くにいる人物には、敵意を抱くまでに。こういうの、嫉妬とか妬みっていうのよね。
彼女は、私が持っていないものを持っていて、私なんかより、ずっと真中君との接し方がうまくて……憎い。
だから友達だって……単なる『お邪魔虫』にしかならない」
視線の先は虚空、太陽の覗かない天に、綾は死後の世界を見据える。
「……それは、つかさのことを言っているのか?」
「今は、『彼女』の話をしているんじゃなかったの? 違った?」
綾は悪ぶった態度を見せることもせず、ただ平然とケンシロウの質問に答えていった。
西野つかさ、という友人を殺めたことを否定もせず、ケンシロウがつかさと仲間関係にあったという事実も知っている上で尚、
『AYA』は、不気味に哂う。
「でもね、西野さんの言うとおり、私と彼女は確かに友達だった。だから、ちゃんと償いもする。
……DIOが優勝したら、西野さんを生き返らせてもらうって形でね」
「何故、共に生き延び、この世界から脱出しようと考えなかった」
「夢見たいなことを言うのね。脱出なんて、できるわけがないじゃない。西野さんもそうだけど、みんなもっと現実を見たほうがいいわよ」
綾の思考に、西野つかさとの共存という道は示されていない。
それはこの世界に来てからなのか、綾が吸血鬼になってからなのか。
それとも、初めから綾とつかさの敵対関係は崩せないものだったのか。
これが、つかさと綾を取り巻く『愛』の形なのか。
「死者の蘇生は信じておきながら、脱出の可能性は否定するのか」
「夢物語と幻想物語は違う。知ってるでしょ? 私、今は吸血鬼だけど昔は人間だったのよ。
一度死んで、人間を超越して、今の私がいる。これが、私が実際に体験した『幻想』。
脱出なんてものは……強さも持たないのに高望みをする、お猿さんの『夢』物語」
- 324 :愛をとりもどせ!! ◆kOZX7S8gY. :2006/11/05(日) 23:33:28 ID:LMPjgK8j0
- ふと、綾が虚空から目線を外し、ケンシロウの瞳と交差させる。
その瞳に、輝きはない。
君臨者が下等生物を見下ろすかのような、完璧なる侮蔑の眼差し。
あの明朗快活だったつかさの友達が、こうも非人間的な瞳を持っているというのか。
所詮、人間と人間をやめた者では、住む世界が違うというのか。
「理解した? あなたはDIOと戦い、殺される。そして私とDIOは他の参加者達も駆逐し、最後まで生き残る。
そこまでいったら私は優勝を放棄して……ご褒美はDIOのもの。
DIOが生き残り、西野さんは生き返り、私は死後の世界で真中君と一緒に暮らすの」
人間らしさを失っていた綾の瞳にただ一つ、『夢見る少女』の輝きが戻った。
彼女に言わせれば、死者の蘇生は決して不可能ではない『素敵なファンタジー』。
ケンシロウに言わせれば、死者の蘇生は絶対不可能な『素敵な御伽話』。これは、つかさやリサリサも否定していたこと。
ただ、愛する人のため。
信憑性なんてものは、ないも同然だとしても。
愛しいあの人のことを思えば、夢を見ることも、ファンタジーに浸ることも。
殺戮、裏切り、服従、どんなに愚かで屈辱的な行為も。
目的のためなら、やり通せる。
それが、東城綾の『愛』。
- 325 :愛をとりもどせ!! ◆kOZX7S8gY. :2006/11/05(日) 23:35:00 ID:LMPjgK8j0
- 「…………歪んでいる」
「え?」
ケンシロウの表情には、怒りも哀れみもない。
道端の小石に顔色を変える必要性はないように、ケンシロウには綾に対して表情を変える理由がない。
悪に対しては徹底的なまでに非情になる北斗神拳。
その拳は、恋に生きる少女に振るうべきものではない。
ただ、
無表情で、一言だけ。
綾の『愛』に関して、素直に感じた感想を述べる。
「そんな歪んだ思想は、『愛』でも、『嫉妬』でもない!」
顔色を変えずに言い放った言葉は、無表情ながら怒りにも似た激昂の凄みを秘めていた。
ウォーズマン戦での負傷もあり、元々表情が険しかったせいもあるのだろう。
綾はケンシロウが戦意をむき出してきたと錯覚し、静かに身構え始める。
「……あなたは、私の真中君への愛を否定するの?
こんなゲームに巻き込まれて死んでしまった真中君のために、私がやろうとしていることを……否定するの?」
静かに、怒り始める。
何も知らない、恋する少女の気持ちも分からない無粋な男に、敵意を返して。
「独り善がりはやめろ! 真中淳平はそんなことは望んでいない!」
- 326 :愛をとりもどせ!! ◆kOZX7S8gY. :2006/11/05(日) 23:36:18 ID:LMPjgK8j0
- ケンシロウがいよいよ拳を握り締め、熱弁した。
握った両拳は振るわず、言葉を伝えるためだけに使う。
道を誤った少女に、ケンシロウが考える『愛』を説かんがために。
「つかさは死んだ真中淳平の分まで生きようとした!
だが綾、おまえは愚かにも死者に縋りつき、つかさのいない世界で彼を手に入れるという『夢』物語に浸っている!」
「それは、西野さんの真中君に対する愛情がその程度だから……ッ!」
「違う! 西野つかさと東城綾……より愛が深かったのは、つかさの方だ!
つかさは思い人だけではなく、強敵(とも)であるおまえの生存も願った!
つかさの『愛』の前に……おまえはもう『負けている』のだ!」
――この人が何を言っているのか、理解できない。
私の愛が、西野さんに劣る?
愛しさのあまり、友人までをも手にかけた私の愛が?
だって、西野さんは真中君のことを見限ったのよ?
私は、死んでまで真中君に逢いたいと思っているのに。
何が死んだ真中君の分まで生きるよ。
本当に真中君のことが好きなら、もっと真剣に――
「聴け、東城綾! つかさが、生前おまえに残した――遺言を!」
「!」
まだ、西野つかさという少女が生きていた時のこと。
死者に固執しなかった彼女が最後に思っていたのは、掛け替えのない友達のこと――
♪
- 327 :愛をとりもどせ!! ◆kOZX7S8gY. :2006/11/05(日) 23:37:02 ID:LMPjgK8j0
- ――綾さんのことについて教えて欲しい?
そうだ。元は人間だったが、今は吸血鬼に変貌したというその少女……いったい、つかさとはどういう関係なのだ?
――どうって……うーん……友達?
何故疑問符を浮かべる?
――友達っていっても、いつも一緒の仲良しさんってわけじゃなくて……同じ人のことを好きになった、相容れぬ存在っていうか……
つまりは、恋敵か。
――言っちゃえばそうなんだろうけど……敵、っていうほど憎しみはないっていうか、むしろ私は綾さんのこと大好きだし。
ならば、好敵手、というのはどうだ?
――そう! 正にそれ! 好敵手(ライバル)! 同じ人を好きになったから、間接的に知り合えたっていうか、強敵と書いて『とも』って読む感じ!
強敵(とも)…………なるほど。
――なんだかすっきりしたよ。綾さんは確かに恋敵かもしれないけど、やっぱり大切な友達だし。強敵(とも)って言葉なら、意味がピッタリ嵌る。
……つかさは、綾のことを今でも強敵(とも)と思っているのか? 彼女が、人間をやめてしまったとしても、強敵(とも)だと。
――当然!!
♪
- 328 :愛をとりもどせ!! ◆kOZX7S8gY. :2006/11/05(日) 23:37:53 ID:LMPjgK8j0
- かつて、ケンシロウにも強敵(とも)と呼べるような男がいた。
敵であり、友人でもあり、互いに強さを賞賛しあった仲。
彼亡き今も、ケンシロウは強敵(とも)の勇士を忘れてはいない。
この腐った世界においても、彼は己の拳に殉じ、拳王として誇らしく死んでいったのだろう。
「う……」
「東城綾! おまえは、つかさが『強敵』と認め、『友』と慕った『人間』だ!
ならば、死んだ彼女に恥じぬよう……最後まで、東城綾としての誇りを捨てずに生きてみろ!!」
つかさの殺害を咎めるでもなく、ケンシロウは決して悪とは呼べない吸血鬼相手に、生きろ、と。
間違っている。
東城綾は、もう死んでいるのだ。
ここにいるのは、石仮面の力で蘇ったAYAという名の吸血鬼。
人間の血を吸い、私欲のために友をも手にかける、最低の吸血鬼。
「う…………URYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!」
生きろなんて言うのは、お門違いだ。
ケンシロウも、つかさも、
誰も、何も分かってない。
- 329 :愛をとりもどせ!! ◆kOZX7S8gY. :2006/11/05(日) 23:38:24 ID:LMPjgK8j0
- 静かに雄叫びを上げ、綾は感情を爆発させた。
人間をやめた代償として手に入れた、超人的な腕力。
それを遺憾なく発揮した平手で、ケンシロウの頬を殴りつける。
「あなたに何が分かるのよ! あなたに、人間を『やめさせられた』女の子の、愛する人を失った女の子の、友達を殺してしまった女の子の気持ちが分かるって言うの!!?」
猫をぷちっ、と殺してしまうほどの綾の力は、決してノーダメージというわけにはいかない。
その威力は、全力全開の少女の拳でも絶対に到達てきない次元のもの。
ケンシロウはその平手を避けるでもなく防ぐでもなく、棒立ちのままその身に吸収していった。
「…………」
哀れみとは違う、悲しそうな瞳を綾に向けながら。
感情を見せず、穏やかな物腰で、綾の猛攻に耐える。
無言で、綾の奇声交じりの攻撃を受け続ける。
「なんで……反撃してこないのよ。私を哀れんでるの? 私を愚か者だって、相手にする価値もないって思ってるの?
私は……私はただ! 真中君も、西野さんも幸せになれる道を選んだだけなのに……」
よもや、このまま殺される気なのではないだろうか。
そんな心配も巻き起こったが、今は自分の感情が抑えきれない。
初対面の男に全てを否定され、罵られた綾は、もはや冷静ではいられなくなっていた。
「――KUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」
平手を握り拳に変えて、綾が腕を振りかぶる。
それでも、ケンシロウに抵抗の様子は見られない。
- 330 :愛をとりもどせ!! ◆kOZX7S8gY. :2006/11/05(日) 23:39:15 ID:LMPjgK8j0
- 分からない。この人は何故抵抗しないの?
分からない。私は何故こんなにも心を乱しているの?
分からない。私は西野さんを、どうしたかったの?
殺して、生き返らせて、仲良く暮らして、幸せになるのは、喜ぶのは、いったい誰?
「あっ……!」
考えながら、拳は振りかぶられた。
加減の知らぬ吸血鬼渾身の一振り。
防がなくては、さすがにただでは済まない。
それでも、ケンシロウは動かない。
唯一動いた箇所は、右と左、両の瞳。
未だ悲しげな色を浮かべながら、ケンシロウの瞳は――綾の頬を伝い落ちる、一滴の雫の行方を追う。
それを目にした瞬間、ケンシロウは思ったのだ。
人間をやめた? 馬鹿な。
東城綾は、まだ『人間』ではないか――
♪
- 331 :愛をとりもどせ!! ◆kOZX7S8gY. :2006/11/05(日) 23:40:53 ID:LMPjgK8j0
- 「白昼堂々婦女暴行か? ケンシロウ。
このDIO、たった7年とはいえ貴族の家で育った身として、見過ごすわけにはいかんなぁ」
――その男の出現は、あまりにも唐突。
ケンシロウと綾、二人の前に割って入ったのは、いつか見たブロンドの髪。
振り翳された綾の腕を労せず防ぎ止め、結果的にケンシロウを死の窮地から救って見せたのは――『真に人間をやめた者』
―― 俺は人間をやめるぞ、ジョジョーーーーーーーッ!!! ――
あの時から、もう100年以上もの時が流れた。
流れすぎた時間は、その男を正すことを不可能にさせた。
完璧に、人外。
身体的にも、道徳的にも。
全てにおいて、『悪』。
こいつだ。
こいつこそ、北斗神拳が断罪すべき標的なのだ。
ケンシロウが、いよいよ拳を握り締める。
- 332 :愛をとりもどせ!! ◆kOZX7S8gY. :2006/11/05(日) 23:42:02 ID:LMPjgK8j0
- 「でぃ、お」
自身が流した涙には気づかぬまま、綾は主の登場に感情を落ち着かせつつあった。
「DIO…………ッ!!」
反比例して感情を高ぶらせたのは、ケンシロウ。
「久しいな、ケンシロウ」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ、と不穏な空気が周囲を包む。
吸血鬼二人と傷だらけの男が一人、一触即発な雰囲気の中で、いがみ合うでも争うでもなく、ただ視線を交差させている。
これから起こり得るであろう展開は、当事者達にしか分からない。
だが、進む道は一つ。
ケンシロウとDIO――二者が顔を合わせた時点で、終息までの一本道は形成されたのだ。
「予定通り……あまりにも予定通りの筋書きで安心したぞ、ケンシロウ。
お前は必ず、再度このDIOの前に立ち塞がる……例え死に掛けの致命傷を負っていたとしてもだ。
事実、お前はウォーズマンとの戦闘を終えた直後であるにも関わらず、このDIOを追ってここまで来た。
ククク……それほどまでに憎いか? それほどまでに危機感を持っているというのか? なぁケンシロウ――」
「御託はいい。言ったはずだ。貴様は、この俺が倒すと」
二人の激突は、脇を逸れる出来ない絶対直線の一本道を進むかの如く回避不能。
悪を絶対に許さぬケンシロウと、自らを悪と自覚し、帝王を名乗るまでの誇りを持つDIO。
共存の道はない。あるのは、衝突の道が一つ。
進むのは、必然。綾という架け橋が、二人をこの道に誘ったのだ。
- 333 :愛をとりもどせ!! ◆kOZX7S8gY. :2006/11/05(日) 23:43:33 ID:LMPjgK8j0
- 「御苦労、AYA。お前はそこで見ているがいい……このDIOと、『ザ・ワールド』が持つ絶対的な力を。
マミーの時などとは比べ物にならないほどの、極上の安心感を与えてやろう」
DIOは綾に労いの言葉をかけると、自ら前面に躍り出てケンシロウと対峙した。
――これで、綾の目的は達成された。
あとは全て、DIOに任せておけばいい。
ケンシロウの、綾が信じて疑わなかった『愛』を否定した奴の、駆除を。
これで安心できる。そう思った矢先だった。
頬を流れる熱いものに気づき、綾は動揺した。
涙。当に失ったと思っていた水の雫が、蘇っている。
あの時と、つかさを自らの手で殺めた時と一緒だ。
感情を揺さぶられたまま、周囲の環境は綾を取り残して、用意された道を直進していく。
ケンシロウVSDIO――避けられぬ必然の闘争が、今。
「俺は、貴様から全てを奪い取る!
自身の力に驕り偏った『安心』!
他者を脅かす害としかならない貴様の『生命』!
そして、貴様が縛っている東城綾という『人間』を!」
「やってみろケンシロウ! WREEEEEEEEYYYYYYYYYYYYYッ!!」
開幕した――
- 334 :愛をとりもどせ!! ◆kOZX7S8gY. :2006/11/05(日) 23:44:54 ID:LMPjgK8j0
- 暗雲と無数の大木によって光を遮断された暗い世界で、二人の男が戦いを始める。
片や世紀末を生き抜く拳闘士、片や人間を超越した吸血鬼。
実力的には共に人外の位に立つ二人が、己の肉体を駆使し、拳と拳で殴り合う様は――正に、男の戦い。
「あたぁッ!」
「フン、無駄ァ!」
ケンシロウが飛び蹴りを仕掛け、DIOがそれを寸前で回避、身代わりに木が一本へし折れる。
カウンターに繰り出されるのは、DIOの分身であるスタンド、『ザ・ワールド』の拳。
的確にケンシロウの米神を狙った一撃は、回避行動を取った標的の鼻っ面を掠め、空を切った。
ケンシロウの反撃。振り被られた『ザ・ワールド』の腕に狙いを定め、指先を突き刺す。
秘孔と呼ばれる人体急所を狙った、北斗神拳必殺の一撃。
決まりすれば、防御不能の内部破壊を引き起こす――はずも、やはり当初の危惧通り、
「無駄無駄無駄ッ!」
(『スタンド』に、秘孔は存在しない――ッ!?)
人型をしているとはいえ、本来ならば常人には見ることも叶わぬ霊体のような存在、それが『幽波紋(スタンド)』。
ダメージは使い手であるDIOに直結して伝わるが、人体のある一点を的確に狙う北斗神拳の真髄は、スタンド越しては発揮されない。
加えてDIO本体も、ウォーズマンと同じくただの人間ではない。
吸血鬼に秘孔が存在するのか――結論を出す暇もなく、DIOの猛攻は降り注ぐ。
1――2――3、とテンポのいいリズムで繰り出される拳の連撃は、執拗にケンシロウを付け狙う。
パワー、スピード、テクニック。あらゆる面で秀でた『ザ・ワールド』の格闘能力に、さすがのケンシロウも防御を強いられた。
途切れぬ連続攻撃は防御側に焦りを煽り、決死の反撃をも無駄な行為にしてしまう。
闇雲に放ったケンシロウの拳は『ザ・ワールド』の拳に迎撃され、新たな隙を生む。
1、2、3、と速まるテンポに呼応して、『ザ・ワールド』の拳は威力を上昇させていく。
「ぐっ!」
- 335 :愛をとりもどせ!! ◆kOZX7S8gY. :2006/11/05(日) 23:45:59 ID:LMPjgK8j0
- 遂には防御を崩され、ガードごと後方に弾き飛ばされるケンシロウ。
休むことなく追撃するDIOと『ザ・ワールド』に成す術が見い出せず、瞬間的に回避に移った。
「どうしたケンシロウ! 防御と回避だけでは、このDIOを屈服させることはできんぞォ!!」
一際大振りな拳が、ケンシロウの頭部を打ち砕かんと放たれる。
――この一撃。この一撃を待っていた。
自身の力に絶対の安心を覚え、決定打を狙わんとする隙の生じやすい攻撃――反撃を狙うのに、これほど効果的なタイミングはない。
「うあたたぁ!!」
刹那、音速に匹敵するほどのスピードでケンシロウの拳が三打、『ザ・ワールド』に打ち込まれる。
これまでの防戦一方は、相手を油断させるための演技――そう言わんがばかりの攻撃力を持った刹那の三連撃に、『ザ・ワールド』ごとDIOの身体が吹き飛ばされた。
「ぱべらぼっ!? …………グヌゥッ」
それまでの愚直な攻勢を悔いるように、一転してDIOはケンシロウから距離を取る。
ケンシロウも、反撃が成功したからといって無理に追撃を仕掛けることはしない。
戦況を冷静に判断し、より効果的な攻撃を放つ。
それが単なる殴り合いの戦いだとしても、勝負の世界には決して無視することが出来ない、場の流れというものが存在するのだ。
それを的確に把握して初めて、勝利への切符を手に入れることが出来るのだ。
「いい……ッ! いいぞケンシロウ!! マミーなどとは力の質がまるで違う……このDIOに歯向かうだけのことはある!」
「黙れ外道。俺は貴様を倒すため、ただ拳を振るうのみ」
ケンシロウを強敵と賞賛するDIOから、『絶対に勝てる』『絶対に負けない』という『安心』は未だ消えない。
あくまでも帝王の貫禄を持って、軽く遊戯をこなすかのように、北斗神拳継承者と相対する。
- 336 :愛をとりもどせ!! ◆kOZX7S8gY. :2006/11/05(日) 23:48:06 ID:LMPjgK8j0
- 「あたぁ!」
「無駄ァ!」
ケンシロウ、DIO、双方が再度ぶつかり合う。
繰り出される北斗神拳の拳技を全てスタンドの拳で受け、攻撃を的確に捌いていくDIO。
穿ち合う拳と拳は、次第に血を噴出し、皮を裂く。
直接殴っていないとはいえ、スタンドからのダメージを直通で感じているDIOは、徐々に傷ついていく己の両拳に、不快感を覚えた。
だが、劣勢は微塵も感じていない。
「どうしたケンシロウ!? お前の拳……昨夜相手をした時には背筋を凍らせるほどの豪拳に感じたが……
今のお前の拳は、連戦連敗中の崖っぷちボクサーの一撃にしか感じぬぞ!」
ウォーズマン、そして洋一に負わされたダメージは、確実にケンシロウから勢いを奪い取っていた。
全身を軋ませるほどの痛み、拳の振りを遅らせる疲労、共に怒りで忘れているとはいえ、戦いには確実に影響を与えている。
それでも、感情が拳を振るわせる。
満身創痍であるにも関わらず、例え崖っぷちに立たされようとも、ケンシロウは拳を放つ。
「あぁたたたたたたた!!」
「ごぱら!? ぐおご!? ひでぶ!?」
気合の発声が高まるごとに、技のキレも増していく。
渾身の鉄拳を、『ザ・ワールド』の拳撃の間を縫うように繰り出し、スタンド越しにDIOを追い詰める。
鼠は隅に追いやれば追いやるほど、より反抗的に向かってくるもの。
ケンシロウも、劣勢になればなるほどパワーを発揮するタイプだったのだ。
「ぐっ……この破壊力! スタンド越しでも感じ取れるぞ……まだやれる、そういうことだなケンシロウ!?
面白い。ならば、次はあの時の技でこい! 今度こそ、『ザ・ワールド』の力が最強であるという証明をしてやる!!」
- 337 :愛をとりもどせ!! ◆kOZX7S8gY. :2006/11/05(日) 23:49:17 ID:LMPjgK8j0
- ケンシロウを挑発するようなポーズを取り、DIOは余裕の笑みでスタンドを前面に押し出した。
易々と挑発に乗るわけではないが、ケンシロウは『ザ・ワールド』の正面に構える。
繰り出すのは、あくまでも拳。これは、ケンシロウも『ザ・ワールド』も変わらない。
「あぁたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたぁっ!!!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!!!」
互いの拳が衝突し合い、短くも豪快な音を奏でながら周囲の木を揺らす。
巻き起こった衝撃波は地に敷かれた落ち葉のカーペットを容易く引っくり返し、突風で吹かれるかのように宙を散布した。
ケンシロウが『北斗百裂拳』で攻め、DIOが『ザ・ワールド』でそれを迎撃する。
超高速で繰り出される拳と拳の連撃合戦は、両者の初対決の際にも行われた。
あの時は僅かにケンシロウの拳が勝ったが、今回の状況を見れば、どちらが優勢かは一目で分かる。
傷を負い、疲弊しきったケンシロウの方が、圧倒的に不利だった。
はずなのに。
「あぁたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたた
たたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたぁっ!!!」
「む、無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄――ッ!!?」
ケンシロウの拳は限界を迎え衰えるどころか、一発一発新たな拳を打ち放つごとに、その勢いをましていく。
八十、九十、百――百打を越えても、ケンシロウの拳は止まらない。
「ああぁたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたた
たたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたた
たたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたぁぁっ!!!」
- 338 :愛をとりもどせ!! ◆kOZX7S8gY. :2006/11/05(日) 23:50:10 ID:LMPjgK8j0
- (ぐ、ぐぅ〜……ケンシロウのこの、底力! 認めたくはないが、確かに凌駕している……ッ!
パワー、スピード、テクニック――どれもこれも、我が『ザ・ワールド』の上をいっているというのかァー!?)
鬼気迫る猛攻を見せるケンシロウと正面から打ち合い、DIOは初めて、『劣勢』を感じた。
孫悟空等と対峙した時にも覚えた、久しぶりの屈辱感。
それは、これまで成功続きだった帝王のプライドをズタズタに裂き、怒りを及ぼすほど。
このままではマズイ。このまま打ち合いを続ければ、『ザ・ワールド』の、DIOの拳が砕かれる。
襲い来る危機感と己の誇りを天秤に掛け、DIOは打開策を練る。
悪の帝王に、敗北は許されない。
(生意気にも、このDIOに冷や汗をかかせた罪として――貴様を断罪するっ! 我が最強のスタンドの、『真の力』を駆使して!!)
「たたたたたたた――」
なおも降り止まぬ拳の豪雨。その一撃と一撃の間を縫い、DIOが真の力を解放する。
「ザ・ワールド(時よ止まれ)!」
――世界の時間が、停止した。
ケンシロウが打ち続けていた拳も、DIOの鼻先でピタッと制止。
強面の表情のまま、間抜けな棒立ち姿を作って硬直している。
今から数秒間、世界で動き回ることが出来るのは、DIOただ一人のみ。
時間を止める最強のスタンド能力――これこそが、『ザ・ワールド』の真骨頂なのだ。
- 339 :愛をとりもどせ!! ◆kOZX7S8gY. :2006/11/05(日) 23:50:58 ID:LMPjgK8j0
- 「――ふぅ、危ない危ない。冷や汗なんてものをかいたのは随分と久しぶりだぞ、ケンシロウ。
人間は窮地に立たされることで限界以上の力を発揮する……うっかり忘れるところだったな。
思えば、ジョジョも人間でありながらこのDIOに煮え湯を飲ませていた。
人間風情が、と甘く見てはならない。人間を超越した絶対君臨者として、敗北は許されないのだからなぁ。
さてケンシロウ――と呼びかけても聞こえてはいないだろうが。
この時の止まった世界でお前を攻撃し、死に至らしめるほどの致命傷を与えるのは容易いが……それではつまらん。
波紋もスタンドも持たず、自らの肉体のみを信じて歯向かってきた功績を考慮し、お前にはより屈辱的な死を与えてやろう。
それこそ完璧なまでに。あの世の果てで後悔し、三日三晩憂鬱で寝込むほどの完全なる敗北感を味あわせてやる。
おっと、さすがに無駄話が過ぎたな。
このDIOとて、時を止められる時間は僅か10秒にも満たん。
出勤前のサラリーマンのように、慌しく行動してはいけない……時間を支配する者として、無駄のない行動をしなければ。
やるべきことは全て済ませた。再び時が動き出した際の布石を整え、そしてケンシロウ。
今の内にお前に別れの挨拶でも済ませておくかな……ククク」
――そして、時が動き出す。
「――たぁっ!?」
拳の連撃回数がもうすぐ二百に到達しようかというところ。
ここにきて、ケンシロウの攻撃が初めて空を切った。
今の今まで眼前にいたDIOが、消えている。
0.0000001秒前までには確かにそこにいて、拳を繰り出していた対戦者が、忽然と姿を消した。
手を止め背後、左右と確認するケンシロウだが、DIOの姿はどこにも見当たらない。
これは、つかさを殺害し逃亡する際に見せたあの能力と同じ――自分の姿を霞のように消し去り移動する妙技(とケンシロウは錯覚していた)。
速いなんてものじゃない。DIOは瞬間移動でも使えるのだろうか。
まさか相手が時を止め、その間に移動したなどという異常な考えを思いつくはずもなく、ケンシロウはDIOを完全に見失った。
- 340 :愛をとりもどせ!! ◆kOZX7S8gY. :2006/11/05(日) 23:52:32 ID:LMPjgK8j0
- そして、第二の異変に気づく。
今の今までDIOに放っていた両拳――その片方である右腕が、『凍っている』。
いったいいつの間に。DIOの消失と同じく、こちらの現象も不可解すぎて答えが出ない。
この右腕が、時間停止中にDIOが『気化冷凍法』で凍らせたものだということも分からず。
パキッ。
足元の落ち葉を踏む音が、静かに響いた。
周囲一帯には、これまでの騒がしい戦闘音が全てまやかしだったのではと思えるほど静寂が広がっている。
(DIOはどこに消えた。DIOはどこから俺を狙っている?)
逃げたわけではない。一旦戦場外に退き、機会を窺っているだけにすぎない。
ケンシロウは己の全神経をフルに活用し、DIOの気配、殺気、足音を探る。
僅か数秒の隙。その僅かな間に、DIOはどんな仕掛けを施したのか。
考えが及ぶはずもないほど、答えは単純でいて、ケンシロウを窮地に追いやるのだった。
「――!」
微かな羽音を察知し、ケンシロウが上空に視線をやる。
丁度頭上、背の高い木から飛来した巨大な影が、ケンシロウを覆いつくさんばかりにと降ってくる。
視覚で確認した当初、ケンシロウはその正体を理解することができなかった。『それ』は、あまりにも意外な物だったから。
DIOではない。『ザ・ワールド』でもない。
もっと黒く、もっと大きな、潰されればただでは済まされないほどの、巨大な影――
「護送車だッ!」
――馬鹿な。木の上から、黒塗りの車が降ってきた。
DIOが抱えた護送車は、勢いづいたままケンシロウに激突。
- 341 :愛をとりもどせ!! ◆kOZX7S8gY. :2006/11/05(日) 23:53:35 ID:LMPjgK8j0
- 「あたたたたたたたたたたたッ!!」
ケンシロウは回避を放棄し、自らの拳で捻じ伏せようとする。
が、凍結した右腕が使えぬ以上、どうしても今までどおりの百裂拳を打つことは叶わない。
それでも、例え左腕一本でも。ケンシロウは、DIOへの抵抗をやめない。
「もう遅い! 脱出不可能よッ!
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄――ッ」
護送車の上から、DIOが『ザ・ワールド』のラッシュを繰り出す。
連打の衝撃が圧力となり、下に位置するケンシロウを執拗に追い詰める。
「ウリイイイイヤアアアッー! ぶっつぶれよォォッ!」
『ザ・ワールド』のみならず、DIO本人からも渾身の一撃が叩き込まれる。
既に拉げ壊れた護送車は、無情にもケンシロウ身体を押し潰し、その巨体を完璧に地に押し込んだ。
ドグシャアァッ、という嫌な衝撃音が鳴り響き、DIOの猛攻が止む。
「まだだ! 蓋だけではなく栓もしなければ――最後まで安心はできんッッ!!」
護送車に潰され、既に姿を残していないケンシロウに叫び、DIOは身近に聳えていた大木を引っこ抜く。
人間を超越した怪力を発揮し、ケンシロウに最後のとどめを刺すため大木を振るう。
巨大な釘のように真っ直ぐと振り下ろされた大木は、根っこから護送車の残骸を襲撃し、刺し潰す。
- 342 :愛をとりもどせ!! ◆kOZX7S8gY. :2006/11/05(日) 23:54:58 ID:LMPjgK8j0
- 全てが終わりを告げた。
轟音を送り続けた森林内も、やっと元の静寂を取り戻す。
「やった……………………」
最後に立っていたのは、DIO。
潰された男と君臨し続ける男、どちらが勝者かは明白だった。
「終わったのだ! 『北斗神拳』は、ついに我が『ザ・ワールド』の前に敗れ去った!」
哂う。悪の帝王を名乗るに相応しい、王者の高笑いを浴びせる。
「不死身ッ!! 不老不死ッ! スタンドパワーッ!
フハハハハハハハハハ! これで何者もこのDIOを越える者はいないということが証明されたッ!
取るに足らない人間どもよ! 支配してやるぞッ!! 我が『知』と『力』の前にひれ伏すがいいぞッ!」
圧倒的。あまりにも圧倒的だった。
力はもちろんのこと、貫禄、残酷性、あらゆる点において、DIOはケンシロウの上をいったのだ。
――やっぱりだ。やっぱりこういう結果になった。
あれだけ大層な口を叩いておきながら、ケンシロウはDIOに敗北した。
所詮、人間が吸血鬼を倒すことなどは不可能。
勝者こそ真実。敗者こそ偽り。
やっぱり、私は間違っていなかった。私の『愛』は、正しかったのだ。
- 343 :愛をとりもどせ!! ◆kOZX7S8gY. :2006/11/05(日) 23:55:35 ID:LMPjgK8j0
- このままDIOが勝ち進み、優勝する。
そして、西野さんは生き返って私は死んで、真中君と一緒。
こんな平和な解決方法が、他にある?
西野さんは真中君のことを忘れて私に生きろって言うけれど――それはやっぱり間違っている。
私にはもう、生きる資格なんてものはないのだから。
だからせめて、私が迷惑を掛けてしまった強敵(とも)には、生きてもらおうと――
恋する少女は盲目で、友達の声も聞こえない。
自分の『愛』を絶対だと信じ、それ以外の『愛』を否定する。正に、盲目。
東城綾は、盲目なまでに、恋をしているのだ。
「……西野さんも、ケンシロウさんも、みんな、『愛』を履き違えてる」
好きな人みんなに幸せになってほしい。
その一念こそが、『愛』ではないか。
♪
- 344 :愛をとりもどせ!! ◆kOZX7S8gY. :2006/11/05(日) 23:56:59 ID:LMPjgK8j0
- 「あ、ア――――ッ!?」
そこはいったい、どういった世界なのか。
名で表せば、それこそ無限大のバリエーションがある。
天界、霊界、あの世、地獄、超人墓場etc……
分かるのは、そこが『世界から外れた世界』であるということ。
その片隅で、黒尽くめのボディを持った男が一人、モニター越しに焦りの混じった叫びを上げていた。
「け、ケンシロウが負けてしまったァーーー!!」
その男の名は、人呼んでファイティングコンピュータ・ウォーズマン。
生前、ケンシロウと魂震わす激闘を繰り広げ、誇らしく散っていた戦士である。
「この俺の『氷の精神』を利用し、多数の参加者を苦しめた男……DIOほどの悪党を倒せるのは、ケンシロウしかいないと思っていたのにーッ!」
苦悶しながらも、ウォーズマンはモニターから目を放してはいなかった。
スクラップと化した護送車は、未だケンシロウの亡骸を覆って映さない。
「い、いや、まだだ! ケンシロウほどの男なら、きっとまた立ち上がる! 奴と直に拳を合わせた俺が言うんだ、間違いない!
俺はお前にエールを送り続けるぞ――ケンシロウ! ケンシロウ! ケンシロウ! ケンシロウ! ケンシロウ! ケンシロウ!」
既に退場してしまった男が、今正に退場していこうとする男を応援する。
その声援が届くことは決してないが、或いは、奇跡が起きることがあるかもしれない。
DIOという手の余る悪を倒すには、魂ある拳の制裁が必要だ。
それを下せるのは、北斗神拳継承者であるケンシロウしかいない。
ウォーズマンは、そう信じて疑わなかった――
♪
- 345 :愛をとりもどせ!! ◆kOZX7S8gY. :2006/11/05(日) 23:57:37 ID:LMPjgK8j0
- 『ウヌには北斗七星の脇に輝く、あの星が見えているか?』
――見える。見えるぞラオウ……。
薄れゆく意識の中、ケンシロウは死の片鱗を感じていた。
圧倒的な圧力に屈服しながらも、未だ脳は活動をやめず、心臓も動き続けている。
タフな生命力、と言ってしまえばそれまでだが、彼を生かし続けている要因は、いったいなんなのか。
DIOに対する怒り、DIOを始末せねばならないという義務、
止めなければならない少女、迎えに行かなければならない少年、協力しなければならない仲間達――
やるべきこと、やらねばならぬことは、まだ結構残っているではないか。
『ケンシロウ……ウヌは、この拳王に唯一膝を着かせた男。帝王などと名乗る斯様な小僧に負けることは、絶対に許さん』
――強敵(とも)よ、この俺に、まだ死ぬなというのか。
幻聴は、走馬灯のように駆け抜ける。
今までにケンシロウが拳を突きつけてきた、数々の男達。
その勇士が蘇るごとに、ケンシロウの闘志は再燃し、奮い立たせる。
北斗神拳とは、即ち『愛』。
北斗神拳が敗北するその時、『愛』は崩れ去る。
――俺はまだ、東城綾に『愛』を叩きこんでいない。
魂を燃やし、教えてやらねば。
思い人であるユリアを『愛』し、強敵(とも)であるラオウを『愛』した、あの素晴らしい感情の真意を――
♪
- 346 :愛をとりもどせ!! ◆kOZX7S8gY. :2006/11/05(日) 23:58:34 ID:LMPjgK8j0
- 「も、燃えているッ!!?」
そのあまりの熱と衝撃に、護送車は破片を巻き散らしながら燃え、飛んでいく。
DIO、そして綾も、その映像が信じられず、夢か幻影の類だろうと思い込んだ。
しかし、これは現実。
護送車の残骸から帰還し、微かな炎を帯びた大地に立っているのは、光り輝く鎧を着込んだ男。
不死鳥の如く蘇った、ケンシロウ。
「……言ったはずだDIO。俺は、貴様から全てを奪い取ると」
安心、生命、東城綾。姑息な悪党に残すべきものはなにもない。
炎の復活を遂げたケンシロウは、未だ死なず。
なおも、DIOの障害として立ち塞がる。
「俺を倒したいなら、貴様自身の拳で、魂を叩き込んで向かって来い。そうでなければ、俺は倒せん!」
一歩、DIOに歩み寄る。
幽鬼の如く近づくケンシロウに、DIOはあとずさることさえしなかったものの、確かに威圧されていた。
それ自体ありえないこと。恐怖や不安などという概念は、当の昔に超越している。
DIOが恐れるものなど、何も存在しない。
「……護送車でも『ザ・ワールド』でもなく、このDIO自身の拳で来いというのか……面白い!
だがケンシロウ、これだけは心得ておけ!
人間を超越した存在であるこのDIOの拳が――既にモンキーに耐えられる次元の威力ではないということをなぁ!」
DIOは恐れず、前に進む。
スタンドを消し、自らのフットワークと怪力を使って、ケンシロウを全力で殴りにかかった。
- 347 :愛をとりもどせ!! ◆kOZX7S8gY. :2006/11/06(月) 00:00:15 ID:LMPjgK8j0
- ――この人は、なんで。
突き進むDIOの後方、静観を続けていた綾は、妙な気持ちに全身を蝕まれていた。
ケンシロウは何故諦めない。何故倒れない。何故敗北を認めない。
分からない。理解できない。DIOの方が上だというのは明白なのに。
それが分からないほど、お馬鹿なモンキーなのだろうか。
自分の『愛』が間違っていると、何故気づけないのか。
なんで――
一瞬で間合いまで接近したDIOが、スウェーを駆使しながらケンシロウの顔面目掛けて拳を振るう。
「見せてやるぞ、ゴロツキどもがやる貧民街ブース・ボクシングの技巧をな!」
バキッ、鈍い音が響く。
コンクリートをも容易く破壊する吸血鬼の攻撃を、顔面からモロに喰らったのだ。
当然、骨は砕け脳はグチャグチャに噴出されることだろう。
顔面に一撃。この一撃だけで、ゲームはDIOの勝利。常識で考えればそう、なのだが。
「んなっ!?」
確かに顔面で受け止めた。そのはずなのに。
ケンシロウは、微動だにせずその場に君臨している。
「……これが、貴様の魂を込めた一撃か?」
骨は折れていない、脳もぶちまけていない、鼻血すら出ていない。
DIOの拳を正面から受けて、まったくのノーダメージ。
- 348 :愛をとりもどせ!! ◆kOZX7S8gY. :2006/11/06(月) 00:01:08 ID:Bdkez8ut0
- 「ぐっ――ありえん!」
すぐさまケンシロウから距離をとり、体制を整えるDIO。
「このDIOのパンチを受けて、まったくの無傷だとォ!? ありえん、絶対にありえん!」
「貴様の拳など、所詮はこの程度だということだ……」
DIOの拳をノーガードノーダメージで済ませたケンシロウが、新たに構えを取る。
今度はケンシロウが攻めに転じる番――そう感じ取ったDIOはそこで初めて、凍結させたはずのケンシロウの右腕が、元通りになっていることに気づいた。
(こ、この男……沸騰している!)
護送車を爆散させ炎を撒き散らしたのは、全てケンシロウの闘気から来る熱が原因だった。
怒りの感情が、人間であるケンシロウに頂上的パワーを与えたとでもいうのか。
もしくは、彼の纏ったフェニックスの聖衣に何か秘密があるのか。
DIOが真相を知る術はない。
目の前の男は、もうDIOを倒すことしか頭にないのだから。
「覚悟しろDIO! 腐りきったその思想ごと……貴様の生命、我が北斗神拳が破壊する!!」
「ありえん! ありえんぞケンシロォォォォォォッ!!!」
恥を忍んで、あえて認めよう。
自身を悪の帝王と称し、人間を超越した存在であるDIOは――この時、確かに恐怖心を抱いたのだ。
目の前に聳える巨大な闘気の塊、その宿主であるケンシロウに対して。
「見よ! 真の北斗神拳を―― 北 斗 剛 掌 波 !! 」
- 349 :愛をとりもどせ!! ◆kOZX7S8gY. :2006/11/06(月) 00:02:22 ID:LMPjgK8j0
- ケンシロウの翳した掌から、凄まじい闘気の帯が放出される。
過去にDIOが受けた、かめはめ波にも似た技。
波紋ともスタンドとも異なる、圧倒的なエネルギーの塊。
力を超越した『力』が、一直線に伸びる。
悪の吸血鬼を討ち滅ぼさんと、DIOに襲い掛かる。
「UURYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY――ッ!!!」
奇怪な叫び声が上がったのは、ほんの一瞬。
♪
恥の多い生涯を送ってきました。
自分は、愛しいあの人が死んだ時点で、生きることを放棄しました。
それでもすぐに死のうとしなかったのは、まだこの世に強敵(とも)がいたから。
恥を背負って、自分は生きている。
死んだ人を思い続けて、友達を殺して、歪んだ愛だと罵倒されて。
間違っているなんて、やっぱり思えない。
疑問を抱いてしまったら、それまでだから。
信念って、貫くから強いんだよね。
夢って、諦めないから叶うんだよね。
私、もう迷わないよ。
真中君、西野さん。
あなた達がどう思おうと――私は、『AYA』として生きることを選ぶ。
- 350 :愛をとりもどせ!! ◆kOZX7S8gY. :2006/11/06(月) 00:04:28 ID:Bdkez8ut0
-
♪
微かな火種は既に消滅し、森林内は元の静寂を取り戻しつつあった。
立ち上る煙と、薙ぎ倒された数々の木。
男達の戦いがどれほど壮絶であったか、その情景が物語っている。
だが、戦いはまだ終わりを迎えたわけではない。
「…………DIOは、殺させない」
ケンシロウの放った北斗剛掌波は、DIOを屠ることができなかった。
確実に命中したと思われた技は、寸でのところで反れ、いくつかの大木を薙ぎ倒す結果に終わる。
DIOが回避したのではない。ケンシロウが、自ら技を外したのだ。
斜線上に、東城綾が乱入したから。
「……それがお前の答えか、綾」
「そう。私は、私の『愛』を貫く。DIOを優勝に導き、西野さんを生き返らせる――それが、私が殺してしまった最愛の強敵(とも)への『愛』」
悪に対しては非情を徹する北斗神拳も、悪でない者には……ただの盲目な恋する少女には、振るうことはできない。
例えケンシロウと綾の『愛』に対する考えが違ったとしても、それはどちらが『正義』でどちらが『悪』とも言えない。
『愛』に、明確な答えなど用意されていないのだから。
「例え真中君が認めてくれなくても、西野さんが認めてくれなくても……!」
吸血姫。
石仮面を被り、破滅の運命を背負った彼女は、それでもDIOとは違った。
友達を思う、人間らしい感情をその内にまだ宿している。
「私は、自分の『愛』を信じる! WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY――ッ!!!」
- 351 :愛をとりもどせ!! ◆kOZX7S8gY. :2006/11/06(月) 00:05:22 ID:LMPjgK8j0
- ――この宣言から、ケンシロウは綾に対する認識を改めた。
彼女はもう、西野つかさの友達などではない。
DIOという絶対悪に仕える、北斗神拳を振るうに相応しい、一人の『悪』だ。
ケンシロウもう、AYAを倒すことも厭わない。
非情に徹し、この二人の吸血鬼を打ち滅ぼす。
「――君の決意、しかと受け止めたぞ」
発狂したAYAの後方、平静を取り戻した吸血鬼の親玉が、前に躍り出た。
ケンシロウとDIO。最後の決着をつけるべく、因縁の二人が再度まみえる。
「ならばAYA。ここでもう一度誓ってくれ。――このDIOに、永遠の忠誠を誓うと。
このDIOを絶対に裏切らないという、極上の『安心感』を与えてくれ」
その言葉に、AYAは跪いての服従のポーズで示した。
完璧なる意思表明。DIOのカリスマはやはり圧倒的なのだという、瓦解寸前だった自信の再構築。
――やはり、このDIOこそ、悪の帝王に相応しい器なのだと。
「もう、茶番はなしだ! このDIO、持てる全ての力を出し尽くし、勝利を掴む!
ケンシロウ、最後の勝負だッ! WRYYYYYYYYYYYYYYYYYY――ッ!!!」
「来い、ディオォォォォォッ!!!」
最後の衝突が始まる。
- 352 :愛をとりもどせ!! ◆kOZX7S8gY. :2006/11/06(月) 00:06:11 ID:Bdkez8ut0
- 最後の輝きを放つフェニックスの聖衣。
その輝きが、太陽を忌み嫌うDIOへの挑発となる。
「仮定や道筋などはどうでもいい! この能力こそ、誰にも攻略不可能なDIOの力なのだ!」
3メートル、2メートル、1メートル、互いの距離が近づく。
その間、発現したDIOのスタンドはおぞましい躍動を見せ、ケンシロウの拳が伸びようとしたその刹那、
「世界(ザ・ワールド)!」
――時を、再び止めた。
拳を突き出したまま、停止した時間の中に取り残されたケンシロウ。
スタンド使いでもない彼に、この『ザ・ワールド』を打ち破る術はない。
「ケンシロウ、貴様に人間を越えた生命力を与えているのは、おそらくその鎧!
このDIOに討ち滅ぼせないものはないと、止まった時の中で思い知れぇ――ッ!!」
――DIOの世界にて、DIO以外に動ける者なし。
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄」
一点集中。
フェニックスの聖衣が当てられたケンシロウの胸部目掛けて、『ザ・ワールド』のラッシュが叩き込まれる。
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄」
- 353 :愛をとりもどせ!! ◆kOZX7S8gY. :2006/11/06(月) 00:07:50 ID:Bdkez8ut0
- ケンシロウに、抵抗する術はない。
自身が攻撃を受けているという自覚もないままに、胸を砕かれる。
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ――ッッ!!!」
時が再び動き出そうとしたその直前。
『ザ・ワールド』の拳は、フェニックスの聖衣ごとケンシロウの胸を貫いた。
――時が、再び動き出す。
「お前はもう、死んでいるぞケンシロォォォォォッッ!!!」
動き出した時の中でAYAが目にしたのは、胸に風穴を空け、鮮血を垂らすケンシロウの姿だった。
「…………ごっ」
微かな呻きを漏らし、ケンシロウの巨体が崩れ落ちる。
DIO、AYA、二人の吸血鬼が見届ける中、男は地に伏したのだった。
一秒、十秒、静寂の世界が舞い戻る。
言葉なくその闘争の行く末を見届けたAYAは、DIOの勝利という覆しようのない事実に歓喜し、心を震わせていた。
勝者こそ真なり。これで、AYAの『愛』が真実だと、ケンシロウの『愛』を凌駕するということが証明された。
「……やった」
搾り出した声で再度喜びを得ようとしたのは、ケンシロウが倒れて一分が経過した頃だった。
その一分が、彼に再生の時間を与えた。
- 354 :愛をとりもどせ!! ◆kOZX7S8gY. :2006/11/06(月) 00:08:53 ID:Bdkez8ut0
- 「そんな……嘘……?」
信じられないことに、また立ち上がった。
人間でありながら、不死鳥の如く羽ばたく男、ケンシロウ。
その男が、今正に眼前で、
「嘘でしょ――ッ!?」
再び、蘇った。
驚くAYAを歯牙にも掛けず、真っ直ぐにDIOを見つめている。
――まだ、戦うというのか。
この人の『愛』は、それほどまでに強いというのか。
人間を超越した力を『愛』が生み出す――なんて素敵な御伽話。
でもこれが、北斗神拳の底力だというのだろうか――
「……刻んだぞ、ケンシロウ。貴様と、北斗神拳の名を」
再度立ち上がったケンシロウは、拳を突き上げようとはしなかった。
DIOも、消したスタンドを再発動させようとはしなかった。
その様子に違和感を覚えたAYAは、そこで初めて気づく。
ケンシロウが、既に死んでいることに。
♪
- 355 :愛をとりもどせ!! ◆kOZX7S8gY. :2006/11/06(月) 00:09:40 ID:Bdkez8ut0
- ――彼が立ち上がったのは、執念の賜物なのかもしれない。
悪の前で倒れることは許されない、とか。
最後の最後まで闘志は消さない、とか。
そんな、男性特有の闘争本能。
彼を突き動かしたのは、正にそういった感情なのだろう。
だからDIOも彼に経緯を払い、立ったまま逝かせてあげることにした。
「んん〜……イイ! このジョースターの奴等にも似た荘厳なる血の躍動……馴染む! 実によく馴染むぞケンシロウッ!!」
立ったままDIOに血を吸い尽くされたケンシロウは、それでも誇り高い表情を保ったままだった。
我が生涯に一片の悔い無し!!――と言わんばかりの満足そうな顔つきは、戦いで散っていった武人の顔なのだろう。
「ンッン〜〜〜〜♪ 実に! スガスガしい気分だッ!
歌でも一つ歌いたいようなイイ気分だ〜〜〜フフフフハハハハ!」
ケンシロウの血を得たDIOは、さっきとは打って変わってご機嫌だった。
血が馴染む、というのは私にはよく分からないのだが、そんなにいいものなのだろうか。
「100年前に不老不死を手に入れたが……これほどまでにッ! 絶好調のハレバレした気分はなかったなァ……
フッフッフッフッフッ、ケンシロウの血のおかげだ! 本当によく馴染む!!
最高に『ハイ!』ってやつだアアアアアアハハハハハハハハハハハハハハハハハーッ!!!」
……西野さんの血は、私に馴染んでいるのだろうか。
少なくとも、私は西野さんの血で最高にハイにはなれない。
真中君、真中君のだったら……なっちゃうかも。
- 356 :愛をとりもどせ!! ◆kOZX7S8gY. :2006/11/06(月) 00:10:39 ID:Bdkez8ut0
- 「――DIO、これからはどうするのですか?」
食事を終えたDIOに、私が尋ねた。
「うんん〜……そうだな、空はまだ曇り、太陽が照らし出す気配は一向にない。
次なる獲物を探す意味も含めて、ここは一旦アジトへ帰還するかァ」
「彼の亡骸は、どうしますか?」
「そこに置き捨てておけば良かろう。このDIO、もはや恐れるものはなにもない……立ち塞がるもの、全て捻じ伏せてやろうじゃないかッ!!」
素晴らしい。私は単純にそう思った。
この圧倒的な余裕。そんに余裕かまして、いつか痛い目見るんじゃないか、という不安は全然感じない。
絶対的な安心感。私が望んだもの。私の『愛』が真実であるという安心感。
DIOが、全部与えてくれた。
「……DIO。私は、貴方に一生着いて行きます」
「ククク……当たり前じゃあないかAYA。このDIOの傍にいれば、何も恐れるものはない。
西野つかさも、きっと蘇ることができるさ、なぁ……」
ああ、なんてカリスマ。
私は、計画成就への確かな手ごたえを感じ、
これからもDIOに付き従う。
恋する少女は、盲目なんかじゃない。
愛する人の嘆きや、友達の声も、全部耳にして。
それでも尚且つ、私は『吸血鬼AYA』として生きる道を選ぶ。
♪
- 357 :愛をとりもどせ!! ◆kOZX7S8gY. :2006/11/06(月) 00:11:18 ID:Bdkez8ut0
- ――ハー、ハー、
呼吸を、整えろ。
――ハー、ハー、
今、自分が目にした光景を整理しろ。
――ハー、ハー、
殺されたのは誰だ、殺したのは誰だ。
――ハー、ハー、
ケンシロウ、そして金髪の男。
――ハー、ハー、
熱くなるな。冷静に、先の先を読め。
――ハー、ハー、
よし、状況を再整理だ。
――ハー、ハー、
ケンシロウが、吸血鬼に血を吸われて死んだ。
- 358 :愛をとりもどせ!! ◆kOZX7S8gY. :2006/11/06(月) 00:11:55 ID:Bdkez8ut0
- 「……マジ?」
春野サクラがその光景を目にしたのは、まったくの偶然だった。
仙道の熱を治めるため、薬になりそうな植物を探しに出て数時間。
雨が止んだこともあって少し調子に乗ったのか、気づけば琵琶湖から少し離れ、岐阜県の外れに位置する森まで来てしまった。
多少時間を浪費したが、遠くまで脚を運んだかいあって、薬草は無事入手。
さぁ帰ろう、と琵琶湖に歩を進めたその瞬間。
人間のものとは思えない狂った雄叫びと、大音量の戦闘音を耳にしてしまったのだ。
無論、無視できるはずもない。
警戒しながら接近を続け、当事者達に接触したのは、全てが終わった頃だった。
立ったまま微動だにしないでいるのは、愛知県で出合ったケンシロウ。
ケンシロウに指を突き刺し、不気味に微笑んでいるのは、おそらく彼が『倒さねばならぬ敵』と称していた男。
サクラはその男について詳しく聞かされていなかったが、次の光景を見て確信した。
この金髪の男が、『吸血鬼』なる偶像の存在であるということを。
人の血を吸い、自らの糧とする魔の生物。
そんなものが実在するのかどうかは、定かではない。
だが否定は出来ない。現にケンシロウは目の前で干乾び、生気を失ったのだから。
その異様な光景に恐怖を覚えたサクラは、知り合いが目の前で殺された怒りを必死に内に留め、忍としてクールに立ち回ろうとした。
DIOとAYAが去った後、呼吸を落ち着かせ、これから成さねばならないことを整理する。
ケンシロウは、確かに死んでいる。あの逞しかった肉体は、ボロボロに傷つき、血色を失っている。
哀れに思ったが、今は供養や埋葬をするべき時ではない。
一番問題なのは、ケンシロウを殺した人物が西――琵琶湖に向かったという事実。
あそこには、ダメージを負ったアビゲイルに、疲労困憊の仙道と香がいる。
もし彼等と鉢合わせるようなことが起きれば、激突は必至。もちろん、みんなが無傷で生存なんて結果は望めないだろう。
- 359 :愛をとりもどせ!! ◆kOZX7S8gY. :2006/11/06(月) 00:13:15 ID:Bdkez8ut0
- 「……アビゲイルさんに、早く知らせないと」
結論を出したサクラは、立ち尽くすケンシロウの亡骸に一礼し、その場を駆け出していった。
まだ生きている仲間を、危機から救うため。
悲しみに塞ぎこんでいる暇などない。
♪
ケンシロウという名の男がいた。
北斗神拳という名の暗殺拳があった。
その事実を知る者は、この世界に僅か数名。
その中で、北斗神拳に『愛』を覚えた者は、僅かに一名。
例えその思想が違えど、『愛』貫くという信念に、揺ぎ無し。
- 360 :愛をとりもどせ!! ◆kOZX7S8gY. :2006/11/06(月) 00:14:30 ID:Bdkez8ut0
- 【岐阜県南西部/森林/午後】
【DIO@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:体力90パーセント、最高に「ハイ!」な気分
[装備]:忍具セット(手裏剣×8)@NARUTO−ナルト−
[道具]:荷物一式×6(五食分と果物を少し消費)、マグナムスチール製のメリケンサック@魁!!男塾、フェニックスの聖衣@聖闘士星矢(半壊)
[思考]:1.琵琶湖の小屋に移動。付近の地形(湖など)を使った戦闘方法を考える。
2.太陽が隠れる時間を利用し、『狩』を行う。雨が止んだら近くの民家に退避。
【東城綾@いちご100%】
[状態]:吸血鬼化。波紋を受けたため半身がドロドロに溶けた。マァムの腕をつけている。
[装備]:双眼鏡
[道具]:荷物一式×3、ワルサーP38、天候棒(クリマタクト)@ワンピース
[思考]:1.DIOに絶対の忠誠。DIOの望むままに行動する。
2.DIOを優勝させ、西野つかさを蘇生させてもらう。
3.真中くんと二人で………。
【春野サクラ@ナルト】
[状態]:ナルトの死によるショック小(悲しんでいる場合ではない)
[装備]:マルス@ブラックキャット
[道具]:荷物一式(二食分の食料を消費、半日分をヤムチャに譲る)
[思考]:1.アビゲイルに危機を伝える。
2.薬草を届け、仙道に薬を飲ませる。
3.琵琶湖周辺で秋本麗子、星矢を捜索。
4.四国で両津達と合流。
5.四国で合流できない場合、予定通り3日目の朝には兵庫県に戻る。無理なら琵琶湖
6.洋一を心配。
7.ヤムチャは放っておこう。
【ケンシロウ@北斗の拳 死亡確認】
【残り30人】
- 361 :【修正】愛をとりもどせ!! ◆kOZX7S8gY. :2006/11/06(月) 21:02:27 ID:Bdkez8ut0
- >>348 九行目
>怒りの感情が、人間であるケンシロウに頂上的パワーを与えたとでもいうのか。
↓
>怒りの感情が、人間であるケンシロウに超常的パワーを与えたとでもいうのか。
>>356 八行目
>この圧倒的な余裕。そんに余裕かまして、いつか痛い目見るんじゃないか、という不安は全然感じない。
↓
>この圧倒的な余裕。そんなに余裕かまして、いつか痛い目見るんじゃないか、という不安は全然感じない。
>>360 サクラの状態表
【春野サクラ@ナルト】
[状態]:ナルトの死によるショック小(悲しんでいる場合ではない)
[装備]:マルス@ブラックキャット
[道具]:荷物一式(二食分の食料を消費、半日分をヤムチャに譲る)、薬草
[思考]:1.アビゲイルに危機を伝える。
2.薬草を届け、仙道に薬を飲ませる。
3.琵琶湖周辺で秋本麗子、星矢を捜索。
4.四国で両津達と合流。
5.四国で合流できない場合、予定通り3日目の朝には兵庫県に戻る。無理なら琵琶湖
6.洋一を心配。
7.ヤムチャは放っておこう。
- 362 :新能力:2006/11/08(水) 11:37:58 ID:bAninMH10
- 突然現れたヤムチャは、カインの方へ向かっていく。
「久しぶりだなッ!!小僧ぅぅ!!毎度毎度、俺の研究を邪魔しおってぇぇ!!」
仙道は、面識があるのか、ヤムチャに向かって怒りを露にする」
ヤムチャはそんな仙道を無視し、カインの前に立ちふさがる。
「てめぇが、タカヤの部下って奴か。3秒で片付けてやる」
ビュン!!!
ヤムチャは、一瞬でカインを肉縛した。
- 363 :新能力:2006/11/08(水) 11:47:50 ID:bAninMH10
- カインも必死に抵抗する。
「ほう、やるじゃねぇか、俺の予告時間を全て使い切らせたのはお前が始めてだ」
ヤムチャは、少し間合いを取る。
「てめぇみたいな雑魚に、この能力を使うはめになるとはな」
ヤムチャの左肩のアザが、怪しく光る。
ジュドーン!!! ジュパッ!!!!
ヤムチャの片から、何かが具現化していく。
「閃け!!!! 狼嵐―ウルフハリケーン―」
それは、一瞬でカインを激しく食した。
…
その光景を見ていた仙道は、中指を真正面に突き立て驚愕する。
「あ、あれは ブ ラ ン ド ッ!!!ま、まさか…
奴も使えるのかッ!!!?」
- 364 :作者の都合により名無しです:2006/11/09(木) 02:33:27 ID:ZevTX0ke0
- DIO「ブランド-ですが何か」
仙道「仙道波紋疾走」
【ディオ・ブランドー@ジョジョの奇妙な冒険 死亡確認】
【残り29人】
- 365 :作者の都合により名無しです:2006/11/20(月) 05:17:40 ID:lGACaL3b0
- ほしゅ
- 366 :作者の都合により名無しです:2006/11/20(月) 23:17:14 ID:Rn4alsiv0
- 支援
- 367 :作者の都合により名無しです:2006/11/20(月) 23:20:15 ID:Rn4alsiv0
- 支援
- 368 :作者の都合により名無しです:2006/11/20(月) 23:20:50 ID:Rn4alsiv0
- 支援
- 369 :作者の都合により名無しです:2006/11/20(月) 23:21:30 ID:Rn4alsiv0
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